説明

アクリル系イミド樹脂及びその製造方法

【課題】異物生成の少ない光学用アクリル系イミド樹脂およびタンデム型反応押出機を用いた、異物生成しにくい光学用アクリル系イミド樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂中に残存するカルボキシル基の割合を0.15mmol/g以下にしたアクリル系イミド樹脂、および、タンデム型押出機を用いて、第1押出機1においてアクリル系樹脂とイミド化剤とを処理する第1段目反応を行い、第2押出機2において、第1押出機における反応生成物をさらにエステル化剤と処理する第2段目反応を行いカルボキシル基の割合が0.15mmol/g以下のアクリル系イミド樹脂を得る製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物生成の少ない光学用アクリル系イミド樹脂および該アクリル系イミド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系イミド樹脂は、透明性、耐熱性に優れると共に、光弾性係数が小さいことから、光学材料としての適用が検討されている。
【0003】
一般に、押出機を用いて樹脂を加熱溶融し、溶融樹脂と反応剤とを連続的に反応させる反応押出法は、反応槽等で行うバッチ式法と比較して生産性に優れ、低コストで効率良く熱可塑性樹脂を製造出来るという特徴を有している。このため、反応押出法は、アクリル系イミド樹脂の製造方法にも用いられている。例えば特許文献1に、第1押出機でイミド化反応して得られたアクリル系イミド樹脂をペレット化して取り出し、さらに、第2押出機で該ペレットを再溶融してエステル化を実施することで、優れた成形性を有するアクリル系イミド樹脂を製造する方法が開示されている。しかし、この方法は、一旦ペレットにして取り出した樹脂を再溶融し、第2押出機を通過させるため効率が悪く、また、樹脂の溶融回数が増えるので劣化しやすく、さらに光学用途に用いる際には、ペレット化の回数が増えると空気中の不純物との接触機会が増えて、異物が生じる恐れがあり、改善の余地があった。
【0004】
そこで、特許文献2では、タンデム型押出機を用い、第1押出機でイミド化反応を実施し、第2押出機で第1押出機の反応生成物のエステル化反応を実施することで、異物の少ない熱可塑性樹脂を製造する方法が開示されている。
【0005】
しかし、この方法は、ペレット中の異物数は少なくできるが、ポリマーフィルターなどの長時間滞留する装置を使用した成形を行う際に、長時間運転していると異物数が増加する場合もあり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−273883号公報
【特許文献2】特開2008−274187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来の技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、異物生成の少ない光学用アクリル系イミド樹脂およびタンデム型反応押出機を用いた、異物生成しにくい光学用アクリル系イミド樹脂の製造方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を鑑み鋭意検討した結果、アクリル系イミド樹脂中に残存するカルボキシル基の割合に着目し、その割合を特定化することにより、異物生成の少ない光学用アクリル系イミド樹脂が得られる事を見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
【0010】
(I)樹脂中に残存するカルボキシル基の割合が0.15mmol/g以下で
あることを特徴とするアクリル系イミド樹脂。
【0011】
(II)樹脂中に残存するカルボキシル基の割合が0.10mmol/g以下
であることを特徴とする(I)に記載のアクリル系イミド樹脂。
【0012】
(III)第1押出機、第2押出機、及び、第1押出機の樹脂吐出口と第2押
出機の原料供給口を接続する部品を有するタンデム型押出機を用いて、第1押出機においてアクリル系樹脂とイミド化剤とを処理する第1段目反応を行い、第2押出機において、第1押出機における反応生成物をさらにエステル化剤と処理する第2段目反応を行うことによって得られることを特徴とする(I)又は(II)に記載のアクリル系イミド樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学材料や耐熱性材料として有用な、異物生成しにくいアクリル系イミド樹脂を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるタンデム型反応押出機の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は樹脂中に残存するカルボキシル基の割合が0.15mmol/g以下であることを特徴とするアクリル系イミド樹脂および、第1押出機、第2押出機、及び、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品を有するタンデム型押出機を用いて、第1押出機においてアクリル系樹脂とイミド化剤とを処理する第1段目反応を行い、第2押出機において、第1押出機における反応生成物をさらにエステル化剤と処理する第2段目反応を行うことによって得られる該アクリル系イミド樹脂の製造方法である。
【0016】
前記アクリル系イミド樹脂は、本発明のカルボキシル基の割合を満足すれば、特に限定されないが、下記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位を含有するアクリル系イミド樹脂が好ましい。
