アクチュエータ
【課題】可動電極の厚さを厚くすることなく、可動電極の可動範囲を大きくできるようにする。
【解決手段】基板101の上に離間して配置されて基板101に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極102,103と、2つの固定電極102,103の間に入り込んで基板101の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極102,103に接触しない範囲の幅とされた可動電極104とを備える。固定電極102および固定電極103は、例えば、同電位とされ、また、可動電極104の延在方向の断面形状が、線対称となるように形成されている。
【解決手段】基板101の上に離間して配置されて基板101に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極102,103と、2つの固定電極102,103の間に入り込んで基板101の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極102,103に接触しない範囲の幅とされた可動電極104とを備える。固定電極102および固定電極103は、例えば、同電位とされ、また、可動電極104の延在方向の断面形状が、線対称となるように形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロマシン技術による静電力により動作するアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの製造技術を応用したマイクロマシン技術の進歩により、様々な形態のマイクロマシンが開発されている。例えば、固定電極で発生させた静電力により可動電極を駆動させることで、電力を機械的な運動に変換する微細なアクチュエータがある(非特許文献1〜4参照)。例えば、このようなアクチュエータを用いて微細なミラーを駆動するミラー素子がある。このミラー素子を用いることで、光スイッチが実現できる。
【0003】
このアクチュエータは、図8に示すように、いわゆる櫛歯状の固定電極部801および可動電極部802を備える。このアクチュエータは、静電引力により、固定電極部801の側に可動電極部802を引き寄せるようにしている。このとき、図9に示すように、可動電極921が、2つの固定電極911,912の間に入り込むように移動する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W.Piyawattanametha et al. , "Surface- and Bulk- Micromachined Two-Dimensional Scanner Driven by Angular Vertical Comb Actuators", Journal of Microelectromechanical Systems, vol.14, no.6, pp.1329-1338, 2005.
【非特許文献2】D. Hah et al. , "Low-Voltage, Large-Scan Angle MEMS Analog Micromirror Arrays With Hidden Vertical Comb-Drive Actuators", Journal of Microelectromechanical Systems, vol.13, no.2, pp.279-289, 2004.
【非特許文献3】J. Tsai et al. , "Two-axis MEMS scanners with radial vertical combdrive actuators.design, theoretical analysis, and fabrication", J. Opt. A: Pure Appl. Opt. , vol.10 , 044006, 2008.
【非特許文献4】Ming C. Wu , "Micromachining for Optical and Optoelectronic Systems", Proceedings of the IEEE, vol.85, no.11, pp.1833-1856, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したアクチュエータでは、可動電極の可動範囲をあまり大きくすることができないという問題がある。まず、可動電極921の厚さは、共振周波数の低下を避けるために、より薄い方がよい。ところが、上述したアクチュエータは電極間の静電容量が最大となる位置で止まってしまうので、上述したアクチュエータでは、可動電極921の固定電極911,912の方向への可動範囲は、可動電極921の上端が固定電極911,912の上端に一致する程度のところまでが最大可動範囲となる。このため、可動電極921の可動距離は、可動電極921の可動方向の断面の長さ(厚さ)に依存し。可動電極921の厚さが薄いと、可動電極921の可動範囲は狭いものとなる。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、可動電極の厚さを厚くすることなく、可動電極の可動範囲を大きくできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアクチュエータは、基板の上に離間して配置されて基板に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極と、少なくとも一端がばね部で支持されて2つの固定電極の間に入り込んで基板の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極に接触しない範囲の幅とされた可動電極とを少なくとも備え、可動電極は、固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。例えば、2つの固定電極の間隔は、基板に近づくほど階段状に間隔が狭く形成されていればよい。
【0008】
本発明に係るアクチュエータは、基板の上に離間して配置された2つの固定電極と、少なくとも一端がばね部で支持されて2つの固定電極の間に入り込んで基板の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極に接触しない範囲の幅とされた可動電極とを少なくとも備え、2つの固定電極は、可動電極が延在する方向に配置された各々異なる高さの部分を備え、可動電極は、固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。例えば、2つの固定電極の高さは、2つの固定電極の高さは、可動電極が延在する方向に階段状に形成されていればよい。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したことにより、本発明によれば、可動電極の厚さを厚くすることなく、可動電極の可動範囲を大きくできるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの構成を示す構成図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2D】図2Dは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2E】図2Eは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの構成を示す構成図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの動作に関して印加電圧と変位の関係を示す特性図である。
