説明

アキシャルピストンポンプ

【課題】吐出圧力の大小に関わらず脈動の抑制を図ることができるアキシャルピストンポンプを提供する。
【解決手段】アキシャルピストンポンプ1は、吸入ポートと、吐出ポート10と、一方が、ピストン6が上死点から下死点へと移動する間であってシリンダ5に吐出ポート10が接続されるよりも前にシリンダ5に接続されるシリンダ接続孔12と、一方が吐出ポート10に接続される吐出ポート接続孔15と、一定の圧力に昇圧された作動流体が保持される蓄圧孔16と、シリンダ接続孔12の他方と、吐出ポート接続孔15の他方と、蓄圧孔16とが接続される切替部14と、切替部14に設けられ、吐出ポート10の内部圧力に応じて、シリンダ接続孔12に吐出ポート接続孔15又は蓄圧孔16のいずれか一方を接続する切替手段22とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板型のアキシャルピストンポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
アキシャルピストンポンプでは、ケーシング内部に設けられたシリンダバレルの回転に伴い、前記シリンダバレルに形成された複数のシリンダの各々に設けられたピストンが斜板に沿って摺動し、前記シリンダ内部を往復運動する。前記ピストンが下死点から上死点に移動する際には、前記シリンダはシリンダポートを介して吸入ポートに接続され、該吸入ポートから作動流体を吸入する。一方、前記ピストンが上死点から下死点に移動する際には、前記シリンダは前記シリンダポートを介して吐出ポートに接続され、該吐出ポートへと作動流体を吐出する。
【0003】
従来、前記シリンダの吸入工程から吐出工程への切替の際に、前記シリンダの内部圧力の急激な変化を抑制することを目的として、吐出コンジットが設けられている。この吐出コンジットは、前記シリンダに前記吐出ポートが接続されるよりも前に、前記シリンダと前記吐出ポートとを連通するものである。しかしながら、前記吐出コンジットによって、前記シリンダと前記吐出ポートとが早い段階で連通するため、吐出圧力が大きい場合には次の問題を生じていた。すなわち、前記シリンダ内部の作動流体が十分に昇圧される前に、前記吐出コンジットが前記吐出ポートに接続されるため、該吐出ポートから前記シリンダへの作動流体の逆流が助長される。その結果、前記吐出ポートから前記シリンダへ吐出される作動流体の流量の変動が大きくなり、騒音等の原因となる脈動が大きくなっていた。
【0004】
そこで特許文献1には、前記吐出コンジットに代えて、前記シリンダと、高圧の作動流体が保持された高圧流体ラインとを連通する吐出コンジットが設けられたアキシャルピストンポンプが開示されている。この吐出コンジットによれば、前記シリンダと前記吐出ポートとの連通に先立って、前記シリンダと前記高圧流体ラインとが連通するため、前記シリンダ内部の作動流体を十分に昇圧させることができる。その結果、吐出圧力が高い場合でも、前記吐出ポートから前記シリンダへの作動流体の逆流を抑制することができ、脈動を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−159678号公報(請求項1、2頁右欄34行目から42行目、図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、吐出圧力が低い場合で、前記シリンダ内部の作動流体の昇圧が余り必要とされない場合には、前記シリンダと前記吐出ポートとが連通されない時間が必要以上に長くなる。このことにより、前記吐出ポートから前記シリンダへ吐出される作動流体の実際の流量と、前記吐出ポートから前記シリンダへ吐出される、シリンダ内部の圧力の変動を考慮しない作動流体の流量との差が大きくなり、脈動が大きくなるという問題が生じていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、吐出圧力の高低に関わらずこの脈動の抑制を図ることができるアキシャルピストンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るアキシャルピストンポンプは、ケーシングの内部に回転自在に設けられ、ピストンが往復自在に内接するシリンダが複数形成されたシリンダバレルと、前記ケーシングの内部に傾き可変に設けられ、傾きに応じたストロークで前記ピストンを往復させる斜板と、前記ピストンが