説明

アクティブフィルタ

【課題】高速な演算処理を必要とせず、安価に高調波電流の抑制を実現することができるアクティブフィルタを提供する。
【解決手段】電源1に接続された負荷装置3、4に流れる負荷電流中の高調波電流を抑制するアクティブフィルタにおいて、負荷装置の消費電力Wdcから入力電流実効値の目標値Ibpを算出し、√2×Ibp×sin(2πft)を負荷電流の目標値Icp(t)とし、測定された負荷電流Ic(t)から前記負荷電流の目標値Icp(t)を減算することで高調波電流Ih(t)を算出し、この高調波電流Ih(t)と逆位相のキャンセル高調波電流Ihi(t)を生成し、このキャンセル高調波電流Ihi(t)により高調波電流Ihを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商用電源に接続された空気調和機のモータ等の負荷装置に流れる負荷電流中の高調波電流を抑制するためのアクティブフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
商用三相電源に接続された負荷装置に流れる負荷電流には、当該負荷装置の電気回路を構成するインダクタンス(リアクトル)やコンデンサ(キャパシタ)の影響を受けて、商用電源からの基本波電流の整数倍の周波数を有する高調波電流が含まれる。この高調波電流は基本波電流に歪みを生じさせるため、電源に接続された各負荷装置に誤動作、発熱、発火等の悪影響を及ぼすことになる。
【0003】
そこで、従来よりアクティブフィルタを負荷装置に対して並列に電源に接続し、このアクティブフィルタにより負荷電流中に含まれる高調波電流とは逆位相のキャンセル高調波電流(補償電流)を生成して、このキャンセル高調波電流を電源と負荷装置が構成する電気回路中に注入することで、高調波電流を抑制する対処が行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−177705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、アクティブフィルタにおいて高調波電流の抽出を行う場合、従来では負荷電流Icを測定し、それをバンドパスフィルタで基本波電流I1とを測定し、負荷電流Icから基本波電流I1を減算することで高調波電流Ihを分離し、それの逆位相の電流をキャンセル高調波電流としていた。この演算はアクティブフィルタの制御装置を構成するマイクロコンピュータによって行われ、算出されたキャンセル高調波電流に基づいてアクティブフィルタを構成するインバータのカスケード回路を制御するための指令値を作成していた。
【0006】
このリアルタイムでの高調波電流の分離演算は極めて複雑であり、マイクロコンピュータには高速な演算処理能力が要求されていた。
【0007】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、高速な演算処理を必要とせず、安価に高調波電流の抑制を実現することができるアクティブフィルタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、電源に接続された負荷装置に流れる負荷電流中の高調波電流を抑制するアクティブフィルタにおいて、負荷装置の消費電力Wdcから入力電流実効値の目標値Ibpを算出し、√2×Ibp×sin(2πft)を負荷電流の目標値Icp(t)とし、測定された負荷電流Ic(t)から前記負荷電流の目標値Icp(t)を減算することで高調波電流Ih(t)を算出し、この高調波電流Ih(t)と逆位相のキャンセル高調波電流Ihi(t)を生成し、このキャンセル高調波電流Ihi(t)により高調波電流Ihを抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電源に接続された負荷装置に流れる負荷電流中の高調波電流を抑制するアクティブフィルタにおいて、負荷装置の消費電力Wdcから入力電流実効値の目標値Ibpを算出し、√2×Ibp×sin(2πft)を負荷電流の目標値Icp(t)とし、測定された負荷電流Ic(t)から前記負荷電流の目標値Icp(t)を減算することで高調波電流Ih(t)を算出し、この高調波電流Ih(t)と逆位相のキャンセル高調波電流Ihi(t)を生成し、このキャンセル高調波電流Ihi(t)により高調波電流Ihを抑制するようにしたので、従来行われていたバンドパスフィルタを用いたリアルタイムでの高調波電流の分離演算を不要とし、安価な高調波電流の抑制を実現することができるようになるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用した一実施例のアクティブフィルタを用いた装置の電気回路図である。
