説明

めっき装置及びめっき方法

【課題】板厚が3.0mm以上でアスペクト比が10以上の、高板厚・高アスペクト比配線板に対しても、スルーホール内にめっき未着やめっき皮膜のざらつきの発生を抑制し、信頼性の高いめっき装置及びめっき方法を提供する。
【解決手段】貫通孔を有する板状の被めっき体2を垂直方向に保持するラック4と、このラックが浸漬されるめっき槽5と、このめっき槽内の被めっき体下方に配置されたエア吐出配管6と、前記ラックの駆動機構7とを備えるめっき装置1において、前記駆動機構が、前記ラックに垂直方向の振動12を間欠的に与えつつ、前記ラックを前記被めっき体の表裏面側に交互に傾けるめっき装置及びこのめっき装置を用いためっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき装置及びめっき方法に関し、特には高板厚で高アスペクト比の貫通孔を備えた多層配線板用の無電解めっき装置及び無電解めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の高機能化に伴い、プリント配線板の高密度化や高多層化が進んでおり、それに伴って、板厚がより厚くなり、また層間接続のために設けられる貫通孔の孔径もより小さくなってきている。特に、半導体テスターやバックボード等の用途に用いられるプリント配線板では、板厚が3.0mm以上で孔径0.2mm以下(アスペクト比15以上)の仕様のものが多く、最近では板厚4・0mm以上で孔径0.2mm以下(アスペクト比20以上)の要求も出ている。このため、このような高板厚で、しかも高アスペクト比のプリント配線板に対する信頼性の高いめっき装置やめっき方法が要求されている。
【0003】
なお、アスペクト比とは、貫通孔の孔径に対する板厚の比(板厚/孔径)をいうが、本願は、単にアスペクト比が高いだけでなく、板厚が厚いプリント配線板を対象とするものであり、板厚3.0mm以上、最小ドリル径0.2mm以下で、アスペクト比15以上のプリント配線板を、特に「高板厚・高アスペクト比配線板」という。
【0004】
プリント配線板の貫通孔へのめっき方法としては、無電解めっきや電気めっき、これらの組み合わせが知られているが、このような高板厚・高アスペクト比配線板の場合、電気めっきを使用する方法では、貫通孔内へのめっきつきまわり性を確保することが難しい。このため、電気めっきに比べて、一般的に貫通孔内へのめっき付きまわり性の優れる無電解めっきを単独で用いる方法が知られているが、無電解めっき反応で発生する水素ガスが貫通孔内に気泡となって溜まることによって、めっき液が貫通孔内に到達できなくなり、めっきの析出がほとんど止まってしまう場合がある(本願において、このようにめっきがほとんど析出しない現象を、めっき未着という。)。また、無電解めっき反応で発生する水素ガスの影響で、溶存酸素が局部的に不足してめっき液が不安定となり、析出するめっき粒子が粗くなって、めっき皮膜にざらつきを生じたりする場合がある。
【0005】
本発明のような高板厚・高アスペクト比配線板を対象とするめっき方法の先行技術は見当たらないが、通常の板厚の配線板を対象として、貫通孔内に気泡が溜まらないように無電解めっきする方法としては、空気ポンプにより空気をめっき浴槽内に送り込みながら、被めっき体にめっき液を噴き付けて、被めっき体の表裏に差圧を生じさせ、貫通孔内の気泡を除去するめっき方法(特許文献1)、めっき槽の中で被めっき体であるプリント配線板を傾斜させた状態で振動を与えて貫通孔内の気泡を除去するめっき方法(特許文献2、3)、揺動と振動に加え、さらにめっき浴槽内を減圧して貫通孔内の気泡を除去するめっき方法(特許文献4)、エアレーション(空気によるバブリング)を行いながら、揺動と振動を行なうめっき方法(特許文献5)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平2−39595号公報
【特許文献2】特開平4−154192号公報
【特許文献3】特開平5−48267号公報
【特許文献4】特開平5−211384号公報
