説明

アクスル装置

【課題】 左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングに溜められている潤滑油の温度を利用して、デフボディ内に溜められている潤滑油の温度を低下させるようにしたアクスル装置を提供する。
【解決手段】 デフボディ2b内の上部には、リング歯車11によって掻き上げられた潤滑油の一部を一時的に収納する一時保持タンク33が配設されている。一時保持タンク33の底部側には、デフボディ2bを貫通した開口34が連通している。開口34はデフボディ2bの外部に配設した不図示の配管に連通しており、配管は左右のアクスルハウジング2c,2aの室内と連通している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デフボディ内に溜められている潤滑油の冷却を行えるアクスル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ホイール駆動の車両においては、トランスミッションを介してエンジンによって駆動される駆動軸は、フロントアクスルやリヤーアクスルなどのアクスル装置の入力側に連結されている。アクスル装置の入力側には、デファレンシャルが設けられており、デファレンシャルによって駆動軸の回転は左右一対の伝動軸にそれぞれ伝達される。各伝動軸に伝達された回転は、車輪を駆動するアクスル軸にそれぞれ伝達されることになる。また、少なくとも一方の伝動軸には湿式の多板ブレーキ装置が設けられている。
【0003】
デファレンシャルや湿式の多板ブレーキ装置は、デフボディ内に内包されており、デフボディ内には、デファレンシャルや湿式の多板ブレーキ装置等に対する潤滑や冷却を行う潤滑油が溜められている。
【0004】
アクスル装置において、特に、走行車両の制動時には、多板ブレーキ装置のブレーキディスクやブレーキリング等において熱が発生する。このため、多板ブレーキ装置における過剰な温度上昇に伴って、デフボディ内の潤滑油の温度も上昇していくことになる。
【0005】
このため従来から、外部ポンプを用いてデフボディ内の潤滑油を吸い上げ、多板ブレーキ装置等の上部から吸い上げた潤滑油を供給してこれらを冷却させながら、デフボディ内の潤滑油を循環させた構成のもの(特許文献1参照)が提案されている。また、デファレンシャルにおける受動用のリングギヤで、デフボディ内に溜められている潤滑油を掻き上げて、多板ブレーキ装置等に潤滑油を吹きかけるようにした構成のもの(特許文献2参照)なども提案されている。
【0006】
特許文献1に記載されたもののように、外部ポンプを用いてデフボディ内の潤滑油を循環させた構成のものでは、循環路の途中に配設したオイルクーラ等の冷却装置で、循環している潤滑油を冷却することは可能である。しかし、潤滑油を循環させたり冷却したりするためには、ポンプや冷却装置をアクスル装置の外部に別途設けておかなければならず、ポンプや冷却装置を配設するための設置スペースを別途必要とする。
【0007】
また、デフボディ内に溜められている潤滑油をリングギヤで掻き上げて、多板ブレーキ装置等に吹きかけるアクスル装置では、潤滑油自体に対する冷却は行われていないので、多板ブレーキ装置等で潤滑油が加熱されていくと、潤滑油自体の温度上昇を抑えておくことが難しくなる。
【0008】
特許文献2に記載されたアクスル装置を本願発明における従来例1として、図6に示すアクスル装置の縦断面図を用いながら説明を更に加える。特許文献2のアクスル装置では、潤滑油を吸い上げるためのポンプをアクスル装置の外部に配設しないですむ。外部ポンプの代りに、デファレンシャル61における受動用のリングギヤ62を用いて、デフボディ60内に溜められている潤滑油を掻き上げる構成となっている。掻き上げられた潤滑油は、デフボディ60内の上部に取り付けた潤滑油流動手段64において収集され、多板ブレーキ装置63上に流動されていくことになる。
【0009】
潤滑油流動手段64は、受動用のリングギヤ62で掻き上げた潤滑油を受入れる収集受入れ口67を両側壁の一部に形成した樋状の第1オイルガター65と、第1オイルガター65から流入した潤滑油を多板ブレーキ装置63上に流出させる樋状の第2オイルガター66等を備えた構成となっている。第2オイルガター66は筒体68を介して貫通孔69に連通しており、貫通孔69の終端からは潤滑油を多板ブレーキ装置63上に掛け流すことができる。
【0010】
このように構成されているので、リングギヤ62で掻き上げた潤滑油を用いて、多板ブレーキ装置63を冷却することができる。多板ブレーキ装置63を冷却した潤滑油は、戻し孔70を通してデフボディ60内に戻され、再度循環して使用されることになる。