【図5A】図5Aは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5B】図5Bは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5C】図5Cは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5D】図5Dは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5E】図5Eは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5F】図5Fは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5G】図5Gは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5H】図5Hは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5I】図5Iは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5J】図5Jは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3におけるアクチュエータの構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態3におけるアクチュエータの動作に関して印加電圧と変位の関係を示す特性図である。
【図8】図8は、櫛歯型のアクチュエータの構成を示す斜視図である。
【図9】図9は、アクチュエータの動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0012】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの構成を示す構成図である。図1では、アクチュエータの断面を模式的に示している。このアクチュエータは、基板101の上に離間して配置されて基板101に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極102,103と、2つの固定電極102,103の間に入り込んで基板101の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極102,103に接触しない範囲の幅とされた可動電極104とを備える。
【0013】
固定電極102および固定電極103は、例えば、同電位とされている。また、固定電極102および固定電極103は、可動電極104の延在方向の断面形状が、可動電極104の基板101の法線方向に平行な中心線に対し、線対称となるように形成されている。このように構成された固定電極102および固定電極103は、基板101との接触部(下端部)から上端部にかけて、間隔w1から間隔w2にまで幅が広くなっている。
【0014】
また、可動電極104は、固定電極102および固定電極103の上端より上の位置より、基板101に近づく方向に変位可能とされている。可動電極104は、固定電極102,103に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。例えば、可動電極104は板状の部材から構成され、この一端が支持構造体(不図示)により基板101の上に支持されている。この場合、板状の部材の支持構造体に連結している一端側の領域がばね部として機能し、ばね部に続く先端側の可動電極104が、上述したように変位する。
【0015】
このように変位する中で、例えば、可動電極104と固定電極102との距離、および可動電極104と固定電極103との距離は、等しいものとされている。言い換えると、可動電極104は、この中心が、固定電極102および固定電極103の間の中心線(中心面)を通るように変位する。また、例えば、固定電極102および固定電極103と可動電極104との間には、電位が印加可能とされ、これらの間に容量が形成可能とされている。
【0016】
上述した本実施の形態におけるアクチュエータによれば、可動電極104が基板101に近づくほど、可動電極104と固定電極102との距離、および可動電極104と固定電極103との距離が、小さいものとなる。従って、可動電極104と固定電極102との間の静電容量、および可動電極104と固定電極103との間の静電容量は、可動電極104が基板101に近づくほど増大することになる。静電容量が増加すれば、静電引力も増加する。この結果、本実施の形態によれば、可動電極104を、より基板101に近づける状態に変位させることが可能となり、可動電極104の可動範囲を大きくできる。また、本実施の形態によれば、可動電極104の基板101の法線方向の長さ(厚さ)を大きくすることなく、可動範囲を大きくすることができる。本発明では、可動電極と固定電極とがペアとなった1つの片持ち梁でも適用でき、可動電極と固定電極とのペアが複数配列された櫛歯型電極構造にも適用できる。
【0017】
以下、本実施の形態におけるアクチュエータの製造方法例について、図2A〜図2Eを用いて説明する。まず、図2Aに示すように、例えば、主表面が(100)面とされたシリコン単結晶からなる基板201を用意する。次に、図2Bに示すように、基板201の上に、絶縁層202および金属層203を形成し、金属層203の上に、図2Cの平面図に示すような形状の開口部204aを備えるレジストパターン204を形成する。
【0018】
例えば、基板201の表面を熱酸化することで酸化シリコンからなる絶縁層202が形成できる。また、よく知られたCVD法などの堆積法により酸化シリコンを堆積することで、絶縁層202を形成してもよい。また、スパッタ法などにより金属を堆積することで、金属層203が形成できる。また、メッキ法などにより金属を堆積して金属層203を形成してもよい。また、レジストパターン204は、公知のフォトリソグラフィー技術により形成すればよい。
【0019】
次に、図2Dに示すように、レジストパターン204をマスクとした公知のドライエッチングなどにより、金属層203および絶縁層202を選択的にエッチングし、可動電極205を形成する。また、このパターニングにおいては、開口部204aの領域において、基板201の表面が露出する状態とする。
【0020】
次に、開口部204を介してアルカリを作用させるウエットエッチングにより基板201を選択的に異方性エッチングする。ここで、よく知られているように、アルカリによるウエットエッチングでは、シリコンの(111)面がエッチングされにくい。このため、(100)面の基板201の表面よりアルカリによりエッチングを行うと、すり鉢状に凹部が形成され、凹部の側面は、基板201の法線方向に対して54.74°傾いた状態に形成される。この傾いた側面が、シリコンの(111)面となる。
【0021】
次に、レジストパターン204を除去すれば、図2Eに示すように、可動電極205に近づくほど、間隔が広がって形成された2つの固定電極201a,201bが形成できる。なお、この後、基板201の上の金属層203を適宜にパターニングおよび除去し、可動電極205に接続する配線パターンなどを形成すればよい。また、一部の絶縁層202を除去し、基板201にコンタクトする配線パターンを形成すればよい。
【0022】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図3は、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの構成を示す断面図である。
【0023】
