説明

アクリルフィルムの製造方法及びアクリルフィルム

本発明は、アクリル系樹脂シロップを製膜する第1段階;及び第1段階で製膜されたアクリル系樹脂シロップに紫外線を照射して硬化させる第2段階を含むアクリルフィルムの製造方法、及びそれを用いて製造されたアクリルフィルムに関するものである。本発明によると、厚さ偏差が少なく、厚さ精密度に優れたフィルムを提供できる。また、本発明によると、フィッシュアイ等のフィルムの欠陥及び縦横方向の物性差を最小限に抑制できる。これにより、本発明にかかるフィルムは、各種半導体工程の保護フィルム、光学用粘着又は接着製品、電子部品用粘着又は接着製品等の多様な産業用シートや多層構造のラミネート製品に利用して卓越した効果を発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルフィルムの製造方法及びアクリルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着フィルム又は粘着シートのような粘着製品は、ダイシング工程や裏面研削工程のような半導体ウエハ加工工程での保護フィルムは勿論、広告用フィルム、クリーニングシート、反射シート、構造用粘着シート、写真用粘着シート、車線表示用粘着シート、光学用粘着製品、電子部品用粘着製品、医療用パッチ等のような各種産業用シート又は多層構造のラミネート製品に頻繁に使用される。
【0003】
上記のような粘着フィルム又は粘着シートに含まれる基材フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン、ポリウレタン、エチレン−ビニルアセテート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン又はポリエチレン等のプラスチックフィルムが主に使用される。
【0004】
このようなプラスチックフィルムは、各種熱可塑性樹脂を溶融させ、溶融された樹脂をTダイ法、吸込み押出法又はカレンダー法等に適用して製造されている。このように、押出法やカレンダー法によって製造されたフィルムは、生産性に優れ、価格が安いという長所がある。
【0005】
しかし、上記のような製造方式では、フィルム形成過程において樹脂内に好ましくない外来物質が入り込むか、或いは樹脂内の不溶性成分の存在によって、フィルムに所謂フィッシュアイ(fish eye)と呼ばれる突出部が散在する可能性が高い。また、上記のような方式で製造されたフィルムの場合、フィルムの厚さの均一な制御も難しく、また、製造過程で印加されるストレスによってフィルムの縦軸及び横軸方向で大きな物性差が発生するという問題点がある。
【0006】
これにより、既存の方式で製造されたフィルムの場合、例えば、ダイシングや裏面研削工程等に利用された際、不均一圧力によってウエハ等の亀裂や反りを誘発し易い。それ以外の他の用途に利用する際にも、様々な問題を誘発する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アクリルフィルムの製造方法及びアクリルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、アクリル系樹脂シロップを製膜する第1段階;及び第1段階で製膜されたアクリル系樹脂シロップに紫外線を照射して硬化させる第2段階を含むアクリルフィルムの製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための他の手段として、上記本発明の製造方法に従って製造されたアクリルフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、厚さ偏差が少なく、厚さ精密度に優れたフィルムを提供できる。また、本発明によると、フィッシュアイ等のフィルムの欠陥及び縦横方向の物性差を最小限に抑制できる。これにより、本発明にかかるフィルムは、各種半導体工程の保護フィルム、光学用粘着又は接着製品、電子部品用粘着又は接着製品等の多様な産業用シートや多層構造のラミネート製品に利用して卓越した効果を発揮できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、アクリル系樹脂シロップを製膜する第1段階;及び第1段階で製膜されたアクリル系樹脂シロップに紫外線を照射して硬化させる第2段階を含むアクリルフィルムの製造方法に関するものである。
【0012】
以下、本発明のアクリルフィルムの製造方法を具体的に説明する。
【0013】
本発明の第1段階で使用されるアクリル系樹脂シロップの組成は、特に制限されない。本発明では、例えば、アクリル系重合体;反応性単量体及び光開始剤をアクリル系樹脂シロップに使用できる。
【0014】
本発明において、アクリル系樹脂シロップに含まれるアクリル系重合体の組成は特に制限されない。本発明では、例えば、最終硬化物のガラス転移温度やタック(tack)特性を考慮して、ガラス転移温度が30℃以上のアクリル系重合体を使用できる。アクリル系重合体のガラス転移温度が30℃未満だと、製造されたフィルムのガラス転移温度が低くなりすぎたり、タック(tack)特性が高くなりすぎて、フィルムの用途が制限される恐れがある。
【0015】
