説明

めっき法2層回路基材の製造方法およびめっき装置

【課題】
めっき表面に凹凸欠陥が少ない両面に導電層を有するタイプのめっき法2層回路基材の製造方法を提供する。
【解決手段】
長尺プラスチックフィルム基材の両面に設けられた導電性金属層が相互に電気的に導通しており、前記給電手段が長尺プラスチックフィルム基材の片面のみから給電することにより、長尺プラスチックフィルム基材の両面に電解めっきを施すめっき法2層回路基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線用基板等の用途に用いられる積層フィルム等に好適なめっき法2層回路基材の製造方法およびその回路基材の製造に好適なめっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化、軽量化、高機能化、多機能化および高密度実装化に伴い、プリント配線板は、導体幅および導体間の狭小化、多層化、フレキシブル化および基板の薄膜化により高密度化が急速に進み、フレキシブルプリント回路(以下、FPCということがある。)基板へと発展している。
【0003】
従来から、ポリイミドフィルムを初めとするプラスチックフィルムに、接着剤層を介して導体層としての銅箔を貼り合せた3層構造のフレキシブルプリント配線用基板が知られている。この3層構造タイプのフレキシブルプリント配線用基板は、用いられる接着剤の耐熱性がポリイミドフィルムより劣るため、加工後の寸法精度が低下するという問題があり、また用いられる銅箔の厚さが通常10μm以上であるため、ピッチの狭い高密度配線用のパターニングが難しいという欠点もあった。さらに、IC実装の際には、高温に熱せられたICに対して接着剤が溶融、あるいは熱分解してしまうため精度良くICのバンプとFPC上のリードを接続することが出来ない。そこで、IC実装の際には、ICの実装される位置にパンチングなどの方法により穴をあけて、ICチップの下に接着剤が介在しないようにして実装を行うことが一般的である。
一方、ポリイミドフィルム上に接着剤を用いることなく、湿式めっき法や乾式めっき法(例えば、真空蒸着法、スパッタリング法およびイオンプレーティング法など)により導体層としての金属層を形成させた2層構造タイプのフレキシブルプリント配線用基板が知られている。これら接着剤を用いないめっき法2層タイプのフレキシブルプリント配線基板(以下、めっき法2層回路基材ということがある。)は、接着剤がないために、IC実装の際に前記したようなフィルム面に穴開けすることなく直接ポリイミドフィルム上にICを実装することが可能である。また、このめっき法2層構造タイプのフレキシブルプリント配線用基板は、導体層を10μmよりも薄くすることができるため、FPCの屈曲性が非常に良好であるとともに高密度配線が可能である。
【0004】
上記の湿式めっき法は、通常、電解めっきにより実施される。厚み200μ以下のポリイミドフィルムを初めとするプラスチックフィルムに、5000オングストローム程度の導電性層が付着しているだけの長尺プラスチックフィルム基材をロール トゥ ロールで電解めっきする場合、フィルム基材の片端部を給電チャックで順次把持することにより、連続的にめっきする方法が提案されているが(特許文献1参照。)、めっき厚みの均一性の点で枚葉処理法に劣るという欠点があった。これに対し、めっき槽外部に設けられたロールによりフィルム基材に給電を行う方法が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、この提案では、めっき厚みの均一性は改善されたものの、めっき槽内ロッドなどの支持手段を設けているため長尺プラスチックフィルム基板にキズを付けたり、表面品位が低下するなどの問題点があった。さらに長尺プラスチックフィルム基材に付着しめっき液槽外に持ち出されためっき液が、めっき液槽外に設けられたロールに付着し、ロールが経時腐食、劣化するという問題も発生した。特に搬送ロールが経時劣化すると、フィルム基材が安定に搬送できなくなり、めっき厚みの均一性が低下したり、シワやキズなどにより製品の表面品位が低下する場合がある。その点を改良すべく、液シール方法を改善したメッキ装置が提案されているが(特許文献3参照。)、これをもってしてもめっき液のめっき槽外への持ち出しは皆無にすることはできず、長時間生産した場合、めっき槽外のロールの経時腐食、劣化を防ぐことはできなかった。