下死点から上死点へと移動する間に前記シリンダに接続され、該シリンダに作動流体を吸入する吸入ポートと、前記ピストンが上死点から下死点へと移動する間に前記シリンダに接続され、該シリンダから作動流体を吐出する吐出ポートと、一方が、前記ピストンが上死点から下死点へと移動する間であって前記シリンダに前記吐出ポートが接続されるよりも前に前記シリンダに接続されるシリンダ接続孔と、一方が前記吐出ポートに接続される吐出ポート接続孔と、一定の圧力に昇圧された作動流体が保持される蓄圧孔と、前記シリンダ接続孔の他方と、前記吐出ポート接続孔の他方と、前記蓄圧孔とが接続される切替部と、前記切替部に設けられ、前記吐出ポートの内部圧力に応じて、前記シリンダ接続孔に前記吐出ポート接続孔又は前記蓄圧孔のいずれか一方を接続する切替手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
このアキシャルピストンポンプによれば、前記シリンダ接続孔に前記吐出ポート又は前記蓄圧孔のいずれか一方を接続する前記切替手段を備えているため、吐出圧力に応じて前記シリンダ接続孔の接続先を次のように切替えることができる。すなわち、吐出圧力が高い場合には、前記シリンダ接続孔を前記蓄圧孔に接続する。こうすることで、前記シリンダと前記吐出ポートとが連通する前に、前記蓄圧孔によって前記シリンダの内部を昇圧することができ、前記吐出ポートから前記シリンダへの作動流体の逆流を抑制することができる。
【0010】
一方、吐出圧力が低い場合には、前記シリンダ接続孔を前記吐出ポート接続孔に接続する。こうすることで、前記シリンダ内部の作動流体の昇圧を余り必要としない低吐出圧力において、前記シリンダと前記吐出ポートとを早期に連通することができる。
【0011】
以上のように、このアキシャルピストンポンプによれば、吐出圧力の高低に関わらず、前記シリンダから前記吐出ポートに吐出される作動流体の、幾何学的な流量と、実際の流量との差を小さくすることができ、脈動を抑制することができる。
【0012】
本発明に係るアキシャルピストンポンプのより好ましい態様としては、前記切替部は、同軸に並べて配置された第一の円柱空間と該第一の円柱空間よりも直径が小さい第二の円柱空間とを有し、前記シリンダ接続孔は、前記第二の円柱空間の、前記第一の円柱空間とは反対側の端部の円周面に開口し、前記吐出ポート接続孔は、前記第二の円柱空間の、前記第一の円柱空間側の端部の円周面に開口し、前記蓄圧孔は前記第一の円柱空間の円周面に開口し、前記切替手段は、前記第一の円柱空間に往復自在に内接する第一の切替弁と、前記第二の円柱空間に往復自在に内接する第二の切替弁と、前記第一の切替弁と前記第二の切替弁との間に設けられる作動流体流通部とを備えたスプールと、該スプールの前記第一の切替弁の端面を、前記第一の切替弁から前記第二の切替弁に向かう方向に所定の力で押圧する押圧手段とを有する。
【0013】
このアキシャルピストンポンプによれば、前記シリンダ接続孔が、前記吐出ポートの内部圧力を前記スプールのバネと接触する側とは反対側の端面に伝達する役割を果たすため、上述のアキシャルピストンポンプに加え、さらに簡易な構成で、所定の吐出圧力における前記シリンダ接続孔の接続先の切替が可能となる。
【0014】
本発明に係るアキシャルピストンポンプのより好ましい態様としては、前記切替手段は、前記シリンダ接続孔と前記吐出ポート又は前記吸入ポートとの開口面積と、前記シリンダの内部圧力と、吐出圧力とから算出される、前記シリンダ接続孔に前記吐出ポート接続孔が接続された場合の脈動の値と、前記シリンダ接続孔に前記蓄圧孔が接続された場合の脈動の値とが同一となる吐出圧力を切替圧力とし、該切替圧力よりも吐出圧力が小さい場合に、前記シリンダ接続孔に前記吐出ポート接続孔を接続し、該切替圧力よりも吐出圧力が大きい場合に、前記シリンダ接続孔に前記蓄圧孔を接続する。
【0015】
ここで、前記切替圧力よりも、前記吐出圧力が低い場合、前記シリンダ接続孔を前記吐出ポート接続孔に接続する方が、前記蓄圧孔に接続するよりも脈動が小さくなる。一方、前記切替圧力よりも、前記吐出圧力が高い場合、前記シリンダ接続孔を前記蓄圧孔に接続する方が、前記吐出ポート接続孔に接続するよりも脈動が小さくなる。このアキシャルピストンポンプによれば、前記切替圧力よりも吐出圧力が小さい場合に、前記シリンダ接続孔に前記吐出ポート接続孔を接続し、前記切替圧力よりも吐出圧力が大きい場合に、前記シリンダ接続孔に前記蓄圧孔を接続することができる。従って、より効果的に脈動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアキシャルピストンポンプは、吐出圧力の大小に関わらず脈動の低減を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1−1】図1−1は、本実施例に係るアキシャルピストンポンプをある方向から見た断面図である。