【0011】
しかし、特許文献2のアクスル装置では、潤滑油はデフボディ60と多板ブレーキ装置を収納したハウジングとの間を移動しているだけであって、多板ブレーキ装置等の発熱で潤滑油が加熱されていくと、潤滑油自体の温度上昇を抑えておくことが難しくなる。
【0012】
このため、特に、デフボディ内に溜められている潤滑油を冷却するというものではないが、ケーシング内の潤滑油をモータで駆動されるギヤによって掻き上げた後、オイルクーラで冷却してからケーシング内に戻すモータの冷却装置(特許文献3参照。)が提案されている。
【0013】
特許文献3に記載された冷却装置を本発明における従来例2として、図7には冷却装置の正面から見た縦断面図を示している。ケーシング81内にはモータ82が設けられており、モータ82の回転はギヤ83を介してギヤ84に伝達される。ケーシング81の内部には、潤滑油保持板87が設けられている。潤滑油保持板87は、モータ82の外周形状に沿って円弧状の湾曲部と、湾曲部の自由端から略水平に延ばされた直線部とを備えた形状となっている。
【0014】
潤滑油保持板87とケーシング81の側板85及び背板86とによって取り囲まれた空間が、ギヤ84によって掻き上げられた潤滑油を溜めておく第2の潤滑油溜まり98として構成されている。また、ケーシング81内には第1の潤滑油溜まり97が形成されており、第1の潤滑油溜まり97にはギヤ84の一部が浸漬している。
【0015】
ケーシング81の側板85を貫通した通路90は、第1の潤滑油溜まり97に連通しており、側板85を貫通した通路91は、第2の潤滑油溜まり98に連通している。更に、側板85の一部をくり抜いてウォータジャケット88が設けられており、ウォータジャケット88は、通路91と通路90との間に配設されている。
【0016】
側板85の外面には、オイルクーラ89が取り付けられている。オイルクーラ89には、ウォータジャケット88内に連通する通路92,93が形成されており、通路92には冷却水入口95が接続されている。また、通路93には冷却水出口96が接続されている。
【0017】
また、オイルクーラ89内には通路94が形成されており、通路94の両端は通路91と通路90とに連通している。オイルクーラ89に冷却水を流すことによって、ウォータジャケット88によるケーシング81の冷却を行うとともに、第2の潤滑油溜まり98から第1の潤滑油溜まり97に戻す潤滑油の冷却を行うことができる。
【特許文献1】特開2006−292071号公報
【特許文献2】特開2001−271916号公報
【特許文献3】特開2004−282901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献3に記載されたモータの冷却装置では、ケーシング81にウォータジャケット88やオイルクーラ89を設けておかなければならない。しかも、ケーシング81内には、ウォータジャケット88を収納しておく空間を確保しておかなければならず、ケーシング81の容積が増大してしまうことになる。また、オイルクーラ89に対して冷却水を給排すための装置等を別途必要とする。このように、容積が増大したケーシング81を始めとして、ウォータジャケット88、オイルクーラ89及び冷却水を給排すための装置等を配設しておくためには、接地スペースの確保が必要となる。
【0019】
ところで、アクスル装置内に溜められている潤滑油としては、デフボディ内に溜められている潤滑油の他にも、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングの中にも潤滑油が溜められている。
そこで本発明者は、デフボディ内に溜められている潤滑油は、多板ブレーキ装置等の高温となる部材に供給されることになるので高温となっているだろうが、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジング内に溜められている潤滑油は、アクスル軸を支承する軸受け部等に供給されているので、デフボディ内に溜められている潤滑油の温度に比べて低い温度状態となっているのではないかと考えた。
【0020】
ホイール駆動の車両の大きさや走行速度によっても異なるが、本発明者によって行われた実験によると、20〜30Km/hの走行時には、デフボディ内の潤滑油の温度は、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングにおける潤滑油の温度よりも40度以上高くなっていることが分かった。
【0021】
このことから本発明者が予想したとおり、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングに溜められている潤滑油の温度は、デフボディ内に溜められている潤滑油の温度に比べて低い状態となっている。
