説明

アクリル樹脂フィルム及びこれを積層した積層成形品

【課題】インサート成形、インモールド成形に用いることのできる表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を有し、かつ、良好な印刷適性を有し、かつ、極めて良好な表面外観を有し、さらに、この良好な表面外観がインモールド成形等の二次加工を通して維持することの出来るアクリル樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】ゴム含有重合体(I)、および/またはメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体(II)を構成成分とするアクリル樹脂組成物100質量部と、質量平均粒子径Dwが1μmを超えて20μm以下であって、かつ、粒子径が10×Dwμm以上の粒子を含まない有機系架橋粒子又は無機系粒子1〜15質量部からなるアクリル樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル樹脂フィルム及びこれを積層した積層成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品に意匠性を付与する代表的な成形法として、インサート成形法及びインモールド成形法がある。インサート成形法は、印刷等の加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのフィルム又はシートを予め真空成形等によって三次元の形状に成形し、不要なフィルム又はシート部分を除去した後、射出成形金型内に移し、基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させて成形品を得る方法である。一方、インモールド成形法は、印刷等の加飾を施したポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂などのシートあるいはフィルムを射出成形金型内に設置し、真空成形を施した後、同じ金型内で基材となる樹脂を射出成形することにより一体化させた成形品を得る方法である。
特に、インモールド成形法によれば、シートあるいはフィルムと基材とを生産性良く一体化したり、印刷部のみを転写したりすることができる。このようにして得られた表層にアクリル樹脂フィルム層を有する部材が車輌用の部品材料として用いられている。
【0003】
近年、メタリック調などの高輝度印刷が施されたアクリル樹脂フィルムの表面を艶消し状態として、高級感や深み感等の意匠性や加飾性を付加することが求められてきている。
従来の熱可塑性樹脂の艶消し方法は、大別して(1)紋付け加工、艶消し加工による方法、(2)無機物又は有機物の艶消し材を添加する方法に分けられる。しかし、(1)の方法は、一般に物性の低下が少ない利点はあるものの、生産性は悪く加工賃が嵩む上、艶消し効果も不十分であり、多くの場合二次加工でフィルムを加熱する用途では艶が戻ってしまい、艶消し効果が消えるなどの問題を有している。また(2)の方法は、生産性をそれほど低下させずに、艶消しの程度のコントロールが可能で、二次加工を施す用途にも適用できるが、物性が低下するという大きな問題を含んでいる。
【0004】
こうした中で、上記問題の解決に向けた、耐衝撃性、強伸度、透明性等の物性低下が小さく、艶消し材を配合した艶消し効果を有する種々の樹脂組成物の開発が盛んに進められている。例えば、架橋構造を有するメタクリル樹脂微粒子(例えば、特許文献1、2参照)、架橋構造を有する樹脂微粒子、マイカ微粒子、タルク微粒子等の無機系微粒子(例えば、特許文献3参照)、ゴム状アルキルアクリレート重合体(例えば、特許文献4参照)、ポリマー粒子(例えば、特許文献5参照)あるいは無機粒子及び/又は有機架橋粒子(例えば、特許文献6参照)などを含有するフィルム状又はシート状樹脂組成物などが開発されている。
他方、各種艶消し材を含有した樹脂組成物を溶融押出した後、鏡面ロールと、ゴムロール又はシボ入りロールとで挟持することにより、フィルム一方のみを粗面、かつ、他方を平滑面とすることで印刷適性を有する艶消しフィルムも開発されている(例えば、特許文献7〜9参照)。
【0005】
しかしながら、上記種々の樹脂組成物は、本発明者らが行った実験によると、フィルム表面に凹んだ欠陥が数多く存在し、表面外観が著しく低下したもの、また印刷加工を施したところ、フィルム表面の凹凸が大きく、凹部に印刷インクが入りにくく、印刷柄が不鮮明になるなど、フィルム上の凸部で印刷抜けが発生し、良好な印刷層を得ることが難しく、加飾性フィルムあるいはシートとして十分な特性をもつものは得られなかった。また、特許文献8、9記載の方法により艶消しフィルムを作成したところ、鏡面ロールと、ゴムロール又はシボ入りロールとで挟持することで、一旦はフィルム表面の凹んだ欠陥は目立たなくなるが、インモールド成形等の二次加工工程でフィルムに熱がかかった際に、再びこの凹んだ表面欠陥が発現した。特に平滑面側にシルバーメタリック調などの高輝度印刷を施したときに、この表面欠陥が非常に目立ち良好な加飾フィルム及び積層成形品を得ることが出来なかった。したがって、表面外観の良好な加飾性フィルムあるいはその積層品を得るための樹脂材料の開発が望まれる。
【0006】
【特許文献1】特開平3−237134号公報
【特許文献2】特許第3295134号公報
【特許文献3】特開平6−73200号公報
【特許文献4】特許第2530687号公報
【特許文献5】特開2000−191708号公報
【特許文献6】特開平10−237261号公報
【特許文献7】特開2002−103371号公報
【特許文献8】特開2002−254495号公報
【特許文献9】特開2002−361712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、インサート成形、インモールド成形に用いることのできる表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を有し、かつ、良好な印刷適性を有し、かつ、極めて良好な表面外観を有し、さらに、この良好な表面外観がインモールド成形等の二次加工を通して維持することの出来るアクリル樹脂フィルム、ならびにこのフィルムを積層した積層成形品を開発することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定のゴム含有重合体あるいはメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体に特定の粒子径を有する有機系架橋粒子又は無機系粒子を含有せしめることによって、表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を具備し、かつ、良好な印刷適性と良好な表面外観を有するアクリル樹脂フィルム及びこのフィルムを積層した積層成形品を開発することに成功した。
【0009】
すなわち、本発明は下記1)〜6)に記載のアクリル樹脂フィルム及びそれを基材に積層したアクリル樹脂積層成形品を提供するものである。
1)下記に示すゴム含有重合体(I)及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体(II)を構成成分とするアクリル樹脂組成物100質量部に対して、質量平均粒子径Dwが1μmを超えて20μm以下であって、かつ、粒子径が10×Dwμm以上の粒子を含まない有機系架橋粒子又は無機系粒子を1〜15質量部含有するアクリル樹脂フィルム。
ゴム含有重合体(I):
アクリル酸アルキルエステルを主成分として得た1層又は2層以上の構造を有する最内層重合体(I−A)の存在下に、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体をグラフト重合して1層又は2層以上の構造を有する最外層重合体(I−C)を成形してなる質量平均粒子径が0.01〜0.5μmの2層以上の多層構造を有するゴム含有重合体。
2)上記ゴム含有重合体(I)及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体(II)を構成成分とするアクリル樹脂組成物100質量部に対して、質量平均粒子径Dwが1μmを超えて20μm以下であって、かつ、粒子径が10×Dwμm以上の粒子を含まない下記に示す架橋アクリル系重合体(III)からなる有機系架橋粒子を1〜15質量部含有するアクリル樹脂フィルム。
架橋アクリル系重合体(III):
メタクリル酸アルキルエステルを主成分とした重合性単量体と多官能性単量体からなる架橋メタクリル系粒子、あるいは、
アクリル酸アルキルエステルを主成分としたゴム状重合体のコアと、メタクリル酸アルキルエステルを主成分としたガラス状重合体のシェルからなるコアシェル構造重合体粒子。
【0010】
3)上記1)項記載のアクリル樹脂組成物100質量部に対して、さらに、質量平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子を0.1〜1質量部含有する上記1)項又は2項記載のアクリル樹脂フィルム。
4)上記樹脂組成物を溶融押出後、鏡面ロールとゴムロールで挟持して製膜することにより製造されたものである上記1)項〜3)項記載のアクリル樹脂フィルム。
5)アクリル樹脂フィルム製造時にゴムロールとの接触面に印刷を施した上記4)項記載のアクリル樹脂フィルム。
6)上記1)項〜5)項記載のアクリル樹脂フィルムを基材に積層したアクリル樹脂積層成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定のゴム含有重合体(I)及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体(II)を構成成分とするアクリル樹脂組成物100質量部と質量平均粒子径Dwが1μmを超えて20μm以下であって、かつ、粒子径が10×Dwμm以上の粒子を含まない有機系架橋粒子または無機系粒子1〜15質量部からなるアクリル樹脂フィルムを採用することで、インサート成形、インモールド成形に用いることのできる表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を有し、かつ、良好な印刷適性を有し、かつ、極めて良好な表面外観を有し、さらに、この良好な表面外観がインモールド成形等の二次加工を通して維持することの出来るアクリル樹脂フィルム及びこのフィルムを積層した積層成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明におけるゴム含有重合体(I)は、アクリル酸アルキルエステルを主成分として得た1層又は2層以上の構造を有する最内層重合体(I−A)の存在下に、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体をグラフト重合して1層又は2層以上の構造を有する最外層重合体(I−C)を形成してなる2層以上の多層構造を有するゴム含有重合体であって、下記に示すゴム含有重合体(I')又は(I'')の系統のものとして説明される。
【0013】
《ゴム含有重合体(I')》
最内層重合体(I'−A)に用いるアクリル酸アルキルエステルとしては、公知の各種のアクリル酸アルキルエステルが挙げられる。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。このうち、特に、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。このアクリル酸アルキルエステルは、最内層重合体(I'−A)を構成する単量体のうちの主成分として用いられるものである。アクリル酸アルキルエステルの使用量は、全単量体中35〜99.9質量%が好ましい。使用量が35質量%以上の場合、フィルムの成形性が良好となる。さらに好ましい使用量は50質量%以上である。これらの使用量の各範囲は、最内層重合体(I'−A)が2層以上の構造を有する場合は、最内層重合体(I'−A)の全体としてのアクリル酸アルキルエステルの使用量を示すものである。例えば、最内層重合体(I'−A)をハード芯構造にする場合、1層目(芯部)のアクリル酸アルキルエステルの使用量を35質量%未満にすることもできる。
最内層重合体(I'−A)を構成する単量体として、アクリル酸アルキルエステルと共に、これと共重合可能な他のビニル単量体を使用することができる。他のビニル単量体を使用する場合、その使用量は、全単量体中64.9質量%以下が好ましい。他のビニル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が好ましい。これらは1種を単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0014】
最内層重合体(I'−A)を構成する単量体の一部として、多官能性単量体を用いることが好ましい。多官能性単量体としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらは1種を単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。多官能性単量体の使用量は、全単量体中0.1〜10質量%が好ましい。
ゴム含有重合体(I')は、上記最内層重合体(I'−A)の存在下に、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体をグラフト重合して最外層重合体(I'−C)を形成してなる2層以上の多層構造のゴム含有重合体である。
最外層重合体(I'−C)を得るためのグラフト重合では、メタクリル酸アルキルエステルを主成分として用いる。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルの使用量は、グラフト重合に用いる全単量体中50質量%以上が好ましい。メタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0015】
最外層重合体(I'−C)を得るためのグラフト重合に用いる単量体として、メタクリル酸アルキルエステルと共に、これと共重合可能な他のビニル単量体を使用することもできる。他のビニル単量体を使用する場合、その使用量は、全単量体中50質量%以下が好ましい。他のビニル単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が好ましい。これら1種を単独又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらの各単量体を、最内層重合体(I'−A)の存在下に1段以上でグラフト重合することにより、外層の最外層重合体(I'−C)を形成して、ゴム含有重合体(I')が得られる。ゴム含有重合体(I')中の最外層重合体(I'−C)の量は、最内層重合体(I'−A)100質量部に対して、好ましくは10〜400質量部、より好ましくは20〜200質量部である。
ゴム含有重合体(I')の質量平均粒子径は、0.01〜0.5μmである。0.08〜0.3μmがより好ましい。特に、製膜性の観点では、その粒子径は0.08μm以上が好ましい。なお、質量平均粒子径は、光散乱光度計DLS−700(商品名:大塚電子(株)製)を用い、動的光散乱法で測定することができる。
【0016】
次に、ゴム含有重合体(I')の製造方法について説明する。
ゴム含有重合体(I')の製造法としては、乳化重合法による逐次多段重合法が最も適した重合法であるが、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後、最外層重合体(I'−C)の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法によっても行うことができる。
乳化重合に使用する乳化剤としては、アニオン系、カチオン系及びノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、ロジン石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。このうち、特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が好ましい。
【0017】