【特許文献5】特開平11−189880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらのめっき方法は、例えば引用文献5のように、板厚が0.5〜0.8mmと比較的薄く、アスペクト比として10程度のプリント配線板についてのめっき方法であり、本願のような高板厚・高アスペクト比配線板に適用した場合は、ある程度の効果はあるものの、貫通孔内へのめっき未着やめっき皮膜のざらつきが生じる場合があり、信頼性を満足する貫通孔内へのめっきの形成は難しい。これは、高板厚・高アスペクト比配線板においては、貫通孔内へのめっき未着やめっき皮膜のざらつきに対して、アスペクト比の要因以外に、板厚や孔径の実寸の要因が大きいことによるものと考えられる。
【0008】
そこで、本発明の発明者等は、鋭意検討の結果、被めっき体であるプリント配線板の傾斜の方向を変化させながら、間欠的な振動及びエアレーションを組み合わせることにより、従来技術では難しかった高板厚・高アスペクト比配線板に対しても、貫通孔内への十分なめっき付きまわり性を確保でき、めっき未着やめっき皮膜のざらつきを抑制できることを見出し、本発明をなすに到った。
【0009】
本発明は、板厚が3.0mm以上でアスペクト比が15以上の、高板厚・高アスペクト比配線板に対しても、貫通孔内にめっき未着やめっき皮膜のざらつきの発生を抑制し、信頼性の高いめっき装置及びめっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のものに関する。
(1) 貫通孔を有する板状の被めっき体を垂直方向に保持するラックと、このラックが浸漬されるめっき槽と、このめっき槽内の被めっき体下方に配置されたエア吐出配管と、前記ラックの駆動機構とを備えるめっき装置において、前記駆動機構が、前記ラックに垂直方向の振動を間欠的に与えつつ、前記ラックを前記被めっき体の表裏面側に交互に傾けるめっき装置。
(2) 上記(1)において、被めっき体が表裏面側の何れかに傾けられたとき、内側となる面に沿って、エア吐出配管から吐出されたエアが移動するめっき装置。
(3) 上記(1)又は(2)において、エア吐出配管からのエアの移動に伴って、めっき液が被めっき体の表裏面に沿って流れ、前記めっき液の流速が、被めっき体の表裏面によって異なるめっき装置。
(4) 上記(1)から(3)の何れかにおいて、前記被めっき体の表裏面側への傾斜角が、3度から15度であるめっき装置。
(5) 貫通孔を有する板状の被めっき体を垂直方向に保持したラックを垂直に保持し、前記被めっき体の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動を被めっき体に間欠的に与える工程と、前記ラックを被めっき体の表裏面の一方側に所定傾斜角に傾けて保持し、前記被めっき体の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動を被めっき体に間欠的に与える工程と、前記ラックを被めっき体の表裏面の他方側に所定傾斜角に傾けて保持し、前記被めっき体の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動を被めっき体に間欠的に与える工程と、前記ラックを垂直に戻して保持し、前記被めっき体の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動を被めっき体に間欠的に与える工程と、を有するめっき方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、板厚が3.0mm以上でアスペクト比が15以上の、高板厚・高アスペクト比配線板に対しても、貫通孔内にめっき未着やめっき皮膜のざらつきの発生を抑制し、信頼性の高いめっき装置及びめっき方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のめっき装置の一例を表す。
【図2】本発明のめっき装置の一例の動作(A)〜(C)を表す。
【図3】本発明のめっき装置の一例の動作(A)での振動機構と傾斜機構を表す。
【図4】本発明のめっき装置の一例の動作(B)での振動機構と傾斜機構を表す。
【図5】本発明のめっき装置の一例の動作(B)でのエアの流れを表す。
【図6】本発明のめっき装置の一例の動作(B)でのエア及びめっき液の流れを表す。
