説明

アクチュエータ

【課題】変形応答特性の向上と発生力の向上を両立するアクチュエータを提供する。
【解決手段】互いに対向し合う一対の電極13,14と該一対の電極の間に配置される少なくとも電解質を含む中間層15は、少なくともポリマー繊維層を有し、またポリマー繊維層を形成している複数のポリマー繊維21は、三次元的に絡み合って交差しており、ポリマー繊維層は、ポリマー繊維とポリマー繊維が交差する交点20において、融着している部分を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ポリマーを材料とするアクチュエータの開発が行われている。
特許文献1には、作用極及び対極がそれぞれ隔膜と接して対向させ、作用極、対極及び隔膜が、電解液中に浸されており、作用極と対極との間に電圧を印加することにより、作用極が電解液中で伸縮する導電性高分子アクチュエータ素子が記載されている。
【0003】
特許文献1の実施例2においては、円筒状の金−ポリピロール複合体を作用極として、隔膜には、エレクトロスピニング法で作製した多孔質ポリビニルアルコール膜(静電紡糸シート)を用いることが記載されている。そして、筒状作用極の外側面を上記隔膜シートで被覆し、さらにその外側から対極のポリピロール膜で被覆し、電極群を構成し、この電極群をガラス管内に入れ、電解液を注入して封止して、アクチュエータ素子とすることが開示されている。
【0004】
しかし、特許文献1のような伸縮駆動型のアクチュエータは、素子全体が長尺方向に伸縮するので、伸縮に対して柔軟な材料で構成する必要がある。すなわち、伸縮性および柔軟性のある膜を中間層にすることで変形応答特性を向上させることができるが、必然的に中間層の機械強度を向上させることができにくくなる。
よって、アクチュエータ自体として十分な発生力を得ることは難しいため、変形応答特性の向上とアクチュエータの発生力の向上を両立することは困難である。
【0005】
また、特許文献2には、中間層に陽イオン交換膜を設け、この両面に電極を接合し、イオン交換膜に電位差をかけることにより陽イオン交換膜に湾曲および変形が生じる屈曲駆動型のアクチュエータ素子が記載されている。しかし、陽イオン交換膜自体の変形応答性は高くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−185016号公報
【特許文献2】特開平6−6991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、変形応答特性が高く、発生力の大きな屈曲駆動型のアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアクチュエータは、
第一の電極と、第二の電極と、該第一の電極と該第二の電極との間に中間層を有するアクチュエータであり、
該第一の電極と該第二の電極とは、対向しており、
該中間層は、電解質を含有しており、
該中間層は、ポリマー繊維層を有しており、
該ポリマー繊維層を形成している複数のポリマー繊維は、三次元的に絡み合って交差しており、
該ポリマー繊維層は、ポリマー繊維とポリマー繊維が交差する交点において、融着している部分を有しており、
該第一の電極と該第二の電極との間に電圧を印加すると該電解質中の陰イオン又は陽イオンが該第一の電極あるいは該第二の電極へ移動して該アクチュエータが変形する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、変形応答特性が高く、発生力の大きな屈曲駆動型のアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(a)は、本発明の実施形態に係るアクチュエータ1の図であり、(b)は分子配向したポリマー繊維が一部融着した中間層15の概略模式図であり、(c)は分子配向処理前後のポリマー鎖状態の変化を模式的に示した図である。
【図2】ポリマー繊維内部でのポリマー鎖状態の違いを模式的に示した図である。
【図3】アクチュエータ内でのイオンの移動を示した模式図であり、(a)が電圧印加前の状態を示す図であり、(b)が電圧印加後の状態を示す図である。
【図4】ポリマー繊維を製造するエレクトロスピニング装置を示す図である。
【図5】実施例1の中間層のポリマー繊維が一部融着していることを示す図(電子顕微鏡写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0012】
(アクチュエータの構成)
本発明の実施形態に係るアクチュエータについて図1を用いて説明する。
【0013】
本実施形態のアクチュエータは、第一の電極と、第二の電極と、第一の電極と第二の電極との間に中間層を有するアクチュエータである。
【0014】
第一の電極と第二の電極とは、対向しており、中間層は、電解質を含有している。
【0015】
第一の電極と第二の電極との間に電圧を印加すると、電解質中の陰イオン又は陽イオンが第一の電極へ移動する。これによりアクチュエータが屈曲変形する。このとき、第一の電極へ移動しない他方のイオンは、第二の電極へ移動する場合と、電解質層に保持される場合があるが、どちらの構成でも良い。
【0016】
図1(a)は、一対の対向する電極である第一の電極13、第二の電極14と、これら電極の間に配置されている中間層15とが積層された構造を有するアクチュエータ1を、各電極と中間層との積層方向(本図紙面の左右方向)に対して垂直な方向からみたときの模式図である。
【0017】
端子12は電極間に電圧を印加するために設けられた端子で、リード線11によって駆動電源10に接続されている。端子12はアクチュエータ1の一方の端(支持端部)を押さえている。
【0018】
駆動電源10によって端子12に電圧を印加すると、第一の電極13と第二の電極14との間に電圧が印加される。中間層は電解質を含んでいるので、この電圧印加によって、電解質中のイオンが少なくとも一方の電極層に移動し、アクチュエータの長尺の端(変位端)が図中の2つのブロック矢印のいずれかの方向に屈曲変形する。
【0019】
すなわち、イオン移動型のアクチュエータである。移動するイオンは陽イオンであるカチオン種と陰イオンであるアニオン種のいずれか一方または両方であり、それらの大きさには差がある。この差により、移動後のイオンの偏在による偏った体積膨張がアクチュエータ内で発生し、屈曲変形するものと考えられている。また、特開2008−228542号にあるように、一方のイオンを電解質層に固定化させる技術も知られており、同様に他方のイオンが移動することによって偏った体積膨張が発生するものと考えられている。
【0020】
本実施形態に係る三層の積層型の屈曲駆動型のアクチュエータは、特許文献1のような伸縮駆動型のアクチュエータとは異なり、中間層は長尺方向に対する伸縮性は要求されない。つまり、屈曲において中間層の機械的強度を向上させることが可能な構成となっている。
【0021】
また、中間層はポリマー繊維層を有する。
【0022】
このポリマー繊維層を形成している複数のポリマー繊維は、三次元的に絡み合って交差しており、ポリマー繊維層は、ポリマー繊維とポリマー繊維が交差する交点において、融着している部分を有している。
【0023】
これにより、中間層としての形状を維持するための骨格部分が、多孔質性と、アクチュエータとしての強度を備えている。
【0024】
多孔質構造であるが故に、両端電極の電位差によるイオンの移動がこの空隙を通過して容易に行われる。
【0025】