上記界面活性剤は、エレミノールNC−718(三洋化成工業(株)製)、フォスファノールLS−529、フォスファノールRS−610NA、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA、フォスファノールRS−660NA(以上、東邦化学工業(株)製)、ラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406、ラテムルP−0407(以上、花王(株)製)等として市販されている。
一方、本発明の好ましいゴム含有重合体(I')を構成する最内層重合体(I'−A)及び最外層重合体(I'−C)を形成する際に使用する重合開始剤は公知のものが使用でき、その添加方法は、水相、単量体相のいずれか片方又は双方に添加する方法を用いることができる。好ましい重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、又は酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。特にレドックス系開始剤が好ましく、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
【0018】
上述の最内層重合体(I'−A)を与える単量体成分を界面活性剤と混合して調製したものを反応器に供給し、重合した後、最外層重合体(I'−C)を与える単量体成分を反応器に供給し、重合する方法においては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリットを含む水溶液を重合温度まで昇温した後、調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで過酸化物等の重合開始剤を含む最外層重合体(I'−C)を与える単量体成分を反応器に供給し、重合する方法が、本発明のゴム含有重合体(I')を得る方法としては最も好ましい。
なお、重合温度は重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは60〜95℃である。
【0019】
上記の方法で得られるゴム含有重合体(I')を含むポリマーラテックスを必要に応じて濾材を配した濾過装置を用いて処理する。この濾過処理は、重合中に発生するスケールのラテックスからの除去あるいは重合原料中、また重合中に混入する夾雑物を除去するためのものであり、ゴム含有重合体(I')を得るためにより好ましい方法である。
ゴム含有重合体(I')は、上述の方法で製造した重合体ラテックスから回収することによって製造することができる。重合体ラテックスからゴム含有重合体(I')を回収する方法としては、塩析又は酸析凝固、あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられ粉状として回収される。このうち、金属塩を用いて塩析処理する場合、最終的に得られたゴム含有重合体(I')中への残存金属含有量を800ppm以下にすることが好ましい。特に、マグネシウム、ナトリウム等の水との親和性の強い金属塩を塩析剤として使用する際は、その残存金属含有量を極力少なくしないと、最終的に得られたゴム含有重合体(I')を原料の一部としたアクリル樹脂フィルムを沸騰水中に浸漬する際、白化現象を生じ、実用上大きな問題となる。なお、カルシウム系、硫酸系凝固を行うと、比較的良好な傾向を示すが、いずれにしても優れた耐水白化性を与えるためには、残存金属量を800ppm以下にすることが必要であり、微量であるほどよい。
【0020】
《ゴム含有重合体(I'')》
ゴム含有重合体(I'')は、内側から順に、最内層重合体(I''−A)、中間層重合体(I''−B)、最外層重合体(I''−C)を基本構造とする多層構造を有する。
以下、上述のゴム含有重合体(I'')の構成について順次説明する。
1)最内層重合体(I''−A)
最内層重合体(I''−A)は、上記多層構造を有する重合体の中心部分を構成するものであって、アクリル酸アルキルエステル(I''−A1)、メタクリル酸アルキルエステル(I''−A2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I''−A3)、多官能性単量体(I''−A4)及びグラフト交叉剤(I''−A5)を構成成分とする単量体成分を重合してなる重合体である。なお、この単量体成分において、成分(I''−A1)及び成分(I''−A5)は必須成分であり、成分(I''−A2)、成分(I''−A3)及び成分(I''−A4)は任意成分である。
【0021】
上記成分(I''−A1)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸n−ブチルである。
上記成分(I''−A2)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでもよい。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0022】
また、任意成分である(I''−A3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは単独又は二種以上を混合して使用することができる。
また、任意成分である(I''−A4)の多官能性単量体とは、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体と定義される。その具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらは単独又は二種以上を混合して使用することができる。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。また、多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤(I''−A5)が存在する限り、かなり安定なゴム含有重合体(I'')を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に行えばよい。
【0023】
他方、最内層重合体(I''−A)を構成するための単量体成分に含まれる必須の成分であるグラフト交叉剤(I''−A5)とは、異なる共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する単量体である。その具体例としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸又はジカルボン酸のアリル、メタリルまたはクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又はフマル酸のアリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏し好ましい。その他、上記多官能性単量体のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等もグラフト交叉剤として有効である。また、グラフト交叉剤(I''−A5)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基又はクロチル基よりはるかに速く反応し重合される。この間、アリル基、メタリル基又はクロチル基のかなりの部分は、次層の重合体を重合する間に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。なお、この重合反応は連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0024】
そして、最内層重合体(I''−A)におけるアクリル酸アルキルエステル(I''−A1)とメタクリル酸アルキルエステル(I''−A2)との合計の含有量は、80〜99.9質量%が好ましい。また、アクリル酸アルキルエステル(I''−A1)の含有量は、50〜99.9質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、より好ましくは55質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。また、上限の含有量は、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の表面硬度の観点から、より好ましくは79.9質量%以下、さらに好ましくは69.9質量%以下である。
他方、メタクリル酸アルキルエステル(I''−A2)の含有量は、0〜49.9質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の表面硬度の観点から、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。また、耐成形白化性の観点から、その上限は、より好ましくは44.9質量%以下、さらに好ましくは39.9質量%以下である。
【0025】
さらに、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I''−A3)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは15質量%以下である。
また、多官能性単量体(I''−A4)の含有量は、0〜10質量%が好ましい。より好ましくは0.1質量%以上であり、6質量%以下である。
また、グラフト交叉剤(I''−A5)の含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%以上を含有せしめることによって、得られるゴム含有重合体(I'')の透明性等の光学的物性を低下させずに成形することができる。他方、10質量%以下の含有量は、ゴム含有重合体(I'')に十分な柔軟性、強靭さを付与することができるため好ましい。より好ましくは0.5質量%以上、2質量%以下である。
【0026】
最内層重合体(I''−A)単独のTgは、耐衝撃性及び耐成形白化性に優れた製品を得る観点から、後述の中間層重合体(I''−B)単独のTg未満であることが好ましい。より好ましくは25℃未満、さらに好ましくは10℃以下、最も好ましくは0℃以下である。なお、Tgは、ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用いてFOXの式から算出することができる。
ゴム含有重合体(I'')中の最内層重合体(I''−A)の含有量は15〜50質量%が好ましい。15質量%以上の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体に耐成形白化性を付与することができ、さらに、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルムをインサート成形及びインモールド成形するのに可能な靭性を両立させることができる。より好ましくは20質量%以上である。また、含有量の上限が50質量%以下の場合、車輌用途に必要な表面硬度及び耐熱性が得られるため好ましい。より好ましくは35質量%以下である。
【0027】
最内層重合体(I''−A)は、単層でも多層でもよいが、好ましくは2層からなるものである。この2層の単量体構成比は異なるものが好ましい。
最内層重合体(I''−A)が2層からなる場合、内側層(I''−A)のTgと外側層(I''−A)のTgは、同一でも構わないが、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性、耐衝撃性及び表面硬度の観点から、内側層(I''−A)のTgは外側層(I''−A)のTgよりも低いほうが好ましい。具体的には、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性及び耐衝撃性の観点から、内側層(I''−A)のTgは−30℃未満が好ましく、外側層(I''−A)のTgは10℃以下が好ましい。特に、表面硬度の観点からは、外側層(I''−A)のTgは−15℃以上が好ましい。この時の最内層重合体(I''−A)中の内側層(I''−A)の含有量は1質量%以上、20質量%以下が好ましく、外側層(I''−A)の含有量は80質量%以上、99質量%以下が好ましい。
【0028】
2)中間層重合体(I''−B)
中間層重合体(I''−B)は、上記最内層重合体(I''−A)の存在下に、アクリル酸アルキルエステル(I''−B1)、メタクリル酸アルキルエステル(I''−B2)、これらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I''−B3)、多官能性単量体(I''−B4)及びグラフト交叉剤(I''−B5)を構成成分とする単量体成分を重合してなる重合体である。好ましくは、最内層重合体のTgよりもここでの単量体成分での重合体のTgが高い重合体である。なお、この単量体成分において、成分(I''−B1)、成分(I''−B2)及び成分(I''−B5)は必須成分であり、成分(I''−B3)及び成分(I''−B4)は任意成分である。
上記(I''−B1)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸メチル及びアクリル酸n−ブチルである。
【0029】
また、上記(I''−B2)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでもよい。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは、単独又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
また、成分(I''−B3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは、単独又は二種以上を混合して使用できる。
また、上記成分(I''−B4)の多官能性単量体は、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレートを用いることが好ましい。また、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン等、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等も使用可能である。これらのうち、好ましいものは1,3−ブチレングリコールジメタクリレートである。これらは、単独で又は二種以上を混合して使用できる。なお、多官能性単量体が全く作用しない場合でも、グラフト交叉剤が存在する限り、かなり安定なゴム含有重合体(I'')を与える。例えば、熱間強度等が厳しく要求されたりする場合など、その添加目的に応じて任意に行えばよい。
【0030】
また、上記グラフト交叉剤(I''−B5)としては、共重合性のα,β−不飽和カルボン酸又はジカルボン酸のアリル、メタリル又はクロチルエステル等が挙げられる。特に、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又はフマル酸のアリルエステルが好ましい。これらのうち、メタクリル酸アリルエステルが優れた効果を奏する。その他、上記多官能性単量体のトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等もグラフト交叉剤として有効である。グラフト交叉剤(I''−B5)は、主としてそのエステルの共役不飽和結合がアリル基、メタリル基又はクロチル基よりはるかに早く反応し化学的に結合する。この間、アリル基、メタリル基又はクロチル基の実質上かなりの部分は、次層重合体の重合中に有効に働き、隣接二層間にグラフト結合を与える。
なお、ここでの重合も連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。
【0031】
中間層重合体(I''−B)を構成するためのアクリル酸アルキルエステル(I''−B1)とメタクリル酸アルキルエステル(I''−B2)との合計の含有量は、19.8〜90質量%が好ましい。そして、一方のアクリル酸アルキルエステル(I''−B1)の含有量は、9.9〜90質量%が好ましい。より好ましくは、耐成形白化性、表面硬度、耐熱性等の特性付与の観点から、19.9質量%以上、さらに好ましくは29.9質量%以上である。また、より好ましい上限の含有量は60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下である。
