説明

アクリル系ゴム組成物の製造方法

【課題】粘着力が小さく加工性が良好であり、低温特性に優れ、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さく、且つ十分な機械的強度を有し、弾性に優れたアクリル系ゴム組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明に係るアクリル系ゴム組成物の製造方法は、層状粘土鉱物を含有した溶媒中で、アクリル酸エステル及び架橋点モノマーを含むモノマー成分の重合を行うことによって重合液を得る工程と、前記重合液に対して塩析を行う工程とを包含し、前記アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば軸受用シール、オイルシール、パッキンなどのシール材等の材料として用いられるアクリル系ゴム組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム材料には、高性能化、高機能化の要求の高まりを背景にして、機械的強度、弾性、耐熱性等の各種物性の向上が求められている。このため、従来から、ゴムにフィラーを配合してゴム材料の物性を向上させることが行われている。
【0003】
例えば、層状粘土鉱物をマトリックスであるジエン系ゴム成分中にナノレベルで微分散させたナノコンポジットゴムが最近開発されている(特許文献1参照)。このようなゴム組成物を材料にした自動車用タイヤは、破壊強度、耐屈曲疲労等のタイヤに必要な特性が顕著に改善向上することが知られている。
【0004】
一方、パッキン、シール、その他の各種ゴム製品においては、耐熱性、弾性、耐油性、耐候性、耐老化性等が必要とされることが多い。特に、シール材の用途においては、耐熱性、耐油性が重要であることが多いが、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴムでは、耐熱性、耐油性が不十分であることから、このような用途には例えばアクリル系ゴム等が従来から使用されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−327751号公報
【特許文献2】特公平3−16969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、このようなアクリル系ゴムが使用されるシール材等の用途においても、高性能化、高機能化の要求の高まりに伴い、機械的強度等の物性の向上が求められており、特に弾性特性を向上させることが強く求められていた。
【0006】
更に、シール材等の用途では、低温特性を向上させること及びグリース等の潤滑剤に対する膨潤性をより低減することも求められていた。
【0007】
そこで、本発明者は鋭意研究した結果、重合成分の主成分としてブチルアクリレートやメトキシエチルアクリレートを用いたアクリル系ゴムからなる軸受用シール等のシール材は、低温特性に優れる上に、グリース等との相性に優れている(即ち膨潤性が小さい)という利点を備えていることを見出すに至り、この知見に基づいて軸受用シール等のシール材などとして用いることを検討した。しかるに、このようなブチルアクリレートやメトキシエチルアクリレートを重合成分の主成分として重合してなるアクリル系ゴムは、粘着力が極めて大きいので、例えば混練加工する際にロールに強く粘着して加工が非常に困難であり、このような高粘着力によって量産化できないという問題があった。
【0008】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、粘着力が小さく加工性が良好であり、低温特性に優れ、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さく、且つ十分な機械的強度を有し、弾性に優れたアクリル系ゴム組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]層状粘土鉱物を含有した溶媒中で、アクリル酸エステル及び架橋点モノマーを含むモノマー成分の重合を行うことによって重合液を得る工程と、
前記重合液に対して塩析を行う工程とを包含し、
前記アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いることを特徴とするアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【0011】
[2]前記溶媒として、層状粘土鉱物の層間の交換性陽イオンと溶媒和して該層間内にインターカレートすることのできる溶媒を用いる前項1に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【0012】
[3]層状粘土鉱物を含有した水中で、アクリル酸エステル及び架橋点モノマーを含むモノマー成分の乳化重合を行うことによって乳化重合液を得る工程と、
前記乳化重合液に対して塩析を行う工程とを包含し、
前記アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いることを特徴とするアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【0013】