【図7】比較例1のめっき装置を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜図4は、ラック4の中に、被めっき体2が6枚収納された例を示しており、被めっき体2の側面(端面)方向からみた状態を示している。本発明のめっき装置1としては、この図1〜図4に示すようなめっき装置が挙げられる。即ち、貫通孔(図示しない。)を有する板状の被めっき体2を垂直方向に保持するラック4と、このラック4が浸漬されるめっき槽5と、このめっき槽5内の被めっき体2下方に配置されたエア吐出配管6と、前記ラック4の駆動機構7とを備えるめっき装置1において、前記駆動機構7が、前記ラック4に垂直方向の振動12を間欠的に与えつつ、前記ラック4を前記被めっき体2の表裏面側に交互に傾けるめっき装置1である。
【0014】
また、本発明のめっき方法として、図1及び図2に示すめっき方法が挙げられる。即ち、貫通孔(図示しない。)を有する板状の被めっき体2を垂直方向に保持したラック4を垂直に保持し、被めっき体2の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動12を被めっき体2に間欠的に与える工程(動作(A))と、ラック4を被めっき体2の表裏面の一方側に所定傾斜角21に傾けて保持し、被めっき体2の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動12を被めっき体2に間欠的に与える工程(動作(B))と、ラック4を被めっき体2の表裏面の他方側に所定傾斜角21に傾けて保持し、被めっき体2の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動12を被めっき体2に間欠的に与える工程(動作(C))と、ラック4を垂直に戻して保持し、被めっき体2の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動12を被めっき体2に間欠的に与える工程(動作(A))と、を有するものである。
【0015】
貫通孔を有する板状の被めっき体としては、層間接続のために設けられた貫通孔内にスルーホールめっきを行なう必要のあるプリント配線板が挙げられる。板厚が3.0mm以上で貫通孔の孔径0.2mm以下(アスペクト比15以上)の仕様のものであれば、本発明のめっき装置及びめっき方法が、従来技術と比べて、めっき付きまわり性に優れる効果が発揮できる点で望ましい。さらには、板厚4.0mm以上で貫通孔の孔径0.2mm以下(アスペクト比20以上)の仕様のものであれば、従来技術では貫通孔内でのめっき未着が防止できなかった仕様であるため、本発明のめっき未着を抑制する効果が発揮できる点で望ましい。
【0016】
板状の被めっき体は、一般的なプリント配線板と同様の材料を用い、同様のプロセスで作製されたものを用いることができる。貫通孔とは、プリント配線板の配線層を多層化した際に、各配線層同士を電気的に接続するために設けられるものであり、一般にはドリル加工やレーザ加工によって形成される。板厚とは、めっきを行う際の被めっき体の厚さであり、貫通孔の孔径とは、ドリル加工やレーザ加工によって加工された後の孔径をいう。アスペクト比とは、貫通孔の孔径に対する板厚の比(板厚/孔径)をいう。めっき付きまわり性とは、貫通孔の入り口近傍の被めっき体表面のめっき厚さに対する、貫通孔内の最も薄い部分のめっき厚さの比であり、貫通孔内へのめっきの付き易さを表す。
【0017】
ラックは、被めっき体を保持するためのものであり、本発明では、このラック内に被めっき体が垂直に保持される。ラックの構造としては、被めっき体にめっき液やエア吐出配管からのエアが当たるのを妨げ難いバスケット状の構造のものが、被めっき体へのめっき液やエアの供給を円滑にできる点で望ましい。ラック内に被めっき体を垂直に保持する方法としては、例えば、被めっき体の全体を収納できる容器内の内壁両端に、垂直方向の溝を形成しておき、この溝に被めっき体の端部を挟んで保持する方法等が挙げられる。また、ラックの材質は、一般にめっき用として用いられるものが使用できるが、用いるめっき液が無電解銅めっき液である場合は、例えば、SUS304、SUS316のような耐めっき液性を有する材質のものであるのが、めっき液の安定化を図るうえで望ましい。
【0018】