また、メタクリル酸アルキルエステル(I''−B2)の含有量は、9.9〜90質量%が好ましい。耐成形白化性、表面硬度、耐熱性等の特性付与の観点から、より好ましくは39.9質量%以上、最も好ましくは49.9質量%以上である。また、より好ましい上限の含有量は、80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0032】
また、共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I''−B3)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは15質量%以下である。
また、多官能性単量体(I''−B4)の含有量は、0〜10質量%が好ましい。より好ましくは6質量%以下である。
そして、グラフト交叉剤(I''−B5)の含有量は、0.1〜10質量%が好ましい。0.1質量%以上の含有量では、得られるゴム含有重合体(I'')を光学的物性を低下させずに成形することができる。また、5質量%以下の含有量では、ゴム含有重合体(I'')に十分な柔軟性、強靭さを付与することができるため好ましい。より好ましくは0.5質量%以上、2質量%以下である。
ここで、中間層重合体(I''−B)の組成は、最内層重合体(I''−A)の組成と異なることが好ましい。重合体の組成が異なることで、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐衝撃性及び耐成形白化性を同時に満足することができる。
なお、本発明で言う「異なる組成」とは、各重合体を形成するアクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、共重合可能な二重結合を有する他の単量体、多官能性単量体及びグラフト交叉剤の種類及び/又は量が異なることを意味する。
【0033】
中間層重合体(I''−B)を構成する単量体成分のみを重合した時に得られる重合体単独のTgが、25〜100℃となるものが好ましい。Tgが25℃以上の場合、表面硬度及び耐熱性が車輌用途に必要なレベルとなる。より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上である。またTgが100℃以下の場合、耐成形白化性良好で、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性が良好となる。より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
このように、特定の組成及びTgの中間層重合体(I''−B)を設けることで、これまで必要物性を満たすのに適したゴム含有重合体(I'')あるいは樹脂が設計されてこなかったために実現困難であった耐成形白化性、表面硬度、耐熱性等の特性を有する製品が得られる。
また、ゴム含有重合体(I'')中の中間層重合体(I''−B)の含有量は、5〜35質量%が好ましい。この範囲内であれば、耐成形白化性と、表面硬度、耐熱性等を両立するために重要な中間層重合体(I''−B)の機能を発現させることができるとともに、得られるフィルムのその他の物性、例えば、アクリル樹脂をフィルム状に成形するときの製膜性、得られるアクリル樹脂フィルム及び加飾アクリル樹脂フィルムをインサート成形及びインモールド成形するのに可能な靭性を付与することができるため好ましい。より好ましくは20質量%以下である。
【0034】
3)最外層重合体(I''−C)
最外層重合体(I''−C)は、上記の中間層まで形成した重合体の存在下に、メタクリル酸アルキルエステル(I''−C1)、アクリル酸アルキルエステル(I''−C2)、及びこれらと共重合可能な二重結合を有する他の単量体(I''−C3)を構成成分とする単量体成分をグラフト重合して形成する。最外層重合体(I''−C)は、少なくとも1段以上で重合して得ることができ、1層又は2層以上の構造とすることができる。なお、この単量体成分において、成分(I''−C1)は必須成分であり、成分(I''−C2)及び成分(I''−C3)は任意成分である。
上記(I''−C1)のメタクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでもよい。その具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはメタクリル酸メチルである。
【0035】
また、(I''−C2)のアクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が直鎖状、分岐鎖状のもののいずれでもよい。その具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等が挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用できる。これらのうち、好ましいものはアクリル酸メチル及びアクリル酸n−ブチルである。
また、(I''−C3)の共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が使用できる。これらは単独又は二種以上を混合して使用できる。
【0036】
最外層重合体(I''−C)を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステル(I''−C1)の含有量は、51〜100質量%が好ましい。得られるアクリル樹脂フィルムの表面硬度、耐熱性等の観点から、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは93質量%以上、99質量%以下である。
また、アクリル酸アルキルエステル(I''−C2)の含有量は、0〜20質量%が好ましい。より好ましくは1質量%以上である。また、より好ましくは10質量%以下、最も好ましくは7質量%以下である。
さらに、共重合可能な二重結合を有する単量体(I''−C3)の含有量は、0〜49質量%が好ましい。より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0037】
最外層重合体(I''−C)の重合時に連鎖移動剤を使用することにより最外層重合体(I''−C)の分子量を調整することができる。この連鎖移動剤は通常ラジカル重合に用いられるものの中から選択して用いる。具体例としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素等が挙げられ、これらは単独又は二種以上を混合して使用することができる。連鎖移動剤の含有量は、重合体(I''−C)を構成するための単量体成分に含まれる単量体((I''−C1)〜(I''−C3))100質量%に対して、0.01〜5質量%が好ましい。より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.4質量%以上である。
また、最外層重合体(I''−C)を構成するための単量体成分のみの重合体のTgが、60℃以上となるものが好ましい。Tgが60℃以上の場合、車輌用途に適した表面硬度及び耐熱性を有するフィルムが得られる。より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上である。また、凝固性及び得られるゴム含有重合体(I'')の取り扱い性の観点から、上限の温度は105℃以下が好ましい。
【0038】
ゴム含有重合体(I'')中の最外層重合体(I''−C)の含有量は10〜80質量%が好ましい。表面硬度、耐熱性の観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは45質量%以上である。また含有量が80質量%以下の場合、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体に耐成形白化性、得られるアクリル樹脂フィルム及び加飾アクリル樹脂フィルムにインモールド成形するのに可能な靭性を付与することができる。より好ましくは70質量%以下である。
本発明のゴム含有重合体(I'')は、上述した(I''−A)、(I''−B)及び(I''−C)の重合体層から構成されるものであるが、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体において、さらに優れた耐成形白化性を得るためには、ゴム含有重合体(I'')はゲル含有率が50%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上である。この場合のゲル含有率(%)とは、ゴム含有重合体(I'')の所定量(抽出前質量:W(g))をアセトン溶媒中還流下で抽出処理し、遠心分離によりアセトン可溶分を除去し、残ったアセトン不溶分を乾燥した後、質量(抽出後質量:W(g))を測定し、下記式にて算出したものである。
ゲル含有率=抽出後質量W/抽出前質量W×100
【0039】
得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の点から述べると、ゲル含有率は大きい程有利であるが、易成形性の点からは、ある量以上のフリーポリマーの存在が必要であり、ゲル含有率は80%以下が好ましい。
なお、ゴム含有重合体(I'')の質量平均粒子径は0.01〜0.5μmである。好ましくは、0.05〜0.3μmの範囲にあるものである。得られるアクリル樹脂フィルムの機械的特性の観点から、より好ましくは0.07μm以上、最も好ましくは0.09μm以上である。また、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、より好ましくは0.15μm以下、最も好ましくは0.13μm以下である。なお、質量平均粒子径は、光散乱光度計DLS−700(商品名:大塚電子(株)製)を用いて動的光散乱法により測定することができる。
【0040】
次に、ゴム含有重合体(I'')の製造方法について説明する。
ゴム含有重合体(I'')の製造法としては、乳化重合法による逐次多段重合法が最も適した重合法であるが、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後、最外層重合体(I''−C)の重合時に懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合法によっても製造することができる。
また、ゴム含有重合体(I'')を乳化重合法により製造する場合は、ゴム含有重合体(I'')中の最内層重合体(I''−A)を与える単量体成分を、あらかじめ水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し重合した後、中間層重合体(I''−B)及び最外層重合体(I''−C)を与える単量体成分をそれぞれ順に反応器に供給し重合する方法が好ましい。
上記重合法によって重合させることにより、特にアセトン中に分散させた際に、その分散液中に存在する直径55μm以上の粒子の数がゴム含有重合体(I'')100gあたり0〜50個であるゴム含有重合体(I'')を容易に得ることができる。こうして得られたゴム含有重合体(I'')を原料に用いたフィルムは、フィルム中のフィッシュアイ数が少ないという特性を有し、特に印刷抜けが発生しやすい印圧の低い淡色の木目柄やメタリック調、漆黒調等のベタ刷りのグラビア印刷を施した場合でも、印刷抜けが少なく、高いレベルでの印刷性を有する。
【0041】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、およびノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、ロジン石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。このうち、特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が好ましい。
上記界面活性剤として、エレミノールNC−718(商品名:三洋化成工業(株)製)、フォスファノールLS−529、フォスファノールRS−610NA、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA、フォスファノールRS−660NA(商品名:以上東邦化学工業(株)製)、ラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406、ラテムルP−0407(商品名:以上花王(株)製)等が市販されている。
【0042】
また、乳化液を調製する方法としては、水中に単量体成分を仕込んだ後、界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後、単量体成分を投入する方法、単量体成分中に界面活性剤を仕込んだ後、水を投入する方法等が挙げられる。このうち、水中に単量体成分を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法及び水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体成分を投入する方法がゴム含有重合体(I'')を得る方法としては好ましい。
最内層重合体(I''−A)を与える単量体成分を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を調製するための混合装置としては、攪拌翼を備えた攪拌機及びホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置、膜乳化装置等が挙げられる。
調製する乳化液としては、単量体成分の油中に水滴が分散したW/O型、水中に単量体成分の油滴が分散したO/W型のいずれの分散型でも使用することができるが、特に水中に単量体成分の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であることが好ましい。
【0043】
ゴム含有重合体(I'')を構成する最内層重合体(I''−A)、中間層重合体(I''−B)及び最外層重合体(I''−C)を形成する際に使用する重合開始剤は公知の重合開始剤を使用することができる。その添加方法は、水相、単量体相のいずれか片方又は双方に添加する方法のいずれでもよい。重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤又は酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤などが用いられる。これらのうち、レドックス系開始剤が好ましく、特に、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリット・ヒドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。
上述の最内層重合体(I''−A)を与える単量体成分を水及び界面活性剤と混合して調製した乳化液を反応器に供給し、重合した後、中間層重合体(I''−B)および最外層重合体(I''−C)を与える単量体成分をそれぞれ順に反応器に供給し、重合する方法においては、硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸ニナトリウム塩・ロンガリットを含む水溶液を重合温度まで昇温した後、調製した乳化液を反応器に供給して重合し、次いで過酸化物等の重合開始剤を含む中間層重合体(I''−B)及び最外層重合体(I''−C)を与える単量体成分を順次反応器に供給し重合する方法が、本発明のゴム含有重合体(I'')を得る方法としては最も好ましい。
なお、重合温度は重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは40〜120℃、さらに好ましくは60〜95℃である。
【0044】
上記の方法で得られるゴム含有重合体(I'')を含むポリマーラテックスは必要に応じて濾材を配した濾過装置により処理される。この濾過処理は、重合中に発生するスケールのラテックスからの除去、あるいは重合原料中、また重合中に外部から混入する夾雑物を除去するためのものであり、ゴム含有重合体(I'')を得るためにより好ましい方法である。
なお、その際使用される濾過装置としては、袋状のメッシュフィルターを利用したISPフィルターズ・ピーテーイー・リミテッド社のGAFフィルターシステムや円筒型濾過室内の内側面に円筒型の濾材を配し、該濾材内に攪拌翼を配した遠心分離型濾過装置、あるいは濾材が該濾材面に対して水平の円運動及び垂直の振幅運動をする振動型濾過装置が好ましい。