[4]前記モノマー成分の全量100質量部に対して前記層状粘土鉱物を1〜200質量部混合せしめて重合を行って前記重合液を得る前項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【0014】
[5]前記層状粘土鉱物として、アミンで処理された層状粘土鉱物を用いる前項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【0015】
[6]前記層状粘土鉱物が、スメクタイト族粘土鉱物である前項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【0016】
[7]前記スメクタイト族粘土鉱物が、モンモリロナイトである前項6に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【0017】
[8]前項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られたアクリル系ゴム組成物を架橋剤で架橋してなる架橋体からなるアクリル系ゴム成形体。
【0018】
[9]アクリル酸エステル及び架橋点モノマーを含むモノマー成分の重合によって得られたアクリル系ゴムのマトリックス中に、層間で剥離して得られた層状粘土鉱物の剥離片が分散されてなり、
前記アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルが用いられていることを特徴とするアクリル系ゴム組成物。
【0019】
[10]前項9に記載のアクリル系ゴム組成物を架橋剤で架橋してなる架橋体からなるアクリル系ゴム成形体。
【発明の効果】
【0020】
[1]の発明では、層状粘土鉱物を含有した溶媒中でアクリル系ゴムの重合を行うことにより、層状粘土鉱物がナノレベルで分散された状態下においてアクリル系ゴムの重合が進行し、次いで塩析を行うことによってアクリル系ゴム組成物のマトリックス中にナノレベルで分散された層状粘土鉱物が取り込まれるので、アクリル系ゴム組成物中に層状粘土鉱物がナノレベルで均一に分散されたものを製造することができる。このように層状粘土鉱物がナノレベルで均一に分散されているので、得られたアクリル系ゴム組成物は、弾性特性に優れたものとなると共に十分な機械的強度も備えている。また、アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いるので、得られたアクリル系ゴム組成物は、低温特性に優れると共に、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さいものとなる。更に、アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いた場合には、粘着力が極めて大きいものとなるのであるが、本製造方法では、アクリル系ゴム組成物中に層状粘土鉱物をナノレベルで均一に分散させることができるので、これにより粘着力が十分に低減され、加工性が良好なものとなるので、量産化も十分に可能になる。
【0021】
[2]の発明では、溶媒として、層状粘土鉱物の層間の交換性陽イオンと溶媒和して該層間内にインターカレートすることのできる溶媒を用いるので、層状粘土鉱物の層間に溶媒分子がインターカレートし、該インターカレートによって層状粘土鉱物の層間間隔が大きく拡げられて膨潤した状態になるので、層状粘土鉱物は層間で剥離しやすい状態となり、従ってより一層微小化された層状粘土鉱物(層間で剥離して得られた層状粘土鉱物の剥離片)が均一に分散されたアクリル系ゴム組成物を製造することが可能となる。このような剥離によって一層微小化された層状粘土鉱物(即ち層状粘土鉱物の剥離片)がナノレベルで均一に分散されているので、弾性特性がさらに向上したアクリル系ゴム組成物を得ることができる。
【0022】
[3]の発明では、層状粘土鉱物を含有した水中でアクリル系ゴムの乳化重合を行うことにより、層状粘土鉱物がナノレベルで分散された状態下においてアクリル系ゴムの乳化重合が進行し、次いで塩析を行うことによってアクリル系ゴム組成物のマトリックス中にナノレベルで分散された層状粘土鉱物が取り込まれるので、アクリル系ゴム組成物中に層状粘土鉱物がナノレベルで均一に分散されたものを製造することができる。また、水は、層状粘土鉱物の層間の交換性陽イオンと溶媒和して該層間内にインターカレートすることのできる溶媒であるので、層状粘土鉱物の層間に水分子がインターカレートし、該インターカレートによって層状粘土鉱物の層間間隔が大きく拡げられて膨潤した状態になるので、層状粘土鉱物は層間で剥離しやすい状態となり、該剥離によって一層微小化された層状粘土鉱物(層間で剥離して得られた層状粘土鉱物の剥離片)が均一に分散されたアクリル系ゴム組成物を製造することができる。このように層状粘土鉱物の剥離片がナノレベルで均一に微小分散されているので、得られたアクリル系ゴム組成物は、弾性特性に優れたものとなると共に十分な機械的強度も備えている。また、アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いるので、得られたアクリル系ゴム組成物は、低温特性に優れると共に、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さいものとなる。更に、アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いた場合には、粘着力が極めて大きいものとなるのであるが、本製造方法では、アクリル系ゴム組成物中に層状粘土鉱物をナノレベルで均一に分散させることができるので、これにより粘着力が十分に低減され、加工性が良好なものとなるので、量産化も十分に可能になる。
