説明

アイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置

【課題】エンジン自動停止後のエンジンが完全に停止する前にエンジンの再始動要求を検出した場合に、エンジン停止前にスタータによるクランキングを円滑に行う。
【解決手段】所定のアイドルストップ条件が成立するときにエンジンを自動停止するとともに、エンジン自動停止中にエンジンの再始動要求を検出すると、スタータによりエンジンをクランキングすることによりエンジンを再始動する。エンジンの自動停止に伴ってエンジン回転が停止する前に、エンジンの再始動要求を検出した場合、ステップS13からステップS15以降へ進み、エンジンが逆方向に回転する逆回転期間の終了時期を検出し、この逆回転期間の終了時期を検出したときに、スタータによるエンジンのクランキングを開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの自動停止及び自動再始動を行うアイドルストップ車両に関し、特に、スタータによるエンジン自動再始動時の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にも記載のように、アイドルストップ車両においては、信号待ちで運転者が車両を一時的に停車させたときなど、所定のアイドルストップ条件が成立する場合に、燃費節減や排気エミッションの低減を図るために、エンジンを自動的に停止し、その後、運転者が車両の発進操作を行ったときなど、エンジンの自動再始動要求を検出したときに、スタータによりエンジンのクランキングを行うことによって、エンジンの自動再始動を行うようになっている。スタータは、一般的に、モータでピニオンを回転駆動させるとともに、ピニオンを押し出してエンジンのクランクシャフトに連結されたリングギヤに噛み合わせることで、エンジンのクランキングを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−236533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】

エンジン自動停止に伴ってエンジン回転が停止する直前に、エンジンの逆回転と正回転を交互に繰り返した後にエンジン回転が停止することがあるが、このエンジンの逆回転と正回転を交互に繰り返すエンジン揺動期間中に、エンジンの自動再始動要求を検出してピニオンをリングギヤに噛み合わせようとすると、エンジンの逆回転中(リングギヤの逆回転中)にピニオンがリングギヤに衝突して、ピニオンに過大な衝撃が加わってスタータの耐久性の低下を招く可能性があると共に、大きな騒音が発生するという問題がある。
そこで、特許文献1では、エンジン回転降下期間中にエンジン回転速度が0となる直前の所定回転速度まで低下したときに、アクチュエータによりピニオンをリングギヤに噛み合わせて、その後、エンジン再始動要求が発生したときに、モータによりピニオンを回転させてスタータによるクランキングを開始してエンジンを再始動させている。このようにして、エンジン揺動期間中にピニオンをリングギヤに噛み合わせることを回避している。
【0005】
しかしながら、この場合、ピニオンを回転駆動するモータとピニオンをエンジン側のリングギアに噛み合わせるために前進移動させるアクチュエータとを独立して個別に作動可能なスタータが必要となり、スタータの大型化や制御の複雑化を招いてしまう。また、周知のマグネッチシフト式スタータ等のように、モータの作動に機械的に連動してピニオンが押し出されてリングギヤに噛み合う簡素な構造のスタータを用いる車両には、このような技術を採用することができない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、モータとアクチュエータとを独立して個別に作動可能なスタータを敢えて用いることなく、エンジン自動停止に伴ってエンジン回転が停止する前に、エンジンの自動再始動要求を検出した場合に、エンジン回転が停止するのを待つことなく、エンジンの自動再始動を円滑に行うことができる新規なアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置は、所定のアイドルストップ条件が成立するときにエンジンを自動停止するとともに、エンジン自動停止中にエンジンの再始動要求を検出すると、スタータによりエンジンをクランキングすることによりエンジンを自動的に再始動するものである。そして、上記エンジンの自動停止に伴ってエンジン回転が停止する前に、エンジンが逆方向に回転する逆回転期間の終了時期を判定し、上記エンジンの自動停止に伴ってエンジン回転が停止する前に、上記エンジンの再始動要求を検出した場合、上記逆回転期間が終了したと判定したら上記スタータによるエンジンのクランキングを開始することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】

