説明

めっき材料およびその製造方法

【課題】挿入抵抗および接触電気抵抗を小さくすることができるめっき材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】CuまたはCu合金からなる基材上に、少なくともCu−Sn合金中間層と、Sn表面層とをこの順序で有することを特徴とするめっき材料において、前記Cu−Sn合金中間層の表面粗さを表すパラメータである十点平均粗さRzμmと最大高さRyμmとの関係が、Ry/Rz<1.3を満たし、かつ、前記十点平均粗さRzと、前記Sn表面層の平均厚さtμmが、Rz(6−π)/6≦t≦Rz(6−π)/6+0.3を満たす関係にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐熱性及び低挿入力が要求される自動車用のコネクタに好適なめっき材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルームなどの高温に晒される環境で使用されるコネクタには、高い耐熱性が要求されるため、コネクタに好適なめっき材料として、例えばCuまたはCu合金からなる導電性基材の表面に、Ni下地層、Cu中間層、Sn表面層の3層構造のめっき層を形成した後、リフロー処理する手法で耐熱性を改善した製品が開発されている(特許文献1参照)。
【0003】
前記リフロー処理によって、Ni下地層より外側のCu中間層のCuとSn表面層のSnとが反応してCu−Sn合金層が形成される。最表面であるSn表面層には合金形成に寄与しなかった純Sn層が残る。
【0004】
前記Ni下地層を設けた場合、Ni下地層が拡散バリアとして作用するので、導電性基材のCuやCu合金成分は、Sn表面層まで拡散しにくく、Cu−Sn合金層形成にあまり寄与しないとされている。高温環境に設置された後も、Ni下地層がバリアとなって、基材からのCuやCu合金成分の拡散が抑止される。
【0005】
持許文献1には、Cu−Sn合金としてよく知られているCu6Sn5またはCu3Snが、化学理論的にCuの体積1に対し、それぞれSnの体積1.9と0.8で反応して形成されることから、予めSn表面層をCu中間層の1.9倍より厚く形成しておけば、Cuがすべて消費されても、純SnからなるSn表面層が残ることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−105419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、嵌合型コネクタでは、オス端子とメス端子を接触させて導電性を得ている。しかしながら、最表面であるSn表面層は、柔らかいため、嵌合する際に塑性変形し、良好な導電性を確保することができるが、Sn表面層が厚いと変形量が増大するため、挿入抵抗が大きくなるという問題がある。
【0008】
近年は自動車のエレクトロニクス化の進展に伴い、コネクタが多ピン化しており、個々のピンの挿入抵抗の僅かな増大も無視できなくなってきている。このような理由からピンの挿入抵抗を低減すること、すなわち表面Snめっき層の厚さを薄くすることが望まれている。
【0009】
一方、Cu−Sn合金層、特にCu6Sn5層は表面に凹凸があり、Sn表面層が薄い場合、Cu6Sn5層の凸部分が表面に露出する場合がある。リフロー処理で形成されるCu6Sn5層は、表面の凹凸が均一でなく、凸部が表面に露出するまで成長するものもあれば、小さい凸部を形成するものもあるので、Cu6Sn5層の凸部の上部に存在するSn表面層の厚さは、場所によって大きな違いが生じる。Cu6Sn5層の表面への露出は、接触抵抗を増大させるので、大きな問題である。
【0010】
従って、コネクタの嵌合時に挿入抵抗となる表面Snめっき層を薄く形成し、かつ、接触電気抵抗を増大させるCu6Sn5層の露出が少ない表面状態が望まれている。
【0011】
Cu−Sn合金としては、Cu6Sn5とCu3Snが知られている。これらは、ともに硬く、柔らかいSn表面層の下にCu6Sn5層が存在することでピン挿入抵抗を低減している。Cu3Snは、Cu6Sn5に比べて脆いため、曲げ加工性などが低下する場合があるので、薄いほうが良く、好ましくはCu3Snを形成せずCu6Sn5のみであることが望ましい。