そして、多孔質の壁構造がポリマー繊維で構成されていることで強固なものとなる。さらに、これらの繊維同士が一部融着されることにより強固且つ柔軟なネットワークが形成されている。また、壁構造部分は細いポリマー繊維の集合体で構成されているため、外力に対して柔軟に変形でき、且つ変形後に復元する能力も備えている。そして、繊維の集合体であるが故に、発泡法で作成した多孔質体で発生しやすい小薄片が発生せず、これらが変形によって剥がれおちるようなこともなくなっている。
【0026】
結果、電極層13と電極層14との間に電圧が印加されると、電解質中のイオンが少なくとも一方の電極層に移動する効率が向上する上で、柔軟な変形を可能とし、且つ変形後の復元力も高くなるので、変形応答特性が大きな屈曲駆動型のアクチュエータが得られる。
【0027】
ポリマー繊維としては、平均直径が1nm以上50μm以下であることが好ましい。
【0028】
また、ポリマー繊維内で分子配向したポリマーで形成されたものを使用することで、より良好な機械強度を有する膜とすることが出来る。分子配向は30%質量以上が分子配向していると良い。なお、30質量%以上が分子配向している場合には、得られる膜は、キャスト膜の如き分子配向していない膜に比べてヤング率の差が明白となる場合が多い。ポリマー繊維内のポリマー鎖の分子配向は、従来法のX線分析や、赤外/ラマン偏光分析法により測定できる。特に、平均径がナノサイズ(1〜1000nm)のポリマー繊維(ポリマーナノ繊維)は、該ポリマー繊維作製過程において、ナノ繊維化に基づく超分子配列効果が大きく誘起される。つまり、該ポリマーナノ繊維中では、繊維の太さが細いために、ポリマー繊維作製過程において、ポリマー繊維中のポリマー鎖はポリマー繊維内の狭い領域内で,繊維長方向に引き伸ばされるため凝集や絡まりが抑制されて,繊維内部で著しく分子鎖が伸張した状態で規則正しく配列する。すなわち、分子配向している。
【0029】
例えば、J.Phys.Chem.B,Vol113,No40,2009には、Poly[(R)−3−hydroxybutyrate−co−(R)−3−hydroxyvalerate](PHBV)の場合には、ポリマーナノ繊維化することで、キャスト製膜で得られたポリマー膜(ランダムな配向)の場合には観測されなかった、分子配向に由来するピークやバンドがX線分析および、赤外偏光分析法により観測できること、ならびに、ファイバー径が1752nmから513nmへ,ナノ繊維化されることで、超分子配列効果が誘起され、繊維の機械的強度(引張強度)が23Mpaから、268Mpaへ飛躍的に向上することが報告されている。
【0030】
このような超分子配列効果を利用することで、しなりやすくなるだけでなく、さらに機械的強度が向上する。結果、より高い変形応答性を有するアクチュエータとすることができる。
【0031】
分子配向したポリマー繊維は、ランダム分子配向状態のポリマー材料を分子配向処理することよって作成することができる。
【0032】
図1(c)は分子配向処理前のランダム分子配向状態のポリマー材料中のポリマー鎖の状態(30)および、分子配向処理後のポリマー鎖3の状態(31)を模式的に示した図である。
【0033】
なお、図2には、太いポリマー繊維41中の絡み合ったポリマー鎖42の状態と、細いポリマー繊維43中の分子配向したポリマー鎖44の状態を模式的に示してある。
【0034】
これらの結果、中間層がしなりやすく、また高強度の膜となるために、さらに変形応答特性と発生力の大きな屈曲駆動型のアクチュエータが得られる。
【0035】
従来方法で作製されたポリマー材料中のポリマー鎖は、凝集あるいは絡まりあって存在している場合が多い。このような状態としては、ランダムコイル状態、あるいは無配向の状態がある。これに配向処理を施すことで、ポリマー材料内のポリマー鎖が伸張し、ポリマー鎖が分子配向する。配向処理法としては、延伸や、引張りがある。
【0036】
特にポリマー鎖が分子配向した繊維を作製する方法としては、キャスト製膜で作製したポリマーフィルムを、延伸・引っ張り処理する方法に加え、ポリマー材料を一旦溶解もしくは溶融させてから紡糸する方法(例えば、エレクトロスピニング法、複合紡糸法、ポリマーブレンド紡糸法、メルトブロー紡糸法、フラッシュ紡糸法)が挙げられる。
【0037】
ポリマー分子間の引力は、ポリマー分子が互いに接する面が大きいほど、すなわちポリマー分子鎖の配向が秩序正しいほど大きくなり、材料の強度が増す。
【0038】
つまり、分子配向したポリマー繊維で構成することで、良好な機械強度を有する中間層の母材とすることが可能となる。加えて、ポリマー繊維とポリマー繊維が交差する交点において、融着している部分を有している。これにより、単純な不織布とは異なり、繊維同士が結合しており、負荷が加わっても繊維同士がずれにくい構成が実現される。繊維同士がずれにくいことにより、伸縮しにくくなるが、屈曲駆動型の構成に利用することにより、この効果を十分に活用することができる。
【0039】
図1(b)は、中間層中のポリマー繊維21が少なくとも一部融着したポリマー繊維膜2の模式図を示している。図中、20は融着部を示す。このような構成にすることで、中間層は、極めて良好な機械強度を有する膜とすることが出来る。
【0040】
また、中間層が有するポリマー繊維は、細ければ細いほどよりしなりやすくなり、屈曲駆動型アクチュエータにより適した中間層を構成することができる。
【0041】
つまり、繊維の最大曲げ応力(部材内部に生じる抵抗する最大の力、σmax)は、以下のように求めることができる。
最大曲げ応力(σmax)=曲げモーメント(M)/断面係数(Z) −−−式(1)
ここで、繊維断面は直径dの円形の形状であると仮定した場合、その断面係数(Z)ならびに断面積はそれぞれ、πd/32およびπd/4である。
【0042】
繊維直径dの太い繊維と繊維直径dの細い繊維を比較するに当たり、体積を同じに仮定するため、直径dの繊維一本の断面積と直径dの細い繊維N本の断面積の総和が等しいとおく。
πd/4=N x(πd/4) −−−式(2)結果、Nは下式(3)で表せる。
N = d/d −−−式(3)一方、繊維直径dの繊維一本の断面係数Zと直径dの繊維N本の断面係数Zの関係は下式(4)のようになる。
:Z=πd/32:N x(πd/32) −−−式(4)よって、繊維直径dの繊維一本の最大曲げ応力σと繊維直径dの繊維N本の最大曲げ応力σの比は、それぞれの曲げモーメント(M)が等しい場合には、式(1)と式(4)から、下式(5)になる。
σ/σ=d/Nd −−−式(5)式(3)から、式(5)はさらに下式に変形できる。
σ/σ=d/d−−−式(6)ここで、d>dであるので、σ>σとなる。
【0043】
以上のことから、同体積のポリマー繊維を異なる繊維直径で中間層に配置する場合、繊維直径が細くなるほど、最大曲げ応力が大きくなり、しなりやすくなることが導かれる。以上、本発明の実施形態に係るアクチュエータについて、積層方向に対して垂直な断面が長方形の場合を例に説明したが、矩形平板状の構成の他、円形、三角形、楕円形の如き各種構成を任意に選択可能である。
【0044】
また、本実施形態においては、電極層13と14は、同じ形状であっても、互いに異なる形状でもよい。また、アクチュエータは単数あるいは複数の各素子から成る複合構成を取ることも可能である。
【0045】
さらに、本アクチュエータは電極層/中間層/電極層の三層積層構成だけに限らない。ここで、「/」は、互いに隣接して接する層を示している。
【0046】
上記構成以外に、電極層の外側が柔軟な絶縁層で少なくとも一部被覆されていても良いし、また電極層の外側にさらに電極層を有していてもよく、上述の三層積層構成を基本単位として、屈曲変形駆動する構成としてさえいれば、求める性能に基づき任意の積層構成とすることができる。
【0047】
