説明

アクリル系テルペングラフト共重合体の製造方法

【課題】塗膜を構成するベース樹脂と粘着付与樹脂とを両機能を保持したまま同一分子内に共存せしめることで、言わば両樹脂の究極の相溶性を達成し、しかも水に完全に溶解可能であり均一な造膜性を付与することができる共重合体及びそれを含む粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物の製造を可能にする。
【解決手段】下記式(1)に示すフェノール変性テルペン樹脂と、
【化1】


(メタ)アクリル酸及びスチレン等のモノマーとを含む混合物を、連鎖移動剤と共に、以下の条件を満たす、T〜T4の混合物温度を与える第1乃至第4の反応ゾーンを、この順で通過させる。
【数1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系テルペングラフト共重合体及びそれを含む粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物の製造方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、連鎖移動剤を用いる連続塊状重合過程において、フェノール変性テルペン樹脂及びアクリル系モノマーを主成分とする混合物を、特定の条件下で重合反応させることで、アクリル系テルペングラフト共重合体を製造する方法、並びに得られた当該共重合体を更に中和、水溶化する粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
金属、プラスティックス、木材、ガラス、コンクリート等の無機質素材、紙類、及び布等の多様な基材に対して適用されるインキ、塗料、接着剤、及び粘着剤等にあっては、異なる様々な基材に適用されても、各基材に対して要求される粘接着力を具備することが要求される。
【0004】
このような要求に対して採用されていた従来技術としては、水系であるか有機系であるかに拘らず、塗膜を構成する主成分であるベース樹脂と粘着性を付与する粘着付与樹脂とを混和する二元ブレンド系コーティング組成物が一般的であった。この二元ブレンド系のコーティング組成物は、有機溶剤系であればベース樹脂と粘着付与樹脂とを有機溶剤に混和し、水系であれば夫々のエマルジョンを用意し、両者を混合して製造することが一般的である。
【0005】
粘着付与樹脂は、通常、分子量が数百から数千の無定型オリゴマーであり、ロジン、テルペン、クマロンなどの天然樹脂或いはシクロペンタディエンなどの合成石油樹脂等が粘着付与樹脂として使用されている。
【0006】
ところで、粘接着剤機能を有するコーティング組成物に基材の種類に拘らず強い粘接着力を発現させるには、ベース樹脂と粘着付与樹脂との相溶性を高めることが重要である。即ち、両者の相溶性が高い場合には、粘着付与樹脂の濃度に依存して、塗膜の剥離強度、特に高温下での剥離強度を増強することができる。他方、両者の相溶性が低い場合には、粘着付与樹脂の濃度によって塗膜の剥離強度を増大させることはできない。
【0007】
この点、有機溶剤系の粘接着剤機能を有するコーティング組成物にあっては、ベース樹脂と粘着付与樹脂との相溶性を増大させるために、ベース樹脂と粘着付与樹脂との組成およびブレンド比、並びに両者が共存する際の温度を適正化することが行なわれている。
【0008】
一方、近年、環境対策の要請から、有機溶剤を用いない水性のコーティング組成物への転換が進展しており、水性のコーティング組成物の粘接着剤機能を高める試みが盛んに行なわれている。
【0009】
しかし、ベース樹脂と粘着付与樹脂とを水性媒体中に分散させる粘接着剤機能を有する水性のコーティング組成物にあっては、基本的に、ベース樹脂と粘着付与樹脂とが非相溶状態で媒体中に分散していることから、当該コーティング組成物には、第一に、如何にしてチキソトロピック性流動特性をニュートニアン流動特性に近づけるかという問題、第二に、均一な造膜性(エマルジョン中のベース樹脂粒子と粘着付与樹脂粒子とが融着してミクロレベルで膜厚にむらがないこと)、を如何にして確保するかという問題がある。
【0010】
この問題に対して、従来、以下の1)〜7)のような様々な方法が開示されている。
1)スチレン・アクリル共重合体の水性分散体とアルカリ可溶性アクリル共重合体水溶液との混合物に、粘着付与樹脂を水に乳化して添加する方法(特許文献1および2)。
2)再剥離粘着シート用アクリルエマルジョンに粘着付与樹脂の水分散体を添加する方法(特許文献3)。
3)分子内部に疎水鎖部位を持ち分子両端に親水鎖部位を有する非イオン性の高分子化合物を界面活性剤(乳化剤)として含有する粘着付与樹脂のエマルジョンを、アクリルエマルジョンに添加して、アクリル樹脂と粘着付与樹脂の親和性を高める方法(特許文献4)。
4)スチレン/アクリル系共重合体のアルカリ水溶液とアクリル系エマルジョンの混合物に各種の粘着付与樹脂の水分散体をブレンドする方法であって、これら成分の配合比を最適化することによって、水性印刷インキに適する水分散体を得る方法(特許文献5)。
5)粘着付与樹脂を予め溶解又は分散したモノマー混合物を乳化重合した、アクリル系エマルジョン型接着剤の製造方法(特許文献6)。
6)粘着付与樹脂エマルジョンの存在下で、特定の単量体を含む単量体混合物を重合した後、特定のアルキル(メタ)アクリレートを含む単量体混合物を乳化重合する、エマルジョンの製造方法(特許文献7)。
【0011】
しかし、これら従来の方法で得られる粘接着剤機能を有する水性のコーティング組成物は、ベース樹脂と粘着付与樹脂とを水性媒体中に分散させる二元ブレンド系の水性エマルジョンである点を根本的に変更するものではないため、その本質的な特性に起因する前記第一および第二の問題を根本的に解決し得るものではなかった。
【0012】
これに対して、乳化剤の代わりに水溶性樹脂(サポート樹脂と称する)を用い、当該樹脂の存在下でアクリルモノマーの乳化重合を行う、逆相コア・シェルエマルジョンの製造方法が提案されている(特許文献8、9および10)。