【0017】
更に一般式(3)で表される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0018】
【化1】

【0019】
(但し、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0020】
【化2】

【0021】
(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0022】
【化3】

【0023】
(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
前記一般式(1)は一般的にグルタルイミド単位と呼ばれる事が多い(以下、一般式(1)をグルタルイミド単位と略して記す。)。
【0024】
好ましいグルタルイミド単位としては、R1、R2が水素又はメチル基であり、R3が水素、メチル基、ブチル基、又はシクロヘキシル基である。R1がメチル基であり、R2が水素であり、R3がメチル基である場合が、特に好ましい。
【0025】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R1、R2、R3が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0026】
尚、グルタルイミド単位は、上述したアクリル系イミド樹脂を製造する方法において説明したアクリル系樹脂をイミド化する事により形成する事が可能である。
【0027】
前記一般式(2)においてR4として好ましくは、水素原子であり、R5として好ましくはメチル基である。R6として好ましくはメチル基である。また、R7として好ましくは水素であり、R8として好ましくはフェニル基である。
【0028】
前記一般式(3)は一般的には芳香族ビニル単位と呼ばれる事が多い(以下、一般式(3)を芳香族ビニル単位と略して記す。)
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、R7が水素及びR8がフェニル基であるスチレン、R7がメチル基及びR8がフェニル基であるα−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0029】
前記アクリル系イミド樹脂はさらに下記一般式(4)、(5)で表される繰り返し単位を含有していてもよい。
【0030】
【化4】

【0031】
(R9及びR10は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
【0032】
【化5】

【0033】
(但し、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。)
本発明における樹脂中に残存するカルボキシル基とは前記一般式(5)で表される繰り返し単位である。
【0034】
本発明のタンデム型押出機とは、例えば、第1押出機、第2押出機の2台を、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品(以下、単に接続部品と略記することもある)で接続したものがあげられる。必要に応じてさらに、第3押出機を接続部品で接続したものであってもよい。少なくとも2基以上であれば、接続台数は適宜設定できる。
【0035】
図1に、本発明によるタンデム型反応押出機の一例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。同図に示すように、第1押出機(1)と第2押出機(2)がタンデム型に配置されている。タンデム型とは、図1のような並列配列でも、第1押出機(1)と第2押出機(2)が直角に配列される直交配列のどちらでも構わない。第1押出機(1)の吐出口(6)は、接続部品(3)を介して、第2押出機(2)の原料供給口(7)に接続されている。
【0036】
本発明においては、原料であるアクリル系樹脂は、固体状態の樹脂を用いることができ、第1押出機原料供給口(5)より、フィーダー装置等で供給され、押出機内で加熱溶融される。フィーダー装置としては、定重量フィーダー、定容積フィーダー等が挙げられる。押出機内で樹脂が溶融された後の部分に設けられた第1段目反応のイミド化剤供給口(8)から、ポンプ等の供給装置を用いて、イミド化剤を供給し、アクリル系樹脂とイミド化剤の第1段目反応を行う。
【0037】
第1押出機(1)における第1段目反応生成物は、樹脂吐出口(6)に接続した接続部品(3)を経由して第2押出機原料供給口(7)へ導かれ、第2押出機(2)へ投入される。
【0038】
接続部品(3)とは、例えば、樹脂流路形状が円管、L型管のようなものがあげられる。本発明に係る接続部品は、緩やかな樹脂流路の容積変化を有したものが好ましい。特に好ましくは、容積変化の無い樹脂流路を有した接続部品である。急激に容積が変化した樹脂流路を持つ接続部品では、樹脂と反応副生成物が発泡、分離して押出が変動し、反応が不均一になる為、好ましくない。
【0039】
本発明のタンデム型押出機は接続部品(3)に圧力制御機構(4)を設置してもよい。圧力制御機構(4)を利用して第1段目反応を昇圧させることで反応を促進することも可能である。
【0040】
また、圧力制御機構(4)を有しない場合、第1押出機(1)にベント口を設置して第1段目反応の未反応イミド化剤、反応副生成物、分解物などを除去することも可能である。第1段目反応のイミド化剤供給口(8)からベント口までの距離は、実施する反応の反応率などから適宜設定してやればよい。ベント口の圧力は大気圧下、または真空下等が挙げられ、好ましくは真空下である。又、ベント口は1個以上設けるのが好ましく、必要に応じて複数個設ける事も可能である。ベント口が多いほど残存揮発分の除去が促進されて好ましいが、押出機の長さ、反応ゾーンの必要長さや揮発分の除去効率との兼ね合いから適宜設定してやれば良い。