本発明においてアクリル系重合体は、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;カルボキシル基含有化合物;ヒドロキシ基含有化合物;窒素含有化合物;グリシジル基含有化合物;スチレン系化合物及びカルボン酸ビニルエステルからなる群から選ばれた一つ以上を含む単量体混合物の重合体でもよい。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体的な例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリール(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、又はイソボニル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20の直鎖状又は分枝状、又は非環型又は環型アルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0017】
(メタ)アクリル酸アリールエステルの例としては、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート又はフェノキシエチル(メタ)アクリレート等のアリール(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0018】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルの例としては、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート又はエトキシプロピル(メタ)アクリレートのようなアルコキシアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0019】
また、カルボキシル基含有化合物の例としては、(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシアセト酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチル酸、アクリル酸二重体、イタコン酸、マレイン酸又はマレイン酸無水物等を挙げることができる。
【0020】
ヒドロキシ基含有化合物の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチレングリコール(メタ)アクリレート又は2−ヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0021】
窒素含有単量体の例としては、(メタ)アクリルアミド又はn−メチロール(メタ)アクリルアミド等を挙げることができ、グリシジル基含有化合物の例としては、グリシジル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。スチレン系化合物の例としては、スチレン又はアルファメチルスチレン等を挙げることができ、カルボン酸ビニルエステルの例としては、ビニルアセテート等を挙げることができるが、これに制限されるのではない。
【0022】
本発明では、上記のような各種単量体の単量体混合物に含まれる具体的な単量体の種類及び2種以上が配合された場合、その比率等は特に制限されなく、目的とするガラス転移温度及びその他重合体の特性を考慮して自由に選択できる。
【0023】
本発明において、上記の各成分を含むアクリル系重合体を製造する方法は特に限定されない。例えば、溶液重合、光重合、バルク重合、サスペンション重合又はエマルジョン重合のような一般的な重合法により製造できる。本発明では、特に溶液重合法を用いることが好ましい。このとき、溶液重合は各単量体が均一に混合された状態で開始剤を混合して、50℃〜140℃の重合温度で行うことが好ましい。このとき使用できる開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル又はアゾビスシクロヘキサンカルボニトリルのようなアゾ系重合開始剤;及び/又は過酸化ベンゾイル、又は過酸化アセチルのような過酸化物等の通常の開始剤を挙げることができる。
【0024】
本発明において、アクリル系重合体は、後述の反応性単量体100重量部に対して、5重量部〜80重量部の量で樹脂シロップに含まれることが好ましい。含量が5重量部未満だと、アクリル系フィルムの軟性が増えすぎたり、或いは外部の衝撃に対して損傷し易い恐れがある。また、含量が80重量部を超えると、フィルムの硬化度が低下し、フィルム形状の維持が困難だったり、シロップの粘度が増えすぎて工程効率が低下する恐れがある。
【0025】
本発明の樹脂シロップは、前述のアクリル系重合体と共に重合体を希釈できる反応性単量体を含む。
【0026】
