説明

ろう付け方法、ろう材およびろう材の製造方法

【課題】接合すべき二つの部材の突合面の面積が小さい場合や突合面の形状が複雑な場合であっても、当該二つの部材を確実にろう付けすることが可能なろう付け方法を提供することを課題とし、さらには、このようなろう付け方法に好適に使用される取り扱いが容易なろう材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】接合すべき二つの部材1,2の突合面11,21間にフラックスを内包する粒状のろう材3を配置したうえで加熱することで、部材1,2をろう付けする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付け方法、ろう材およびろう材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属製やセラミックス製の部材をろう付けする際に使用されるろう材は、接合すべき部材の用途や形状等に応じて、板状、線状、粉状の形態で使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対の面材間にハニカムコアを配置してなるサンドイッチパネルをろう付けにより製造する際に、面材とハニカムコアとの間に板状のろう材を介設する事例が紹介されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、二つの棒材をT字状に接合する際に、一方の棒材の周囲にリング状に成形された線状のろう材を配置する事例が紹介されている。
【0005】
なお、前記したろう付け方法においては、ろう材にフラックスを付着させておき、部材表面に存在する酸化皮膜を加熱時に除去するのが一般的である。フラックスを付着させる方法としては、例えば、粉末状のフラックスを吹き付ける方法や、水に溶いてスラリー状にしたフラックスを塗布する方法が一般的である。
【0006】
【特許文献1】特開2001−138043号公報
【特許文献2】特開2004−183926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、板状のろう材を使用するろう付け方法においては、接合すべき部材の形状が複雑である場合に対応できないという問題がある。
【0008】
また、線状(リング状)のろう材を利用するろう付け方法においては、接合すべき二つの部材の突合面の面積が小さい場合や突合面の形状が複雑である場合に、線状のろう材を配置できないか、あるいは、著しく困難になる場合がある。
【0009】
さらに、粉状のろう材を利用する方法においては、ろう材が飛散し易いので、ろう材の取り扱いが難しいという問題がある。
【0010】
加えて、前記した従来のろう付け方法においては、フラックスを付着させる作業に手間と時間とを要するという問題もあり、さらには、突合面の形状が複雑である場合には、フラックスが突合面全体に行き渡らない虞もある。
【0011】
そこで、本発明は、接合すべき二つの部材の突合面の面積が小さい場合や突合面の形状が複雑な場合であっても、当該二つの部材を確実にろう付けすることが可能なろう付け方法を提供することを課題とし、さらには、このようなろう付け方法に好適に使用される取り扱いが容易なろう材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題を解決する本発明に係るろう付け方法は、接合すべき二つの部材の間にフラックスを内包する粒状のろう材を配置したうえで加熱するものである。なお、接合すべき二つの部材を突き合わせて前記両部材間に空間を形成し、当該空間にフラックスを内包する粒状のろう材を装填したうえで加熱するというろう付け方法でも、前記した課題を解決することができ、さらには、接合すべき二つの部材を突き合わせて突合せ部分の上部に沿って凹部を形成し、当該凹部にフラックスを内包する粒状のろう材を載置したうえで加熱するというろう付け方法でも、前記した課題を解決することができる。
【0013】
このようなろう付け方法によると、接合すべき二つの部材の間にろう材がピンポイントで配置されることになるため、ろう材が無駄になることはない。また、ろう材が粒状を呈していることから、接合すべき二つの部材の突合面の面積が小さい場合や突合面の形状が複雑な場合であっても、確実に配置することが可能となり、ひいては、二つの部材を確実にろう付けすることが可能となる。さらに、ろう材にフラックスを内包させているため、フラックスを突合面等に付着させる作業が不要になるとともに、フラックスが突合面全体に行き渡らないという不具合が発生することもない。