加えて、図1では、中間層はポリマー繊維同士がランダム配向して形成した模式図を示しているが、ポリマー繊維が中間層の膜面内で一軸方向に揃っている部分を有して形成していても良く、また異なる一軸方向を有した複数の部分から構成されていても良い。なお、一軸方向が全て同じである場合には、変形応答特性(変位量)、或いは、発生力をより向上させることができるようになる。例えば、アクチュエータの発生力向上の観点からは、アクチュエータの屈曲方向への機械的強度が高くなるように配列させることが好ましく、図1(a)を基に述べると、中間層のポリマー繊維の配向方向は、アクチュエータの長尺方向であることが好ましい。
【0048】
(アクチュエータの駆動)
本発明の実施形態に係るアクチュエータは、一対の電極に電圧を印加することにより電解質中のイオンが移動して屈曲変形する。本発明の実施形態に係る一対の電極間に中間層が配置されているアクチュエータの屈曲変形時の駆動原理を、図3を用いて説明する。
【0049】
図3(a)のように、2つの電極層300、301は中間層200の表面に相互に絶縁状態で形成されている。この電極層300と301間に電位差がかかると、図3(b)に示すように、電解質800の陽イオン700と陰イオン600は、カソードの電極層301に陽イオン700が移動、浸透し、アノードの電極層300には陰イオン600が移動、浸透する。そして、電極層300、301内の導電材料とイオン性物質相の界面に電気二重層が形成される。大気中における駆動の観点から、蒸気圧のないイオン液体が本発明の電解質として好ましい。イオン液体は、陽イオン700のイオン半径が陰イオン600より大きい。その結果、電極層内に存在するイオンの立体効果と、電気二重層形成に伴う静電反発が協同的に働き、電極層301が電極層300に比べ、より膨張し、カソードがアノードに比べより伸びる方向へアクチュエータが屈曲すると考えられる。通常、電位の極性を反転させると膜は反対方向に屈曲変形する。また、変位の方向は電極層や中間層の構成により変化する。
【0050】
また、陽イオンと陰イオンのいずれか一方を中間層に固定し、他方のイオンのみが移動する場合も同様な原理で屈曲変形するものと考えられる。この場合、2つの電極層の膨張の差ではなく、一方の電極の膨張によるものとなる。
【0051】
本発明の実施形態に係るアクチュエータにおける印加電圧は、電解質の耐電圧内で設定でき、例えば、イオン液体を電解質として利用した場合には、±4V以下であることが好ましい。
【0052】
(第一および第二の電極)
本発明における第一の電極および第二の電極は、特に限定されるものでは無く、従来、有機ポリマーを材料とするアクチュエータ(ソフトアクチュエータ)の電極として公知の電極を適宜用いることが可能である。具体的には、導電性ポリマーや、CNTの如き導電材料を押し固めたものや、CNTの如き導電材料とポリマーとから少なくとも構成される単膜状の柔軟電極層が挙げられる。
【0053】
また、電極は、キャスト法などで形成された、導電材と電解質とポリマーを含有するフィルム状の膜で構成するとよい。
【0054】
特には、カーボンナノチューブとイオン液体から形成されるゲル電極やさらにそれらにバインダーポリマーを含有した柔軟電極であることが好ましいが、めっきやスパッタ、蒸着で形成された薄い金属層であっても構わない。
【0055】
なお、電極の形状は正方形や楕円の如きものを用いることが出来るが、長尺形状である場合、前記一方の端部から他方の端部への方向が長い長尺状である方が、アクチュエータの駆動変形時に大きな変位量が得られるために好ましい。また、第一および第二の電極は、同じ構成であっても、あるいは異なる材質、形状で構成された電極同士であってもよい。
【0056】
(中間層について)
本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいて、中間層は少なくともポリマー繊維を有する。特には、ポリマー繊維が集合体となって膜状に構成されたポリマー繊維膜で構成されることが好ましい。また、従来電解質膜として公知のポリマー膜にポリマー繊維が積層されている構成や、ポリマー内部にポリマー繊維が取り込まれている構成であっても良い。
【0057】
電圧印加によるイオン移動効率の観点からは中間層は多孔性が高いことが好ましいが、母材となるポリマー材料の多孔質化によって中間層としての機械強度が弱くなる。そこで、分子配向性の高いポリマー繊維を多孔質の骨格構造として利用することで、この強度を増しつつ、しなやかな変形を実現する中間層を構成できることを見出し、本発明は為された。
【0058】
ポリマー繊維のみが多孔質の骨格構造として配置されている構成がより好ましい。
【0059】
すなわち、イオン移動効率を向上させることのできる多孔性を実現しつつ、且つ多孔質骨格を強度に実現することのできる構造である。
【0060】
また中間層は、少なくとも電解質を含んでいる。電解質としては、後述するイオン液体が好ましい。
【0061】
本発明においてポリマー繊維とは、少なくとも1種類以上のポリマーを有し、そのポリマー繊維の太さよりも長さの方が長いものである。
【0062】
好ましいポリマー繊維の太さは1nm以上50μm(50000nm)以下であり、ポリマー繊維の長さは太さの10倍以上である。
【0063】
特に、ポリマー繊維は、繊維の太さが細い程、上述したように最大曲げ応力が大きくなり、結果、しなやかになる。加えて、繊維の太さが細い程、上述したようにポリマー繊維中のポリマー鎖が配向される効果(分子配向)が高まる。
【0064】
結果、中間層のしなやかさ、ならびに機械強度が増す。よって、好ましいポリマー繊維の太さは、10μm以下である。特に繊維の太さが1μm未満の場合には、ナノファイバー化に基づく超分子配列効果が大きく誘起され、繊維中のポリマー鎖の高い分子配向が達成される。
【0065】
よって、中間層におけるファイバー繊維膜を形成するファイバー繊維の平均直径は、1nm以上50μm以下であり、好ましくは、10μm以下であり、更に好ましくは1μm未満である。また、製造上の問題から一部太い繊維や細い繊維が含まれることは許容される。
【0066】
なお、ポリマー繊維の断面形状は特に限定されず、円形、楕円形、四角形、多角形、半円形でもよく、また正確な形状でなくてもよいし、任意の断面で形状が異なっていてもよい。なお、上記のポリマー繊維の太さとは、ポリマー繊維の断面が円形状のものでは、その断面の円の直径のことを指すが、それ以外では、繊維断面における重心を通る最長直線の長さのことである。
【0067】
(ポリマー繊維の作製方法)
ポリマー繊維の作製方法としては、特に限定されないが、例えば、エレクトロスピニング法、複合紡糸法、ポリマーブレンド紡糸法、メルトブロー紡糸法、フラッシュ紡糸法が挙げられる。
【0068】
様々なポリマーに対して繊維形状に紡糸できること、また繊維形状のコントロールが比較的簡便であり、ナノサイズの繊維を得ることができること、さらにはメートルサイズの大面積電極層を作製できることから、エレクトロスピニング法で作製することが好ましい。
【0069】
エレクトロスピニング法によるポリマー繊維の製造方法について、図4を用いて説明する。図4に示すように、高圧電源51、ポリマー溶液・貯蔵タンク52、紡糸口53、および、アース54されたコレクター55を用いて行う。
【0070】
ポリマー溶液はタンク52から紡糸口53まで一定の速度で押し出される。紡糸口53では、1〜50kVの電圧が印加されており、電気引力がポリマー溶液の表面張力を越える時、ポリマー溶液のジェットがコレクター55に向けて噴射される。この時、ジェット中の溶媒は徐々に揮発し、コレクターに到達する際には、ジェットサイズがナノレベルまで減少する。そして、コレクターにおいて中間層を形成する。また、ポリマー溶液でなく、融点以上に加熱した溶融ポリマーを利用してもよい。