使用できる反応性単量体の種類は、分子内に光重合性二重結合を有するものであれば特に制限されない。例えば、アクリル系単量体を使用できる。このとき、アクリル系単量体の種類は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アダマンタン(メタ)アクリレート及びテトラデシル(メタ)アクリレート等のような炭素数1〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート;ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート又はジシクロペンテニルオキシ(メタ)アクリレートのようなアリサイクリック(alicyclic)(メタ)アクリレート;フェニルヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート又はベンジル(メタ)アクリレートのような芳香族(メタ)アクリレート;又はテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート又はモルホリニル(メタ)アクリレートのようなヘテロサイクリック(メタ)アクリレート等を挙げることができるが、これに制限されるのではない。
【0027】
また、本発明では、反応性単量体として、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチレングリコール(メタ)アクリレート又は2−ヒドロキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有単量体;(メタ)アクリル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシアセト酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチル酸、アクリル酸二重体、イタコン酸、マレイン酸及びマレイン酸無水物等のカルボキシル基含有単量体;又は(メタ)アクリルアミド、N−ビニルピロリドン又はN−ビニルカプロラクタム等のような窒素含有単量体等の極性単量体を単独で、又は前述の成分と一緒に使用できる。このような極性単量体を適切に使用することにより製造されたアクリルフィルムに凝集力を付与し、その機械的強度を効果的に制御できる。
【0028】
本発明において、樹脂シロップは前述の成分と共に光開始剤をさらに含む。このような光開始剤は、使用量によって樹脂シロップの重合度を制御できる。本発明では、光開始剤を、例えば、前述の反応性単量体100重量部に対して、0.01重量部〜30重量部の量で使用できる。これは、シロップの重合度及びフィルムの物性等を考慮して制御できるものであり、上記範囲に制限されるものではない。
【0029】
本発明では、光開始剤として、紫外線照射等による重合反応を開始させることができるものであれば、いずれも使用できる。本発明で使用できる光開始剤の種類は、特に限定されない。例えば、α−ヒドロキシケトン系化合物(例えば、イルガキュア184,イルガキュア500,イルガキュア2959,ダロキュア1173;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));フェニルグリオキシレート(phenylglyoxylate)系化合物(例えば、イルガキュア754,ダロキュアMBF;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));ベンジルジメチルケタール系化合物(例えば、イルガキュア651;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));α−アミノケトン系化合物(例えば、イルガキュア369,イルガキュア907,イルガキュア1300;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));モノアシルホスフィン系化合物(MAPO)(例えば、ダロキュアTPO;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));ビスアシルホスフェン系化合物(BAPO)(例えば、イルガキュア819,イルガキュア819DW;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));ホスフィンオキシド系化合物(例えば、イルガキュア2100;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));メタロセン系化合物(例えば、イルガキュア784;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));ヨードニウム塩(iodonium salt)(例えば、イルガキュア250;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製));及び前述の一つ以上の混合物(例えば、ダロキュア4265,イルガキュア2022,イルガキュア1300,イルガキュア2005,イルガキュア2010,イルガキュア2020;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(製))等を挙げることができる。本発明では、前述の一種又は二種以上を使用できるが、これに制限されるのではない。
【0030】
本発明の第1段階で使用される樹脂シロップはまた、必要に応じて、熱開始剤をさらに含んでもよい。熱開始剤は、使用量に応じて樹脂シロップの転換率をより向上させることができ、特に、最終的に製造されるアクリルフィルムを非常に厚く構成しても均一な物性を有するフィルムの製造が可能である。
【0031】