一方、長尺プラスチックフィルムが水平方向に担持されながらめっき槽内を上下に繰り返し搬送されることによりめっきを行う事例が示されている(特許文献4参照。)。図5は、上記従来の水平搬送タイプのめっき装置の構造を説明するための側断面図である。導電面を有する長尺プラスチックフィルム基材1は、水平に設置された給電ロール4に接触しながらめっき槽内6を上下して出入りしながらめっきされていく。このようなユニットを複数並べてめっき装置を構成することが従来一般的であるが、図5から見ても明らかなように、両面にめっきする場合にはその上側の加工面の上にアノード2が存在する。
この方式において、長尺プラスチックフィルム基材1の両面にめっき加工する場合、装置の構造上アノード2(陽極)が長尺プラスチックフィルム基材1の加工面の上部に位置するため、アノード2からいわゆるスライムが長尺プラスチックフィルム基材1の加工面上に落下し、表面欠陥が発生する欠点があった。
めっき法2層構造タイプ回路基材において、長尺プラスチックフィルム基材の両面に電解めっきを行う場合には、長尺プラスチックフィルム基材の両面に給電手段を接触させて給電することが一般的であった。しかしながら、給電手段と接触する部分は凹凸などの表面欠陥が生じやすいという課題がある。長尺プラスチックフィルム基材の両面に上記電解めっきを施して回路材料として用いる場合、一方の面にファインパターンが形成され他方の面はグランド面としてラフパターンが形成される場合が多い。ファインパターン面には微細な凹凸欠陥が極力少ない品質が要求される。
【特許文献1】特開2002−20898号公報
【特許文献2】特開2003−321796公報
【特許文献3】特開2003−147582号公報
【特許文献4】特開平9−235697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明において解決しようとする課題は、両面に金属層を形成しためっき法2層回路基材を製造する際に上記のようなめっき工程で生じる表面欠陥を極力少なくすることである。
【0006】
本発明の目的は、めっき表面の突起や凹み等の表面欠点の少ないめっき法2層回路基材の製造方法とその回路基材の製造に好適なめっき装置を提供すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は以下のとおりである。
【0008】
本発明のめっき法2層回路基材の製造方法は、めっき液を収容するためのめっき液槽と、プラスチックフィルム基材をその幅方向を上下に向けて長手方向に搬送しながら前記めっき液槽内のめっき液に浸漬せしめるための搬送手段と、前記プラスチックフィルム基材の導電面に電気的に接触する給電手段とを有する電解めっき装置を用いて前記プラスチックフィルム基材の両面に金属めっき層を形成する回路基材の製造方法において、前記プラスチックフィルム基材の両面に設けられた導電性金属層が相互に電気的に導通しており、かつ前記プラスチックフィルム基材との間に電解を生じせしめるアノード(陽極)が前記めっき液槽内部において該プラスチックフィルムの両側に設置され、給電手段(陰極)として用いられる給電ロールが前記プラスチックフィルム基材の片面側のみに設置され前記給電ロールから前記プラスチックフィルム基材に給電することにより両面に電解めっきを施すことを特徴とするめっき法2層回路基材の製造方法である。
【0009】
本発明のめっき法2層回路基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の搬送手段として用いられる駆動ロールおよび給電手段として用いられる給電ロールが双方ともメッキ液槽外に設けられており、前記給電ロールは実質的に駆動力を持たず、搬送されるプラスチックフィルム基材に追随することにより回転するように構成されている。
【0010】
本発明のめっき法2層回路基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の駆動ロールと給電ロールはめっきされるプラスチックフィルム基材の同一面側にある。
【0011】
本発明のめっき法2層回路基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記のめっき液は硫酸銅めっき液であり、前記の給電ロールの少なくともプラスチックフィルム基材の導電面に接触する部分の材質は銅である。
【0012】