【0041】
次いで、第2押出機(2)原料供給口(7)後に設けられたベント口(9)で、第1押出機(1)から供給された第1押出機における反応生成物中の第1段目反応の未反応イミド化剤、反応副生成物、分解物などを除去する。第2押出機のベント口(9)の設置位置は原料供給口(7)よりも軸受け側に設置することが好ましい。ベント口の圧力は大気圧下、または真空下等が挙げられ、好ましくは真空下である。又、ベント口(9)は必要に応じて複数個設ける事も可能である。第2押出機にベント口(9)を有すると、第1段目反応の未反応イミド化剤、反応副生成物、分解物などの残存揮発分が除去されて最終製品の品質改善につながるので好ましい。
【0042】
第2押出機(2)への第2段目反応におけるエステル化剤の供給は、第2段目反応のエステル化剤供給口(10)から、ポンプ等を用いて供給し、第1押出機における反応生成物とエステル化剤等による第2段目反応を行う。
【0043】
次いで、第2押出機(2)のエステル化剤供給口(10)より下流側にベント口(11)が設けられ、第2段目反応生成物中の未反応副原料、反応副生成物、分解物などを除去する。エステル化剤供給口(10)からベント口までの距離は、実施する反応の反応率などから適宜設定してやればよい。ベント口の圧力は大気圧下、または真空下等が挙げられ、好ましくは真空下である。又、ベント口は必要に応じて複数個設ける事も可能である。好ましくは2個以上である。ベント口が多いほど残存揮発分の除去が促進されて好ましいが、押出機の長さや揮発分の除去効率との兼ね合いから適宜設定してやれば良い。
【0044】
更に、第2押出機(2)に於いては、第1段目反応生成物と第2段目エステル化剤の第2段目反応を行わず、必要に応じて複数個のベントで第1段目反応の未反応イミド化剤、反応副生成物、分解物などの脱揮のみを行う事も可能である。
【0045】
触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤等各種添加剤は、第1押出機(1)の原料供給口(5)から原料樹脂と共に供給出来る。又、各種添加剤は必要に応じて、例えば、第2押出機(2)の添加剤供給口(12)からも供給出来る。添加剤供給口(12)からの各種添加剤の供給方法としては、サイドフィード法、押出機上部から添加する個別フィード法、溶解あるいは融解可能な添加剤は溶解あるいは融解させて液体状態で添加する液体添加法等が挙げられる。
【0046】
添加剤供給口(12)の下流にも残存揮発分の除去の観点からベント口(14)を1個以上有することが好ましい。この場合も、数は特に制限されないが、多いほど残存揮発分が除去できるので好ましい。
【0047】
また、各種添加剤の添加が不要であれば、第2押出機には添加剤供給口を設置しなくても構わない。
【0048】
さらに、本発明のタンデム型反応押出機において、第1押出機(1)の吐出口(6)と第2押出機(2)の原料供給口(7)を接続する部品間に、フィルターを有していてもよい。また、第2押出機(2)の吐出口とストランドダイを接続する部品間に、フィルターを有していてもよい。フィルターの前には樹脂を昇圧するためのギアポンプを設置した方が好ましい。フィルターの種類としては、溶融ポリマーからの異物除去が可能なステンレス製のリーフディスクフィルターを使用するのが好ましく、フィルターエレメントとしてはファイバータイプ、パウダータイプ、あるいはそれらの複合タイプを使用するのが好ましい。
【0049】
本発明においては、第2押出機(2)から吐出される樹脂は溶融状態のままストランドダイに送られ、円柱状のストランドとして押し出される。このストランドは冷却ベルト上をシャワー水を浴びながら冷却され、ペレタイザで粒状のペレットに細断される。
【0050】
本発明に於ける押出機としては、単軸押出機、同方向噛合型二軸押出機、同方向非噛合型二軸押出機、異方向噛合型二軸押出機、異方向非噛合型二軸押出機、多軸押出機等各種押出機が適用出来る。その中でも、特に、混錬/分散能力が高い点で各種二軸押出機を適用するのが好ましく、混錬/分散能力、生産性が高い事から同方向噛合型二軸押出機が更に好ましい。
【0051】
ここでは、第1押出機でアクリル系樹脂とイミド化剤とを処理する第1段目反応を行い、第2押出機で第1押出機における反応生成物をさらにエステル化剤と処理する第2段目反応を行い、アクリル系イミド樹脂を得る製造方法について、具体的に説明する。
【0052】
上記タンデム型押出機の第1押出機において、先ずアクリル系樹脂を原料樹脂(主原料)として用い、これにアンモニア又は置換アミン等の第1段目反応の副原料(以下、イミド化剤と呼ぶ)を処理した樹脂(以下、アクリル系イミド樹脂中間体と呼ぶ)を得ることができる。次いで、このアクリル系イミド樹脂中間体は、上記タンデム型押出機の第2押出機において、第2段目反応の副原料(以下、エステル化剤と呼ぶ)で処理し、必要により加熱処理等を行い本発明のアクリル系イミド樹脂を得ることができる。
【0053】
本発明のアクリル系樹脂としては、無水マレイン酸等の酸無水物又はそれらと炭素数1〜20の直鎖又は分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をあげることができる。また、下記一般式(2)で表される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体、又は、下記一般式(2)で表される繰り返し単位と、下記一般式(3)で表される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチルースチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステルー芳香族ビニル共重合体等があげられる。