【図1−2】図1−2は、本実施例に係るアキシャルピストンポンプを、図1−1から回転軸周りに90°ずらした方向から見た断面図である。
【図2】図2は、本実施例に係るバルブプレートの、シリンダバレル側から見た平面図である。
【図3−1】図3−1は本実施例のアキシャルピストンポンプに係る、ある吐出圧力における切替手段の概要図である。
【図3−2】図3−2は、図3−1と同一の例に係る図3−1とは別の吐出圧力における切替手段の概要図である。
【図3−3】図3−3は、図3−1と同一の例に係る図3−1と図3−2とは別の吐出圧力における切替手段の概要図である。
【図4】図4は、吐出圧力が高い場合のシリンダから吐出ポートへの吐出量を示す図である。
【図5】図5は、吐出圧力が低い場合のシリンダから吐出ポートへの吐出量を示す図である。
【図6】図6は、脈動と吐出圧力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るアキシャルピストンポンプの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。下記の説明において脈動とは、アキシャルピストンポンプに備えられる複数の前記シリンダと前記吐出ポート又は前記吸入ポートとの間を流れる作動流体の総流量とシリンダバレルの回転角との関係から得られる流量曲線が示す最大値と最小値との差分をいう。この脈動は、前記シリンダの各々と前記吐出ポート又は前記吸入ポートとの間を流れる、シリンダ内部の圧力の変動を考慮しない流量(以下、幾何学的な流量と称す)と、実際の流量との差が大きいほど大きくなる。
【実施例】
【0019】
図1−1は、本実施例に係るアキシャルピストンポンプをある方向から見た断面図である。また、図1−2は、本実施例に係るアキシャルピストンポンプを、図1−1から回転軸周りに90°ずらした方向から見た断面図である。図1−1と図1−2とに示すように、本実施例に係るアキシャルピストンポンプ1には、シリンダバレル4が備えられている。このシリンダバレル4は、ケーシング2に回転可能に設けられた回転軸3にキーやスプライン等で固定されることによって、ケーシング2の内部に回転自在に設けられている。また、シリンダバレル4には、回転軸3と平行な軸を有するシリンダ5が、回転軸3の回転方向に並べて複数設けられている。
【0020】
シリンダ5には、ピストン6が往復自在に内接しており、ピストン6の頭部は、斜板7に摺動可能に接続されている。この斜板7は、ケーシング2の内部に、傾斜を自在に変えることができるように設けられると共に、回転軸3の回転方向には回転しないように設けられている。この構成により、ピストン6は、回転軸3の回転に伴って、回転軸3の周りを斜板7に沿って回転し、シリンダ5の内部を往復運動するしくみになっている。なお、ピストン6のストロークは、斜板7の傾斜を変化させることによって調整することができる。また、シリンダ5の端面には、シリンダポート8の一端が接続されており、このシリンダポート8の他端は、シリンダバレル4の斜板7とは反対側の端面に開口している。
【0021】
シリンダバレル4の斜板7とは反対側の端面には、シリンダ5の吸入工程と吐出工程との切替を行うバルブプレート9の一方の面が摺動可能に接触して設けられている。また、バルブプレート9の他方の面には、ケーシング2に固定されたエンドプレート13が固定されて設けられている。バルブプレート9とエンドプレート13には、吐出ポート10と吸入ポート11とシリンダ接続孔12とが設けられている。
【0022】
以下、バルブプレート9の構成を、図2を参照して説明する。図2は、本実施例に係るバルブプレートの、シリンダバレル側から見た平面図である。このバルブプレート9のシリンダバレル4に接触する側の面には、上述した吐出ポート10と吸入ポート11とシリンダ接続孔12と圧力伝達孔18とが、シリンダポート8の回転軌道に沿って開口している。ここで、ピストン6が上死点に位置している時のシリンダバレル4の回転角をθ=0°とし、ピストン6が下死点に位置している時のシリンダバレル4の回転角をθ=180°とする。
