説明

アクチュエータ装置

【課題】駆動力が用途に応じて適正な張力で制御できる形状記憶合金アクチュエータを提供する。
【解決手段】拮抗する一対の形状記憶合金ワイヤ106a、bと、形状記憶合金ワイヤ106a、bの少なくとも一方の張力を計測する張力測定部と、張力測定部で測定された結果に基づいて、各々の形状記憶合金ワイヤ106a、bに供給する熱量を独立に制御する制御部と、各々の形状記憶合金ワイヤ106a、bに供給される熱量の制御によって変位する可動部位に連結された可動端と、各々の形状記憶合金ワイヤ106a、bが所定の固定部位に固定された固定端と、を有し、制御部により、可動部位を所定の変位に移行もしくは所定の変位を維持するために各々の形状記憶合金ワイヤ106a、bに与えられる熱量は、張力測定部により計測された張力を所定範囲内に維持した状態で制御されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
形状記憶合金は、単位断面積当たりの力量が大きいことから、内視鏡やカテーテルの湾曲機構の駆動源として多くの提案がなされている。このような形状記憶合金を用いた湾曲機構の例として、特許文献1に開示されている3次元マイクロマニピュレータについて図5を用いて説明する。
【0003】
複数の碁石状部材12、14、16、18、20にはそれぞれ3組、6個の穴が設けられている。最上部の碁石状部材12の例では、図5(b)に示すような穴42a、42b、44a、44b、46a、46bである。これらの各組の穴42a、42b、穴44a、44b、穴46a、46bには、それぞれ形状記憶合金ワイヤ22、24、26が通されている。形状記憶合金ワイヤ22、24、26それぞれは、最上部の碁石状部材12での上面で折り返されている。
【0004】
このようにして、碁石状部材12、14、16、18、20は形状記憶合金ワイヤ22、24、26によって繋ぎ止められている。この構成で、形状記憶合金ワイヤ22、24、26のいずれか1つ、あるいは複数に電流を流すことで収縮させると、繋ぎ止められた碁石状部材12、14、16、18、20を任意の方向に湾曲させることができる。
【0005】
本マニピュレータは、駆動源として形状記憶合金ワイヤを用いているので、ワイヤ牽引用モータなどが不要であり、小型化に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−330354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような複数の形状記憶合金ワイヤ22、24、26を拮抗させて用いる構成のマニピュレータにおいては、通常の制御方法では形状記憶合金ワイヤ22、24、26の張力、即ちアクチュエータの駆動力が不定となる問題が存在する。
【0008】
マニピュレータの位置制御は、形状記憶合金ワイヤ22、24、26の変位をモニタして取得するか、外部から得られた映像によってマニピュレータの変位を取得して、各々の形状記憶合金ワイヤ22、24、26の変位量をフィードバック制御することで行われている。なお、形状記憶合金ワイヤ22、24、26の変位量は、電気抵抗値を計測することで得られることは知られている。
【0009】
ここで、実際の形状記憶合金ワイヤ22、24、26は温度によって変位する。マニピュレータが所定の湾曲状態となるための3本の形状記憶合金ワイヤ22、24、26の温度の組み合わせは複数有り、その組み合わせによって、形状記憶合金ワイヤ22、24、26の張力は全く異なっている。
【0010】
単純な例を挙げると、マニピュレータを直線状に維持するには、3本の形状記憶合金ワイヤ22、24、26の温度が同一であれば良い。例えば、3本とも70℃であっても75℃であっても80℃であっても構わない。このとき、これら拮抗する形状記憶合金ワイヤ22、24、26の張力は、その温度によって大きく異なっている。このように温度と張力の間には密接な関係がありながら、マニピュレータの変位は制御できても、張力が不明である。
【0011】
すなわち、所望の変位を得るために、どの形状記憶合金ワイヤ22、24、26の温度を上昇させるべきか、あるいは他の形状記憶合金ワイヤ22、24、26の温度を下降させるべきかを判別する張力情報が存在しない。このため、マニピュレータの駆動力が不定となり、被操作対象に加える応力を適正に制御できないなど、マニピュレータの適用範囲が著しく制限されるという問題がある。