【0012】
本発明は、前記事情を考慮してなされたものであり、挿入抵抗および接触電気抵抗を小さくすることができるめっき材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、CuまたはCu合金からなる基材上に、少なくともCu−Sn合金中間層と、Sn表面層とをこの順序で有することを特徴とするめっき材料において、前記Cu−Sn合金中間層の表面粗さを表すパラメータである十点平均粗さRzμmと、最大高さRyμmとの関係が、Ry/Rz<1.3を満たし、かつ、前記十点平均粗さRzと、前記Sn表面層の平均厚さtが、Rz(6−π)/6≦t≦Rz(6−π)/6+0.3を満たす関係にあることを特徴とするめっき材料である。
【0014】
この場合、前記Cu−Sn合金中間層は、Cu6Sn5合金単体のめっき層であることが好ましい。前記CuまたはCu合金からなる基材と、前記Cu−Sn合金中間層との間に、NiまたはNi合金からなる下地層を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は、CuまたはCu合金からなる基材上に、少なくともCuイオン、Snイオン、及びポリオキシエチレンαナフトール(POEN)を含有するスルホコハク酸水溶液から、Cu−Sn合金中間層を電着する工程と、Snイオンを含有する電解液からSn表面層を電着する工程とをこの順序で有し、さらにこの後にリフロー熱処理を行う工程を有することを特徴とするめっき材料の製造方法である。
【0016】
この場合、前記Cu−Sn合金中間層は、Cu6Sn5合金単体のめっき層であることが好ましい。前記Cu−Sn合金中間層を電着する工程の前に、Niイオンを含有する電解液から、NiまたはNi合金からなる下地層を電着する工程を含むことが好ましい。前記リフロー熱処理を行う工程は、Snの融点以上かつCu6Sn5合金単体の融点以下の温度で行い、かつ前記Sn表面層が完全に融解する時間で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、挿入抵抗および接触電気抵抗を低く維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施形態であるめっき材料の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態であるめっき材料の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための形態を添付図面に基いて詳述する。
【0020】
本発明の第1の実施形態であるめっき材料の一例を図1に示し、第2の実施形態であるめっき材料を図2に示す。第1実施形態のめっき材料は、導電性を有する基材1上に、めっき法によってCu−Sn合金中間層2と、Sn表面層3とをこの順序で形成してなる。前記基材1はCuまたはCu合金からなっている。
【0021】
前記めっき材料の製造方法は、基材1上に、少なくともCuイオン、Snイオン、及びポリオキシエチレンαナフトール(POEN)を含有するスルホコハク酸水溶液から、Cu−Sn合金中間層を電着する工程と、Snイオンを含有する電解液からSn表面層を電着する工程とをこの順序で有し、さらにこの後にリフロー熱処理を行う工程を有している。
【0022】
第2実施形態のめっき材料は、第1実施形態のめっき材料における基材1と、前記Cu−Sn合金中間層2との間に、NiまたはNi合金からなる下地層(以下、Ni下地層ともいう。)4を有している。このめっき材料の製造方法では、前記製造方法における前記Cu−Sn合金中間層を電着する工程の前に、Niイオンを含有する電解液から、基材1の表面にNi下地層4を電着する工程を含んでいる。
【0023】
前記Cu−Sn合金中間層2は、例えばCu6Sn5合金単体のめっき層からなっていることが好ましい。また、前記リフロー熱処理を行う工程は、Snの融点以上かつCu6Sn5合金単体の融点以下の温度で行い、かつ前記Sn表面層が完全に融解する時間で行うことが好ましい。