【0023】
吐出ポート10は、各シリンダ5に内接するピストン6が上死点から下死点に移動する間に、シリンダポート8を介してシリンダ5と連通し、シリンダ5から吐出される作動流体をポンプの外へ吐出するものである。なお、吐出ポート10は、吐出ポート10のシリンダバレル4の回転方向後方における端部に吐出側ノッチ10aを有している。この吐出側ノッチ10aは、シリンダバレル4の回転方向後方側になるに従い、開口面積が小さくなるように設けられている。吐出側ノッチ10aは、シリンダポート8と吐出ポート10とが連通する際におけるシリンダ5の内部圧力の急激な変化を抑制する働きを有する。
【0024】
吸入ポート11は、各シリンダ5に内接するピストン6が下死点から上死点に移動する間に、シリンダポート8を介してシリンダ5と連通し、シリンダ5に作動流体を吸入するものである。なお、吸入ポート11は、吸入ポート11のシリンダバレル4の回転方向後方における端部に吸入側ノッチ11aを有している。この吸入側ノッチ11aは、シリンダバレル4の回転方向後方側になるに従い、開口面積が小さくなるように設けられている。吸入側ノッチ11aは、シリンダポート8と吸入ポート11とが連通する際におけるシリンダ5の内部圧力の急激な変化を抑制する働きを有する。
【0025】
シリンダ接続孔12は、各ピストン6が上死点から下死点へと移動する間であって、シリンダ5に吐出ポート10が接続されるよりも前に、シリンダポート8を介してシリンダ5に連通される。すなわち、シリンダ接続孔12は、バルブプレート9のシリンダバレル4が接触する側の面において、ピストン6の上死点側の、シリンダポート8の回転軌道における吸入ポート11と吐出ポート10との間に設けられている。
【0026】
以下、エンドプレート13の構成について図1−1と図1−2とを参照して説明する。エンドプレート13には、上述した吐出ポート10と吸入ポート11とシリンダ接続孔12とともに、切替部14と、吐出ポート接続孔15と、蓄圧孔16とが備えられている。また、この切替部14には、シリンダ接続孔12に吐出ポート接続孔15又は蓄圧孔16のいずれか一方を接続するための切替手段22が設けられている。
【0027】
切替部14は、シリンダ状に形成されている。切替部14の一方の端部はエンドプレート13の外面に開口している。また、エンドプレート13の円周面にはシリンダ接続孔12と吐出ポート接続孔15と蓄圧孔16とが開口して接続されている。吐出ポート接続孔15の他端は、吐出ポート10に開口している。蓄圧孔16には、付加容積17が形成されると共に、蓄圧孔16の内部には、シリンダ5と連通を繰返して、吐出圧力と同等の圧力となった作動流体が保持されている。すなわち、付加容積17の圧力は、シリンダ5と付加容積17との連通の繰返しにより、徐々に吐出圧力に近づき、最終的には吐出圧力と同等の圧力に保持される。このことによって、吐出圧力の変化があった場合でも、付加容積17内の圧力は常にこの吐出圧力と同等に保持されるため、吐出圧力に合わせたシリンダ5内部の昇圧が可能であり、圧力変動及び吐出流量変動抑制に非常に有効である。
【0028】
切替手段22は、切替部14に往復自在に内接し、かつ第一の切替弁19a及び第二の切替弁19bを有する円筒形状のスプールと、切替部14のエンドプレート13外面の開口を封止するカバー21と、このカバー21と前記スプールとの間に介在し、かつ前記スプールを押圧するバネ20とを有する。従って、前記スプールの一方の端面には、吐出ポート接続孔15を介して吐出ポート10の内部圧力が作用し、前記スプールの他方の端面にはバネ20の反力が作用する。このことにより、吐出ポート10の内部圧力の変化によって、前記スプールが切替部14の内部を移動するしくみになっている。なお、本実施例においては、バネ20を押圧手段として用いているが、これに限られず、例えばゴム等の弾性体であっても、空気バネであってもよい。
【0029】
次に、切替部14と切替手段22との構造を、図3−1及び図3−2及び図3−3を用いて説明する。ここで、図3−1は本実施例のアキシャルピストンポンプに係る、ある吐出圧力における切替手段の概要図である。図3−2は、図3−1と同一の例に係る図3−1とは別の吐出圧力における切替手段の概要図である。図3−3は、図3−1と同一の例に係る図3−1と図3−2とは別の吐出圧力における切替手段の概要図である。