このアクチュエータは、基板301の上に離間して配置されて基板301に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極302,303と、2つの固定電極302,303の間に入り込んで基板301の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極302,303に接触しない範囲の幅とされた可動電極304とを備える。本実施の形態では、2つの固定電極302,303の間隔は、基板301に近づくほど階段状に間隔が狭く形成されている。
【0024】
本実施の形態においても、固定電極302および固定電極303は、例えば、同電位とされている。また、固定電極302および固定電極303は、可動電極304の延在方向の断面形状が、可動電極304の基板301の法線方向に平行な中心線に対し、線対称となるように形成されている。また、可動電極304は、固定電極302および固定電極303の上端より上の位置より、基板101に近づく方向に変位可能とされている。可動電極304は、固定電極302,303に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。例えば、可動電極304は板状の部材から構成され、この一端が支持構造体(不図示)により基板301の上に支持されている。この場合、板状の部材の支持構造体に連結している一端側の領域がばね部として機能し、ばね部に続く先端側の可動電極304が、上述したように変位する。
【0025】
このように変位する中で、例えば、可動電極304と固定電極302との距離、および可動電極304と固定電極303との距離は、等しいものとされている。言い換えると、可動電極304は、この中心が、固定電極302および固定電極303の間の中心線(中心面)を通るように変位する。また、例えば、固定電極302および固定電極303と可動電極304との間には、電位が印加可能とされ、これらの間に容量が形成可能とされている。
【0026】
上述した本実施の形態におけるアクチュエータによれば、可動電極304が基板301に近づくほど、可動電極304と固定電極302との距離、および可動電極304と固定電極303との距離が、小さいものとなる。従って、可動電極304と固定電極302との間の静電容量、および可動電極304と固定電極303との間の静電容量は、可動電極304が基板301に近づくほど増大することになる。静電容量が増加すれば、静電引力も増加する。この結果、本実施の形態によれば、可動電極304を、より基板301に近づける状態に変位させることが可能となり、可動電極304の可動範囲を大きくできる。また、本実施の形態によれば、可動電極304の基板301の法線方向の長さ(厚さ)を大きくすることなく、可動範囲を大きくすることができる。
【0027】
例えば、図4において、間隔が均一に形成された2つの固定電極によるアクチュエータ(a)、階段が1段で基板に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極によるアクチュエータ(b)、および階段が2段で基板に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極によるアクチュエータ(c)は、図4の(d)に示すように、印加電圧に対して可動電極が変位する。なお、図4の(d)で、印加電圧および変位は、正規化した値である。なお、各アクチュエータは、可動電極の延在方向においては、固定電極の高さが均一に形成されている。
【0028】
ここで、アクチュエータ(a)は、可動電極の厚さtが8μm、固定電極の高さTfが30μm、可動電極と固定電極との間隔gが8μmである。また、アクチュエータ(b)は、可動電極の厚さtが8μm、固定電極の高さTfが30μm、可動電極と固定電極との間隔gが8μm、可動電極と固定電極との間隔g’が6μm、間隔g=8μmの部分の固定電極の高さhが6μmである。また、アクチュエータ(c)は、可動電極の厚さtが8μm、固定電極の高さTfが30μm、可動電極と固定電極との間隔gが8μm、可動電極と固定電極との間隔g’が6μm、可動電極と固定電極との間隔g”が5.5μm、間隔g=8μmおよび間隔g’=6μmの部分の固定電極の高さhが6μmである。なお、可動電極に連結されている梁部(不図示)は、長さ1200μm、幅70μm、厚さ8μm程度としている。
【0029】
2つの固定電極の間隔が均一とされているアクチュエータ(a)は、図4の(d)に白丸で示すように、印加電圧が8V程度までは変位が増加するが、可動電極の厚さtが8μmであるため、最大で8μm程度の変位しか得られない。一方、アクチュエータ(b)は、図4の(d)に黒三角で示すように、印加電圧が14V程度まで変位が増加し、最大で14μm程度の変位が得られる。また、アクチュエータ(c)は、図4の(a)に白四角で示すように、印加電圧が20V程度まで変位が増加する。
【0030】
以上のことから明らかなように、固定電極302および固定電極303の間隔が基板301に近づくほど狭くなる領域を、高さ方向により長くすることで、可動電極304をより大きく変位させることができる。本発明では、可動電極と固定電極とがペアとなった1つの片持ち梁でも適用でき、可動電極と固定電極とのペアが複数配列された櫛歯型電極構造にも適用できる。
【0031】
次に、本実施の形態におけるアクチュエータの製造方法例について図5A〜図5Jを用いて簡単に説明する。まず、図5Aに示すように、シリコンからなる基板501を用意する。次に、図5Bに示すように、基板501の上に、開口502aを備えるレジストパターン502を形成する。次に、レジストパターン502をマスクとしてシリコン基板501を選択的にエッチングし、図5Cに示すように、溝部501aを形成する。
【0032】
次に、レジストパターン502を除去してから、図5Dに示すように、開口503aを備えるレジストパターン503を形成する。開口503aは、開口502aと同じ幅に形成する。また、開口503aは、形成しようとする階段状の階段部分の幅に対応し、開口502aより位置をずらして形成する。次に、レジストパターン503をマスクとしてシリコン基板501を選択的にエッチングし、図5Eに示すように、溝部501a’および溝部501bを形成する。溝部501a’は、溝部501aの幅を広くした部分である。
【0033】
次に、レジストパターン503を除去してから、図5Fに示すように、開口504aを備えるレジストパターン504を形成する。開口504aは、開口503aと同じ幅に形成する。また、開口504aは、形成しようとする階段状の階段部分の幅に対応し、開口503aおよび開口502aより位置をずらして形成する。次に、レジストパターン504をマスクとしてシリコン基板501を選択的にエッチングし、図5Gに示すように、溝部501a”,溝部501b’,および溝部501cを形成する。溝部501a”は、溝部501a’の幅を広くした部分である。また、溝部501b’は、溝部501bの幅を広くした部分である。以上の工程により、上部に行くほど階段状に間隔が広く形成された溝部が形成され、上部に行くほど階段状に間隔が広がる2つの固定電極521a,522bが形成できる。
【0034】
次に、図5Hに示すように、表面に絶縁層508を形成したSOI(Silicon on Insulator)基板511を、基板501の上に貼り合わせる。SOI基板511は、シリコン基部505の上に、埋め込み絶縁層506を介して表面シリコン層507が形成された基板である。絶縁層508は、表面シリコン層507に形成されている。次に、SOI基板511のシリコン基部505および埋め込み絶縁層506を除去し、表面シリコン層507をパターニングすることで、図5Iに示すように、可動電極509を形成する。この後、可動電極509をマスクとして絶縁層508を選択的に除去することで、図5Jに示すように、2つの固定電極521a,521bの間に入り込んで基板501の法線方向に変位可能とされ、変位可能な範囲では、2つの固定電極521a,521bに接触しない範囲の幅とされた可動電極509が形成される。