【0024】
この場合、前記Cu−Sn合金中間層の表面の十点平均粗さRzμmと、最大高さRyμmとの関係が、Ry/Rz<1.3を満たし、かつ、前記十点平均粗さRzμmと、前記Sn表面層の平均厚さtμmが、Rz(6−π)/6≦t≦Rz(6−π)/6+0.3を満たす関係にあることが必要である。
【0025】
従来のリフロー熱処理過程で形成されるCu6Sn5層は、凹凸が平均で、Ry/Rzが1.5程度となり、そのため、合金層が表面に露出したり、或いは起伏の小さい凸部であっても上部に厚いSn層が残存したりする場合があることから、これを防止するために、Ry/Rzが1.3未満とされる。
【0026】
また、Sn表面層3は、Cu6Sn5の凹凸形状を反映してめっきされるが、リフロー熱処理によって、平坦化される。そのため、Snめっき量は、そのめっきがCu6Sn5の凹部を埋め得る量が必要である。さらに接触電気抵抗を低く維持するために、Cu6Sn5の凸部上に適当な厚さのSn表面層3が必要である。鋭意研究の結果、このSnめっき量は、平均厚さ換算で、Rz(6−π)/6以上であり、かつRz(6−π)/6+0.3以下であることが判明した。
【0027】
また、従来のリフロー熱処理で形成された合金層には、Cu6Sn5だけでなく、Cu側に脆い性質を有するCu3Snが存在する。これに対して、本実施形態のCu−Sn合金めっきによれば、均一な凹凸を有するCu6Sn5単体の層を形成でき、Cu3Snは形成されない。Cu−Sn合金中間層は、Cu6Sn5単体であることが、X線回折で確認することができた。
【0028】
リフロー熱処理の温度は、Snの融点である232℃以上で、かつCu6Sn5の融点である415℃以下である必要がある。Cu6Sn5合金層は、Cuイオン、Snイオン、及びポリオキシエチレンαナフトール(POEN)を含有するスルホコハク酸水溶液から電気めっき法で形成する。CuイオンおよびSnイオンは、硫酸塩で供給することが望ましいが、塩酸塩、硝酸塩、炭酸塩でも供給することが可能である。CuイオンとSnイオンの濃度比を変えることで、Cu−Sn合金の組成を変化させることが可能である。
【0029】
POENは、Cu−Sn合金めっき表面を粗面化する効果がある。Ni下地層4は、ワット浴、スルファミン酸浴、またはホウフッ化浴から電気めっきで形成することができる。Sn表面層3は、硫酸浴、ホウフッ化浴、アルカノールスルホン酸浴から電気めっきで形成することができる。
【0030】
Ni下地層4は、CuまたはCu合金からなる基材1からCuがCu−Sn合金中間層2に拡散するのを防ぐバリアの働きをする。自動車エンジンルームなどの高温環境に使用された場合でも、Cuが拡散して接触抵抗が増大する現象を抑制することができる。
【実施例】
【0031】
0.1mm厚さのコルソン系合金箔(日立電線(株)製HCL30S箔)を使用し表1の条件で陰極電解脱脂、陽極電解脱脂、酸洗、Niめっき、CuあるいはCu−Sn合金めっき、Snめっきを施した後、リフロー処理した。めっき厚さはめっき時間で制御した。
【0032】
リフロー処理の条件は、直径4cmの試料出し入れ口を設けたマッフル炉で設定温度480℃(試料温度はSn融点+10℃)、処理時間10秒とした。
【0033】
【表1】

【0034】
評価方法は、以下のとおりである。
【0035】
全Snめっき厚さは、蛍光X線膜厚計(SII製SFT9450)で測定した。合金を形成していないSn厚さは、電解式膜厚計(電測製クロノテクノスター)で測定した。Niめっき厚さは、Niめっきのみを施し蛍光X線膜厚計で測定した。Cuめっき厚さは、同条件でNi基材にCuめっきし、蛍光X線膜厚計で測定した。Cu6Sn5層の表面粗さは、比重1.18の塩酸170mLを水1000mLで希釈した液を用いて純Sn層を溶解し、表面粗さ計で測定した。摩擦係数は、バウデン試験機(1回日のストロークの値)で測定した。接触電気抵抗は、四端子法で測定し、160℃×48時間加熱後の値を示した。
【0036】