【0013】
しかし、この方法でも、通常、脂溶性である粘着付与樹脂と水溶性であるアクリル系樹脂等の水溶性樹脂とは非相溶性であり、それぞれ局在化して存在するため、結局、ベース樹脂と粘着付与樹脂とを水性媒体中に分散させる二元ブレンド系の抱える上記問題を完全に解消できるものではなかった。
【0014】
他方、αピネン、βピネン、リモネン(ジペンテン)のような共役二重結合を含まないテルペンを、オレフィン性不飽和カルボン酸若しくはその無水物、及び他のビニルモノマーと、過酸化物触媒を用いて、塊状ラジカル重合によって共重合する方法が開示されている(特許文献11)。
【0015】
しかし、この方法は、得られる共重合体がランダム共重合体であるため、オレフィン性不飽和カルボン酸等が本来有するベース樹脂としての機能を充分に発揮できるものではなかった。加えて、この文献に記載の方法は、オレフィン性不飽和カルボン酸等と他のビニルモノマーとを共重合させる場合、重合反応初期において、オレフィン性不飽和カルボン酸等の酸性基を持つ重合性モノマーが共重合体中に高頻度に導入され易く、その一方で重合反応後期においては、当該オレフィン性不飽和カルボン酸等の酸性基を持つ重合性モノマーが、重合体中に少量若しくは全く導入されない点について全く配慮されていなかった。
【0016】
このため、この方法で得られる共重合体は、酸性基が多い重合体に、酸性基が少ない重合体、極端な場合には酸性基の全くない共重合体が比較的多く混在するものであり、得られた共重合体をアルカリ中和すると、酸性基の多い共重合体は、アルカリを占有して水に溶けるが、アルカリを奪われた酸性基の少ない共重合体は、アルカリ中和による水溶化の効果が小さく、全体としては不透明な分散体として得られるものであった。
【0017】
かくして、この方法で得られる共重合体は、専ら「粘着付与剤」として、他のベース樹脂と分散混合して用いられるものであり、この従来方法は、ベース樹脂と粘着付与樹脂とを水性媒体中に分散させる二元ブレンド系の水性コーティング組成物が抱える本質的問題を何等解決するものではなかった。
【0018】
【特許文献1】特開平10−292290
【特許文献2】特開平11−247094
【特許文献3】特開2000−281996
【特許文献4】特開2003−238932
【特許文献5】特公平5−50551
【特許文献6】特開昭58−185668
【特許文献7】特開昭64−79281
【特許文献8】特許第2963897号
【特許文献9】特許第3012641号
【特許文献10】特許第3067060号
【特許文献11】特表平9−511012
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、従来の2元系の粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物の有する問題を根本的に解決すること、即ち塗膜を構成するベース樹脂と粘着付与樹脂とを両機能を保持したまま同一分子内に共存せしめることで、言わば両樹脂の究極の相溶性を達成し、しかも水に完全に溶解可能であり均一な造膜性を付与することができる共重合体及びそれを含む粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物の製造を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、
フェノール変性テルペン樹脂を粘着付与セグメントとして選択し、比較的多量の(メタ)アクリル酸を、アクリル系モノマー及びスチレンと共に、当該粘着付与セグメントに混合し、当該混合物を、連鎖移動剤の存在下、重合開始剤を用いずにスチレン系の熱重合を利用して重合速度を緩和しながら、特定温度範囲且つ徐々に高温となる複数の反応ゾーン中でラジカル重合させたところ、一定量のテルペンセグメントをアクリル系共重合体からなる幹にグラフト化でき、且つ当該グラフト共重合体中に、水溶性を付与する酸性基を一定範囲で保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち、本発明は、繰り返し単位が下記式(1):
【化1】


[式中、m及びnは1以上の整数を表す]
で示される構造を有し、OH価が150以上250であり、数平均分子量500乃至2000である、フェノール変性テルペン樹脂の少なくとも1種と、アクリル酸及び/又はメタアクリル酸(以下、まとめて「(メタ)アクリル酸」と記す)と、(メタ)アクリル酸のエステルと、スチレンと、任意に加えられるこれらと共重合可能な不飽和モノマーとを、連鎖移動剤と共に、フェノール変性テルペン樹脂、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン、不飽和モノマー及び連鎖移動剤の総量に対して、フェノール変性テルペン樹脂を20重量%未満、(メタ)アクリル酸を15〜35重量%含有する組成比で混合し、得られた混合物を、重合開始剤を使用せずに、以下の条件を満たす、T〜T4の混合物温度を与える4つの反応ゾーンを、この順で通過させる工程を含む、
【数1】


[上記式中、Tは第1反応ゾーンの反応物温度であり、Tは第2反応ゾーンの反応物温度であり、T3は第3反応ゾーンの反応物温度であり、T4は第4反応ゾーンの反応物温度である]
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン及び任意に加えられるこれらと共重合可能な不飽和モノマーの共重合体を幹とし、フェノール変性テルペン樹脂がこの幹にグラフトしている、重量平均分子量Mwが1000乃至10000で、重量平均分子量の数平均分子量に対する比(n)が1から5である、アクリル系テルペン樹脂グラフト共重合体の製造方法を提供するものである。
【0022】
本発明の製造方法においては、各反応ゾーンの反応物温度(T〜T)が、140〜270℃であることが好ましい。
【0023】
また本発明の製造方法においては、各反応ゾーンの反応物温度(T、T、T3、T4)は、以下の条件を満たすことが好ましい。