【0054】
【化6】

【0055】
(但し、R4及びR5は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0056】
【化7】

【0057】
(但し、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
前記式(2)においてR4として好ましくは、水素原子であり、R5として好ましくはメチル基である。R6として好ましくはメチル基である。また、R7として好ましくは水素であり、R8として好ましくはフェニル基である。
【0058】
本発明のアクリル系イミド樹脂を製造する際に、用いる事ができるアクリル系樹脂は、イミド化反応が可能であれば、リニアー(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、又はこれら以外のいずれのタイプのブロックポリマーであっても構わない。コアシェルポリマーはただ一層のコア及びただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても構わない。
【0059】
本発明のイミド化に使用されるイミド化剤はアクリル系樹脂をイミド化することができれば特に制限されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンが挙げられる。また、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素の如き加熱によりこれらのアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。これらのイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミンが好ましい。
【0060】
イミド化剤の添加量は必要な物性を発現する為のイミド化率によって適宜決定してやればよい。好ましくは、主原料の100重量部に対して、1〜100重量部である。
【0061】
本発明で使用するエステル化剤としては特に制限されないが、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0062】
エステル化剤の添加量は、必要な物性を発現する為の樹脂中に於ける酸成分の割合によって決定される。好ましくは、アクリル系イミド樹脂中間体の100重量部に対して、1〜100重量部である。 エステル化を促進させるために使用する触媒は例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドといった塩基触媒や、例えば、p−トルエンスルホン酸、テトラブチルチタネート、マンガンテトラアセテートといった酸触媒及びルイス触媒が挙げられる。これらのうちで塩基触媒が好ましく、より好ましくは例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミンといった三級アミンであり、さらに好ましくはトリエチルアミンである。
【0063】
前記第1押出機における反応生成物であるアクリル系イミド樹脂中間体(以下、高酸価樹脂と呼ぶ事がある)は、上記タンデム型反応押出機の第2押出機に於いて、第2段目反応のエステル化剤で処理し、必要により加熱処理等を行うことで、樹脂中に残存する酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)の割合を低減した樹脂(以下、低酸価樹脂と呼ぶ事がある)を得る事が出来る。また、第2押出機において、加熱処理(押出機内での溶融樹脂の混錬/分散)のみを行った場合でも、高酸価樹脂における酸成分同士の脱水反応および/または酸成分とアルキルエステル基の脱アルコール反応、等により酸成分の一部または全部を酸無水物基とする事が出来る。加熱処理温度は過剰な熱履歴による樹脂の分解、着色等を抑制する為に、反応温度は150〜400℃の範囲で行う。180〜320℃が好ましく、更には200〜280℃が好ましい。
【0064】
更に、低酸価樹脂を減圧脱揮等により、樹脂中に含まれるエステル化剤やその副生成物を除去し、本発明のアクリル系イミド樹脂を得る事が出来る。
【0065】
本発明の低酸価樹脂を得るには、イミド化反応或いはエステル化反応を進行させ、且つ、過剰な熱履歴による樹脂の分解、着色等を抑制する為に、反応温度は150〜400℃の範囲で行う。180〜320℃が好ましく、更には200〜280℃が好ましい。
【0066】
前述のような製造方法以外でも、本発明のタンデム型反応押出機でアクリル系イミド樹脂が得られる方法であれば、特に製造方法に制限はない。
【0067】
アクリル系イミド樹脂中間体(高酸価樹脂)をエステル化剤で処理、及び/又は加熱処理する際、又は低酸価樹脂に対して、一般に用いられる触媒、酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などの添加剤を本発明の目的が損なわれない範囲で添加しても良い。
【0068】
本発明に用いることの出来る紫外線吸収剤としては、公知の紫外線吸収剤を用いることができる。好ましい、紫外線吸収剤としては、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤より選択される1種類以上の紫外線吸収剤である。
【0069】
