説明

アイドルストップ車の制御装置

【課題】機械式ポンプによりベルト式CVTの動作液圧を形成するアイドルストップ車において、力センサを用いた車両の駆動力(クリープ力)の検出や、エンジンの回転速度から駆動力の検出を行なうことなく、エンジンの再始動時にヒルスタートコントロールのブレーキ力の解除を、ブレーキの引きずりや車両のずり下がりのない適切なタイミングで行う。
【解決手段】所定の停止条件が成立してアイドルストップ車1のエンジンが自動停止すると、この自動停止により駆動力が低下している場合にソレノイドバルブ群8のブレーキ液圧制御バルブ8a、8bがブレーキ力の付与を開始する。また、タイマ13bによりエンジンの自動停止から少なくとも所定の再始動条件が成立するまでの時間を計時する。そして、エンジンが再始動すると、タイマ手段13bが計時した時間に応じたタイミングで制御ユニット13によりブレーキ力の付与を解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、機械式ポンプによりベルト式無段変速機の動作液圧を形成し、所定の停止条件の成立によりエンジンを自動停止し、所定の再始動条件の成立により前記エンジンを再始動するアイドルストップ車の制御装置に関し、詳しくは、エンジンを再始動する際の車両のずり下がりの防止に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)を有する車両においては、低燃費化を図るため、アイドルストップ機能を付加してアイドルストップ車に形成したものがある。このアイドルストップ車は、信号待ち等で停止するときに、ブレーキペダルが踏まれている等の所定の停止条件が成立することを条件に自動的にエンジンを停止する。また、自動停止中にブレーキペダルからアクセルペダルに踏みかえられる等の一定の再始動条件が成立することにより、自動的にエンジンを再始動する。
【0003】
ところで、ベルト式CVTを有する車両においては、エンジン出力で動作する機械式ポンプ(機械式オイルポンプ)を備えると、エンジンが自動停止したときに、機械式ポンプの動作が停止し、ベルト式CVTの動作液圧、換言すれば、CVTベルトのベルト挟圧が低下してクラッチが切れた状態となる。この状態になると、エンジンの再始動時にクラッチミートタイミングが遅くなり、発進遅れが生じたり、CVTベルトのベルトすべり等の不具合が発生する。
【0004】
そこで、この種のアイドルストップ車においては、エンジンの再始動後もCVTベルトを挟圧し続けるための電動ポンプ(電動オイルポンプ)を追加することが提案されているが、この場合は、高価な電動ポンプの追加が必要になる。
【0005】
また、電動ポンプを追加しないで、エンジン内のクラッチ液圧(前記動作液圧)が低下しにくくなるように液漏れ(オイル漏れ)の防止対策を施すことも提案されている。この場合、電動ポンプは不要であるが、エンジンの自動停止から再始動までのアイドルストップ持続時間に応じて液漏れの量が徐々に多くなり、エンジンの再始動時のクラッチミートタイミングが遅くなる。すなわち、エンジンの再始動時のクラッチミートタイミングがアイドルストップ持続時間に応じて変化する。そのため、クリープ力との兼ね合いで決まる坂道等でのヒルスタートコントロール(ヒルスタートアシスト)のブレーキ力の最適な制御が困難になり、坂道等でのエンジンの再始動時に、ブレーキがかかった状態で走行するブレーキの引きずりや車両のずり下がりが発生する可能性がある。
【0006】
そして、機械式ポンプにより自動変速機の動作液圧を形成するアイドルストップ車において、エンジンの再始動時に、車両の駆動力(クリ−プ力)を、伝達系に配置された力センサにより検出したり、エンジンの回転速度から導き出し、ヒルスタートコントロール(ヒルホールド制御)によりブレーキ力を車両の駆動力の回復状態に合わせて減少させ、坂道等でのエンジンの再始動時に車両がずり下がらないようにすることが提案されている(例えば、特許文献1(要約書、段落[0108]−[0110]、図1、図6、図7等)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−313253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