ゴム含有重合体(I'')は、上述の方法で製造した重合体ラテックスから回収することによって製造することができる。このゴム含有重合体(I'')を回収する方法としては、塩析又は酸析凝固あるいは噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法が挙げられる。
これらの方法のうち、金属塩を用いて塩析処理する場合は、最終的に得られたゴム含有重合体(I'')中への残存金属含有量を800ppm以下にすることが好ましい。特に、マグネシウム、ナトリウム等の水との親和性の強い金属塩を塩析剤として使用する際は、その残存金属含有量を極力少なくしないと、最終的に得られたゴム含有重合体(I'')を原料としたアクリル樹脂フィルムを沸騰水中に浸漬する際、白化現象を生じ、実用上大きな問題となる。なお、カルシウム系、硫酸系凝固を行うと、比較的良好な傾向を示すが、いずれにしても優れた耐水白化性を与えるためには、残存金属量を800ppm以下にすることが重要であり、微量であるほどよい。
【0045】
《熱可塑性重合体(II)》
熱可塑性重合体(II)は、メタクリル酸アルキルエステルが50〜100質量%、アクリル酸アルキルエステルが0〜50質量%、これらと共重合可能な二重結合を有する単量体が0〜49質量%である単量体成分を重合した重合体であって、重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定)が0.15L/g以下の熱可塑性重合体であることが好ましい。
熱可塑性重合体(II)の還元粘度が0.15L/g以下であることにより、アクリル樹脂をフィルム状に加工するときの溶融時に適度な伸びが生じ、製膜性が良好となる。0.1L/g以下であることがより好ましい。また、この還元粘度の下限値については、0.05L/g以上であることが好ましい。0.05L/g以上であれば、脆さに起因するアクリル樹脂のフィルム製膜時及びフィルムへの印刷時のフィルム切れの問題が生じ難くなる。
上記メタクリル酸アルキルエステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル等が挙げられる。この中で、メタクリル酸メチルが最も好ましい。このメタクリル酸アルキルエステルは熱可塑性重合体(II)を得るための単量体成分中に、50〜100質量%の範囲となるようにすることが好ましい。より好ましくは、85〜99.9質量%の範囲であり、さらに好ましくは92〜99.9質量%の範囲である。この範囲とすることで、例えば、車輌部材等は、高温にさらされやすく、手や物の触れやすい部材であるが、アクリル樹脂を最表層に有する積層体を車輌部材に適用した場合に必要な耐熱性と高い硬度を発揮することができる。
【0046】
また、上記単量体成分に必要に応じて使用するアクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル等が挙げられる。その使用量は、単量体成分中アクリル酸アルキルエステルを0〜50質量%の範囲となるようにすることが好ましい。より好ましくは0.1〜40質量%の範囲であり、さらに好ましくは、0.1〜15質量%の範囲であり、最も好ましくは0.1〜8質量%の範囲である。この範囲とすることで、例えば、車輌部材等は、高温にさらされやすく、手や物の触れやすい部材であるが、アクリル樹脂を最表層に有する積層体を車輌部材に適用した場合に必要な耐熱性と高い硬度を発揮することができる。
さらに、上記単量体成分に必要に応じて使用する共重合可能な二重結合を有する単量体としては、例えば、スチレンやα−メチルスチレン等のスチレン類、N−フェニルマレイミドやN−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、マレイン酸、無水マレイン酸及びアクリロニトリル等である。その使用量は、単量体成分中に0〜49質量%の範囲となるようにすることが好ましい。
熱可塑性重合体(II)の重合方法は、特に限定されず、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等により行うことができる。重合体の還元粘度を所定の範囲内にするには、連鎖移動剤を使用するとよい。この連鎖移動剤としては、公知のものが使用できるが、特にメルカプタン類が好ましい。またその使用量は、単量体の種類あるいは組成などにより適宜決めればよい。
【0047】
本発明のアクリル樹脂フィルムで使用するゴム含有重合体(I)と熱可塑性重合体(II)との比率を変えることで、容易にフィルムの耐熱性や硬度を調整することができる。例えば、車輌部材等のように、高温にさらされやすく手や物の触れやすい部材に、アクリル樹脂フィルムを最表層に有する積層体に適用した時に、十分な耐熱性を発揮させることができる。
ゴム含有重合体(I)と熱可塑性重合体(II)の配合比は、ゴム含有重合体(I)及び熱可塑性重合体(II)の合計100質量部を基準として、ゴム含有重合体(I)1〜99質量部及び熱可塑性重合体(II)1〜99質量部とするのが好ましい。
ゴム含有重合体(I')を使用する場合、耐熱性及び表面硬度の観点から、ゴム含有重合体(I')及び熱可塑性重合体(II)の合計を100質量部とした時に、熱可塑性重合体(II)は60質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましい。例えば、車輌部材等は、高温にさらされやすく、手や物の触れやすい部材であるが、本発明のアクリル樹脂フィルム又は加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層体を車輌部材に適用した場合に、それに耐えうる耐熱性と高い硬度を発揮することができる。
【0048】
ゴム含有重合体(I')の含量は、ゴム含有重合体(I')及び熱可塑性重合体(II)の合計を100質量部とした時に、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。例えば、本発明のアクリル樹脂フィルム又は加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層体を車輌部材に適用した場合に、それに耐えうる耐熱性と高い硬度を発揮することができる。
また、ゴム含有重合体(I'')を使用する場合は、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、ゴム含有重合体(I'')と熱可塑性重合体(II)との合計100質量部に対して、ゴム含有重合体(I'')は50質量部以上が好ましく、65質量部以上がより好ましい。
また、熱可塑性重合体(II)は、耐成形白化性の観点から50質量部以下が好ましく、35質量部以下がより好ましい。また、耐熱性、硬度の観点から、5質量部以上が好ましく、20質量部以上が好ましい。そうすることで、本発明のアクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層体を車輌部材に適用した場合に、それに耐えうる耐熱性と高い硬度を発揮することができる上に、得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性も損なわれない積層成形品を提供することができる。
【0049】
本発明のアクリル樹脂フィルムの主原料であるゴム含有重合体(I)、熱可塑性重合体(II)、有機系架橋粒子又は無機系粒子のうち、ゴム含有重合体(I)と有機系架橋粒子及び無機系粒子の形状は粉体状である。一方で使用する熱可塑性重合体(II)に、予め溶融押出し、形状をペレット状に成形したものを用いた場合、原料を混合した後、押出機ホッパーへ投入すると、ホッパー内で、その形状の違いから分級を起こしてしまい、生産中、特に艶消し性等のフィルム品質差が極めて大きくなるという問題が発生する。
このため、熱可塑性重合体(II)の形状は、ビーズ状または粉体状であることが好ましい。つまり、本発明のアクリル樹脂フィルムの主原料として用いる、ゴム含有重合体(I)、熱可塑性重合体(II)、有機系架橋粒子又は無機系粒子の形状は、すべて粉体状あるいはビーズ状であることが好ましい。フィルム用主原料が粉体状あるいはビーズ状である場合、フィルム用原料を混合した後、押出機ホッパー内で分級を起こすことなく、特に艶消し性等のフィルム品質を安定化させることが可能となる。
【0050】
本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物のゲル含有率は、アクリル樹脂組成物をフィルム状に成形する時の製膜性の観点、および得られるアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及び積層体の耐成形白化性の観点から、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、アクリル樹脂組成物をフィルム状に成形する時の製膜性の観点から、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。
本発明で使用する有機系架橋粒子又は無機系粒子は、質量平均粒子径Dwが1μmを超えて20μm以下であり、かつ、粒子径が10×Dwμm以上の粒子を含まない。
使用する有機系架橋粒子または無機系粒子のDwが1μmを超える場合、適度な添加量において、フィルムに良好な艶消し性を付与することができるため好ましい。また、該有機系架橋粒子または無機系粒子のDwが20μm以下の場合、耐衝撃性などの物性低下が小さいため好ましい。より好ましくは15μm以下、さらに好ましくは10μm以下、最も好ましくは8μm以下である。
【0051】
また、有機系架橋粒子又は無機系粒子に、粒子径が10×Dwμm以上の粗大粒子を含まない場合、フィルム表面が凹んだ欠陥の発生が無くなり、極めて良好な表面外観を有するフィルムが得られる。特に、該表面欠陥が非常に目立つシルバーメタリック調などの高輝度印刷を施した場合でも、良好な表面外観を有する加飾フィルムを得ることが出来るため好ましい。また、フィルム製造時に鏡面ロールとゴムロールで挟持することにより得たフィルムの場合に、インモールド成形等の二次加工工程で該フィルムに熱がかかった際、凹んだ表面欠陥を発現することなく良好な表面外観を維持したまま積層成形品を得ることが出来るため好ましい。
なお、樹脂組成物をフィルム状に成形した際に確認できるフィルム表面が凹んだように見える欠陥の原因である粗大粒子の存在の有無に関しては、パーティクルカウンター、レーザー光散乱法等の従来公知の方法では検出することが困難であり、所定フィルム面積中に配合される艶消し材の質量分を走査型電子顕微鏡にて観察することによって初めて確認できる。つまり、所定フィルム面積中に配合される有機系架橋粒子または無機系粒子に粗大粒子がごく少量存在していても、レーザー光散乱法により、特定(10×Dwμm)の質量平均粒子径領域が質量換算で0%と評される場合があり、このような場合にはフィルム状に成形した際に表面が凹んだ欠陥が発生していまい、表面外観の不良な工業的利用価値の低いフィルムとなってしまう。
【0052】
有機系架橋粒子又は無機系粒子の含有量は、目的とするフィルムの表面光沢により上記範囲内において適宜調製される。例えば、その添加量が、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、1質量部以上の場合、優れた艶消し効果を発現する。さらに良好な艶消し性を得る観点から、アクリル樹脂組成物100質量部に対して、2質量部以上がより好ましく、5質量部以上が最も好ましい。他方、15質量部以下の場合、良好な製膜性が得られ、さらに、インサート成形及びインモールド成形性を可能とする良好なフィルム機械特性の観点から好ましい。より好ましくは10質量部以下である。なお、フィルムの表面光沢は、グロスメーター(ムラカミカラーリサーチラボラトリー製、GM−26D型)を用い、製膜時に鏡面ロールに接触していた面を60°の角度で測定することにより得られる。
本発明の有機系架橋粒子には、例えば、架橋スチレン系重合体、架橋アクリル系重合体等一般的に公知の有機系架橋粒子が用いられる。また、本発明の無機系粒子には、例えば、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、雲母、マイカ、タルク等一般的に公知の無機系粒子が用いられる。これらのうち、特に限定されないが、架橋アクリル系重合体(III)であることが好ましい。架橋アクリル系重合体を用いた場合、フィルムの透明性低下を抑えることが可能となり、フィルムに印刷を施した際の意匠性を損なわないため好ましい。この架橋アクリル系重合体(III)とは、架橋構造を有するアクリル系重合体のことを言う。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とした重合性単量体と同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する多官能性単量体からなる架橋メタクリル系粒子、アクリル酸アルキルエステルを主成分としたゴム状重合体のコアと、メタクリル酸アルキルエステルを主成分としたガラス状重合体のシェルからなるコアシェル構造重合体粒子等のことである。以下に、架橋メタクリル系粒子及びコアシェル構造重合体粒子について説明する。
【0053】
《架橋メタクリル系粒子》
架橋メタクリル系粒子は、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とした重合性単量体と同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する多官能性単量体からなる。架橋メタクリル系粒子に用いるメタクリル酸アルキルエステルとは、メタクリル酸メチルを主成分とするものを指すが、その他に、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基が直鎖状または分岐鎖状のメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等のアルキル基が直鎖状または分岐鎖状のアクリル酸アルキルエステル、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の共重合可能な二重結合を有する他の単量体を併用することもできる。
また、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する多官能性単量体は、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が使用できる。
架橋メタクリル系粒子を構成するメタクリル酸アルキルエステルの割合は、50〜99.5質量%が好ましく、多官能性単量体の割合は、0.5〜50質量%が好ましい。
【0054】
次に、架橋メタクリル系粒子の製造方法について説明する。
架橋メタクリル系粒子の製造方法としては、懸濁重合による重合法が好ましい。懸濁液における重合性単量体の濃度や、懸濁液の調製方法は、公知の方法を採用することができるが、本発明の架橋アクリル系粒子を得るためには、まず、分散安定剤を溶解又は懸濁させた水と、重合開始剤を含む重合性単量体とを混合し、この混合物に機械的せん断を与えることによって所望の液滴径をもつO/W型エマルションを調製し、次いで重合するのが好ましい。
懸濁液の安定化を図るために、該懸濁液に、必要に応じて、分散安定剤を添加することが好ましい。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等の水溶性高分子、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホン酸アンモニウム等のアニオン性界面活性剤、ラウリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤等公知のものを使用することができる。
【0055】
重合開始剤としては、通常懸濁重合に用いられる油溶性の過酸化物系又はアゾ系の開始剤を利用することができる。具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物系、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、通常50〜95℃である。
