説明

アクチュエータ

【課題】軸方向での大型化が抑制され、低コストであって、ロータの径方向でのガタつきが抑制されて静音化を図ることができるアクチュエータを提供できる。
【解決手段】回転軸31を有したロータ30と、ロータ30を回転可能に収納するケース10とを有したアクチュエータ1において、ケース10は、回転軸31と回転可能に係合する軸受部14と、軸受部14周囲に形成された複数の肉抜き孔17と、複数の肉抜き孔17周囲に形成された外周部18と、複数の肉抜き孔17の間にあって軸受部14と外周部18とを繋ぐように連続した複数の腕部16とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている装置は、マグネットロータの軸部を所定の磁極に着磁して、この軸部とステータヨークとの間に作用する磁力によって、ロータに軸方向の力を作用させ、これにより軸方向のガタつきを無くした装置が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−289529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている装置では、軸部へ着磁する必要があるので、ロータの着磁工程の複雑化してコストが上昇する恐れがある。
【0005】
上記問題点を解消すべく、ロータに軸方向の力を作用させるために、バネなどの弾性部材を用いてロータを付勢することが考えられる。しかしながら、バネなどを採用した場合には、装置自体が軸方向へ大型化する恐れがある。
【0006】
そこで本発明は、ロータの軸方向のガタつきを抑制しつつ、軸方向での大型化、製造コストの増大も抑制されたアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、回転軸を有したロータと、前記ロータを回転可能に収納するケースとを有したアクチュエータにおいて、前記ケースは、前記回転軸と回転可能に係合する軸受部と、前記軸受部周囲に形成された複数の肉抜き孔と、前記複数の肉抜き孔周囲に形成された外周部と、前記複数の肉抜き孔の間にあって前記軸受部と前記外周部とを繋ぐように連続した腕部と、を有している、ことを特徴とするアクチュエータによって達成できる。
【0008】
軸受部周囲に複数の肉抜き孔が形成されているので、軸受部周辺の剛性が低下し、軸受部周辺の軸方向で撓みやすくなり、軸受部の軸方向での移動が容易となる。これにより、回転軸の軸方向のガタつきを抑制できる。ガタつきが抑制されるので、静音化が達成される。また、このような回転軸の軸方向のガタつきを抑制する構造が、ケースに形成されているので、軸方向の大型化を防止でき、かつ部品点数の増大を抑制できる。部品点数の増大が抑制されることにより、低コストを維持できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軸方向での大型化が抑制され、低コストであって、ロータの径方向でのガタつきが抑制されて静音化を図ることができるアクチュエータを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して複数の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1に係るアクチュエータ1の断面図、図2は、アクチュエータ1の上面図である。アクチュエータ1は、上面側に配置されたケース10、底面側に配置されたケース20、回転可能に支持され周方向に複数の磁極に着磁されたロータ30、ロータ30との間で磁力が作用するステータ40、ステータ40を励磁するためのコイル50、コイル50と電気的に接続されるプリント基板60を含む。ロータ30、ステータ40、コイル50は、ケース10とケース20との間に配置されている。ステータ40は、U字状に形成されロータ30の外周面と対向する3つの磁極部41を有している。磁極部41は、コイル50への通電状態に応じて異なる極性に励磁され、ロータ30と磁極部との間に生じる磁気的吸着力、反発力の作用によってロータ30が所定の作動角を回転する。アクチュエータ1は、ロータ30を所定の作動角で停止可能な、所謂ステッピングモータである。
【0012】
ロータ30は、磁性樹脂によって回転軸31と一体に形成されている。ロータ30は、ケース10、ケース20によって回転可能に収納されている。
【0013】
ケース10、20は、コイル50の厚みを逃すための逃げ孔11、21が形成されている。また、ケース20には2箇所に係合ピン22が形成されている。係合ピン22は、アクチュエータ1が固定される部材と係合して、アクチュエータ1を他の部材へ固定する機能を有している。
【0014】
