説明

アクティブフィルタの設計

【課題】LCフィルタをシミュレートすることで低素子感度フィルタの実現を可能にするアクティブ低域フィルタ回路を提供する。
【解決手段】信号入力端子から直列に複数個の抵抗Rを接続し、信号入力端子側からの各抵抗の接続点に順次演算増幅器A1、・・・・An−1の非反転入力端、出力端、反転入力端の順に接続し、各演算増幅器の非反転入力端と接地間に従来のLCフィルタの設計法を用いて求めた値のコンデンサC1、・・・・Cn、および演算増幅器の非反転入力端間にC1,3、・・・・Cn−1,nを接続し、前記の直列に接続された複数個の抵抗Rの最終端から出力信号を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路素子変動の影響を受けにくいアクティブ低域フィルタの設計に関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ信号処理の分野で高精度フィルタの実現は不可欠である。以前のアナログフィルタはR(抵抗)、L(コイル)、C(コンデンサ)を構成素子とするLCフィルタが用いられていたが、近年は演算増幅器(オペアンプ)、R(抵抗)、C(コンデンサ)で構成できLを必要としないアクティブフィルタが一般的である。
【0003】
アクティブフィルタは大別して精度は低いが回路設計が容易で回路構造も簡単な縦続構成と、高精度だが回路設計が面倒で回路構造も複雑なLCシミュレーション形構成に分けられ、現状は作りやすい縦続構成が広く実用化されている。
【0004】
LCシミュレーション形構成は従来よく知られているLCフィルタの特性をR、Cと演算増幅器を用いて実現するものである。もともとLCフィルタは回路構成素子の変動の影響を受けにくい低素子感度、すなわち高精度のフィルタが実現できるという特長を持っている。すなわちL、Cの値が多少変動しても全体の伝達関数はあまり変化しないので素子の精度に関する要求はそれほど厳しくはない。
【0005】
しかし構成素子のLは作りにくくまたIC化が困難という難点があるため実用性に乏しいので、LCフィルタの低素子感度性を保持しつつ回路構成素子からLを取り除くためにLをRC素子と演算増幅器で置き換えるLシミュレーション法やLCフィルタの回路動作をそのままシミュレートするリープフログ回路(非特許文献1参照)などが考案されている。
【非特許文献1】F.E.J.Girling and E.F.Good,”Active Filters:12 The Leapfrog or Active−Ladder Synthesis”,Wireless World,vol.76,No.1417,pp.341−345(1970)
【0006】
Lシミュレーション法の一つにRーFDNRフィルタ(非特許文献2参照)があり、これはLCフィルタのLをRに、RをCに、CをFDNR(周波数依存型負性抵抗)におきかえ、FDNRをRC素子と演算増幅器で実現するもので主として音声帯域で用いる低素子感度フィルタとして実用化されている。しかしRーFDNRフィルタはFDNRの構成回路が複雑なことの他、零周波数付近の振幅特性の変動が大きいことなどの問題を含んでおり、特に高精度を必要とする場合以外はあまり普及していない。
【非特許文献2】L.T.Bruton,”Network Transfer Functions using the Concept of Frequency Dependent Negative Resistance”,IEEE Trans.Circ.Theory,Vol.CT−16 No.3,pp.406−408(1969)
【0007】
ところが近年、信号処理技術の進歩とともにフィルタ特性に対する要求も厳しくなり、とくにディジタルーアナログ変換技術に不可欠な高精度低域フィルタを実現する手段として前記の問題点を解決したLCシミュレーション形低域フィルタへの要望はますます高まりつつある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の通りLCシミュレーション形構成の低域フィルタに対する需要は高まりつつあるが従来のLシミュレーション法、リープフログ回路はいずれも実用化に難点があった。
【0009】
本発明は従来のLCシミュレーション形低域フィルタの問題点を解消しかつIC化に適した回路構造を有するとともにLCフィルタの低素子感度性を受け継ぐLCシミュレーション形低域フィルタの実現を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
LC低域フィルタと同じ特性の低素子感度フィルタを実現するに基本的な考えは回路の等価変換により元のフィルタのLを取り除くことである。
【0011】
例として図1のLC低域フィルタを考える。まず図2(a)の非接地Lを考えるとこれは図2(b)と等価である。ただし−Cは(数1)で与えられ−R、−Cはいずれも負性素子を表す。
【数1】

したがって図1のL、Lを図2(a)で置き換えて得られた回路をさらに簡単化すると図3が得られる。
【0012】
次に図3から負性素子を取り除くため図4を考える。図4(b)の演算増幅器の利得が無限大とすると図4(a)は図4(b)と等価である。したがって図3のすべての負性素子を図4(b)で置き換えると図5が得られ、この回路の伝達関数は利得レベルを除き図1と全く同じである。
【0013】
利得レベルは図1の回路の伝達関数Vout/Eに対し図5の伝達関数は(数2)で与えられ図5の伝達関数は図1の2倍であることが分かる。
【数2】