【0012】
例えば、所望の変位を得るために温度上昇を選択した場合には、形状記憶合金ワイヤ22、24、26に過度の張力がかかるおそれがある。張力が強すぎる場合には、形状記憶合金ワイヤ22、24、26が切れてしまうおそれがある。また、所望の変位を得るために温度降下を選択した場合には、張力が低くなるおそれがある。また、張力が弱すぎる場合には、所望の駆動力が得られないという問題が生じる。
【0013】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、駆動力が用途に応じて適正な張力で制御できるアクチュエータ装置を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、拮抗する一対の第1の形状記憶合金ワイヤ及び第2の形状記憶合金ワイヤと、第1の形状記憶合金ワイヤ及び第2の形状記憶合金ワイヤの少なくとも一方の張力を計測する張力測定部と、張力測定部で測定された結果に基づいて、各々の形状記憶合金ワイヤに供給する熱量を独立に制御する制御部と、各々の形状記憶合金ワイヤに供給される熱量の制御によって変位する可動部位に連結された可動端と、各々の形状記憶合金ワイヤが所定の固定部位に固定された固定端と、を有し、制御部により、可動部位を所定の変位に移行もしくは所定の変位を維持するために各々の形状記憶合金ワイヤに与えられる熱量は、張力測定部により計測された張力を所定範囲内に維持した状態で制御されることを特徴とする。
【0015】
本発明の好ましい態様にあっては、第1の形状記憶合金ワイヤ及び第2の形状記憶合金ワイヤに供給される熱量は、第1の形状記憶合金ワイヤ及び第2の形状記憶合金ワイヤに電流を流すことで発生するジュール熱によって得られることが望ましい。
【0016】
本発明の好ましい態様にあっては、アクチュエータ装置の変位は、形状記憶合金ワイヤの抵抗値を計測することで検知されることが望ましい。
【0017】
本発明の好ましい態様にあっては、アクチュエータ装置を、第1の形状記憶合金ワイヤへ供給する熱量を増大させることで所定の方向に変位させるに際して、制御部は、張力測定部によって計測された張力が所定範囲となるように第2の形状記憶合金ワイヤへ供給する熱量を減少させることが望ましい。
【0018】
本発明の好ましい態様にあっては、張力測定部は、第1の形状記憶合金ワイヤ及び第2の形状記憶合金ワイヤの固定端が固定された固定部位の少なくとも一方の歪みを計測することで、第1の形状記憶合金ワイヤまたは第2の形状記憶合金ワイヤの張力を検知することが望ましい。
【0019】
本発明の好ましい態様にあっては、チューブ状構造体に第1の形状記憶合金ワイヤ及び第2の形状記憶合金ワイヤが内挿され、固定端がチューブ状構造体に設けられた連結部において機械的に結合され、アクチュエータ装置は、可動端における形状記憶合金ワイヤとチューブ状構造体の相対位置の変化によって動作し、張力測定部は、形状記憶合金ワイヤの張力によって生じる連結部の歪みを計測することが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかるアクチュエータ装置は、駆動力が用途に応じて適正な張力で制御できるので、アクチュエータ装置を用いたマニピュレータの駆動力が安定するとともに、マニピュレータの適用範囲が制限されないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の実施例の概略模式図である。
【図2】第1の実施例の外観図である。
【図3】第1の実施例の動作を説明する図である。
【図4】第2の実施例の構成を説明する図である。
【図5】従来の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明にかかるアクチュエータ装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施例は、アクチュエータ装置を用いるマニピュレータである。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0023】