ケース10の外面には、プリント基板60が貼り付けられている。プリント基板60は、可撓性を有したフレキシブルプリント基板である。図2に示すように、コイル50の端部は、半田部65によってプリント基板60と電気的に接続されている。
【0015】
図3は、プリント基板60をケース10に貼り付ける前のアクチュエータ1の上面図である。ケース10には、回転軸31と回転可能に係合する軸受部14と、軸受部14周囲に形成された複数の肉抜き孔17と、複数の肉抜き孔17周囲に形成された外周部18と、複数の肉抜き孔17の間にあって軸受部14と外周部18とを繋ぐように連続した複数の腕部16と、を有している。軸受部14、腕部16、外周部18は、ケース10に一体に形成されている。ケース10は、合成樹脂により形成されている。具体的には、ケース10は、ポリアセタールや、ポリカーボネートなどのエンジニアプラスチックにより、射出成形によって形成されている。
【0016】
次に、軸受部14について詳細に説明する。図4は、軸受部14の説明図である。図4Aは、図1に示した軸受部14周辺の拡大断面図である。図4Aに示すように、軸受部14は、回転軸31に向けて突出した係合凸部141が形成されている。回転軸31の上端部には、係合凸部141と摺動回転可能に係合する係合凹部311が形成されている。これにより回転軸31は回転可能に支持される。また、軸受部14、腕部16と、プリント基板60との間には、所定のギャップGが形成されている。このGが形成されるのは、軸受部14及び腕部16が、外周部18のプリント基板60が固定される面よりロータ30側に形成されているからである。プリント基板60は、外周部18のロータ30と対向する面とは反対側の面に両面テープなどで貼り付けられている。このため、軸受部14及び腕部16と、プリント基板60との間に所定のギャップGが形成される。
【0017】
図4Bは、回転軸31に軸方向の力が作用して、軸受部14が上方へ移動した状態を示した図である。尚、図4Aは、回転軸31に軸方向の力が作用していない状態を示している。図4Bに示すように、回転軸31に軸方向の力が作用すると、軸受部14がプリント基板60の裏面に当接する程度にまで、腕部16が上方斜めに撓む。このように腕部16が軸方向に撓むのは、図3に示したように、複数の腕部16の間に肉抜き孔17が形成されているからである。肉抜き孔17が形成されると、肉抜き孔17周囲の剛性が低下し、軸方向に撓みやすくなるからである。これにより、軸受部14の軸方向での移動が容易となる。また、肉抜き孔17が形成されていることにより、腕部16は、所定の撓み量の範囲内においては弾性変形する。従って、図4Bに示したように軸受部14が軸方向上方へ移動すると、腕部16の弾性力によって、再び回転軸31を下方へ押す力が作用する。これにより、再び回転軸31は下方へ押戻されることになる。
【0018】
これにより、回転軸31の軸方向のガタつきを抑制され、アクチュエータ1の静音化が達成される。また、このような回転軸31の軸方向のガタつきを抑制する構造が、ケース10に一体に形成されているので、軸方向の大型化を防止でき、かつ部品点数の増大を抑制できる。部品点数の増大が抑制されることにより、低コストを維持できる。
【0019】
尚、図4Aに示した状態においては、軸受部14は回転軸31に対して常時下方へと付勢する。即ち、アクチュエータ1が組み立てられた状態においては、軸受部14が回転軸31により若干上方へ押された状態となっている。
【0020】
また、図4A,図4Bに示したように、軸受部14、腕部16と、プリント基板60との間には、所定のギャップGが形成されているので、軸受部14の軸方向の移動が許容される。また、軸受部14の軸方向の移動量が大きすぎると、軸受部14の上面がプリント基板60の裏面に接触するので、軸受部14の移動量が制限される。これにより、軸方向に大きな力が回転軸31に作用した場合に、軸受部14が大きく移動し、腕部16が破損する恐れが防止される。これにより、軸受部14や腕部16の耐久性の低下が抑制される。
【0021】
また、図1、図2に示したように、肉抜き孔17はプリント基板60によって塞がれる。これにより、肉抜き孔17を介してアクチュエータ1内にゴミが浸入することが防止されている。
【0022】
また、図4A,図4Bに示すように、腕部16は、外周部18よりも肉薄に形成されている。これにより、腕部16の軸方向での撓みが容易となっている。
【0023】