したがって図1の回路の通過域内の利得は0.5、すなわち出力端では信号入力電圧は半分に減衰するが、図5では通過域内の利得は1、すなわち出力端で信号入力電圧の減衰は生じないという利点をもつ。
【0014】
これを一般化すると図6のn次LCフィルタは図7のアクティブフィルタに置き換えられ、これは図6と同じ特性の低素子感度フィルタである。なお、全極型フィルタのように有限周波数で伝送零点をもたない場合はC1,3、・・・・Cn,n−2は不要である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は信号入力端子から直列に接続した複数個の抵抗と、それらの抵抗の接続点(図7のN1a、N1b、N1c、・・・・・、Nn−1a、Nn−1b、Nn−1c、Nna)に順次非反転入力端、出力端、反転入力端の順に接続された複数個の演算増幅器の回路の各演算増幅器の非反転入力端と接地間および演算増幅器の非反転入力端間に接続されたコンデンサで構成され出力信号は前記の直列に接続された複数個の抵抗の最終端から取り出す回路構造でIC化にも適している。このときのコンデンサの値は従来のLCフィルタの設計法を用いて容易に求めることができる。
【0016】
ここで得られたフィルタはCの値の変動がフィルタの振幅特性に与える影響は僅かであり、またRの相対誤差が零、すなわち回路内のすべてのRの値の比率が一定ならやはり振幅特性に与える影響は少ない。Rの値をほぼ一定に保つことはICでは比較的容易なので本発明は回路構造とともに特にIC化に有効である。
【0017】
また、抵抗と演算増幅器のみをIC化し、コンデンサを外付けの構造にするとフィルタの用途に応じてコンデンサを変えるだけで各種の特性を実現でき汎用性を持たせることができる。
【0018】
さらに通常のLC低域フィルタでは信号入力電圧は出力端で半分に減衰するが、本発明のフィルタでは出力端で信号入力電圧の減衰は生じないことの他、R−FDNRフィルタのような零周波数付近での振幅特性の劣化も無いという利点をもつ。
【実施例】
【0019】
例として遮断周波数20kHz,通過域リプル0.5dB、減衰域最小減衰量50dBの5次連立チェビシェフフィルタを考える。これをLCフィルタで実現すると図1の回路構成で素子値はR=10kΩ,C1=1.24469nF,L2=87.1211mH,C3=1.66810nF,L4=69.4691mH,C5=1.05665nF,C1,3=0.137099nF,C3,5=0.383862nFとなる。
【0020】
これを上記の手順で本発明のアクティブフィルタに変換すると図5の回路で素子値はR=10kΩ,C1=1.24469nF,C2=0.871211nF,C3=1.66810nF,C4=0.694691nF,C5=1.05665nF,C1,3=0.137099nF,C3,5=0.383862nFである。
【0021】
次に回路シミュレータSPICEを用いて図5のフィルタの動作を確かめる。まず振幅特性を求めると図8のようになり、通過域特性の拡大グラフは図9のようになる。ただしシミュレーションで用いた素子の値は素子変動の影響をみるため理想値ではなく演算増幅器(オペアンプ)はAD817(利得帯域幅積50MHz)、素子値はすべて三桁目を四捨五入したR=10kΩ,C1=1.2nF,C2=0.87nF,C3=1.7nF,C4=0.69nF,C5=1.1nF,C1,3=0.14nF,C3,5=0.38nFを用いた。なお、このときの素子値誤差の最大値はC5の−4%である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】従来技術による5次LC低域フィルタの回路図
【図2】非接地コイルの±R−C等価回路図
【図3】[図1]の±R−C回路への等価変換回路図
【図4】−R−C回路のアクティブRC等価回路図
【図5】本発明で構成した5次アクティブRC低域フィルタの回路図
【図6】従来技術によるn次LC低域フィルタの回路図
【図7】本発明のn次アクティブRC低域フィルタの回路図
【図8】本発明で構成した5次アクティブRC低域フィルタの振幅特性の利得のグラフ
【図9】[図8]の通過域における利得のグラフの拡大図
【符号の説明】
【0023】
E、Vin 入力信号源
R 抵抗
C1、C2、C3、C4、C5、Cn−1、Cn、C1,3、C3,5、Cn−2,n コンデンサ
L1、L2 コイル
A1、A2、A3、A4 演算増幅器
N1a、N1b、N1c、N2a、N2b、N2c、N3a 接続点
Nn−2a、Nn−2b、Nn−2c、Nn−1a、Nn−1b、Nn−1c、Nna 接続点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号入力端子から直列に接続された複数個の抵抗と、それらの抵抗の接続点に順次非反転入力端、出力端、反転入力端の順に接続された複数個の演算増幅器と、各演算増幅器の非反転入力端と接地間および演算増幅器の非反転入力端間に接続されたコンデンサで構成され、前記の直列に接続された複数個の抵抗の最終端から出力信号を取り出すことを特徴とするアクティブフィルタ回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−98705(P2010−98705A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306825(P2008−306825)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(508354201)
【Fターム(参考)】