説明

アイドルストップ車の制御装置

【課題】ブレーキの液圧センサのゼロ点ドリフトによりその出力値が高めになり、かつ、ブレーキスイッチがON固着したときにも、低コストの構成でアイドルストップしたエンジンを再始動できるようにする。
【解決手段】ブレーキスイッチ17がオン固着し、かつ、ゼロ点ドリフトによってブレーキの液圧センサの出力が高めの出力値となっていても、アイドルストップ制御ECU12の検出手段がブレーキスイッチ17のオン状態の連続からそのオン固着を検出し、この検出に基づき、アイドルストップ制御ECU12のブレーキ液圧条件変更手段が、液圧センサ6により検出されるブレーキ液圧の所定のしきい値を高くし、ドライバがブレーキを放してブレーキ液圧が低下すれば、アイドルストップしたエンジンを再始動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アイドルストップ中に、ブレーキ液圧の所定のしきい値未満への低下、ブレーキスイッチのオフの少なくともいずれかを含むエンジン再始動条件の成立により、エンジンを再始動するアイドルストップ車の制御装置に関し、詳しくは、ブレーキの液圧センサのゼロ点ドリフトおよびブレーキスイッチのオン固着が発生した時の対策に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アイドルストップ車には、所定のエンジン自動停止条件の成立によりエンジンを停止してアイドルストップし、アイドルストップ中に、ブレーキ液圧が所定のしきい値未満になったことをエンジン再始動条件としてエンジンを再始動するものがある(例えば、特許文献1(段落[0010]、[0034]、図1等)参照)。
【0003】
そして、上記の所定のエンジン自動停止条件は、車速が0km/h(停止)で、ブレーキ力であるブレーキ液圧(マスターシリンダ圧)が所定レベル以上になることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−27078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年のアイドルストップ車においては、アイドルストップによる燃費の一層の向上を図るため、減速中に(車速が0km/hになる前に)エンジン自動停止条件が成立するようにしてアイドルストップによる燃費の一層の向上を図ることが提案されている。この場合、アイドルストップの許可車速は例えば7km/hに設定され、少なくとも車速が7km/h(停止)以下で、ブレーキ力であるブレーキ液圧(マスターシリンダ圧)が例えば0.7MPa以上になれば、エンジン自動停止条件が成立する。
【0006】
また、上記のエンジン再始動条件は、例えばブレーキ液圧が0.1MPa未満になったことである。
【0007】
そして、この種のアイドルストップ車においては、アイドルストップ中のエンジンの再始動をより確実にするため、エンジン再始動条件として、前記したブレーキ液圧が所定のしきい値未満に低下したことに代えて、ブレーキ液圧が所定のしきい値未満に低下したことおよび、ブレーキのオンオフを検出するブレーキスイッチ(ストップランプスイッチ)がオフになったことのいずれかが成立することを採用することが考えられている。
【0008】
一方、前記ブレーキ液圧を検出する液圧センサ(マスターシリンダ圧センサ)は、温度上昇や経年変化のゼロ点ドリフトによって高めの出力値(例えば実際は0MPaなのに0.3MPa)を出力する場合がある。この場合、アイドルストップ中にドライバ(ユーザ)がブレーキを完全に放して発進しようとしても、液圧センサの出力値が所定のしきい値(例えば0.1MPa)を下回らなくなる。
【0009】
そして、ゼロ点ドリフトによって液圧センサの出力値が所定のしきい値(例えば0.1MPa)を下回らなくなったときに、ブレーキスイッチが何らかの原因で機械的にオン状態で固着してオン固着してしまっていると、エンジン再始動条件を、ブレーキ液圧が所定のしきい値未満に低下したことおよび、ブレーキのオンオフを検出するブレーキスイッチがオフになったことのいずれかが成立することにしていても、エンジンを再始動できなくなるなる問題がある。