次に、軸受部14、回転軸31について説明する。図4A,図4Bに示すように、係合凸部141は、回転軸31に向かうに従って径が小さくなったテーパー面142を有している。また、係合凹部311は、テーパー面142と対応するように、軸受部14に向かって径が大きくなったテーパー面132を有している。このように、アクチュエータ1が作動するときはテーパー面142、132が摺接する。また、テーパー面142とテーパー面132とが接触した際には、係合凸部141の下端面と係合凹部311の底面との間に所定の隙間が形成されている。これは、係合凸部141の下端面と係合凹部311の底面とが接触しないように、係合凸部141の長さ、係合凹部311の深さが設定されているからである。係合凸部141の下端面と係合凹部311の底面とが接触せずテーパー面142とテーパー面132とが摺接するので、摺接面積を減らし、これにより、摺動抵抗が大きくなりすぎることを防止している。
【0024】
また、前述したように、軸受部14は常に回転軸31を下方向へと押し付けているので、テーパー面142とテーパー面132との摺接により、回転軸31の径方向のガタつきも抑制されている。以上のように、ケース10は回転軸31の軸方向及び径方向のガタつきを抑制する機能を有している。これにより、部品点数の増大が抑制されている。
【0025】
次に、ケース10の変形例について説明する。図5は、ケース10の変形例の説明図である。図5A,図5Bは、それぞれ軸受部14周辺を上面から見た図である。図5Aは、回転軸31に軸方向の力が作用していない状態での上面図である。図5Bは、回転軸31に軸方向上方への力が作用して軸受部14が上方に移動した状態での上面図である。図5Aは、図4Aに示した状態に対応し、図5Bは、図4Bに示した状態に対応している。
【0026】
図5Aに示すように、腕部16aは、軸受部14近傍で幅が狭い幅狭部164を有している。また、腕部16aは、外周部18近傍で幅が狭い幅狭部168を有している。幅狭部164、168は、腕部16aの中腹での幅よりも狭い。図5Aに示すように、腕部16aの中心線16cは、軸受部14の中心Cを通過しない。換言すれば、腕部16aの長さは、軸受部14と外周部18との間をつなぐ最短の長さには設定されていない。図5Bに示した状態、即ち、軸受部14が軸方向上方へ移動した場合には、中心線16cは、軸受部14の中心C付近を通過する。
【0027】
図6は、定常状態と軸受部14が上方へ移動した状態とで、腕部16aの変形を示した図である。図6に示すように、定常状態から軸受部14が軸方向上方に移動した際には、腕部16aは、それぞれ幅狭部168付近を支点として反時計方向に回転するように変形する。換言すれば軸受部14は、時計方向に回転するように変形する。即ち、軸受部14が時計方向に回転しながら軸方向上方へと移動する。また、移動前後で軸受部14の中心Cの位置は略変化しない。
【0028】
この理由について説明する。図7は、腕部16aの変形の説明図である。図7Aは、腕部16aを上面から見た際の、見かけ上の長さの変化を示した図である。図7Bは、腕部16aを側面から見た際の見かけ上の長さの変化を示した図である。尚、図7は、誇張して示してある。
【0029】
図7Aに示すように、腕部16aを上面から見た場合での、幅狭部168から幅狭部164までの見た目の長さをL、L1とする。腕部16aは、図6に示したように、幅狭部164を支点として反時計方向に回転するように変形する。変形前の腕部16aの見た目の長さをLとし、変形後の腕部16aの見た目の長さをL1とする。長さLは、変形前の腕部16aの長さであるため、腕部16aの真の長さに相当する。図7Aに示すように、変形後の長さL1は、変形前の長さLよりも、L−L1だけ短い。即ち、腕部16aを上面から見た場合、変形前後では見た目の長さL−L1だけ縮んだように見える。
【0030】
図7Bに示すように、腕部16aを側面から見た場合での、幅狭部168から幅狭部164までの見た目の長さをL2、Lとする。腕部16aは、図4に示したように、幅狭部168(外周部18側)を支点として幅狭部164(軸受部14側)が軸方向上方に撓む。変形前の腕部16aの見た目の長さをL2とし、変形後の見た目の長さをLとする。側面から腕部16aを見た場合での変形後の長さLを腕部16aの真の長さとする。図7Bに示すように、変形後の長さLは、変形前の長さL2よりも、L−L2だけ短い。即ち、腕部16aを側面から見た場合、変形前後では見た目の長さL−L2だけ伸びたように見える。また、側面から見た場合、幅狭部164は軸線方向ADに沿って移動する。
【0031】
上面から見た際の変形前の見かけの長さLと、側面から見た際の変形後の見た目の長さLとが一致する。この理由は、腕部16aの真の長さは変形前後で略変形していないからである。これは、腕部16aは幅狭部168を支点として回転しながら、幅狭部164が軸方向の上方に移動するためである。
【0032】