機械式ポンプによりベルト式CVTの動作液圧を発生するアイドルストップ車において、特許文献1に記載のように、エンジンの再始動時、ブレーキ力を車両の駆動力(クリープ力)の回復状態に合わせて減少し、ブレーキの引きずりや坂道等でのアイドルストップ車のずり下がりを防止することが考えられるが、この場合、伝達系に力センサを配設してクリープ力を検出すると、高価になる問題がある。また、自動変速機としてベルト式CVTを備える場合、CVTベルトのベルト挟圧の度合等を考慮して必要なクリープ力を求める必要があるので、クリープ力をエンジンの回転速度から検出することは困難である。
【0009】
本発明は、機械式ポンプによりベルト式CVTの動作液圧を形成するアイドルストップ車において、力センサを用いた車両の駆動力(クリープ力)の検出や、エンジンの回転速度から駆動力の検出を行なうことなく、エンジンの再始動時にヒルスタートコントロールのブレーキ力の解除を、ブレーキの引きずりや車両のずり下がりのない適切なタイミングで行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明のアイドルストップ車の制御装置は、機械式ポンプによりベルト式CVTの動作液圧を形成し、所定の停止条件の成立によりエンジンを自動停止し、所定の再始動条件の成立により前記エンジンを自動的に再始動するアイドルストップ車の制御装置であって、エンジンの自動停止により駆動力が低下している場合にブレーキ力の付与を開始するブレーキ付与手段と、前記エンジンが自動停止してから少なくとも前記所定の再始動条件が成立するまでの時間を計時する計時手段と、自動停止した前記エンジンが再始動するときに前記計時手段の計時時間に基づくタイミングで前記ブレーキ付与手段のブレーキ力の付与を解除するブレーキ解除手段とを備えたことを特徴としている(請求項1)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明の場合、信号待ち等で所定の停止条件が成立してエンジンが自動停止すると、この自動停止により車両の駆動力が低下している場合にブレーキ付与手段がブレーキ力を付与するため、坂道等でアクセルペダルに踏み替えるためにドライバがブレーキペダルから足を離しても、アイドルストップ車はずり下がらない。また、計時手段によりエンジンの自動停止から少なくとも所定の再始動条件が成立するまでの時間が計時される。そして、エンジンが再始動すると、その後、計時手段が計時した時間に応じたタイミングで、ブレーキ付与手段のブレーキ力の付与が解除される。
【0012】
この場合、自動停止したエンジンが再始動するまでの時間に応じて変化するクラッチミートタイミングに合せて、ブレーキ付与手段によるブレーキ力の付与が解除されるため、力センサを用いた駆動力(クリープ力)の検出や、エンジンの回転速度から駆動力の検出を行なうことなく、エンジンの再始動時、ヒルスタートコントロールのブレーキ力の解除を、駆動力が回復するクラッチミートタイミングに合せて行なうことができる。そのため、坂道等でのアイドルストップ車のエンジンの再始動時に、ヒルスタートコントロールのブレーキ力の解除を、ブレーキの引きずりやアイドルストップ車のずり下がりが発生しない適切なタイミングで行うことができ、機械式ポンプによりベルト式CVTの動作液圧を形成するアイドルストップ車のヒルスタートの確実性等が安価かつ簡単な構成で向上する。
【0013】
なお、ブレーキ付与手段がブレーキ力の付与を開始するタイミングは、エンジンが自動停止するタイミングでもよいし、その後のエンジンを再始動するタイミングでもよいし、さらに、エンジンを再始動するためにブレーキペダルから足が離されたことによってマスタシリンダ圧が実際に低下し始めたタイミングであってもよい。要するに、エンジンの自動停止によりアイドルストップ車の駆動力が低下している場合にブレーキ付与手段がブレーキ力を付与すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態のブロック図である。
【図2】図1の動作の説明図であり、(a)はCVTの液圧例、(b)、(c)はエンジンの再始動タイミングに対するクラッチミートの液圧に上昇する時間、ブレーキ力の付与を解除する時間それぞれの変化例の説明図である。