架橋メタクリル系粒子を懸濁液から取り出す方法としては、濾別する方法や遠心分離機等の分離機を用いる方法または噴霧乾燥が簡便であるが、特に限定されるものではない。懸濁液から取り出した後の架橋メタクリル系粒子は、必要に応じて、洗浄・乾燥させればよいが、乾燥温度や乾燥方式は特に限定されるものではない。
乾燥して得られた架橋メタクリル系粒子を分級することにより、特定の粗大粒子を取り除くことが好ましい。分級方法は特に限定されないが、その分級能力、処理量のバランスから風力分級機が好ましい。
【0056】
《コアシェル構造重合体粒子》
コアシェル構造重合体粒子は、アクリル酸アルキルエステルを主成分としたゴム状重合体のコアと、メタクリル酸アルキルエステルを主成分としたシェルからなる。
コアとなるゴム状重合体は、アクリル酸アルキルエステルを主成分として、共重合可能な二重結合を有する他の単量体、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する多官能性単量体、異なる共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有するグラフト交叉剤からなる。
上記のアクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル等のアルキル基が直鎖状又は分岐鎖状のものである。
また上記の二重結合を有する他の単量体は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル等のメタクリル酸アルキルエステル、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0057】
また上記の多官能性単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等のポリビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が使用できる。
さらに上記のグラフト交叉剤としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸又はフマル酸のアリルエステル等が使用できる。
コアとなるゴム状重合体を構成するための単量体成分における、アクリル酸アルキルエステルの含有量は、50〜99.9質量%が好ましい。共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、0〜49.9質量%、多官能性単量体は、0〜20質量%、グラフト交叉剤は0.1〜20質量%が好ましい。
【0058】
シェルとなるガラス状重合体は、メタクリル酸アルキルエステルを主成分として、共重合可能な二重結合を有する他の単量体、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する多官能性単量体からなる。
シェルとなるガラス状重合体を構成するための単量体成分に含まれる、メタクリル酸アルキルエステルは、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアルキル基が直鎖状又は分岐鎖状のものである。
また、共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸アルキルエステル、低級アルコキシアクリレート、シアノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル性単量体、スチレン、アルキル置換スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が好ましい。これら1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0059】
また、同程度の共重合性の二重結合を1分子内に2個以上有する多官能性単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物などが使用できる。
シェルとなるガラス状重合体を構成するための単量体成分における、メタクリル酸アルキルエステルの含有量は、50〜100質量%が好ましい。共重合可能な二重結合を有する他の単量体は、0〜50質量%、多官能性単量体は、0〜20質量%が好ましい。
また、コアシェル構造重合体粒子中のコアとなるゴム状重合体の含有量は、30〜95質量%が好ましい。一方、シェルとなるガラス状重合体の含有量は、5〜70質量%が好ましい。
【0060】
次に、コアシェル構造重合体粒子の製造方法について説明する。
コアシェル構造重合体粒子の製造方法としては、懸濁重合による重合法が好ましい。懸濁液における重合性単量体の濃度や、懸濁液の調製方法は、公知の方法を採用することができるが、本発明のコアシェル構造重合体粒子を得るためには、まず、分散安定剤を溶解または懸濁させた水と、重合開始剤を含むコアとなるゴム状重合体を形成する重合性単量体とを混合し、この混合物に機械的せん断を与えることによって所望の液滴径をもつO/W型エマルションを調製し、次いで重合するのが好ましい。
懸濁液の安定化を図るために、該懸濁液に、必要に応じて、分散安定剤を添加することが好ましい。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース等の水溶性高分子、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸エステルナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ラウリルアミンアセテート、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤等、公知のものを使用することができる。
【0061】
重合開始剤としては、通常懸濁重合に用いられる油溶性の過酸化物系又はアゾ系の開始剤を利用することができる。具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化オクタノイル、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物系、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。
重合温度は用いる重合開始剤の種類や量によって異なるが、好ましくは50〜95℃である。
コアとなるゴム状重合体を反応させ、得られたゴム状重合体粒子懸濁液にシェルとなるガラス状重合体となる単量体混合物を添加する。添加方法としては、前述の分散安定剤と共に懸濁液を調製し、一括もしくは所定の時間をかけて供給する方法が好ましい。
コアシェル構造重合体粒子を懸濁液から取り出す方法としては、濾別する方法や遠心分離機等の分離機を用いる方法又は噴霧乾燥が簡便であるが、特に限定されるものではない。懸濁液から取り出した後のコアシェル構造重合体粒子は、必要に応じて、洗浄・乾燥させればよいが、乾燥温度や乾燥方式は特に限定されるものではない。
乾燥して得られたコアシェル構造重合体粒子を分級することにより、特定の粗大粒子を取り除くことが好ましい。分級方法は特に限定されないが、その分級能力、処理量のバランスから風力分級機が好ましい。
【0062】
特に限定されないが、本発明のアクリル樹脂フィルムの構成成分であるアクリル樹脂組成物100質量部に対して、質量平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子を0.1〜1質量部添加することが好ましい。
アクリル樹脂組成物に対して質量平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子を0.1質量部以上添加した場合、フィルム品質を安定化させる目的でアクリル樹脂フィルム用主原料をすべて粉体状あるいはビーズ状にした場合に発生しやすい、原料粉体の固結を防止し、押出機ホッパー内での流動性を向上させ、良好な押出機への供給が実現できるため好ましい。より好ましくは0.2質量部である。また、該シリカ粒子を1質量部以下添加した場合、得られるフィルムの透明性等の光学特性及び破断伸度等の機械物性の低下程度が小さいため好ましい。より好ましくは0.8質量部、さらに好ましくは0.5質量部である。
本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物では、上述の熱可塑性重合体(II)とは別に、添加剤として重合体の還元粘度(重合体0.1gをクロロホルム100mLに溶解し、25℃で測定)0.15g/Lを越える熱可塑性重合体(IV)を使用することができる。
【0063】
《熱可塑性樹脂(IV)》
必要に応じて上記重合体に配合する熱可塑性重合体(IV)は、メタクリル酸メチルが50〜100質量%と、これと共重合可能な二重結合を有する他の単量体が0〜50質量%である単量体成分を重合した重合体であって、重合体の還元粘度が0.15L/gを超える熱可塑性重合体であることが好ましい。
熱可塑性重合体(IV)を使用すると、アクリル樹脂をフィルムに成形する時の製膜性が向上するので、特に高いレベルの厚み精度や製膜速度が必要となる場合に有用である。特に、熱可塑性重合体(IV)の還元粘度が0.15L/gを超えた範囲であることによって、厚み精度の良好なフィルムが得られる。この還元粘度は、通常0.15L/gを超えて、2L/g以下、好ましくは1.2L/g以下である。
熱可塑性重合体(IV)を得るための単量体成分に必要に応じて使用する、メタクリル酸メチルと共重合可能な二重結合を有する他の単量体としては、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、芳香族ビニル化合物、ビニルシアン化合物等が挙げられる。
熱可塑性重合体(IV)は、これらの単量体成分を重合して成るものである。その重合方法は、乳化重合法が好ましく、通常の乳化重合法および後処理方法により、重合体を粉末状で回収することができる。
熱可塑性重合体(IV)の使用量を、ゴム含有重合体(I)および熱可塑性重合体(II)の合計を100質量部とした時に、0〜10質量部であることが好ましい。該熱可塑性重合体(IV)を使用することで、アクリル樹脂をフィルム状に成形する時の製膜性が向上し、一方、10質量部以下にすることにより、アクリル樹脂の粘度を抑え、アクリル樹脂をフィルム状に成形する時の製膜性の低下を防止することができる。
【0064】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成するアクリル樹脂組成物は、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、艶消し剤、光拡散剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、着色剤、抗菌剤、防かび剤、離型剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等を含むことができる。
意匠性付与及びメタリック調の高輝度印刷を施した加飾アクリル樹脂フィルムを用いてインモールド成形を行った際に、ゲート付近で印刷層が凹んだように見える外観欠陥を軽減させる観点から、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成する樹脂組成物に光拡散剤を含有してもよい。光拡散剤を含有したアクリル樹脂フィルムは、該フィルムを130℃に加熱した鏡面SUS板に挟持し、3MPaの条件で熱プレス成形を施し、表面を鏡面化して得られたフィルムの内部ヘーズ(JIS K7136;「プラスチック−透明材料のヘーズの求め方」に基づく測定)が2〜75%の範囲であり、かつ、白色度(JIS L1015;「化学繊維ステープル試験方法」記載の白色度測定法C法(ハンター法)に基づく測定)が30%以下であることが好ましい。
使用する光拡散剤としては、有機系・無機系に関わらず従来公知の各種光拡散剤が挙げられる。光拡散剤は単独で、または二種以上を混合して使用することができる。使用する光拡散剤としては、積層体の加飾部を白濁化させ過ぎない、およびアクリル樹脂フィルムの製膜性の観点等から、2〜30μm程度のものが好ましく、例えば、シリコーン樹脂、スチレン樹脂、スチレン−アクリル樹脂、アクリル樹脂、ベンゾグアナミン−ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン−メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、シリカ等が挙げられる。
【0065】
基材を保護する観点から、耐候性を付与するために本発明のアクリル樹脂フィルムを構成する樹脂組成物に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。この紫外線吸収剤の分子量は、300以上が好ましく、400以上がより好ましい。この分子量が300以上であれば、射出成形金型内で真空成形または圧空成形を施す際に揮発し難く、金型汚れを発生し難い。紫外線吸収剤の種類は、特に限定されないが、分子量400以上のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、分子量400以上のトリアジン系紫外線吸収剤が特に好ましい。前者の市販品としては、例えば、チヌビン234(商品名:チバスペシャリティケミカルズ社製)、アデカスタブLA−31(商品名:旭電化工業(株)製)、後者の市販品としては、例えば、チヌビン1577(商品名:チバスペシャリティケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0066】
本発明のアクリル樹脂フィルムの製造法としては、溶融流延法や、Tダイ法、インフレーション法などの溶融押出法、カレンダー法等の公知の方法が挙げられるが、経済性の点からTダイ法が好ましい。
本発明のアクリル樹脂フィルム用原料である樹脂組成物をTダイ法等の溶融押出法によりフィルム形状に成形した後、鏡面ロールとゴムロールとで挟持して製膜する方法が好ましい。鏡面ロールとゴムロールとで挟持することにより、印刷抜けの原因となる異物による表面突起を著しく減らすことができ、得られたフィルムに印刷を施した際、その印刷抜けを著しく低減することができる。ゴムロールとしては、従来より知られる各種のものを用いることができる。耐熱性の観点から、ゴムロールの材質はシリコーンゴムが好ましい。
【0067】
特に、研磨等により表面を鏡面仕上げにしたシリコーンゴムロール(以下、単に「シリコーン鏡面ゴムロール」ともいう)でアクリル樹脂フィルムを挟持することが好ましい。具体的には、例えば、IT68Sシリコーンミラーロール(硬度=A87、表面粗さRMAX=2μm、持田商工社製)等である。本発明のアクリル樹脂フィルムの場合、片方の面を鏡面ロール、他方の面をシリコーン鏡面ゴムロールで挟持することで、シリコーンゴムロール接触面を平滑面に、鏡面ロール接触面を艶消し面とすることができ、特に、本発明のフィルムのような、フィルム表面の最大高さが5μm以下の微細な凹凸形状を有するフィルム原料本来の表面粗度、即ち艶消し程度を保持しつつ製造することが可能となる。既に公知の例として、特開2002−361712に記載されているような、砂入りのシリコーンゴムロール(具体的には、平均粒度が40μmの砂を50質量%添加したシリコーン製ゴムロール)を使用した場合、製造された後のフィルムの表面粗度は、フィルム原料本来の表面粗度よりも、砂入りシリコーンゴムロールの表面粗度の影響を強く受けてしまう。このため、フィルム表面の微細な凹凸形状を特徴とする本発明のフィルムを製造する場合には、公知の砂入りシリコーンゴムロールの使用は適していない。
【0068】
また、カレンダー法において、最後にフィルムが挟まれる2本の鏡面ロールの片側をゴムロールに換えて製膜することもできる。あるいは、公知の方法により一旦フィルム形状に成形した後、再びアクリル樹脂フィルムをガラス転移温度以上に加熱し、鏡面ロールとゴムロールで挟み込んで製造することもできる。
鏡面ロールとしては、公知の鏡面ロールにうちでクロムメッキ加工を施した表面粗度が0.5S以下のロールが好ましい。フィルム製造の際、20〜140℃の範囲内で鏡面ロールを温調することが好ましい。その温度範囲は、50〜120℃が好ましく、60〜100℃がより好ましい。鏡面ロールがこの温度範囲の場合、アクリル樹脂フィルムの鏡面ロールからの剥離性が良好である等の製膜性を維持しつつ、鏡面ロール接触面を艶消し面、シリコーンゴムロール接触面を平滑面とする良外観なフィルムが得られる。