これにより、腕部16aに変形による過度な負荷を与えずに、軸受部14は軸方向への移動が可能となる。従って、軸受部14が上方に移動する際に腕部16aへの負荷が低減される。換言すれば、軸受部14の上方への移動が容易となる。
【0033】
仮に、腕部の長さを軸受部14と腕部16aとをつなぐ最短の距離に設定し場合、軸受部14の軸方向への移動のためには、腕部が伸縮する必要がある。腕部の伸縮は、回転軸31に対して軸方向への大きな力が作用した場合にのみ起こり、軸受部14の移動が困難となる。しかしながら、腕部16aは、幅狭部168を支点として反時計方向に回転しつつ幅狭部164が上方へと移動するので、回転軸31に対して弱い力が作用した場合であっても、軸受部14は軸方向上方へと移動することが可能となる。これにより、軸方向のガタつきを抑制できる。また、腕部16aの破損を防止できる。
【0034】
また、このように軸受部14が時計方向に回転し、腕部16aが反時計方向に回転するのが容易な理由は、幅狭部164、幅狭部168の幅が他の部分よりも狭く形成されているからである。これにより、腕部16aの剛性が低下してこのような変形が容易となる。
【0035】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】アクチュエータ1の断面図である。
【図2】アクチュエータ1の上面図である。
【図3】プリント基板をケースに貼り付ける前のアクチュエータの上面図である。
【図4】軸受部の説明図である。
【図5】ケースの変形例の説明図である。
【図6】ケースの変形状態の説明図である。
【図7】腕部の変形の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
10、20 ケース
14 軸受部
16、16a 腕部
17 肉抜き孔
18 外周部
30 ロータ
31 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有したロータと、前記ロータを回転可能に収納するケースとを有したアクチュエータにおいて、
前記ケースは、前記回転軸と回転可能に係合する軸受部と、前記軸受部周囲に形成された複数の肉抜き孔と、前記複数の肉抜き孔周囲に形成された外周部と、前記複数の肉抜き孔の間にあって前記軸受部と前記外周部とを繋ぐように連続した腕部と、を有している、ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記腕部は、前記回転軸の軸方向での変形を容易にするために前記外周部よりも薄肉に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記複数の肉抜き孔を塞ぐプリント基板を備えている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記プリント基板は、前記外周部の前記ロータと対向する面とは反対側の面に固定され、
前記軸受部及び腕部は、前記外周部の前記プリント基板が固定される面より前記ロータ側に形成される、ことを特徴とする請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記軸受部及び回転軸は、互いに摺動回転可能に係合する係合部をそれぞれ有し、
前記係合部は、互いに摺動するテーパー面を有している、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記腕部の中心線は、前記軸受部の中心を通過しない、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記腕部は、前記軸受部近傍で幅が狭くなっている、ことを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記腕部は、前記外周部近傍で幅が狭くなっている、ことを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記ケースは、樹脂により形成されている、ことを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載のアクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−273310(P2009−273310A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123575(P2008−123575)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(396004981)セイコープレシジョン株式会社 (481)
【Fターム(参考)】