説明

ろ過チューブを使用した溶液のろ過方法、溶液中の溶剤の回収方法および溶液のろ過、回収方法に使用する攪拌脱泡装置、該装置に装着するアダプター

【課題】ろ過チューブを使用して溶液のろ過を行う際に、ろ過部の目詰まりを防ぐ。
【解決手段】溶液の封入された封入容器と、該溶液をろ過するろ過部と、ろ過された液体を収容する収容容器とから構成されたろ過チューブを公転軸側に傾斜した自転軸と同軸上に封入容器側を上方にして設けた後、前記ろ過チューブに公転及び自転による回転作用を付与することにより、封入容器内で溶液を攪拌しながらろ過部で溶液中の溶剤と液体とをろ過する。これにより、溶液中の溶剤がろ過部に付着するのを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろ過チューブを用いて溶液のろ過を行うろ過チューブを使用した溶液のろ過方法、溶液中の溶剤の回収方法および溶液のろ過、回収方法に使用する攪拌脱泡装置、該装置に装着するアダプターに関するものである。
【技術の背景】
【0002】
ろ過チューブは主として、培養用、採血用、試薬用等の溶液を溶液に混入された溶剤と液体とにろ過するのに使用する実験用消耗品であり、用途に応じて材質(例えば、ポリスチレン・ポリプロピレン・ポリエチレン・ガラス)や、形状や長さ(例えば、約1.0〜50.0mm)を選択することができる。また、ろ過チューブを同時にアダプターに保持して使用することで、同時に多数の多検体の処理が可能であり試験効率は非常に向上する。
【0003】
ろ過チューブの一例して、通称限外ろ過チューブ20と呼ばれるろ過チューブについて説明する。
限外ろ過チューブ20は、溶液を封入する封入容器21(リザーパー)と、該封入容器21の一端側近傍に設けられたろ過部22と、該ろ過部22に着脱自在に設けられたろ過された液体を収容する収容容器23(ろ液カップ)と、前記封入容器21(リザーパー)の他端側に着脱可能に装着された溶剤を回収するための回収用カップ24とから構成されている(図1参照)。
【0004】
上記限外ろ過チューブ20を使用して溶液をろ過する場合は、遠心装置を使用して行う。先ず、回収用カップ24を外して溶液を封入容器21に封入し回収用カップ24を装着した後、ろ過部22方向に向かって遠心力がかかるように遠心装置に設置する。そして、遠心装置を作動することにより限外ろ過チューブ20のろ過部22側に遠心力をかけて封入容器21内の溶液をろ過部22側へ押圧して溶液中の溶剤と液体とをろ過部22でろ過し、液体を収容容器23に収容し、ろ過部22の網目より大きな溶剤をろ過部22部およびろ過部22近傍に残留する。
【0005】
その後、限外ろ過チューブ20を遠心装置より取り外して、液体の収容された収容容器23を取り外し、前記限外ろ過チューブ20をろ過とは逆向きに遠心装置に設置する。そして、再度遠心装置を作動することにより限外ろ過チューブ20のろ過部22およびろ過部22近傍に残留した溶剤を遠心力を利用して回収用カップ24に回収する。
このように従来は遠心力を利用して溶液中の溶剤と液体とをろ過していた。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の方法によりろ過チューブで溶液をろ過する場合は、封入容器のろ過部に溶剤が溜まる又は封入容器内のろ過部近傍の溶液部分の溶剤の混入比率が高くなり、溶液のろ過効率が著しく悪くなる。このため、遠心装置を一旦停止してろ過チューブを取り出して手作業で封入容器内の溶液を混ぜたり、ろ過部に付着した溶剤を取り除いて目詰まりを排除したりした後、再度遠心装置を作動しなければならず、作業効率が悪いという欠点があった。
【0007】
また、ろ過部に付着した溶剤を手作業で取り除いたりするために、溶液のろ過の再現性が悪く、培養用、採血用、試薬用等精度を必要とする用途としては使用に適さないという問題点があった。
【0008】
また、溶剤の回収作業においても、遠心力だけを使用しての回収では、ろ過部に付着した溶剤(特に、粘度ある溶剤)の回収が十分にできないという欠点があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決すべく溶液のろ過が適切に行うことができ、溶液中の溶剤の回収が適切に行うことのできるろ過チューブを使用した溶液のろ過方法、溶液中の溶剤の回収方法、該溶液のろ過、回収方法に使用する攪拌脱泡装置および該装置に装着するアダプターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は上記のような課題を解決するために、第1の解決手段として請求項1に記載のように、溶液の封入された封入容器と、該溶液をろ過するろ過部と、ろ過された液体を収容する収容容器とから構成されたろ過チューブを公転軸側に傾斜した自転軸と同軸上に封入容器側を上方にして設けた後、ろ過チューブに公転及び自転による回転作用を付与することにより、封入容器内で溶液を均一状態に攪拌しながらろ過部で溶液中の溶剤と液体とをろ過することを特徴とする。