【0023】
[4]の発明では、モノマー成分の全量100質量部に対して層状粘土鉱物を1〜200質量部混合せしめて重合を行うから、得られるアクリル系ゴム組成物において弾性向上効果及び粘着性低減効果が十分に得られると共に硬度が増大し過ぎることもない。
【0024】
[5]の発明では、層状粘土鉱物として、アミンで処理された層状粘土鉱物を用いるから、重合反応中及びゴム組成物中等において層状粘土鉱物の凝集が十分に防止され、これによりアクリル系ゴム組成物中に層状粘土鉱物がナノレベルで均一に分散されたものを製造することができる。
【0025】
[6]の発明では、層状粘土鉱物としてスメクタイト族粘土鉱物が用いられているから、得られるアクリル系ゴム組成物の弾性特性をより向上させることができる。
【0026】
[7]の発明では、層状粘土鉱物としてモンモリロナイトが用いられているから、得られるアクリル系ゴム組成物の弾性特性をより一層向上させることができる。
【0027】
[8]の発明では、粘着力が小さく加工性が良好であり、低温特性に優れ、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さく、且つ十分な機械的強度を有し、弾性特性に優れたアクリル系ゴム成形体が提供される。
【0028】
[9]の発明では、粘着力が小さく加工性が良好であり、低温特性に優れ、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さく、且つ十分な機械的強度を有し、弾性特性に優れたアクリル系ゴム組成物が提供される。
【0029】
[10]の発明では、粘着力が小さく加工性が良好であり、低温特性に優れ、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さく、且つ十分な機械的強度を有し、弾性特性に優れたアクリル系ゴム成形体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
この発明に係るアクリル系ゴム組成物の製造方法は、層状粘土鉱物を含有した溶媒中で、アクリル酸エステルを含むモノマー成分の重合を行うことによって重合液を得る工程と、前記重合液に対して塩析を行う工程とを包含し、前記アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いることを特徴とする。なお、前記モノマー成分は、アクリル酸エステル及び架橋点モノマーを含有してなるのが好ましい。
【0031】
上記製造方法では、層状粘土鉱物を含有した溶媒中でアクリル系ゴムの重合を行うので、層状粘土鉱物がナノレベルで分散された状態下においてアクリル系ゴムの重合が進行し、次いで塩析を行うことによってアクリル系ゴム組成物のマトリックス中にナノレベルで分散された層状粘土鉱物が取り込まれるので、アクリル系ゴム組成物中に層状粘土鉱物がナノレベルで均一に分散されたものが得られる。このように層状粘土鉱物がナノレベルで均一に分散されているので、得られたアクリル系ゴム組成物は、弾性特性に優れていると共に、十分な機械的強度も備えている。また、アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いるので、得られたアクリル系ゴム組成物は、低温特性に優れると共に、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さいものとなる。一般に、アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いた場合には、粘着力が極めて大きいものとなるのであるが、本製造方法では、アクリル系ゴム組成物中に層状粘土鉱物がナノレベルで均一に分散させることができるので、これにより粘着力が十分に低減され、加工性(例えば混練加工性)が良好になり、量産化も十分に可能になる。
【0032】
前記溶媒としては、層状粘土鉱物の層間の交換性陽イオン(例えばNa+イオン)と溶媒和して該層間内にインターカレートすることのできる溶媒を用いるのが好ましい。このようにインターカレートできる溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば水等が挙げられる。これらの中でも、水を用いるのが好ましい。この場合には、層状粘土鉱物の層間に水分子が多くインターカレートし、該インターカレートによって層状粘土鉱物の層間間隔が十分に大きく拡げられて膨潤した状態になるので、層状粘土鉱物は層間で非常に剥離しやすい状態となり、該剥離によって一層微小化された層状粘土鉱物(層間で剥離して得られた層状粘土鉱物の剥離片)が均一に分散されたアクリル系ゴム組成物を製造することができる。このように層状粘土鉱物が剥離によって一層微小化されて分散されていることにより、アクリル系ゴム組成物の弾性特性をさらに向上させることができる。