本発明によれば、逆回転期間が終了したと判定したらスタータによるエンジンのクランキングを開始することによって、逆回転期間中にピニオンをリングギヤに噛み合わせることを回避でき、噛み合い時に騒音を生じたりスタータの耐久性の低下を招くことなく、スタータによるクランキングを円滑に行うことができる。また、モータとアクチュエータとを独立して個別に作動可能なスタータを敢えて用いる必要のない簡素か構成で上記の作用効果を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例に係るアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置のシステム構成を簡略的に示す構成図。
【図2】上記実施例のスタータシステムを示す構成図。
【図3】エンジン自動停止直後のエンジン回転速度の変化を示す特性図。
【図4】上記実施例に係るエンジン自動再始動時の制御の流れを示すフローチャート。
【図5】逆回転発生時の圧縮気筒のクランク位置と、逆回転期間と、の関係を示す特性図。
【図6】逆回転発生時の圧縮気筒のクランク位置と、逆回転期間と、の関係を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図示実施例により本発明を説明する。図1は、本発明の一実施例に係るアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置のシステムの構成を表している。この車両には、燃焼により車両駆動力を出力するエンジン1と、エンジン1の出力を車輪に変速して伝達する無段変速機5と、が設けられる。スタータ(スタータモータ)6は、エンジン始動時にクランクシャフトを回転駆動し、つまりクランキングを行うものであり、スタータ6の出力シャフトの先端部にはピニオン(ピニオンギヤ)7が設けられる。このスタータ6の構成については後述する。
【0011】
エンジン1のクランクシャフト12の端部には、このクランクシャフト12と一体的に回転するドライブプレート2が設けられ、このドライブプレート2の外周部に、スタータ6のピニオン7が噛み合い可能なリングギヤ2aが設けられている。また、スタータ6等の車載電装品の駆動源であるバッテリ10が搭載されている。
【0012】
エンジン1の前部(車両進行方向側)付近には、バッテリ10を充電するオルタネータ3が設置されている。オルタネータ3のシャフト先端部に設けられたモータプーリ11とエンジン1のクランクシャフト12の先端部に設けられたクランクプーリ8にはベルト9が掛けまわされ、これらのクランクプーリ8及びベルト9を介してオルタネータ3がエンジン1により駆動される。スタータ6やオルタネータ3等の作動はコントロールユニット(ECU)4によって制御される。また、ECU4には、クランクシャフトの回転位置を検出するクランク角検出手段としてのクランク角センサ13が接続されており、このクランク角センサ13の検出信号を用いてエンジン回転速度が求められる。
【0013】
また、この車両は、車両運転中に所定のアイドルストップ条件を満たしたときにエンジンを一時的な自動停止する、いわゆるアイドルストップを行うとともに、このアイドルストップの状態で、エンジン再始動要求を検出すると、エンジンの自動再始動を行う、いわゆるアイドルストップ車両である。このようはアイドルストップからのエンジン再始動時の他、初回のエンジン始動時を含めて、エンジン1の始動時には、ピニオン7をリングギヤ2aに噛み合わせるとともに、スタータ6によりエンジン1のクランクシャフト12を回転駆動、いわゆるクランキングすることによって、エンジン1の始動が行われる。
【0014】
次にスタータ6の構成について図2を参照して説明する。28はECU4からの信号によってON・OFF制御されるスタータスイッチで、スタータ6はスタータスイッチ28がONになったときに駆動される。スタータ6にはシャフト29上を摺動可能なピニオン7と、回転速度が過剰に高くなったときにピニオン7からシャフト29への回転の伝達を遮断するオーバーランクラッチ27が設けられる。
【0015】
ピニオン7には支点25を軸として回転可能なシフトレバー24の一端が回転自由に連結されており、このシフトレバー24が回転することによってピニオン7はシャフト29上を摺動する。また、シフトレバー24の他端は、プルインコイル21、ホールディングコイル22の2つのコイルを貫通するプランジャ23に回転可能に連結されている。
【0016】
このように構成されたスタータ6の駆動について説明する。まず、スタータスイッチ28がONになるとプルインコイル21およびホールディングコイル22にはバッテリ10からの電流が通電され、それぞれアースされる。この通電により両コイル21、22には磁力が発生し、この磁力によってプランジャ23がプルインコイル21に吸着される。このとき、プランジャ23に連結されたシフトレバー24は支点25周りに引き込まれるように図2の右側へ回転し、シフトレバー24の他端に連結されたピニオン7はスタータ6のシャフト先端方向(図2の左側)に押し出され、リングギヤ2aと噛み合う。
【0017】