また、樹脂組成物を溶融押出する場合には、80メッシュ以上のスクリーンメッシュで溶融状態にある樹脂組成物をろ過しながら押出することが好ましい。
【0069】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、鉛筆硬度(JIS K5400に基づく測定)が2B以上(2Bを含めて、より高硬度)であることが好ましい。さらにHB以上が好ましく、最も好ましくはF以上である。鉛筆硬度が2B以上のアクリル樹脂フィルムを用いると、インサート成形またはインモールド成形を施す工程中で、アクリル樹脂フィルム及び加飾アクリル樹脂フィルムに傷がつきにくく、さらにこれらを積層した積層成形品の耐擦傷性も良好である。
例えば車輌用途に使用される場合、本発明のアクリル樹脂フィルムの鉛筆硬度はHB以上であることが好ましい。鉛筆硬度はHB以上のアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム、およびこれらを積層した積層成形品は、ドアウエストガーニッシュ、フロントコントロールパネル、パワーウィンドウスイッチパネル、エアバッグカバーなど、各種車輌用部材に好適に使用することができる。用途拡大の観点から工業上非常に有用である。さらに、鉛筆硬度がF以上であると、ガーゼなど表面の粗い布で擦傷しても傷が目立たなく、鉛筆硬度が2Hのアクリル樹脂フィルムを用いた成形品と同等の実用上の耐擦傷性能を付与することができるため、工業的利用価値は極めて高くなる。
【0070】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、熱変形温度(ASTM D648に基づく測定)が80℃以上であることが好ましい。熱変形温度が80℃以上のアクリル樹脂フィルムの場合、該フィルムを製膜する際にフィルム用樹脂組成物の溶融粘度が適度に高くなり、鏡面ロールからの剥離性が良好となり、鏡面ロールに巻きつく等の問題を防止できる。また、例えば車輌用途において、本発明のアクリル樹脂フィルム、加飾アクリル樹脂フィルム及びこれらを含む積層成形品は、フロントコントロールパネルなど、車内で直射日光を受ける部分にも使用することができる。用途がさらに拡大するという観点から、熱変形温度が90℃以上であることが好ましい。また、本発明のアクリル樹脂フィルムの熱変形温度が130℃以下であることが好ましい。熱変形温度が130℃以下のアクリル樹脂フィルムの場合、該フィルムを製膜する際にゴムロールへの追従性が良好となり、ゴムロールに接するフィルム面に良好な平滑性を発現し、印刷抜けが軽減する。なお、上記熱変形温度の測定は、アクリル樹脂フィルムの原料ペレットを射出成形にて成形後、60℃で4時間アニールした熱変形温度測定試片により行うものであり、測定される熱変形温度は、通常、アクリル樹脂フィルムの熱変形温度と同じとされる。
【0071】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、各種基材に意匠性を付与するために、必要に応じて適当な印刷法により印刷を施して使用することが特に有用である。この場合、アクリル樹脂フィルムに片側印刷処理を施して、片面に絵柄層を有するフィルムとして用いることが好ましい。本発明のアクリル樹脂フィルムの場合、フィルム本来の表面の微細な凹凸形状を保持しつつ製造することが好ましく、その製造法としては、Tダイから溶融押出された樹脂組成物を鏡面ロールと研磨等により表面を鏡面仕上げにしたゴムロールとで挟持することが好ましい。この際、得られるアクリル樹脂フィルムのうち、ゴムロール接触面が平滑面となる。このため、アクリル樹脂フィルム製造時にゴムロールに接触していた面に絵柄層を配することが好ましい。また、成形時には、印刷面を基材樹脂との接着面に配することが、加飾面(印刷面)の保護や高級感の付与の観点から、好ましい。印刷法としては、従来公知の印刷法、コート法によりインクを塗布する方法が挙げられる。具体的には、グラビア印刷法、フレキソグラフ印刷法、シルクスクリーン印刷法、オフセット印刷法、ロールコート法、グラビアコート法、コンマコート法などである。
【0072】
印刷層で使用するインキとしては、アクリル系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂など公知の熱可塑性樹脂をバインダーとして用いることができる。また、本発明のゴム含有重合体(I)及び/又は熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物を熱可塑性樹脂バインダーとして用いることもできる。特に、本発明のゴム含有重合体(I'')及び熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物を熱可塑性樹脂バインダーとして用いると、後述するインモールド成形時にゲート付近で印刷層の消失を抑制する印刷層を付与することができるため好ましい。
メタリック調印刷の場合、インキ中には高輝度顔料を必須成分として含む。例えば、ノンリーフィングアルミニウムペースト(昭和アルミパウダー社製)等のアルミ顔料、イリオジン(メルク社製)等のパール顔料など公知の高輝度顔料を用いる。また、適当な色の顔料又は染料を着色剤として含有することができる。
また、印刷法、コート法以外の方法として、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等の公知の方法でメタリック調の印刷層を形成することができる。公知の金属を印刷層として用いることができるが、展性に優れたアルミニウム、インジウム、あるいはこれらを含有する合金を用いることがインモールド成形性の観点から好ましい。
【0073】
アクリル樹脂フィルムに印刷を施した面における印刷抜けの個数は、意匠性、加飾性の観点から、10個/m以下が好ましい。印刷抜けの個数を10個/m以下とすることにより、このフィルムの積層成形品の外観がより良好となる。印刷を施した面における印刷抜けの個数は、5個/m以下がより好ましい。
印刷抜けの個数が10個/m以下の場合、印刷抜けが明らかな欠陥として分かるメタリック調の印刷柄の場合でも、意匠性、表面外観が低下することがない、さらに、製造時の歩留まりが低下することないため好ましく、工業的利用価値は極めて高い。
また、本発明のアクリル樹脂フィルムに着色加工したものを用いることができる。
さらに、印刷層以外に、基材となる樹脂との接着性を高めるために、接着層を設けることが好ましい。接着層は印刷層の上に設けても良く、印刷層とは反対側のフィルム表面に設けても良い。印刷層を持たないアクリル樹脂フィルムの表面に接着層を設けることも可能である。
【0074】
本発明のアクリル樹脂フィルムの厚みは、10〜500μmが好ましい。アクリル樹脂フィルムの厚みを500μm以下とすることにより、インサート成形及びインモールド成形に適した剛性が得られ、より安定にフィルムを製造することができる。また、アクリル樹脂フィルムの厚みを10μm以上とすることにより、基材の保護性とともに、得られる成形品に深み感をより十分に付与することができる。アクリル樹脂フィルムの厚みは、30μm以上がより好ましい。また、アクリル樹脂フィルムの厚みは、200μm以下がより好ましい。
成形品に塗装によって十分な厚みの塗膜を形成するためには、十数回の重ね塗りが必要になることがあり、この場合、コストがかかり、生産性があまりよくない。それに対して、本発明の積層成形品は、アクリル樹脂フィルム自体が塗膜となるため、容易に非常に厚い塗膜を形成することができ、工業的利用価値が高い。
【0075】
本発明の積層成形品は、本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層したことを特徴とするものである。特に、前記アクリル樹脂フィルムを射出成形金型内で真空成形または圧空成形を施し、その後、該射出成形金型内で前記基材となる樹脂を射出成形して一体化するインモールド成形法により得られる積層成形品とすることが好ましい。また、真空成形または圧空成形などの予備成形を施し、予備成形品を別の金型内に挿入した後、基材である樹脂を射出成形して積層成形品を得るインサート成形法により得られる積層成形品とすることもできる。このインサート成形法の場合、本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを熱可塑性樹脂層上に積層した積層シートまたはフィルムを用いることが好ましい。積層シートまたはフィルムに用いる熱可塑性樹脂層としては、公知の熱可塑性樹脂フィルムまたはシートを用いることができる。例えば、アクリル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。中でも、印刷性、積層フィルム又はシートの二次成形性の観点から、アクリル樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂が好ましい。加飾アクリル樹脂フィルムを熱可塑性樹脂層上に積層した積層シートまたはフィルムにおける印刷層の位置は特に限定されないが、積層成形品に所望する絵柄の意匠性を付与する観点から、熱可塑性樹脂層とアクリル樹脂層の間に配することが好ましい。これにより、加飾層を保護でき、かつ、深みのある意匠性を実現することができる。
さらに、基材となる樹脂との接着性を高めるために、接着層を設けることが好ましい。接着層は熱可塑性樹脂層の上に設けても良く、熱可塑性樹脂層とは反対側のフィルム表面に設けても良い。
【0076】
本発明の積層成形品における基材となる樹脂は、アクリル樹脂フィルム又は加飾アクリル樹脂フィルムと溶融接着可能なものであることが好ましい。例えば、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が挙げられる。接着性の点でABS樹脂、AS樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、あるいはこれらを主成分とする樹脂が好ましく、特にABS樹脂、ポリカーボネート樹脂あるいはこれらを主成分とする樹脂がより好ましい。ただし、ポリオレフィン樹脂等の熱融着しない基材樹脂でも接着性の層を用いることでアクリル樹脂フィルム又は加飾アクリル樹脂フィルムと基材とを成形時に接着させることは可能である。
本発明の積層成形品は、二次元形状に成形する場合、熱融着できる基材に対しては、熱ラミネーション等の公知の方法を用いることができる。熱融着しない基材に対しては、接着剤を介して貼り合せることは可能である。また、三次元形状に成形する場合は、インサート成形法やインモールド成形法等の公知の方法を用いることができ、生産性の点からインモールド成形法が好ましい。インモールド成形法は、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを加熱した後、真空引き機能を持つ型内で真空成形を行う。この方法は、フィルムの成形と射出成形を一工程で行えるため、作業性、経済性の点から好ましい。
なお、印刷層を有するアクリル樹脂フィルムを用いてインモールド成形を行った場合、金型の形状、射出成形の条件によっては、ゲート付近の印刷層が消失することがある。ゲートには、ゲート部で樹脂経路が狭められない非制限ゲートと、樹脂経路が狭められる制限ゲートとに大別される。後者の代表例として、ピンポイントゲート、サイドゲート、サブマリンゲート等がある。これらのゲート形状は、ゲート付近の残留応力は小さくなるものの、ゲート通過樹脂の温度上昇を伴ったり、ゲート付近のアクリル樹脂フィルム面にかかる単位面積当たりの射出樹脂圧力が大きくなったりするために、アクリル樹脂フィルム面の印刷層が消失しやすい傾向にある。
【0077】
本発明のアクリル樹脂フィルムのうち、特に、ゴム含有重合体(I'')と熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物を構成成分とするアクリル樹脂フィルムを用いることにより、従来のアクリル樹脂フィルムを用いた場合と比較して、絵柄の消失を軽減することができる。なお、積層シートまたはフィルムを用いてインサート成形を行うことは、熱可塑性樹脂層が存在することにより、熱量の伝達を抑制し、印刷層の消失をより軽減することができる点から、好ましい。
インモールド成形時の加熱温度は、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムが軟化する温度以上が望ましい。具体的にはフィルムの熱的性質あるいは成形品の形状に左右されるが、通常70℃以上である。また、あまり温度が高いと、表面外観が悪化したり、離型性が悪くなったりする傾向にある。これもフィルムの熱的性質あるいは成形品の形状に左右されるが、通常は170℃以下が好ましい。
さらに、エネルギー効率の観点からは、真空成形時の予備加熱温度は低い方が好ましい。具体的には135℃以下が好ましい。また、予備加熱温度が低くても成形ができるフィルムは、予備加熱温度を低くする代わりに予備加熱時間を短くすることもできる。この場合は、真空成形のハイサイクル化が可能となり、工業的利用価値が高い。
【0078】
インモールド成形を行う際の発生する印刷層が消失する問題を成形条件から抑制する方法として、真空成形時の予備加熱温度を高くすることがある。これは、熱架橋反応性成分を有する印刷層を用い、熱を通常成形時より多く加えることで、印刷層をアクリル樹脂フィルムに強固に固定化したのち成形することを目的としている。この方法は、当然のことながら成形のサイクルを低下させるものである。本発明のアクリル樹脂フィルムのうち、特に、ゴム含有重合体(I'')と熱可塑性重合体(II)からなるアクリル樹脂組成物を構成成分とするアクリル樹脂フィルムを用いると、このような方法を採用せずに、良好な外観を有する積層成形品を得ることができるため、成形のハイサイクル化を可能とし、工業的利用価値は非常に高い。
このように、真空成形によりフィルムに三次元形状を付与する場合、アクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムは高温時の伸度に富んでおり、非常に有利である。
本発明のアクリル樹脂フィルムまたは加飾アクリル樹脂フィルムを基材上に積層した積層成形品は、必要に応じて各種機能付与のための表面処理をフィルム表面に施すことができる。例えば、シルク印刷、インクジェット印刷等の印刷処理、金属調付与あるいは反射防止のための金属蒸着・スパッタリング・湿式メッキ処理、表面硬度向上のための表面硬化処理、汚れ防止のための撥水化処理あるいは光触媒層形成処理、塵付着防止あるいは電磁波カットを目的とした帯電防止処理、防眩処理等が挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。また、実施例中の略号は以下の通りである。
メチルメタクリレート MMA
メチルアクリレート MA
エチルアクリレート EA
n−ブチルアクリレート n−BA
スチレン St
エチレングリコールジメタクリレート ED
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート 1,3−BD
アリルメタクリレート AMA
クメンハイドロパーオキサイド CHP
ラウロイルパーオキサイド LPO
t−ブチルハイドロパーオキサイド t−BH
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル AIBN
n−オクチルメルカプタン n−OM
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム EDTA
【0080】
ゴム含有重合体(I)[(I')および(I'')]、熱可塑性重合体(II)、熱可塑性重合体(IV)、架橋アクリル系重合体(III)[(III−1)〜(III−4)]、アクリル樹脂フィルム及び積層成形品については、以下の試験法により諸物性を測定した。
1)ゴム含有重合体(I)の各重合体層のガラス転移温度
ポリマーハンドブック〔Polymer HandBook(J.Brandrup,Interscience,1989)〕に記載されている値を用い、FOXの式から算出した。
2)ゴム含有重合体(I)のゲル含有率G(%)
ゴム含有重合体(I)の所定量(抽出前質量:W(g))をアセトン溶媒中還流下で抽出処理し、遠心分離によりアセトン可溶分を除去し、残ったアセトン不溶分を乾燥した後、質量(抽出後質量:W(g))を測定し、下記式にて算出した。
ゲル含有率G=抽出後質量W/抽出前質量W×100
3)ゴム含有重合体(I)の質量平均粒子径
