説明

アクリル樹脂フィルム

【課題】
透明性、光学等方性に優れ、かつ耐熱性が高く、高温高湿下においても位相差変化が少ないフィルムを提供する。
【解決手段】
アクリル樹脂を含み、かつ波数753cm−1における赤外二色比が1.00以上1.08以下であるアクリル樹脂フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低複屈折であって、光学等方性に優れ、しかも耐熱性、耐擦傷性に優れるフィルムに関する。特に、ポリビニルアルコール系高分子を主成分とする偏光子の保護フィルムとして有用であり、保護フィルムとして用いた場合に、光学特性および保護機能に優れた偏光板を製造することができるアクリル樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂フィルムは、透明性や表面光沢性および耐光性に優れているため、液晶ディスプレイ用シートまたはフィルム、導光板などの光学材料、車両用内装材および外装材、自動販売機の外装材、電化製品、建材用内装材および外装材等、物体の表面表皮に用いられている。
【0003】
近年、これらの樹脂フィルムは、例えば、自動車のナビゲーションシステム、ハンディカメラなどの普及により、使用範囲が屋外や自動車の車内など、耐候性、耐熱性が要求される過酷な使用環境条件下へ拡大してきている。このような過酷な環境条件下で使用する場合、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を基板とするシートまたはフィルムは、優れた透明性、耐候性を有するものの、耐熱性が低いために変形が生じるうえに、靱性が低いために加工時に割れやすいという問題があった。
【0004】
そのため、アクリル樹脂フィルムの耐熱性を改良する目的で、下記一般式(1)で示されるグルタル酸無水物単位および芳香族ビニルを含有し、さらに靭性を付与するために二軸方向にそれぞれ1.5倍以上延伸する技術が開示されている(特許文献1)。
【0005】
【化1】

【0006】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子またはメチル基である。)
しかし、芳香族ビニルを含有するために特に厚み方向の光学等方性が十分でなく、偏光板保護フィルムとして使用する場合に問題があった。
【0007】
また、アクリル樹脂フィルムの耐熱性、光学等方性および靭性を同時に改良する目的で、上記一般式(1)で示されるグルタル酸無水物単位および/または架橋弾性体を含有し、芳香族ビニルを含有しない未延伸フィルムまたは延伸フィルムが開示されている(特許文献2、3)。
【0008】
しかし、厳密に機械的な配向を等方に制御していないグルタル酸無水物単位を含んだアクリル樹脂フィルムは、高温高湿度下において光学的異方性が生じる場合があり、高い光学等方性が求められる偏光板の保護フィルムとしての展開が不可能であった。
【特許文献1】特公平4−3417号公報
【特許文献2】特開2006−131898号公報
【特許文献3】特開平6−256537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した従来のアクリル樹脂フィルムの問題を解決し、優れた光学等方性、加工特性と耐久性を両立したアクリル樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、アクリル樹脂を含み、かつ波数753cm−1における赤外二色比が1.00以上1.08以下であるアクリル樹脂フィルムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、透明性、光学等方性に優れ、かつ耐熱性が高く、高温高湿下においても位相差変化が少ないフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、波数が753cm−1の赤外吸収スペクトルについて赤外二色比が1.00以上1.08以下であることを特徴とする。より好ましくは1.00以上1.02以下である。赤外二色比が1.08より大きいと、後述する位相差に関する耐久性試験において位相差変化が5nmより大きくなる傾向がある。また赤外二色比の下限は等方であることを表す1.00である。
【0013】
本発明でいう赤外二色比とは、偏光FT−IRを用いて偏光させた赤外線で吸収スペクトルを測定することにより得られる。すなわち、赤外の偏光方向に対しフィルムの面内のスペクトルをフィルムの長手方向を起点(0°)として、15°毎に全方位、透過モードにて測定し、得られたそれぞれのスペクトルのベースラインを波数710cm−1から800cm−1の範囲において設定したときの波数753cm−1の吸光度(abs)の最大値と最小値の比を赤外二色比という。一般に、Tダイより吐出した未延伸のアクリル樹脂フィルムは口金のリップ間隙、引き取り速度および押出温度などの押出条件により配向度が異なる。光学的に等方であっても機械的には配向しているため、耐久性試験により光学的な等方性が失われる。アクリル樹脂において波数が753cm−1の赤外吸収スペクトルは分子鎖の機械的な配向を示すため、これを指標に配向のバランスを調整することが重要である。赤外二色比はこの配向のバランスを示す値であり、1.00に近いほど、分子鎖の機械的な配向が等方的であることを表している。
赤外二色比を1.00以上1.08以下とするためには、溶融製膜法において未延伸フィルムを得る場合、アクリル樹脂が分解しない程度に押出温度を高くしたり、リップ間隙とフィルム厚みの比を小さくしたり、リップ間隙を広げる等の方法が有効である。また、延伸フィルムの場合、1軸延伸、逐次二軸延伸または同時二軸延伸において延伸するとき、延伸倍率のみならず、延伸温度、延伸速度を調整することで達成することができる。例えば、配向を大きくしたい場合は延伸温度を上げるか、延伸速度を速めることで達成することができる。
【0014】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、温度が60℃かつ湿度が90%RHの雰囲気下に500時間放置した後の面内位相差の変化が、放置する前と比較して(以下、耐久性試験という)5nm以下であることが好ましい。より好ましくは3nm以下である。5nmを超える場合、ディスプレイ用途として使用した場合に経時によって画像のコントラストが低下する問題が生じる。下限は位相差変化が生じない0nm以上である。