【0030】
切替部14は、第一の円柱空間14aと第二の円柱空間14bとを有し、この第一の円柱空間14aと第二の円柱空間14bとは同軸に並べて配置されている。また、第一の円柱空間14aの直径は、第二の円柱空間14bの直径よりも大きく設定されている。このことによって、第一の円柱空間14aと第二の円柱空間14bとの間に段差が形成されている。第一の円柱空間14aの、第二の円柱空間14bとは反対側の端面はエンドプレート13の外面に開口している。また、第一の円柱空間14aの円周面には蓄圧孔16が開口して接続されており、第二の円柱空間14bの円周面にはシリンダ接続孔12と吐出ポート接続孔15とが開口して接続されている。より具体的には、シリンダ接続孔12は、第二の円柱空間14bの、第一の円柱空間14a側の端部に開口し、吐出ポート接続孔15は第二の円柱空間14bの、第一の円柱空間14aとは反対側の端部に開口している。
【0031】
スプール19は、切替部14の第一の円柱空間14aに内接する第一の切替弁19aと、切替部14の第二の円柱空間14bに内接する第二の切替弁19bと、第一の切替弁19aと第二の切替弁19bとの間に設けられた作動流体流通部19cとを有する。この作動流体流通部19cは、第一の切替弁19aと第二の切替弁19bと、エンドプレート13に囲まれて作動流体が流通する空間となり、この空間によってシリンダ接続孔12と、吐出ポート接続孔15又は蓄圧孔16のいずれか一方とが連通される。また、第一の切替弁19aの第二の切替弁19bとは反対側の端面は、バネ20によって所定の圧力で押圧されている。
【0032】
図3−1では、スプール19によって、シリンダ接続孔12と蓄圧孔16とが連通されている。この時、スプール19には、第一の切替弁19aから第二の切替弁19bの方向に、第一の切替弁19aの第二の切替弁19bとは反対側の端面に働くバネ20の反力と、第二の切替弁19bの第一の切替弁19a側の端面に働く作動流体の圧力とが働いている。また、スプール19の第二の切替弁19bから第一の切替弁19aの方向には、第一の切替弁19aの第二の切替弁19b側の端面に働く作動流体の圧力と、第二の切替弁19bの第一の切替弁19aとは反対側の端面に働く吐出ポート10の内部圧力すなわち吐出圧力が働いている。図3−1に示す状態においては、スプール19に働く、第一の切替弁19aから第二の切替弁19bの方向の圧力と、その反対方向の圧力とが、スプール19によってシリンダ接続孔12と蓄圧孔16とが連通された状態でつり合っている。
【0033】
よって、図3−1の状態において、吐出圧力が低くなると、スプール19に働く第一の切替弁19aから第二の切替弁19bの方向に働く圧力の方が、その反対方向の圧力よりも大きくなる。それに伴い、スプール19は、切替部14の第一の円柱空間14aから第二の円柱空間14bの方向へと移動して、図3−2の状態を経て図3−3の状態となる。
【0034】
図3−3においては、スプール19によって、シリンダ接続孔12と吐出ポート接続孔15とが連通されている。この時、スプール19には、第一の切替弁19aの第二の切替弁19bとは反対側の端面に働くバネ20の反力と、第二の切替弁19bの第一の切替弁19a側の端面に働く吐出圧力とによる、第一の切替弁19aから第二の切替弁19bの方向の圧力が、第一の切替弁19aの第二の切替弁19b側の端面に働く吐出圧力よりも大きいか、または等しくなっている。第二の切替弁19bの第一の切替弁19aとは反対側の端面は、第二の円柱空間14bの端面と接触し、第一の切替弁19aのバネ20と接触する側とは反対側の端面は、上述した第一の円柱空間14aと第二の円柱空間14bとの間に形成される段差に接触している。
【0035】
図3−3の状態において、吐出圧力が高くなると、スプール19に働く第一の切替弁19aから第二の切替弁19bの方向に働く圧力の方が、その反対方向の圧力よりも小さくなる。それに伴い、スプール19は、第二の円柱空間14bから切替部14の第一の円柱空間14aの方向へと移動して、図3−2の状態を経て図3−1の状態となる。
【0036】