めっき槽は、このめっき槽に溜められためっき液にラックが浸漬されるが、このときラックに保持した被めっき体が浸漬できる高さまでめっき液を溜めることが可能な形状と容積を備えている。また、めっき槽の材質は、一般にめっき用として用いられるものが使用できるが、本発明で用いるめっき液が、無電解銅めっき液である場合は、耐めっき液性を有し、かつ、めっき槽自体にめっきが析出し難い材質のものであるのが、めっき液の安定化を図るうえで望ましい。
【0019】
めっき槽内の被めっき体下方には、エア吐出配管が配置される。エア吐出配管は、エアポンプから送られたエアをめっき槽内にバブリングしてエアレーションするためのものであり、例えば、管状のものに多数の穴を開けたものや、多孔質樹脂チューブ、吹き出し側をセラミック多孔質体にした筒状のものなどが使用できる。管状のものに多数の穴を開けたものの各穴径は、0.1mmから2.0mm程度で、全て同じ穴径でも周期的に径を変えてもよい。エアポンプにより導入するエアの量はめっき液1mあたり70L/分〜150L/分程度が望ましい。エア吐出配管から噴出したエアは、浮力によって浮上するため、上方に向かって移動するので、被めっき体の下方に配置することにより、被めっき体にエアが当たるようにすることができる。被めっき体の全体にエアが当たるようにエア吐出配管を配置するのが望ましい。無電解めっき液の場合、めっき液中の溶存酸素がめっき液を安定化する作用があるが、このめっき液中の溶存酸素濃度は、無電解めっき反応によって発生する水素ガスにより低下する傾向がある。しかしながら、エアに含まれる酸素が、めっき液中の溶存酸素濃度を増加させるので、このエアレーションによってめっき液の安定性を向上させることができる。
【0020】
本発明のめっき装置1には、ラック4の駆動機構7が備えられる。ラック4の駆動機構7とは、被めっき体2を保持した状態でラック4全体を動かす装置であり、例えば、図3及び図4に示すような機構が挙げられる。図3は、ラック4の駆動機構7がラック4を垂直に保持した状態を、被めっき体2の側面(端面)方向からみた様子を示すものであり、図4は、ラック4の駆動機構7がラック4を被めっき体2の表面側に傾けて保持した状態を、被めっき体2の側面(端面)方向からみた様子を示すものである。エアシリンダー架台18は、支持バー架台17を上下動19するためのエアシリンダー14を取り付けるものであり、例えば、めっき槽(図示しない。)の上縁部24の上に、めっき槽の長さ方向全体に亘って設けられ、めっき槽の上縁部24の上に固定される。このエアシリンダー架台18の上には、支持バー架台17を上下動19させるためのエアシリンダー14が固定される。エアシリンダー14の上下動19する突出部15の上には、支持バー架台17が載せられている。支持バー架台17は、支持バー13を支持することによって、支持バー13に固定されたラック4全体を吊り下げて保持するものである。支持バー架台17の上には固定治具16が設けられ、ラック4の左右の何れかの支持バー13を持ち上げた状態で固定治具16を左右動20させることにより、固定治具16が支持バー13の下側を支え、ラック4全体を傾斜した状態で保持する。ここで、ラック4の左右の何れかの支持バー13を持ち上げる動作は、図示しないエアシリンダー等で行うことができる。固定治具16は、支持バー13を支持バー架台17上で固定するものであり、ラック4全体を垂直な状態や傾斜した状態で保持し、かつ、後述する垂直方向の振動12が加えられても、ラック4を安定に保持するものである。
【0021】
図2に示すように、駆動機構7は、ラック4に垂直方向の振動12を与えつつ、ラック4を被めっき体2の表裏面側に交互に傾ける。この動作は、例えば、図3及び図4に示すようにして行うことができる。
【0022】
まず、ラック4に垂直方向の振動12を与えるには、図3及び図4の左右のエアシリンダー14の突出部15を同時に上方向に飛出させることにより、支持バー架台17を持ち上げる。これにより、この支持バー架台17に支持バー13によって吊り下げられたラック4の全体が、上方に持ち上げられる。その後、エアシリンダー14の突出部15を急速に引っ込めることにより、支持バー架台17を急速に降下させる。これにより、支持バー架台17が、エアシリンダー14の本体あるいは支持バー架台17の降下を止める部材(図示しない。)に衝突するため、ラック4全体に衝撃を伴った振動が与えられる。無電解めっき液の場合、無電解めっき反応によって発生する水素ガスが気泡となって、貫通孔の内壁に付着し、めっき未着を生じさせることがあるが、この衝撃を伴った振動により、貫通孔の内壁に付着した気泡が離脱し、貫通孔内から取り除かれるので、気泡が留まることによってめっき液が到達できない状態が長時間継続することがなく、めっき未着を抑制することができる。