【0014】
二つの部材を突き合わせた際に前記両部材間に空間が形成される場合には、少なくとも一方の前記部材に、前記空間に至る少なくとも一箇所の投入口を形成するとよい。このようにすると、二つの部材を突き合わせて仮組みをした後であっても、両部材間にろう材を配置することが可能となる。
【0015】
また、前記両部材の突合せ部分に前記空間に至る投入口が形成されるような形状に前記両部材の突合面を成形しておいてもよい。このようにしても、二つの部材を突き合わせて仮組みをした後に、両部材間にろう材を配置することが可能となる。
【0016】
また、前記空間および前記投入口を、前記両部材の突合面の略全幅に亘って形成すると、ろう材を投入し易くなるとともに、溶融したろう材を突合面の全体に行き渡らせることが可能となる。
【0017】
また、前記したろう付け方法に好適に使用される本発明に係るろう材は、粒状に成形されたろう材であって、ろうとなる金属からなる中空の外殻と、当該外殻の内部に充填されたフラックスとを有することを特徴とする。
【0018】
このようなろう材は、その形態が粒状であるが故に、接合すべき二つの部材の間にピンポイントで配置することが可能となり、ひいては、接合すべき二つの部材の突合面の面積が小さい場合や突合面の形状が複雑な場合であっても、確実に配置することが可能となる。
【0019】
なお、このようなろう材は、例えば、金属からなる中空の鞘の内部にフラックスを充填してなる線状部材を切断することにより簡単に得ることができる。
【0020】
外殻の組成は、特に限定されるものではないが、例えば、接合すべき部材がアルミニウムまたはアルミニウム合金製である場合には、Al−Si系合金のほか、Al−Cu−Si系合金を採用することができる。外殻をAl−Cu−Si系合金とすると、三元共晶系合金となるため、二元共晶系合金からなるろう材を用いた場合よりも、融点が低くなる。なお、外殻をAl−Cu−Si系合金とした場合には、フッ化セシウムを含むフッ化物系の非腐食性フラックスを採用するとよい。
【0021】
また、Al−Si系合金層にCu層を積層して外殻を構成してもよい。Al−Si系合金層とCu層とに分けて外殻を構成しても、加熱したときに三元共晶系合金となるため、二元共晶系合金のろう材を用いた場合よりも、融点が低くなる。
【0022】
なお、外殻がAl−Si系合金層とCu層とを備えるろう材は、例えば、Al−Si系合金層にCu層を積層してなる中空の鞘の内部にフッ化セシウムを含むフッ化物系の非腐食性フラックスを充填してなる線状部材を切断することにより簡単に得ることができる。
【0023】
なお、前記したろう材において、前記外殻の外面に非球面部を形成するか、あるいは、前記外殻を扁平状に成形すると、転がり難くなることから、その取り扱いが容易になる。なお、このようなろう材を前記した空間に装填する際には、必要に応じて、振動を与える等するとよい。
【0024】
また、前記したろう材において、前記外殻の外面を球面状に成形すると、転がり易くなることから、例えば、接合すべき二つの部材を突き合わせた際に形成された空間に装填する場合に好適である。特に、接合すべき二つの部材を突き合わせた際に形成された空間が狭小である場合や複雑な形状である場合であっても、当該空間に確実に装填することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るろう付け方法によると、接合すべき二つの部材の突合面の面積が小さい場合や突合面の形状が複雑な場合であっても、当該二つの部材を確実にろう付けすることが可能となる。
【0026】
また、本発明に係るろう材は、その取り扱いが容易であり、接合すべき二つの部材の突合面の面積が小さい場合や突合面の形状が複雑な場合であっても、これを確実に配置することが可能となる。
【0027】
本発明に係るろう材の製造方法によると、取り扱いが容易な粒状のろう材を簡単に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付した図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の説明においては、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0029】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係るろう付け方法は、図1に示すように、接合すべき二つの部材1,2の突合面11,21の間にフラックスを内包する粒状のろう材3を配置したうえで加熱することで、部材1,2を接合するものである(図1の(c)参照)。