本発明で使用できる熱開始剤の種類は、特に限定されない。本発明では、例えば、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)及び2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物;テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート(例えば、パーオクタND,NOF社(製))、ビス(4−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート(例えば、パーロイルTCP,NOF社(製))、ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシカーボネート、ブチルペルオキシネオデカノエート(例えば、パーブチルND,NOF社(製))、ジプロピルペルオキシジカーボネート(例えば、パーロイルNPP,NOF社(製))、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート(例えば、パーロイルIPP,NOF社(製))、ジエトキシエチルペルオキシジカーボネート(例えば、パーロイルEEP,NOF社(製))、ジエトキシヘキシルペルオキシジカーボネート(例えば、パーロイルOEP,NOF社(製))、ヘキシルペルオキシジカーボネート(例えば、パーヘキシルND,NOF社(製))、ジメトキシブチルペルオキシジカーボネート(例えば、パーロイルMBP,NOF社(製))、ビス(3−メトキシ−3−メトキシブチル)ペルオキシジカーボネート(例えば、パーロイルSOP,NOF社(製))、ジブチルペルオキシジカーボネート、ジセチル(dicetyl)ペルオキシジカーボネート、ジミリスチル(dimyristyl)ペルオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシピバレート(peroxypivalate)、ヘキシルペルオキシピバレート(例えば、パーヘキシルPV,NOF社(製))、ブチルペルオキシピバレート(例えば、パーブチル,NOF社(製))、トリメチルヘキサノイルペルオキシド(例えば、パーロイル355,NOF社(製))、ジメチルヒドロキシブチルペルオキシネオデカノエート(例えば、ルペロックス610M75,アトフィナ(製))、アミルペルオキシネオデカノエート(例えば、ルペロックス546M75,アトフィナ(製))、ブチルペルオキシネオデカノエート(例えば、ルペロックス10M75,アトフィナ(製))、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート、アミルペルオキシピバレート(pivalate)(例えば、ルペロックス546M75,Alofina(製))、t−ブチルペルオキシピバレート、t−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウリルペルオキシド、ジラウロイル(dilauroyl)ペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、2,2−ビス(tert−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,5−ビス(ブチルペルオキシ)−2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−1−メチルエチル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、tert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、クメンヒドロキシペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド又は2,4−ペンタネジオンペルオキシド等のペルオキシ系化合物;tert−ブチルペルアセテート(tert−butyl peracetate);ペルアセト酸(peracetic acid)又はポタシウムペルスルフェート(potassium persulfate)等を使用できるが、これに制限されるのではない。本発明では、前述の熱開始剤の一種又は二種以上の混合を使用できる。
【0032】
本発明において熱開始剤は、反応性単量体100重量部に対して0.01重量部〜10重量部の量で樹脂シロップに含まれ得る。しかし、熱開始剤の含量は、本発明の一例示に過ぎなく、目的とする転換率の改善効果等を考慮して自由に選択できる。
【0033】
本発明の第1段階で使用される樹脂シロップはまた、前述の反応性単量体100重量部に対して0.05重量部〜50重量部の架橋剤をさらに含むことができる。このような架橋剤は、使用量に応じてアクリルフィルムの引張特性等の物性を改善できる。
【0034】
