説明

めっき膜付き樹脂製品及びその製造方法

【課題】 手間・時間・コストを軽減でき、環境上の問題もない新たな前処理によって、めっき膜の付着力を確保するとともにブツ欠陥を低減する。
【解決手段】 樹脂基材の表面にケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を酸化炎と共に吹き付けて表面改質処理を行った後、前記樹脂基材の表面に乾式めっき又は湿式めっきを行ってめっき膜を形成する。表面改質は、例えばケイ酸化炎の場合、樹脂基材の表面にめっき膜との付着力を得るために必要な極性基としてのシノラール基が付与されることによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき膜付き樹脂製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの種類の樹脂はそのままではめっき膜の付着力が弱いため、該付着力を確保すべく、めっきを行う前の樹脂基材の表面に前処理を行う必要がある。例えば、乾式めっき(蒸着、スパッタリング等)を行う前には、樹脂基材の表面に極性基を付与して付着力を確保すべく、ベースコート層(プライマー層)を形成することが多い(例えば特許文献1)。湿式めっき(無電解めっき、電気めっき等)を行う場合には、樹脂基材の表面を粗化してアンカー効果により付着量を確保するために、クロム酸によるエッチング処理を行うことが多い(例えば特許文献2)。また、湿式めっきのうちでも、無電解めっきの1種である銀鏡の場合には、前記ベースコート層を設けることもある。
【特許文献1】特開平6−122777号公報
【特許文献2】特開2003−41375公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前処理としてのベースコート層は、均一に形成することが難しく、いわゆるブツ欠陥(ベースコート層に生じる小突起によりめっき面にぶつぶつができること)の問題があり、また、相当の手間・時間・コストがかかる。また、前処理としてのクロム酸によるエッチング処理は、六価クロムが環境負荷物質であることから環境上の問題があり、他処理への代替が望まれている。
【0004】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解消し、手間・時間・コストを軽減でき、環境上の問題もない新たな前処理によって、めっき膜の付着力を確保するとともにブツ欠陥を低減できるめっき膜付き樹脂成形品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、ベースコート層やエッチング処理に代わる新たな前処理を種々検討した結果、「接着、印刷、塗装」の分野において開発されたケイ酸化炎処理に着目し(特開2003−238710公報)、同処理を初めてめっきの前処理として検討した結果、成果を見出して本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
[1]ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行った樹脂基材と、前記表面改質処理後の樹脂基材の表面に乾式めっき又は湿式めっきを行って形成しためっき膜とを含むめっき膜付き樹脂製品。
【0007】
[2]樹脂基材の表面にケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行った後、前記樹脂基材の表面に乾式めっき又は湿式めっきを行ってめっき膜を形成するめっき膜付き樹脂製品の製造方法。
【0008】
<樹脂基材>
ここで、樹脂基材の樹脂の種類としては、特に限定されないが、次の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を例示できる。
熱可塑性樹脂:ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、およびポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル樹脂、テトラフルオロエチレン−パーフルオロエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリトリフルオロクロロエチレン樹脂、およびエチレン−トリフルオロクロロエチレン共重合体からなる群から選択される少なくとも一つの熱可塑性樹脂を例示できる。
熱硬化性樹脂:エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂からなる群から選択される少なくとも一つの熱硬化型樹脂を例示できる。
【0009】
<ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎>
ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎は、シラン原子、チタン原子又はアルミニウム原子を含む改質剤化合物を含む燃焼ガスの火炎である。ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎は、酸化炎と共に吹き付けることが一工程で済む点で好ましいが、別途酸化炎を吹き付けた後の次工程として吹き付けることもできる。
【0010】
この改質剤化合物の沸点は10〜100℃であることが好ましい。すなわち、改質剤化合物の沸点を所定範囲に制限することにより、改質剤化合物が適度に気化して、ガスと均一かつ迅速に混合して、完全燃焼しやすくなる。その結果、樹脂基材の表面改質が均一に行われる。
【0011】
この改質剤化合物は、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。このような改質剤化合物を使用することにより、めっき膜の付着力が強くなりその持続性も高くなる。
【0012】
ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎の吹き付けにより表面改質は、例えばケイ酸化炎の場合、樹脂基材の表面に、めっき膜との付着力を得るために必要な極性基としてのシノラール基が付与されるからである。
【0013】
その他、これらの処理は次の条件が好ましい(前記の特開2003−238710公報)。
1.燃料ガス中の改質剤化合物の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
2.改質剤化合物を加熱し、気体状態とした後、燃焼させることが好ましい。
3.改質剤化合物を、空気流に混合することにより、燃料ガスとすることが好ましい。また、改質剤化合物を、キャリアガスを用いて、前記空気流に混合することが好ましい。
4.火炎温度を500〜1、500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
5.火炎の処理時間を0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
【0014】
<乾式めっき>
表面改質処理後に行う乾式めっきとしては、特に限定されないが、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等を例示できる。
【0015】
<湿式めっき>
表面改質処理後に行う湿式めっきとしては、電気めっき、無電解めっき等を例示できる。無電解めっきには銀鏡反応も含まれる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るめっき膜付き樹脂製品及びその製造方法によれば、手間・時間・コストを軽減でき、環境上の問題もない新たな前処理によって、めっき膜の付着力を確保するとともにブツ欠陥を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
樹脂基材の表面にケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を酸化炎と共に吹き付けて表面改質処理を行った後、前記樹脂基材の表面に乾式めっき又は湿式めっきを行ってめっき膜を形成する。
【実施例】
【0018】
本発明を具体化した実施例について説明する。
まず表1は、湿式めっきの一つである銀鏡反応を行った実施例1,2と比較例1,2を示している。実施例1は、10cm×10cmの板状のABS樹脂基材にケイ酸化炎を酸化炎と共に吹き付けた後に、表1中に記載の所定の工程を経て銀鏡反応を行うことにより銀めっき膜を形成した例である。表1中に記載の各工程の詳細を、表3に示す。実施例2は、10cm×10cmの板状のPP(ポリプロピレン)樹脂基材を用いたこと以外は、実施例1と同様に行ったものである。比較例1は、ケイ酸化炎の吹き付けを行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行ったものである。比較例2は、ケイ酸化炎の吹き付けに代えて六価クロムによるエッチング処理を行ったこと以外は、実施例1と同様に行ったものである。
【0019】
次に表2は、湿式めっきの一つである無電解めっきを行った実施例3と比較例3を示している。実施例1は、ABS樹脂基材にケイ酸化炎を酸化炎と共に吹き付けた後に、表2中に記載の所定の工程を経て無電解ニッケルめっきを行うことによりニッケルめっき膜を形成した例である。表2中に記載の各工程の詳細を、表4に示す。比較例3は、ケイ酸化炎の吹き付けに代えて六価クロムによるエッチング処理を行ったこと以外は、実施例3と同様に行ったものである。
【0020】
さらに表2は、乾式めっきの一つである真空蒸着を行った実施例4と比較例4を示している。実施例4は、ABS樹脂基材にケイ酸化炎を酸化炎と共に吹き付けた後に、インジウムの真空蒸着を行うことによりインジウムめっき膜を形成した例である。表2中に記載の各工程の詳細を、表5に示す。比較例4は、ケイ酸化炎の吹き付けを行わなかったこと以外は、実施例4と同様に行ったものである。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
次の表3は、表1中の銀鏡反応及びその前工程の詳細である。
【表3】