【0071】
なお、ポリマー繊維の膜は、走査型電子顕微鏡(SEM)測定による直接観察により確認できる。またポリマー繊維の平均繊維径は、該当するポリマー繊維(膜)を走査型電子顕微鏡(SEM)で測定し、その画像を画像解析ソフト「Image J」に取り込んだ後、任意の50点のポリマー繊維の幅を計測することで求めることができる。
【0072】
(ポリマー繊維中のポリマー鎖の分子配向)
本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいては、上記ポリマー繊維中のポリマー鎖が分子配向している。
【0073】
ここで、「ポリマー鎖が分子配向している」とは、前記ポリマー繊維中でポリマー鎖が少なくとも一部、一軸方向に揃っていることを意味し、ポリマー鎖の強度向上の観点からは、ポリマー鎖の一軸配向方向は、該ポリマー繊維の長軸方向に揃っていることが特に好ましい。
【0074】
ポリマー繊維中のポリマー鎖の分子配向化手法は特に限定されず、従来公知の手法を適宜使用することが出来るが、例えば、エレクトロスピニング法、複合紡糸法、ポリマーブレンド紡糸法、メルトブロー紡糸法、フラッシュ紡糸法でポリマー繊維を作製する場合には、その紡糸過程で、延伸配向処理を経るため、本発明に用いる分子配向したポリマー繊維を効率よく得られるため好適である。特に、エレクトロスピニング法で作製したポリマー繊維は、サンプル溶液濃度や印加電圧などを最適化することで容易に、繊維径がナノサイズのポリマー繊維を得ることが可能であるため、非常に好適である。
【0075】
なお、エレクトロスピニング法では、繊維巻き取り可能な、回転ドラムをコレクターとして用い、本コレクターにポリマー溶液のジェットを噴射し、連続的に紡糸することで、極めて容易にポリマー繊維が、前記中間層の面内で一軸方向に揃っているポリマー繊維中間層を作製することも可能である。
【0076】
(ポリマー繊維中のポリマー鎖の配向の確認方法)
ポリマー繊維中のポリマー鎖の配向の確認方法は、ポリマー繊維が中間層の膜面内で異方性をもって配置されている場合には、X線散乱測定や偏光分光測定により簡便に評価することができるが、ランダム配置されている場合には、示差走査熱量(DSC)測定、またより簡便には膜のヤング率を比較することで確認することが出来る。
【0077】
(ポリマー繊維の融着)
本発明におけるポリマー繊維の融着とは、ポリマー繊維が軟化し、隣接するポリマー繊維と接着し、その接着境界部が面状であったり、接着境界がなくなっていたりする状態のことをいう。
【0078】
また、上記融着の手法は特に限定されず、熱融着、超音波融着、摩擦融着に加え、熱圧着による融着(ホットプレス)や接着剤のような第三の構成成分を用いた接着であってもよいが、取り扱いの容易さから熱による融着が好ましく、また厚みを均一に揃えやすいことから、ホットプレスする方法を特に好適に用いることができる。なお、ここで、「ホットプレスする」とは、加熱しながらプレスすること、及び、プレスした状態で昇温することの両方法を含む。
【0079】
加熱プレスの温度やプレス圧、時間は、上記ポリマーの分解温度以下であれば特に限定されるものではなく、用いるポリマー、アクチュエータを構成するポリマー化合物、移動するイオン種等に応じて適宜選択すればよい。例えば、加熱プレスの温度は、30から150℃であることが好ましい。また、プレス圧は1乃至100kg/cmであることが好ましく、10乃至50kg/cmであることがより好ましい。
【0080】
なお、ポリマー繊維の融着の確認方法は、融着工程前後で、SEM観察を行うことで容易に確認できる。また、ポリマー繊維の融着による中間層の強度向上の確認は、該融着工程前後での対応する膜のヤング率を測定することで容易に行うことが可能である。
【0081】
(アクチュエータの構成材料)
(電極層の構成材料)
電極層の導電材料としては、カーボン系導電性物質を1種またはそれらの混合物として含ませることができ、通常、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、活性炭素繊維の他、ナノカーボン材料(カーボンウイスカー(気相成長炭素)、(ナノ)炭素繊維、炭素ナノ粒子、グラフェン、やカーボンナノチューブの他、導電性ポリマーを用いることもできる。これらの中で、導電性及び比表面積の観点より、ナノカーボン材料が好ましく、特に好ましくは、CNTである。
【0082】
ナノカーボン材料の一つである、CNTとは、グラファイトのシートが円筒状に丸まって構成されたものであり、その円筒径が1〜10nmのものである。本発明の実施形態に係るアクチュエータに用いられるカーボンナノチューブは、グラフェンシートが筒形に巻いた形状から成る炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWCNT)と多層ナノチューブ(MWCNT)とに大別され、様々のものが知られている。本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいては、このような所謂カーボンナノチューブと称されるものであれば、いずれのタイプのカーボンナノチューブも用いることができる。
【0083】
本発明の実施形態に係るアクチュエータで用いられるナノカーボン材料の一つである、炭素ナノ粒子とは、カーボンナノチューブ以外の、カーボンナノホーン、アモルファス状炭素、フラーレンの如き炭素を主成分とするナノスケール(10−6〜10−9m)の粒子を言う。またカーボンナノホーンとは、グラファイトシートを円錐状に丸めた形状を持ち、先端が円錐状に閉じている炭素ナノ粒子をいう。
【0084】
本発明の実施形態に係るアクチュエータで用いられるナノカーボン材料の一つである、ナノ炭素繊維とは、グラファイトのシートが円筒状に丸まって構成されたものであり、その円筒径が10〜1000nmのものであり、カーボンナノファイバとも呼ばれる。カーボンナノファイバとは、繊維の太さが75nm以上で中空構造を有し、分岐構造の多い炭素系繊維である。市販品では、昭和電工(株)のVGCF、VGNFが挙げられる。
【0085】
本発明の実施形態に係るアクチュエータで用いられるナノカーボン材料の一つである、グラフェンとは黒鉛構造の一部であって、平面構造を有する炭素六員環が二次元的に配列した炭素原子の集合体のこと、つまり1枚の炭素の層からなるもののことである。
【0086】
本発明の実施形態に係るアクチュエータの電極層における前記導電材料の添加量は電極層の重量に対して1質量%以上が好ましい。電極層の質量に対して1質量重%以上であることにより、アクチュエータの電極として機能しうる電気伝導性を付与することができるため好ましい。含有量が1重量%未満だと、電極の導電性が十分に得られない場合があり、好ましくない。
【0087】