【図3】図1の動作説明用のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明をより詳細に説明するため、一実施形態について、図1〜図3を参照して詳述する。
【0016】
図1は本発明が適用されるアイドルストップ車1のアイドルストップおよびヒルスタートに関連する構成を示し、2はブレーキペダル、3はブレーキペダル2の踏力がブレーキブースタ4を介して加わるマスタシリンダ、5はマスタシリンダ3に接続された配管、6は配管5に取り付けられた液圧センサであり、マスタシリンダ圧を検出する。7は液圧センサ6、ソレノイドバルブ群8を含むブレーキアクチュエータである。ソレノイドバルブ群8は本発明のブレーキ付与手段としてのブレーキ液圧制御バルブ8a、8bを含む複数のソレノイドバルブで構成されている。ブレーキ液圧制御バルブ8a、8bは、配管5から分枝した2系統の系統毎に設けられ、アイドルストップのヒルスタートコントロールの制御および、走行中のESCやTCSのブレーキ制御に兼用される。9FL、9FRはアイドルストップ車1の左、右の前輪シリンダ、9RL、9RRはアイドルストップ車1の左、右の後輪シリンダであり、例えばブレーキ液圧制御バルブ8aから伸びた一方の系統の配管10FL、10RRに左の前輪シリンダ9FL、右の後輪のシリンダ9RRが接続され、ブレーキ液圧制御バルブ8bから伸びた他方の系統の配管10FR、10RLに右の前輪のシリンダ9FR、左の後輪のシリンダ9RLが接続されている。
【0017】
つぎに、アイドルストップ車1はCAN(Control Area Network)等の車内ネットワーク11が配設され、車内ネットワーク11には、アイドルストップ制御ユニット(エコラン制御ユニット)12、ブレーキアクチュエータ7内のブレーキ制御ユニット13、エンジン制御ユニット14、変速機制御ユニット(CVT制御ユニット)15や、舵角センサ16、ヨーレートセンサ17、車速メータ18等のECUが接続され、それらのECUは車内ネットワーク11を介して情報をやり取りする。なお、各ECUはマイクロコンピュータで形成されている。また、エンジン制御ユニット14はエンジン(図示せず)のスロットル開度等を制御し、変速機制御ユニット15はエンジンとトルクコンバータ(図示せず)を介して接続されるベルト式CVT(図示せず)を制御する。
【0018】
つぎに、アイドルストップ制御ユニット12、ブレーキ制御ユニット13等は、通常、他のユニット等と同様に車載の12Vのバッテリ19から給電される。また、アイドルストップ制御ユニット12はバックアップ電源としての昇圧回路12aを内蔵する。そして、昇圧回路12aはエンジンが停止しているエンジンの再始動時等にバッテリ19の電源を昇圧し、エンジンの再始動等を行なうために必要なアイドルストップ制御ユニット12、ブレーキ制御ユニット13等の所要の制御ユニット等に昇圧した電源を給電する。
【0019】
また、ブレーキ制御ユニット13は内蔵したオア回路13aによりバッテリ19からの給電と昇圧回路12aからの給電の電圧の高い方を電源として選択し、選択した電源で動作する。
【0020】
したがって、バッテリ19の電圧が大きく低下する可能性があるアイドルストップのエンジンの再始動時、とくにエンジンが完爆するまでのクランキング期間においては、ブレーキ制御ユニット13は昇圧回路12aの昇圧されたバックアップ電源で給電が補償されて確実に動作し、エンジンの再始動におけるヒルスタートコントロールの制御を確実に行なう。
【0021】
アイドルストップ制御ユニット12およびブレーキ制御ユニット13について、さらに説明する。
【0022】
アイドルストップ制御ユニット12は、アイドルストップ車1の走行中等に車内ネットワーク11を介した通信に基づいて液圧センサ6が検出したマスタシリンダ圧やメータ16の車速等の情報を収集する。そして、信号待ち等をする際、アクセルペダルからブレーキペダルに踏みかえられ、車速が一定以下に低下する等の所定の停止条件(アイドルストップ条件)が成立すると、アイドルストップ制御ユニット12は車内ネットワーク11を介してブレーキ制御ユニット13、エンジン制御ユニット14にアイドルストップのエンジン停止を通知する。
【0023】