【0010】
図4は正常な場合のアイドルストップ中のエンジン再始動における車両状態、液圧センサが検出するブレーキ液圧(マスターシリンダ圧)、ブレーキスイッチの変化を示し、(a)が車両状態、(b)がブレーキ液圧、(c)がブレーキスイッチの変化である。
【0011】
この場合、アイドルストップ中は、液圧センサが検出するマスターシリンダ圧は所定のしきい値(0.1MPa)より十分高く、ブレーキスイッチはオンしている。この状態で、図中のta時にドライバがブレーキを放すと(ブレーキペダルの踏み込みをやめると)、液圧センサが検出するブレーキ液圧が少し遅れたtb時に所定のしきい値に低下し、tc時にはブレーキスイッチがオフし、tb時にエンジンが再始動する。
【0012】
図5はゼロ点ドリフトによって液圧センサの出力値が高めになり、ブレーキスイッチが何らかの原因で機械的にオン固着しまっている異常な場合のアイドルストップ中のエンジン再始動における車両状態、液圧センサが検出するブレーキ液圧(マスターシリンダ圧)、ブレーキスイッチの変化を示し、図4と同様、(a)が車両状態、(b)がブレーキ液圧、(c)ブレーキスイッチの変化である。
【0013】
この場合、アイドルストップ中は、液圧センサが検出するブレーキ液圧は正常な場合より高く、ブレーキスイッチはオン固着しているので問題はない。この状態で、図4の場合と同様に、図中のta時にドライバがブレーキを放すと(ブレーキペダルの踏み込みをやめると)、矢印線に示すように液圧センサが高めに検出するブレーキ液圧は所定のしきい値より高い状態を保ち、ブレーキスイッチもオンし続けるので、エンジンは再始動されない。
【0014】
なお、エンジン再始動条件のブレーキ液圧のしきい値を例えば0.3MPa程度に高めに設定すれば、液圧センサの前記ゼロ点ドリフトが発生しても上記の問題は生じにくいが、アイドルストップ中の不用意なエンジン再始動を防止する観点からは、エンジン再始動条件のブレーキ液圧のしきい値は例えば0.1MPaに極力低くすることが好ましい。また、ブレーキのオンオフを複数系統のブレーキスイッチで検出するようにすれば、1系統のブレーキスイッチのオン固着が発生したときにもブレーキのオンオフを検出することが可能になるが、ブレーキスイッチを複数個要する等、部品数が多くなって高価になる問題がある。
【0015】
本発明は、ブレーキの液圧センサのゼロ点ドリフトによりその出力値が高めになり、かつ、ブレーキスイッチがON固着したときにも、低コストの構成でアイドルストップしたエンジンを再始動できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記した目的を達成するために、本発明のアイドルストップ車の制御装置は、所定のエンジン自動停止条件の成立によりエンジンを停止してアイドルストップし、アイドルストップ中に、液圧センサにより検出されるブレーキ液圧の所定のしきい値未満への低下、ブレーキスイッチのオフの少なくともいずれかを含むエンジン再始動条件の成立により、エンジンを再始動するアイドルストップ車の制御装置であって、前記ブレーキスイッチの状態を検出する検出手段と、前記検出手段により前記ブレーキスイッチのオン状態の連続が検出された場合には、前記ブレーキ液圧の前記しきい値を上げるブレーキ液圧条件変更手段とを備えたことを特徴としている(請求項1)。
【0017】
また、本発明のアイドルストップ車の制御装置は、前記検出手段が、アイドルストップする前の前回走行中に前記ブレーキスイッチのオフを検出していないことから前記オン状態の連続を検出することを特徴としている(請求項2)。
【0018】
さらに、本発明のアイドルストップ車の制御装置は、前記ブレーキ液圧条件変更手段が、さらに、前記ブレーキ液圧の前記しきい値を上げた後、前記検出手段が前記ブレーキスイッチのオフを検出することにより前記しきい値を下げて戻すリセット機能を備えることを特徴としている(請求項3)。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、ブレーキスイッチがオン固着し、かつ、ゼロ点ドリフトによってブレーキの液圧センサの出力が高めの出力値となっていても、検出手段がブレーキスイッチのオン状態の連続からそのオン固着を検出し、この検出に基づき、ブレーキ液圧条件変更手段が、液圧センサにより検出されるブレーキ液圧の所定のしきい値を高くしているので、アイドルストップ中にドライバがブレーキを放してブレーキ液圧が低下すれば、前記液圧センサの出力値が高めであってもしきい値未満になってアイドルストップしたエンジンを再始動することができる。