電極層を構成する上記ポリマーは、上記アクチュエータの変形に伴って変形可能な柔軟性を有するものであれば特に限定されるものではないが、加水分解性が少なく、大気中で安定であることが好ましい。かかるポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンの如きポリオレフィン系ポリマー;ポリスチレン;ポリイミド;ポリパラフェニレンオキサイド、ポリ(2、6−ジメチルフェニレンオキサイド)、ポリパラフェニレンスルフィドの如きポリアリーレン類(芳香族系ポリマー);ポリオレフィン系ポリマー、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアリーレン類(芳香族系ポリマー)に、スルホン酸基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、又は、ピリジニウム基を導入したもの;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンの如き含フッ素系のポリマー;含フッ素系のポリマーの骨格にスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、スルホニウム基、アンモニウム基、又は、ピリジニウム基を導入したパーフルオロスルホン酸ポリマー、パーフルオロカルボン酸ポリマー、パーフルオロリン酸ポリマー;ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルの如きポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレート;ナイロン;ポリアリレートを挙げることができる。なおこれらは単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよく、また官能基化してもよいし、他のポリマーとの共重合体としてもよい。
【0088】
また特に好ましいポリマーとしては、イオン性液体との親和性の観点から、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。また、上記ポリマーは、中間層と相溶性の高いポリマーであることが好ましい。これにより、中間層との、相溶性および接合性がより高いため、より強固な電極を構成することが可能となる。このためには、上記ポリマーは、上記中間層を構成するポリマー化合物と、同種、類似または同一のポリマー構造を有するポリマー、または、同種、類似または同一の官能基を有するポリマーであることがより好ましい。
【0089】
上述したように、本発明の実施形態に係るアクチュエータにおける電極は、ポリマーと、その中に分散されている上記導電材料とを含んでなることにより導電性が付与されている。また用いられる電極の電気抵抗値は、1000Ω・cm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは100Ω・cm以下である。またその、ヤング率は、0.1〜600MPaであることが好ましい。この範囲にあると、アクチュエータ応用においては、電極の柔軟性・伸縮性が向上し、耐塑性変形が向上するため、より繰り返し耐久性が高いイオン移動型アクチュエータの作製が可能となる。
【0090】
また、上記電極は、アクチュエータの機能に好ましくない影響を与えるものでない限り、ポリマーおよび上記導電材料の他の成分を含有していてもよい。また、含有させるポリマーの量は、10質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。ポリマー量に対して導電材料の割合が高ければ高いほうが導電性の観点から好ましいが、ポリマー量が10質量%未満である場合には、電極層に自立性がなく機械的に脆い場合があり、また60質量%を超える場合には含有させる上記導電性物質が相対的に少なくなってしまうためにアクチュエータの応答速度、発生力など面から実用的な使用が困難となってしまう場合がある。
【0091】
電極層の厚みは、上記アクチュエータの伸張変形を阻害しない限り特に限定されるものではないが、それぞれの電極層は、1μm以上5mm以下であることが好ましく、5μm以上2mm以下であることがより好ましく、10μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。各電極の厚みが、1μm未満であれば、アクチュエータの電極層として電気電導性の点で問題となる場合があるので好ましくない。また、電極の厚みが、5mmより大きくなれば、電極層が導電材料を含むことにより固くなりもろく割れやすくなる場合があるため好ましくない。なお、アノード電極層とカソード電極層の厚みや材料は同じである必要はなく、所望するアクチュエータ特性に合わせて適宜選択することが出来る。
【0092】
(中間層・ポリマー繊維の構成材料)
中間層およびポリマー繊維は、柔軟材料であり、多くはポリマー材料であれば、特に限定されない。
【0093】
なお、上述したように、本発明における中間層とは、少なくとも上述したポリマー繊維膜を有する膜であり、従来、電解質膜として公知のポリマー膜に該ポリマー繊維が積層されていても良いし、もちろんポリマー内部に取り込まれていても良いし、ポリマー繊維単独で中間層が形成されていても良い。
【0094】
上記ポリマー材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンの如き含フッ素系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレンの如きポリオレフィン系ポリマー;ポリブダジエン系化合物;エラストマーやゲルの如きポリウレタン系化合物;シリコーン系化合物;熱可塑性のポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリエチレンテレフタレートを挙げることができる。なおこれらは単独あるいは複数を組み合わせて用いてもよく、また官能基化してもよいし、他のポリマーとの共重合体としてもよい。
【0095】
また上記中間層は、少なくとも電解質を含んでいる必要がある。これにより、電極層に電圧を印加することで、イオンが動いてアクチュエータが屈曲変形するようになる。
【0096】
上記電解質としては、例えば、フッ化リチウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸銅、酢酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムを挙げることができる。また、イオン液体であってもよい。なお、イオン液体を利用する場合には、上記ポリマーとして、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロスルホン酸(Nafion、ナフィオン)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)が、イオン液体と親和性が高い傾向があるため、特に好適に使用できる。上述したように、電解質としてイオン液体を利用することもできる。
【0097】
本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいて用いられるイオン液体とは、常温溶融塩または単に溶融塩とも称されるものであり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈する塩であり、例えば温度0℃、好ましくは温度−20℃、さらに好ましくは温度−40℃で溶融状態を呈する塩である。また、上記イオン液体はイオン伝導性が高いものが好ましい。
【0098】
本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいては、各種公知のイオン液体を使用することができ、特に限定されるものではないが、常温(室温)または常温に近い温度において液体状態を呈する安定なものが好ましい。本発明の実施形態に係るアクチュエータにおいて用いられる好適なイオン液体としては、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩が挙げられる。なお、上記イオン液体は、2以上のイオン液体を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
上記イオン液体としては、より具体的には、下記の一般式(1)から(4)で表わされるカチオンと、アニオンより成るものを例示することができる。
【0100】
【化1】

【0101】