本発明で使用するトリアジン系紫外線吸収剤の好ましい化合物として、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(へキシル)オキシ]−フェノールである。このものは25℃の蒸気圧が9×10-10Paと低いため溶融押出しにおいてベントおよびダイからのガス揮発が少なく好ましい。また、紫外線吸収剤のガス揮発性は10%重量減少する温度でも表すことができ、本発明には好ましくは300℃以上、さらに好ましくは350℃以上、より好ましくは380℃以上の紫外線吸収剤を用いる。
【0070】
本発明で使用する好ましいベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、メチル3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート/ポリエチレングリコール300の反応生成物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖および側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール等が挙げられる。特に好ましいベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールである。該紫外線吸収剤は、25℃の蒸気圧が10-5Pa以下と低く、また10%重量減少温度が304℃と高温であるためガス揮発が少なく、特に好ましい。その他の特に好ましいベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]であり、その10%重量減少温度は389℃とさらに高温であるためガス揮発が少なく、特に好ましい。
【0071】
本発明で使用するベンゾフェノン系紫外線吸収剤の好ましい化合物として、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクチルオキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタン、1,4−ビス(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)−ブタン等であり、25℃の蒸気圧が10-5Pa以下と低いため好ましい。
【0072】
本発明における紫外線吸収剤の添加量は、アクリル系イミド樹脂の合計100重量%に対して、0.1〜5重量%であることが好ましい。より好ましくは、0.2〜4重量%である。さらに好ましくは、0.3〜3重量%である。紫外線吸収剤の添加量が0.1重量%より少ない場合は、380nmにおける光線透過率が高くなり、紫外線の遮断効果が不十分となる場合があり、5重量%より多い場合は着色が激しくなるおそれがある。また、紫外線吸収剤の添加量が5重量%より多い場合は、フィルム成形体のヘーズが高くなり、透明性が悪化するおそれがある。これら紫外線吸収剤は単一でも良くまた複数を混合して用いてもかまわない。
【0073】
本発明で得られるアクリル系イミド樹脂中の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、例えば所望の位相差やR3の構造にも依存するが、アクリル系イミド樹脂の1重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の、好ましい含有量は、1重量%から95重量%であり、より好ましくは1〜90重量%である。グルタルイミド単位の割合がこの範囲より小さい場合、得られるアクリル系イミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれる事がある。また、この範囲を超えると不必要に耐熱性、溶融粘度が上がり、成形加工性が悪くなる他、得られるフィルムの機械的強度は極端に脆くなり、又、透明性が損なわれる事がある。
【0074】
アクリル系イミド樹脂の、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、アクリル系イミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、50重量%以下が好ましい。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるアクリル系イミド樹脂の耐熱性が不足する。
【0075】
主原料のアクリル系樹脂である、一般式(2)、(3)及び、イミド化剤の割合を調整することで、一般式(1)で表される単位と、一般式(2)で表される単位及び/又は一般式(3)で表される単位とを任意の割合で含有するアクリル系イミド樹脂を得ることができ、一般式(1)、(2)、(3)の割合を調整することで、各種要求される物性に調整する事が可能である。例えば、本発明のアクリル系イミド樹脂を、先ずメチルメタクリレート−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を重合した後にイミド化して形成する場合、例えば(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルの重合割合を調整することで一般式(3)の割合を決め(一般式(3)の割合を0とする事も可能)、更にイミド化時のイミド化剤の添加割合を調整する事で、更に一般式(1)、(2)の割合を調整する事ができる。
【0076】
一般式(4)及び一般式(5)はアクリル系樹脂をイミド化剤でイミド化させた場合に生成する副生成物である。一般式(4)の繰り返し単位は熱をかけただけでは安定であり、アクリル系イミド樹脂中の一般式(4)の割合は特に制限は無い。
【0077】