(第1実施例)
本発明の第1の実施例について図1〜図3を用いて説明する。図1は、実施例の概略模式図を示している。本実施例のマニピュレータ101は、湾曲する湾曲部102と硬性部103からなっている。図1(a)は直線状態を、図1(b)は湾曲状態をそれぞれ示している。
【0024】
湾曲部102は、中空の湾曲駒104a、104b、104c、104d、104e、104f、104g、104h、104iが、それぞれ連結ピン105a、105b、105c、105d、105e、105f、105g、105hによって連結された構成となっている。
【0025】
各々の湾曲駒104a、104b、104c、104d、104e、104f、104g、104h、104iは、連結ピン105a、105b、105c、105d、105e、105f、105g、105hを中心に回動することが可能である。
【0026】
湾曲部102及び硬性部103の内部には、対向して形状記憶合金ワイヤ106a、106bが張られている。ここで、形状記憶合金ワイヤ106a、106bは、湾曲駒104内に形成されたガイド(図示せず)に通されて、その先端側の端部は先端の湾曲駒104aの端部107a、107bにおいて固定されている。
【0027】
一方、硬性部103内においては、形状記憶合金ワイヤ106は、樹脂チューブ108a、108bに内挿されており、樹脂チューブ108の先端側の端部は後端の湾曲駒104i内壁に対して固定されている。
【0028】
また、形状記憶合金ワイヤ106a、106bの後端側の端部は、樹脂チューブ108の後端側の端部に対して固定された連結部109a、109bにおいて固定されている。
【0029】
また、特に図示しないが、各々の形状記憶合金ワイヤ106a、106bの両端にはリード線が接続され、マニピュレータの中空部分を通って外部コントローラに接続されている。
【0030】
各々の形状記憶合金ワイヤ106a、106bに独立して制御された電流を流すことによって、各々の形状記憶合金ワイヤ106a、106bに対して加える熱量を独立に制御できる。更に加えて、外部コントローラは所定電流値に対して電位差を計測することによって各々の形状記憶合金ワイヤ106a、106bの電気抵抗値を独立に計測する機能を有するものとする。
【0031】
ここで本実施例のマニピュレータの動作について説明する。図1(a)は形状記憶合金ワイヤ106aと106bの張力が等しい状態に相当する。形状記憶合金ワイヤ106bに加える熱量を形状記憶合金ワイヤ106aに加える熱量よりも十分に大きくすると、形状記憶合金ワイヤ106bが収縮して図1(b)に示すように湾曲する。
【0032】
このとき、形状記憶合金ワイヤ106aは形状記憶合金ワイヤ106bの張力によって伸張することになる。このように、マニピュレータ101の湾曲の度合いは、形状記憶合金ワイヤ106aおよび106bの張力の釣り合いによって決定する。
【0033】
次に、連結部109の構造について図2を用いて説明する。連結部109は、薄肉で切り欠きを有する弾性部材110と、形状記憶合金ワイヤ106を固定する係止部材111とで構成されている。
【0034】
弾性部材110は、図示したように樹脂チューブ108の後端部に連結される。樹脂チューブ108の後端部は、弾性部材110の径に合わせて太径化している。また、形状記憶合金ワイヤ106の後端部は、カシメ部材112によってリード線113と接続される。
【0035】
カシメ部材112は、係止部材111に対して接着によって固定されている。ここで、リード線113は、外部コントローラに接続されて、形状記憶合金ワイヤ106に電流を流すために用いられる。弾性部材110の外壁面には歪みゲージ114が貼り付けられており、これに接続されたリード線115が外部コントローラに接続されている。
【0036】
これによって、外部コントローラは、歪みゲージ114が貼り付けられた部位の弾性部材110の歪み量を検知することができる。このとき、歪みゲージ114で検出される歪み量は形状記憶合金ワイヤ106の張力に比例するので、所定の変換係数を介して形状記憶合金ワイヤ106の張力を外部コントローラにおいて取得することが可能になる。
【0037】