【数2】

【0024】
また、この好ましい実施の形態においては、第一反応ゾーンの反応物温度(T)は140〜160℃であり、第二反応ゾーンの反応物温度(T)は170〜190℃であり、第三反応ゾーンの反応物温度(T)は200〜250℃であり、第四反応ゾーンの反応物温度(T)は230〜270℃であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の製造方法においては、各反応ゾーンでの滞留時間は5〜20分であることが好ましい。
【0026】
本発明は更に、上記本発明の共重合体を製造する工程後、得られた共重合体を、アルカリ水で、中和、溶解する工程を含む、粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物の製造方法を提供するものである。
【0027】
また、本発明は、上記本発明の方法により得られる、アクリル系テルペングラフト共重合体並びに粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物を提供するものである。
【0028】
なお本明細書において、「粘接着剤機能を有するコーティング組成物」とは、塗料やインキ等のコーティング材に用いられ、塗膜を形成し得ると共に、形成された塗膜に粘着性や接着性を付与することができる組成物を意味する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の製造方法によれば、粘着付与剤樹脂の1種であるフェノール変性テルペン樹脂が、塗膜を構成する主成分であるアクリル系共重合体にグラフトされ、ベース樹脂及び粘着付与樹脂がその特性を保持したまま言わば究極の相溶性状態で存在し、且つアルカリ水で中和水溶化できる程度のカルボキシル基が保持されているグラフト共重合体を得ることができる。こため、当該共重合体を水性の溶媒に溶解したコーティング組成物では、ベース樹脂と粘着付与樹脂としての特性を兼備する各樹脂が一様に完全に溶解しており、非ブレンド系で、粘性付与剤を別途添加することなしに、形成される塗膜に所望の粘着特性を付与できるとともに、当該コーティング組成物中の樹脂がニュートニアン流動特性を有し、造膜性に優れた塗膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の製造方法は、上記した通り、所定の化学構造を有する少なくとも1種のフェノール変性テルペン樹脂と、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリル酸のエステルと、スチレンと、これらモノマーと重合可能な他の不飽和モノマーとを含む混合物を、連鎖移動剤と共に、特定反応温度を付与する4つの反応ゾーンを順次通過させることを特徴とするものである。以下、具体的に説明する。
【0031】
本発明で用いられるフェノール変性テルペン樹脂は、繰り返し単位が上記式(1)で示される構造を有し、OH価が150以上250で、数平均分子量500乃至2000の樹脂である。
これは、当該フェノール変性した所定のテルペンオリゴマーを、比較的多量の(メタ)アクリル酸等のモノマーと、連鎖移動剤の存在下、所定の温度で共存させると、(メタ)アクリル酸が他のモノマーと共重合する際に、当該テルペンオリゴマーが連鎖移動効果を発揮して、これらモノマーの共重合体からなる幹にグラフト化する、という知見に基づくものである。
【0032】
また、本発明において、OH価が150〜250のフェノール変性テルペン樹脂を用いるのは、フェノール変性テルペン樹脂のOH価がグラフト化の効率を支配する重要な要素であり、OH価が上記範囲外であると、急激にグラフト化の効率が低減するためである。このため、本発明においては、OH価が180〜250のフェノール変性テルペン樹脂を用いることがより好ましい。
【0033】
また、本発明において、数平均分子量500〜2000のフェノール変性テルペン樹脂を用いるのは、形成される塗膜の粘着力を高めるとともにその強度を確保するためである。このため、本発明においては、数平均分子量(Mn)500〜1500のフェノール変性テルペン樹脂を用いることがより好ましい。
なお、本発明で用いられるフェノール変性テルペン樹脂は、重量平均分子量の数平均分子量に対する比(n)については、特に制限はない。
【0034】
本発明で用いられる上記フェノール変性テルペン樹脂は、例えば、αピネン化合物、βピネン化合物及びリモネンとして知られているテルペン化合物の少なくとも1種と、フェノール若しくは各種フェノール誘導体とを反応させることにより得ることができる。また、本発明では、市販されているフェノール変性テルペン樹脂を用いてもよく、例えば、マイティエースK−125(ヤスハラケミカル株式会社製)又はYP−902(ヤスハラケミカル株式会社製)等を挙げることができる。
【0035】
本発明で用いられる、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン及びこれらと共重合し得る不飽和モノマーは、得られる共重合体の幹を構成させて塗膜の基本的機能を付与するために用いられるモノマーである。但し、(メタ)アクリル酸は、主に、前記フェノール変性テルペンセグメントのグラフト化を促進すると共に得られるグラフト共重合体に水溶性を付与する役割を果たす。その一方、スチレンは、後述する重合反応において、その重合熱を利用して重合反応を行わせることで重合開始剤を不要とする役割を果たす。これは、当該重合反応における重合速度を緩和し、その反応温度の制御を容易ならしめることを意味する。
【0036】
本発明で用いられる(メタ)アクリル酸のエステルとしては、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数3〜18の、直鎖若しくは分岐の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、シクロアルキルエステル又はヒドロキシアルキルエステルを挙げることができる。