【0030】
より詳細には、まず、図1の(a)に示すように、接合すべき二つの部材1,2のうちの一方(本実施形態では部材2)を下側に位置させ、その上端面(すなわち、突合面21)が略水平になるように保持する。次に、部材2の突合面21の上面に粒状のろう材3を所定数だけ配置したうえで、図1の(b)に示すように、ろう材3上に他方の部材1を載置し、部材1の突合面11と部材2の突合面21とでろう材3を挟持する。そして、仮組みされた状態の部材1,2を炉の中に入れて全体を加熱するか、あるいは、トーチを用いて突合せ部分(接合部分)のみを加熱してろう材3を溶融させ、その後冷却すれば、図1の(c)に示すように、部材1,2が溶融したろう材3aにより接合される。
【0031】
このようなろう付け方法によると、接合すべき二つの部材1,2の間に所定数のろう材3がピンポイントで配置されることになるため、ろう材3が無駄になることはない。また、ろう材3が粒状を呈していることから、接合すべき二つの部材1,2の突合面11,21の面積が小さい場合や突合面11,21の形状が複雑な場合であっても、確実に配置することが可能となり、ひいては、二つの部材1,2を確実にろう付けすることが可能となる。さらに、ろう材3にフラックスを内包させているため、突合面11,21にフラックスを付着させる作業が不要になるとともに、フラックスが突合面11,21全体に行き渡らないという不具合が発生することもない。
【0032】
なお、このようなろう付け方法を実施するに際しては、部材1,2の組成(材質)に特に制限はなく、アルミニウム、鉄、銅その他の金属(合金を含む)のほか、セラミックなどであってもよい。また、部材1,2の形状にも特に制限はない。なお、「ろう」となる外殻31およびフラックス32の組成は、部材1,2の組成(材質)に対して適切なものを選定することは言うまでもない。
【0033】
また、加熱温度や加熱時間は、部材1,2の組成、寸法、形状、ろう材3の組成などに応じて設定すればよい。
【0034】
加熱する際には、部材1,2を互いに近接する方向(図1の(b)において上下方向)に押圧するとよい。部材1,2を上下に仮組みした状態で加熱する場合には、例えば、上側にある部材1に図示せぬ錘を載置して押圧すればよい。なお、部材1の自重が期待できる場合には、図示せぬ錘を省略することもできる。
【0035】
なお、図1に示す部材1,2の突合面11,21は、平坦(平面)に成形されているが、例えば、図2の(a)に示すように、突合面11,21の少なくとも一方に、ろう材3を保持する窪み11a,21aを形成してもよい。このようにすると、ろう材3が転がりやすい形状であっても、これを確実に保持することが可能となるので、作業性が向上する(図2の(b)参照)。また、窪み11a,21aに溶融したろう材3aが入り込むので(図2の(c)および(d)参照)、接合部においてずれせん断に対する抵抗力が大きくなる。
【0036】
ろう材3は、フラックスを内包するものであれば、その形態は特に問わないが、例えば、図3に示すように、金属からなる中空の外殻31と、この外殻31の内部に充填されたフラックス32とを備えているものを使用することができる。
【0037】
外殻31は、その外面が球面状に成形されている。外殻31は、フラックス32を実質的に完全に覆っていることが望ましいが、フラックス32が流出しない程度であれば、その一部が開口していてもよい。外殻31を構成する金属(合金)は、その融点が部材1,2の融点よりも低く、「ろう」として適切なものであれば特に制限はないが、例えば、部材1,2がアルミニウム製またはアルミニウム合金製である場合には、Al−Cu−Si系合金を用いることができる。
【0038】