表2に評価結果を示す。CuSn合金めっきの電流密度Dkと通電量Qを変えることで、Cu―Sn合金層表面粗さの十点平均粗さRzを0.9から5.0μmまで変化させた。リフロー後のSn平均厚さは、0.2〜3.0μmとした。
【0037】
【表2】

【0038】
平均Sn厚さが実施例より小さいものは、表面にCu−Snが露出しているため加熱すると絶縁性の酸化膜が形成され、接触抵抗が増加した。
【0039】
一方、平均Sn厚さが実施例よりも大きいものは、加熱しても絶縁性の酸化膜は成長しないが、厚いSnが抵抗となって摩擦係数が増大した。実施例の範囲では、接触抵抗と摩擦係数が両方とも良好な値を示した。
【0040】
従来法でCuめっきとSnめっきをこの順に施し、リフロー処理してCu−Sn合金層を形成した場合は、平均Snめっき厚さが実施例の範囲内であっても、Ry/Rzが実施例を外れるため、すなわち、Cu−Sn合金凸部サイズのバラツキが大きいため、部分的に露出したCu−Snが加熱後の接触抵抗を増大させ、さらに部分的に厚いSn層が摩擦抵抗を増大させた。
【0041】
これに対して、本発明の実施形態ないし実施例によれば、コネクタ材として要求される持性を満足することができる。すなわち、嵌合時の挿入抵抗の増大を招くSn量を低減し、さらにCu6Sn5層の表面露出に起因する接触電気抵抗増加の少ないめっき材料が得られ、挿入抵抗および接触電気抵抗を低く維持することができるコネクタ材を実現することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 基材
2 Cu−Sn合金中間層
3 Sn表面層
4 Ni下地層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuまたはCu合金からなる基材上に、少なくともCu−Sn合金中間層と、Sn表面層とをこの順序で有することを特徴とするめっき材料において、
前記Cu−Sn合金中間層の表面粗さを表すパラメータである十点平均粗さRzμmと、最大高さRyμmとの関係が、
Ry/Rz<1.3
を満たし、
かつ、前記十点平均粗さRzと、前記Sn表面層の平均厚さtμmが、
Rz(6−π)/6≦t≦Rz(6−π)/6+0.3
を満たす関係にあることを特徴とするめっき材料。
【請求項2】
前記Cu−Sn合金中間層は、Cu6Sn5合金単体のめっき層であることを特徴とする請求項1に記載のめっき材料。
【請求項3】
前記CuまたはCu合金からなる基材と、前記Cu−Sn合金中間層との間に、NiまたはNi合金からなる下地層を有することを特徴とする請求項1または2に記載のめっき材料。
【請求項4】
CuまたはCu合金からなる基材上に、少なくともCuイオン、Snイオン、及びポリオキシエチレンαナフトール(POEN)を含有するスルホコハク酸水溶液から、Cu−Sn合金中間層を電着する工程と、
Snイオンを含有する電解液からSn表面層を電着する工程とをこの順序で有し、
さらにこの後にリフロー熱処理を行う工程を有することを特徴とするめっき材料の製造方法。
【請求項5】
前記Cu−Sn合金中間層は、Cu6Sn5合金単体のめっき層であることを特徴とする請求項4に記載のめっき材料の製造方法。
【請求項6】
前記Cu−Sn合金中間層を電着する工程の前に、Niイオンを含有する電解液から、NiまたはNi合金からなる下地層を電着する工程を含むことを特徴とする請求項4または5に記載のめっき材料の製造方法。
【請求項7】
前記リフロー熱処理を行う工程は、Snの融点以上かつCu6Sn5合金単体の融点以下の温度で行い、かつ前記Sn表面層が完全に融解する時間で行うことを特徴とする請求項4乃至6の何れかに記載のめっき材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−261067(P2010−261067A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111414(P2009−111414)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】