また、プランジャ23はプルインコイル21に吸着されて図2の右側に引き込まれたときにメーン接点26と接触し、メーン接点26をONにする。これにより、スタータ6はバッテリ10からの電流が通電されて回転を開始し、リングギヤ2aを介してエンジン1をクランキングさせる。なお、クランキング中はホールディングコイル22の磁力によってプランジャ23の位置が固定されており、スタータスイッチ28がOFFになると、ホールディングコイル22への通電が遮断されるので、プランジャ23は図示しないリターンスプリング等によって図2中左側へ戻され、シフトレバー24が図2中左向きに回転し、ピニオン7は図2中右側へと引き込まれてリングギヤ2aとの嵌合は解消される。
【0018】
なお、スタータの構造としては、図示実施例のものに限られず、始動時に回転駆動されるピニオンが移動してリングギヤに噛み合う形式のものであれば、様々な公知のスタータを用いることが可能である。
【0019】
図3に示すように、エンジンの自動停止時には、エンジン停止の開始時期t1からエンジン回転速度Neが最初に0(ゼロ)となる時期t2まで降下するエンジン回転降下期間D1を経た後、エンジン回転速度が安定的に0となってエンジン回転が完全に停止するまでの間に、圧縮行程にある気筒の圧縮圧によってエンジンの回転方向が逆転する現象が発生することがある。つまり、エンジン回転が完全に停止する前に、エンジンの逆回転と正回転とを繰り返すエンジン回転揺動期間D2を経ることがある。
【0020】
ここで、アイドルストップによるエンジンの自動停止時に、エンジン回転が完全に停止する前の、エンジン回転降下期間D1中もしくはエンジン回転揺動期間D2中に、エンジンの再始動要求が検出された場合に、仮にエンジン回転揺動期間D2のうちで、エンジンが逆方向に回転している逆回転期間D3、D5中に、スタータ6によりエンジン1のクランキングを行うと、ピニオン7がリングギヤ2aに衝突して騒音を生じたり、スタータの耐久性の低下を招くおそれがある。さらには、エンジン回転降下期間D1中でも、エンジン停止の開始時期t1直後に、スタータ6によりエンジン1のクランキングを行うと、ピニオン7とリングギヤ2aとの回転速度差が大きいために、両者の噛み合い時に騒音を生じたり、スタータの耐久性の低下を招くおそれがある。
【0021】
そこで本実施例においては、このようにアイドルストップに伴いエンジン回転が完全に停止する前にエンジンの再始動要求を検出した場合には、エンジンが逆回転する逆回転期間が終了したと判定したら、スタータによるエンジンのクランキングを行うようにしている。
【0022】
図4は、このようなエンジンの自動停止(アイドルストップ)状態からのエンジン1の再始動制御の流れを示すフローチャートである。
【0023】
本ルーチンは、ステップS11において、エンジンの自動停止中であることを条件に上記のECU4にて実行される。ステップS12では、ドライバー(運転者)の発進操作によるエンジンの再始動要求が検出されたか否かを判定する。具体的には、ブレーキペダルの踏み離し操作やアクセルペダルの踏込み操作によりアイドルストップスイッチがONとされた場合に、ドライバーの意思による発進操作に伴うエンジンの再始動要求が検出されたとして、ステップS12の判定が肯定されて、ステップS125でドライバー操作による再始動要求フラグAを1にしてステップS13へ進む。なお、ドライバー操作による再始動要求フラグAは、スタータ駆動によってエンジン始動されると0にリセットされる。
【0024】
ステップS13では、クランク角センサ13等により検出されるエンジン回転速度に基づいて、エンジン回転が完全に停止する前であるか否かを判定する。エンジン回転が完全に停止した後であれば、ステップS14へ進む。
【0025】
エンジン回転が完全に停止する前の、エンジン回転降下期間D1中もしくはエンジン回転揺動期間D2中であれば、ステップS13からステップS15へ進み、エンジンが正回転から逆回転へ反転したか否かを判定する。この正回転から逆回転への反転の検出には、例えば、クランクシャフトの角度位置を検出可能な上記のクランク角センサ13を用い、そのセンサの検出信号レベルの低下により正回転から逆回転への反転を検出することが可能である。
【0026】
正回転から逆回転への反転が検出された場合には、ステップS15からステップS16へ進み、逆回転期間D3の計測用のタイマーを作動させて、逆回転期間D3の計測を開始する。ステップS17では、タイマーにより計測される逆回転期間D3が、予め設定された所定時間ΔTを経過したかを判定する。所定時間ΔTを経過していれば、逆回転期間D3の終了時期t3になったと判定し、つまり逆回転期間D3から正回転期間D4に切り換わったと判定して、ステップS19へ進む。
【0027】
逆回転期間D3が所定時間ΔTを経過していなければ、ステップS17からステップS18へ進み、エンジンが逆回転から正回転へ反転したかを判定する。この逆回転から正回転への反転の検出は、上記の正回転から逆回転への反転の検出と同様に、クランク角センサ13を用いて行うことができる。
【0028】
所定時間ΔTの経過前に、逆回転から正回転への反転が検出されると、ステップS18からステップS19へ進む。ステップS19では、ドライバー操作による再始動要求フラグAが1である場合、ステップS20へ進み、スタータ6よるクランキングを開始する。つまり、エンジンの自動停止に伴ってエンジン回転が完全に停止する前に、運転者による車両発進操作に伴うエンジンの自動再始動要求を検出した場合には、逆回転期間D3が所定時間ΔTを経過するか、あるいは逆回転から正回転への反転を検出した場合に、逆回転期間D3から正回転期間D4に切り換わったと判断して、スタータ6によるクランキングを開始する。