そこで、本願発明では、オイルクーラを用いることなく、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングに溜められている潤滑油の温度を利用して、デフボディ内に溜められている潤滑油の温度を低下させるようにしたアクスル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本願発明の課題は請求項1〜3に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明では、エンジンによって駆動される駆動軸の回転を、左右一対の伝動軸に伝達するデファレンシャルと、前記各伝動軸によって駆動されるアクスル軸と、を備えたアクスル装置であって、
前記デファレンシャルを内包するデフボディの上部部位に形成した開口と、前記デファレンシャルのリング歯車が掻き上げたデフボディ内の潤滑油を、前記開口からアクスル装置の外部に導く配管と、を有し、前記配管が、前記開口に連通した一端部を上流側とした下り勾配の管路として配設され、前記配管の他端部が、前記デフボディの左右に接続した左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングの内部と連通してなることを最も主要な特徴となしている。
【0023】
また、本願発明では上記発明において、前記リング歯車が掻き上げた潤滑油の一部を一時的に収納する一時保持タンクの構成を特定したことを主要な特徴となしている。
更に、本願発明では上記発明において、前記開口の形成部位を特定したことを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0024】
本願発明では、デファレンシャルのリング歯車が掻き上げたデフボディ内の潤滑油を、アクスル装置の外部に配設した下り勾配の配管を介して、デフボディの左右に接続している左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングの内部に流入させることができる。
【0025】
配管の配置構成としては、配管の一端部をデフボディの上部部位に形成した開口と連通させ、他端部を二又に分岐させて、前記デフボディの左右に接続した左アクスルハウジング内及び右アクスルハウジング内とにそれぞれ連通した配置構成とすることができる。
あるいは、二つの独立した配管を用いて、各配管の一端部をデフボディの上部部位に形成した開口と連通させ、一方の配管における他端部を、前記デフボディに接続した左アクスルハウジング内に連通させ、他方の配管における他端部を、前記デフボディに接続した右アクスルハウジング内に連通させた配置構成とすることもできる。
【0026】
これらの構成によって、リング歯車によって掻き上げられてデフボディの上部部位に形成した開口から流出した潤滑油は、配設した配管の高低差を利用して重力に従い、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングの内部に流入することができる。しかも、配管はアクスル装置の外部に配設されているので、配管内を流れる潤滑油は、配管を介して空冷されながら配管内を流れることになり、配管内を流れるだけでも潤滑油の冷却を行うことができる。
【0027】
そして、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングの内部に流入した潤滑油は、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングの内部に溜められている潤滑油によって更に冷却されることになる。デフボディと左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングとは、内部空間において連通した構成となっているので、左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングにおける潤滑油の貯留量が増大すれば、空間的に連通しているところを通って、デフボディ内に冷却された潤滑油が戻っていくことになる。
このように、オイルクーラ等の冷却装置を用いることなく、デフボディ内に溜まっている潤滑油の冷却を行わせることができる。
【0028】
また、本願発明では、デフボディ内に、リング歯車によって掻き上げられた潤滑油の一部を一時的に溜めておく一時保持タンクを形成し、一時保持タンクに開口を連通させておくことができる。このように構成することにより、配管内を流す潤滑油の流量を増大させることができる。