【0035】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図6は、本発明の実施の形態3におけるアクチュエータの構成を示す斜視図である。このアクチュエータは、基板601の上に離間して配置された2つの固定電極602,603と、2つの固定電極602,603の間に入り込んで基板601の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極602,603に接触しない範囲の幅とされた可動電極604とを少なくとも備える。
【0036】
加えて、2つの固定電極602,603は、可動電極604が延在する1方向に行くほど高さが低く形成されている。本実施の形態では、2つの固定電極602,603の高さは、上記1方向に行くほど階段状に低く形成している。なお、本実施の形態では、固定電極602と固定電極603との間隔は、均一な状態としている。
【0037】
このようにすることで、静電力の働いていない初期状態においては、可動電極604は、固定電極602および固定電極603の上段602aおよび上段603aに最も近く、固定電極603の上段602aおよび上段603aと可動電極604の間にコンデンサが形成されている。固定電極602,603に電圧を印加すると、これらの間の静電引力が強く働き、上段602aおよび上段603aの方へ変位する。
【0038】
ここで、可動電極604が中段602bおよび中段603bまで変位すると、中段602bおよび中段603bと可動電極604の間にもコンデンサが形成されるため、静電引力が増加する。このため、可動電極603は、さらに基板601の方へ変位する。
【0039】
ここで、可動電極604が下段602cおよび下段603cまで変位すると、下段603bおよび下段603cと可動電極604の間にもコンデンサが形成されるため、静電引力が増加する。このため、可動電極603は、さらに基板601の方へ変位することができる。
【0040】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、可動電極603を、より基板601に近づける状態に変位させることが可能となり、可動電極603の可動範囲を大きくできる。また、本実施の形態によれば、可動電極603の基板601の法線方向の長さ(厚さ)を大きくすることなく、可動範囲を大きくすることができる。
【0041】
例えば、図7において、可動電極604が延在する1方向に行くほど3段階に高さが低く形成されている固定電極602によるアクチュエータ(a)、可動電極604が延在する1方向に行くほど4段階に高さが低く形成されている固定電極702によるアクチュエータ(b)は、図7の(c)に示すように、印加電圧に対して可動電極が変位する。
【0042】
ここで、アクチュエータ(a)は、可動電極604の厚さtが8μm、固定電極602の高さTfが30μm、階段状の一段の高さhが6μm、一段の長さが14μm、および可動電極604と固定電極との間隔gが8μmである。また、アクチュエータ(b)は、可動電極604の厚さtが8μm、固定電極702の高さTfが30μm、階段状の一段の高さhが6μm、一段の長さが14μm、および可動電極604と固定電極との間隔gが8μmである。なお、可動電極603に連結されている梁部(不図示)は、長さ1200μm、幅70μm、厚さ8μm程度としている。
【0043】
固定電極が階段状とされていない高さが均一とされているアクチュエータは、図7の(c)に白丸で示すように、印加電圧が70V程度までは、変位が増加するが、可動電極の厚さに制限され、70Vを超えてもこれ以上変位は変化しない。一方、アクチュエータ(a)は、図7の(c)に白三角で示すように、印加電圧が125V程度まで変位が増加する。また、アクチュエータ(b)は、図7の(c)に白四角で示すように、印加電圧が200V程度まで変位が増加する。
【0044】
以上のことから明らかなように、固定電極における、可動電極が延在する1方向に行くほど高さが低く形成されている領域を、高さ方向により長くすることで、可動電極をより大きく変位させることができる。
【0045】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。可動電極と固定電極の対向する極板面積が増加するようにするためには、固定電極の高さが階段状に変化する必要はなく、高さが異なった複数の領域があればよい。また、例えば、2つの固定電極の間隔を、基板に近いほど狭くするとともに、可動電極が延在する1方向に行くほど高さが低く形成されているようにしてもよい。
【0046】
また、上述した実施の形態では、2つの固定電極が、可動電極が延在する1方向に行くほど、高さが低く形成されているようにしたが、これに限るものではない。2つの固定電極は、可動電極が延在する方向に配置された各々異なる高さの部分を備えていればよい。例えば、可動電極の延在方向において、一端側より中央部に行くほど高くなり、また、中央部から他端側に行くほど低くなるように各固定電極が形成されていてもよい。この場合、例えば、中央部が、基板側より見て初期状態の可動電極と同じ他笹とされていればよい。また、可動電極の延在方向において、一端側および他端側は、基板側より見て初期状態の可動電極と同じ高さとされ、一端側および他端側から中央部に行くほど低くなるように形成されていてもよい。また、これらが、階段状に変化していてもよい。
【0047】
また、前述では、可動電極を板状の片持ち梁の構造とした場合について説明したが、これに限るものではなく、可動電極は、少なくとも一端がばね部により支持されて変位可能とされていればよい。ばね部は、変形可能な弾性部材から構成されてればよく、どの様な形状であってもよい。例えば、可動電極とは別体の弾性部材からなる連結部(ばね部)により、可動電極と支持構造体とを連結する構造としてもよい。また、実施の形態2で説明した階段状の固定電極は、メッキ法により金属層を積層することで、形成するようにしてもよい。本発明では、可動電極と固定電極とがペアとなった1つの片持ち梁でも適用でき、可動電極と固定電極とのペアが複数配列された櫛歯型電極構造にも適用できる。
【符号の説明】
【0048】
101…基板、102…固定電極、103…固定電極、104…可動電極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロマシン技術による静電力により動作するアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIの製造技術を応用したマイクロマシン技術の進歩により、様々な形態のマイクロマシンが開発されている。例えば、固定電極で発生させた静電力により可動電極を駆動させることで、電力を機械的な運動に変換する微細なアクチュエータがある(非特許文献1〜4参照)。例えば、このようなアクチュエータを用いて微細なミラーを駆動するミラー素子がある。このミラー素子を用いることで、光スイッチが実現できる。
【0003】
このアクチュエータは、図8に示すように、いわゆる櫛歯状の固定電極部801および可動電極部802を備える。このアクチュエータは、静電引力により、固定電極部801の側に可動電極部802を引き寄せるようにしている。このとき、図9に示すように、可動電極921が、2つの固定電極911,912の間に入り込むように移動する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W.Piyawattanametha et al. , "Surface- and Bulk- Micromachined Two-Dimensional Scanner Driven by Angular Vertical Comb Actuators", Journal of Microelectromechanical Systems, vol.14, no.6, pp.1329-1338, 2005.