【0015】
位相差変化を5nm以下にするためには、例えば波数が753cm−1の赤外二色比を1.00以上1.08以下とすることにより達成することができる。
【0016】
本発明のアクリル樹脂フィルムはフィルムの面内位相差Re(nm)が0nm以上2nm以下であることが好ましい。2nmより大きい場合、ディスプレイ用途で用いた場合に角度による輝度ムラの原因となる。面内位相差は好ましくは1nm以下である。これにより、特に角度による輝度ムラが小さく均一で安定した輝度のディスプレイを得ることができる。フィルム面内の位相差は0nmが最も好ましい。
【0017】
また本発明のアクリル樹脂フィルムは、波長590nmの光線に対するアクリル樹脂フィルム面内の直交軸方向の屈折率をそれぞれn、n(ただしn≧n)とし、波長590nmの光線に対するアクリル樹脂フィルムの厚み方向の屈折率をn、アクリル樹脂フィルムの厚みをd(nm)としたときに、下式で定義する厚み方向の位相差Rthが−10nm以上10nm以下であることが好ましく、より好ましくは−8nm以上8nm以下、さらに好ましくは−5nm以上5nm以下、最も好ましくは−2nm以上2nm以下である。アクリル樹脂フィルムの厚み方向の位相差Rthが−10nm以上10nm以下であると、フィルム面内の光学等方性のみならず厚み方向の光学等方性にも優れたアクリル樹脂フィルムとなるため、偏光板や光ディスクなどの保護フィルム用途でより一層好適に用いることができる。厚み方向の光学等方性が要求される用途において、厚み方向の位相差Rthは0に近い方が好ましい。
【0018】
厚み方向の位相差Rth(nm)=d×{(n+n)/2−n
面内位相差Reおよび厚み方向の位相差Rthが小さいアクリル樹脂フィルムを得るためには、機械的に配向した状態でも光学異方性を生じにくいようなアクリル樹脂とすることで達成できる。
【0019】
上記特徴を有するアクリル樹脂としては例えばマレイミドやラクトン環を含有する樹脂などを挙げることができるが、下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を10〜40質量%含有するアクリル樹脂(A)を含有する樹脂組成物からなることが光学等方性の観点から最も好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
かかる構造のグルタル酸無水物単位を含有することにより、耐熱性を向上できるだけでなく、延伸などにより機械的に配向した状態でも光学的に等方なフィルムを得ることができる。
【0022】
当該グルタル酸無水物単位のアクリル樹脂(A)に対する含有量としては10〜40質量%とすることが好ましく、更に好ましくは25〜35質量%である。10質量%以上とすることによって、優れた耐熱性や耐薬品性、機械的な配向下での光学等方性を達成することができる。一方40質量%以下とすることで、靭性の低下を防ぐことができ、高い加工性を有するフィルムとすることができる。
【0023】
特に耐熱性の観点から、R、Rは水素またはメチル基が好ましく、とりわけメチル基が好ましい。
【0024】
またアクリル樹脂(A)は不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の単位を含むことが好ましい。不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の単位を採用することにより、熱や水に対して安定なアクリル樹脂とすることができる。
【0025】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単位としては例えば、下記一般式(2)で表されるものを挙げることができる。
【0026】
【化3】

【0027】
(上記式中Rは、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を示す。また、Rは炭素数1〜5の脂肪族もしくは脂環式炭化水素を示す。)
不飽和カルボン酸アルキルエステル単位の好ましい具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシルおよび(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチルなどが挙げられる。不飽和カルボン酸アルキルエステル単位としては、上述した具体例のうち1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上併存してもよいが、(メタ)アクリル酸メチル単位を含むことが、耐熱性の高いアクリル樹脂が得られやすいため好ましい。
【0028】
アクリル樹脂(A)に対する不飽和カルボン酸アルキルエステル由来の単位の含有量としては、60〜90質量%が好ましく、より好ましくは65〜75質量%である。60質量%以上とすることにより、アクリル樹脂としての透明性を得ることができる。一方、上限値は、前述のグルタル酸無水物単位の好ましい添加量の下限値に対応する。
【0029】
また、アクリル樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲でビニル系単位を含んでいてもよいが、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単位の含有濃度を1質量%以下、すなわち0〜1質量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜0.1質量%である。スチレン系単位の含有濃度を1質量%以下とすることで、厚み方向の位相差Rthを小さくすることができる。
【0030】
また、アクリル樹脂(A)は、不飽和カルボン酸単位の含有量を5質量%以下、すなわち0〜5質量%とすることが好ましく、より好ましくは0〜3質量%、さらに好ましくは0〜1質量%である。5質量%以下とすることによって、無色透明性、滞留安定性、耐久性を維持することができる。
【0031】