【0029】
即ち、一時保持タンクを形成することによって、リング歯車によって掻き上げられた潤滑油を一時保持タンクによって集め易くなるので、配管と接続している開口の開口面積を増大させたことと同様の作用効果を得ることができる。従って、リング歯車によって掻き上げられた潤滑油の収集量を増大させることができる。また、一時保持タンクを形成してあるデフボディの外表面の部位にフィン等を形成しておくことによって、一時保持タンクに溜められている間においても潤滑油の冷却を行うことができる。
【0030】
更に、本願発明では、開口の形成部位として、リング歯車の回転軸を中心として前記リング歯車を放射方向に延長したデフボディの上部部位における領域内又は同領域の近傍に、少なくとも1つ以上形成しておくことができる。リング歯車の回転軸を含んだ鉛直面を面対象とした部位に、一対の開口をそれぞれ形成しておくことによって、リング歯車における正逆転のいずれの回転時においても、リング歯車によって掻き上げられた潤滑油を効率よく開口から配管内に流入させていくことができる。
【0031】
またこの構成において、開口の前面側に一時保持タンクを形成しておくこともできる。開口の前面側に一時保持タンクを形成しておくことで、リング歯車によって掻き上げられた潤滑油の収集を容易に効率的に行うことができる。更には、デフボディ内における開口の下唇側を突き出させた開口形状としておくことによっても、一時保持タンクの代わりに下唇側でリング歯車によって掻き上げられた潤滑油を収集しやすくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明に係わるアクスル装置の構成としては、以下で説明する形状、配置構成以外にも本願発明の課題を解決することができる形状、配置構成であれば、それらの形状、配置構成を採用することができるものである。このため、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【実施例1】
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係わるアクスル装置の平面図であり、図2は、アクスル装置の一部内部構成を示す平面図である。また、デファレンシャル6等の要部における縦断面の拡大図を図3に示している。
【0034】
図1に示すように、図示せぬ車体フレームによって懸架されているアクスル装置1は、アクスルハウジング2によってカバーされている。図2で示すように、アクスルハウジング2としては、デファレンシャル6及び湿式多板ブレーキ装置7等を収納するデフボディ2bと、遊星歯車式減速機8等を収納する右アクスルハウジング2a及び左アクスルハウジング2cとを備えている。
尚、図2では、右アクスルハウジング2a及び左アクスルハウジング2cの内部構成の一部を省略して示している。
【0035】
デフボディ2b内の構成及び左右アクスルハウジング2c ,2a内の構成については、図2、図3を用いて説明する。デフボディ2bは、三方向に開口する開口部を有しており、一つの開口部は駆動軸開口部42として構成され、残りの二つの開口部は左右一対のアクスル開口部43として構成されている。駆動軸開口部42は、デフボディ2bに着脱可能に連結されるピニオンケージ19によって閉塞可能に構成されている。
【0036】
ピニオンケージ19には、デファレンシャル6のリング歯車11と常時噛合している駆動ピニオン歯車10を備えた駆動軸3が回転自在に支障されている。駆動軸3の端部にはカップリング48が固定されており、トランスミッション等を介してエンジンの回転を伝えるプロペラシャフトと連結することができる。
【0037】
デファレンシャル6は、デファレンシャルケース12と、デファレンシャルケース12に連結されたリング歯車11とを備えており、駆動軸3によってリング歯車11が回転すると、デファレンシャルケース12がリング歯車11と同芯状に回転することができる。デファレンシャルケース12には、デファレンシャルケース12内に向かって立設したスパイダ13を介して遊転自在に支障された一対のピニオン歯車14と、一対のピニオン歯車14と常時噛合している一対のサイド歯車15とが設けられている。
【0038】
一対のサイド歯車15は、それぞれ左右一対の伝動軸4に対して同一軸心となるようにスプライン結合しており、左右一対の伝動軸4とデフボディ2bとの間には、それぞれ湿式多板ブレーキ装置7が設けられている。湿式多板ブレーキ装置7は、各伝動軸4に対して一体的に回転し、各伝動軸4の軸方向に対して摺動可能なブレーキディスク18と、ブレーキディスク18を押圧挟持するブレーキリング17と、ブレーキリング17に押圧力を付与するピストン21と、を備えた構成となっている。また、図示はしていないが、ピストン21に対してブレーキリング17の押圧力を解除するバネが設けられている。