【0033】
前記アクリル酸エステルとしては、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いる。アクリル酸エステル成分における前記特定のアクリレートの含有率が60質量%未満では、良好な低温特性が得られないし、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が大きくなる。中でも、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを70質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いるのが好ましい。なお、前記アクリル酸エステルとしては、ブチルアクリレート(アクリル酸ブチル)を単独で用いても良いし、或いはメトキシエチルアクリレート(アクリル酸メトキシエチル)を単独で用いても良い。
【0034】
また、前記アクリル酸エステルとしては、前記特定のアクリレート(ブチルアクリレート及び/又はメトキシエチルアクリレート)以外のアクリル酸エステルを40質量%未満の含有率であれば含有しても良く、このようにブチルアクリレート及び/又はメトキシエチルアクリレートと共に用いられる他のアクリル酸エステルとしては、特に限定されるものではないが、例えばメタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、オクチルアクリレート、メトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシエトキシエチルアクリレート等が挙げられる。
【0035】
前記架橋点モノマーとしては、架橋点になり得る官能基を有した化合物であればどのような化合物でも使用でき、特に限定されるものではないが、例えば2−クロロエチルビニルエーテル、クロロ酢酸ビニル、クロロ酢酸アリル、クロロメチルスチレン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アクリルグリシジルエーテル、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ビニルメタクリレート、ビニルアクリレート、アリルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1,1−ジメチルプロペニルメタクリレート、1,1−ジメチルプロペニルアクリレート、3,3−ジメチルブテニルメタクリレート、3,3−ジメチルブテニルアクリレート、イタコン酸ジビニル、マレイン酸ジビニル、ビニル1,1−ジメチルプロペニルエーテル、ビニル3,3−ジメチルブテニルエーテル、1−アクリロイルオキシ−1−フェニルエテン等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いる。
【0036】
前記層状粘土鉱物としては、特に限定されるものではないが、例えばモンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等のスメクタイト族粘土鉱物等が挙げられる。中でも、前記層状粘土鉱物としてはモンモリロナイトを用いるのが好ましい。
【0037】
前記層状粘土鉱物としては、アミンで処理された層状粘土鉱物を用いるのが好ましい。このように層状粘土鉱物がアミンで処理されて、層状粘土鉱物にアミンが結合していることによって、重合反応中及びゴム組成物中等において層状粘土鉱物の凝集がより十分に防止され得て、アクリル系ゴム組成物中に層状粘土鉱物がナノレベル(例えば1nm〜1000nm)でより均一に分散されたものを製造することができる。
【0038】
前記アミンとしては、特に限定されるものではないが、例えばステアリルアミン、オクタデシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン等のように分子中にカルボキシル基を有したアミンが好適に用いられる。
【0039】
前記層状粘土鉱物へのアミンの処理手法としては、特に限定されるものではないが、例えばアミンの水溶液中に層状粘土鉱物を浸漬した後、層状粘土鉱物を取り出して乾燥させる方法等が挙げられる。この時、アミン水溶液におけるアミンの濃度を1〜20質量%に設定するのが好ましい。
【0040】
この発明の製造方法において、前記モノマー成分と前記層状粘土鉱物の配合割合は、前記モノマー成分の全量100質量部に対して前記層状粘土鉱物を1〜200質量部混合せしめて重合するのが好ましい。1質量部未満では弾性向上効果及び粘着性低減効果が十分に得られなくなるし、一方200質量部を超えると硬度が増大し過ぎるので好ましくない。中でも、前記モノマー成分の全量100質量部に対して前記層状粘土鉱物を0.1〜30質量部混合せしめて重合するのがより好ましい。
【0041】
また、前記アクリル酸エステルと前記架橋点モノマーの混合比は、前記アクリル酸エステル100モルに対して前記架橋点モノマー0.5〜20モルの範囲に設定するのが好ましい。
【0042】