【0011】
また、第2の解決手段は、請求項1で溶液をろ過した後、液体の収容された収容容器を取り外した前記ろ過チューブを自転軸と同軸上に封入容器側を下方にして設け、ろ過チューブに公転及び自転による回転作用を付与することにより、封入容器内に残存及びろ過部に付着した溶剤をそれぞれ離反させながら封入容器の下端側に回収することを特徴とする。
【0012】
上記各方法に使用する装置は、公転駆動するアーム体と、該アーム体に自転するように設けられた略円筒状の回転容器受けとからなる攪拌脱泡装置において、前記容器受けには、ろ過チューブを保持する保持部が装着されていることを特徴とする。
【0013】
また、上記装置に装着するアダプターは、公転駆動するアーム体と、該アーム体に自転するように設けられた略円筒状の回転容器受けとからなる攪拌脱泡装置の当該回転容器受けに着脱可能なアダプターであって、ろ過チューブを保持する保持部を装着可能なことを特徴とする。
【発明の作用及び効果】
【0014】
次に、上記のようなろ過チューブを使用した溶液のろ過方法、溶液中の溶剤の回収方法、および溶液のろ過、回収方法に使用する攪拌脱泡装置、該装置に装着するアダプターの作用効果について説明する。
【0015】
先ず、ろ過チューブの封入容器に溶液を封入し、該封入容器側を上方して攪拌脱泡装置の公転駆動するアーム体に自転するように設けられた容器受けに着脱可能なアダプターを介して公転軸側に傾斜した自転軸と同軸上に設けた後、前記攪拌脱泡装置を作動して前記ろ過チューブに公転及び自転による回転作用を付与する。これにより、封入容器内の溶液に上下方向、左右方向の渦流を起こして該溶液を均一状態に攪拌しながら遠心力を利用して該溶液をろ過部側に押圧することで、溶液中の溶剤と液体とをろ過し、ろ過部でろ過された液体のみを収容容器に収容する。この際、ろ過部で残留した溶剤を攪拌作用により残りの溶液といっしょに攪拌しながら再度ろ過することにより、ろ過部に溶剤が付着することを阻止することができ、溶液を最後まで連続してろ過することができる。
【0016】
その後、液体のみが収容された収容容器をろ過チューブより取り外し、該ろ過チューブを攪拌脱泡装置の容器受けにアダプターを介して再度装着し攪拌脱泡装置を作動して前記ろ過チューブに公転及び自転による回転作用を付与することにより、封入容器内に残存及びろ過部に付着した溶剤を自転による回転と遠心力とによりそれぞれ離反させながら封入容器の下端側に回収することで、封入容器及びろ過部に付着した溶剤を回収することができる。
【0017】
このように、本発明は封入容器内の溶液を均一状態に攪拌しつつ、ろ過部方向にかかる遠心力を利用して前記溶液の収容容器へのろ過工程を行うことで、溶剤がろ過部で留まって目詰まりを起こすことなく液体のみを確実にろ過することができる。従って、従来必要であった手作業によるろ過部に留まった溶剤の除去作業が不要となり、作業工程の簡略化、作業効率の向上を図ることが可能となる。
【0018】
また、ろ過部に付着した溶剤及びろ過部近傍に残留した溶剤を回収することができるので、溶剤の回収効率を格段に向上することができ、精度の高い実験用等として広い範囲での利用が可能となる。
【好ましい実施の態様】
【0019】
以下、本発明の実施の態様を、図面に従って説明する。図1は本発明の一実施例であるろ過チューブの攪拌及びろ過状態を示す概略説明図であり、図2は攪拌脱泡装置を利用しての公転及び自転の回転状態を示す概略説明図であり、図3はろ過チューブに攪拌及び遠心力を付与するための攪拌脱泡装置を示す概略説明図であり、図4はろ過チューブの設けられたプレート保持部を装着したたアダプターを示す概略説明側面図を示し、図5はアダプターを示す概略説明正面図を示し、図6はろ過する場合のろ過チューブの装着状態を示す概略説明一部断面図であり、図7は溶剤を回収する場合のろ過チューブの装着状態を示す概略説明一部断面図である。
【0020】
本発明に使用する限外ろ過チューブ20は、溶液を封入する円筒状の封入容器21(通称リザーパー)と、該封入容器21の一端側又は一端側近傍に設けられ目的に応じた大きさの網目を有するろ過部22と、該ろ過部22に着脱自在に設けられた円筒状のろ過された液体を収容する収容容器23(通称ろ液カップ)と、前記封入容器21の他端側に装着され残存した溶剤を回収するための回収用カップ24とから構成されている。