つまり、吐出圧力が高い場合には、シリンダ接続孔12に蓄圧孔16が接続され、吐出圧力が低い場合には、シリンダ接続孔12に吐出ポート接続孔15が接続される。なお、アキシャルピストンポンプ1において、切替手段22はスプール19とバネ20とカバー21とを備えているが、必ずしもこれに限定されることはなく、例えば電磁弁を用いてもよい。しかしながら、アキシャルピストンポンプ1の切替手段22によれば、圧力センサ等を必要としない簡易な構成で、所定の吐出圧力におけるシリンダ接続孔12の接続先の切替が可能となる点で好ましい。また、図3−1から図3−3に係る切替部14及び切替手段22によれば簡易な構成で、所定の吐出圧力におけるシリンダ接続孔12の接続先の切替が可能となるので好ましい。
【0037】
以下、アキシャルピストンポンプ1の、特にピストン6の吐出工程における動作について説明する。回転軸3の回転に伴い、シリンダバレル4が回転すると、シリンダ5の内部をピストン6が往復運動する。ピストン6が上死点から下死点に移動する間に、シリンダ5はまずシリンダポート8を介してシリンダ接続孔12に連通する。次いで、シリンダ5はシリンダポート8を介して吐出ポート10に連通する。
【0038】
ここで、吐出ポート10の内部圧力が低い場合と高い場合、すなわち吐出圧力が高い場合と低い場合とにおけるシリンダ5から吐出ポート10への作動流体の吐出流量について説明する。図4は、吐出圧力が高い場合のシリンダから吐出ポートへの吐出流量を示す図である。なお、図4の縦軸はシリンダ5から吐出される作動流体の単位時間当たりの量を示し、横軸はシリンダバレル4の回転角を示す。また、図4中の破線は幾何学的な吐出流量を示し、一点鎖線はシリンダ接続孔12が吐出ポート10に接続された場合の実際の吐出流量を示し、実線はシリンダ接続孔12が蓄圧孔16に接続された場合の実際の吐出流量を示す。
【0039】
吐出圧力が高い場合に、シリンダ接続孔12を吐出ポート接続孔15に接続した場合、シリンダ5の内部の作動流体が十分に昇圧される前にシリンダ5と吐出ポート10とが連通するため、図4の一点鎖線で示すように吐出ポート10からシリンダ5に逆流する作動流体の流量が大きくなってしまう。
【0040】
一方、アキシャルピストンポンプ1では、吐出圧力が高い場合、シリンダ接続孔12は、切替手段22によって蓄圧孔16に接続されるため、シリンダ5の吐出流量の挙動は実線のようになる。すなわち、シリンダバレル4が回転角θ=0°を通過し吸入工程から吐出工程に移ると、シリンダ5はシリンダポート8を介してシリンダ接続孔12に接続される。シリンダ接続孔12は、切替手段22によって蓄圧孔16に接続されているため、シリンダポート8が吐出ポート10に開口するまでの間、シリンダ5から吐出ポート10に吐出される作動流体の流量は0になる。この間シリンダ5には、蓄圧孔16からの作動流体の供給により圧力が十分に蓄えられるため、シリンダポート8が吐出ポート10に開口した場合に、吐出ポート10からシリンダ5に逆流する作動流体の流量が抑制される。
【0041】
このことにより、アキシャルピストンポンプ1によれば、吐出圧力が高い場合、図4中の破線で示すシリンダ5から吐出ポート10に吐出される、幾何学的な吐出流量と、実際の吐出流量との差を小さくすることができる。従って、振動等の原因となる脈動を低減することができる。
【0042】
図5は、吐出圧力が低い場合のシリンダから吐出ポートへの吐出流量を示す図である。なお、図5の縦軸はシリンダ5から吐出される作動流体の単位時間当たりの量を示し、横軸はシリンダバレル4の回転角を示す。また、図5中の破線は幾何学的な吐出流量を示し、実線はシリンダ接続孔12が吐出ポート10に接続された場合の実際の吐出流量を示し、一点鎖線はシリンダ接続孔12が蓄圧孔16に接続された場合の実際の吐出流量を示す。
【0043】
吐出圧力が低い場合に、シリンダ接続孔12を蓄圧孔16に接続した場合、図5中の一点差線に示すように次の問題が生じる。すなわち、シリンダ5内部の作動流体の昇圧が余り必要とされないにも関わらず、シリンダ5と吐出ポート10とが連通されない時間、つまりシリンダ5から吐出ポート10に吐出される作動流体の流量が0である時間が長くなる。この結果、図5中の破線で示す、シリンダ5から吐出ポート10に吐出される幾何学的な吐出流量と、実際の吐出流量との差が大きくなってしまう。
【0044】