また、アクリル樹脂(A)の質量平均分子量としては、8万〜15万が好ましい。8万以上とすることで、アクリル樹脂フィルムの機械的強度を維持することができる。また15万以下とすることで、製膜時の樹脂の着色を防ぐことができる。
【0032】
アクリル樹脂フィルムはアクリル樹脂(A)のみから構成されていることが異物欠点を抑制する観点から、また表面硬度を向上させる観点から最も好ましいが、靭性を向上させるために後述するアクリル弾性体粒子(B)を含んでいてもよい。アクリル弾性体粒子(B)の含有量は0〜30質量%が好ましく、より好ましくは0〜20質量%である。
【0033】
アクリル弾性体粒子(B)を構成するゴム質重合体は、アクリル酸エチル単位やアクリル酸ブチル単位などのアクリル成分を必須成分とし、その他に好ましく含まれる成分として、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分、ブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを挙げることができる。これらのなかでも、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分から構成されるものが好ましい。
【0034】
また、これらの成分を2種以上組み合わせたものから構成されるゴム弾性体も好ましく、例えば、アクリル成分およびシリコーン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分およびスチレン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分および共役ジエン成分から構成されるゴム弾性体、アクリル成分、シリコーン成分およびスチレン成分から構成されるゴム弾性体などが挙げられる。
【0035】
また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、アリルアクリレート単位、ブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分を含むものも好ましい。
【0036】
なかでも、アクリル酸アルキルエステル単位と芳香族ビニル系単位との組み合わせは好ましい。アクリル酸アルキルエステル単位、中でもアクリル酸ブチルは靱性向上に極めて効果的であり、これに芳香族ビニル系単位、例えばスチレンを共重合させることによってアクリル弾性体粒子(B)の屈折率を調節することができる。
【0037】
アクリル弾性体粒子(B)の平均粒子径としては、70〜300nmとすることが好ましく、より好ましくは100〜200nmである。70nm以上とすることで靱性向上の実効を得ることができ、300nm以下とすることで、耐熱性の低下を抑えることができる。
【0038】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムを構成する基材は、本発明の目的を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、サリチル酸エステル系、シアノアクリレート系、高分子系および無機系の紫外線吸収剤あるいは酸化防止剤、高級脂肪酸、酸エステル系、酸アミド系および高級アルコールなどの滑剤あるいは可塑剤、モンタン酸、その塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびエチレンワックスなどの離型剤、亜リン酸塩、次亜リン酸塩などの着色防止剤、ハロゲン系あるいはリン系やシリコーン系の非ハロゲン系の難燃剤、核剤、アミン系、スルホン酸系、ポリエーテル系などの帯電防止剤などの添加剤を含有していてもよい。ただし、適用する用途が要求する特性に照らし、その添加剤保有の色がアクリル樹脂に悪影響を及ぼさず、かつ透明性が低下しない範囲で添加するのが好ましい。具体的には、アクリル樹脂(A)およびアクリル弾性体粒子(B)以外の樹脂や添加剤の、アクリル樹脂フィルムに対する総含有量としては10質量%以下とするのが好ましい。特に、紫外線吸収剤の場合、添加量としてはアクリル樹脂フィルム100質量部に対し、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。0.1質量部未満では、所望の効果が得られないことがある。また、5質量部を超えると均一に分散しない、全光線透過率が低下する、ヘイズが上昇する等の問題が起こることがある。さらに好ましくは1質量部以上2質量部以下である。
【0039】
本発明においては、紫外線吸収剤を添加することで、アクリル樹脂フィルムの、波長380nmの光の光線透過率を10%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは5%以下である。380nmの光の光線透過率は紫外線吸収剤の量を増やすことで低減でき、減らすことで増加できる。紫外線(波長380nm以下の光)を十分にカットすることで、紫外線を嫌う素材を保護することができる。
【0040】
なお、波長380nmの光線透過率は下記装置を用いて測定する。
【0041】
透過率(%)=(T/T)×100
ただしTは試料を通過した光の強度、Tは試料を通過しない以外は同一の距離の空気中を通過した光の強度である。
【0042】
装置:UV測定器U−3410(日立計測社製)
波長:380nm
測定速度:120nm/分
測定モード:透過
本発明のアクリル樹脂フィルムはその残存溶媒量が0.5質量%未満であることが好ましい。0.5質量%以上であると、製品として使用したときに表面硬度が低い場合があり、ユーザーでの加工工程においてフィルム表面にキズがつく場合がある。
【0043】
ここでいう残存溶媒量とは、フィルムを20cm四方にサンプリングし、秤量したフィルムの質量wと、次にこのフィルムを温度200℃の熱風オーブン中で10分保持した後のフィルム質量wとをもとに、下記式より求めた値をいう。
【0044】
残存溶媒量(質量%)=(w−w)/w×100。
【0045】