【0021】
上記限外ろ過チューブ20を使用して溶液をろ過する方法は、限外ろ過チューブ20を封入容器21を上方にして自転軸B上に設置し、前記限外ろ過チューブ20に公転及び自転による回転作用を付与することにより、封入容器21内で溶液を均一状態に攪拌しながらろ過部22で溶液中の溶剤と液体とをろ過する方法である。
【0022】
そして溶液をろ過した後、液体の収容された収容容器23を取り外した限外ろ過チューブ20を自転軸B上に封入容器21側を下方にして設け、前記限外ろ過チューブ20に公転及び自転による回転作用を付与することにより、封入容器21内に残存及びろ過部22に付着した溶剤をそれぞれ離反させながら封入容器21の下端側に収容する溶剤の収容方法である。
【0023】
次に、上記限外ろ過チューブ20に自転及び公転を与えるための、攪拌脱泡装置1について説明する。
攪拌脱泡装置1は、下端側に設けられた公転用の駆動モーター2に連動されて公転駆動する逆アーチ状(両端側が公転軸A側に所定の角度で傾斜して形成)のアーム体3と、該アーム体3の両端側近傍に回転自在に設けられた一対の容器受け4と、該容器受け4に載置する上部開口で略円筒状の容器5とから構成された装置本体6と、該装置本体6を内装するチャンバ7とから構成されている。
【0024】
前記駆動モーター2とアーム体3との伝達手段は、アーム体3の下端縁部に設けられた歯車と、モーター軸に設けられた歯車との螺合で動力を伝達する方法や、モーター軸に直接アーム体3を取り付けることも可能であり、またモーター軸とアーム体3とをベルトを介して伝動することも可能である。
【0025】
前記アーム体3は、アーム体3を歯車の設けられたドラム部分と、内側に折曲されたアーチ状で容器受け4の設けられた取付部分とから形成されている。
【0026】
前記容器受け4は、アーム体3の取付部分に回転自在に設けられた支軸8に固定されている。
【0027】
前記容器受け4の伝達手段は、特に限定されるものでないが、例えば、前記支軸8の下方側で外嵌固定されたプーリーと、ドラム部に固着された歯車の上方でベアリング(公転・自転カットベアリイグ機構)を介して回転自在に外嵌された中継プーリーとをベルトを介して伝達する方法が一般的に使用されている。
【0028】
前記容器受け4には、限外ろ過チューブ20の設けられたプレート保持部11がアダプター12を介して自転軸Bと同軸上になるように装着されている。尚、アダプター12を設けることは必須の条件ではなく、容器受け4の内壁の形状またはプレート保持部11の外周の形状をそれぞれ相応するように形成(例えば、容器受け4の内壁の形状を矩形状に、またはプレート保持部11の外周の形状を円形状に形成)することで、直接容器受け4にプレート保持部11を装着することも可能である。
【0029】
前記プレート保持部11は、立設状態で複数の限外ろ過チューブ20を保持すべく複数の孔13の設けられた矩形板状に形成され、前記アダプター12の矩形状の凹部12Aに積層状態で装着可能である。
【0030】
次に、上記構成の攪拌遠心装置1を使用して、限外ろ過チューブ20で溶液をろ過する場合および溶液中の溶剤(例えばたんぱく質)を回収する場合について説明する。
【0031】
先ず、限外ろ過チューブ20の封入容器21に溶液を封入した後、容器受け4に設けられたプレート保持部11の孔13に封入容器21を上方にしてそれぞれ装着する。
【0032】
そして、攪拌脱泡装置1を作動することでアーム体3を公転駆動するとともに容器受け4を自転駆動することで、プレート保持部11の孔13に設けられた限外ろ過チューブ20に自転及び公転による回転作用を付与する。これにより、封入容器21内の溶液に上下方向及び左右方向の渦流を起こし、該渦流により溶液を攪拌する。しかも、攪拌されている溶液に遠心力を連続して付与することにより、溶液をろ過部22に押しつけながら溶剤をろ過して液体のみを収容容器23に収容する。即ち、ろ過された溶剤を残りの溶液中に再度混入しながら溶液中で攪拌(収容された液体の量が増えるに従って溶液の溶剤の混入比率は高くなる)して再度、溶液をろ過部22に押しつけながら溶剤をろ過して液体のみを収容する工程が連続して行われることとなり、従来のようにろ過部22に付着したり目詰まりしたりすることがない。
【0033】
その後、液体の収容された収容容器23を取り外した後、限外ろ過チューブ20を逆方向、即ち封入容器21を下方にして保持プレート保持部11の孔13に装着して、前記と同様に攪拌脱泡装置1を作動して、限外ろ過チューブ20に自転及び公転による回転作用を付与して封入容器21内に残存した溶剤およびろ過部22に付着した溶剤を回転により離脱しやすくするとともに遠心力により回収用カップ24側に押し込むことで、従来の遠心力のみの付与に比し回収用カップ24に高い比率で溶剤を回収することができる。