このように本実施形態のマニピュレータにおいては、各々の形状記憶合金ワイヤ106a、106bの張力を独立して取得することが可能である。なお、本実施例におけるマニピュレータの制御は、後述するように一方の形状記憶合金ワイヤ106aの張力のみを用いる。
【0038】
次に本実施例のマニピュレータの制御方法について、所定の張力値Fttを維持して動作させるフィードバックのフローチャートを図3に示す。以下、これに基づいて動作を説明する。なお、フローチャートにおいて、形状記憶合金ワイヤを、単に「形状記憶合金」と略して示す。
【0039】
なお、変位量は、形状記憶合金ワイヤ106aが収縮するときに動作する方向を正として記述する。また、マニピュレータの変位xは形状記憶合金ワイヤ106aの抵抗値によって検出するものとし、この形状記憶合金ワイヤ106aの抵抗値をR1としたときに、関数fを用いて、x=f(R1)の関係があるものとする。また、歪みゲージ114で検出される歪み量をeとし、形状記憶合金ワイヤ106aの張力をFtとしたとき、張力Ftと歪み量eとの関係は、関数gを用いて、Ft=g(e)の関係があるものとする。また、形状記憶合金ワイヤ106aと106bの両方は、ある投入電力量(以下、通電量と称する)で加熱されて拮抗状態にある。
【0040】
まず、ステップS301において、検出された変位量x=f(R1)は、目標変位量xtに対して大きいかが判定される。
たとえば、目標変位量xtに対して、検出された変位量x=f(R1)が小さい場合(xt>xのとき)は、形状記憶合金ワイヤ106aを収縮させて形状記憶合金ワイヤ106bを伸張させる必要がある。このためには、形状記憶合金ワイヤ106aの通電量を増やすか、形状記憶合金ワイヤ106bの通電量を減らす必要がある。また、これらを同時に行っても良い。
【0041】
前者の方法を採ると形状記憶合金ワイヤ106aおよび106bの張力が増大し、後者の方法を採ると形状記憶合金ワイヤ106aおよび106bの張力が減少する。このように、同じ方向に変位量xを増やす方法でも、その張力に違いが生じる。
【0042】
ステップS301の判断結果が真(Yes)のとき、ステップS302へ進む。ステップS302において、歪みゲージ114によって検出された張力Ft=g(e)と維持すべき目標張力値Fttとを比較する。
【0043】
検出された張力Ft=g(e)が目標張力値よりも小さい場合(Ftt>Ftのとき)、ステップS304において形状記憶合金ワイヤ116aに対する通電量を増大させる。これにより、変位量xを目標変位xtに近づけるように制御する。
【0044】
逆に、検出された張力が目標張力値よりも大きい場合(Ftt<Ftのとき)、ステップS303において、形状記憶合金ワイヤ116bに対する通電量を減少させる。これにより、変位量xを目標変位xtに近づけるように制御する。
【0045】
このようなフィードバックループを繰り返すことによって、検出された張力Ftを目標張力値Fttに近い値に保った状態で変位xを目標変位xtに近づけることが可能となる。
【0046】
さらに、ステップS301の判断結果が偽(No)のとき、ステップS305へ進む。ステップS305において、歪みゲージ114によって検出された張力Ft=g(e)と維持すべき目標張力値Fttとを比較する。
【0047】
検出された張力Ft=g(e)が目標張力値よりも小さい場合(Ftt>Ftのとき)、ステップS307において形状記憶合金ワイヤ116bに対する通電量を増大させる。これにより、変位量xを目標変位xtに近づけるように制御する。
【0048】
逆に、ステップS305において検出された張力が目標張力値よりも大きい場合(Ftt<Ft)、ステップS306へ進む。ステップS306において、形状記憶合金ワイヤ116aに対する通電量を減少させる。これにより、変位量xを目標変位xtに近づけるように制御する。
この結果、検出された張力Ftを目標張力値Fttに近い値に保った状態で変位xを目標変位xtに近づけることが可能となる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の方法によれば、形状記憶合金ワイヤ106aおよび106bの張力を所定の目標値Fttに近い値に維持したままで目標変位xtに対してフィードバック制御を行うことができる。
【0050】