【0020】
また、前記液圧センサが検出するブレーキ液圧の所定のしきい値は、ブレーキスイッチがオン固着することによって高めに変化し、最初から高くするのではないので、液圧センサが検出するブレーキ液圧の所定のしきい値を十分低く(例えば0.1MPa)設定することができる。このようにすると、アイドルストップ中にドライバがブレーキペダルを誤って緩めたりしても不用意にエンジンが再始動されることがない。
【0021】
さらに、複数系統のブレーキスイッチを設けなくてよいので、部品数が少なく、コストを低減して対応できる。
【0022】
したがって、前記液圧センサのゼロ点ドリフトによりその出力値が高めになり、かつ、ブレーキスイッチがオン固着したときにも、低コストの構成でエンジンを再始動できる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、前記検出手段は、アイドルストップする前の前回走行中にブレーキスイッチのオフを一度も検出しないことから、ブレーキスイッチのオン固着を容易に検出することができる。
【0024】
請求項3に記載の発明によれば、オン固着の検出によりブレーキの液圧センサが検出するブレーキ液圧の所定のしきい値を上げた後、ブレーキスイッチのオフを検出すれば、ブレーキ液圧条件変更手段のリセット機能により、自動的に前記しきい値を下げて元に戻すことができる。これにより、前記所定のしきい値を低めに設定しておくことで、例えばブレーキスイッチのオン固着が解消すれば、アイドルストップ中にドライバがブレーキペダルを誤って緩めてしまっても不用意にエンジンが再始動されず、アイドルストップの制御性能が一層向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アイドルストップ車に適用した本発明の車両制御装置の一実施形態のブロック図である。
【図2】図1の動作説明用のタイミングチャートである。
【図3】図1の動作説明用のフローチャートである。
【図4】従来装置の正常な制御例のタイミングチャートである。
【図5】従来装置の異常な制御例のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
つぎに、本発明をより詳細に説明するため、本発明の一実施形態について、図1〜図3を参照して詳述する。
【0027】
図1は本発明が適用されるアイドルストップ車1の制御装置のブロック構成を示し、2はブレーキペダル、3はブレーキペダル2の踏力がブレーキブースタ4を介して加わるマスターシリンダ、5はマスターシリンダ3に接続された配管、6は配管5に取り付けられた本発明の液圧センサ(マスターシリンダ圧センサ)であり、マスターシリンダ圧を検出する。7は液圧センサ6、ソレノイドバルブ群8を含むブレーキアクチュエータである。
【0028】
ソレノイドバルブ群8はブレーキ液圧制御バルブ8a、8bを含む複数のソレノイドバルブで構成されている。ブレーキ液圧制御バルブ8a、8bは、配管5から分枝した例えば2系統の系統毎に設けられ、アイドルストップやABS(Antilock Brake System)のブレーキ制御に兼用される。
【0029】
9FL、9FRはアイドルストッブ車1の左、右前輪のホイールシリンダ、9RL、9RRはアイドルストップ車1の左、右後輪のホイールシリンダであり、例えば、ブレーキ液圧制御バルブ8aから伸びた一方の系統の配管10FL、10RRに左前輪のホイールシリンダ9FL、右後輪のホイールシリンダ9RRが接続され、ブレーキ液圧制御バルブ8bから伸びた他方の系統の配管10FR、10RLに右前輪のホイールシリンダ9FR、左後輪のホイールシリンダ9RLが接続されている。
【0030】