【0023】
この衝撃を伴う振動は、1秒間〜10秒間に1回の上下動を1分間〜5分間継続後、この上下動を停止し静止した状態で所定時間保持することを1サイクルとして、このサイクルを20分間〜60分間に1回、周期的に繰り返すことにより、間欠的に行うのが望ましい。1秒間〜10秒間に1回の上下動によって、衝撃を伴った振動(機械的衝撃振動)が適度な間隔で被めっき体に加えられ、また、この振動が1分間〜5分間継続して繰り返し加えられるので、貫通孔内壁に付着した気泡が離脱し易い。上下動の間隔は5秒間に1回、上下動の継続時間は3分間であるのが、気泡が離脱し易い点で好ましい。また、上下動の継続と停止のサイクルの周期を20分間〜60分間とすることで、めっき反応によって、気泡がある程度の大きさになっている状態で、衝撃を伴った振動を加えることができるため、貫通孔内壁から気泡が離脱し易い。また、貫通孔内壁に付着した気泡によってめっき未着が発生する前に、貫通孔内壁から気泡を離脱させることができる。上下動の継続と停止のサイクルの周期は、30分間とすると、被めっき体全体にある程度の大きさとなった気泡が付着し、振動で離脱し易い状態となり、しかも貫通孔内にめっき未着が生じるのを抑制できる点で望ましい。
【0024】
次に、ラック4を被めっき体2の表裏面側に交互に傾けるには、例えば図4に示すように、ラック4の左右の一方の支持バー13を持ち上げた状態で固定治具16を左右動20させることにより、固定治具16が支持バー13の下側を支え、ラック4全体が傾斜した状態で保持する。ここで、ラック4の左右の一方の支持バー13を持ち上げる動作は、図示しないエアシリンダー等で行うことができる。ラック4全体を傾斜した状態から垂直に戻す場合は、ラック4の左右の一方の支持バー13を再び持ち上げた状態で、固定治具16を左右動20させることにより、固定治具16が支持バー13の下側に位置しない位置に移動させる。この動作を、ラック4の左右の支持バー13に対して、交互に行なうことにより、ラック4を被めっき体2の表裏面側に交互に傾ける動きが可能になる。図2のように、このラック4を被めっき体2の表裏面側に交互に傾ける動きは、垂直での保持(動作(A))、被めっき体2の表裏面側の一方に傾斜した状態での保持(動作(B))、被めっき体2の表裏面側の他方に傾斜した状態での保持(動作(C))を、この順番に繰り返し行なうのが望ましい。
【0025】
このように、被めっき体2が表裏面側の何れかに傾けられることにより、高板厚・高アスプクト比配線板の場合でも、貫通孔3内へのめっき未着やめっき皮膜のざらつきを抑制することができる。つまり、図5及び図6に示すように、被めっき体2の下方に配置されたエア吐出配管6から供給されたエア8は、細かい泡状となって被めっき体2の間を通過するが、このエアの流れ9に伴って、被めっき体2の表面にめっき液の流れ11を生じさせる。ここで、図5及び図6は、図1のように傾けられてめっき液中に浸漬された状態での被めっき体2の断面を示す。被めっき体2が表裏面側の何れかに傾いている場合、傾斜の内側22では、エア8が被めっき体2の表面に沿って浮上するため、めっき液の速い流れを形成するが、傾斜の外側23では、エア8はほぼ垂直方向に上昇するため、エア8が浮上する際に被めっき体2から離れる方向に向かうので、被めっき体2の表面ではめっき液の遅い流れを形成する。このように、めっき液の流れ11の速度が、被めっき体2の表裏面で異なると、被めっき体2の貫通孔3内では、めっき液の早い流れの方向が負圧となるため、この圧力差が駆動力となって、貫通孔3内のめっき液が傾斜の外側23から傾斜の内側22に向かって移動する。このため、被めっき体2を傾斜させることにより、貫通孔3内のめっき液が置換され易くなるため、めっきの付きまわり性が向上するとともに、めっき皮膜のざらつきも抑制される。
【0026】