また、本発明のアクリル樹脂フィルムは、上述したグルタル酸無水物単位を10〜40質量%含有するアクリル樹脂(A)単体からなる層(I)に上記添加剤を含有したアクリル樹脂(A)からなる層(II)と前記のアクリル樹脂(A)単体からなる層(I)を順に厚み方向に積層したフィルムであってもよく、特にアクリル樹脂(A)単体からなる層(I)とに紫外線吸収剤を含有したアクリル樹脂(A)からなる層(II)と前記アクリル樹脂(A)単体からなる層(I)を順に厚み方向に積層した三層構成を含むフィルムであることが好ましい。添加剤を含有した層が表面に露出しないことで、これら添加剤が時間が経つにつれて表面に析出することを防ぐことができる。
【0046】
これらの積層体は、層(I)を形成するためのアクリル樹脂(A)、ならびに層(II)を形成する上記添加剤を含有したアクリル樹脂(A)を2台の溶融押出機によりそれぞれ溶融した後に、ピノールやフィードブロックを用いて厚み方向に積層し、さらにTダイ口金を用いて吐出する方法により得ることができる。
【0047】
本発明のアクリル樹脂フィルムは長手方向および/または幅方向に延伸されていてもよく、二軸に配向されていてもよい。二軸に配向することによって、靭性が良くなり、スリットやポリビニルアルコール系高分子を主成分とする偏光子などのフィルムと貼り合せる場合にフィルム破れが少なく加工性、取り扱い性が向上する。本発明のアクリル樹脂フィルムはアクリル樹脂のガラス転移温度Tg以上(Tg+30℃)以下の範囲において、二軸方向にそれぞれ1.3倍〜4.0倍の範囲で延伸したものであることが好ましい。延伸するには一般に知られている逐次二軸延伸法または同時二軸延伸法を用いることができる。延伸倍率は未延伸フィルムと延伸フィルムの面積比を示す面積倍率で1.7倍以上8倍以下が好ましく、1.7倍以上2.5倍以下がより好ましく、1.8倍以上2.25倍以下が最も好ましい。面積倍率が1.7倍以下であると、フィルムの靭性が向上しない傾向にあり、8倍以上であると厚み方向の位相差が大きくなると同時にフィルムが破れやすく生産性が著しく低下することがある。
【0048】
本発明のアクリル樹脂フィルムは全光線透過率が90%以上であることが好ましく、特に好ましくは92%以上である。全光線透過率が90%未満の場合、ディスプレイ用途として用いた場合に十分な輝度が得られないという問題が生じることがある。
【0049】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、その表面にハードコート層および/または反射防止膜を有していることが好ましい。ハードコート層と反射防止膜とを両方形成する場合には、ハードコート層の上にさらに反射防止膜を積層することが好ましい。
【0050】
ハードコート層の形成方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。たとえば、多官能アクリレートを用いる方法を例示できる。多官能アクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトレエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコーリジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、ポリ(ブタンジオール)ジアクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、トリイソプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート及びビスフェノールAジメタクリレートに例示されるジアクリレート類や、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリアクリレート及びトリメチロールプロパントリエトキシトリアクリレートに例示されるトリアクリレート類や、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジ‐トリメチロールプロパンテトラアクリレートに例示されるテトラアクリレート類、並びにペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタアクリレートに例示されるペンタアクリレート類を挙げることができる。
【0051】
反射防止膜についても限定は無く、公知の方法で形成することができる。すなわち、反射防止膜は無機化合物を用いた乾式によるものでも有機化合物を用いた湿式によるものでも好ましく、低屈折率層を1層だけ形成しても、また、高屈折率層、低屈折率層、中屈折率層の任意の層を複数層積層してもよい。
【0052】
本発明の二軸配向アクリル樹脂フィルムは接着層を介して他の光学等方性フィルムや偏光子、位相差フィルム等の光学機能フィルム、ガラス基板などと積層した形で用いることができる。
【0053】
次に、本発明のアクリル樹脂フィルムを製造する方法について説明する。
【0054】
前記一般式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)は、特開2006−131898号公報に記載されているような公知の方法により製造することができる。
【0055】
本発明のアクリル樹脂フィルムは、溶融製膜あるいは溶液製膜にて製膜することができるが生産性および、表面硬度を高める観点から溶融製膜で行うことが好ましい。溶融製膜としては、インフレーション法、Tダイ法、カレンダー法、切削法などがあり、厚みムラを低減する観点から特にTダイ法を好ましく採用できる。溶融製膜には、単軸あるいは二軸の押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。そのスクリューのL/Dとしては、25〜120とすることが着色を防ぐために好ましい。溶融押出温度としては、好ましくは150〜350℃、より好ましくは200〜270℃である。溶融剪断速度としては、1,000s−1以上5,000s−1以下が好ましい。また、溶融押出装置を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し減圧下で、あるいは窒素気流下で溶融混練を行うことが好ましい。
【0056】
使用する原料は乾燥していることが好ましく、具体的に水分率が200ppm(質量基準、以下同じ)以下、更には150ppmであることが好ましい。原料の水分率を200ppm以下にする方法としては100℃の減圧乾燥機の中で3時間乾燥する方法などが挙げられる。