一方、アキシャルピストンポンプ1では、吐出圧力が低い場合、切替手段22によってシリンダ接続孔12と吐出ポート接続孔15とが接続されるため、シリンダ5の吐出量の挙動は実線のようになる。すなわち、シリンダバレル4が回転角θ=0°を通過し吸入工程から吐出工程に移ると、シリンダ5はシリンダポート8を介してシリンダ接続孔12に接続される。シリンダ接続孔12は、切替手段22によって吐出ポート接続孔15に接続されているため、シリンダ5の内部圧力が吐出ポート10の内部圧力よりも大きくなるまでの間、吐出ポート10内の作動流体がシリンダ5に逆流する。しかしながら、吐出圧力が低いため、シリンダ5の内部圧力は、早期に吐出ポート10の内部圧力よりも大きくなる。その結果、吐出ポート10からシリンダ5に逆流する作動流体の流量は少量で済む。
【0045】
このことにより、アキシャルピストンポンプ1によれば、吐出圧力が低い場合にも、図5中の実線で示すように、シリンダ5から吐出ポート10に吐出される幾何学的な吐出流量(図5中の破線)と、実際の吐出流量との差を小さくすることができる。つまり、アキシャルピストンポンプ1によれば、切替手段22を備えることにより、シリンダ接続孔12の接続先を変えることができる。その結果、高吐出圧力時及び低吐出圧力時のいずれにおいても、シリンダ5から吐出ポート10に吐出される、幾何学的な吐出流量と、実際の吐出流量との差を小さくすることができる。
【0046】
以下、切替手段22によって、シリンダ接続孔12の接続先を切替えるタイミングについて説明する。図6は、脈動と吐出圧力との関係を示す図である。なお、図6の曲線aは、シリンダ接続孔12に吐出ポート接続孔15を接続した場合を示し、図6の曲線bは、シリンダ接続孔12に蓄圧孔16を接続した場合を示す。また、図6は計算によって得られたものであるが、実験によっても同様の挙動が得られることを確認している。
【0047】
図6に示すように、a曲線とb曲線とは、ある吐出圧力において交わっており、この吐出圧力を境にa曲線とb曲線との脈動の大小が入れ替わっている。つまり、a曲線とb曲線とが交わる吐出圧力よりも、吐出圧力が低い場合、シリンダ接続孔12を吐出ポート接続孔15に接続する方が、蓄圧孔16に接続するよりも脈動が小さくなる。一方、a曲線とb曲線とが交わる吐出圧力よりも、吐出圧力が高い場合、シリンダ接続孔12を蓄圧孔16に接続する方が、吐出ポート接続孔15に接続するよりも脈動が小さくなる。従って、a曲線とb曲線との交点における吐出圧力を、シリンダ接続孔12の接続先を、吐出ポート接続孔15と蓄圧孔16との間で切替える際の切替圧力とするのが、脈動を抑制する上で効果的である。
【0048】
具体的には、吐出圧力が切替圧力よりも低い場合には、シリンダ接続孔12を吐出ポート接続孔15に接続し、吐出圧力が切替圧力よりも高い場合には、シリンダ接続孔12を蓄圧孔16に接続する。切替手段22においては、スプール19に形成される第一の通路23によるシリンダ接続孔12と蓄圧孔16との連通と、第二の通路24によるシリンダ接続孔12と吐出ポート10との連通とが切替圧力を境に切替られるように、バネ20のバネ定数と長さとを設定する。
【0049】
ここで脈動は、上述した通り、アキシャルピストンポンプ1に備えられる複数のシリンダ5と吐出ポート10又は吸入ポート11との間を流れる作動流体の総流量と、シリンダバレル4の回転角との関係から得られる流量曲線が示す最大値と最小値との差分である。つまり脈動は、各シリンダ5から吐出ポート10又は吸入ポート11への作動流体の流量から求めることができる。
【0050】
この各シリンダ5からの流量は、吐出工程においては、シリンダポート8と吐出ポート10との開口面積と、シリンダ5の内部圧力と吐出ポート10の内部圧力との差分とを用いて求めることができる。なお、シリンダ接続孔12が吐出ポート接続孔15と連通されている場合には、上述のシリンダポート8と吐出ポート10との開口面積にシリンダポート8とシリンダ接続孔12との開口面積も含める。また、吸入工程においては、シリンダポート8と吸入ポート11との開口面積と、シリンダ5の内部圧力と吸入ポート11の内部圧力との差分とを用いて求めることができる。なお、吸入ポート11の内部圧力は大気圧力とほぼ等しくなっている。
【0051】
すなわち脈動は、シリンダポート8と吐出ポート10又は吸入ポート11との開口面積と、シリンダ5の内部圧力と、吐出ポートの内部圧力つまり吐出圧力との3つのパラメータによって算出することができる。上述した切替圧力は、これら3つのパラメータから求めることができる、シリンダ接続孔12に吐出ポート10を接続した場合の脈動の値と、同じく上述の3つのパラメータから求めることができる、シリンダ接続孔12に蓄圧孔16を接続した場合の脈動の値とが同一となる吐出圧力とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明に係るアキシャルピストンポンプは、吐出圧力の高低に関わらず脈動を低減するのに有用であり、特に、低い吐出圧力が必要な場合から、高い吐出圧力が必要な場合に亘って、幅広く使用される場合に適している。