また、被めっき体が交互に傾けられることにより、めっき皮膜のざらつきを抑制することができる。つまり、上述したように、被めっき体の傾斜の外側では、エアが浮上する際、被めっき体の表面から離れる方向に移動するため、被めっき体の表面近傍では、めっき反応で生じた水素によって、めっき液中の溶存酸素が減少しており、めっき液が分解し易い状態となっている。このことに加えて、めっき液の遅い流れが形成されるため、エアからの溶存酸素を含んだめっき液が供給され難いため、分解し易い状態が継続することになり、めっき皮膜のざらつきが生じ易い。しかしながら、被めっき体が交互に傾けられることにより、めっき液が分解し易いままの状態で継続することがない。このため、めっき皮膜のざらつきが抑制される。
【0027】
被めっき体2を交互に傾けるときの、被めっき体2が表裏面側の何れか一方に傾斜して保持する時間(即ち、図2に示す動作(B)及び(C)での保持時間)は、20秒間〜40秒間程度、好ましくは30秒程度が望ましい。これにより、被めっき体2の表裏面に、めっき液の速い流れと遅い流れが形成され、貫通孔(図示しない。)内をめっき液が傾斜の外側23から傾斜の内側22に向かって移動する状態が形成される時間を確保することができる。また、被めっき体2が表裏面側の何れか一方の面において、めっき液が分解し易い状態となる前に、傾斜する方向が変化するため、めっき皮膜のざらつきを抑制することができる。
【0028】
図2に示すように、被めっき体2の表裏面側への傾きの角度(傾斜角21)は、3度〜15度程度、好ましくは6度程度であるのが望ましい。これにより、被めっき体2が表裏面側に生じるめっき液の流れ(図示しない。)の速さの差が、高板厚・高アスペクト比配線板の貫通孔(図示しない。)内のめっき液の置換を生じるのに十分な状態を形成できる。また、めっき槽(図示しない。)に、複数のラック4を並べて浸漬する場合でも、傾ける角度が小さいので、浸漬するラック4の大きさに比べてめっき槽をあまり大きくする必要がなく、装置の小型化や低コスト化が図れる。傾きの角度が3度より小さい場合は、貫通孔(図示しない。)内のめっき液の置換を生じるのに十分な速度差が得られず、傾きの角度が15度より大きい場合、平面視における被めっき体2の間隔が狭くなるため、被めっき体2の間にエアが入り難くなり、かえって被めっき体2の表裏面でのめっき液の速度差が得られ難くなる。また、傾きの角度が15度より大きい場合、浸漬するラック4の大きさに比べてめっき槽をかなり大きくする必要があるため、装置の小型化や低コスト化の障害となる。
【実施例】
【0029】
以下、図1〜図6を用いて、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
被めっき体として、縦横のサイズが500mm×600mmで、板厚が3.0mm、貫通孔の孔径0.2mm(アスペクト比15)の仕様の多層プリント配線板を準備した。基材として、MCL−E679(日立化成工業株式会社製、商品名)を用い、内層回路を形成した後に、プリプレグを介して銅箔を重ね、積層プレス機により加圧、加熱する工程を繰り返して作製したものを用いた。貫通孔の孔明けは、ドリルマシーンを用いて行い、一般的なアルカリ過マンガン酸を用いたデスミア処理を行なった。
【0031】
この被めっき体2である多層プリント配線板を、1つのラック4内に12枚垂直にセットし、このラック4を4台準備した。この4台のラック4内にセットした多層プリント配線板に対して、図1に示すめっき装置1を用いて、表面のめっき厚さが30μmとなるように、無電解銅めっきを行なった。使用した無電解銅めっき液は、一般にプリント配線板の製造において、厚付け用の無電解銅めっきとして用いられる組成のものであり、基本組成は、硫酸銅10g/L、EDTA4Na40g/L、37%ホルマリン3mL/L、水酸化ナトリウムpH12.3、2,2’−ジピリジル30mg/Lを含むものである。このときのめっき速度は、1時間当たり2μm程度であり、このため、めっき時間は15時間とした。
【0032】
めっき槽は、幅1m×長さ4m×深さ1mの大きさであり、めっき液量は、約4000Lである。めっき槽内に設けられるエア吐出配管は、管状のものに多数の穴を開けたものを用い、各穴径は、1.0mmで、エアポンプにより導入するエアの量はめっき液1mあたり60L/分とした。
【0033】