【0039】
ピストン21は、ピストン21とデフボディ2bとの間に形成したシリンダ室20に圧油を供給することで、ブレーキリング17に対してブレーキディスク18を押圧挟持するための押圧力を付与することができる。また、シリンダ室20内における圧油の圧力を低減させることで、図示せぬ上述したバネによって、ブレーキリング17に対する押圧力を解除することができる。
【0040】
一対の湿式多板ブレーキ装置7よりも外側の部位には、それぞれ遊星歯車式減速機8が配設されている。各遊星歯車式減速機8を介して、伝動軸4の回転を減速してアクスル軸5に伝達することができる。各遊星歯車式減速機8において、伝動軸4の端部に設けた太陽歯車23の回転は、太陽歯車23と左右のアクスルハウジング2a,2bの内周面に形成した内歯のリング歯車22とに噛合している遊星歯車24に伝えられる。そして、太陽歯車23からの回転によって、遊星歯車24は自転するとともに太陽歯車23の外周を公転する。
【0041】
遊星歯車24の公転運動は、遊星歯車24を回転自在に支障しているキャリヤ25の回転として取り出すことができる。即ち、キャリヤ25の回転速度は、太陽歯車23の外周を公転する遊星歯車24の公転速度となり、太陽歯車23の回転速度よりも減速される。そして、キャリヤ25の回転は、キャリヤ25とスプライン結合しているアクスル軸5の回転として取り出されることになる。
【0042】
また、キャリヤ25がアクスル軸5の端部から抜け出ないようにするため、キャリヤ25の抜け止めを行うホルダープレート26が、アクスル軸5の端部にボルト27を介して固定されている。
【0043】
図示例では、各伝動軸4に湿式多板ブレーキ装置7を設けた構成を示しているが、湿式多板ブレーキ装置7を一方の伝動軸4に設けておくこともできる。また、伝動軸4とアクスル軸5との間に遊星歯車式減速機8を設けた例を説明したが、伝動軸4とアクスル軸5との間に遊星歯車式減速機8等の減速機を設けない構成としておくこともできる。
【0044】
図3で示すように、デフボディ2b内の上部には、リング歯車11によって掻き上げられた潤滑油の一部を一時的に収納する一時保持タンク33が配設されている。尚、リング歯車11の一部は、デフボディ2b内の潤滑油に浸かった状態に配設されている。一時保持タンク33は、リング歯車11に対してリング歯車11の回転軸方向に偏位させた部位に配設している。一時保持タンク33の構成としては、デフボディ2bの内周面を利用して一時保持タンク33の両側面部とした構成としておくこともできる。
【0045】
また、一時保持タンク33としては、バルコニー形状のようにデフボディ2bの内周面から張出して周囲に所定高さの側壁を有する形状や、床面をV字状の溝のように形成してデフボディ2bの内周面から張出させ、溝内に潤滑油を溜めることのできる形状のように構成しておくこともできる。
【0046】
一時保持タンク33の底部側には、デフボディ2bを貫通した開口34が連通しており、開口34は、図1で示しているように配管36に連通している。配管36の一端部36aは、図3で示す開口34に接続しており、二又に分岐した配管36の他端部36bは左右アクスルハウジング2c,2aの室内に連通している。
【0047】
尚、図2では、右アクスルハウジング2a内における右アクスル室37を示している。また、図3では、横に引いた破線によって潤滑油を示しているが、図2では潤滑油の表示は省略している。
【0048】
図1では、一端部36aと他端部36bとの間に上下方向において高低差がある様子は示されていないが、一端部36aから他端部36bにかけて配管36は下り勾配を有するように配設されている。即ち、配管36の一端部36aから潤滑油が流入すると、下り勾配で配設されている配管36内を通って潤滑油は他端部36bまで流れることができる。そして、他端部36bまで流れ着いた潤滑油は、そのまま左右のアクスルハウジング2c,2a内に流入することになる。
【0049】
デフボディ2bの低部31側におけるリング歯車11の周囲は、図4で示すような半割り状の歯車カバー35によって覆われている。歯車カバー35内には、デフボディ2bの低部31に溜められている潤滑油が流入可能な構成となっており、歯車カバー35内に溜められている潤滑油をリング歯車11で掻き上げる構成となっている。歯車カバー35を用いることで、リング歯車11の回転に伴う攪拌抵抗を減らし、効率よく潤滑油の掻き上げを行うことができる。
【0050】