【0029】
上記のステップS12において、ドライバーの操作に伴うエンジン再始動要求が検出されなければ、ステップS21へ進み、ドライバーの操作以外のエンジン再始動要求が検出されたかを判定する。ドライバーの操作以外の再始動要求の一例として、この実施例ではバッテリ充電量が所定値以下に低下したかを判定している。バッテリ充電量が所定値以下に低下したと判定されると、ステップS22へ進み、ドライバー操作以外による再始動要求フラグBを1にしてステップS13へ進む。なお、ドライバー操作以外による再始動要求フラグBは、スタータ駆動によってエンジン始動されると0にリセットされる。
ステップS13でエンジン回転が完全に停止したと判定されれば、ステップS14へ進み、ドライバー操作以外による再始動要求フラグBが1である場合、ステップS23へ進み、スタータによるエンジンのクランキングを開始する。
【0030】
このような本実施例の特徴的な構成及び作用効果について列記する。
【0031】
[1]エンジンの自動停止に伴ってエンジンが完全に停止する前に、エンジンの再始動要求を検出した場合、仮にエンジン回転降下期間D1やエンジン逆回転期間D3にスタータ6によるエンジン1のクランキングを開始すると、両者の噛み合い時に騒音を生じたり、耐久性の低下を招くおそれがあるものの、本実施例においては、逆回転期間D3の終了後に、スタータ6によるエンジン1のクランキングが開始されるために、噛み合い時に騒音を生じたりスタータの耐久性の低下を招くことなく、エンジンの自動再始動を円滑に行うことができる。
【0032】
[2]ステップS16,S17では、エンジン1の逆回転の開始を検出してから、予め設定した所定期間ΔTを経過した時点で、エンジン1の逆回転期間D3が終了したと判定している。上記の所定期間ΔTを予め適合により適切な値に設定しておくことで、簡素な制御構成で逆回転期間D3の終了時期t3を精度良く求めることができる。
【0033】
[3]好ましくは、逆回転期間D3の終了時期t3の検出精度を高めるために、エンジンの逆回転の開始時期のクランクシャフトの角度位置に応じて、上記の所定時間ΔTを調整する。このときのクランクシャフトの角度位置は、上記のクランク角センサ13の検出信号から得ることができる。
【0034】
逆回転期間D3は、逆回転発生時の圧縮行程にある気筒のクランク位置に応じて変化する。図5及び図6を参照して、逆回転発生時には圧縮行程気筒での圧縮反力によって、図6の矢印Y1に示すように、クランクシャフトが逆回転方向へ回転する。この逆回転発生後、膨張行程にある気筒が排気弁開時期(EVO)よりも上死点側へ戻されると、筒内空気が圧縮されて正方向の反力となり、図6の矢印Y2に示すように、再びクランクシャフトが正回転方向へ押し戻される。ここで、逆回転発生時の圧縮行程気筒が上死点(TDC)に近いほど、逆回転方向の圧縮反力が大きく、勢い良く逆方向へ大きく押し戻されるために、図5の領域α1に示すように、逆回転の開始から逆回転が終了するまでの時間、つまり逆回転期間D3が長くなる。一方、逆回転発生時の圧縮行程気筒が上死点(TDC)から遠いほど、逆回転方向の圧縮反力が小いために、図5の領域α2に示すように、逆回転期間は短くなる。
【0035】
従って、逆回転発生時の圧縮行程気筒のクランク位置が上死点(TDC)に近いほど、逆回転期間に相当する所定期間ΔTを長く設定し、逆回転発生時の圧縮行程気筒のクランク位置がTDCから遠いほど、逆回転期間に相当する所定期間ΔTを短く設定することによって、逆回転発生時のクランク角位置に応じて精度良く逆回転期間の終了時期t3を求めることができる。
【0036】
[4]更に、この実施例では、所定期間ΔTを用いた逆回転期間D3の終了時期t3の他に、ステップS18において、クランク角センサ13の信号レベルの強弱を利用して、逆回転から正回転への反転を検出している。
【0037】
[5]このように逆回転から正回転への反転をセンサにより検出する場合には、実際の終了時期t3に対して検出時期が不可避的に遅れを生じ、クランキングの開始時期が実際の逆回転終了時期t3に対して遅れを生じ易い。そこで本実施例においては、ステップS16,S17の逆回転期間(ΔT)による判定処理と併用し、所定時間ΔTの経過前に逆回転から正回転への反転を検出した場合には、その時点でスタータ6によるエンジン1のクランキングを開始している。つまり、所定期間ΔTが経過するか、あるいは反転を検出した時点で、スタータ6によるクランキングを開始しており、これによって、スタータ6のクランキング開始時期を実際の逆回転終了時期t3に十分に近づけることができる。
【0038】
[6]逆回転期間の終了時期t3の判定処理としては上記実施例のものに限られず、例えば、エンジン逆回転中にエンジン回転速度が所定値以下となったときに、逆回転期間が終了したと判定して、スタータによるクランキングを開始するようにしても良い。そうすれば、逆回転期間D3以降のエンジン回転揺動期間D2中に、エンジンの再始動要求が検出されても、逆回転期間D5の終了の判定ができ、逆回転期間中のスタータによるクランキングを回避できる。