本実施例のめっき方法は、図1及び図2に示すように行なった。即ち、貫通孔(図示しない。)を有する板状の被めっき体2を垂直方向に保持したラック4を垂直に保持し、被めっき体2の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動12を被めっき体2に間欠的に与える工程(動作(A))と、ラック4を被めっき体2の表面側に所定傾斜角21に傾けて保持し、被めっき体2の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動12を被めっき体2に間欠的に与える工程(動作(B))と、ラック4を被めっき体2の裏面側に所定傾斜角21に傾けて保持し、被めっき体2の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動12を被めっき体2に間欠的に与える工程(動作(C))と、ラック4を垂直に戻して保持し、被めっき体2の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動12を被めっき体2に間欠的に与える工程(動作(A))とによって行なった。
【0034】
このときの被めっき体の表裏面側への傾きの角度(傾斜角21)は、6度とした。また、被めっき体2が表裏面側の何れか一方に傾斜して保持される時間及び垂直に戻して保持される時間(即ち、動作(A)〜(C))は、それぞれ30秒間とした。また、衝撃を伴う振動は、これらの動作(A)〜(C)が行なわれている間中、5秒間に1回の上下動を3分間継続後、この上下動を停止して静止状態で27分間保持することを1サイクルとして、30分間に1回の周期で繰り返し、間欠的に行なった。
【0035】
(実施例2)
被めっき体として、縦横のサイズが500mm×600mmで、板厚が4.0mm、貫通孔の孔径0.2mm(アスペクト比20)の仕様の多層プリント配線板を用いた以外は、実施例1と同様である。
【0036】
(実施例3)
被めっき体として、縦横のサイズが500mm×600mmで、板厚が5.0mm、貫通孔の孔径0.2mm(アスペクト比25)の仕様の多層プリント配線板を用いた以外は、実施例1と同様である。
【0037】
(実施例4)
無電解銅めっきを行う際の被めっき体の表裏面側への傾きの角度(傾斜角)を、3度とした以外は、実施例2と同様である。
【0038】
(実施例5)
無電解銅めっきを行う際の被めっき体の表裏面側への傾きの角度(傾斜角)を、15度とした以外は、実施例2と同様である。
【0039】
(実施例6)
動作(A)〜(C))における、それぞれの保持時間を20秒間とした以外は、実施例2と同様である。
【0040】
(実施例7)
動作(A)〜(C))における、それぞれの保持時間を40秒間とした以外は、実施例2と同様である。
【0041】
(実施例8)
振動の継続を3分間、振動を停止した静止状態での保持を17分間とすることで、サイクルの周期を20分間とした以外は、実施例2と同様である。
【0042】
(実施例9)
振動の継続を3分間、振動を停止した静止状態での保持を57分間とすることで、サイクルの周期を60分間とした以外は、実施例2と同様である。
【0043】
(比較例1)
図7に示すように、無電解銅めっきを行う際の被めっき体2の表裏面側への傾きの角度(傾斜角21)を、0度とした以外は、実施例2と同様である。即ち、本比較例は、ラックを垂直状態に保ったまま、傾斜を行なわず、振動だけを間欠的に加えた。
【0044】
(参考例1)
動作(A)〜(C))における、それぞれの保持時間を60秒間とした以外は、実施例2と同様である。
【0045】
(参考例2)
振動の継続を3分間、振動を停止した静止状態での保持を87分間とすることで、サイクルの周期を90分間とした以外は、実施例2と同様である。
【0046】
上記の実施例及び比較例に対して、付きまわり性は、銅めっき後の貫通孔内を断面観察し、貫通孔の入り口近傍の被めっき体表面のめっき厚さに対する貫通孔内の最小のめっき厚さの割合を100分率で示し、数10穴についての平均値を求めた。
【0047】
めっき未着の有無は、後述する接続信頼性試験で、断線が発生した箇所を断面観察して評価した。めっき未着が検出されたものを“×”とした。
【0048】
接続信頼性試験は、MIL熱衝撃試験(MIL−STD−202 method107conditionB)において、100サイクル後の抵抗上昇が、5%未満のものを“○”、5%以上10%未満のものを“△”、10%を超えるものを“×”とした。
【0049】