そして、ドライバがブレーキペダル2を踏むことにより、マスタシリンダ圧のブレーキ力がホイルシリンダ9FL〜9RRに付与され、アイドルストップ車1の走行が停止する。このとき、後述するエンジンの自動停止によってアイドルストップ車1の駆動力が低下するので、本実施形態の場合、エンジンが前記自動停止するタイミングでヒルスタートコントロールの制御を行なう。そして、ブレーキ制御ユニット13はソレノイドバルブ8のブレーキ液圧制御バルブ8a、8bを制御して各ホイルシリンダ9FL〜9RRのブレーキ力を保持し、各ホイルシリンダ9FL〜9RRに十分なブレーキ力を付与する。また、エンジン制御ユニット14によりエンジンの燃料スロットルが絞られてエンジンが自動停止し、アイドルストップ車1はアイドルストップの状態になる。
【0024】
その後、信号機の赤から青への変化等に基づきドライバがブレーキペダルからアクセルペダルに踏み替えることにより、ストップランプスイッチ20は点灯のオン信号から消灯のオフ信号に変化する。また、車内ネットワーク11を介した液圧センサ6の検出マスターシリンダ圧は所定圧以下に低下する。これらの両方又はいずれか一方を含むエンジンの所定の再始動条件が成立すると、アイドルストップ制御ユニット12はブレーキ制御ユニット13、エンジン制御ユニット14にエンジンの再始動を指令し、エンジン制御ユニット14の制御でエンジンが再始動する。
【0025】
一方、ブレーキ制御ユニット13は、ソフトウェア処理により、周知のABS(アンチロックブレーキシステム)の制御手段、TCS(トラクションコントロールシステム)の制御手段、ESC(横滑り防止)の制御手段、ヒルスタートコントロールの制御手段を備えるとともに、本発明の計時手段としてのタイマ13bおよび後述する本発明のブレーキ解除手段を備える。
【0026】
そして、所定の停止条件が成立してブレーキ制御ユニット13がアイドルストップのエンジン停止の通知を受信すると、タイマ13bが起動されて計時を開始する。
【0027】
ところで、所定の停止条件が成立してエンジンが自動停止すると、その出力で動作する機械式ポンプも動作を停止し、液漏れ(オイル漏れ)の防止対策を施していてもCVTの動作液圧(CVTベルトのベルト挟圧)は停止時間の経過にしたがって次第に低下する。
【0028】
図2(a)はベルト式CVTの動作液圧の低下の一例を示し、ベルト式CVTの動作液圧は、エンジンの動作中は所定圧P0であり、エンジンの停止時刻t1から次第に低下する。また、その後の時刻t2にエンジンが再始動されて機械式ポンプが動作すると、CVTの動作液圧は次第に上昇して所定圧P0に戻る。そして、図中に矢印線で示した所定圧P0と現在圧との差ΔPが大きくなる程、エンジンの再始動時、CVTの動作液圧が所定圧P0に戻るまでに時間がかかる。
【0029】
図2(b)はCVTの動作液圧がエンジンの再始動からクラッチミートの液圧に昇圧されるまでの時間のアイドルストップ持続時間に対する変化の一例を示し、アイドルストップ持続時間が長くなって再始動タイミング(時刻t2)が遅くなるにしたがって、CVTの動作液圧がクラッチミートの液圧に昇圧されるまでの時間は長くなる。
【0030】
そのため、エンジンの再始動時、所定の再始動条件の成立後エンジンが完爆回転を含むその前後の設定回転数(数百rpm)に達してから各ホイルシリンダ9FL〜9RRのバルブソレノイドを開き、ブレーキ力を解除するようにしたとしても、それまでのアイドルストップ持続時間によっては、ブレーキ力の解除がクラッチミートのタイミングから遅れ、ブレーキの引きずりが発生したり、クラッチミートのタイミングより前(すなわち駆動力(クリープ力)が回復する前)にブレーキ力が解除され、アイドルストップ車1のずり下がりが発生したりしてヒルスタートの確実性を損ねる可能性がある。
【0031】
そこで、少なくとも所定の再始動条件が成立したときに、ブレーキ制御ユニット13はタイマ13bの計時を停止し、タイマ13bによって略図2(b)の縦軸の時間を計時する。さらに、タイマ13bの計時時間に基づくタイミングをアイドルストップのブレーキ力の付与を解除するタイミングとし、このタイミングで、ブレーキ解除手段により、ソレノイドバルブ群8のブレーキ液圧制御バルブ8a、8bを減圧に制御してブレーキ液圧制御バルブ8a、8bを開き、各ホイルシリンダ9FL〜9RRに付与していたブレーキ力を解除する。
【0032】