【0037】
また、このような(メタ)アクリル酸のアルキルエステル又はシクロアルキルエステルとしては、例えばメチルアクリレート、メチルメタアクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、nーブチルメタクリレート、i−ブチルアクリレート、i−ブチルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレートシクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート又はラウリルメタクリレート等を挙げることができる。
【0038】
同様に、このような(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレートまたはヒドロキシプロピルメタクリレート等を挙げることができる。
【0039】
また、本発明で用いられる(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル及びスチレンと共重合し得る不飽和モノマーとしては、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル若しくはメタクリロニトリル等の他のビニルモノマー;或いはイタコン酸若しくはマレイン酸等のα、β―エチレン性不飽和カルボン酸;2−アクリロイルオキシエチルコハク酸若しくは2−アクリロイルオキシエチルフタル酸等のアクリレート又はこれらアクリレートに対応するメタクリレート等を挙げることができる。
【0040】
本発明においては、(メタ)アクリル酸と、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、シクロアルキルエステル又はヒドロキシアルキルエステルと、任意に加えられるこれらと共重合し得る不飽和モノマーと、スチレンとを混合して原料混合物を調製することができる。
【0041】
但し、(メタ)アクリル酸が得られる共重合体に所定量のカルボキシル基を導入して所望の水溶性を付与する成分である点からは、本発明においては、(メタ)アクリル酸の全混合物(更にこれらのエステル、スチレン、フェノール変性テルペン樹脂及び連鎖移動剤を含む)に対する含有率は大きい方が好ましい。また、テルペン樹脂の全混合物に対する含有率が小さくなると、所望の粘着付与効果が得られない。
【0042】
このため、本発明においては、(メタ)アクリル酸の全混合物に対する含有率は、15〜35重量%が好ましく、20〜30重量%が特に好ましい。また、上記フェノール変性テルペン樹脂の全混合物に対する含有率は、1〜20重量%が好ましく、5〜15重量%がより好ましい。なお、本発明は、他の成分の含有量については特に制限はない。
【0043】
本発明は、用いる連鎖移動剤の種類について特に制限はなく、例えばスチレンダイマー、チオグリコール酸2エチルヘキシルエステル、2−メルカプトエタノール又はt−ドデシルメルカプタンを用いることができ、中でもグラフト化を生じ易い点でスチレンダイマー及びチオグリコール酸2エチルヘキシルエステルが好ましい。
【0044】
一方、本発明においては、前記の通り、スチレンの熱重合を利用してラジカル熱重合を行うことで重合開始剤を不要とする。これは、後述する重合反応で重合速度が緩和されることを意味し、比較的多量の酸性基モノマーを用い比較的低分子の重合体を製造する本発明のプロセスにおいて、後述する所定範囲の反応物温度の制御を容易にする。即ち、本発明で製造される、グラフト共重合体は、重量平均分子量(Mw)が10000以下ものであり、通常の塊状重合法であれば重合速度が大きくなり、急速に系の反応温度が上昇し易い。また、本発明で用いる(メタ)アクリル酸の存在も、その酸モノマーとしての特性上、重合速度を大きくし、急速に系の反応温度を上昇させ易い。このため、本発明においては、前記したスチレンの熱重合を利用して重合開始剤を不要とすることで、系の反応温度の急激な上昇を抑制し、次に述べる所定の反応物温度を維持することを可能としている。
【0045】
本発明においては、得られた混合物を、以下の条件を満たす4つの第一乃至第四の反応ゾーンを含む反応ゾーンをその順に好ましくは連続的に通過させることで、アクリル系モノマーの共重合過程において、当該共重合体にフェノール変性テルペン樹脂をグラフト化させる。
【数3】

【0046】
本発明において第1乃至第4の反応ゾーンの反応物温度(T〜T)を50〜270℃とするのは、テルペンのグラフトを高頻度に生じさせるためである。即ち、本発明においては、各反応ゾーンの反応物温度の最高温度及び最低温度が、テルペンのグラフト化の重要な要因であり、上記温度範囲外であると、テルペンのグラフト化頻度が急激に低減する。
このため、本発明における各反応ゾーンの反応物温度(T〜T)は、100〜270℃がより好ましく、140〜270℃が更に好ましく、150〜270℃が特に好ましい。
【0047】
また、本発明において、各反応ゾーンの反応物温度(T〜T)を上記関係式の如く徐々に大きくするのは、各反応ゾーンの反応速度を一定にすることで、生成する共重合体の分子量をできるだけ均一にして、所望の水溶性及び粘接着能を有するグラフト共重合体を得るためである。
【0048】
即ち、本発明のような塊状重合法においては、重合の初期にはアクリル酸等のモノマーの濃度が大きく系の粘度も低いが、反応の進行と共にモノマーの消費が進み系の粘度も高くなるため、各反応ゾーンの反応物温度を一定にすると、重合初期に関わる反応ゾーンではモノマーの重合反応速度が大きく、重合後期に関わる反応ゾーン程モノマーの重合速度は小さくなる。このため、各反応ゾーンの反応物温度が一定の場合には、得られる共重合体の分子量のばらつきが大きくなり、分子量が小さく酸性基やテルペンセグメントを殆ど含まないグラフト共重合体を比較的多く生成してしまい、共重合体全体として非水溶性となったり、所望の粘接着能を有しない場合がある。