なお、Al−Cu−Si系合金で外殻31を構成する場合の組成は、融点が525℃である三元共晶組成(Cu:26.7質量%、Si:5.3質量%)に近似するものであることが望ましい。具体的には、Cu(銅)を22〜37質量%、Si(珪素)を3〜12質量%含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物であるAl−Cu−Si系合金で外殻31を構成することが望ましい。SiおよびCuの比率が前記した数値範囲にあれば、530〜560℃という低い温度範囲でのろう付けが可能となるので、部材1,2がAl−Si系合金(4000系合金)で構成される鋳造製品であっても、これをろう付けすることが可能となる。
【0039】
フラックス32は、外殻31および部材1,2の表面に形成されている酸化皮膜を除去するとともに、新たな酸化皮膜が形成されるのを防止することができるものであれば、その組成や形態に特に制限はないが、外殻31がAl−Cu−Si系合金である場合には、KF−AlF3系の錯体からなるフッ化カリウム系の非腐食性フラックスにCsF(フッ化セシウム)を含有させたものを使用することができる。フラックス32中に占めるCsFの割合は、コスト的には少ないほど有利であるが、10モル%に満たないとフラックス32の融点を下げる効果が不十分となり、530〜560℃でのろう付けが困難になるので、フラックス32中のCsFの割合は、10モル%以上とすることが望ましい。なお、フラックス32の形態は、粉状であることが望ましいが、これに限定されることはなく、ペースト状のものであっても差し支えない。
【0040】
ろう材3は、図4の(a)〜(c)に示すように、外殻31と同一組成の金属からなる中空の鞘33の内部に粉末状のフラックス32を充填してなる線状部材3’(所謂コアードワイヤ)を一対の切断金型4,4を用いて切断することにより、簡単に製造することができる。線状部材3’に対するフラックス32の充填率は、特に限定されるものではないが、従来のコアードワイヤの充填率と同程度の20〜40%であれば充分である。なお、線状部材3’は、適宜な厚さに圧延されたAl−Cu−Si合金板を丸棒に巻き付けて管状に成形し、その一方の端部を潰すなどして閉塞したうえで、他方の端部から粉状のフラックス32を充填し、その後、他方の端部を潰すなどして閉塞することで得ることができる。なお、ろう材3の大きさに特に制限はないが、通常の線状部材(コアードワイヤ)3’の直径が1〜2.5mm程度であることから、これを切断して形成した場合には、直径1〜2.5mm程度に成形することができる。
【0041】
切断金型4の突合面の形状は、外殻31(図3参照)の形状に合わせて成形すればよい。本実施形態では、一度に複数のろう材3を製造できるように、各切断金型4の突合面に複数の半球部41,41,…が連設されているが、各半球部41は、外殻31の外面が球面状となるように、半球面に成形されている。
【0042】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係るろう付け方法を、図5の(a)〜(c)を参照して詳細に説明する。なお、ろう材3の形態は、第1の実施形態で説明したものと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0043】
第2の実施形態に係るろう付け方法は、接合すべき二つの部材1,2を突き合わせて部材1,2の突合面11,21間に空間V(図5の(b)参照)を形成し、この空間Vにフラックスを内包する粒状のろう材3を装填したうえで加熱することで(図5の(c)参照)、部材1,2を接合するものである。
【0044】
本実施形態においては、図5の(a)および(b)に示すように、部材1,2の突合面11,21が、部材1,2の突合せ部分に空間Vおよび空間Vに至る投入口Eが形成されるような形状に成形されている。つまり、本実施形態においては、部材1,2の突合面11,21のそれぞれに、突き合わせた際に空間Vとなる窪み部V1と、投入口Eとなる溝部E1とが形成されており(図5の(a)参照)、部材1,2を突き合わせた際に、その突合せ部分に空間Vと投入口Eとが形成され(図5の(b)参照)、ろう材3は、部材1,2を突き合わせた後に、投入口Eを介して空間Vに投入される。なお、投入口Eは、加熱したときにろう材3から放出されるガス(不純物)を排出するための排出口としても機能する。
【0045】
なお、このようなろう付け方法を実施するに際しては、部材1,2の組成(材質)に特に制限はなく、「ろう」となる外殻31およびフラックス32の組成を適正に選定すれば、アルミニウム、鉄、銅その他の金属(合金を含む)のほか、セラミックなどであってもよい。また、部材1,2の形状にも特に制限はない。