なお、タイマ13bの計時が停止するタイミングは、所定の再始動条件が成立したタイミングであるが、場合によっては、所定の再始動条件が成立した後エンジンが前記設定回転数に達したタイミングであってもよい。
【0033】
また、ブレーキ力の付与を解除するタイミングは、所定の再始動条件の成立後エンジンが前記設定回転数に達し、さらにタイマ13bの計時時間が経過したタイミングであることが実用的で好ましいが、設計条件等によっては、所定の再始動条件の成立直後からタイマ13bの計時時間が経過したタイミングであってもよい。
【0034】
なお、エンジンの回転数は、エンジン制御ユニット14によって検出され、エンジン制御ユニット14から車内ネットワーク11を介してブレーキ制御ユニット13等に送られる。
【0035】
そして、タイマ13bの計時時間に基づくタイミングをアイドルストップのブレーキ力の付与を解除するタイミングとするため、ブレーキ制御ユニット13がマスターカットソレノイドバルブ8を減圧に制御してブレーキ力の付与を解除するタイミングは、アイドルストップ持続時間に応じて変化する。したがって、アイドルストップ持続時間が長くなっても、ブレーキ力の付与を解除するタイミングは、少なくとも所定の再始動条件の成立後、アイドルストップ持続時間に応じたタイマ13bの計時時間が経過し、再始動したエンジンの駆動力(クリープ力)が回復するクラッチミートのタイミングに合せることができる。
【0036】
図2(c)はエンジンの再始動から前記減圧の開始までの時間の再始動のタイミングに基づく変化例を示し、アイドルストップ持続時間が長くなって再始動タイミングである時刻t2が遅くなる程、エンジンの再始動から前記減圧の開始までの時間は長くなる。
【0037】
そして、ソレノイドバルブ群8のブレーキ液圧制御バルブ8a、8bを減圧に制御してブレーキ力の付与を解除するタイミングが、アイドルストップ持続時間に応じたタイミングになり、各ホイルシリンダ9FL〜9RRに付与されていたブレーキ力の解除タイミングをクラッチミートのタイミングに合せることができるため、アイドルストップ持続時間の長短によらず、ブレーキ力の解除遅れに伴うブレーキの引きずりは発生しない。また、クラッチミートのタイミングより前にブレーキ力が解除されることもないので、坂道等でのアイドルストップ車1のずり下が発生することもなく、ヒルスタートの確実性が向上する。
【0038】
図3はブレーキ制御ユニット13における上記のアイドルストップのブレーキ力の付与、解除の制御例を示し、まず、アイドルストップ車1の走行中に所定の停止条件が成立してエンジンが自動停止すると、ステップS1を肯定(YES)で通過する。そして、各ホイルシリンダ9FL〜9RRのバルブソレノイドが閉じられ、各ホイルシリンダ9FL〜9RRにブレーキ力が付与されてアイドルストップの状態になる(ステップS2)。このとき、タイマ13bの計時を開始する(ステップS3)。
【0039】
つぎに、アイドルストップ中に所定の再始動条件が成立すると、図3のステップS4を肯定(YES)で通過し、タイマ13bの計時を止め、タイマ13bの計時時間に基づいてブレーキ力の付与を解除するタイミングを決定する(ステップS5)。
【0040】
そして、決定した解除のタイミングを待ち(ステップS6の否定(NO))、解除のタイミングになるとステップS6を肯定で通過して各ホイルシリンダ9FL〜9RRのバルブソレノイドを開き、ブレーキ力の付与を解除する。なお、以降は、通常のブレーキ制御が行なわれる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の場合、ソレノイドバルブ群8のブレーキ液圧制御バルブ8a、8bが本願発明のブレーキ付与手段を形成し、ブレーキ制御ユニット13が本願発明の計時手段、ブレーキ解除手段を形成することにより、信号待ち等でアイドルストップ車1のエンジンが自動停止し、その後のエンジンの再始動時にアイドルストップ車1のずり下がりが生じる可能性がある場合に、前記自動停止に応動してブレーキ付与手段がブレーキ力を付与する。そのため、エンジンの再始動時、坂道等であってもアイドルストップ車1はずり下がらない。また、計時手段によりエンジンの自動停止から少なくとも所定の再始動条件が成立するまでの時間が計時され、エンジンが再始動すると、計時手段が計時した時間に応じたタイミングで、ブレーキ付与手段のブレーキ力の付与が解除され、エンジンが再始動するまでの時間に応じて変化するクラッチミートタイミングに合せて、ブレーキ付与手段によるブレーキ力の付与を解除することができる。