乳化重合にて得られたゴム含有重合体(I)のポリマーラテックスの質量平均粒子径を光散乱光度計(大塚電子(株)製、DLS−700(商品名))を用い、動的光散乱法で測定した。
【0081】
4)架橋アクリル系重合体(III)[(III−1)〜(III−4)]の質量平均粒子径
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製、LA−910)を用いて測定した。
5)熱可塑性重合体(II)および熱可塑性重合体(IV)の還元粘度
サン電子工業製AVL−2C(商品名)自動粘度計を使用して、溶媒にはクロロホルムを用い、25℃で測定した。還元粘度の測定ではクロロホルム100mLにサンプル0.1gを溶かしたものを使用した。
6)フィルムの表面光沢
グロスメーター(ムラカミカラーリサーチラボラトリー製、GM−26D型)を用い、製膜時に鏡面ロールに接触していた面を60°の角度で測定した。
7)フィルムの全光線透過率
得られたフィルムをJIS K7361−1の試験方法に従って測定した。
【0082】
8)フィルムのHDT
樹脂組成物のペレットを、射出成形にてASTM D648に基づく熱変形温度測定試片に成形し、60℃で4時間アニールした。そして、この試験片を使用し、低荷重(0.45MPa)で、ASTM D648に従って測定した。
9)フィルムの鉛筆硬度
JIS K5400に従って測定した。
10)印刷抜け個数
アクリル樹脂フィルムのゴムロールに接していた側の面に、絵柄をグラビア印刷し、5mの目視検査を行い、印刷抜け個数を計測して1m当たりに換算した。
11)積層成形品の表面外観
インモールド成形品の表面外観を以下のように評価した。
○:凹んだ表面欠陥がない。
×:凹んだ表面欠陥が存在し、工業的利用価値が低い。
【0083】
<1.ゴム含有重合体(I')の製造>
窒素雰囲気下、還流冷却器付き反応容器内に脱イオン水244部を入れ、80℃に昇温した。そして、以下に示す(イ)を添加し、撹拌しながら、以下に示す重合体(I'−A)用の原料(ロ)の1/15を仕込み、15分間保持した。次いで、残りの原料(ロ)を、水に対する単量体混合物[原料(ロ)]の増加率8%/時間で、連続的に添加した後、60分間保持し、重合体(I'−A)のラテックスを得た。
なお、重合体(I'−A)単独のTgは24℃であった。
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、以下に示す重合体(I'−A)用の原料(ハ)を、水に対する単量体混合物[原料(ハ)]の増加率4%/時間で、連続的に添加した後、120分間保持し、重合体(I'−A)の重合を行って、最内層重合体(I'−A)[(I'−A)+(I'−A)]のラテックスを得た。
なお、重合体(I'−A)単独のTgは−38℃であった。
続いて、このラテックスにソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部を加え、15分間保持した。そして、窒素雰囲気下、80℃で撹拌しながら、以下に示す最外層重合体(I'−C)用の原料(ニ)を、水に対する単量体混合物[原料(ニ)]の増加率10%/時間で、連続的に添加した後、60分間保持し、最外層重合体(I'−C)の重合を行って、ゴム含有重合体(I')の重合体ラテックスを得た。
なお、最外層重合体(I'−C)単独のTgは99℃であった。
得られたゴム含有重合体(I')の重量平均粒子径は0.28μmであった。
得られたゴム含有重合体(I')の重合体ラテックスに対し、酢酸カルシウムを用いて凝析、凝集、固化反応を行い、ろ過、水洗後、乾燥してゴム含有重合体(I')を得た。ゴム含有重合体(I')のゲル含有率は90%であった。
【0084】
(イ)ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.6部、
硫酸第一鉄 0.00012部、
EDTA 0.0003部。
(ロ)MMA 22.0部、
n−BA 15.0部、
St 3.0部、
AMA 0.4部、
1,3−BD 0.14部、
t−BH 0.18部、
モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%と
ジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%との
水酸化ナトリウムの混合物の部分中和物 1.0部。
(ハ)n−BA 50.0部、
St 10.0部、
AMA 0.4部、
1,3−BD 0.14部、
t−BH 0.2部、
モノ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸40%と
ジ(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル)リン酸60%との
水酸化ナトリウムの混合物の部分中和物 1.0部。
(ニ)MMA 57.0部、
MA 3.0部、
n−OM 0.3部、
t−BH 0.06部。
【0085】
<2.ゴム含有重合体(I'')の製造>
攪拌機を備えた容器に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部およびCHP0.025部からなる単量体混合物を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業社製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温した。さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部およびEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を該重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって該重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、重合体(I''−A)の重合を完結した。
続いて、MMA9.6部、n−BA14.4部、1,3−BD1.0部およびAMA0.25部からなる単量体混合物を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、重合体(I''−A)の重合を完結させ、最内層重合体(I−A)を得た。
なお、重合体(I''−A)単独のTgは−48℃、重合体(I''−A)単独のTgは−10℃であった。
【0086】
続いて、MMA6部、MA4部およびAMA0.075部からなる単量体混合物を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、中間層重合体(I''−B)を形成させた。
なお、中間層重合体(I''−B)単独のTgは60℃であった。
続いて、MMA57部、MA3部、n−OM0.264部およびt−BH0.075部からなる単量体混合物を140分間にわたって該重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、最外層重合体(I''−C)を形成して、ゴム含有重合体(I'')の重合体ラテックスを得た。
なお、最外層重合体(I''−C)単独のTgは99℃であった。
重合後に測定したゴム含有重合体(I'')の重量平均粒子径は0.11μmであった。
得られたゴム含有重合体(I'')の重合体ラテックスを、濾材にSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用い、濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(I'')を得た。
ゴム含有重合体(I'')のゲル含有率は、70%であった。
【0087】
また、得られたゴム含有重合体(I'')214.3gを目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mLに投入し、3時間攪拌して、ゴム含有重合体(I'')のアセトン分散液を調製した。次いで、この分散液を目開き32μmのナイロンメッシュで濾過した後、ナイロンメッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の捕捉物をクロロホルム洗浄した。次いで、目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン150mLに上記超音波洗浄後の捕捉物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理した後、ナイロンメッシュを除去して、メッシュ上の捕捉物のアセトン分散液150mLを調製した。次いで、この分散液70mLをリオン株式会社製、自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めたところ、10個であった。
【0088】
<3.架橋アクリル系重合体(III−1〜III−3;架橋メタクリル系粒子)の製造>
攪拌機を備えた容器に、分散安定剤としてポリオキシエチレンアルキルスルホアンモニウム(第一工業製薬社製:商品名「ハイテノールN08」)0.5部を溶解させた脱イオン水600部を仕込み、そこに予め調製しておいた、MMA90部、トリメチロールプロパントリメタクリレート10部、LPO1.0部、及び3,4−ジニトロ安息香酸1部からなる単量体混合物を添加した。その後、この混合液をT.Kホモミキサー(特殊機化工業社製)にて所定の液滴径の均一な懸濁液となるように調製した。次に、75℃に昇温し、窒素雰囲気下で1時間撹拌しながら重合反応させた。さらに、90℃に昇温し、窒素雰囲気下で4時間撹拌しながら反応を終了させた。懸濁液を冷却、濾別、乾燥して重合体粒子を得た。得られた重合体粒子を風力分級機(日清エンジニアリング社製;商品名「TC−15N」)にて分級し、10×{得られた重合体粒子の質量平均粒子径(Dw)}μm以上の粗大粒子を取り除いて架橋PMMA粒子を得た。なお、架橋PMMA1.78g(125μmフィルム0.125m当りの樹脂量が17.8gであり、該架橋PMMAを10質量%添加することを想定したときの質量)について、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製;商品名「S570」)を用いて観察し、10×Dwμm以上の粗大粒子が存在しないことを確認した。
【0089】
<4.架橋アクリル系重合体(III−4;コアシェル構造重合体粒子)の製造>
攪拌機を備えた容器に、分散安定剤として5%ポリビニルアルコール水溶液30部を溶解させた脱イオン水200部を仕込み、そこに予め調製しておいた、コアとなるゴム状重合体用原料(ホ)を添加した。その後、この混合液をT.Kホモミキサー(特殊機化工業社製)にて約7μmの液滴径の均一な懸濁液を調製した。次に、70℃に昇温し、窒素雰囲気下で2時間撹拌しながら重合反応しゴム状重合体粒子懸濁液を得た。次に、このゴム状重合体粒子懸濁液を60℃に冷却し、シェルとなるガラス状重合体用原料(ヘ)を、水に対する単量体混合物[原料(へ)]の増加率10%/時間で、連続的に添加した後、重合が始まり発熱ピークが観測された時点で80℃に昇温し、3時間撹拌しながら反応を終了させた。懸濁液を冷却、濾別、乾燥して重合体粒子を得た。得られたコアシェル構造重合体の質量平均粒子径Dwは8μmであった。得られた重合体粒子を風力分級機(日清エンジニアリング社製;商品名「TC−15N」)にて分級し、10×Dw(=80)μm以上の粗大粒子を取り除いてコアシェル構造重合体粒子を得た。なお、コアシェル構造重合体1.78g(125μmフィルム0.125m当りの樹脂量が17.8gであり、該コアシェル構造重合体を10質量%添加することを想定したときの質量)について、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製;商品名「S570」)を用いて観察し、10×Dw(=80)μm以上の粗大粒子が存在しないことを確認した。
【0090】
(ホ)n−BA 61部
AMA 1部
1,3−BD 1部
LPO 1部
(ヘ)MMA 34部
EA 2部
ED 1部
AIBN 0.4部
1%ジオクチルスルホコハク酸エステルナトリウム水溶液 10部
脱イオン水 10部
【0091】
<5.熱可塑性重合体(IV)の製造>
反応容器に窒素置換したイオン交換水200部を仕込み、乳化剤としてラテムルASK(商品名;花王社製)1部、過硫酸カリウム0.15部を仕込んだ。続いて、MMA40部、n−BA2部、n−OM0.004部を仕込み、窒素雰囲気下65℃にて3時間撹拌し重合を完結させた。引き続いて、MMA44部、n−BA14部からなる単量体混合物を2時間にわたり滴下し、その後、2時間保持し重合を完結した。得られたラテックスを0.25%硫酸水溶液に添加し、重合体を酸析後、脱水、水洗、乾燥し粉体状で重合体を回収した。得られた共重合体の還元粘度0.38L/gであった。
【0092】
[実施例1]
上記で得たゴム含有重合体(I')23部、熱可塑性重合体(II)(MMA/MA共重合体、MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度0.06L/g、ビーズ形状)67部、架橋アクリル系重合体(III−1)(質量平均粒子径Dw=2μm)10部、配合剤としてチヌビン234(商品名:チバスペシャリティケミカルズ社製)1.4部、アデカスタブAO−60(商品名:旭電化工業社製)0.1部、LA−67(旭電化工業社製)0.3部、JP333E(商品名:城北化学工業社製)0.3部、アエロジルR972(商品名:日本アエロジル社製)0.3部、熱可塑性重合体(IV)6部をヘンシェルミキサーにて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)社製;商品名「PCM−30」)に供給し、混練してペレットを得た。なお、得られたペレットのHDTは90℃であった。
このペレットを80℃で一昼夜乾燥し、300mm巾のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いて、シリンダー温度180〜240℃、Tダイ温度240℃の条件で、100メッシュの金属フィルター、Tダイを介して溶融押出を行った。押出した樹脂は、75℃に温調した冷却用の鏡面ロール(クロムメッキ加工した表面粗度が0.2Sのロール)と、シリコーン鏡面ゴムロールとで挟み込み、125μm厚みのアクリル樹脂フィルムを製膜した。なお、フィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0093】
得られたアクリル樹脂フィルムのシリコーンゴムロール接触面側に、アクリル系樹脂をMEKとトルエン(=1/1 vol/vol)に固形分25%で溶解したグラビアインキ10部に対し、鱗片状のアルミ顔料を2部含有するインキを用いて、シルバーメタリック調の印刷をグラビア印刷にて実施した。なお、印刷層の厚みは5μmであった。印刷抜けは発生しなかった。
次に、基材樹脂に耐熱性ABS樹脂バルクサムTM25B(商品名:UMGABS社製)、および印刷を施したアクリル樹脂フィルムを用いて、真空引き機能を有し、金型(成形品形状:縦150mm×横120mm×厚み2mm、深さ10mmの箱型、ゲート位置:成形品中央に1箇所と、中央ゲートの上下(成形品縦方向)40mmの位置に各1箇所の計3箇所、ゲート形状:直径1mmのピンポイントゲート)を用いて、J85ELII型射出成形機(商品名;日本製鋼所社製)及びホットパックシステム(日本写真印刷社製)を組み合わせたインモールド成形装置により、インモールド成形(フィルム真空成形条件:ヒーター温度260℃、加熱時間15秒、ヒーターとフィルムの距離15mm、射出成形条件:シリンダー〜ノズル温度250℃、射出速度30%、射出圧力43%、金型温度60℃、非加飾面が金型と接する向きに真空成形し、加飾面側から基材樹脂を射出した)を行って積層成形品を得た。
【0094】
[実施例2]
ゴム含有重合体(I')と熱可塑性重合体(II)と架橋アクリル系重合体(III−1)(質量平均粒子径Dw=2μm)の配合比率を、23/70/7(部/部/部)とする以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは91℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
[実施例3]