本発明における樹脂中に残存するカルボキシル基とは一般式(5)で表される繰り返し単位である。
【0078】
本発明では、アクリル系イミド樹脂中のカルボキシル基の割合は0.15mmol/g以下であることが必要である。より好ましくは0.10mmol/g以下である。アクリル系イミド樹脂中のカルボキシル基の割合が0.15mmol/g以下であれば、フィルター等の滞留する装置を使用した成形を行う際に、長時間運転して熱を受けても樹脂由来の異物が増加し難く、この値を超えると、異物が増加してしまう。
【0079】
本発明のアクリル系イミド樹脂には、必要に応じ、更に、別の構成単位が共重合されていてもかまわない。該構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いる事ができる。これらはアクリル系イミド樹脂中に、直接共重合していても良く、グラフト共重合していても構わない。第四の構成単位は、アクリル系イミド樹脂中に含まれている事が好ましい。
【0080】
本発明の製造法において得られるアクリル系イミド樹脂中で、一般式(3)を含有するタイプは、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体中の各構成単位量及びグルタルイミド単位の含有量を調節する事で実質的に配向複屈折を有さない特徴を付与する事も可能である。配向複屈折とは所定の温度、所定の延伸倍率で延伸した場合に発現する複屈折の事をいう。本明細書中では、特にことわりのない限り、アクリル系イミド樹脂のガラス転移温度より5℃高い温度で、100%延伸した場合に発現する複屈折の事をいうものとする。
【0081】
ここで配向複屈折は、ポリマー構造由来の固有複屈折と分子配向状態に由来する配向分布関数の積であり、延伸軸方向の屈折率(nx)と、それと直行する軸方向の屈折率(ny)から、次式
△nor=nx−ny
で定義され、位相差計により測定される位相差Re(nm)を厚みd(μm)で割った値である。
【0082】
配向複屈折△nor=Re/d
配向複屈折は上記したように、延伸軸方向の屈折率(nx)とそれと直行する軸方向の屈折率(ny)の差であるので、nxがnyより大きい場合は正の値を示し、逆にnxがnyより小さい場合は負の値を示す。
【0083】
配向複屈折の値としては、−0.1×10-3〜0.1×10-3である事が好ましく、−0.01×10-3〜0.01×10-3である事がより好ましい。配向複屈折が上記の範囲外の場合、環境の変化に対して、成形加工時に複屈折を生じ易く、安定した光学的特性を得る事が難しくなる。
【0084】
又、本発明のアクリル系イミド樹脂は、1×104ないし5×105の重量平均分子量を有する事が好ましい。アクリル系樹脂の製造過程で、樹脂に対して過剰な熱履歴を与えると熱分解が生じ、重量平均分子量が1×104を下回る。更には、架橋が生じ、重量平均分子量が5×105を上回る場合もある。本発明に於けるアクリル系イミド樹脂の製造方法を適用すれば、アクリル系イミド樹脂の製造過程で、樹脂に対する熱履歴が低減でき、上記重量平均分子量の範囲を達成できる。重量平均分子量が1×104を下回る場合には、フィルムにした場合の機械的強度が不足し、5×105を上回る場合には、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する事がある。
【0085】
本発明のアクリル系イミド樹脂に於けるガラス転移温度は110℃以上である事が好ましく、120℃以上である事がより好ましい。ガラス転移温度が上記の値を下回ると、耐熱性が要求される用途においては適用範囲が制限される。
【0086】
本発明のアクリル系イミド樹脂は、ポリマーフィルターを通過させるなど、温度200〜300℃で、かつ1時間ほどの滞留時間が必要な成形において、粘度低下や発泡等の熱安定性が品質課題であり、熱安定性試験における粘度低下率が小さいほど熱安定性は良好であり、粘度低下率は30%未満が好ましく、20%未満がさらに好ましい。また、熱安定性試験開始から発泡し始めるまでの発泡開始時間が長いほど熱安定性は良好であり、発泡開始時間は30分以上が好ましく、50分以上がさらに好ましい。
【0087】
本発明のアクリル系イミド樹脂には、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を添加する事が出来る。成形加工の際には、一般に用いられる上述の酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤等を本発明の目的が損なわれない範囲で添加しても良い。
【0088】
本発明のアクリル系イミド樹脂から得られる成形品は、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズ等の映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズ等のレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤー等の光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルム等の液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルム等の情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクター等の光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフ等の車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品等の医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジング等の建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具、等に使用可能である。