そこで、本発明においては、原料中に比較的多量の(メタ)アクリル酸モノマーを含有させておくとともに、重合反応中におけるモノマー濃度の低下及び系の粘度の増加に従って各反応ゾーン反応物温度を上昇させて全重合工程でほぼ一定の重合反応速度を保持し、酸性基並びにテルペンセグメントを一定以上の割合で共重合体中に導入させ、実質上形成される総ての樹脂に所望の水溶性及び粘接着能を付与することを可能としている。
【0049】
本発明においては、上記の点から、第一反応ゾーンの反応物温度(T)が、50℃〜160℃であり、第二反応ゾーンの反応物温度(T2)が70℃〜190℃であり、第三反応ゾーンの反応物温度(T3)が70℃〜250℃であり、第四反応ゾーンの反応物温度(T4)が70℃〜270℃であることが好ましく;第一反応ゾーンの反応物温度(T)が140〜160℃であり、第二反応ゾーンの反応物温度(T2)が140℃より大きく190℃以下であり、第三反応ゾーンの反応物温度(T3)が180〜250℃であり、第四反応ゾーンの反応物温度(T4)が200〜270℃であることがより好ましく;第一反応ゾーンの反応物温度(T)が140〜160℃であり、第二反応ゾーンの反応物温度(T2)が170〜190℃であり、第三反応ゾーンの反応物温度(T3)が200〜250℃であり、第四反応ゾーンの反応物温度(T4)が230〜270℃であることが更に好ましく;第一反応ゾーンの反応物温度(T)が150〜160℃であり、第二反応ゾーンの反応物温度(T2)が180〜190℃であり、第三反応ゾーンの反応物温度(T3)が220〜250℃であり、第四反応ゾーンの反応物温度(T4)が230〜270℃であることが特に好ましい。
【0050】
本発明においては、各反応ゾーンにおける反応混合物の滞留時間を、生産性と各反応ゾーンの温度制御の点から、5〜20分とすることが好ましい。もっとも、各反応ゾーン間で重合反応速度をほぼ一定とするには、各反応ゾーンにおける反応混合物の滞留時間を、各反応ゾーンの反応物温度によって変更することが好ましく、第一反応ゾーンの反応物温度(T)が140℃以上で、最終反応ゾーンの反応物温度(T)が200℃以上の場合には、5〜10分とすることが好ましく、6〜9分とすることがより好ましい。逆に第一反応ゾーンの反応物温度(T)が140℃未満で、第四反応ゾーンの反応物温度(T)が200℃未満の場合には、12〜20分とすることが好ましく、15〜20分とすることがより好ましい。
【0051】
本発明の製造方法は、上記工程により、数平均分子量(Mn)500〜2000のフェノール変性テルペン樹脂が、スチレン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル及び任意に加えられるスチレン若しくは(メタ)アクリル酸等と共重合可能な他の不飽和モノマーの共重合体にグラフトし、連鎖移動剤を含む共重合体全体に対して酸性基モノマー単位を0.174〜0.486mol/100g含み、重量平均分子量(Mw)が1000〜10000であり、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(n)が、1〜5である、テルペングラフト共重合体を得ることができる。
【0052】
当該本発明により得られる共重合体は、粘性付与セグメントであるフェノール変性テルペン樹脂が、塗膜の基本特性を付与するベースセグメントである、スチレンと(メタ)アクリル酸等との共重合体にグラフトしており、個々のセグメントにおける各機能が個々の独立した分子とした場合とほぼ同程度に保持されており、粘性付与樹脂とベース樹脂としての機能を兼備するものである。また、同共重合体は、フェノール変性テルペン樹脂及び共重合体全体の分子量並びに酸性基数が上記の特定の範囲に収束されており、各共重合体がアルカリ中和により一様に水に完全に溶解し、当該水溶液を用いて形成された塗膜は、従来の水性粘接着剤機能を有するコーティング組成物では達成し得なかった造膜性を有する。
【0053】
本発明の共重合体は、中和溶解の際に透明な水溶液が得られ、形成される塗膜に良好な造膜性を付与できると共に、粘着性の点でも優れた塗膜を形成できる点で、重量平均分子量Mwが1000から10000のものが好ましく、1000から6000のものが特に好ましい。また、同様の点で重量平均分子量Mwの数平均分子量Mnに対する比n(Mw/Mn)が、2〜4.6のものが特に好ましい。
【0054】
本発明の共重合体のアルカリ中和による溶解は、例えば4.7〜7.8重量%のアンモニアを含むアルカリ性水溶液中に当該共重合体を溶解することで行うことができる。
【0055】
また、アルカリとしては、苛性ソーダ等の無揮発性のものでもよいが、本発明で得られる共重合体の水に対する溶解性を高める点で、アンモニア、又はジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミンなどの有機アミン類が好ましい。
【0056】
上記アルカリ中和により得られる粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物では、本発明の共重合体がベース樹脂兼粘着付与樹脂として機能し、言わば、ベース樹脂と粘着付与樹脂とが究極の相溶状態でしかも完全に溶解された状態で存在している。このため、本発明の水性コーティング組成物で塗膜を形成すれば、ミクロレベルで均一な塗膜を得ることができる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、以下の実施例は何等本発明を限定するものではない。
【0058】
(重合装置)