【0039】
[7]更に、本実施例においては、運転者による車両発進操作に伴うエンジンの自動再始動要求を検出した場合に、上述したように、逆回転期間終了後にスタータ6によるクランキングを開始することにより、エンジンの再始動の応答性が低いとの印象を与えることを抑制・回避している。逆に、バッテリ充電量の低下など、運転者による車両発進操作以外のエンジンの自動再始動要求を検出した場合には、エンジンが完全に停止したことを確認してから、スタータによるクランキングを開始している。つまり、ドライバーの操作以外の再始動要求である場合には、ドライバーの操作に伴うエンジン再始動要求時に比して、再始動の応答性よりは、むしろエンジンの再始動を円滑かつ確実に行うことが要求されることから、エンジン完全停止前の再始動を禁止して、エンジンが完全に停止したことを確認してからエンジンの再始動を行うようにしている。これによって、より確実かつ円滑にエンジンを再始動させることが可能となる。
【0040】
なお、本実施例においては、エンジン回転速度が安定的に0となった場合にエンジン回転が完全に停止したと判断しているが、エンジン回転速度が継続的に0近くにあればエンジンが完全に停止したと判断しても構わない。
【符号の説明】
【0041】
1…エンジン
4…コントロールユニット(ECU)
6…スタータ
10…バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のアイドルストップ条件が成立するときにエンジンを自動停止するとともに、エンジン自動停止中にエンジンの再始動要求を検出すると、スタータによりエンジンをクランキングすることによりエンジンを再始動するアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置において、
上記エンジンの自動停止に伴ってエンジン回転が停止する前に、エンジンが逆方向に回転する逆回転期間の終了時期を判定する判定手段と、
上記エンジンの自動停止に伴ってエンジン回転が停止する前に、上記エンジンの再始動要求を検出した場合、上記逆回転期間が終了したと判定したら上記スタータによるエンジンのクランキングを開始するエンジン自動再始動手段と、
を有することを特徴とするアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置。
【請求項2】
上記判定手段は、エンジンの逆回転の開始を検出してから、予め設定した所定期間を経過したときに、上記逆回転期間が終了したと判定することを特徴とする請求項1に記載のアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置。
【請求項3】
クランクシャフトの角度位置を検出するクランク角検出手段と、
エンジンの逆回転の開始時期のクランクシャフトの角度位置に応じて、上記所定時間を調整する調整手段と、
を有することを特徴とする請求項2に記載のアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置。
【請求項4】
エンジン回転速度に基づいて、エンジンが逆回転から正回転へ反転したかを検出する反転検出手段を有し、
上記エンジン自動再始動手段は、上記所定時間の経過前に、上記逆回転から正回転への反転を検出した場合には、上記逆回転期間が終了したと判定して、スタータによるエンジンのクランキングを開始することを特徴とする請求項2又は3に記載のアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置。
【請求項5】
上記判定手段は、エンジン逆回転中にエンジン回転速度が所定値以下となったときに、上記逆回転期間が終了したと判定して、スタータによるエンジンのクランキングを開始することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置。
【請求項6】
上記エンジン自動再始動手段は、運転者による車両発進操作に伴うエンジンの自動再始動要求を検出した場合には、上記エンジン自動再始動手段によって逆回転期間が終了したと判定したらスタータによるクランキングを開始し、
上記運転者による車両発進操作以外のエンジンの自動再始動要求を検出した場合には、エンジン回転が停止したことを確認してから、スタータによるクランキングを開始することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のアイドルストップ車両のエンジン自動再始動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−47466(P2013−47466A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185549(P2011−185549)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】