【実施例】
【0089】
本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例で測定した物性の各測定方法は次の通りである。
【0090】
(1)イミド化率の測定
生成物のペレット1gをジクロロメタン5ccに溶解し、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)の比からイミド化率を求めた。ここで、イミド化率とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0091】
(2)樹脂中に残存するカルボキシル基の割合の測定
ジクロロメタン37.5mlに生成物のペレット0.3gを溶解させ、メタノール37.5mlを添加した。この溶液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加して1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Aml)を測定した。
【0092】
次に、ジクロロメタン37.5mlとメタノール37.5mlの混合液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加した。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加して1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Bml)を測定した。
【0093】
樹脂中に残存する酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)の割合を酸価Cmmol/gとし、次式で求めた。
【0094】
C=0.1×((5−A−B)/0.3)
ジクロロメタン37.5mlに生成物のペレット0.3gを溶解させ、ジメチルスルホキシド37.5mlを添加した。この溶液に1wt%フェノールフタレインジメチルスルホキシド溶液を2滴添加し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加して攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(A’ml)を測定した。
【0095】
次に、ジクロロメタン37.5mlとジメチルスルホキシド37.5mlの混合液に1wt%フェノールフタレインジメチルスルホキシド溶液を2滴添加した。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加して攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(B’ml)を測定した。
【0096】
樹脂中に残存する酸成分(カルボキシル基および酸無水物基由来のモノ)の割合を酸価C’mmol/gとし、次式で求めた。
【0097】
C’=0.1×((5−A’−B’)/0.3)
樹脂中に残存するカルボキシル基の割合を酸価C’’mmol/gとし、次式で求めた。
【0098】
C’’=2×CーC’
(3)異物評価
ポリマーフィルターなどのフィルターを取り付けて長時間滞留を受けた場合の異物評価方法として、キャピラリーレオメータを使用し、樹脂をキャピラリーレオメータ内に詰め込み、フィルター通過時の温度でゆっくり押し出すことで長時間熱を受けるようにした。以下に試験方法を記載する。
【0099】
アクリル系イミド樹脂のペレット20gをキャピラリーレオメータ((株)東洋精
機製作所製キャピログラフ1D)に詰め込み、直径1mm長さが10mmのダイスを使用し、粘度が1,500〜2,000Pa・sの範囲となる温度で実施する。2mm/minの速度でピストンを押し込みストランドを得た。測定開始から10分〜20分のストランド(滞留試験開始前)と30分〜40分のストランド(滞留試験開始後)を取得する。
【0100】
得られた10cm長さのストランド中に含まれる50μm以上の異物の数をマイクロスコープ観察などでカウントし、10本分を合計して異物数とした。
【0101】
(実施例1)
装置としては、図1に示すものと同等なものを使用した。タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機(1)、第2押出機(2)共に直径15mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が60の同方向噛合型二軸押出機(テクノベル(株)製)を使用し、コイルスクリュ式定容積フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機原料供給口(5)に原料樹脂を供給した。第1段目反応副原料(イミド化剤)、第2段目反応副原料(エステル化剤)の供給位置は図1に示すものと同等とした。又、第2押出機に於けるベントの位置も図1に示すものと同等とし、(9)のベントは大気圧、(11)及び(14)のベントの減圧度は−0.095MPaとした。
【0102】