以下の実施例及び比較例で用いた連続重合装置の概略を図1に、当該装置における撹拌翼の部分の拡大を図2に示す。当該重合装置は、図1に示すように、温度センサー、加熱用外套および冷却用インナーコイルを有し、独立に温度制御される内径100乃至150mmφ、内側の高さ120乃至250mmの円筒状の反応ゾーンを、中心に直径40乃至80mmの開口部を有するワッシャ状の仕切板でフランジを介して区画された4つの反応ゾーン垂直方向に連続して有する。そして、40乃至100mmφの円盤および円盤上に取付けられた同径のパドル翼からなり、50乃至700回転で攪拌できる攪拌翼が各反応ゾーンに複数枚装備されている。上から順に、それぞれ、第1反応ゾーンは50乃至160℃、第2反応ゾーンは70乃至190℃、第3反応ゾーンは70乃至250℃、第4反応ゾーンは70乃至270℃に反応物温度を制御できるように、温度センサー、それからの信号により加冷却する加熱用外套及び冷却用インナーコイルを有している。最上部の第1反応ゾーンには液面計が設置されて最下部から連続的に取出された樹脂量に相当するモノマーを補給することにより常に内容量を一定に保って連続重合することが可能になっている。また、反応物を上部から0.05Mpa乃至5Mpaの圧力で供給する供給ホ゜ンフ゜を有している。
【0059】
(評価方法)
(1)溶液の透明性
各実施例及び比較例で得られた樹脂を以下の組成でアルカリ水中に入れ、溶液の透明性を肉眼で調べ、透明であればテルペンのグラフト化が高頻度で起こっていると判断した。
各実施例及び比較例で得られた樹脂 30.0重量部
25%アンモニア水 17.5重量部
水 52.5重量部
【0060】
(2)乾燥塗膜の透明性
上記(1)の溶液を、加熱残分(TNV)30.7%でガラス板に10ミルのアプリケーターで塗装し、150℃、30分で乾燥して乾燥塗膜とした。得られた乾燥塗膜の透明性を、肉眼によって判断し、透明であればテルペンのグラフト化が高頻度で起こっていると判断した。
【0061】
(3)分子量(Mw、Mn及びMw/Mn)
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mnは、ポリスチレンを基準物質として、GPC測定機(日立製139型)により測定した。
【0062】
[実施例1]
図1に示す連続重合機に、スチレン40.8重量部、アクリル酸ブチル17.5重量部、アクリル酸25.1重量部、テルペンフェノール樹脂(OH価210、Mw:1700、マイティエースK−125、ヤスハラケミカル株式会社製)8.3重量部、連鎖移動剤(スチレンダイマー、商品名:ノフマーMSD、日本油脂株式会社製)8.3重量部の混合物を仕込み、第1反応ゾーンに150℃で8分、第2反応ゾーンに180℃で8分、第3反応ゾーンに220℃で8分、第4反応ゾーンに250℃で8分滞留させる条件下で連続的に重合を行った。重合率:93.4%、Mw:2,650、Mw/Mn(n):3.5の樹脂を生成した。この樹脂30.0重量部を、25%アンモニア水17.5重量部及び水52.5重量部とともに混和して溶解したところ、完全に透明な水溶液となり、加熱留分(TNV)は30.7%で、粘度は11,140mPa・sであった。その後、この水溶液を150℃で30分焼き付けて塗膜を形成させたところ、形成された塗膜は、完全に透明であり水溶性アクリル樹脂とテルペン樹脂が完全に相溶していることを示した。
【0063】
[実施例2]
スチレン31.0重量部、アクリル酸2エチルヘキシル31.0重量部、アクリル酸26.5重量部、テルペンフェノール樹脂(OH価210、Mw:1700、マイティエースK−125、ヤスハラケミカル株式会社製)8.8重量部、連鎖移動剤(2エチルヘキシルチオグリコール酸、ダイセイル化学工業株式会社製)2.7重量部の混合物を、第1反応ゾーンに150℃で8分、第2反応ゾーンに180℃で8分、第3反応ゾーンに220℃で8分、第4反応ゾーンに250℃で8分滞留させる条件下で連続重合を行った。重合率:92.5%、Mw:5,240、Mw/Mn(n):3.3の樹脂を生成した。この樹脂30.0重量部を25%アンモニア水17.5重量部及び水52.5重量部と混合して溶解したところ、完全に透明な水溶液となり、加熱留分(TNV)は30.1%で、粘度は7,660mPa・sであった。その後、この水溶液を150℃で30分焼き付けて塗膜を形成したところ、形成された塗膜は、完全に透明であり水溶性アクリル樹脂とテルペン樹脂が完全に相溶していることを示した。
【0064】
[実施例3]
スチレン39.8重量部、アクリル酸2エチルヘキシル17.1重量部、アクリル酸24.4重量部、テルペンフェノール樹脂(OH価250、Mw:1098、YP−902、ヤスハラケミカル株式会社製)16.3重量部、連鎖移動剤(2エチルヘキシルチオグリコール酸、ダイセル化学工業株式会社製)2.4重量部の混合物を、第1反応ゾーンに150℃で8分、第2反応ゾーンに180℃で8分、第3反応ゾーンに220℃で8分、第4反応ゾーンに250℃で8分滞留させる条件下で連続重合させた。重合率:95.0%、Mw:5,224、Mw/Mn(n):4.0の樹脂を生成した。この樹脂30.0重量部を25%アンモニア水17.5重量部及び水52.5重量部と混合して溶解したところ、完全に透明な水溶液となり、加熱留分(TNV)は30.5%で、粘度は78,500mPa・sであった。その後、この水溶液を150℃で30分焼き付けて塗膜を形成したところ、形成された塗膜は完全に透明であり水溶性アクリル樹脂とテルペン樹脂が完全に相溶していることを示した。
【0065】
[実施例4]
スチレン42.6重量部、アクリル酸ブチル18.3重量部、アクリル酸26.1重量部、テルペンフェノール樹脂(OH価250、Mw:1098、YP−902、ヤスハラケミカル株式会社製)4.3重量部、スチレンダイマー(ノフマーMSD、日本油脂株式会社製)8.7重量部の混合物を、第1反応ゾーンに150℃で8分、第2反応ゾーンに180℃で8分、第3反応ゾーンに220℃で8分、第4反応ゾーンに250℃で8分滞留させる条件下で連続重合させた。重合率:97.5%、Mw:2,879、Mw/Mn(n):3.8の樹脂を生成した。この樹脂30.0重量部を25%アンモニア水17.5重量部及び水52.5重量部と混合して溶解したところ、完全に透明な水溶液となり、加熱留分(TNV)は30.3%で、粘度は3,620mPa・sであった。その後、この水溶液を150℃で30分焼き付けて塗膜を形成したところ、形成された塗膜は、完全に透明であり水溶性アクリル樹脂とテルペン樹脂が完全に相溶していることを示した。