しかも、図4で示すように、歯車カバー35は、デファレンシャルケース12と干渉を防止して左右の側壁の高さが異なって構成されている。また、低く形成した側壁の高さ位置は、デフボディ2bの低部31に溜められている潤滑油の油面レベルよりも低くなるように形成されており、潤滑油を常に歯車カバー35内に充満させておくことができる。
【0051】
次に、本発明に係わる作用について説明する。図2に示すように、駆動軸3からの回転によってリング歯車11が回転すると、歯車カバー35内の潤滑油はリング歯車11によって掻き上げられる。掻き上げられた潤滑油は、デファレンシャル6や湿式多板ブレーキ装置7等に掛けられるとともに、デフボディ2bの天井32側にも吹き付けられる。また、掻き上げられた潤滑油の一部は、直接一時保持タンク33内に入ることにもなる。
【0052】
デフボディ2bの天井32側にも吹き付けられた潤滑油は、デフボディ2bの天井32を伝わって滴り落ち、一時保持タンク33内に溜められていくことになる。一時保持タンク33内に直接入った潤滑油と天井32から滴り落ちてきた潤滑油とは、一時保持タンク33内に溜められていき、一時保持タンク33の底部側と連通した開口34からデフボディ2bの外部に流出することになる。
【0053】
開口34からデフボディ2bの外部に流出する潤滑油は、開口34と連通している配管36内を下って、左右のアクスルハウジング2c,2a内に供給される。配管36はデフボディ2bの外部に配設されているので、配管36内を流れている間に潤滑油は空冷されていくことになる。左右のアクスルハウジング2c,2a内に供給された潤滑油は、左右のアクスルハウジング2c,2aの内部に溜められている潤滑油によって更に冷却されることになる。
【0054】
左右のアクスルハウジング2c,2aに配管36を介して供給された潤滑油によって、左右のアクスルハウジング2c,2aにおける潤滑油の貯留量が増大していくことになる。しかし、デフボディ2bと左右のアクスルハウジング2c,2aとは、アクスル装置1の内部空間において連通した構成となっているので、左右のアクスルハウジング2c,2aにおける潤滑油の油溜めから溢れ出た潤滑油は、空間的に連通しているところを通って、デフボディ2b内に戻されていくことになる。
【0055】
このとき、デフボディ2b内に戻されていく潤滑油は、デフボディ2b内に溜められている潤滑油よりも低温状態となっているので、デフボディ2b内に溜められている潤滑油を冷却していくことになる。
このように、本発明では、オイルクーラ等の冷却装置を用いることなく、デフボディ内に溜まっている潤滑油に対する冷却を行うものとしては使われていなかった左右のアクスルハウジング2c、2a内の潤滑油を有効に利用して効率よく、しかも簡単な構成でもって、デフボディ内に溜まっている潤滑油の冷却を行うことができる。
【実施例2】
【0056】
図5は、本願発明に係わる他の実施例を示している。図5は、アクスル装置1を駆動軸3の回転軸を含んだ縦断面で切断したときの側面図を示している。実施例1では、一時保持タンク33及び一時保持タンク33内と連通する開口34を、リング歯車11に対してリング歯車11の回転軸方向に偏位させた領域にあるデフボディ2b内の部位に配設した構成であるのに対し、実施例2では、開口39を、リング歯車11の回転軸に対してリング歯車11の配設部位と略同じ領域にあるデフボディ2b内の部位に形成している。この点での構成において、実施例2は実施例1とは異なった構成となっている。
【0057】
他の構成は、実施例1と同様の構成となっている。このため実施例1と同様の構成については、実施例1において用いた部材符号と同じ部材符号を用いることでその説明を省略する。
【0058】
図5に示すように、リング歯車11の縦断面と略同じ面上には、一対の開口39が形成されている。即ちデフボディ2bの天井32において、図5で示す左右の部位に一対の開口39が形成されている。一対の開口39はそれぞれ、下唇39aがデフボディ2b内に突き出た形状を有しており、天井32に沿って滴り落ちてきた潤滑油を開口39内に収納し易い構成となっている。
【0059】
また、リング歯車11の縦断面と略同じ面上に開口39を形成しているので、リング歯車11によって掻き上げられ、リング歯車11の回転によって接線方向に飛散してきた潤滑油を直接開口39内に取り込むことができる。しかも、一対の開口39は図5で示す左右の部位に形成しておくことで、リング歯車11の正転時及び逆転時において接線方向に飛散してきた潤滑油を対応する開口39内に受け取ることができる。
【0060】
図示を省略しているが、リング歯車11との干渉を避けながら下唇39aを延長した形状に、一時保持タンクをそれぞれの開口39の正面側に配設しておくこともできる。この構成によって、デフボディ2bの天井32を伝わって滴り落ちてきた潤滑油を、一時保持タンクで収集し易くできる。このように、一時保持タンクをそれぞれの開口39の正面側に配設しておくことによって、各開口39から収集できる潤滑油の量を増大させることもできる。