【0057】
キャスト方法は、単膜の場合は溶融押出機を用いてグルタル酸無水物単位を含有するアクリル樹脂(A)をギアーポンプで計量した後にTダイ口金を用いて吐出する方法が好ましく用いられる。2層以上積層する場合は少なくとも2台の溶融押出機を用いて溶融した、層(I)を形成するためのアクリル樹脂(A)、ならびに層(II)を形成するためのアクリル樹脂(A)および添加剤および/または弾性体粒子(B)の混合物をそれぞれギアーポンプで計量した後に、ピノールやフィードブロックを用いて積層した後にTダイ口金を用いて吐出する方法や、マルチマニホールド型の口金を用いて積層し吐出する方法などを例示できる。装置の積層精度やメンテナンス性の観点からフィードブロックを用いる方法が好ましい。フィードブロック部は積層精度を高めるためにも口金の直前に設置することが好ましい。これらの方法で樹脂を口金から冷却されたドラム上に吐出し、ガラス転移温度(Tg)以下まで急冷し、未延伸のフィルムを得ること好ましい。なお、冷却ドラム上に吐出された樹脂をガラス転移温度(Tg)以下まで急冷するに際しては、静電印加法、エアーチャンバー法、エアーナイフ法、プレスロール法などで、樹脂を冷却媒体であるドラムに密着させることが好ましい。特に厚みムラが少なく、透明なフィルムを得るには、プレスロール法が好ましい。このとき、Tダイのリップ部分の温度を他の設定温度より10℃以上高くすることが、未延伸フィルムの機械的な配向を低減せしめ、赤外二色比を1.00以上1.08以下に制御することに寄与する。上限はアクリル樹脂が分解しない程度の270℃である。
【0058】
以上のようにして得られる未延伸のアクリルフィルムの厚みは、好ましくは10〜500μm、より好ましくは、20〜200μmである。10μm未満の厚みの場合、機械的強度不足などにより延伸加工などの後加工する場合に難があることがあり、一方、500μmを超える厚みの場合、厚みや表面性などが均一なフィルムを製造することが難しいばかりか、得られたフィルムを巻き取ることが困難になることがある。
【0059】
原反フィルムの厚み分布は、通常、平均値に対して±5%以内、好ましくは±3%以内、より好ましくは±1%以内である。厚み分布が±5%を超えると、延伸処理を行った場合に延伸ムラが発生しやすくなることがある。
【0060】
本発明のアクリル樹脂フィルムは上記未延伸フィルムをさらに延伸加工することができ、具体的には、公知の二軸延伸法を用いることができる。すなわち、周方向の速度の異なるロールを利用する縦延伸法等およびテンター法による横延伸法を組み合わせた逐次二軸延伸法や、テンター内で同時に2方向に延伸する同時二軸延伸方を用いることができる。
【0061】
逐次二軸延伸法の場合、延伸速度は各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、好ましくは1〜5,000%/分であり、より好ましくは100〜2,000%/分である。また、同時二軸延伸法の場合、延伸速度を大きくすると破れが発生しやすく生産性が著しく低下するため、その延伸速度は1〜2,000%/分が好ましく、より好ましくは50〜1,000%/分である。
【0062】
延伸温度は、特に限定されるものではないが、本発明で用いられるアクリル樹脂(A)のガラス転移温度Tgを基準として、逐次二軸延伸法の場合、好ましくはTg以上(Tg+30℃)以下、より好ましくは(Tg+5℃)以上(Tg+15℃)以下であり、同時二軸延伸法の場合、好ましくは(Tg+5℃)以上(Tg+35℃)以下、より好ましくは(Tg+10℃)以上(Tg+20℃)以下である。前記範囲内とすることで、厚みムラの発生を抑えることが可能となり、また、赤外二色比の制御が容易になることから好ましい。
【0063】
延伸倍率は未延伸フィルムと延伸フィルムの面積比を示す面積倍率で1.7倍以上8倍以下が好ましく、1.7倍以上2.5倍以下がより好ましく、1.8倍以上2.25倍以下が最も好ましい。面積倍率が1.7倍以下であると、フィルムの靭性が向上しないことがあり、8倍以上であると厚み方向の位相差が大きくなると同時にフィルムが破れやすく生産性が著しく低下することがある。また、機械的な配向を等方にし、赤外二色比を1.00以上1.08以下に制御するためには、特に横延伸の倍率を0.001倍の精度で制御することが重要である。0.001倍の精度で制御するためには、フィルムの幅方向に等間隔にマーキングを行い、入口での間隔と出口での間隔の比をモニターしながら調節することで制御できる。マーキングの数としては、必要な精度によって適宜決定すればよいが、好ましくは、幅方向の等間隔に少なくとも5点、より好ましくは7点のマーキング点を設けるとよい。
【0064】
また、テンター内の温度ムラ、風速等が高い精度で均一であることも赤外二色比の制御に寄与する。特に、テンター内の温度ムラはフィルム面において幅方向に3℃以下が好ましく、より好ましくは2℃以下である。また風速においてもフィルム面での風速のムラが30%以下が好ましく、より好ましくは15%以下である。温度ムラ、風速ムラを制御する方法としては、例えば、日本製鋼所技報第55号131頁〜138頁に記載の方法などを好ましく用いることができる。
【0065】
また、フィルム長手方向と幅方向の延伸倍率のバランスは、面内位相差が2nm以下となるように延伸倍率を調整すればよく、また赤外吸収スペクトルの赤外二色比が1.00以上1.08以下となるように延伸倍率を調整することがより好ましい。例えば、逐次二軸延伸においてフィルム長手方向に延伸温度135℃、延伸速度120%/minで1.4倍に延伸した後に、幅方向に延伸温度135℃、延伸速度145%/minで1.625倍延伸することにより達成できる。
【0066】
本発明の熱可塑性フィルムは使用の目的によって表面にコーティングによって帯電防止層や易接着層を設けたり、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を設けたり、金属や酸化金属の蒸着層や、スパッタによる透明導電層を設けたり、接着層を介して他の光学等方性フィルムや偏光子、位相差フィルム等の光学機能フィルム、ガラス基板などと積層した形で用いることができる。
【実施例】
【0067】
[測定方法]