上記の式(1)から(4)において、Rは炭素数1から12のアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3から12のアルキル基を示す。式(1)においてR1は炭素数1から4のアルキル基または水素原子を示す。式(1)において、RとR1は同一ではないことが好ましい。式(3)および(4)において、xはそれぞれ1から4の整数である。
【0102】
式(1)で表されるイミダゾリウム塩骨格から形成される、イオン液体は、一般的に粘性が低く、またイオン伝導度も高い傾向にあるが、耐電圧(電位窓)に関しては、式(3)及び(4)で表されるアンモニウム塩骨格やホスホニウム塩骨格のものの方が広い傾向にある。これは、Chem.Commun.,2004,1972−1973に報告されているように、イミダゾリウムイオンが電気化学的に還元分解し易く、カルベンになるためである(式5)。
【0103】
つまり、アンモニウム塩骨格やホスホニウム塩骨格のものの方が特に還元側での電位窓が広がる傾向にある。結果、これらを用いたアクチュエータは広い入力電圧範囲で動作・駆動させることができるようになる。
【0104】
【化2】

【0105】
なお、本発明におけるアンモニウム塩骨格やホスホニウム塩骨格型のイオン液体のカチオンにおいては、式(3)や(4)で表される鎖状構造に加え、式(6)で表される環状オニウム塩骨格構造体であってももちろん良い。
【0106】
【化3】


(6)
【0107】
式(6)において、Y1およびY2は各々炭素数1から10までのアルキル基または水素原子を示す。式(6)において、Zは、窒素原子もしくはリン原子である。また、mは、0から4の整数である。
【0108】
なお、上述したように、本アクチュエータの駆動は、電圧印加に基づくイオン種の電極層への移動によるため、鎖状構造のイオン種よりは、環状構造のイオン種の方が、見かけのイオン体積が大きくすることが期待できる。結果、イオン体積の観点からは、イオン移動型アクチュエータにとって好適になるものと予期される。
【0109】
アニオンとしては、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸アニオン、過塩素酸アニオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ジシアンアミドアニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、有機カルボン酸アニオンおよびハロゲンイオンより選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0110】
上記中間層の厚みは、10μm以上500μm以下であることが好ましく、更には10μm以上400μm以下であることが好ましい。膜厚が500μmより大きいと膜の弾性率が大きくなりアクチュエータの変形運動を抑制する場合がある。また10μm未満だと保持できるイオン性物質量が少なく電極層への供給量が少なくなるため、屈曲運動が十分に得られない場合がある。
【0111】
また本発明における中間層は、そのヤング率が、0.1〜600MPaであることが好ましい。なお言うまでもないことであるが、ポリマー材料のヤング率は、その分子構造、骨格、高次構造、モルフォロジー状態に大きく起因するため、用いるポリマー材料によってその数値には、必然的に大きな開きが出てくる。しかしながら、この範囲にあると、アクチュエータ応用においては、中間層の柔軟性が向上し、耐塑性変形が向上するため、より繰り返し耐久性が高いイオン移動型アクチュエータの作製が可能となる。
【0112】
<アクチュエータの作製方法>
本発明の実施形態に係るアクチュエータの作製方法は、上記アクチュエータを作製することができる方法であればどのような方法であってもよいが、中間層をホットプレスして繊維の融着を誘起させた後に、電極層を圧着することで作製すると、膜の厚みを均一に揃えやすいので好適である。
【0113】
アクチュエータ膜に、水、上記イオン導電物質、上記イオン液体、またはこれらの混合物をアクチュエータ作製後に含ませる場合には、これらの溶液にアクチュエータ膜を含浸させればよい。ここで、含浸させる溶液の濃度、含浸させる時間は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。
【0114】
なお、本発明の実施形態に係るアクチュエータの形状は、短冊状とは限らず、任意の形状の素子が容易に製造可能である。
【実施例】
【0115】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0116】
(アクチュエータの性能評価)
アクチュエータを幅1mm×長さ12mm×所定の膜厚の短冊状に作製し、端2mmの部分を、固定器具の白金電極付きホルダー(端子)でつかんで、空気中で(空気中駆動)、電圧を印加する。アクチュエータの変形応答特性については、所定位置の変位量を評価する。変位量は、駆動電圧±1.0V、駆動周波数1Hzでの変位を、レーザー変位計を用いて固定端から9mmの位置(アクチュエータ測定ポイント)で測定する。
【0117】
また、歪量εは、レーザー変位計を用いて測定した変位量から、下記の式で算出した。
ε=2dδ/(l+δ
ここで、dはアクチュエータの厚み(mm)、δはレーザー変位計で測定した最大変位量の半分の値である。また、lはアクチュエータ(前記アクチュエータ測定ポイント)からレーザー変位計までの距離であり、本測定では8mmである。
【0118】
ヤング率は引っ張り試験機(Shimazu社製)を用いて測定した。
【0119】
アクチュエータの屈曲運動における発生力の評価は微小力評価用のロードセル(UL−10GR;ミネベア社製)を用いて行った。
【0120】
つまり、幅1mm、長さ12mmのアクチュエータの長尺端から2mmの部分を、固定器具の白金電極付きホルダー(端子)でつかんで、空気中で±2.5Vの電圧を印加して屈曲運動させた。その際のアクチュエータの固定端から2mmの位置の発生力を、ロードセルを用いて測定した。
【0121】
(実施例1)
本実施例1は、図1(a)に示したような、一対の電極層とポリマー繊維からなる中間層が積層された三層構造のアクチュエータである。
【0122】
電極層は以下の手順で作製した。
導電材である単層カーボンナノチューブ(SWNT、Unidym社製、商品名「HiPco」)50mgと、イオン液体(BMIBF(1−butyl−3−methylimidazolium tetrafluoroborate)、関東化学社製)100mgと、有機溶剤N、N−ジメチルアセトアミド(DMAc、キシダ化学社製)1mLを容器に入れた。
【0123】
粒径2mmのジルコニアボールを容器容量の1/3まで加え、ボールミル機(フリッチュ社製遊星型微粒粉砕機)を用いて、200rpm/30分間の条件で分散処理を行った。
【0124】
次いで、母材であるPVdF−HFP(シグマアルドリッチ社製)80mgをDMAc(2mL)で加熱溶解させて作った溶液を加え、更に500rpm/60分間の条件で分散処理を行った。
【0125】
得られた混合溶液をPTFEから成る型に流し込み、ブレードなどで平坦に均した後、室温にて真空乾燥させることで導電材が均一分散して厚みの揃った電極層を得た。
【0126】
ポリマー繊維からなる中間層は以下の手順で作製した。
母材であるPVdF−HFP800mgと、有機溶剤であるDMAc2.4mLとを温度80℃で加熱混合した。
【0127】
得られた、混合溶液をエレクトロスピニング装置(メック社製)を用いて噴射して紡糸した。この時、エレクトロスピニングの紡糸口には25kVの電圧を印加した。
【0128】