【0061】
デフボディ2bの外部において、一対の開口39にはそれぞれ配管36が連通している。図1では、アクスル装置1の後方側に配管36を配設した例を示しているが、実施例2のように一対の開口39をアクスル装置1の前後に形成した場合には、前方側から左右のアクスルハウジング2c,2a内に連通する配管を配設しておくことになる。この場合においても、アクスル装置1の前方側に配設した配管も、開口39から左右のアクスルハウジング2c,2a内にかけて下り勾配の配置構成としておくことによって、配管内での潤滑油の流れをスムーズに行わせることができる。
【0062】
図5では、歯車カバーの図示は省略しているが、効率よく潤滑油を掻き上げるのには、歯車カバーでリング歯車11の周囲の一部を覆っておくことが望ましい。また、図5の向かって左側に記載した開口39に流路40aが連通しているが、流路40aは駆動軸3を支承している軸受け部に潤滑油を供給する流路として構成されている。また、流路40aから分岐した流路40bも駆動軸3を支承している軸受け部に潤滑油を供給する流路として構成されている。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本願発明は、本願発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本願発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】アクスル装置の平面図である。(実施例1)
【図2】アクスル装置内の一部構成を示した平面図である。(実施例1)
【図3】デフボディ内の要部断面図である。(実施例1)
【図4】歯車カバーの斜視図である。(実施例1)
【図5】アクスル装置を側方から見た縦断面である。(実施例2)
【図6】アクスル装置の縦断面図である。(従来例1)
【図7】冷却装置の正面から見た縦断面図である。(従来例2)
【符号の説明】
【0065】
1・・・アクスル装置、
2・・・アクスルハウジング、
2b・・・デフボディ、
3・・・駆動軸、
4・・・伝動軸、
6・・・デファレンシャル、
7・・・湿式多板ブレーキ装置、
8・・・遊星歯車式減速機、
11・・・リング歯車、
33・・・一時保持タンク、
34・・・開口、
35・・・歯車カバー、
39・・・開口、
60・・・デフボディ、
61・・・デファレンシャル、
62・・・受動用のリングギヤ、
64・・・潤滑油流動手段、
65・・・第1オイルガター、
66・・・第2オイルガター、
70・・・戻し孔、
81・・・ケーシング、
82・・・モータ、
88・・・ウォータジャケット、
89・・・オイルクーラ、
97・・・第1の潤滑油溜まり、
98・・・第2の潤滑油溜まり。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動される駆動軸の回転を、左右一対の伝動軸に伝達するデファレンシャルと、
前記各伝動軸によって駆動されるアクスル軸と、
を備えたアクスル装置であって、
前記デファレンシャルを内包するデフボディの上部部位に形成した開口と、
前記デファレンシャルのリング歯車が掻き上げたデフボディ内の潤滑油を、前記開口からアクスル装置の外部に導く配管と、を有し、
前記配管が、前記開口に連通した一端部を上流側とした下り勾配の管路として配設され、
前記配管の他端部が、前記デフボディの左右に接続した左アクスルハウジング及び右アクスルハウジングの内部と連通してなることを特徴とするアクスル装置。
【請求項2】
前記開口と連通し、前記リング歯車が掻き上げた潤滑油の一部を一時的に収納する一時保持タンクが、デフボディ内の上部空間に配設されてなることを特徴とする請求項1記載のアクスル装置。
【請求項3】
前記開口が、前記リング歯車の回転軸を中心として前記リング歯車を放射方向に延長した領域内又は同領域の近傍に、少なくとも1つ以上形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載のアクスル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−240822(P2008−240822A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79789(P2007−79789)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】