本発明のめっき法2層回路基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の駆動ロールの少なくともプラスチックフィルム基材に接触する部分の材質のビッカース硬度が、プラスチックフィルムにめっきされる金属よりも高く、また前記の駆動ロールの少なくともプラスチックフィルム基材に接触する部分の材質はビッカース硬度で(Hv)150以上である。
【0013】
また、本発明のめっき装置は、めっき液を収容するめっき液槽と、プラスチックフィルム基材をその幅方向を上下に向けて長手方向に搬送しながら前記めっき液槽内のめっき液に浸漬せしめるための搬送手段と、前記プラスチックフィルム基材の導電面に電気的に接触する給電手段とを有する電解めっき装置であって、前記プラスチックフィルム基材との間に電解を生じせしめるアノード(陽極)が前記めっき液槽内部において該プラスチックフィルムの両側に設置され、給電手段(陰極)として用いられる給電ロールが前記プラスチックフィルム基材の片面側のみに設置され前記給電ロールから前記プラスチックフィルム基材に給電するように構成されていることを特徴とするめっき装置である。
【0014】
また、本発明のめっき装置は、めっき液を収容するめっき液槽と、プラスチックフィルム基材をその幅方向を上下に向けて長手方向に搬送しながら前記めっき液槽内のめっき液に浸漬せしめるための搬送手段と、前記プラスチックフィルム基材の導電面に電気的に接触する給電手段とを有する電解めっき装置であって、搬送手段として用いられる駆動ロールおよび給電手段として用いられる給電ロールが双方ともメッキ液槽外に設けられ、給電ロールは実質的に駆動力を持たず、搬送されるフィルムに追随することにより回転するように構成されていることを特徴とするめっき装置である。
【0015】
本発明のめっき装置の好ましい態様によれば、前記の駆動ロールの少なくともプラスチックフィルム基材に接触する部分の材質のビッカース硬度が長尺プラスチックフィルムにめっきされる金属よりも高く、そして、前記駆動ロールの少なくともプラスチックフィルム基材に接触する部分の材質はビッカース硬度で(Hv)150以上である。
【0016】
本発明において、プラスチックフィルム基材は長尺のプラスチックフィルム基材に好適に用いられる。長尺とは、通常、幅が5m以内であるのに対して長さが10m以上であるようなフィルム基材について用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、好適には長尺のプラスチックフィルム基材の両面に設けられた導電性金属層が相互に電気的に導通しており、給電手段が長尺プラスチックフィルム基材の片面のみから給電することにより、長尺プラスチックフィルム基材の両面に電解めっきを施すことができる。
【0018】
本発明により、長尺プラズチックフィルム基材の両面に銅等の金属を付着せしめる場合に、めっき表面の突起や凹み等の表面欠点の少ない金属層付き絶縁フィルムおよび回路基材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明のめっき法2層回路基材の製造方法と、そのめっき法2層回路基材の製造に好適なめっき装置を、図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明のめっき法2層回路基材の製造方法においては、図1のようなめっき装置を用いる。図1は、本発明のめっき装置のめっき液槽および給電ユニットの構造を例示説明するための斜視断面図である。
【0021】
図1において、給電ユニット7内のめっき液槽6は、めっき液を収容する部位である。めっき液槽6の対向する一対の側壁には、後述する長尺プラスチックフィルム基材1が出入りできるスリットが設けられている。めっき液槽6には、通常、めっき液に浸漬される電極としてのアノード2が設けられる。アノード2は長尺プラスチックフィルム基材1のめっきを施す面に応じて片側または両側に設置することができる。本発明においては、長尺プラスチックフィルム基材1の両面に金属層を設けるためアノード2は両側に設置することが必要である。 搬送手段は、めっきが施されるべき長尺プラスチックフィルム基材1の幅方向を上下に向けて長手方向に搬送しながら、長尺プラスチックフィルム基材1をめっき液槽6のめっき液に浸漬する手段である。図1に記載のめっき装置では、駆動ロール3が搬送手段に相当し、駆動力をもって自転することにより、長尺プラスチックフィルム基材1およびめっきされた回路基材を対向する補助ロール5との間で挟持して矢印MDで示す方向(以下、搬送方向MDと呼ぶことがある。)に搬送する。また、必要に応じて、補助ロール5を駆動ロール3または給電ロール4の近傍に追加設置し、長尺プラスチックフィルム基材1と駆動ロール3または給電ロール4との間に適度な抱き角を持たせても良い。