前記重合の際には、通常、重合開始剤が添加される。このような重合開始剤としては、特に限定されるものではないが、例えば過硫酸カリウム等が挙げられる。また、フィラー(層状粘土鉱物を除く)を添加するようにしても良い。前記フィラー(充填剤)としては、特に限定されるものではないが、例えばホワイトカーボン、焼成クレー等が挙げられる。このようなフィラーを添加することによって、得られるアクリル系ゴム組成物の機械的強度を向上させることができる。その他、酸化防止剤等の各種添加剤を配合しても良い。
【0043】
また、前記塩析に用いられる塩としては、特に限定されるものではないが、例えば塩化ナトリウム等が挙げられる。塩によって塩析した後、洗浄、乾燥を行うことによって、アクリル系ゴム組成物が得られる。
【0044】
しかして、上記のようにして製造されたアクリル系ゴム組成物を架橋剤で架橋することによって、アクリル系ゴム成形体を得ることができる。前記架橋剤としては、特に限定されるものではないが、例えば硫黄、4,4’−ジアミノフェニルエーテル、安息香酸アンモニウム等が挙げられる。
【0045】
上記アクリル系ゴム組成物に架橋剤を混合する際には、例えばミキシングロール、密閉式混練機等の公知の混練装置を用いて行うのが良く、しかる後、シート成形等の成形を行うことによって、本発明のアクリル系ゴム成形体を得ることができる。
【実施例】
【0046】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
モンモリロナイト(粉末)2gを80mLの熱水(80℃)に加えてホモジナイザーを用いて5000rpmで10分間攪拌することによってモンモリロナイト分散水性液を得た。また、2.8mmolのアミン(ステアリルアミン0.75g及びラウリルアミン0.52g)と、0.6mLの6NHClとを40mLの熱水(80℃)に加えて良く攪拌することによってアミン溶液を準備する。前記モンモリロナイト分散水性液に前記アミン溶液を加えて5000rpmで10分間攪拌した後、この液を脱泡器にかけて沈殿を生じせしめ、この沈殿物を熱水(80℃)で数回洗浄した後、真空乾燥させることによって、アミンで処理されたモンモリロナイト(アミンが結合したモンモリロナイト)を得た。
【0048】
次に、三角フラスコ中に、窒素置換により脱酸素したイオン交換水50mL、ブチルアクリレート(アクリル酸ブチル)19.0g、無水イタコン酸0.4g、ラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)1.0g、2−メルカプトエタノール(重合調整剤)0.012g、前記アミンで処理されたモンモリロナイト1.0gを投入し、窒素雰囲気の室温下で十分な攪拌混合を行った。こうして得られた乳化モノマー液を3つ口反応フラスコの第1口に取り付けた分液ロートに入れた。一方、前記3つ口反応フラスコの反応槽内にイオン交換水100mLを投入し、該3つ口反応フラスコの第2口にコンデンサー(凝縮器)を取り付け、第3口に窒素置換用(導入用)セプタムラバーを取り付けた後、窒素をフラスコ内に流入させながら30℃で2時間攪拌した。
【0049】
上記30℃×2時間の攪拌後、前記3つ口反応フラスコの反応槽内の液温を60℃に維持した状態で、該反応槽内に過硫酸カリウム(重合開始剤)0.1gを投入し、前記分液ロート中の乳化モノマー液を1時間かけて滴下した(系内を窒素雰囲気に維持した状態で滴下した)。滴下終了後も反応槽内の温度を60℃に維持した状態で2時間攪拌を行った。さらに反応槽内の温度を室温に維持した状態で14時間攪拌を行った。
【0050】
こうして得られた重合液に飽和塩化ナトリウム水溶液300mLを加えて室温で攪拌した(塩析を行った)。塩析により沈殿したアクリル系ゴム組成物を50℃のイオン交換水で攪拌しながら洗浄した。この洗浄操作をモノマー臭が消えるまで行った。洗浄後のアクリル系ゴム組成物を60℃の真空オーブンで十分に乾燥せしめた。
【0051】
上記乾燥したアクリル系ゴム組成物100質量部に対して、ステアリン酸1.0質量部、ステアリン酸カリウム1.0質量部、ステアリン酸ナトリウム0.5質量部、硫黄(架橋剤)0.3質量部を混合してなる組成物をミキシングロールで混練して1次加硫(170℃、12分)してシート状に成形し、次いで2次加硫(160℃、4時間)することによって、厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0052】
<実施例2>
アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート/エチルアクリレート=70/30(質量比)からなるアクリル酸エステル19.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0053】
<実施例3>
アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート/エチルアクリレート=60/40(質量比)からなるアクリル酸エステル19.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0054】
<実施例4>
アクリル酸エステルとして、メトキシエチルアクリレート/エチルアクリレート=80/20(質量比)からなるアクリル酸エステル19.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0055】