【0024】
次の表4は、表2中の無電解めっき及びその前工程の詳細である。
【表4】

【0025】
次の表5は、表2中の真空蒸着及びその前工程の詳細である。
【表5】

【0026】
上記の実施例1〜4及び比較例1〜4について、めっき膜の付着力を評価するために、次の二つの試験を行った。
(1)碁盤目テーピング試験
JIS G0202に従い試験した。具体的には、塗面にカッターナイフで2mm幅の碁盤目を100マス(10×10マス)入れ、そこにセロファンテープを貼り、勢いよく剥がし、100マスの碁盤目のうち剥がれた枚数を求める方法である。例えば「0/100−10」の意味は、「10回テーピングして、100マスの碁盤目に0枚剥がれあり(すなわち、この場合は剥がれがない)」である。
(2)プルオフ試験
JIS K5400 8・7項に従い試験した。具体的には、塗面に引っ張り用の治具をエポキシ系接着剤で接着し、塗面に対し垂直方向に引っ張り、塗面が被塗物から破断する荷重を求める方法である。測定にはエリコメーター(電測社製)を用いた。また、二回測定して平均を求めた。
【0027】
これらの試験結果を上記の表1、表2に示す。比較例1は碁盤目テーピングもプルオフ剥離強度も著しく低く、比較例2は碁盤目テーピングでの剥れはなかったがプルオフ剥離強度が相対的に低かったのに対し、実施例1は碁盤目テーピングもプルオフ剥離強度も十分に高く、銀鏡反応による銀めっき膜の付着力が確保されていた。また、比較例3は碁盤目テーピングでの剥れはなかったがプルオフ剥離強度が低かったのに対し、実施例3は碁盤目テーピングもプルオフ剥離強度も十分に高く、無電解めっきによるニッケルめっき膜の付着力が確保されていた。また、比較例4は碁盤目テーピングもプルオフ剥離強度も著しく低かったのに対し、実施例3は碁盤目テーピングもプルオフ剥離強度も十分に高く、真空蒸着によるインジウムめっき膜の付着力が確保されていた。また、いずれの実施例1〜4にもブツ欠陥は見られなかった。
【0028】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行った樹脂基材と、前記表面改質処理後の樹脂基材の表面に乾式めっき又は湿式めっきを行って形成しためっき膜とを含むめっき膜付き樹脂製品。
【請求項2】
樹脂基材の表面にケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎を吹き付けて表面改質処理を行った後、前記樹脂基材の表面に乾式めっき又は湿式めっきを行ってめっき膜を形成するめっき膜付き樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
前記ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎は、酸化炎と共に吹き付ける請求項2記載のめっき膜付き樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
前記ケイ酸化炎、チタン酸化炎又はアルミニウム酸化炎は、別途酸化炎を吹き付けた後の次工程として吹き付ける請求項2記載のめっき膜付き樹脂製品の製造方法。

【公開番号】特開2006−183125(P2006−183125A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380917(P2004−380917)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】