【0046】
また、加熱温度や加熱時間は、部材1,2の組成、寸法、形状、ろう材3の組成などに応じて設定すればよい。
【0047】
なお、仮組みされた状態の部材1,2の全体もしくは突合せ部分(接合部分)を所定温度まで昇温すると、ろう材3の外殻31(図3参照)を構成する金属およびフラックス32(図3参照)が空間Vの内部で溶融し、溶融した金属およびフラックス32は、毛細管現象によって空間Vの周囲の突合面11,21間に浸透していく。
【0048】
このようなろう付け方法によると、接合すべき二つの部材1,2の間に所定量のろう材3がピンポイントで配置されることになるため、ろう材3が無駄になることはない。また、ろう材3が粒状を呈していることから、接合すべき二つの部材1,2の突合面11,21の面積が小さい場合や突合面11,21の形状が複雑な場合であっても、確実に配置することが可能となり、ひいては、二つの部材1,2を確実にろう付けすることが可能となる。
【0049】
また、部材1,2の突合せ部分に空間Vに至る投入口Eが形成されるので、部材1,2を突き合わせて仮組みをした後であっても、部材1,2の間にろう材3を配置することが可能となる。
【0050】
また、本実施形態においては、ろう材3が転がり易い球状を呈していることから、ろう材3を確実に狭小な空間Vに装填することができる。
【0051】
なお、図5においては、部材1,2の突合面11,21のそれぞれに、空間Vとなる窪み部V1を形成したが、これに限定されることはなく、図6に示すように、一方の部材(図6では部材1)の突合面のみに空間Vとなる窪み部V1を、形成してもよい。
【0052】
なお、図6では、部材1の突合面11が凹面になっており、部材2の突合面21が凸面となっているが、このような場合には、凹面である部材1の突合面11の底部に窪み部V1を形成し、部材1の突合面11を下に向けた状態で凸面である部材2の突合面21と突き合わせ、かかる状態を保持しつつ加熱するとよい。このようにすると、空間Vの内部で溶融したろう材3が、突合面11,21間に浸透し易くなる。
【0053】
なお、図5においては、部材1,2の突合面11,21のそれぞれに、投入口Eとなる溝部E1を形成したが、これに限定されることはなく、図示は省略するが、投入口Eとなる溝部を、一方の部材(部材1,2のどちらでもよい)の突合面のみに形成してもよい。
【0054】
また、図5においては、部材1,2を突き合わせた際に投入口Eが形成される構成を例示したが、これに限定されることはなく、図6に示すように、一方の部材1の一面から空間Vとなる窪み部V1に至る貫通孔E2を形成しておき、これを投入口Eとしてもよい。
【0055】
また、図5においては、部材1,2の突合面11,21の略中央に空間Vが形成される構成を例示したが、これに限定されることはなく、図7に示すように、空間Vが、部材1,2の突合面11,21の略全幅に亘って形成されるものであってもよい。このようにすると、溶融したろう材3を突合面11,21の全体に行き渡らせることが可能となる。
【0056】
また、図5においては、部材1,2の突合せ部分に管路状の投入口Eが形成される場合を例示したが、これに限定されることはなく、図7に示すように、上面視して長方形(長孔状)を呈する投入口Eが、部材1,2の突合面11,21の略全幅に亘って形成されるものであってもよい。このようにすると、ろう材3を投入し易くなる。
【0057】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係るろう付け方法を、図8の(a)〜(c)を参照して詳細に説明する。なお、ろう材3の形態は、第1の実施形態で説明したものと同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0058】
第3の実施形態に係るろう付け方法は、接合すべき二つの部材1,2を突き合わせて突合せ部分の上部に沿って凹部Dを形成し(図8の(b)参照)、この凹部Dにフラックスを内包する粒状のろう材3を載置したうえで加熱することで(図8の(c)参照)、部材1,2を接合するものである。
【0059】
本実施形態においては、部材1,2の突合面11,21のそれぞれに、突き合わせた際に凹部Dとなる段部D1が形成されており、部材1,2を突き合わせた際に、その突合せ部分に凹部Dが形成される。
【0060】