【0022】
駆動ロール3は、めっき液との接触によってロール材料が劣化することを防止するという理由から、めっき液に対する耐腐食性を有する材質であることが好ましい。本発明でいう「耐腐食性を有する」とは、めっき液による浸漬テストにおいて、6ヶ月間重量変化および変色のないことである。めっき液によりロールが劣化すると、ロール表面の粗さやロール径が変化し、長尺プラスチックフィルム基材1を安定に搬送できなくなる。したがって、駆動ロール3はめっき液槽6の外部に配置し、めっき液との接触を避けることが特に好ましい。
【0023】
また、駆動ロール3はビッカース硬度で長尺プラスチックフィルム基材1上にめっきする金属よりも硬度が高いことが望ましい。硫酸銅めっきの場合には、銅のビッカース硬度が46程度なので、駆動ロール3の材質はこれを上回るものが良く、100以上が好ましくさらに好ましくは150以上である。硬度は高いほど良いが、脆性が発現するのは好ましくないため1500程度が上限と考えられる。
【0024】
駆動ロール3表面の材質がめっきされる金属よりも硬度が低いと、長尺プラスチックフィルム基材1上にめっきされた金属によって駆動ロール3表面にキズがつき、長尺プラスチックフィルム基材1や回路基材の搬送に対して、蛇行やシワを発生させたりする場合があり好ましくない。
【0025】
給電用電極は、長尺プラスチックフィルム基材1に電気的に接触して、長尺プラスチックフィルム基材1のめっきすべき部位が、上述のアノード2に対するカソードとなるように給電する電極である。図1に記載の装置では、給電ロール4が給電用電極に相当する。本発明においては、給電ロール4は、長尺プラスチックフィルム基材1に対して一方の面にのみ接し(即ち、一方の面からのみ給電する。)、また駆動ロール3と同じ側に位置することが望ましい。
【0026】
さらに給電ロール4は、固有電気抵抗が30×10−6Ω/cm以下の材質であることが好ましい。固有電気抵抗が30×10−6Ω/cmを超える材質のものを給電ロール4として用いると、通電した際の発熱が大きくなり連続加工上問題を生じることがある。さらに、めっき液が硫酸銅溶液である場合は、ロール材質は銅であることが好ましい。
【0027】
補助ロール5も、駆動ロール3と同様に、めっき液の接触によってロール材料が劣化することを防止するという理由から、メッキ液に対する耐腐食性を有する材質であることが好ましい。
【0028】
駆動ロール3、給電ロール4および補助ロール5ともその目的から、少なくとも長尺プラスチックフィルム基材1と接触する部分が上記材質であれば良く、長尺プラスチックフィルム基材1と接触しない部分の材質は特に指定されない。
【0029】
また、めっき液槽6の外部に配置した駆動ロール3、給電ロール4および補助ロール5を水などで洗い流すことができれば、めっき液の付着による劣化を防ぐことができ、より好ましい態様である。
【0030】
めっき装置は、目的とする導電層の厚み、搬送する長尺プラスチックフィルム基材1の速度に応じて、めっき液槽の数を増やすことができる。その際、めっき液槽の両側に搬送/給電ロールを配置した給電ユニット7を一単位として構成することにより、長尺プラスチックフィルム基材1および回路基材を安定に搬送することができる。
【0031】
このようなめっき装置を用いて、めっき液槽6をめっき液で満たし、アノード2と給電用電極との間に電流を流すことにより、長尺プラスチックフィルム基材1にめっきを施すことができる。
【0032】
図2は、本発明で用いられる長尺プラスチックフィルム基材1を例示説明するための模式断面図である。図2において、本発明で用いられる長尺プラスチックフィルム基材1は、絶縁フィルム8と導電層9とから構成されている。絶縁フィルム8は、ポリイミド樹脂やポリエステル樹脂などに代表される公知の樹脂材料を用いることができ、必要に応じて添加剤、滑剤および可塑剤などを添加してもよい。また、導電層9は、銅、金、銀、ニッケルおよびクロムなどの金属またはそれらの合金あるいは積層体でもよく、スパッタリング法、真空蒸着法および無電解めっき法などの方法によって、絶縁フィルム8の上に形成されるが、絶縁フィルム8と後述する金属層10の密着力を高められる点でスパッタリング法が好適に用いられる。