(1)各成分組成
熱可塑性樹脂フィルムにアセトンを加え、4時間還流し、この溶液を9,000rpmで30分間、遠心分離し、アセトン可溶成分とアセトン不溶成分とに分離した。アセトン可溶成分を60℃で5時間減圧乾燥し、各成分単位定量を行って、アクリル樹脂(A)の各成分組成とした。
【0068】
各成分単位の定量は、プロトン核磁気共鳴(H−NMR)法により行った。
【0069】
H−NMR法では、例えば、グルタル酸無水物単位、メタクリル酸、メタクリル酸メチルからなる共重合体の場合、ジメチルスルホキシド重溶媒中でのスペクトルの帰属を、0.5〜1.5ppmのピークがメタクリル酸、メタクリル酸メチルおよびグルタル酸無水物環化合物のα−メチル基の水素、1.6〜2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(−COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素と、スペクトルの積分比から共重合体組成を決定した。また、上記に加えて、他の共重合成分としてスチレンを含有する共重合体の場合、6.5〜7.5ppmにスチレンの芳香族環の水素が見られ、同様にスペクトル比から共重合体組成を決定した。
【0070】
(2)質量平均分子量(絶対分子量)
ジメチルホルムアミドを溶媒として、DAWN−DSP型多角度光散乱光度計(Wyatt Technology社製)を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフ(ポンプ:515型,Waters社製、カラム:TSK−gel−GMHXL,東ソー社製)を用いて測定した。測定は各水準の異なる部分について5回測定を行い、平均値を用いた。
【0071】
(3)ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(Perkin Elmer社製DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で測定した。ガラス転移温度の求め方は、JIS−K7121(1987)の9.3項の中間点ガラス転移温度の求め方に従い、測定チャートの各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度とした。測定は各水準の異なる部分について5回測定を行い、平均値を用いた。
【0072】
(4)面内位相差および厚み方向位相差
エトー(株)社製の複屈折位相差測定装置(AD−175SI)を用い、波長590nmの光線に対する面内位相差および厚み方向の位相差を測定した。測定回数は5回測定しその平均値を用いた。
【0073】
(5)全光線透過率
JIS K 7361−1(1997)に準じ、東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを用いて、23℃での全光線透過率(%)を測定した。測定は各水準の異なる部分についてそれぞれ10回行い、平均値を用いた。
【0074】
(6)赤外二色比
Bio−RadDiglab製のフーリエ変換型赤外分光光度計FTS−60A/896に偏光子をセットしバックグラウンドを測定した後に、偏光方向に対しフィルムの長手方向を起点として15°づつ回転させてフィルムをセットし、測定モード:Abs、分解能:2cm−1、スキャン回数:64回の条件で透過吸収スペクトルを測定した。15°毎に全方位の得られたそれぞれのスペクトルのベースラインを波数710cm−1から800cm−1の範囲において設定したときの波数753cm−1の吸収ピーク高さの最大値と最小値の比を赤外二色比とした。
【0075】
(7)耐久性試験における面内位相差の変化
60℃/90%RHの雰囲気下で、500時間放置する前と後の面内位相差の差を面内位相差の変化量(nm)とした。サンプル数は5とし、各面内位相差の変化量の平均値を求め、変化量が5nmより大きい場合を×、3nmより大きく5nm以下を○、3nm以下を◎とし、5nm以下を合格とした。
【0076】
(8)残存溶媒量
フィルムを20cm四方にサンプリングし、フィルムの質量wを秤量した。次にこのフィルムを温度200℃の熱風オーブン中で10分保持した後のフィルム質量wを秤量し、下記式よりフィルム中の残存溶媒量(質量%)を求めた。なお、測定は2回行い、平均値を求めた。
【0077】
残存溶媒量(質量%)=(w−w)/w×100。
【0078】
(9)表面硬度(鉛筆硬度)
HEIDON(新東科学株式会社製)を用いて、下記条件で鉛筆引掻試験を行った。引掻傷が測定回数5回中、2回以上傷つくときの鉛筆の硬さを鉛筆硬度とした。また、傷の観察は倍率3倍の照明拡大鏡(アズワン株式会社製)を用いて観察した。
【0079】
鉛筆角度:45°
鉛筆速度:30mm/分
引掻距離:30mm
錘:500g
<参考例1>
アクリル樹脂(A1)
容量が5リットルで、バッフルおよびファウドラ型撹拌翼を備えたステンレス製オートクレーブに、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤0.05質量部をイオン交換水165質量部に溶解した溶液を供給し、400rpmで撹拌し、系内を窒素ガスで置換した。なお、メタクリル酸メチル/アクリルアミド共重合体系懸濁剤には、以下の方法で調整したものを用いたすなわち、メタクリル酸メチル20質量部、アクリルアミド80質量部、過硫酸カリウム0.3質量部、イオン交換水1,500質量部を反応器中に仕込み、反応器中を窒素ガスで置換しながら70℃に保ち、単量体が完全に重合体に転化するまで反応させ、得られたアクリル酸メチルとアクリルアミドとの共重合体の水溶液を懸濁剤として使用した
次に、反応系を撹拌しながら下記混合物質を添加し、70℃に昇温した。内温が70℃に達した時点を重合開始として、180分間保ち、重合を終了した。以降、通常の方法に従い、反応系の冷却、ポリマーの分離、洗浄、乾燥を行い、ビーズ状の共重合体(a−1)を得た。この共重合体(a−1)の重合率は98%であり、質量平均分子量は6.8万であった。
【0080】
メタクリル酸 :33質量部
メタクリル酸メチル :67質量部
t−ドデシルメルカプタン : 1.2質量部