つぎに、アイドルストップ車1はCAN(Control Area Network)等の車内ネットワーク11が配設され、車内ネットワーク11には、アイドルストップ制御ECU(エコラン制御ECU)12、ブレーキアクチュエータ7内のブレーキ制御ECU(ABS制御ECU)13、エンジン制御ECU14、変速機制御ECU15等が接続され、ECU12〜15は車内ネットワーク11を介して情報をやり取りする。
【0031】
各ECU12〜15は、マイクロコンピュータで形成され、車載の12Vのバッテリ16から給電されて動作する。
【0032】
エンジン制御ECU14はエンジン(図示せず)のスロットル開度等を制御し、変速機制御ECU15は例えばベルト式CVT(図示せず)を制御する。
【0033】
アイドルストップ制御ECU12は、設定されたアイドルストップ制御のプログラムを実行して本発明の検出手段およびブレーキ液圧条件変更手段を形成する。すなわち、アイドルストップ制御ECU12は、アイドルストッブ車lの走行中等に車内ネットワーク11を介したブレーキ制御ECU13との通信に基づいて液圧センサ6が検出したブレーキ液圧(マスターシリンダ圧)の情報を収集するとともに、エンジン制御ECU14のエンジン回転数の情報や、IGイグニッションのオンオフや車速、ブレーキスイッチ(ストップランスイッチ)17のオンオフ等の情報を収集する。
【0034】
そして、本実施形態のアイドルストップ車1は、アイドルストップの許可車速が例えば7km/hに設定されて減速中に(車速が0km/hになる前の走行中に)エンジン自動停止条件が成立するように設定され、そのアイドルストップ制御の概略を説明すると、IGオンでアイドルストップ車1のエンジンが始動してオン(稼動)した後、アイドルストップ車1の走行中にドライバが走行の停止を意図してアクセルペダル(図示せず)からブレーキペダル2に踏み替え、車速が例えば前記の7km/h以下に低下する等の所定のエンジン自動停止条件が成立することにより、アイドルストップ制御ECU12は、車内ネットワーク11を介してブレーキ制御ECU13にブレーキ液圧保持要求を送ると同時に、エンジン制御ECU14にアイドルストップのエンジン停止要求を送り、このエンジン停止要求に基づき、エンジン制御ECU14がエンジンを自動停止してオフし、アイドルストップ車1はアイドルストップの状態になる。
【0035】
なお、エンジン自動停止条件の一例は、エンジンフードスイッチがオン(閉)、ドライバシート側のドアカーテシスイッチやドアがオン(閉)、シフトポジションがDレンジ、バッテリ電圧が所定電圧以上、少なくとも車速が前記の7km/h(停止)以下、液圧センサ6により検出されるマスターシリンダ圧が所定の停止しきい値(例えば0.7MPa)以上になること等である。なお、アイドルストップ中は、ブレーキペダル2が踏まれているので、ブレーキランプが点灯してストップランブスイッチ17はオンする。また、車速は4輪の車輪速センサ18により検出される。
【0036】
そして、エンジンの自動停止後もドライバがブレーキペダル2を踏み続けることにより、マスターシリンダ圧のブレーキカがホイールシリンダ9FL〜9RRに付与され、アイドルストップ車1は、減速して走行が自動停止し、車速が0km/hになる。また、アイドルストップ中は、ホイールシリンダ9FL〜9RRが例えば走行停止直前のブレーキ液圧を保持するとともに、ドライバがブレーキペダルを踏み続けるので、マスターシリンダ圧は前記の所定の停止しきい値以上に保たれる。
【0037】
つぎに、アイドルストップ中にドライバが発進の意図をもってブレーキペダルの踏力を緩めてブレーキを放すと、アイドルストップの状態で、液圧センサ6により検出されるブレーキ液圧が所定の再始動しきい値(例えば0.1MPa)未満に低下するか、ブレーキスイッチ17がオフすることにより、ブレーキ液圧の所定のしきい値未満への低下、ブレーキスイッチ17のオフの少なくともいずれかを含むエンジン再始動条件が成立し、アイドルストップ制御ECU12は、車内ネットワーク11を介してブレーキ制御ECU13にブレーキ液圧開放要求を送ると同時に、エンジン制御ECU14にエンジン再始動要求を送る。なお、前記した所定の再始動しきい値を例えば0.1MPaに低く設定すると、アイドルストップ中にドライバがブレーキペダル2を誤って緩めたりしても不用意にエンジンが再始動されることがない利点がある。また、エンジン再始動条件は、ドライバがアクセルペダルを踏み込んだときにも成立する。