【0033】
本発明においては、上記導電層9が長尺プラスチックフィルム基材1の両側で電気的に接続していることが必要である。図2の場合は、絶縁フィルム8全体を導電層9が覆っている形態であるが、両面を端部付近でホッチキスなどを用いて接続させてもよい。
【0034】
本発明における絶縁フィルム8の厚みは搬送性の点から10μ以上が好ましく、また絶縁フィルム8という概念は高々200μmが上限である。また、絶縁フィルム8上に設けられた導電層9の厚みは、めっき加工する際に電気抵抗値が1Ω以下になれば特に下限は限定されないが、スパッタリングにおける加工においてシワの発生や平面性不良を起こさずかつ生産性が良好な上限は5000オングストロームである。本発明で用いられる長尺プラスチックフィルム基材1は、両面に金属の導電層9が設けられており、かつ両面の金属の導電層9が電気的に導通していることが必要であり、このことにより片側からの給電で両面にめっきを施すことができる。
【0035】
長尺プラスチックフィルム基材1は、めっき液槽導入前に、酸処理、脱脂処理および水洗処理などの前処理を行うことが望ましい。
【0036】
図3は、本発明のめっき法2層回路基材の製造方法で得られるめっき法2層回路基材を例示説明するための模式断面図である。図3において、絶縁フィルム8の両面に、スパッタリングあるいは真空蒸着のような乾式めっき法により、導電層9(図3の例では、下層のニッケルクロム層とその上のスパッタリング銅層)を形成する。本発明においては、両面の金属層10が電気的に導通していることが必要であり、図3においては絶縁フィルム8の側面が乾式めっきされていることにより、両面が電気的に導通している。
【0037】
めっき液槽で目的とする厚みになるよう通電量を調整しためっき処理を施した後、めっき液を除去するための水洗槽、防錆処理、乾燥などの後処理工程を必要に応じて行った後、目的とするめっき法2層タイプ回路材料(基板)を得ることができる。
【0038】
図4は、本発明のめっき装置の構造を例示説明するための平面図である。図4において、巻出し装置15にセットされた長尺プラスチックフィルム1が巻き出され、水洗、脱脂などの処理を前処理槽11において施された後、図1に例示された給電ユニット7を複数並べためっき装置においてめっきが施され、洗浄槽12、防錆処理槽13、乾燥室14を経て巻取り装置16に巻き取られる。めっき液層6内のアノード2と給電ロール4間には、整流器1a、1b〜8a、8bが配置されている。
【0039】
本発明で得られるめっき法2層回路基材は、フィルム基材上に直接ICが実装されるCOF(チップオンフレックス)回路基板用途のほか、ICカードやICタグのアンテナ回路、携帯電話など小型電子機器の薄膜回路部品等各種FPC用途、フラットパネルディスプレイの電磁波シールド材、同軸ケーブルの外部導体などの用途に好適に用いられる。回路パターンの形成方法としてはサブトラクティブ法やセミアディティブ法など特に限定されない。
【実施例】
【0040】
以下、本発明のめっき法2層回路基材の製造方法を一例として説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
(1)長尺プラスチックフィルム基材の作製
絶縁フィルムとして、“カプトン”(登録商標)EN(東レ・デュポン社製ポリイミドフィルム、厚さ38μm、幅520mm、長さ1500m)を用いた。絶縁フィルムの両面にスパッタリング法により、厚さ300オングストロームのニッケル/クロム層を設け、さらにその上に1500オングストロームの銅層の成膜を行い、導電層付きの長尺プラスチックフィルム基材を作製した。粘着テープをスパッタ装置の冷却ロールに巻き付け、長尺プラスチックフィルムの両端部をややロール表面から浮き上がらせて、エッジ部分にもスパッタ金属を付着せしめることにより長尺プラスチックフィルムの両面を電気的に導通させた。
【0042】
(2)ロール材質の選択
ロール材質を選択するため、金属テストピース(厚さ1mm、大きさ80mm×80mm)を用いて、硫酸銅めっき液による浸漬テストを行った。表1に示した材質のテストピースを25℃の温度で最長6ヶ月間浸漬し、その間の重量変化と変色を評価した。結果はSUS系材質やタングステン系の溶射処理を行ったものが、6ヶ月間重量変化および変色がなく、めっき液に対する耐腐食性を有する材質であることが解った。