【非特許文献2】D. Hah et al. , "Low-Voltage, Large-Scan Angle MEMS Analog Micromirror Arrays With Hidden Vertical Comb-Drive Actuators", Journal of Microelectromechanical Systems, vol.13, no.2, pp.279-289, 2004.
【非特許文献3】J. Tsai et al. , "Two-axis MEMS scanners with radial vertical combdrive actuators.design, theoretical analysis, and fabrication", J. Opt. A: Pure Appl. Opt. , vol.10 , 044006, 2008.
【非特許文献4】Ming C. Wu , "Micromachining for Optical and Optoelectronic Systems", Proceedings of the IEEE, vol.85, no.11, pp.1833-1856, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したアクチュエータでは、可動電極の可動範囲をあまり大きくすることができないという問題がある。まず、可動電極921の厚さは、共振周波数の低下を避けるために、より薄い方がよい。ところが、上述したアクチュエータは電極間の静電容量が最大となる位置で止まってしまうので、上述したアクチュエータでは、可動電極921の固定電極911,912の方向への可動範囲は、可動電極921の上端が固定電極911,912の上端に一致する程度のところまでが最大可動範囲となる。このため、可動電極921の可動距離は、可動電極921の可動方向の断面の長さ(厚さ)に依存し。可動電極921の厚さが薄いと、可動電極921の可動範囲は狭いものとなる。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、可動電極の厚さを厚くすることなく、可動電極の可動範囲を大きくできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアクチュエータは、基板の上に離間して配置されて基板に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極と、少なくとも一端がばね部で支持されて2つの固定電極の間に入り込んで基板の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極に接触しない範囲の幅とされた可動電極とを少なくとも備え、可動電極は、固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。例えば、2つの固定電極の間隔は、基板に近づくほど階段状に間隔が狭く形成されていればよい。
【0008】
本発明に係るアクチュエータは、基板の上に離間して配置された2つの固定電極と、少なくとも一端がばね部で支持されて2つの固定電極の間に入り込んで基板の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極に接触しない範囲の幅とされた可動電極とを少なくとも備え、2つの固定電極は、可動電極が延在する方向に配置された各々異なる高さの部分を備え、可動電極は、固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。例えば、2つの固定電極の高さは、2つの固定電極の高さは、可動電極が延在する方向に階段状に形成されていればよい。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したことにより、本発明によれば、可動電極の厚さを厚くすることなく、可動電極の可動範囲を大きくできるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの構成を示す構成図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2D】図2Dは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図2E】図2Eは、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの構成を示す構成図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの動作に関して印加電圧と変位の関係を示す特性図である。
【図5A】図5Aは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5B】図5Bは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5C】図5Cは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5D】図5Dは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5E】図5Eは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5F】図5Fは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5G】図5Gは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5H】図5Hは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5I】図5Iは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図5J】図5Jは、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの製造方法例を説明するための各工程における状態を示す断面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3におけるアクチュエータの構成を示す斜視図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態3におけるアクチュエータの動作に関して印加電圧と変位の関係を示す特性図である。
【図8】図8は、櫛歯型のアクチュエータの構成を示す斜視図である。
【図9】図9は、アクチュエータの動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0012】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるアクチュエータの構成を示す構成図である。図1では、アクチュエータの断面を模式的に示している。このアクチュエータは、基板101の上に離間して配置されて基板101に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極102,103と、2つの固定電極102,103の間に入り込んで基板101の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極102,103に接触しない範囲の幅とされた可動電極104とを備える。
【0013】