コレクターに集積した、ポリマー繊維からなる中間層を温度110℃、1kN(ニュートン)、1分間、の条件でホットプレスした後、幅2mm、長さ14mmにカッティングした。また、上記で得られた電極層を幅1mm、長さ12mmにカッティングし、中間層の両側に配置した状態で室温、0.5kN、1分間、の条件で圧着し対応する積層体を得た。
【0129】
得られた積層体をイオン液体(BMIBF)中に1時間浸漬し、その後、約12時間真空乾燥した。最後に中間層のはみ出た部分を切り揃えてアクチュエータを得た。なお、アクチュエータの幅と長さは以下の実施例及び比較例でも同一とした。
【0130】
得られたアクチュエータの厚みは約135μm(中間層の厚みは約35μm、電極層の厚みはそれぞれ約50μm)であった。ポリマー繊維の平均繊維径は、約870nmであった。また、図5に示すように、走査型電子顕微鏡(SEM、S−4800;日立ハイテクノロジーズ社製)を用いた観察からポリマー繊維からなる膜(中間層)が形成されていること、ならびにポリマー繊維がホットプレス工程後に融着していることが確認された。
【0131】
(実施例2)
本実施例2は、ポリマー繊維の径が異なる実施例1の変形例である。
【0132】
ここでは、中間層を以下のようにして作製する以外は実施例1と同様にして対応するアクチュエータを作製した。
【0133】
つまり、ポリマー繊維からなる中間層は、母材であるPVdFーHFP800mgと、イオン液体であるBMIBF20mgと、有機溶剤であるアセトニトリル(AcCN)―N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶液(AcCN/DMF=1.9/1.4)3.2mLとを温度80℃で加熱混合した。
【0134】
得られた、混合溶液をエレクトロスピニング装置を用いて噴射して紡糸した。この時、エレクトロスピニングの紡糸口には25kVの電圧を印加した。
【0135】
得られた本実施例2のアクチュエータの厚みは約135μm(該中間層の厚みは約35μm、電極層の厚みはそれぞれ約50μm)であった。ポリマー繊維の平均繊維径は、約160nmであった。また、SEM観察からポリマー繊維からなる膜(中間層)が形成されていること、ならびに該ポリマー繊維がホットプレス工程後に融着していることが確認された。
【0136】
(実施例3)
本実施例3は、ポリマー繊維の径が異なる実施例1の変形例である。
ここでは、中間層を以下のようにして作製する以外は同様にして対応するアクチュエータを作製した。
つまり、ポリマー繊維からなる中間層は、母材であるPVdF−HFP400mgと、イオン液体であるBMIBF20mgと、有機溶剤であるアセトニトリル(AcCN)―N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)混合溶液(AcCN/DMF=1/1)2mLとを温度80℃で加熱混合した。得られた、混合溶液を、エレクトロスピニング装置を用いて噴射して紡糸した。この時、エレクトロスピニングの紡糸口には22kVの電圧を印加した。
【0137】
得られた本実施例2のアクチュエータの厚みは約135μm(該中間層の厚みは35μm、電極層の厚みはそれぞれ約50μm)であった。ポリマー繊維の平均繊維径は、約100nmであった。また、SEM観察からポリマー繊維からなる膜(中間層)が形成されていること、ならびに該ポリマー繊維がホットプレス工程後に融着していることが確認された。
【0138】
(比較例1)中間層は、キャストフィルム形成
ここでは、中間層を以下のようにして作製する以外は実施例1と同様にしてアクチュエータを作製した。
母材であるPVdF−HFP800mgと、有機溶剤であるN、N−ジメチルアセトアミド(DMAc)2.4mLとを温度80℃で加熱混合した。
【0139】
その後、該混合液をテフロン(登録商標)フィルム状にキャスト製膜、真空乾燥して作製した、中間層を幅2mm、長さ14mmにカッティングした。また、実施例1で得られた電極層を幅1mm、長さ12mmにカッティングし、該中間層の両側に配置した状態で室温/0.5kN/1分間の条件で圧着し、対応する積層体を得た。該積層体をイオン液体(BMIBF)中に1時間浸漬し、その後、約12時間真空乾燥した。最後に該中間層のはみ出た部分を切り揃えてアクチュエータを得た。得られたアクチュエータの厚みは約135μm(中間層の厚みは約35μm、電極層の厚みはそれぞれ約50μm)であった。
【0140】
(比較例2)中間層は、融着工程を経ていない
本比較例2は、中間層が融着工程を経ていないこと以外は実施例1と同じである。
つまり、実施例1における、ポリマー繊維からなる中間層のホットプレス工程が省略された以外はほぼ同様にしてアクチュエータを作製した。
【0141】
得られたアクチュエータの厚みは約135μmであり、中間層の厚みは約35μm、2つの電極層の厚みはそれぞれ約50μmであった。
【0142】
(アクチュエータ性能評価)
上記実施例における全てのアクチュエータは、ポリマー繊維からなる多孔性の中間層を前記電極層で挟持した三層積層構造になっているため、該電極層に接した端子を介して電気エネルギーが印加されると、電解質中のイオンが効率よく移動し、良好な屈曲変形した。よって、前記三層積層構成にすることで、屈曲駆動型のアクチュエータが形成できることが確認できた。
【0143】
下記表1に実施例における中間層のポリマー繊維の平均径ならびに実施例および比較例における中間層のヤング率とそれらのアクチュエータの変形応答特性(歪量)および発生力の結果を示した。各実施例においてはホットプレス前後のヤング率を示してある。なお発生力は、比較例1の値を基準(数値として1)とし、比較例1との相対的な値で示した。
【0144】
【表1】

【0145】
まず、中間層がポリマー繊維の膜を有する実施例1−3および比較例2と、中間層がキャスト膜で形成された比較例1とを比べることで、ポリマー繊維膜を中間層に有するアクチュエータは、変形応答特性(歪量)および発生力が向上することが確認できる。
【0146】
また、実施例1−3におけるポリマー繊維からなる中間層のヤング率は、キャスト法で作製した比較例1のものよりも著しく高いことからポリマー繊維中のポリマー鎖が分子配向していることが確認できる。加えて、これら実施例1−3におけるポリマー繊維からなる中間層のヤング率は、融着工程(ホットプレス)後に著しく向上することから、融着により、実施例1−3の中間層の機械的強度が増すことも確認できる。
【0147】
本発明のアクチュエータは、繰り返し駆動させても安定しており、駆動耐久性が高いイオン移動型アクチュエータであった。
【0148】
本実施例で用いたPVDF−HFPは、ゴム状弾性を有する半結晶質ポリマーであるため、柔軟性を有したポリマー材料の一つとして知られている。これらの実施例において、PVDF−HFPを用いて高いヤング率のアクチュエータを製造できることが示された。さらに、融着工程によって、中間層のヤング率が融着前の実施例3(35Mpa)よりも大きなアクチュエータをそれぞれ製造することができた。
【0149】
さらに、実施例1−3のアクチュエータの発生力は、比較例に比べて著しく向上した。とくに、実施例1のアクチュエータでは、融着工程を経ない中間層を用いた比較例2よりも変形応答特性(歪量)の低下を招くことなく、発生力を大きく向上させることができたことから、本発明によって、変形応答特性の向上とアクチュエータの発生力の向上を両立することが可能となることが確認できる。
【0150】
またさらに、実施例1−3を比べることで、中間層のヤング率は、ポリマー繊維が細くなるほど大きくなる傾向がみられ、このことから、ポリマー繊維が細くなるほどポリマー繊維内の分子配向が顕著になっていること、特に、平均直径100nm程度では極めて分子配向がなされることが確認できる。