【0043】
【表1】

【0044】
(3)表面品位の評価
銅膜付きポリイミドフィルム(50mm×500mm)の銅膜表面を実体顕微鏡(×40)で観察、大きさが30μm以上の表面欠点をカウントした。さらにそれら欠点をレーザ顕微鏡(キーエンス社製 VK8500)で凹凸を測定、突起あるいは凹みであることを判定した。ここで検出された凹凸部分の銅層をエッチングで除去し、ポリイミド表面の凹凸に起因する欠陥は省き、カウントしていない。
【0045】
(実施例1)
外径80mm、肉厚5mmのSUS316製の円管を用いて、長さ600mmのロールを作製し、駆動ロール3および補助ロール5とした。また、同じ寸法規格の銅管を用いて、同様に給電ロール4を作製した。これらのロールを用い給電ユニット7を作製し、図1のようにめっき液槽6の前後に配置した。これを8単位連続させ、その前後に、巻き出し装置15と巻き取り装置16、前処理槽11と後処理槽などを設置した図4に示すめっき装置(回路基材の製造装置)を作製した。
【0046】
このめっき装置を用いて、アノード(陽極)には銅を用い、電解液には硫酸銅めっき液を用い、前記の長尺プラスチックフィルム基材の両面にそれぞれ厚さ4μmの電解銅めっきを行った。長尺プラスチックフィルム基材の搬送速度は0.8m/minであり、銅電解液の組成および電解条件は表2と表3に示したとおりである。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
得られためっき法2層タイプ回路基材(図3)の表面品位を上記の方法に従い評価した結果を表4に示す。なお、評価に当たっては、図4において補助ロールの接している側をA面とし、給電ロールおよび駆動ロールの接している面をB面とした。
【0050】
(実施例2)
駆動ロールに、表1の溶射処理を施したロールを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で銅膜付きポリイミドフィルムを作製した。結果は表4に示したとおり優れた表面品位であり、6ヶ月後の生産においても品位を維持することができた。
【0051】
(比較例1)
図4において、補助ロール5を銅製の給電ロールに全て置き換え、電極を接続して両側から給電したこと以外は、実施例1と同様の方法で、両面銅膜付きポリイミドフィルムを作製した。
【0052】
(比較例2)
図4において、駆動ロールを銅ロールとして駆動からも給電を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、両面銅膜付きポリイミドフィルムを作製した。
【0053】
(比較例3)
図5に示すような水平搬送タイプのめっき液槽6を縦型めっき液槽の替わりに組み込んだこと以外は、図4と同様のめっき装置を用い実施例1と全て同様の方法で両面銅膜付きポリイミドフィルムを作製した。図5において、給電ロール4にはSUS316を用いており、モーターによって駆動させている。
【0054】
上記の実施例1〜2と比較例1〜3の評価結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
本発明の範囲にあるものはこの表4に示されるとおり優れた表面品位であり、6ヶ月後の生産においても品位を維持することができた。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明ののめっき装置のめっき液槽および給電ユニットの構造を例示説明するための斜視断面図である。
【図2】図2は、本発明で用いられる長尺プラスチックフィルム基材を例示説明するための模式断面図である。
【図3】図3は、本発明のめっき法2層回路基材の製造方法で得られるめっき法2層回路基材を例示説明するための模式断面図である。
【図4】図4は、本発明のめっき装置の構造を例示説明するための平面図である。
【図5】図5は、比較例3に用いた従来の水平搬送タイプのめっき装置の構造を説明するための側断面図である。
【符号の説明】
【0058】
・ 長尺プラスチックフィルム基材
・ アノード
・ 駆動ロール
・ 給電ロール
・ 補助ロール
・ めっき液槽
・ 給電ユニット
・ 絶縁フィルム
・ 導電層
10.金属層
11.前処理槽
12.洗浄槽
13.防錆処理槽
14.乾燥室
15.巻き出し装置
16.巻き取り装置