【0034】
このように、本発明のろ過方法は、従来のように溶剤がろ過部22に付着して目詰まりすることなく、連続して溶液をろ過することができるので、そのろ過の作業工程を簡略化することができ、作業効率が格段に向上することができる。
【0035】
また、ろ過された溶剤の回収率も従来に比し格段に向上することができるので、培養用、採血用、試薬用等として幅広く利用することができる。
【0036】
また、上記実施例では、ろ過チューブとして限外ろ過チューブを使用したが、本発明においてろ過チューブは限外ろ過チューブに限定されるものでなくろ過部が設けられたチューブであれば、ろ過チューブの種類は特定されるものでない。
【0037】
また、上記実施例において、特に公転、自転の回転数は特に限定していないが、ろ過の工程において、溶液中の溶剤の混入比率に応じて回転数を上げるように設定することも可能である。
【0038】
また、上記実施例では、溶液の攪拌と同時に溶液をろ過部へ押圧すべく遠心力をかけるべく作用したが、本発明において溶液の攪拌とろ過部への遠心力による押圧は交互に作用することも可能である。
【0039】
また、上記実施例では、公転に対しての自転の回転方向は逆方向としたが、本発明において公転に対しての自転の回転方向は特に限定するものでなく、自転の回転方向を一定間隔で変更すべく設定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】は、本発明の一実施例であるろ過チューブの攪拌及びろ過状態を示す概略説明図。
【図2】は、攪拌・遠心装置を利用しての公転及び自転の回転状態を示す概略説明図。
【図3】は、ろ過チューブに攪拌及び遠心力を付与するための攪拌遠心装置を示す概略説明図。
【図4】は、ろ過チューブの設けられたプレート保持部を装着したたアダプターを示す概略説明側面図。
【図5】は、アダプターを示す概略説明正面図。
【図6】は、ろ過する場合のろ過チューブの装着状態を示す概略説明一部断面図。
【図7】は、溶剤を回収する場合のろ過チューブの装着状態を示す概略説明一部断面図。
【符号の説明】
【0041】
3…アーム体、4…容器受け、5…容器、6…装置本体、20…ろ過チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液の封入された封入容器と、該溶液をろ過するろ過部と、ろ過された液体を収容する収容容器とから構成されたろ過チューブを公転軸側に傾斜した自転軸と同軸上に封入容器側を上方にして設けた後、前記ろ過チューブに公転及び自転による回転作用を付与することにより、封入容器内で溶液を攪拌しながらろ過部で溶液中の溶剤と液体とをろ過することを特徴とするろ過チューブを使用した溶液のろ過方法。
【請求項2】
請求項1で溶液をろ過した後、液体の収容された収容容器を取り外したろ過チューブを自転軸と同軸上に封入容器側を下方にして設け、前記ろ過チューブに公転及び自転による回転作用を付与することにより、封入容器内に残存及びろ過部に付着した溶剤をそれぞれ離反させながら封入容器の下端側に回収することを特徴とするろ過チューブを使用した溶液中の溶剤の回収方法。
【請求項3】
公転駆動するアーム体と、該アーム体に自転するように設けられた略円筒状の回転容器受けとからなる攪拌脱泡装置において、前記容器受けには、ろ過チューブを保持する保持部が装着されていることを特徴とする攪拌脱泡装置。
【請求項4】
公転駆動するアーム体と、該アーム体に自転するように設けられた略円筒状の回転容器受けとからなる攪拌・脱泡装置の当該回転容器受けに着脱可能なアダプターであって、ろ過チューブを保持する保持部を装着可能なことを特徴とするアダプター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−326564(P2006−326564A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181193(P2005−181193)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(591222876)株式会社アイ・ケイ・エス (8)
【出願人】(504203147)▲榊▼電業株式会社 (2)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】