なお、このようなろう付け方法を実施するに際しては、「ろう」となる外殻31およびフラックス32の組成を適正に選定すれば、部材1,2の材質(組成)に特に制限はなく、アルミニウム、鉄、銅その他の金属(合金を含む)のほか、セラミックなどであってもよい。また、部材1,2の形状にも特に制限はない。
【0061】
また、加熱温度や加熱時間は、部材1,2の組成、寸法、形状、ろう材3の組成などに応じて設定すればよい。
【0062】
なお、仮組みされた状態の部材1,2の全体もしくは突合せ部分(接合部分)を所定温度に加熱すると、ろう材3の外殻31を構成する金属およびフラックス32が凹部Dの内部で溶融し、溶融した金属およびフラックス32は、毛細管現象によって突合面11,21間に浸透していく。なお、加熱する際に凹部Dの両端を塞いでおくと、溶融したろう材3が突合面11,21間に浸透し易くなる。
【0063】
このようなろう付け方法によると、接合すべき二つの部材1,2の間にろう材3がピンポイントで配置されることになるため、ろう材3が無駄になることはない。また、ろう材3が粒状を呈していることから、接合すべき二つの部材1,2の突合面11,21の面積が小さい場合や突合面11,21の形状が複雑な場合であっても、確実に配置することが可能となり、ひいては、二つの部材1,2を確実にろう付けすることが可能となる。さらに、ろう材3にフラックス32を内包させているため、フラックス32を付着させる作業が不要になるとともに、フラックス32が行き渡らないという不具合が発生することもない。
【0064】
また、部材1,2の突合せ部分に凹部Dが形成されるので、部材1,2を突き合わせて仮組みをした後であっても、部材1,2の間にろう材3を配置することが可能となる。
【0065】
なお、図8においては、部材1,2の突合面11,21のそれぞれに、凹部Dとなる段部D1を形成したが、これに限定されることはなく、図示は省略するが、凹部Dとなる段部D1を、一方の部材の突合面のみに形成してもよい。
【0066】
また、図8においては、凹部Dが、部材1,2の一方の端縁から他方の端縁まで連続して形成される構成を例示したが、これに限定されることはなく、例えば、図示は省略するが、部材1,2の略中央のみに凹部が形成される構成であってもよいし、部材1,2の突合せ部分の上部に沿って複数の凹部が断続的に形成される構成であっても差し支えない。
【0067】
(ろう材の変形例1)
前記した各実施形態においては、ろう材3の外殻31が一種類の合金で構成されている場合を例示したが、このほか、図9に示すろう材5の外殻51のように、積層された複数種類の合金で構成されているものであってもよい。
【0068】
より詳細には、例えば、接合すべき部材1,2(図1参照)がアルミニウム製またはアルミニウム合金製である場合には、Al−Si系合金層51aにCu層51bを積層してなる中空の外殻51と、この外殻51の内部に充填されたフラックス52とでろう材5を構成するとよい。なお、外殻51は、加熱前にはAl−Si系合金層51aとCu層51bとに分かれているが、加熱時に溶融してAl−Cu−Si系合金になるので、SiおよびCuの比率が前記した数値範囲(Cuを22〜37質量%、Siを3〜12質量%)にあれば、530〜560℃の低い温度範囲でのろう付けが可能となり、部材1,2がAl−Si系合金で構成される鋳造製品であっても、これをろう付けすることが可能となる。なお、フラックス52は、フッ化セシウムを含むフッ化物系の非腐食性フラックスであることが望ましい。
【0069】
ろう材5は、例えば、図示は省略するが、Al−Si系合金層にCu層を積層してなる中空の鞘の内部に粉末状のフラックスを充填してなる線状部材を切断することにより簡単に製造することができる。
【0070】
なお、線状部材は、Al−Si系合金板とCu板を積層して圧延することで得られた板状のクラッド材を丸棒に巻き付けて管状に成形したうえで、その一方の端部を潰すなどして閉塞し、その後、他方の端部から粉状のフラックスを充填し、他方の端部を潰すなどして閉塞することで製造することができる。ここで、Al−Si系合金板としては、Si含有量が5〜15質量%の範囲にあるJIS4000系合金板(例えば、A4343、A4045、A4047、4N43、4N45など)を用いることができる。また、Cuの比重が8.9でAl−Si系合金の比重が2.7であるから、クラッド材の断面積に対するCu板の断面積を8〜15%とすれば、鞘(外殻51)の質量に対するCu層の質量が、22〜37質量%となる。