めっき皮膜のざらつきの有無は、エアレーションのよく当たる状態で同じ厚さのめっきを行なった標準サンプルを準備し、これと比較しながら、めっき後の被めっき体表面を観察し、ざらつきによる光沢の違いやむらがないかを評価することにより行なった。明らかな光沢の違いやむらが見られたものを“×”、若干の光沢の違いやむらが見られたものを“△”、光沢の違いやむらが見られないものを“○”とした。
【0050】
表1に、実施例1〜9及び比較例1〜3の結果をまとめて示す。傾斜角3度〜15度、各動作(A)〜(C)での保持時間20秒間〜40秒間、振動の継続と停止のサイクルの周期が20分間〜60分間では、被めっき体が高板厚・高アスペクト比であっても、良好な付きまわり性が得られ、めっき未着の発生は見られず、接続信頼性を満足し、しかもめっき表面のざらつきもなかった。一方、比較例1のように、傾斜角が0度では、めっき未着が発生し、接続信頼性も満足しなかった。参考例1のように、各動作での保持時間を60秒間とした場合では、めっき表面に若干のざらつきが発生した。参考例2のように、振動の継続と停止のサイクルの周期を90分間とした場合では、めっき未着はないものの、付きまわり性が低下し、接続信頼性試験での抵抗上昇率も上昇した。
【0051】
【表1】

【符号の説明】
【0052】
1…めっき装置、2…被めっき体、3…貫通孔、4…ラック、5…めっき槽、6…エア吐出配管、7…駆動機構、8…エア、9…エアの流れ、10…めっき液、11…めっき液の流れ、12…垂直方向の振動、13…支持バー、14…エアシリンダー、15…突出部、16…固定治具、17…支持バー架台、18…エアシリンダー架台、19…上下動、20…左右動、21…傾斜角、22…傾斜の内側、23…傾斜の外側、24…めっき槽の上縁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する板状の被めっき体を垂直方向に保持するラックと、このラックが浸漬されるめっき槽と、このめっき槽内の被めっき体下方に配置されたエア吐出配管と、前記ラックの駆動機構とを備えるめっき装置において、前記駆動機構が、前記ラックに垂直方向の振動を間欠的に与えつつ、前記ラックを前記被めっき体の表裏面側に交互に傾けるめっき装置。
【請求項2】
請求項1において、被めっき体が表裏面側の何れかに傾けられたとき、内側となる面に沿って、エア吐出配管から吐出されたエアが移動するめっき装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、エア吐出配管からのエアの移動に伴って、めっき液が被めっき体の表裏面に沿って流れ、前記めっき液の流速が、被めっき体の表裏面によって異なるめっき装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかにおいて、前記被めっき体の表裏面側への傾斜角が、3度から15度であるめっき装置。
【請求項5】
貫通孔を有する板状の被めっき体を垂直方向に保持したラックを垂直に保持し、前記被めっき体の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動を被めっき体に間欠的に与える工程と、
前記ラックを被めっき体の表裏面の一方側に所定傾斜角に傾けて保持し、前記被めっき体の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動を被めっき体に間欠的に与える工程と、
前記ラックを被めっき体の表裏面の他方側に所定傾斜角に傾けて保持し、前記被めっき体の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動を被めっき体に間欠的に与える工程と、
前記ラックを垂直に戻して保持し、前記被めっき体の下方からエアレーションを行いながら、垂直方向の振動を被めっき体に間欠的に与える工程と、を有するめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−275603(P2010−275603A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130400(P2009−130400)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】