従来であれば、形状記憶合金ワイヤ106の張力情報はなかったが、本発明実施例では、歪みゲージ114により張力情報が得られるので、それを基に最適な制御方法を選ぶことができる。本実施例によれば、所望の変位を得るために、過張力にして形状記憶合金ワイヤ106の切断という事態を回避でき、応答性に優れた形状記憶合金アクチュエータを提供することができる。また、所望の張力を維持するように変位の制御を行うので、所望の駆動力が得られないということがなくなり、形状維持力が高い形状記憶合金アクチュエータを提供することができる。
なお、実施例では、形状記憶合金ワイヤ106a、106bへの処理を別々に行ったが、同時に行っても良い。
【0051】
ところで、目標張力値Fttはフィードバック制御を行う外部コントローラによって任意に設定できる。例えば、外部負荷が大きい、もしくは変動するような用途では安定した動作が可能なように信頼性を損なわない範囲で、比較的高めの目標張力値Fttを設定することができる。
【0052】
また、比較的強度の低い対象に対してマニピュレータを作用させる場合には、対象の損傷を防止するために目標張力値Fttを低い値に設定することができる。また、一般的に張力が低い状態で駆動するほうが形状記憶合金ワイヤの温度を低く抑えられる。このため、マニピュレータの発熱を避ける用途や低消費電力での駆動を要求される場合には目標張力値Fttを低い値に設定し、使用することができる。このように本実施形態における制御方法にあっては、用途に応じて適正な目標張力値Fttを設定して動作させることが可能となる。
【0053】
また、一般的に形状記憶合金ワイヤ106a、106bは、過度に強い張力が継続して加えられた状態で動作させると変位量が低下するなど、動作特性が変動する現象が生じる。本実施例においては、張力が常にモニタされて適正な範囲にコントロールされることから、マニピュレータが過張力状態になって動作特性が変動する現象を抑止することができる。
【0054】
なお、本実施例における制御方法ではマニピュレータの動作制御を形状記憶合金ワイヤ106a、106bに対する通電量を制御することで行っている。しかしながら、これに限られず、形状記憶合金ワイヤ106a、106bの温度制御を別体のヒータによって行うこともできる。この場合は、形状記憶合金ワイヤ106a、106bの通電量に代えてヒータの発熱量を制御することで同様のフィードバック制御を行うことができる。
【0055】
また、本実施例ではマニピュレータの変位を形状記憶合金ワイヤ106a、106bの抵抗値を検知することで計測しているが、別体に設けた変位センサを用いたり、マニピュレータを外部から撮像して画像処理によって計測したりしても良い。
【0056】
また、本実施例では、一方の形状記憶合金ワイヤ106aの張力を歪みゲージ114によって検出して、その値を用いてフィードバック制御しているが、両方の形状記憶合金ワイヤ106a、106bの張力を個別に計測して、両者の平均値や、両者のより大きいほうの張力値を制御パラメータとして用いることもできる。このような方法はマニピュレータ先端部に外力が作用して両方の形状記憶合金ワイヤ106a、106bの張力に差が生じる場合に有効である。
【0057】
なお、本実施例においては、説明を簡略化するために2本の形状記憶合金ワイヤ106a、106bを用いたマニピュレータについて説明した。この形態では1平面状での湾曲のみが行える。これについてはマニピュレータの円周方向に90度づつずらした位置に4本の形状記憶合金ワイヤを配置し、湾曲駒を連結ピンの方向が互いに直交する形状を組み合わせることで、全周方向の湾曲を行うことができる。この場合にも同様の考え方のフィードバック制御を行うことで形状記憶合金の張力を所定範囲にコントロールすることが可能であることは言うまでもない。
【0058】
(第2実施例)
図4は、第2の実施例の構成を説明する図である。第1の実施例と同じ構成部分には同じ番号を付し、重複する説明は省略する。第1の実施例では、形状記憶合金ワイヤ106a、106bが湾曲部102と硬性部103とに挿入される構成である。
【0059】