【0151】
なお、実施例2と3では中間層のヤング率はほぼ同程度であるのにも係らず、平均ポリマー繊維径がより細い実施例3の方が、変形応答特性ならびに発生力が大きく向上していることから、細線化により曲げ応力が増大して、しなりやすくなった効果も確認できる。
【0152】
次に、環状オニウム塩構造カチオン種を用いたアクチュエータに関しての実施例ならびに比較例を示す。
【0153】
(実施例4)
本実施例4は、イオン液体の種類が異なる実施例1の変形例である。
【0154】
ここでは、電極層および中間層の作製工程におけるイオン液体を、BMIBFに替えて、5員環状のアンモニウム塩型イオン液体である、1−Butyl−1−methylpyrrolidinium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide (BMPyTfNTf,東京化成社製)を用いた以外は同様にして、電極層および中間層を作製する以外は実施例1と同様にして対応するアクチュエータを作製した。
【0155】
得られたアクチュエータの厚みは約150μmであり、中間層の厚みは約38μm、2つの電極層の厚みはそれぞれ約56μmであった。
【0156】
(比較例3)
本比較例3は、イオン液体の種類が異なる以外は実施例4と同じである。
つまり、実施例4における、5員環状のアンモニウム塩型イオン液体BMPyTfNTfに替えて、鎖状のアンモニウム塩型イオン液体である、N,N−Diethyl−N−methyl−N−(2−,methoxyethyl)ammonium bis(trifluoromethanesulfonyl)imide(DMMATfNTf,関東化学社製)を用いた以外は同様にして、電極層および中間層を作製する以外は実施例1と同様にして対応するアクチュエータを作製した。
【0157】
得られたアクチュエータの厚みは約150μmであり、中間層の厚みは約38μm、2つの電極層の厚みはそれぞれ約56μmであった。
【0158】
(環状オニウム塩構造カチオン種と鎖状オニウム塩構造カチオン種の耐電圧特性および電位窓の比較)
イオン液体における、環状オニウム塩構造カチオン種と鎖状オニウム塩構造カチオン種の耐電圧特性および電位窓比較は、分子軌道計算によるHOMOおよびLUMOのエネルギーの値を比較すること、および実際にスウィープボルタンメトリーを測定することで行った。
【0159】
具体的には、分子軌道計算は、Spartan’10 for Windows(ウェブファンクション社製)を用いて行った。ここで、HOMOの値が負に大きいほど酸化されにくく、LUMO の値が正に大きいほど還元されにくく、HOMOとLUMOの間が広いほど電気化学的に安定なイオン液体である。
【0160】
また、スウィープボルタンメトリーは、ビー・エー・エス株式会社製のくし形電極を用い、+3Vから−3.5Vまでをスウィープ速度10mV/secで行った。
【0161】
BMPyTfNTf、DMMATfNTf、およびBMIBFに関する結果を表2に示す。なお、表2には、セコニック社製の振動式粘度計を用いて測定した各イオン液体の粘度およびホリバ社製のコンパクト導電率計を用いて測定した各イオン液体のイオン伝導度も合わせて示した。
【0162】
【表2】



【0163】
まず、カチオン種の分子軌道計算値のLUMOの値は、BMPyTfNTfおよびDMMATfNTfが、BMIBFよりも著しく高いことから、イミダゾリウム塩骨格よりもアンモニウム塩骨格の方が、耐還元性が増すことが示唆される。事実、電位窓測定からは、BMPyTfNTfおよびDMMATfNTfの方が、BMIBFよりも−1V程度電位窓が広がっていることが確認できた。なお、BMPyTfNTfおよびDMMATfNTfの還元電位値はほぼ同等であった。
【0164】
また、カチオン種の分子軌道計算値のHOMOの値は、BMPyTfNTfおよびDMMATfNTfが、BMIBFよりも低いことから、耐酸化性に関しても、イミダゾリウム塩骨格よりもアンモニウム塩骨格の方が、増加することが示唆される。事実、電位窓測定からは、BMPyTfNTfおよびDMMATfNTfの方が、BMIBFよりも若干ではあるが電位窓が広がっていることが確認できた。なお、BMPyTfNTfのLUMOの値は、DMMATfNTfよりは低いが、電位窓測定における実際の酸化電位値はBMPyTfNTfの方が高かった。
【0165】
なお、これら三種のイオン液体の粘度およびイオン伝導度はほぼ同等であった。
【0166】
表3には、実施例4で作製した、BMPyTfNTfをイオン液体として用いたアクチュエータならびに、比較例3で作製した、DMMATfNTfをイオン液体として用いたアクチュエータの駆動性能結果を示してある。
【0167】
【表3】

【0168】
結果、実施例4で作製した、BMPyTfNTfをイオン液体として用いたアクチュエータの変位量は、比較例3で作製した、DMMATfNTfをイオン液体として用いたアクチュエータのものに比べて、30%も増加した。
【0169】
また、BMPyTfNTfをイオン液体として用いたアクチュエータは、±2.8Vで8000回駆動させても、変位量の大きな変化は見られなかった。
【0170】
以上のことから、電解質中の陽イオンが、環状オニウム塩である場合には、変位が良好でかつ、広い電位窓で安定的に駆動させることが可能なアクチュエータが得られることが確認できる。
【0171】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0172】
10 駆動電源
11 リード線
12 端子
13、14 電極(層)
15 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、第二の電極と、該第一の電極と該第二の電極との間に中間層を有するアクチュエータであり、
該第一の電極と該第二の電極とは、対向しており、
該中間層は、電解質を含有しており、
該中間層は、ポリマー繊維層を有しており、
該ポリマー繊維層を形成している複数のポリマー繊維は、三次元的に絡み合って交差しており、
該ポリマー繊維層は、ポリマー繊維とポリマー繊維が交差する交点において、融着している部分を有しており、
該第一の電極と該第二の電極との間に電圧を印加すると該電解質中の陰イオン又は陽イオンが該第一の電極あるいは該第二の電極へ移動して該アクチュエータが変形する
ことを特徴とする該アクチュエータ。
【請求項2】
該第一の電極と該第二の電極との間に電圧を印加すると該電解質中の陰イオン又は陽イオンが該第一の電極へ移動するとともに、該第一の電極へ移動しないイオンが該第二の電極へ移動して
該アクチュエータが変形することを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
該中間層は、ヤング率が、0.1乃至600MPaである請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
該ポリマー繊維は、平均直径が1nm以上、50000nm未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項5】
該第一の電極及び該第二の電極は、ナノカーボン材料とポリマー材料から少なくとも形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
上記電解質が、環状オニウム塩であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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