【0066】
[実施例5]
スチレン39.8重量部、アクリル酸ブチル17.1重量部、アクリル酸24.4重量部、テルペンフェノール樹脂(OH価210、Mw:1700、マイティエースK−125、ヤスハラケミカル株式会社製)16.3重量部、連鎖移動剤(2エチルヘキシルチオグリコール酸、ダイセイル化学工業株式会社製)2.4重量部の混合物を、第1反応ゾーンに130℃で15分、第2反応ゾーンに140℃で15分、第3反応ゾーンに160℃で15分、第4反応ゾーンに180℃で15分滞留させる条件下で連続重合させた(実施例1〜4に比べ最高温度を180℃に抑え、反応時間を実施例1の2倍と長くした)。この樹脂30.0重量部を25%アンモニア水17.5重量部及び水52.5重量部と混合して溶解したところ、薄く白濁し、完全には、透明にならなかった。また、この水溶液は、加熱留分(TNV)が22.6%で、粘度が2,428mPa・sであった。その後、この水溶液を150℃で30分焼き付けて塗膜を形成したところ、形成された塗膜は、やはり薄く白濁した。これは、反応温度が低くテルペン樹脂へアクリルのグラフト反応が高頻度には起こらなかったためと考えられる。
【0067】
[比較例1]
テルペンフェノール樹脂(OH価210、Mw:1700、マイティエースK−125、ヤスハラケミカル株式会社製)8.3重量部を、MEK19.4重量部に溶解した。これに、界面活性剤Newcol−707SF(日本乳化剤株式会社製)1.0重量部を水32.2重量部に溶解した水溶液33.2重量部を加え、分離トラップ付きのフラスコ中で攪拌しながら80℃に加熱し、MEKを留去してテルペンフェノール樹脂が微粒子状に分散した水性乳濁液を得た。次に、実施例1で用いた連続重合機に、スチレン44.5重量部、アクリル酸ブチル19.1重量部、アクリル酸27.3重量部及びスチレンダイマー(ノフマーMSD、日本油脂株式会社製))9.1重量部の混合物を仕込み、第1反応ゾーンに150℃で8分、第2反応ゾーンに180℃で8分、第3反応ゾーンに220℃で8分、第4反応ゾーンに250℃で8分滞留させる条件下に連続的に重合を行った。重合率:96.6%、Mw:6,113、Mw/Mn(n):4.3の樹脂を生成した。この樹脂30.0重量部を、25%アンモニア水17.5重量部及び水52.5重量部と混合して溶解したところ、完全透明な水溶液になり、加熱留分(TNV)は30.1%で、粘度は542mPa・sであった。その後、このアクリル樹脂水溶液100重量部にテルペンフェノール樹脂の微粒子分散液13.6重量部を加えたところ乳濁した水溶液が得られた。この乳濁水溶液を150℃で30分焼き付けた塗膜は実施例5で形成した塗膜に比べて強く白濁しており、水溶性アクリル樹脂とテルペン樹脂が相溶していないことを示す。
【0068】
[比較例2]
テルペンフェノール樹脂(Mw:250、YP−902、ヤスハラケミカル株式会社製)8.3重量部をMEK19.4重量部に溶解した。これに、界面活性剤Newcol−707SF(日本乳化剤株式会社製)1.0重量部を水32.2重量部に溶解した水溶液33.2重量部を加え、分離トラップ付きのフラスコ中で攪拌しながら80℃に加熱し、MEKを留去してテルペンフェノール樹脂が微粒子状に分散した水性乳濁液を得た。次に、実施例1で用いた連続重合機に、スチレン47.5重量部、アクリル酸2エチルヘキシル20.4重量部、アクリル酸29.2重量部、連鎖移動剤(2エチルヘキシルチオグリコール酸、ダイセル化学工業株式会社製)2.9重量部の混合物を、第1反応ゾーンに150℃で8分、第2反応ゾーンに180℃で8分、第3反応ゾーンに220℃で8分、第4反応ゾーンに250℃で8分滞留させる条件下で連続重合させた。重合率:94.1%、Mw:4,066、Mw/Mn(n):3.5の樹脂を生成した。この樹脂30.0重量部を、25%アンモニア水17.5重量部及び水52.5重量部と混合して溶解したところ、完全透明な溶液になり、この水溶液は加熱留分(TNV)は30.1%で、粘度が542mPa・sであった。その後、この樹脂水溶液100重量部にテルペンフェノール樹脂の微粒子分散液13.6重量部を加えたところ乳濁した水溶液が得られた。この乳濁水溶液を150℃で30分焼き付けた塗膜は、実施例5で得られた塗膜に比べ強く白濁しており、水溶性アクリル樹脂とテルペン樹脂が相溶していないことを示した。
【0069】
[比較例3]
スチレン42.6重量部、アクリル酸ブチル18.3重量部、アクリル酸26.1重量部、芳香族変成テルペン樹脂(Mw:800、YSレジンTO―125、ヤスハラケミカル株式会社製)4.3重量部、スチレンダイマー(ノフマーMSD、日本油脂株式会社製)8.7重量部の混合物を、第1反応ゾーンに150℃で8分、第2反応ゾーンに180℃で8分、第3反応ゾーンに220℃で8分、第4反応ゾーンに250℃で8分滞留させる条件下で連続重合させた。これにより生成した樹脂をアンモニア水に溶解したところ強い白濁を示し、溶解しなかった。これは、テルペンフェノール樹脂に代え芳香族変成テルペン樹脂を用いたことで、アクリル系共重合体へのグラフト反応が起こらなかったことを示す。
【0070】
[比較例4]
スチレン42.6重量部、アクリル酸ブチル18.3重量部、アクリル酸26.1重量部、テルペン系水素添加樹脂(Mw:700、クリアロンP−125、ヤスハラケミカル製)4.3重量部、スチレンダイマー(ノフマーMSD)8.7重量部の合計115重量部の混合物を、第1反応ゾーンに150℃で8分、第2反応ゾーンに180℃で8分、第3反応ゾーンに220℃で8分、第4反応ゾーンに250℃で8分滞留させた。これにより重合した樹脂をアンモニア水に溶解したところ強く白濁し溶解しなかった。これは、テルペンフェノール樹脂に代えテルペン系水素添加樹脂を用いたことで、アクリル系共重合体へのグラフト反応が起こらなかったことを示す。