これに対して、第2の実施例では硬性部103内に挿入される部分だけを形状記憶合金ワイヤ206a、206bとし、形状記憶合金ワイヤ206a、206bに接続されるワイヤ205a、205bが、湾曲部102内に挿入される構成である。本構成でも、第1の実施例と同様にして所望の張力を維持しながらフィードバック制御を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上のように、本発明にかかる形状記憶合金アクチュエータは、複数の被操作対象に対して用いられるマニュピレータの形状記憶合金アクチュエータに有用であり、特に、被操作対象に加える応力を適正に制御することが求められる形状記憶合金アクチュエータに適している。
【符号の説明】
【0061】
12、14、16、18、20 碁石状部材
22、24、26 形状記憶合金ワイヤ
42、44、46 穴
101 マニピュレータ
102 湾曲部
103 硬性部
104a〜104i 湾曲駒
105a〜105h 連結ピン
106a、106b 形状記憶合金ワイヤ
107 端部
108a、108b 樹脂チューブ
109a、109b 連結部
110 弾性部材
111 係止部材
112 カシメ部材
113、115 リード線
114 歪みゲージ
205a、205b ワイヤ
206a、206b 形状記憶合金ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
拮抗する一対の第1の形状記憶合金ワイヤ及び第2の形状記憶合金ワイヤと、
前記第1の形状記憶合金ワイヤ及び前記第2の形状記憶合金ワイヤの少なくとも一方の張力を計測する張力測定部と、
前記張力測定部で測定された結果に基づいて、各々の形状記憶合金ワイヤに供給する熱量を独立に制御する制御部と、
各々の形状記憶合金ワイヤに供給される熱量の制御によって変位する可動部位に連結された可動端と、
各々の形状記憶合金ワイヤが所定の固定部位に固定された固定端と、を有し、
前記制御部により、前記可動部位を所定の変位に移行もしくは所定の変位を維持するために各々の形状記憶合金ワイヤに与えられる熱量は、前記張力測定部により計測された張力を所定範囲内に維持した状態で制御されることを特徴とするアクチュエータ装置。
【請求項2】
前記第1の形状記憶合金ワイヤ及び前記第2の形状記憶合金ワイヤに供給される熱量は、前記第1の形状記憶合金ワイヤ及び前記第2の形状記憶合金ワイヤに電流を流すことで発生するジュール熱によって得られることを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ装置。
【請求項3】
前記アクチュエータ装置の変位は、前記形状記憶合金ワイヤの抵抗値を計測することで検知されることを特徴とする請求項1または2に記載のアクチュエータ装置。
【請求項4】
前記アクチュエータ装置を、前記第1の形状記憶合金ワイヤへ供給する熱量を増大させることで所定の方向に変位させるに際して、
前記制御部は、前記張力測定部によって計測された張力が所定範囲となるように前記第2の形状記憶合金ワイヤへ供給する熱量を減少させることを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ装置。
【請求項5】
前記張力測定部は、前記第1の形状記憶合金ワイヤ及び第2の形状記憶合金ワイヤの固定端が固定された前記固定部位の少なくとも一方の歪みを計測することで、前記第1の形状記憶合金ワイヤまたは前記第2の形状記憶合金ワイヤの張力を検知することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ装置。
【請求項6】
チューブ状構造体に前記第1の形状記憶合金ワイヤ及び前記第2の形状記憶合金ワイヤが内挿され、
前記固定端が前記チューブ状構造体に設けられた連結部において機械的に結合され、
前記アクチュエータ装置は、前記可動端における前記形状記憶合金ワイヤと前記チューブ状構造体の相対位置の変化によって動作し、
前記張力測定部は、記形状記憶合金ワイヤの張力によって生じる連結部の歪みを計測することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−31354(P2011−31354A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181229(P2009−181229)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】