【符号の説明】
【0053】
1 アキシャルピストンポンプ
2 ケーシング
3 回転軸
4 シリンダバレル
5 シリンダ
6 ピストン
7 斜板
8 シリンダポート
9 バルブプレート
10 吐出ポート
10a 吐出側ノッチ
11 吸入ポート
11a 吸入側ノッチ
12 シリンダ接続孔
13 エンドプレート
14 切替部
14a 第一の円柱空間
14b 第二の円柱空間
15 吐出ポート接続孔
16 蓄圧孔
17 付加容積
19 スプール
19a 第一の切替弁
19b 第二の切替弁
20 バネ
21 カバー
22 切替手段
23 第一の通路
24 第二の通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングの内部に回転自在に設けられ、ピストンが往復自在に内接するシリンダが複数形成されたシリンダバレルと、
前記ケーシングの内部に傾き可変に設けられ、傾きに応じたストロークで前記ピストンを往復させる斜板と、
前記ピストンが下死点から上死点へと移動する間に前記シリンダに接続され、該シリンダに作動流体を吸入する吸入ポートと、
前記ピストンが上死点から下死点へと移動する間に前記シリンダに接続され、該シリンダから作動流体を吐出する吐出ポートと、
一方が、前記ピストンが上死点から下死点へと移動する間であって前記シリンダに前記吐出ポートが接続されるよりも前に前記シリンダに接続されるシリンダ接続孔と、
一方が前記吐出ポートに接続される吐出ポート接続孔と、
一定の圧力に昇圧された作動流体が保持される蓄圧孔と、
前記シリンダ接続孔の他方と、前記吐出ポート接続孔の他方と、前記蓄圧孔とが接続される切替部と、
前記切替部に設けられ、前記吐出ポートの内部圧力に応じて、前記シリンダ接続孔に前記吐出ポート接続孔又は前記蓄圧孔のいずれか一方を接続する切替手段とを備えたことを特徴とするアキシャルピストンポンプ。
【請求項2】
前記切替部は、同軸に並べて配置された第一の円柱空間と該第一の円柱空間よりも直径が小さい第二の円柱空間とを有し、
前記シリンダ接続孔は、前記第二の円柱空間の、前記第一の円柱空間とは反対側の端部の円周面に開口し、
前記吐出ポート接続孔は、前記第二の円柱空間の、前記第一の円柱空間側の端部の円周面に開口し、
前記蓄圧孔は前記第一の円柱空間の円周面に開口し、
前記切替手段は、
前記第一の円柱空間に往復自在に内接する第一の切替弁と、前記第二の円柱空間に往復自在に内接する第二の切替弁と、前記第一の切替弁と前記第二の切替弁との間に設けられる作動流体流通部とを備えたスプールと、
該スプールの前記第一の切替弁の端面を、前記第一の切替弁から前記第二の切替弁に向かう方向に所定の力で押圧する押圧手段とを有することを特徴とする請求項1に記載のアキシャルピストンポンプ。
【請求項3】
前記切替手段は、前記シリンダ接続孔と前記吐出ポート又は前記吸入ポートとの開口面積と、前記シリンダの内部圧力と、吐出圧力とから算出される、前記シリンダ接続孔に前記吐出ポート接続孔が接続された場合の脈動の値と、前記シリンダ接続孔に前記蓄圧孔が接続された場合の脈動の値とが同一となる吐出圧力を切替圧力とし、
該切替圧力よりも吐出圧力が小さい場合に、前記シリンダ接続孔に前記吐出ポート接続孔を接続し、該切替圧力よりも吐出圧力が大きい場合に、前記シリンダ接続孔に前記蓄圧孔を接続することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか1項に記載のアキシャルピストンポンプ。


【図1−1】
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【図1−2】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−236847(P2011−236847A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110186(P2010−110186)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】