【0071】
なお、図4に示すろう材5では、外側をAl−Si系合金層51aとし、内側をCu層51bとしたが、内側をAl−Si系合金層51aとし、外側をCu層51bとしてもよい。また、図示は省略するが、Al−Si系合金層の両側にCu層を設けて三層構造としてもよいし、Cu層の両側にAl−Si系合金層を設けて三層構造としてもよい。Al−Si系合金層51aとCu層51bとにより「ろう」となる外殻51を形成すると、Al−Cu−Si系合金で外殻を形成したものと比較して成形が容易になる。
【0072】
(ろう材の変形例2)
接合すべき部材1,2(図1参照)がアルミニウム製またはアルミニウム合金製である場合であっても、固層温度が比較的高い純アルミニウム系(1000系)、Al−Mn系(3000系)、Al−Mg−Si系(6000系)、Mg添加量の少ないAl−Mg系(5000系)である場合には、ろう材3の外殻31として、Al−Si系合金(JIS4000系合金)を使用することもできる。
【0073】
なお、外殻31がAl−Si系合金である場合には、フラックス32として、NaCl−KCl−LiCl系のアルカリ金属塩を主成分とし、これにNaF、KFおよびAlF3などのフッ化物あるいはZnCl2を少量添加してなるものや、フッ化物を主成分としたもの(フッ化物系非腐食性フラックス)などを使用することができる。
【0074】
(ろう材の変形例3)
前記した各実施形態においては、ろう材3の外殻31の外面を転がり易い球状に成形したが、その用途によっては、転がり難い形状に成形してもよい。例えば、図10に示すろう材6のように、外殻61を扁平状(タブレット状)に成形すると、ろう材6が転がり難くなることから、その取り扱いが容易になる。このようなろう材6は、例えば、球形のろう材を押し潰して平坦な面を形成することにより得ることができる。なお、ろう材6を前記した空間V(図5参照)に装填する際には、必要に応じて、振動を与えるとよい。
【0075】
(ろう材の変形例4)
また、図11に示すろう材7のように、外殻71の外面に非球面部71aを形成してもよい。このようなろう材7も、転がり難くなることから、その取り扱いが容易になる。なお、ろう材7は、例えば、図11の(b)に示すように、中空の鞘73の内部にフラックス72を充填してなる線状部材7’を押し潰しつつ切断することで簡単に得ることができる。なお、非球面部71aの形態は、図示のものに限定されることはなく、突起状や鍔状の形態であってもよい。
【0076】
(その他)
なお、ろう材の外殻およびフラックスの組成は、前記した各実施形態で例示したものに限らず、接合すべき部材1,2の材質(組成)に合わせて変更しても差し支えない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るろう付け方法を説明するための図であって、(a)は二つの部材を突き合わせる前の状態を示す斜視図、(b)は二つの部材を突き合わせた状態を示す側断面図、(c)はろう付け後の状態を示す側断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るろう付け方法の変形例を説明するための図であって、(a)は二つの部材を突き合わせる前の状態を示す側断面図、(b)は二つの部材を突き合わせた状態を示す側断面図、(c)はろう付け後の状態を示す側断面図、(d)は(c)の部分拡大図である。
【図3】本発明に係るろう材を示す断面図である。
【図4】ろう材の製造方法を説明するための模式図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係るろう付け方法を説明するための図であって、(a)は二つの部材を突き合わせる前の状態を示す斜視図、(b)は二つの部材を突き合わせた状態を示す斜視図、(c)は空間内にろう材を装填した状態を示す側断面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係るろう付け方法の変形例を説明するための図であって、(a)は二つの部材を突き合わせる前の状態を示す斜視図、(b)は空間内にろう材を装填した状態を示す側断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係るろう付け方法のさらに他の変形例を説明するための図であって、(a)は二つの部材を突き合わせる前の状態を示す斜視図、(b)は二つの部材を突き合わせた状態を示す斜視図、(c)は空間内にろう材を装填した状態を示す側断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態に係るろう付け方法を説明するための図であって、(a)は二つの部材を突き合わせる前の状態を示す斜視図、(b)は二つの部材を突き合わせた状態を示す斜視図、(c)は凹部にろう材を載置した状態を示す側断面図である。