【0038】
そして、エンジン再始動要求に基づいてエンジン制御ECU14がエンジンを再始動し、その後、ブレーキ液圧開放要求に基づいてブレーキ制御ECU13がホイールシリンダ9FL〜9RRが例えば走行停止直前のブレーキ液圧を開放してアイドルストップ車1が発進する。
【0039】
以降、アイドルストップ車1は、IGオフになるまで、上記のアイドルストップ制御により、エンジン自動停止のアイドルストップと、アイドルストップ中のエンジン再始動とをくり返す。
【0040】
つぎに、アイドルストップ制御ECU12が形成する本発明の検出手段およびブレーキ液圧条件変更手段について説明する。
【0041】
検出手段はブレーキスイッチ17のオンオフの状態を常時検出する。
【0042】
ブレーキ液圧条件変更手段は前記検出手段によりブレーキスイッチ17のオン状態の連続が検出されてブレーキスイッチ17のオン固着が発生していると推定される場合には、ブレーキ液圧の前記再始動しきい値を設定された液圧(例えば、0.4MPa)に上げる。また、本実施形態の場合、ブレーキ液圧条件変更手段は、ブレーキ液圧の前記再始動しきい値を上げた後、前記検出手段がブレーキスイッチ17のオフを検出すると、オン固着が解消したものと推定して前記再始動しきい値を下げて元に戻すリセット機能も備える。
【0043】
ブレーキスイッチ17のオン状態の連続は、本実施形態の場合、アイドルストップする前の前回走行中にブレーキスイッチ17のオフを一度も検出していないことから検出する。前回走行中とは、例えば、車速の変化から検出される加速度が正になって車速0km/hのアイドルストップ車1が走行を開始するタイミングから、つぎに加速度が負になって車速が0Km/hになるまでの期間であってもよいが、エンジンが停止してから走行が停止するまでの間にドライバがアクセルペダルを踏んだ場合にも対応するため、本実施形態においては、アイドルストップ中のエンジンの再始動により、車速の変化から検出される加速度が正になってアイドルストップ車1が走行を開始するタイミングから、つぎにエンジンが自動停止するタイミングまでの期間とする。そして、この期間にブレーキスイッチ17が一度もオフしなければ、ブレーキスイッチ17のオン固着が発生してると推定する。すなわち、前回走行中のブレーキスイッチ17のオン状態の連続の検出は、少なくともアイドルストップ前の加速度が正になって走行する期間を含む期間に行なわれる。
【0044】
したがって、アイドルストップ中のエンジン再始動時に、ブレーキスイッチ17がオン固着し、かつ、ドライバがブレーキを開放しているにもかかわらず、ゼロ点ドリフトによって液圧センサ6の出力が高めの出力値となっていて例えば0.1MPaより高い0.3MPaにしかならなくても、前記検出手段が前回走行中にブレーキスイッチ17のオン固着を検出し、この検出に基づき、前記ブレーキ液圧条件変更手段により、液圧センサ6により検出されるブレーキ液圧の前記再始動しきい値が例えば0.4MPaに高くなっているので、エンジン再始動条件が成立してエンジンが再始動される。
【0045】
また、前記再始動しきい値を例えば0.4MPaに高くした後に、前記検出手段がブレーキスイッチ17のオフを検出すると、自動的に前記再始動しきい値が元の所定の0.1MPaに戻るので、所定の前記再始動しきい値は、ブレーキスイッチ17のオン固着を見越して最初から例えば0.3MPaに高めに設定しなくてよい。そのため、アイドルストップ中にドライバがブレーキペダル2を誤って緩めたりしても不用意にエンジンが再始動されることがない。
【0046】
図2はブレーキスイッチ17がオン固着し、かつ、ドライバがブレーキを開放しているにもかかわらずゼロ点ドリフトによって液圧センサ6の出力が高めの出力値となる場合のアイドルストップ車1の車両状態、車速、液圧センサ6が検出するブレーキ液圧(マスターシリンダ圧)、ブレーキスイッチ17の変化の一例を示し、(a)が車両状態、(b)がブレーキ液圧、(c)がブレーキスイッチ17の変化である。なお、(b)のブレーキ液圧における実線rが前記再始動しきい値を示す。