<実施例5>
アクリル酸エステルとして、メトキシエチルアクリレート/エチルアクリレート=70/30(質量比)からなるアクリル酸エステル19.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0056】
<実施例6>
アクリル酸エステルとして、メトキシエチルアクリレート/エチルアクリレート=60/40(質量比)からなるアクリル酸エステル19.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0057】
<実施例7>
アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート/メトキシエチルアクリレート=50/50(質量比)からなるアクリル酸エステル19.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0058】
<実施例8>
アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート/メトキシエチルアクリレート=70/30(質量比)からなるアクリル酸エステル19.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0059】
<実施例9>
アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート/メトキシエチルアクリレート=30/70(質量比)からなるアクリル酸エステル19.0gを用いた以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0060】
<比較例1>
乳化モノマー液中にアミンで処理されたモンモリロナイトを含有せしめないものとした以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(モンモリロナイト非含有)を得た。
【0061】
<比較例2>
乳化モノマー液中にアミンで処理されたモンモリロナイトを含有せしめないものとした以外は、実施例4と同様にして厚さ2mmのゴムシート(モンモリロナイト非含有)を得た。
【0062】
<比較例3>
乳化モノマー液中にアミンで処理されたモンモリロナイトを含有せしめないものとした以外は、実施例7と同様にして厚さ2mmのゴムシート(モンモリロナイト非含有)を得た。
【0063】
<実施例10、11>
アミンで処理されたモンモリロナイトの使用量を表3に示す値に設定した以外は、実施例1と同様にして厚さ2mmのゴムシート(アクリル系ゴム成形体)を得た。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
上記のようにして得られた各ゴムシートの諸特性を下記評価法に基づいて評価した。その結果を表1〜3に示す。
【0068】
<粘着力評価法(A法)>
ゴムシート1gをトルエン200mLに溶解せしめ、このゴム溶解液を、メチルエチルケトンで脱脂処理したステンレス板(SUS304)の上に均一にコーティングした後、23℃の条件下で2日間放置することによってトルエンを揮発させて、均一なゴム薄膜(縦17mm×横30mm)を形成した。
【0069】
次に、東洋精機社製のタックテスター(PICM TACK TESTER)を用いてステンレス板に対するゴム薄膜の粘着力を評価した。即ち、ステンレス板の上に形成されたゴム薄膜に上から4.9Nの荷重を10秒間かけた後、ゴム薄膜を10mm/秒の引き上げ速度で角度90度で剥離しながら、その際の剥離強度を測定し、該剥離強度の大きさでゴムシートの粘着力を評価した。各ゴムシート毎に5個の試料を作成し、これら5個の試料の測定値の平均値を剥離強度とした。
【0070】
<粘着力評価法(B法)>
東洋精機社製のタックテスター(PICM TACK TESTER)を用いてステンレス板(SUS430)に対する各ゴムシートの粘着力を評価した。即ち、タックテスターの水平なステンレス板(メチルエチルケトンで脱脂処理されたもの)の上面にゴムシート(縦17mm×横30mm)を載せてその上から4.9Nの荷重を20秒間かけることによってゴムシートをステンレス板に圧着せしめた後、ゴムシートを30mm/秒の引き上げ速度で角度90度で剥離しながら、その際の剥離強度を測定し、該剥離強度の大きさでゴムシートの粘着力を評価した。各ゴムシート毎に5個の試料を作成し、これら5個の試料の測定値の平均値を剥離強度とした。
【0071】
<剥離後の粘着成分の残存付着量の評価法>
上記B法での剥離試験の後、ステンレス板の上面に残った粘着成分の残存付着量(mg)を測定した。粘着力の強いもの程残存付着量が多くなる。
【0072】
<引張強さ測定法>
JIS K6251に準拠してゴムシートの3号ダンベル試験片の引張強さ(MPa)を測定した。
【0073】
<伸び測定法>
JIS K6251に準拠してゴムシートの3号ダンベル試験片の伸び(%)を測定した。
【0074】
<引張弾性率測定法>
JIS K6251に準拠してゴムシートの3号ダンベル試験片の引張弾性率(100%モジュラス)(MPa)を測定した。
【0075】
<デュロメータ硬さ(ショアA)測定法>