第1押出機に関して、アクリル系樹脂として、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(Mw 95,000 スチレン量11モル%)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いアクリル系イミド樹脂中間体(高酸価樹脂)を製造した。この際、直径10mm、長さ1mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し(接続部品(3))、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機原料供給口を接続する部品内の圧力制御機構(4)には定流圧力弁を用いた。定流圧力弁は第2押出機原料供給口(7)直前に設置し、第1押出機出口圧力、第1押出機と第2押出機接続部品中央部圧力(接続部品内圧力)を15MPaになるように調整した。
【0103】
押出機各バレル温度を250℃、スクリュ回転数は150rpm、アクリル系樹脂供給量は5kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100重量部に対して20重量部とした。
【0104】
第2押出機に関して、エステル化剤として炭酸ジメチルとトリエチルアミンの混合溶液を用いてアクリル系イミド樹脂を製造した。この際、押出機各バレル温度を250℃、スクリュ回転数は150rpm、炭酸ジメチルの添加量は樹脂100重量部に対して8重量部、トリエチルアミンの添加量はアクリル系樹脂100重量部に対して2重量部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した。添加剤供給口(12)から紫外線吸収剤2,2'−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]を原料樹脂100重量部に対して3重量部添加した後に、再度ベントで残存揮発分を除去した。第2押出機から吐出された樹脂はストランドダイから押し出され、水槽で冷却した後、ペレタイザーでカッティングしペレットとした。
【0105】
上記条件で約2時間の製造を行い、得られたアクリル系イミド樹脂は、イミド化率75%、樹脂中に残存するカルボキシル基の割合0.05mmol/gであった。また、滞留試験開始時の異物数は12個で、滞留試験開始後の異物数は14個であった。
【0106】
(実施例2)
原料樹脂として、ポリメタクリル酸メチル(Mw:10.5)を使用して、イミド化剤2重量部、エステル化剤6重量部、第1押出機に大気圧ベントを設けて、イミド化反応の未反応イミド化剤、反応副生成物、分解物などの残存揮発分を除去するとともに、定流圧力弁を全開にした以外は、実施例1と同様の方法でアクリル系イミド樹脂を製造した。
【0107】
結果、得られたアクリル系イミド樹脂は、イミド化率14%、樹脂中に残存するカルボキシル基の割合は0.06mmol/gであった。また、滞留試験開始時の異物数は11個で、滞留試験開始後の異物数は13個であった。
【0108】
(実施例3)
原料樹脂として、ポリメタクリル酸メチル(Mw:10.5)を使用して、イミド化剤2重量部、エステル化剤2重量部、第1押出機に大気圧ベントを設けて、イミド化反応の未反応イミド化剤、反応副生成物、分解物などの残存揮発分を除去するとともに、定流圧力弁を全開にした以外は、実施例1と同様の方法でアクリル系イミド樹脂を製造した。
【0109】
結果、得られたイミド樹脂は、イミド化率14%、樹脂中に残存するカルボキシル基の割合は0.13mmol/gであった。また、滞留試験開始時の異物数は12個で、滞留試験開始後の異物数は19個であった。
(比較例1)
第2押出機でエステル化剤の添加と、その脱揮を行わない以外は実施例1と同様の方法でイミド樹脂を製造した。
【0110】
結果、得られたアクリル系イミド樹脂は、イミド化率75%、樹脂中に残存するカルボキシル基の割合は0.32mmol/gであった。また、滞留試験開始時の異物数は11個で、滞留試験開始後の異物数は59個であった。
異物生成が多く、光学用途には不向きである。
【符号の説明】
【0111】
1 第1押出機
2 第2押出機
3 接続部品
4 第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機原料供給口を接続する部品内圧力 制御機構
5 第1押出機原料供給口
6 第1押出機吐出口
7 第2押出機原料供給口
8 第1段目反応のイミド化剤供給口
9 第2押出機ベント口
10 第2段目反応のエステル化剤供給口
11 第2押出機ベント口
12 各種添加剤供給口
13 第2押出機ベント口
14 第2押出機ベント口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中に残存するカルボキシル基の割合が0.15mmol/g以下であることを特徴とするアクリル系イミド樹脂。
【請求項2】
樹脂中に残存するカルボキシル基の割合が0.10mmol/g以下であることを特徴とする請求項1に記載のアクリル系イミド樹脂。
【請求項3】
第1押出機、第2押出機、及び、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品を有するタンデム型押出機を用いて、第1押出機においてアクリル系樹脂とイミド化剤とを処理する第1段目反応を行い、第2押出機において、第1押出機における反応生成物をさらにエステル化剤と処理する第2段目反応を行うことによって得られることを特徴とする請求項1又は2記載のアクリル系イミド樹脂の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−37921(P2011−37921A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183572(P2009−183572)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】