【0047】
この場合、所定の前記再始動しきい値は0.1MPaに設定され、図中のアイドルストップ中のt1時にドライバがブレーキを開放してエンジン再始動の意思を示しても、ブレーキスイッチ17のオン固着が発生し、かつ、液圧センサ6が検出するブレーキ液圧がゼロ点ドリフトの影響を受けて0.1MPaより高めになるので、エンジンは再始動しないが、ドライバがアクセルペダルを踏むことでエンジンが再始動してオンしたとする。
【0048】
そして、t2時にアイドルストップ車1が発進する。その後、走行中のt3時にドライバがブレーキペダル2を踏み始めると、ブレーキ液圧は上昇し、車速は低下する。t4時に少なくとも車速が7km/h以下になり、かつ、ブレーキ液圧が所定の停止しきい値(0.7MPa)以上になると、エンジン自動停止条件が成立してエンジンが自動停止してアイドルストップ車1はアイドルストップ状態になる。このとき、アイドルストップ制御部12のブレーキ液圧条件変更手段は、t2時〜t4時の前回走行中に、前記検出手段がブレーキスイッチ17のオフを一度も検出していないことから、ブレーキ液圧の前記再始動しきい値を設定された液圧(0.4MPa)に上げる。
【0049】
このアイドルストップ中に発進するためにドライバがブレーキを開放し、t5時に、ブレーキ液圧が、高くなっている前記再始動しきい値未満に低下すると、ドライバがアクセルペダルを踏みこまなくても、エンジン再始動条件が成立してエンジンが再始動する。
【0050】
その後、t6時にブレーキスイッチ17のオン固着が解消して前記検出手段がブレーキスイッチ17のオフを検出すると、アイドルストップ制御部12のブレーキ液圧条件変更手段のリセット機能が前記再始動しきい値を元の0.1MPaに戻す。
【0051】
さらに、前記再始動しきい値が元の0.1MPaに戻った後、走行中のt7時にドライバがブレーキペダル2を踏むとブレーキスイッチ17がオンし、t8時にブレーキ液圧が高くなってエンジン自動停止条件が成立するとエンジンが自動停止してアイドルストップ車1がアイドルストップ状態になり、このアイドルストップ中のt9時にドライバがブレーキを開放すると、ブレーキスイッチ17がオフしてエンジン再始動条件が成立し、エンジンが再始動する。
【0052】
図3のステップS1〜S8はアイドルストップ制御ECU12の上記したアイドルストップ制御の処理手順例を示し、走行中にエンジン自動停止条件が成立すると(ステップS1のYES)、エンジンを自動停止してアイドルストップを実施する(ステップS2)。また、前回走行中にブレーキスイッチ17が一度もオフしなければ(ステップS3のNO)、前記ブレーキ液圧条件変更手段により再始動しきい値を0.4MPaに高くする(ステップS4)。
【0053】
そして、アイドルストップ中にブレーキ液圧が0.4MPa未満になるか、ブレーキスイッチ17がオフするか、アクセルペダルが踏まれるかして、エンジン再始動条件が成立すると(ステップS5のYES)、エンジンを再始動する(ステップS6)。
【0054】
さらに、再始動しきい値を0.4MPaに高くした後、前回走行中にブレーキスイッチ17が一度でもオフすると(ステップS3のYES)、前記ブレーキ液圧条件変更手段のリセット機能により、再始動しきい値を元の0.1MPaに戻す(ステップS7)。この場合は、アイドルストップ中にブレーキ液圧が0.1MPa未満になるか、ブレーキスイッチ17がオフするか、アクセルペダルが踏まれるかして、エンジン再始動条件が成立すると(ステップS8のYES)、エンジンを再始動する(ステップS6)。
【0055】
したがって、前記実施形態の場合、ブレーキスイッチ17がオン固着し、かつ、ゼロ点ドリフトによってブレーキの液圧センサ6の出力が高めの出力値となっていても、アイドルストップ中にドライバがブレーキを放してブレーキ液圧が低下すれば、エンジンを再始動することができる。
【0056】