ゴム含有重合体(I)と熱可塑性重合体(II)と架橋アクリル系重合体(III−1)(質量平均粒子径Dw=2μm)の配合比率を、23/72/5(部/部/部)とする以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは91℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
[実施例4〜6]
実施例1〜3において、架橋アクリル系重合体(III−1)(質量平均粒子径Dw=2μm)の代わりに、架橋アクリル系重合体(III−2)(質量平均粒子径Dw=4μm)を用いる以外は、それぞれ実施例1〜3と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは、それぞれ90℃(実施例4)、91℃(実施例5及び6)であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度は、いずれもHであった。
【0095】
[実施例7〜9]
実施例1〜3において、架橋アクリル系重合体(III−1)(質量平均粒子径Dw=2μm)の代わりに、架橋アクリル系重合体(III−3)(質量平均粒子径Dw=6μm)を用いる以外は、それぞれ実施例1〜3と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは、それぞれ90℃(実施例4)、91℃(実施例5及び6)であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度は、いずれもHであった。
[実施例10]
実施例1において、架橋アクリル系重合体(III−1)の代わりに、架橋アクリル系重合体(III−4)を用いる以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは90℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0096】
[実施例11]
実施例1において、架橋アクリル系重合体(III−1)の代わりに、質量平均粒子径Dw=5μmのミクロマイカ「MK−100」(商品名:コープケミカル社製)を風力分級機(日清エンジニアリング社製:商品名「TC−15N」)にて分級し、10×Dw(=50)μm以上の粗大粒子を取り除いたものを用いる以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは90℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
なお、ミクロマイカ1.78g(125μmフィルム0.125m当りの樹脂量が17.8gであり、該ミクロマイカを10質量%添加することを想定したときの質量)について、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製;商品名「S570」)を用いて観察し、10×Dw(=50)μm以上の粗大粒子が存在しないことを確認した。
【0097】
[実施例12]
ゴム含有重合体(I'')65部、熱可塑性重合体(II)(MMA/MA共重合体、MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度0.06L/g、ビーズ形状)25部、架橋アクリル系重合体(III−1)(質量平均粒子径Dw=2μm)10部、配合剤としてチヌビン234(商品名:チバスペシャリティケミカルズ社製)1.4部、アデカスタブAO−60(商品名:旭電化工業社製)0.1部、LA−67(商品名:旭電化工業社製)0.3部、JP333E(商品名:城北化学工業社製)0.3部、アエロジルR972(商品名:日本アエロジル社製)0.3部、熱可塑性重合体(IV)3部をヘンシェルミキサーにて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)社製;商品名「PCM−30」)に供給し、混練してペレットを得た。この樹脂組成物のペレットを用いる以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは88℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0098】
[実施例13]
ゴム含有重合体(I'')と熱可塑性重合体(II)と架橋アクリル系重合体(III−1)(質量平均粒子径Dw=2μm)の配合比率を、65/28/7(部/部/部)とする以外は実施例12と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは89℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
[実施例14]
ゴム含有重合体(I'')と熱可塑性重合体(II)と架橋アクリル系重合体(III−1)(質量平均粒子径Dw=2μm)の配合比率を、65/30/5(部/部/部)とする以外は実施例12と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは89℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
【0099】
[実施例15]
実施例1において、フィルム製膜時に鏡面ロールとシリコーンゴムロールとで挟持せずに製膜する以外は実施例1と同様に実施したところ、有機系架橋粒子または無機系粒子の粗大粒子に起因する表面の凹んだ欠陥は発生しなかったものの、その他の異物による表面突起が存在し、この表面突起に起因して印刷抜けが多発し、フィルムに良好な加飾を施すことが出来なかった。
[実施例16]
実施例1において、日本アエロジル社製;商品名「アエロジルR972」を添加しない以外は実施例1と同様に実施したところ、混合した原料が脱気式押出機ホッパー内で時々ブロッキングを起こし、安定して生産することが出来なかった。
【0100】
[比較例1]
架橋アクリル系重合体(III)として、積水化成品工業社製;商品名「MBX−8」(架橋PMMA、質量平均粒子径Dw=8μm)を用いる以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは90℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
なお、1.78g(125μmフィルム0.125m当りの樹脂量が17.8gであり、該架橋アクリル系重合体を10質量%添加することを想定したときの質量)について、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製;商品名「S570」)を用いて観察したところ、10×Dw(=80)μm以上の粗大粒子が存在した。
[比較例2]
架橋アクリル系重合体(III)として、綜研化学社製;商品名「MR−2G」(架橋PMMA、質量平均粒子径Dw=1μm)を用い、ゴム含有重合体(I')、熱可塑性重合体(II)、該架橋アクリル系重合体(III)とを表1に示す配合比で用いた樹脂組成物を用いる以外は比較例1と同様に実施した。
フィルム製造時に、フィルム破断を頻繁に起こし、製膜性不良であった。
なお、1.78g(125μmフィルム0.125m当りの樹脂量が17.8gであり、該架橋アクリル系重合体を10質量%添加することを想定したときの質量)について、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製;商品名「S570」)を用いて観察したところ、10×Dw(=10)μm以上の粗大粒子が存在しなかった。
【0101】
[比較例3]
架橋アクリル系重合体(III)として、MR−7G(架橋PMMA、質量平均粒子径Dw=5μm(商品名)綜研化学社製)を用いる以外は実施例1と同様に実施した。なお、得られたペレットのHDTは90℃であった。また、得られたフィルムの鉛筆硬度はHであった。
なお、1.78g(125μmフィルム0.125m当りの樹脂量が17.8gであり、該架橋アクリル系重合体を10質量%添加することを想定したときの質量)について、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製;商品名「S570」)を用いて観察し、10×Dw(=50)μm以上の粗大粒子が存在した。
[比較例4]
実施例1において、風力分級工程を通さない以外は架橋アクリル系重合体(III−1)と同様に製造して得られた架橋アクリル系重合体(III−1')(質量平均粒子径2μm)を用いる以外は実施例1と同様に実施したところ、得られたアクリル樹脂フィルムの表面に多数の凹んだ欠陥が発生し、外観良好なフィルムが生産出来なかった。
なお、1.78g(125μmフィルム0.125m当りの樹脂量が17.8gであり、該架橋アクリル系重合体を10質量%添加することを想定したときの質量)について、走査型電子顕微鏡(日立製作所社製;商品名「S570」)を用いて観察し、10×Dw(=20)μm以上の粗大粒子が存在した。
以上、実施例及び比較例で得たアクリル樹脂フィルム、加飾フィルム及び積層成形品における各評価結果を表1に纏めて示す。
【0102】
【表1】

【0103】
質量平均粒子径Dwが1μmを超えて20μm以下であって、かつ、分級により10×Dwμm以上の粗大粒子を取り除き、走査型電子顕微鏡観察により粗大粒子が存在しないことを確認した有機系架橋粒子または無機系粒子を添加してなる樹脂組成物を構成成分とする実施例1〜14のアクリル樹脂フィルムは、表面に凹んだ欠陥がなく良好な外観を有する。また、フィルム製造時に鏡面ロールとシリコーンゴムロールで挟持することにより得たフィルムに印刷を施した後、インモールド成形を行っても、凹んだ表面欠陥を発現することなく良好な表面外観を維持したまま積層成形品を得ることが出来た。
また、フィルム製造時に鏡面ロールとシリコーンゴムロールを挟持しなかった実施例15のアクリル樹脂フィルムは、有機系架橋粒子又は無機系粒子の粗大粒子に起因する表面の凹んだ欠陥は発生しなかったものの、その他の異物による表面突起が存在し、これに起因して印刷を施した際に印刷抜けが多発し、良好な加飾フィルムを得ることが出来なかった。
また、アクリル樹脂組成物に質量平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子を含有していない実施例16では、該アクリル樹脂組成物のペレットを安定して製造することが出来なかった。最終的に得られたフィルムには、表面に凹んだ欠陥は存在しなかった。
【0104】
一方で、10×Dwμm以上の粗大粒子が存在する市販品の架橋アクリル系重合体(積水化成品工業社製;MBX−8(商品名)[比較例1]、綜研化学社製;MR−7G(商品名)[比較例3])、および10×Dwμm以上の粗大粒子を取り除く分級工程を通していない架橋アクリル系重合体(III−1')[比較例4]を添加してなる樹脂組成物を構成成分とする比較例1、3、4のアクリル樹脂フィルムは、表面に凹んだ欠陥を有し、意匠性の観点から工業的利用価値の低いフィルムとなった。また、フィルム製造の際、鏡面ロールとシリコーンゴムロールで挟持することで、一旦は該欠陥を目立たなくさせることは出来たが、得られたフィルムに印刷を施した後、インモールド成形を行い、該フィルムに熱をかけたところ、再び該欠陥が発現し、良好な表面外観を有する積層成形品が得られず、工業的利用価値は低かった。
また、質量平均粒子径Dwが1μm以下の市販品の架橋アクリル系重合体(綜研化学社製;MR−2G(商品名、Dw=1μm))を20質量部添加してなる樹脂組成物を構成成分とする比較例2のアクリル樹脂フィルムは、機械特性が不足しており、フィルム製造時にフィルム破断を起こし、良好なフィルムを得ることが出来なかった。なお、該架橋アクリル系重合体を10質量部添加してなる樹脂組成物を構成成分とするアクリル樹脂フィルムの場合、フィルム機械特性の低下は軽減されるものの、フィルム表面光沢が59%と良好な艶消し性を示すフィルムではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、インサート成形、インモールド成形に用いることのできる表面硬度、耐擦傷性、耐熱性を有し、かつ、良好な印刷適性を有し、かつ、極めて良好な表面外観を有し、さらに、この良好な表面外観がインモールド成形等の二次加工を通して維持することが出来るものである。
本発明のアクリル樹脂フィルムを積層した積層成形品は、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード等の自動車内装用途、ウェザーストリップ、バンパー、バンパーガード、サイドマッドガード、ボディーパネル、スポイラー、フロントグリル、ストラットマウント、ホイールキャップ、センターピラー、ドアミラー、センターオーナメント、サイドモール、ドアモール、ウインドモール等、窓、ヘッドランプカバー、テールランプカバー、風防部品等の自動車外装用途、AV機器や家具製品のフロントパネル、ボタン、エンブレム、表面化粧材等の用途、携帯電話等のハウジング、表示窓、ボタン等の用途、さらには家具用外装材用途、壁面、天井、床等の建築用内装材用途、サイディング等の外壁、塀、屋根、門扉、破風板等の建築用外装材用途、窓枠、扉、手すり、敷居、鴨居等の家具類の表面化粧材用途、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材用途、あるいは電車、航空機、船舶等の自動車以外の各種乗り物の内外装用途、瓶、化粧品容器、小物入れ等の各種包装容器及び材料、景品や小物等の雑貨等のその他各種用途等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示すゴム含有重合体(I)及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体(II)を構成成分とするアクリル樹脂組成物100質量部に対して、質量平均粒子径Dwが1μmを超えて20μm以下であって、かつ、粒子径が10×Dwμm以上の粒子を含まない有機系架橋粒子又は無機系粒子を1〜15質量部含有するアクリル樹脂フィルム。
ゴム含有重合体(I):
アクリル酸アルキルエステルを主成分として得た1層又は2層以上の構造を有する最内層重合体(I−A)の存在下に、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体をグラフト重合して1層又は2層以上の構造を有する最外層重合体(I−C)を成形してなる質量平均粒子径が0.01〜0.5μmの2層以上の多層構造を有するゴム含有重合体。
【請求項2】
上記ゴム含有重合体(I)及び/又はメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする熱可塑性重合体(II)を構成成分とするアクリル樹脂組成物100質量部に対して、質量平均粒子径Dwが1μmを超えて20μm以下であって、かつ、粒子径が10×Dwμm以上の粒子を含まない下記に示す架橋アクリル系重合体(III)からなる有機系架橋粒子を1〜15質量部含有するアクリル樹脂フィルム。
架橋アクリル系重合体(III):
メタクリル酸アルキルエステルを主成分とした重合性単量体と多官能性単量体からなる架橋メタクリル系粒子、あるいは、
アクリル酸アルキルエステルを主成分としたゴム状重合体のコアと、メタクリル酸アルキルエステルを主成分としたガラス状重合体のシェルからなるコアシェル構造重合体粒子。
【請求項3】
上記アクリル樹脂組成物100質量部に対して、さらに質量平均粒子径が100nm以下のシリカ粒子0.1〜1質量部を含有する請求項1又は2記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項4】
上記樹脂組成物を溶融押出後、鏡面ロールとゴムロールで挟持して製膜することにより製造されたものである請求項1〜3記載のいずれかのアクリル樹脂フィルム。
【請求項5】
アクリル樹脂フィルム製造時にゴムロールとの接触面に印刷を施した請求項4記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5記載のいずれかのアクリル樹脂フィルムを基材に積層したアクリル樹脂積層成形品。

【公開番号】特開2006−143785(P2006−143785A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332224(P2004−332224)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】