本発明で使用できる架橋剤の種類は特に制限されなく、例えば、多官能性アクリレートを使用できる。この場合、使用できる多官能性アクリレートの種類は特に限定されない。本発明では、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペート(neopentylglycol adipate)ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバル酸(hydroxyl pivalic acid)ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(dicyclopentanyl)ジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロキシエチルイソシアヌレート、アリル(allyl)化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、ジメチロールジシクロペンタンジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ヘキサヒドロフタル酸ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチルプロパンジ(メタ)アクリレート、アダマンタン(adamantane)ジ(メタ)アクリレート、又は9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオリン(fluorine)等のような2官能性アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、3官能型ウレタン(メタ)アクリレート又はトリス(メタ)アクリロキシエチルイソシアヌレート等の3官能型アクリレート;ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート又はペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能型アクリレート;プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の5官能型アクリレート;及びジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート又はウレタン(メタ)アクリレートを挙げることができる。例えば、イソシアネート単量体とトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートの反応物等の6官能型アクリレート等を使用できるが、これに制限されるのではない。
【0035】
本発明において多官能性アクリレートは、前述の反応性単量体100重量部に対して、0.05重量部〜50重量部を使用できる。しかし、含量は一例示に過ぎなく、本発明では、工程効率、又はフィルムの物性(例えば、ガラス転移温度等)を考慮して、多官能性アクリレートの含量を自由に制御できる。
【0036】
本発明の樹脂シロップは、前述の成分に加え、必要に応じて、熱伝導性添加剤、難燃剤、顔料、酸化防止剤、紫外線安定剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、可塑剤及びシランカップリング剤からなる群から選ばれた一つ以上の添加剤を適切に含むことができる。
【0037】
本発明の第1段階で使用される樹脂シロップは、本分野で公知の方法により、前述成分を適切に配合して製造できる。本発明では、この過程で樹脂シロップの固形分濃度を100%、具体的には、樹脂シロップを無溶剤タイプで構成することが好ましい。このように、樹脂シロップを無溶剤タイプで構成することにより工程効率を改善でき、突出部(fish eye)等の欠陥がないと共に、均一な厚さ偏差を有するフィルムの製造が可能である。また、溶剤の使用を排除することにより、厚いフィルムの製造が容易になり、溶剤揮発工程が不要なため、実際の設備から乾燥オーブン等の乾燥機を省略できる。また、溶剤揮発工程の省略により、溶剤揮発による環境設備の必要性がなく、工程環境又は工程後の環境汚染問題を誘発しない。
【0038】
本発明ではまた、この過程でアクリル系樹脂シロップの粘度を約100cps〜10,000cpsの範囲に制御することが好ましい。樹脂シロップを前述の範囲に制御することにより、より効率的な工程の進行が可能になる。
【0039】
本発明の第1段階では、前述のような方式で製造された樹脂シロップを製膜する。このとき、樹脂シロップを製膜する方法は特に制限されなく、例えば、キャスティング(casting)法を用いることができる。具体的には、本発明の第1段階では、バーコート、ナイフコート、ロールコート、スプレーコート、グラビアコート、カーテンコート、コンマコート及び/又はリップコート等の通常の手段により、適切な工程基材上に樹脂シロップをコーティングすることによって、製膜工程を行うことができる。このような方式で製膜を行い、後述の紫外線照射工程を行うことにより、厚さ均一性、高温寸法安定性、切断性及び透明性等の物性が向上したフィルムを得ることができる。具体的には、本発明では前述の樹脂シロップを液状の状態で適切な工程基材上にキャスト(casting)した後、これをフィルム化し、工程基材を除去する方式によりアクリルフィルムの製造が可能である。このような方式を使用した場合、成膜時に樹脂にかかる応力が最小化し、時間の流れ又は加熱による寸法変化が発生しなくなる。また、固形の不純物の除去が容易で、製膜されたフィルムにおいて突出部(fish eye)等の発生が抑制され、これによって膜厚の均一性と厚さ精密度が向上する。また、前述の方式を用いる場合は、フィルムの応力緩和性が向上し得、これにより被着体に付着した際に発生する残留応力を迅速に解消できる。
【0040】