固定電極102および固定電極103は、例えば、同電位とされている。また、固定電極102および固定電極103は、可動電極104の延在方向の断面形状が、可動電極104の基板101の法線方向に平行な中心線に対し、線対称となるように形成されている。このように構成された固定電極102および固定電極103は、基板101との接触部(下端部)から上端部にかけて、間隔w1から間隔w2にまで幅が広くなっている。
【0014】
また、可動電極104は、固定電極102および固定電極103の上端より上の位置より、基板101に近づく方向に変位可能とされている。可動電極104は、固定電極102,103に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。例えば、可動電極104は板状の部材から構成され、この一端が支持構造体(不図示)により基板101の上に支持されている。この場合、板状の部材の支持構造体に連結している一端側の領域がばね部として機能し、ばね部に続く先端側の可動電極104が、上述したように変位する。
【0015】
このように変位する中で、例えば、可動電極104と固定電極102との距離、および可動電極104と固定電極103との距離は、等しいものとされている。言い換えると、可動電極104は、この中心が、固定電極102および固定電極103の間の中心線(中心面)を通るように変位する。また、例えば、固定電極102および固定電極103と可動電極104との間には、電位が印加可能とされ、これらの間に容量が形成可能とされている。
【0016】
上述した本実施の形態におけるアクチュエータによれば、可動電極104が基板101に近づくほど、可動電極104と固定電極102との距離、および可動電極104と固定電極103との距離が、小さいものとなる。従って、可動電極104と固定電極102との間の静電容量、および可動電極104と固定電極103との間の静電容量は、可動電極104が基板101に近づくほど増大することになる。静電容量が増加すれば、静電引力も増加する。この結果、本実施の形態によれば、可動電極104を、より基板101に近づける状態に変位させることが可能となり、可動電極104の可動範囲を大きくできる。また、本実施の形態によれば、可動電極104の基板101の法線方向の長さ(厚さ)を大きくすることなく、可動範囲を大きくすることができる。本発明では、可動電極と固定電極とがペアとなった1つの片持ち梁でも適用でき、可動電極と固定電極とのペアが複数配列された櫛歯型電極構造にも適用できる。
【0017】
以下、本実施の形態におけるアクチュエータの製造方法例について、図2A〜図2Eを用いて説明する。まず、図2Aに示すように、例えば、主表面が(100)面とされたシリコン単結晶からなる基板201を用意する。次に、図2Bに示すように、基板201の上に、絶縁層202および金属層203を形成し、金属層203の上に、図2Cの平面図に示すような形状の開口部204aを備えるレジストパターン204を形成する。
【0018】
例えば、基板201の表面を熱酸化することで酸化シリコンからなる絶縁層202が形成できる。また、よく知られたCVD法などの堆積法により酸化シリコンを堆積することで、絶縁層202を形成してもよい。また、スパッタ法などにより金属を堆積することで、金属層203が形成できる。また、メッキ法などにより金属を堆積して金属層203を形成してもよい。また、レジストパターン204は、公知のフォトリソグラフィー技術により形成すればよい。
【0019】
次に、図2Dに示すように、レジストパターン204をマスクとした公知のドライエッチングなどにより、金属層203および絶縁層202を選択的にエッチングし、可動電極205を形成する。また、このパターニングにおいては、開口部204aの領域において、基板201の表面が露出する状態とする。
【0020】
次に、開口部204を介してアルカリを作用させるウエットエッチングにより基板201を選択的に異方性エッチングする。ここで、よく知られているように、アルカリによるウエットエッチングでは、シリコンの(111)面がエッチングされにくい。このため、(100)面の基板201の表面よりアルカリによりエッチングを行うと、すり鉢状に凹部が形成され、凹部の側面は、基板201の法線方向に対して54.74°傾いた状態に形成される。この傾いた側面が、シリコンの(111)面となる。
【0021】
次に、レジストパターン204を除去すれば、図2Eに示すように、可動電極205に近づくほど、間隔が広がって形成された2つの固定電極201a,201bが形成できる。なお、この後、基板201の上の金属層203を適宜にパターニングおよび除去し、可動電極205に接続する配線パターンなどを形成すればよい。また、一部の絶縁層202を除去し、基板201にコンタクトする配線パターンを形成すればよい。
【0022】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図3は、本発明の実施の形態2におけるアクチュエータの構成を示す断面図である。
【0023】
このアクチュエータは、基板301の上に離間して配置されて基板301に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極302,303と、2つの固定電極302,303の間に入り込んで基板301の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極302,303に接触しない範囲の幅とされた可動電極304とを備える。本実施の形態では、2つの固定電極302,303の間隔は、基板301に近づくほど階段状に間隔が狭く形成されている。
【0024】
本実施の形態においても、固定電極302および固定電極303は、例えば、同電位とされている。また、固定電極302および固定電極303は、可動電極304の延在方向の断面形状が、可動電極304の基板301の法線方向に平行な中心線に対し、線対称となるように形成されている。また、可動電極304は、固定電極302および固定電極303の上端より上の位置より、基板101に近づく方向に変位可能とされている。可動電極304は、固定電極302,303に電圧を印加することで発生する静電引力により変位する。例えば、可動電極304は板状の部材から構成され、この一端が支持構造体(不図示)により基板301の上に支持されている。この場合、板状の部材の支持構造体に連結している一端側の領域がばね部として機能し、ばね部に続く先端側の可動電極304が、上述したように変位する。
【0025】
このように変位する中で、例えば、可動電極304と固定電極302との距離、および可動電極304と固定電極303との距離は、等しいものとされている。言い換えると、可動電極304は、この中心が、固定電極302および固定電極303の間の中心線(中心面)を通るように変位する。また、例えば、固定電極302および固定電極303と可動電極304との間には、電位が印加可能とされ、これらの間に容量が形成可能とされている。
【0026】
上述した本実施の形態におけるアクチュエータによれば、可動電極304が基板301に近づくほど、可動電極304と固定電極302との距離、および可動電極304と固定電極303との距離が、小さいものとなる。従って、可動電極304と固定電極302との間の静電容量、および可動電極304と固定電極303との間の静電容量は、可動電極304が基板301に近づくほど増大することになる。静電容量が増加すれば、静電引力も増加する。この結果、本実施の形態によれば、可動電極304を、より基板301に近づける状態に変位させることが可能となり、可動電極304の可動範囲を大きくできる。また、本実施の形態によれば、可動電極304の基板301の法線方向の長さ(厚さ)を大きくすることなく、可動範囲を大きくすることができる。
【0027】