【0071】
上記各実施例及び比較例における原料組成及び得られた水性コーティング組成物の評価結果を、以下の表1にまとめて示す。
【表1】

【0072】
(評価)
フェノール変性テルペン樹脂を用いた実施例1〜5では、種々のアクリル系共重合体にテルペン樹脂がグラフトするが、フェノール性OHを持たないテルペンを用いた比較例3及び4では、テルペン樹脂がグラフトしなかった。但し、各反応ゾーンの反応物温度を130〜180℃とした実施例5では、各反応ゾーンの反応物温度が150〜250℃とした実施例1乃至4に比べ、グラフト化する頻度が低減し、実施例1乃至4での温度条件の優位性が認められた。なお、用いた原料組成がほぼ同じ実施例1と比較例1において、得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)が、実施例1の方が比較例1に比べ優位に小さく、この事実も、フェノール変性テルペンによるポリマーラジカルの停止、即ちグラフトが高頻度で起こっていることを実証する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法は、上述のように、粘接着付与樹脂とベース樹脂との機能を併せ持った水溶性アクリル系テルペン共重合体及びそれを有効成分とする粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物を製造することができ、環境適応型の粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物において従来にない造膜性を付与することができる。このため、水性のインキ、塗料、コーティング剤、接着剤、及び粘着剤等のようにベース樹脂としての特性と共に、所望の粘接着特性を要求されるコーティング組成物について広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】実施例及び比較例で用いた連続重合装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1に示す装置における撹拌翼の部分を模式的に示す拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位が下記式(1):
【化1】


[式中、m及びnは1以上の整数を表す]
で示される構造を有し、OH価が150以上250であり、数平均分子量500乃至2000である、フェノール変性テルペン樹脂の少なくとも1種と、
アクリル酸及び/又はメタアクリル酸(以下、まとめて「(メタ)アクリル酸」と記す)と、(メタ)アクリル酸のエステルと、スチレンと、任意に加えられるこれらと共重合可能な不飽和モノマーとを、連鎖移動剤と共に、
該フェノール変性テルペン樹脂、該(メタ)アクリル酸、該(メタ)アクリル酸のエステル、該スチレン、該不飽和モノマー及び該連鎖移動剤の総量に対して、該フェノール変性テルペン樹脂を0より大きく20重量%未満、該(メタ)アクリル酸を15〜35重量%含有する組成比で混合し、
得られた混合物を、重合開始剤を使用せずに、以下の条件を満たす、T〜T4の混合物温度を与える4つの反応ゾーンを、この順で通過させる、
【数1】


[上記式中、Tは第1反応ゾーンの反応物温度であり、Tは第2反応ゾーンの反応物温度であり、T3は第3反応ゾーンの反応物温度であり、T4は第4反応ゾーンの反応物温度である]
該(メタ)アクリル酸、該(メタ)アクリル酸のエステル、該スチレン及び該任意に加えられるこれらと共重合可能な不飽和モノマーの共重合体を幹とし、該フェノール変性テルペン樹脂が該幹にグラフトしている、重量平均分子量(Mw)が1000乃至10000で、重量平均分子量の数平均分子量に対する比(n)が1から5である、アクリル系テルペン樹脂グラフト共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記各反応ゾーンの反応物温度(T〜T4)が、140〜270℃である、請求項1に記載のアクリル系テルペングラフト共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記各反応ゾーンの反応物温度(T、T、T3、T4)が以下の条件を満たす、請求項1に記載のアクリル系テルペングラフト共重合体の製造方法。
【数2】

【請求項4】
前記第一反応ゾーンの反応物温度(T)が140〜160℃であり、前記第二反応ゾーンの反応物温度(T)が170〜190℃であり、前記第三反応ゾーンの反応物温度(T)が200〜250℃であり、前記第四反応ゾーンの反応物温度(T)が230〜270℃である、請求項3に記載のアクリル系テルペングラフト共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記反応ゾーンでの滞留時間が5〜20分である、請求項1〜4の何れか一項に記載のアクリル系テルペングラフト共重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の工程後、得られた共重合体を、アルカリ水で、中和、溶解する工程を含む、粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5に記載の方法により得られる、アクリル系テルペングラフト共重合体。
【請求項8】
請求項6に記載の方法により得られる、粘接着剤機能を有する水性コーティング組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−117715(P2006−117715A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304069(P2004−304069)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【出願人】(504389485)大成ファインケミカル株式会社 (4)
【Fターム(参考)】