一方、製膜工程で使用できる工程基材の種類は特に制限されない。例えば、通常のプラスチック基材(例えば、PET基材)、紙、不織布、ガラス又は金属性基材を使用できる。本発明ではまた、工程基材に適切な離型処理を行って使用することもできる。
【0041】
本発明の第2段階は、第1段階で製膜された樹脂シロップに紫外線を照射して硬化させることにより、樹脂シロップを重合させる段階である。本発明の第2段階において、紫外線を照射する方法は特に制限されない。例えば、高圧水銀ランプ、無電極ランプ又はキセノンランプ(xenon lamp)等の手段を用いて行うことができる。
【0042】
また、本発明の第2段階は、例えば、照度が5mW/cm〜200mW/cmの紫外線(波長:230nm〜400nm)を約2秒〜20分間照射して行うことができる。また、この段階において、紫外線の光量は4mJ/cm〜2,000mJ/cmの範囲内で制御できる。
【0043】
しかし、上記紫外線照射条件は、本発明の一つの例示に過ぎない。つまり、本発明では、諸般物性を毀損しないと共に、樹脂シロップの十分な硬化が起きる程度の範囲内で、第2段階の紫外線照射条件を自由に変更できる。
【0044】
一方、本発明において、樹脂シロップが光開始剤と共に熱開始剤をさらに含む場合、UV照射過程において反応系内で発生する熱によって、熱開始剤が重合反応に参与し得る。この場合、UV硬化反応時に発生する熱が熱開始剤の重合反応の開始には不足する場合は、上述のUV照射過程中あるいはその後に樹脂シロップに熱風又は赤外線加熱等の手段で適切な熱を加えることもできる。
【0045】
本発明では、前述の方法で樹脂シロップを硬化させた後に、適切な方式で工程基材を除去することにより、アクリルフィルムを製造できる。
【0046】
本発明はまた、前述の本発明にかかる方法で製造されたアクリルフィルムに関するものである。
【0047】
前述のように、本発明では、液状の樹脂シロップ、好ましくは固形分濃度が100%の樹脂シロップをキャスティングし、硬化させてフィルムを製造することにより、厚さ均一性、高温寸法安定性、切断性、応力緩和性及び透明性等の物性が向上したフィルムを得ることができる。
【0048】
よって、本発明の製造方法によって製造されたアクリルフィルムは、ダイシング(dicing)や裏面研削(backgrinding)のような各種半導体工程に使用される保護フィルムは勿論、各種産業用シート、例えば、保護フィルム、広告用フィルム、クリーニングシート、反射シート、構造用粘着シート、写真用粘着シート、車線表示用粘着シート、光学用粘着製品又は電子部品用粘着製品に使用される基材フィルムとして効果的に使用できる。また、本発明のフィルムは、多層構造のラミネート製品、例えば、一般商業用粘着製品、医療用パッチ又は加熱活性粘着剤(heat activated pressure−sensitive adhesive)等の用途として効果的に利用できる。
【0049】
本発明のフィルムの厚さ等の物性は、フィルムが利用される用途に応じて選択されるものであり、特に制限されない。例えば、本発明のフィルムは、厚さが0.02mm〜3.0mm、好ましくは0.05mm〜1.0mmの範囲内で適切に制御できる。フィルムの厚さが0.02mm未満だと、厚さ均一度が低下する恐れがある。3.0mmを超えて厚膜化される場合は、樹脂シロップの硬化のために必要なUV照射量や熱印加量が増加し過ぎることがある。そして、製造されたフィルムに損傷が生じたり、或いはフィルムの内部及び表面の物性が均一にならない恐れがある。
【実施例】
【0050】
以下、本発明にかかる実施例及び本発明にかからない比較例により本発明をより詳しく説明するが、本発明の範囲が下記に提示した実施例によって制限されるのではない。
【0051】
実施例1.
反応性単量体として、メチルメタクリレート100重量部に対してアクリル系重合体として重量平均分子量が100,000のポリ(メチルメタクリレート)50重量部を分散させ、30分以上攪拌した。その後、製造された混合物に光開始剤として(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド(TPO)5重量部を混合し、さらに30分以上攪拌して固形分濃度が100%の樹脂シロップを製造した。次いで、厚さが38μmのPET基材上に製造された樹脂シロップをナイフコーターでコーティングした(コーティング厚さ:150μm)。次いで、製膜された樹脂シロップを金属ハライドランプ下に位置させ、10mW/cmの紫外線を約3分間照射して硬化させて、アクリルフィルムを製造した。
【0052】
実施例2.
反応性単量体として、メチルメタクリレート50重量部及びブチルアクリレート50重量部に対して、ポリ(メチルメタクリレート)50重量部及び(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド(TPO)5重量部を配合して樹脂シロップを製造したことを除いては、実施例1と同様の方式でアクリルフィルムを製造した。
【0053】
実施例3.
反応性単量体として、ブチルアクリレート100重量部に対して、ポリ(メチルメタクリレート)50重量部及び(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド(TPO)5重量部を配合して樹脂シロップを製造したことを除いては、実施例1と同様の方式でアクリルフィルムを製造した。
【0054】
実施例4.