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル: 0.4質量部
これに添加剤(NaOCH)を配合し、2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5)を用いて、ホッパーを10L/分の量の窒素でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で分子内環化反応を行い、ペレット状のアクリル樹脂(A1)を得た。このアクリル樹脂(A1)100質量部中のグルタル酸無水物単位の組成比は33質量部、質量平均分子量は10万であった。
【0081】
<参考例2>
コア・シェル型アクリル弾性体粒子(B)
冷却器付きのガラス容器(容量5リットル)内に、初期調整溶液として、脱イオン水120質量部、炭酸カリウム0.5質量部、スルホコハク酸ジオクチル0.5質量部、過硫酸カリウム0.005質量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌後、アクリル酸ブチル53質量部、スチレン17質量部、メタクリル酸アリル(架橋剤)1質量部を仕込んだ。これら混合物を70℃で30分間反応させて、ゴム質重合体を得た。次いで、メタクリル酸メチル21質量部、メタクリル酸9質量部、過硫酸カリウム0.005質量部の混合物を引き続き70℃で90分かけて連続的に添加し、更に90分間保持して、シェル層を重合させた。この重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥して、コア・シェル型のアクリル弾性体粒子(B)を得た。電子顕微鏡で測定したアクリル弾性体粒子のゴム質重合体部分の平均粒子径は140nmであった。
【0082】
<参考例3>
アクリル樹脂組成物(C)
前記アクリル樹脂(A)を80質量部とアクリル弾性体粒子(B)を20質量部を配合し2軸押出機(TEX30(日本製鋼社製、L/D=44.5))を用いて、ホッパー部より窒素を10L/分の量でパージしながら、スクリュー回転数100rpm、原料供給量5kg/h、シリンダ温度290℃で混練し、ペレット状のアクリル樹脂組成物(C)を得た。
【0083】
<実施例1>
参考例1で得られたアクリル樹脂(A)を100℃で3時間乾燥し、45mmφの一軸押出機(設定温度250℃)を用いてリップ間隙1.2mmに設定したTダイ(設定温度250℃)を介してシート状に押出した。
【0084】
このフィルムを130℃の冷却ロールに片面を完全に密着させながら冷却して、厚み80μmの未延伸のアクリル樹脂フィルムを得た。このとき、(Tダイのリップ間隙/フィルム厚み)=15となるよう、冷却ロールの速度を調整した。
【0085】
この未延伸のアクリル樹脂フィルムを赤外二色比が1.08以下になるように延伸倍率を調整した結果、逐次二軸延伸においてフィルム長手方向に延伸温度135℃、延伸速度120%/minで1.4倍に延伸した後に、幅方向に延伸温度135℃、延伸速度145%/minで1.625倍延伸することにより、厚み40μmのアクリル樹脂フィルムを得た。このとき、幅方向の延伸倍率は、テンター入口でフィルムの幅方向に200mm間隔に細さ0.5mmの油性ペンで5点マーキングを行い、テンター出口にてマーキングの幅をモニターし、それぞれの間隔から出した倍率の平均値を延伸倍率として調節した。
【0086】
このフィルムを1辺がフィルム長手方向と平行になるように10mm四方に切り出して、Bio−RadDiglab製のフーリエ変換型赤外分光光度計FTS−60A/896に偏光子をセットしバックグラウンドを測定した後に、図1に示すように偏光方向に対しフィルムの長手方向を起点として15°づつ回転させてフィルムをセットし、測定モード:Abs、分解能:2cm−1、スキャン回数:64回の条件で透過吸収スペクトルを測定した。図2に示すようにそれぞれのスペクトルのベースラインを波数710cm−1から800cm−1の範囲において設定したときの波数753cm−1の吸収ピーク高さを測定する。図3に示すように各方向のピーク高さをグラフにし、その最大値(abs1)と最小値(abs2)に対し赤外二色比(R=abs2/abs1)として測定した。
【0087】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは耐久性、透明性、靱性ともに優れていた。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0088】
<実施例2>
参考例3で得られたアクリル樹脂生成物(C)を100℃で3時間乾燥し、65mmφの1軸押出機(設定温度260℃)を用いて、リップ間隙0.8mmに設定したTダイ(設定温度250℃、リップ部分の設定温度260℃)を介してシート状に押出した。冷却ロールの温度125℃、冷却ロールの速度16.6m/分に調整し、厚み40μmの未延伸のアクリル樹脂フィルムを得た。このとき、(Tダイのリップ間隙/フィルム厚み)=20であった。
【0089】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは耐久性、透明性に優れていた。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0090】
<実施例3>
冷却ロールの速度を20m/分にした他は、実施例2と同様にして、厚み40μmの未延伸アクリルフィルムを得た。
【0091】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは耐久性、透明性に優れていた。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0092】
<実施例4>
参考例1で得られたアクリル樹脂(A)を80℃で8時間減圧乾燥した後に、メチルエチルケトンに固形分濃度30質量%となるように溶解させ、1μmカットフィルターを用いてろ過を行い、ホッパーにて24時間静置して溶液中の泡を除去してポリマー溶液aを得た。このポリマー溶液aを、バーコーターでPETフィルム上に流延し、5分静置した後に熱風オーブンにて50℃で5分間加熱して溶媒を蒸発させ、自己支持性を発現したフィルムを支持体から剥離した。続いて剥離したフィルムを枠張りし、100℃で5分、170℃で10分過熱して溶媒をさらに蒸発させ、厚み40μmの最終フィルムを得た。得られたフィルムの特性、評価結果を表1に示す。