例えば、図4において、間隔が均一に形成された2つの固定電極によるアクチュエータ(a)、階段が1段で基板に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極によるアクチュエータ(b)、および階段が2段で基板に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極によるアクチュエータ(c)は、図4の(d)に示すように、印加電圧に対して可動電極が変位する。なお、図4の(d)で、印加電圧および変位は、正規化した値である。なお、各アクチュエータは、可動電極の延在方向においては、固定電極の高さが均一に形成されている。
【0028】
ここで、アクチュエータ(a)は、可動電極の厚さtが8μm、固定電極の高さTfが30μm、可動電極と固定電極との間隔gが8μmである。また、アクチュエータ(b)は、可動電極の厚さtが8μm、固定電極の高さTfが30μm、可動電極と固定電極との間隔gが8μm、可動電極と固定電極との間隔g’が6μm、間隔g=8μmの部分の固定電極の高さhが6μmである。また、アクチュエータ(c)は、可動電極の厚さtが8μm、固定電極の高さTfが30μm、可動電極と固定電極との間隔gが8μm、可動電極と固定電極との間隔g’が6μm、可動電極と固定電極との間隔g”が5.5μm、間隔g=8μmおよび間隔g’=6μmの部分の固定電極の高さhが6μmである。なお、可動電極に連結されている梁部(不図示)は、長さ1200μm、幅70μm、厚さ8μm程度としている。
【0029】
2つの固定電極の間隔が均一とされているアクチュエータ(a)は、図4の(d)に白丸で示すように、印加電圧が8V程度までは変位が増加するが、可動電極の厚さtが8μmであるため、最大で8μm程度の変位しか得られない。一方、アクチュエータ(b)は、図4の(d)に黒三角で示すように、印加電圧が14V程度まで変位が増加し、最大で14μm程度の変位が得られる。また、アクチュエータ(c)は、図4の(a)に白四角で示すように、印加電圧が20V程度まで変位が増加する。
【0030】
以上のことから明らかなように、固定電極302および固定電極303の間隔が基板301に近づくほど狭くなる領域を、高さ方向により長くすることで、可動電極304をより大きく変位させることができる。本発明では、可動電極と固定電極とがペアとなった1つの片持ち梁でも適用でき、可動電極と固定電極とのペアが複数配列された櫛歯型電極構造にも適用できる。
【0031】
次に、本実施の形態におけるアクチュエータの製造方法例について図5A〜図5Jを用いて簡単に説明する。まず、図5Aに示すように、シリコンからなる基板501を用意する。次に、図5Bに示すように、基板501の上に、開口502aを備えるレジストパターン502を形成する。次に、レジストパターン502をマスクとしてシリコン基板501を選択的にエッチングし、図5Cに示すように、溝部501aを形成する。
【0032】
次に、レジストパターン502を除去してから、図5Dに示すように、開口503aを備えるレジストパターン503を形成する。開口503aは、開口502aと同じ幅に形成する。また、開口503aは、形成しようとする階段状の階段部分の幅に対応し、開口502aより位置をずらして形成する。次に、レジストパターン503をマスクとしてシリコン基板501を選択的にエッチングし、図5Eに示すように、溝部501a’および溝部501bを形成する。溝部501a’は、溝部501aの幅を広くした部分である。
【0033】
次に、レジストパターン503を除去してから、図5Fに示すように、開口504aを備えるレジストパターン504を形成する。開口504aは、開口503aと同じ幅に形成する。また、開口504aは、形成しようとする階段状の階段部分の幅に対応し、開口503aおよび開口502aより位置をずらして形成する。次に、レジストパターン504をマスクとしてシリコン基板501を選択的にエッチングし、図5Gに示すように、溝部501a”,溝部501b’,および溝部501cを形成する。溝部501a”は、溝部501a’の幅を広くした部分である。また、溝部501b’は、溝部501bの幅を広くした部分である。以上の工程により、上部に行くほど階段状に間隔が広く形成された溝部が形成され、上部に行くほど階段状に間隔が広がる2つの固定電極521a,522bが形成できる。
【0034】
次に、図5Hに示すように、表面に絶縁層508を形成したSOI(Silicon on Insulator)基板511を、基板501の上に貼り合わせる。SOI基板511は、シリコン基部505の上に、埋め込み絶縁層506を介して表面シリコン層507が形成された基板である。絶縁層508は、表面シリコン層507に形成されている。次に、SOI基板511のシリコン基部505および埋め込み絶縁層506を除去し、表面シリコン層507をパターニングすることで、図5Iに示すように、可動電極509を形成する。この後、可動電極509をマスクとして絶縁層508を選択的に除去することで、図5Jに示すように、2つの固定電極521a,521bの間に入り込んで基板501の法線方向に変位可能とされ、変位可能な範囲では、2つの固定電極521a,521bに接触しない範囲の幅とされた可動電極509が形成される。
【0035】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3について説明する。図6は、本発明の実施の形態3におけるアクチュエータの構成を示す斜視図である。このアクチュエータは、基板601の上に離間して配置された2つの固定電極602,603と、2つの固定電極602,603の間に入り込んで基板601の法線方向に変位可能とされて2つの固定電極602,603に接触しない範囲の幅とされた可動電極604とを少なくとも備える。
【0036】
加えて、2つの固定電極602,603は、可動電極604が延在する1方向に行くほど高さが低く形成されている。本実施の形態では、2つの固定電極602,603の高さは、上記1方向に行くほど階段状に低く形成している。なお、本実施の形態では、固定電極602と固定電極603との間隔は、均一な状態としている。
【0037】
このようにすることで、静電力の働いていない初期状態においては、可動電極604は、固定電極602および固定電極603の上段602aおよび上段603aに最も近く、固定電極603の上段602aおよび上段603aと可動電極604の間にコンデンサが形成されている。固定電極602,603に電圧を印加すると、これらの間の静電引力が強く働き、上段602aおよび上段603aの方へ変位する。
【0038】
ここで、可動電極604が中段602bおよび中段603bまで変位すると、中段602bおよび中段603bと可動電極604の間にもコンデンサが形成されるため、静電引力が増加する。このため、可動電極603は、さらに基板601の方へ変位する。
【0039】
ここで、可動電極604が下段602cおよび下段603cまで変位すると、下段603bおよび下段603cと可動電極604の間にもコンデンサが形成されるため、静電引力が増加する。このため、可動電極603は、さらに基板601の方へ変位することができる。
【0040】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、可動電極603を、より基板601に近づける状態に変位させることが可能となり、可動電極603の可動範囲を大きくできる。また、本実施の形態によれば、可動電極603の基板601の法線方向の長さ(厚さ)を大きくすることなく、可動範囲を大きくすることができる。
【0041】