【図2】図1のアクティブフィルタの機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は本発明の一実施例を説明するための電気回路図である。この図において、1は三相交流電源(実施例では400V)であり、R相、S相、T相の各相から位相が120度ずつずれた交流電圧(電源電圧V)が出力される。R相、S相及びT相には、配線2R、2S、2Tが接続されており、これらは分岐して家屋等の内部で複数(実施例では2台)の三相交流の負荷装置3、4(電源1に対して並列に接続)それぞれに電力を供給している。
【0012】
実施例の負荷装置3は空気調和機であり、電源1の各相の配線2R〜2Tに接続された交流側のインダクタンスL1〜L3、コンデンサC1〜C6と、ダイオードブリッジから構成された整流回路6と、直流側のインダクタンスL5及びコンデンサC7と、複数のスイッチング素子から構成されたインバータ回路7と、このインバータ回路7に接続され、空気調和機の冷媒回路を構成するコンプレッサを駆動するためのモータ8と、マイクロコンピュータから構成された制御装置9(負荷装置側制御装置)等から構成されている。
【0013】
電源1から供給された三相の交流電力は、整流回路6で整流され、インダクタンスL5、コンプレッサC7で平滑されて直流電力に変換され、インバータ回路7に出力される。制御装置9は負荷装置3によって空調される図示しない室内の温度等に基づき、インバータ回路7にスイッチング信号を送る。インバータ回路7はスイッチング信号に応じた電力をモータ8に供給し、この電力に応じた回転数でモータ8を運転する。
【0014】
負荷装置4も空気調和機であり、同様に電源1の各相の配線2R〜2Tに接続された交流側のインダクタンスL6〜L8、コンデンサC8〜C13と、ダイオードブリッジから構成された整流回路11と、直流側のインダクタンスL10及びコンデンサC14と、複数のスイッチング素子から構成されたインバータ回路12と、このインバータ回路12に接続され、空気調和機の冷媒回路を構成するコンプレッサを駆動するためのモータ13と、マイクロコンピュータから構成された制御装置14(負荷装置側制御装置)等から構成され、制御装置14により同様にモータ13の運転制御を行う。
【0015】
図中16は並列型のアクティブフィルタであり、電源1の各相(R相、S相、T相)の配線2R、2S、2Tに接続(前記負荷装置3、4に対して並列)されている。実施例のアクティブフィルタ16は、電流検出部17と、波形変換部18と、インバータ19と、補助電源部21と、ゼロクロス検出部22と、電圧検出部23と、マイクロコンピュータから構成された制御装置(アクティブフィルタ側制御装置)24等からPFC(Power−Factor−Correction)回路(力率改善回路とも云う)を構成している。
【0016】
インバータ19は3個のカスケード回路を有しており、各カスケード回路はIGBT(ゲート絶縁型バイポーラトランジスタ)から成るスイッチング素子が2個ずつ直列接続されて構成されている。各カスケード回路は互いに並列接続され、インバータ19が構成されると共に、各IGBTのゲートは制御装置24に接続されている。また、補助電源部21はコンデンサC15から構成されており、インバータ19に接続されている。
【0017】
波形変換部18は6個のインダクタンスL11〜L16と3個のコンデンサC16〜C18から構成されている。電流検出部17は、負荷装置3が接続された配線2Rと2Sを流れる負荷電流を検出する電流検出器26、27と、負荷装置4が接続された配線2Rと2Sを流れる負荷電流を検出する電流検出器28、29と、インバータ19のR相とS相の出力電流であるインバータ19と波形変換部18間の配線2Rと2Sを流れる電流を検出する電流検出器31、32を備えている。
【0018】
ゼロクロス検出部22は電源1のR相の電圧を検出するよう配線2Rに接続され、電源電圧Vのゼロクロス点を検出する。電圧検出部23は補助電源部21の電圧を検出する。これら電流検出部17が検出する電流値、ゼロクロス検出部22が検出する電源電圧V及び電圧検出部23が検出する補助電源部21の直流電圧に関するデータは制御装置24に入力される。
【0019】