1a、1b、〜8a、8b.整流器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液を収容するためのめっき液槽と、プラスチックフィルム基材をその幅方向を上下に向けて長手方向に搬送しながら前記めっき液槽内のめっき液に浸漬せしめるための搬送手段と、前記プラスチックフィルム基材の導電面に電気的に接触する給電手段とを有する電解めっき装置を用いて前記プラスチックフィルム基材の両面に金属めっき層を形成する回路基材の製造方法において、前記プラスチックフィルム基材の両面に設けられた導電性金属層が相互に電気的に導通しており、かつ前記プラスチックフィルム基材との間に電解を生じせしめるアノード(陽極)が前記めっき液槽内部において該プラスチックフィルムの両側に設置され、給電手段(陰極)として用いられる給電ロールが前記プラスチックフィルム基材の片面側のみに設置され前記給電ロールから前記プラスチックフィルム基材に給電することにより両面に電解めっきを施すことを特徴とするめっき法2層回路基材の製造方法。
【請求項2】
搬送手段として用いられる駆動ロールおよび給電手段として用いられる給電ロールが双方ともメッキ液槽外に設けられ、前記給電ロールは実質的に駆動力を持たず、搬送されるプラスチックフィルム基材に追随することにより回転することを特徴とする請求項1記載のめっき法2層回路基材の製造方法。
【請求項3】
駆動ロールと給電ロールがめっきされる長尺プラスチックフィルム基材の同一面側にあることを特徴とする請求項1または2記載のめっき法2層回路基材の製造方法。
【請求項4】
めっき液が硫酸銅めっき液であり、給電ロールの少なくともプラスチックフィルム基材の導電面に接触する部分の材質が銅であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のめっき法2層回路基材の製造方法。
【請求項5】
駆動ロールの少なくとも長尺プラスチックフィルム基材に接触する部分の材質のビッカース硬度が、前記プラスチックフィルムにめっきされる金属よりも高いことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のめっき法2層回路基材の製造方法。
【請求項6】
駆動ロールの少なくとも上記長尺プラスチックフィルム基材に接触する部分の材質がビッカース硬度で(Hv)150以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のめっき法2層回路基材の製造方法。
【請求項7】
めっき液を収容するめっき液槽と、プラスチックフィルム基材をその幅方向を上下に向けて長手方向に搬送しながら前記めっき液槽内のめっき液に浸漬せしめるための搬送手段と、前記プラスチックフィルム基材の導電面に電気的に接触する給電手段とを有する電解めっき装置であって、搬送手段として用いられる駆動ロールおよび給電手段として用いられる給電ロールが双方ともメッキ液槽外に設けられ、給電ロールは実質的に駆動力を持たず、搬送されるフィルムに追随することにより回転するように構成されており、前記プラスチックフィルム基材との間に電解を生じせしめるアノード(陽極)が前記めっき液槽内部において該プラスチックフィルムの両側に設置され、給電手段(陰極)として用いられる給電ロールが前記長尺プラスチックフィルム基材の片面側のみに設置され前記給電ロールから前記プラスチックフィルム基材に給電するように構成されていることを特徴とするめっき装置。
【請求項8】
駆動ロールの少なくともプラスチックフィルム基材に接触する部分の材質のビッカース硬度がプラスチックフィルムにめっきされる金属よりも高いことを特徴とする請求項7記載のめっき装置。
【請求項9】
駆動ロールの少なくともプラスチックフィルム基材に接触する部分の材質がビッカース硬度で(Hv)150以上であることを特徴とする請求項7または8記載のめっき装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−246962(P2007−246962A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−70321(P2006−70321)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000222462)東レフィルム加工株式会社 (142)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】