例えば、図7において、可動電極604が延在する1方向に行くほど3段階に高さが低く形成されている固定電極602によるアクチュエータ(a)、可動電極604が延在する1方向に行くほど4段階に高さが低く形成されている固定電極702によるアクチュエータ(b)は、図7の(c)に示すように、印加電圧に対して可動電極が変位する。
【0042】
ここで、アクチュエータ(a)は、可動電極604の厚さtが8μm、固定電極602の高さTfが30μm、階段状の一段の高さhが6μm、一段の長さが14μm、および可動電極604と固定電極との間隔gが8μmである。また、アクチュエータ(b)は、可動電極604の厚さtが8μm、固定電極702の高さTfが30μm、階段状の一段の高さhが6μm、一段の長さが14μm、および可動電極604と固定電極との間隔gが8μmである。なお、可動電極603に連結されている梁部(不図示)は、長さ1200μm、幅70μm、厚さ8μm程度としている。
【0043】
固定電極が階段状とされていない高さが均一とされているアクチュエータは、図7の(c)に白丸で示すように、印加電圧が70V程度までは、変位が増加するが、可動電極の厚さに制限され、70Vを超えてもこれ以上変位は変化しない。一方、アクチュエータ(a)は、図7の(c)に白三角で示すように、印加電圧が125V程度まで変位が増加する。また、アクチュエータ(b)は、図7の(c)に白四角で示すように、印加電圧が200V程度まで変位が増加する。
【0044】
以上のことから明らかなように、固定電極における、可動電極が延在する1方向に行くほど高さが低く形成されている領域を、高さ方向により長くすることで、可動電極をより大きく変位させることができる。
【0045】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。可動電極と固定電極の対向する極板面積が増加するようにするためには、固定電極の高さが階段状に変化する必要はなく、高さが異なった複数の領域があればよい。また、例えば、2つの固定電極の間隔を、基板に近いほど狭くするとともに、可動電極が延在する1方向に行くほど高さが低く形成されているようにしてもよい。
【0046】
また、上述した実施の形態では、2つの固定電極が、可動電極が延在する1方向に行くほど、高さが低く形成されているようにしたが、これに限るものではない。2つの固定電極は、可動電極が延在する方向に配置された各々異なる高さの部分を備えていればよい。例えば、可動電極の延在方向において、一端側より中央部に行くほど高くなり、また、中央部から他端側に行くほど低くなるように各固定電極が形成されていてもよい。この場合、例えば、中央部が、基板側より見て初期状態の可動電極と同じ他笹とされていればよい。また、可動電極の延在方向において、一端側および他端側は、基板側より見て初期状態の可動電極と同じ高さとされ、一端側および他端側から中央部に行くほど低くなるように形成されていてもよい。また、これらが、階段状に変化していてもよい。
【0047】
また、前述では、可動電極を板状の片持ち梁の構造とした場合について説明したが、これに限るものではなく、可動電極は、少なくとも一端がばね部により支持されて変位可能とされていればよい。ばね部は、変形可能な弾性部材から構成されてればよく、どの様な形状であってもよい。例えば、可動電極とは別体の弾性部材からなる連結部(ばね部)により、可動電極と支持構造体とを連結する構造としてもよい。また、実施の形態2で説明した階段状の固定電極は、メッキ法により金属層を積層することで、形成するようにしてもよい。本発明では、可動電極と固定電極とがペアとなった1つの片持ち梁でも適用でき、可動電極と固定電極とのペアが複数配列された櫛歯型電極構造にも適用できる。
【符号の説明】
【0048】
101…基板、102…固定電極、103…固定電極、104…可動電極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に離間して配置されて前記基板に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極と、
少なくとも一端がばね部で支持されて2つの前記固定電極の間に入り込んで前記基板の法線方向に変位可能とされて2つの前記固定電極に接触しない範囲の幅とされた可動電極と
を少なくとも備え、
前記可動電極は、前記固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1記載のアクチュエータにおいて、
2つの前記固定電極の間隔は、前記基板に近づくほど階段状に前記間隔が狭く形成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項3】
基板の上に離間して配置された2つの固定電極と、
少なくとも一端がばね部で支持されて2つの前記固定電極の間に入り込んで前記基板の法線方向に変位可能とされて2つの前記固定電極に接触しない範囲の幅とされた可動電極と
を少なくとも備え、
2つの前記固定電極は、前記可動電極が延在する方向に配置された各々異なる高さの部分を備え、
前記可動電極は、前記固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
請求項3記載のアクチュエータにおいて、
2つの前記固定電極の高さは、前記可動電極が延在する方向に階段状に形成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項1】
基板の上に離間して配置されて前記基板に近づくほど間隔が狭く形成された2つの固定電極と、
少なくとも一端がばね部で支持されて2つの前記固定電極の間に入り込んで前記基板の法線方向に変位可能とされて2つの前記固定電極に接触しない範囲の幅とされた可動電極と
を少なくとも備え、
前記可動電極は、前記固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1記載のアクチュエータにおいて、
2つの前記固定電極の間隔は、前記基板に近づくほど階段状に前記間隔が狭く形成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項3】
基板の上に離間して配置された2つの固定電極と、
少なくとも一端がばね部で支持されて2つの前記固定電極の間に入り込んで前記基板の法線方向に変位可能とされて2つの前記固定電極に接触しない範囲の幅とされた可動電極と
を少なくとも備え、
2つの前記固定電極は、前記可動電極が延在する方向に配置された各々異なる高さの部分を備え、
前記可動電極は、前記固定電極に電圧を印加することで発生する静電引力により変位することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
請求項3記載のアクチュエータにおいて、
2つの前記固定電極の高さは、前記可動電極が延在する方向に階段状に形成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図5H】
【図5I】
【図5J】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図5H】
【図5I】
【図5J】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−27142(P2013−27142A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159585(P2011−159585)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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