また、液圧センサ6が検出するブレーキ液圧の所定のしきい値を最初から高くする必要はないので、液圧センサ6が検出するブレーキ液圧の所定の再始動しきい値を十分低い例えば0.1MPaに設定することができので、アイドルストップ中にドライバがブレーキペダル2を誤って緩めたりしても不用意にエンジンが再始動されることがない。
【0057】
さらに、ブレーキスイッチ17は1系統でよく、複数系統のブレーキスイッチを設けなくてよいので、部品数が少なく、コストを低減して対応できる。
【0058】
そのため、液圧センサ6のゼロ点ドリフトによりその出力値が高めになり、かつ、ブレーキスイッチ17がON固着したときにも、低コストの構成でエンジンを再始動することができる。
【0059】
そして、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行なうことが可能であり、例えば、本発明の算出手段、検出手段はアイドルストップ制御部12以外の制御部等に設けるようにしてもよい。また、ブレーキ液圧の所定の停止しきい値や再始動しきい値は0.7MPa、0.1MPaに限るものではなく、高くした再始動しきい値も0.4MPaに限るものではない。さらに、アイドルストップ車1の各部の構成が図1と異なっていてもよいのは勿論である。
【0060】
つぎに、アイドルストップの許可車速は前記の7km/hに限るものではなく、適当な車速であってよく、アイドルストップの許可車速が0km/h(停止)の場合にも本発明を適用できるのは勿論である。また、アイドルストップ制御ECU12の処理手順は図3と異なっていてもよいのは勿論である。さらに、前記実施形態においては、ブレーキスイッチ17のオン状態の連続(オン固着)を、前回走行中に前記検出手段がブレーキスイッチ17のオフを一度も検出していないことから検出するようにしたが、ブレーキスイッチ17のオン状態の連続(オン固着)を、例えば故障診断等によりブレーキスイッチ17がオンしていることから検出するようにしてもよい。
【0061】
そして、本発明は、駆動力源として少なくともエンジンを備えた種々のアイドルストップ車の制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 アイドルストップ車
6 液圧センサ
12 アイドルストップ制御ECU
17 ブレーキスイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のエンジン自動停止条件の成立によりエンジンを停止してアイドルストップし、アイドルストップ中に、液圧センサにより検出されるブレーキ液圧の所定のしきい値未満への低下、ブレーキスイッチのオフの少なくともいずれかを含むエンジン再始動条件の成立により、エンジンを再始動するアイドルストップ車の制御装置であって、
前記ブレーキスイッチの状態を検出する検出手段と、
前記検出手段により前記ブレーキスイッチのオン状態の連続が検出された場合には、前記ブレーキ液圧の前記しきい値を上げるブレーキ液圧条件変更手段とを備えたことを特徴とするアイドルストップ車の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアイドルストップ車の制御装置において、
前記検出手段は、アイドルストップする前の前回走行中に前記ブレーキスイッチのオフを検出していないことから前記オン状態の連続を検出することを特徴とするアイドルストップ車の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアイドルストップ車の制御装置において、
前記ブレーキ液圧条件変更手段は、さらに、前記ブレーキ液圧の前記しきい値を上げた後、前記検出手段が前記ブレーキスイッチのオフを検出することにより前記しきい値を下げて戻すリセット機能を備えることを特徴とするアイドルストップ車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−180747(P2012−180747A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42308(P2011−42308)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】