【0042】
したがって、力センサを用いた車両の駆動力(クリープ力)の検出や、エンジンの回転速度から駆動力の検出を行なうことなく、エンジンの再始動時、ヒルスタートコントロールのブレーキ力の解除を、アイドルストップ車1の駆動力(クリープ力)が回復するクラッチミートタイミングに合わせ、ブレーキの引きずりや車両のずり下がりのない適切なタイミングで行うことができ、機械式ポンプによりベルト式CVTの動作液圧を形成するアイドルストップ車のヒルスタートの確実性等を、安価かつ簡単な構成で向上することができる。
【0043】
そして、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能であり、例えば、タイマ13bによる計時の開始タイミングは、所定の停止条件が成立したタイミングであってもも、その後実際に車速がゼロになって停止したタイミングでもよい。また、タイマ13bよる計時の終了タイミングは、所定の再始動条件が成立したタイミングであっても、その後エンジンの回転数が完爆回転数を含む一定回転数に達したタイミングであってもよい。
【0044】
つぎに、ブレーキ力の付与を開始するタイミングは、前記実施形態のようにエンジンの自動停止のタイミングに限るものではなく、エンジンの停止中はドライバがブレーキペダルを踏み続けることを考慮して、エンジンの再始動条件が成立したタイミング、再始動条件の成立後にブレーキペダルから足が離されたことによって実際にブレーキ液圧が下がり始めたタイミング等であってもよく、要するに、駆動力の低下(発生前を含む)によるアイドルストップ車1のずり下がりを防止できるタイミングであればよい。また、ブレーキ力の付与を解除するタイミングは、所定の再始動条件が成立したタイミングからタイマ13bの計時時間遅らせたタイミングとしてもよく、所定の再始動条件が成立した後エンジンの回転数が前記一定回転数に達したタイミングからタイマ13bの計時時間遅らせたタイミングとしてもよい。そして、これらのタイミングは、実験等に基づいて最も最も好ましいものを設定すればよい。
【0045】
また、車内ネットワーク11に接続される制御ユニット等の種類や数はどのようであってもよく、車内ネットワーク11はCANに限るものではない。さらに、ブレーキアクチュエータ7やシリンダ9FL〜9RRの配管構成等もどのようであってもよい。
【0046】
そして、本発明は、機械式ポンプによりベルト式無段変速機の動作液圧を形成する種々のアイドルストップ車に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 アイドルストップ車
8 ソレノイドバルブ群
8a、8b ブレーキ液圧制御バルブ
12 アイドルストップ制御ユニット
13 ブレーキ制御ユニット
13b タイマ
14 エンジン制御ユニット
15 変速機制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械式ポンプによりベルト式無段変速機の動作液圧を形成し、所定の停止条件の成立によりエンジンを自動停止し、所定の再始動条件の成立により前記エンジンを自動的に再始動するアイドルストップ車の制御装置であって、
前記エンジンの自動停止により駆動力が低下している場合にブレーキ力の付与を開始するブレーキ付与手段と、
前記エンジンが自動停止してから少なくとも前記所定の再始動条件が成立するまでの時間を計時する計時手段と、
自動停止した前記エンジンが再始動するときに前記計時手段の計時時間に基づくタイミングで前記ブレーキ付与手段のブレーキ力の付与を解除制御するブレーキ解除手段とを備えたことを特徴とするアイドルストップ車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−149279(P2011−149279A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8839(P2010−8839)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】