【0093】
<比較例1>
参考例1で得られたアクリル樹脂(A)を100℃で3時間乾燥し、45mmφの一軸押出機(設定温度250℃)を用いてリップ間隙1.2mmに設定したTダイ(設定温度250℃)を介してシート状に押出した。
【0094】
このフィルムを130℃の冷却ロールに片面を完全に密着させながら冷却して、厚み80μmの未延伸のアクリル樹脂フィルムを得た。このとき、(Tダイのリップ間隙/フィルム厚み)=15となるよう、冷却ロールの速度を調整した。
【0095】
この未延伸のアクリル樹脂フィルムを同時二軸延伸において延伸温度135℃、延伸速度120%/minでフィルム長手方向に1.4倍、幅方向に1.4倍延伸することにより、厚み40μmのアクリル樹脂フィルムを得た。
【0096】
(なお、倍率の設定は、マーキングによる幅のモニターを行わなかった。)
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは耐久性が悪く、光学フィルムとして適さないものであった。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0097】
<比較例2>
参考例1で得られたアクリル樹脂(A)を100℃で3時間乾燥し、45mmφの一軸押出機(設定温度250℃)を用いてリップ間隙1.2mmに設定したTダイ(設定温度250℃)を介してシート状に押出した。
【0098】
このフィルムを130℃の冷却ロールに片面を完全に密着させながら冷却して、厚み70μmの未延伸のアクリル樹脂フィルムを得た。このとき、(Tダイのリップ間隙/フィルム厚み)=17となるよう、冷却ロールの速度を調整した。
【0099】
この未延伸のアクリル樹脂フィルムを一軸延伸において延伸温度135℃、延伸速度120%/minでフィルム長手方向に3.0倍延伸することにより、厚み40μmのアクリル樹脂フィルムを得た。
【0100】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは耐久性が悪く、光学フィルムとして適さないものであった。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0101】
<比較例3>
リップ間隙を調整し、(Tダイのリップ間隙/フィルム厚み)=25とした以外は実施例3と同様にして、厚み40μmの未延伸のアクリル樹脂フィルムを得た。
【0102】
かくして得られたアクリル樹脂フィルムは耐久性が悪く、光学フィルムとして適さないものであった。フィルムの特性は表1の通りであった。
【0103】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明のフィルムは、ARフィルムやタッチパネル用透明導電性フィルム、プリズムシ
ートなどの平面ディスプレイ用部材シートの基材、偏光子保護フィルム等の光学フィルム
として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】赤外二色比を測定するサンプルと測定の偏光方向を示す概略図である。
【図2】アクリルフィルムの赤外吸収スペクトル図である。
【図3】赤外二色比を算出するために用いた概略プロット図である。
【符号の説明】
【0106】
1:フィルムの長手方向
2:測定サンプル
3:測定するそれぞれの偏光方向
4:ベースライン
5:吸収ピーク高さ
6:最大ピーク高さ
7:最小ピーク高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂を含み、かつ波数753cm−1における赤外二色比が1.00以上1.08以下であるアクリル樹脂フィルム。
【請求項2】
温度60℃、湿度90%RHの雰囲気下に500時間放置した後の面内位相差の変化が、放置する前と比較して5nm以下である、請求項1に記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項3】
下記式(1)および(2)を同時に満足する、請求項1または2に記載のアクリル樹脂フィルム。
0≦Re≦2 ・・・(1)
−10≦Rth≦10 ・・・(2)
(上記式中、Reはフィルムの面内位相差(nm)、Rthはフィルムの厚み方向の位相差(nm)を示す。)
【請求項4】
下記構造式(1)で表されるグルタル酸無水物単位を10〜40質量%含有するアクリル樹脂(A)を含有する樹脂組成物からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【化1】

(上記式中、R、Rは、同一または相異なる水素原子または炭素数1〜5のアルキル基を表す。)
【請求項5】
グルタル酸無水物単位を10〜40質量%含有するアクリル樹脂(A)単体からなる層と、このアクリル樹脂(A)に紫外線吸収剤を含有せしめた層と、前記アクリル樹脂(A)単体からなる層とが順に積層されてなる、請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項6】
残存溶媒量が0.5質量%未満である、請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項7】
長手方向および/または幅方向に延伸されている、請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。
【請求項8】
表層にハードコート層が設けられている、請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル樹脂フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−161660(P2009−161660A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−992(P2008−992)
【出願日】平成20年1月8日(2008.1.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】