JIS K6253に準拠してゴムシートのデュロメータ硬さ(ショアA)を測定した。
【0076】
<Tg(ガラス転移温度)測定法>
ISO11357−2に準拠して、島津示差走査熱量計DSC−50を用いてゴムシートのガラス転移温度(℃)を測定した。
【0077】
表1から明らかなように、アミンで処理されたモンモリロナイトの添加を重合前に行って得られた実施例1〜11のアクリル系ゴム成形体は、剥離強度が小さく且つ剥離後の残存付着量が少なく、即ち粘着力が小さく、従って加工性が良好であり量産化して製造することが十分に可能である。
【0078】
これに対し、モンモリロナイトを添加しなかった比較例1〜3のアクリル系ゴム成形体は、剥離強度及び剥離後の残存付着量が大きく、非常に強い粘着力を備えており(粘着力が強過ぎる)、例えば混練加工することは困難であり、従って量産化して製造することはできない。
【0079】
また、実施例1〜3のTgの対比から、アクリル酸エステル成分におけるブチルアクリレートの含有率が増大すると、Tgが低下していて低温特性がさらに良くなることがわかる。
【0080】
また、実施例4〜6のTgの対比から、アクリル酸エステル成分におけるメトキシエチルアクリレートの含有率が増大すると、Tgが低下していて低温特性がさらに良くなることがわかる。
【0081】
更に、実施例1、10、11のTgの対比から、モンモリロナイトの含有率を増大させていくと、Tgが低下していて低温特性がさらに良くなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
この発明に係るアクリル系ゴム成形体は、低温特性に優れ、グリース等の潤滑剤に対する膨潤性が小さく、弾性特性に優れ、十分な強度も備えているので、例えばパッキン、軸受用シール材等のシール材として好適に用いられるが、特にこれら用途に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状粘土鉱物を含有した溶媒中で、アクリル酸エステル及び架橋点モノマーを含むモノマー成分の重合を行うことによって重合液を得る工程と、
前記重合液に対して塩析を行う工程とを包含し、
前記アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いることを特徴とするアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒として、層状粘土鉱物の層間の交換性陽イオンと溶媒和して該層間内にインターカレートすることのできる溶媒を用いる請求項1に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
層状粘土鉱物を含有した水中で、アクリル酸エステル及び架橋点モノマーを含むモノマー成分の乳化重合を行うことによって乳化重合液を得る工程と、
前記乳化重合液に対して塩析を行う工程とを包含し、
前記アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルを用いることを特徴とするアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
前記モノマー成分の全量100質量部に対して前記層状粘土鉱物を1〜200質量部混合せしめて重合を行って前記重合液を得る請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【請求項5】
前記層状粘土鉱物として、アミンで処理された層状粘土鉱物を用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【請求項6】
前記層状粘土鉱物が、スメクタイト族粘土鉱物である請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
前記スメクタイト族粘土鉱物が、モンモリロナイトである請求項6に記載のアクリル系ゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法で得られたアクリル系ゴム組成物を架橋剤で架橋してなる架橋体からなるアクリル系ゴム成形体。
【請求項9】
アクリル酸エステル及び架橋点モノマーを含むモノマー成分の重合によって得られたアクリル系ゴムのマトリックス中に、層間で剥離して得られた層状粘土鉱物の剥離片が分散されてなり、
前記アクリル酸エステルとして、ブチルアクリレート及びメトキシエチルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレートを60質量%以上含有してなるアクリル酸エステルが用いられていることを特徴とするアクリル系ゴム組成物。
【請求項10】
請求項9に記載のアクリル系ゴム組成物を架橋剤で架橋してなる架橋体からなるアクリル系ゴム成形体。

【公開番号】特開2009−227920(P2009−227920A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78071(P2008−78071)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000211695)中西金属工業株式会社 (222)
【Fターム(参考)】