反応性単量体として、ブチルアクリレート100重量部に対して、ポリ(メチルメタクリレート)50重量部、光開始剤として(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ジフェニルホスフィンオキシド(TPO)3重量部、及び熱開始剤としてベンゾイルペルオキシド(BPO)2重量部を配合して樹脂シロップを製造し、実施例1と同様の方式でUV硬化を進行した。次いで、UV硬化物に110℃の温度の熱を3分間印加して、さらに熱硬化させてアクリルフィルムを製造した。
【0055】
1.転換率の測定
実施例で製造されたアクリルフィルムを10cm×10cmの大きさに切断して試片を製造し、その重さを測定した。次いで、製造された試片を110℃の熱風オーブンで1時間放置した。その後、熱風オーブンで放置されたアクリルフィルムの重さを測定し、重さ減量値をパーセントに換算して転換率を測定した。
【0056】
実施例の結果を下記表1に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1の結果から、本発明によって固形分濃度が100%の樹脂シロップをコーティング、製膜及び硬化させてフィルムを製造する場合、厚さ均一度に優れ、縦軸及び横軸の物性に偏差がないと共に、転換率が95%以上になるフィルムが製造されることを確認できた。特に、樹脂シロップに光開始剤及び熱開始剤を同時に含め、デュアル硬化方式を採る場合は、転換率がより上昇することが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂シロップを製膜する第1段階;及び第1段階で製膜されたアクリル系樹脂シロップに紫外線を照射して硬化させる第2段階を含むアクリルフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記アクリル系樹脂シロップは、アクリル系重合体;反応性単量体及び光開始剤を含む請求項1に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記アクリル系重合体は、ガラス転移温度が30℃以上である請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;カルボキシル基含有化合物;ヒドロキシ基含有化合物;窒素含有化合物;グリシジル基含有化合物;スチレン系化合物及びカルボン酸ビニルエステルからなる群から選ばれた一つ以上を含む単量体混合物の重合体である請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂シロップは、該反応性単量体100重量部に対して、5重量部〜80重量部の該アクリル系重合体を含む請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記反応性単量体は、アルキル(メタ)アクリレート;アリサイクリック(メタ)アクリレート;芳香族(メタ)アクリレート;及びヘテロサイクリック(メタ)アクリレートからなる群から選ばれた一つ以上を含む請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記反応性単量体は、ヒドロキシ基含有単量体;カルボキシル基含有単量体;及び窒素含有単量体からなる群から選ばれた一つ以上の極性単量体を含む請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂シロップは、該反応性単量体100重量部に対して、0.01重量部〜30重量部の該光開始剤を含む請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項9】
前記光開始剤は、α−ヒドロキシケトン系化合物;フェニルグリオキシレート系化合物;ベンジルジメチルケタール系化合物;α−アミノケトン系化合物;モノアシルホスフィン系化合物;ビスアシルホスフィン系化合物;ホスフィンオキシド系化合物;及びメタロセン系化合物からなる群から選ばれた一つ以上である請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂シロップは、熱開始剤をさらに含む請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記熱開始剤は、アゾ系化合物、ペルオキシ系化合物、tert−ブチルペルアセテート、ペルアセト酸及びポタシウムペルスルフェートからなる群から選ばれた一つ以上である請求項10に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項12】
前記樹脂シロップは、架橋剤をさらに含む請求項2に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記架橋剤が多官能性アクリレートである請求項12に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記樹脂シロップは、固形分濃度が100%である請求項1に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記樹脂シロップは、粘度が100cps〜10,000cpsである請求項1に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項16】
前記第1段階を、該樹脂シロップを基材上にコーティングして行う請求項1に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項17】
前記第2段階を、照度が5mW/cm〜200mW/cmの紫外線を2秒〜20分間照射して行う請求項1に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項18】
前記第2段階で、該樹脂シロップに熱を加える工程をさらに行う請求項1に記載のアクリルフィルムの製造方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の方法で製造されたアクリルフィルム。
【請求項20】
厚さが0.02mm〜3.0mmである請求項19に記載のアクリルフィルム。

【公表番号】特表2013−503233(P2013−503233A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526625(P2012−526625)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005396
【国際公開番号】WO2011/025169
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(509286787)エルジー・ハウシス・リミテッド (49)
【氏名又は名称原語表記】LG HAUSYS,LTD.
【住所又は居所原語表記】20,Yoido−dong,youngdungpo−gu,Seoul150−721,Republic of Korea
【Fターム(参考)】