また、各負荷装置3、4のインバータ7、12の入力側には、各負荷装置3、4での消費電力Wdcを検出するための電流/電圧検出装置51、52が設けられ、それらの出力はアクティブフィルタ16の制御装置24に入力されている。電流/電圧検出装置51、52は何れもインバータ7、12の入力電圧Vdと入力電流Id(ホール素子を用いる)を検出し、制御装置24に出力する。
【0020】
次に、図2の機能ブロック図を参照しながら、アクティブフィルタ16の動作を説明する。例えば、負荷装置3に対して、アクティブフィルタ16の制御装置24は、電流/電圧検出装置51が検出する入力電圧Vdと入力電流Idに基づいて負荷装置3のモータ8における消費電力Wdcを算出する。
【0021】
次に、この消費電力Wdcと入力電圧実効値Vb及び入力電流実効値Ibの関係は、
Wdc=√3×Vb×Ib
であり、Vbは交流電圧Vdの1/√2であることから、負荷装置3の入力電流実効値は、
Ib=√2Wdc/(√3×Vd)
で求められる。このIbを入力電流実効値の目標値Ibpとする。
【0022】
次に、この目標値Ibpを用いて整流回路6直前の負荷電流(1次電流)の瞬時値の目標値Icp(t)を表すと、
Icp(t)=√2×Ibp×sin(2πft)
となる。この目標値Icpが高調波電流の無い負荷電流の目標値として扱う。即ち、従来の基本波電流と同等に扱うが、目標値Icpは電源電圧Vと同位相である。そして、電流検出器26、27で検出され、電流検出部17にて入力された負荷電流Ic(t)からこの目標値Icp(t)を減算することにより、負荷電流Ic(t)中に含まれる高調波電流Ih(t)を抽出することができる。
Ih(t)=Ic(t)−Icp(t)
【0023】
そして、アクティブフィルタ16の制御装置24は求められた高調波電流Ih(t)の逆位相の電流をキャンセル高調波電流Ihi(t)とする。制御装置24は負荷装置4に対しても同様にキャンセル高調波電流を算出し、負荷装置3に対するものと合成して指令値を演算する。そして、この合成したキャンセル高調波電流を生成するための指令値に基づき、制御装置24はインバータ19を制御することにより、キャンセル高調波電流を配線2R〜2Tに注入する。これによって配線2R〜2Tから各負荷装置3、4に流れる高調波電流を抑制する。
【0024】
尚、上述した実施例では電流/電圧検出装置51、52を用いて負荷装置3、4における消費電力Wdcを検出したが、それに限らず、インバータ7、12を制御している各負荷装置3、4の制御装置9、14から消費電力に関するデータを取り込むことも可能である。
【0025】
このように、電源1に接続された負荷装置3、4の消費電力Wdcから入力電流実効値の目標値Ibpを算出し、√2×Ibp×sin(2πft)を負荷電流の目標値Icp(t)とし、測定された負荷電流Ic(t)から負荷電流の目標値Icp(t)を減算することで高調波電流Ih(t)を算出し、この高調波電流Ih(t)と逆位相のキャンセル高調波電流Ihi(t)を生成し、このキャンセル高調波電流Ihi(t)により高調波電流Ihを抑制するようにしたので、従来のようなバンドパスフィルタを用いた基本波電流の算出とそれを用いたリアルタイムでの高調波電流の分離演算を不要とし、安価な高調波電流の抑制を実現することができるようになる。
【符号の説明】
【0026】
1 電源
2R〜2T 配線
3、4 負荷装置
16 アクティブフィルタ
19 インバータ
24 制御装置
51、52 電流/電圧検出装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源に接続された負荷装置に流れる負荷電流中の高調波電流を抑制するアクティブフィルタであって、
前記負荷装置の消費電力Wdcから入力電流実効値の目標値Ibpを算出し、
√2×Ibp×sin(2πft)を負荷電流の目標値Icp(t)とし、
測定された負荷電流Ic(t)から前記負荷電流の目標値Icp(t)を減算することで高調波電流Ih(t)を算出し、この高調波電流Ih(t)と逆位相のキャンセル高調波電流Ihi(t)を生成し、このキャンセル高調波電流Ihi(t)により高調波電流Ih(t)を抑制することを特徴とするアクティブフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−279170(P2010−279170A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129252(P2009−129252)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】