【図9】本発明に係るろう材の変形例を示す断面図である。
【図10】本発明に係るろう材のさらに他の変形例を示す斜視図である。
【図11】(a)は本発明に係るろう材のさらに他の変形例を示す断面図、(b)は(a)に示すろう材の製造方法を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0078】
1,2 部材
11,21 突合面
3,5,6,7 ろう材
3’ 線状部材
31,51,61,71 外殻
32,52,72 フラックス
33,73 鞘
51a Al−Si系合金層
51b Cu層
71a 非球面部
V 空間
E 投入口
D 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合すべき二つの部材の間にフラックスを内包する粒状のろう材を配置したうえで加熱するろう付け方法。
【請求項2】
接合すべき二つの部材を突き合わせて前記両部材間に空間を形成し、当該空間にフラックスを内包する粒状のろう材を装填したうえで加熱するろう付け方法。
【請求項3】
少なくとも一方の前記部材に、前記空間に至る少なくとも一箇所の投入口を形成することを特徴とする請求項2に記載のろう付け方法。
【請求項4】
前記両部材の突合せ部分に前記空間に至る投入口が形成されるような形状に前記両部材の突合面を成形しておくことを特徴とする請求項2に記載のろう付け方法。
【請求項5】
前記空間および前記投入口を、前記両部材の突合面の略全幅に亘って形成することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のろう付け方法。
【請求項6】
接合すべき二つの部材を突き合わせて突合せ部分の上部に沿って凹部を形成し、当該凹部にフラックスを内包する粒状のろう材を載置したうえで加熱するろう付け方法。
【請求項7】
粒状に成形されたろう材であって、
金属からなる中空の外殻と、当該外殻の内部に充填されたフラックスとを有することを特徴とするろう材。
【請求項8】
粒状に成形されたろう材であって、
Al−Cu−Si系合金からなる中空の外殻と、当該外殻の内部に充填されたフッ化セシウムを含むフッ化物系の非腐食性フラックスとを有することを特徴とするろう材。
【請求項9】
粒状に成形されたろう材であって、
Al−Si系合金層にCu層を積層してなる中空の外殻と、当該外殻の内部に充填されたフッ化セシウムを含むフッ化物系の非腐食性フラックスとを有することを特徴とするろう材。
【請求項10】
前記外殻の外面に非球面部が形成されていることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のろう材。
【請求項11】
前記外殻が扁平状に成形されていることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のろう材。
【請求項12】
前記外殻の外面が球面状に成形されていることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のろう材。
【請求項13】
粒状のろう材を製造する方法であって、
金属からなる中空の鞘の内部にフラックスを充填してなる線状部材を切断して形成することを特徴とするろう材の製造方法。
【請求項14】
粒状のろう材を製造する方法であって、
Al−Si系合金層にCu層を積層してなる中空の鞘の内部にフッ化セシウムを含むフッ化物系の非腐食性フラックスを充填してなる線状部材を切断して形成することを特徴とするろう材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−320929(P2006−320929A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145632(P2005−145632)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)