説明

アクリル系モノマー、それを含む硬化性組成物及び該組成物を硬化させてなるアクリル系樹脂

【課題】
低揮発性の要求を満たし、更に従来品よりも高屈折率のアクリル系モノマーを提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)


〔式中RはHまたはCH3、R、RはそれぞれCH、CH2またはCH2、CHを示す。〕

で示されるアクリル系モノマーであって、大気下10℃/分の条件で昇温させた場合に、100℃における重量減少量が5重量%未満であるアクリル系モノマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系モノマー、それを含む熱硬化性組成物または光硬化性組成物、及び、当該組成物を熱硬化または光硬化させてなるアクリル系樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
無色透明でかつ機械的強度及び成形性が高いことからレンズ等の光学部品材料として幅広く利用されているアクリル樹脂は、一般に、アクリル酸、メタクリル酸又はこれらのエステルを重合又は共重合させることにより得られる。
【0003】
アクリル樹脂の合成に際しては、例えば、上記モノマー成分と光重合開始剤とを含む光硬化性組成物に光を照射してモノマー成分をラジカル重合させるが、この重合過程では、モノマー成分が揮発し易いという問題がある。例えば、揮発成分が周囲を漂うことによる作業環境悪化等の問題がある。また、モノマー成分の揮発により、複数のモノマー成分の割合の調整による屈折率や屈折率分布等のアクリル樹脂の特性の制御をしにくいという問題も生じる。例えば、モノマー成分として汎用されているメタクリル酸メチル(メチルメタクリレート)は、常温でも揮発性が高いため、60℃程度に加熱した場合にはほぼ全量が揮発する。
【0004】
そこで、アクリルモノマー成分の揮発性を低下させるために、例えば、モノマー成分に特定置換基を導入することによって蒸気圧を低下させることが行われている。例えば特許文献1には、低臭気性となるように変性された(メタ)アクリレート化合物が記載されている。
【0005】
しかし、従来知られている変性アクリルモノマーは、光学材料の原料としては揮発性の低下が不十分である。また、光学材料の原料としては、高屈折率であることが望ましいが、この要求を十分に満たすものは未だ存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−97351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主な目的は、揮発性が低く、従来品よりも高屈折率のアクリル系モノマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特定の官能基を有する変性アクリルモノマーにより上記課題を解決するものであり、アクリル系モノマー、該アクリル系モノマーを含む熱硬化性組成物または光硬化性組成物、及び、該組成物を熱硬化または光硬化させてなるアクリル系樹脂に関するものである。
【0009】
具体的には、本発明は、大気下10℃/分の条件で昇温させた場合に200℃における重量減少量が5重量%未満であるアクリル系モノマーに関する。該アクリル系モノマーは、20℃における屈折率が1.45以上であることが望ましい。また、該アクリル系モノマーは、下記一般式(1)
【0010】
【化1】


〔式中RはHまたはCH3、R、RはそれぞれCH、CH2またはCH2、CHを示す。〕
で示される。
さらに本発明は、上記アクリル系モノマー及び熱重合開始剤または光重合開始剤を含有する硬化性組成物及び該硬化性組成物に対し加熱または光を照射することによって得られるアクリル系樹脂を提供する。該アクリル系樹脂は、光学材料となるものである。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のアクリル系モノマーは、大気下10℃/分の条件で昇温させた場合に、50℃における重量減少率が1重量%未満に抑制され、100℃における重量減少量が5重量%未満に抑制されており、低揮発性の要求を十分に満たすものである。また、20℃(常温)における粘度が10mPa・s以下と低粘度であるため、取扱いが容易である。
【0012】
上記本発明のアクリル系モノマーは、下記一般式(1)
【0013】
【化2】


〔式中RはHまたはCH3、R、RはそれぞれCH、CH2またはCH2、CHを示す。〕
で示される。
【0014】
上記一般式(1)で示されるアクリル系モノマーは、熱重合または光重合させることによってアクリル系樹脂となる。上記本発明のアクリル系モノマーは、公知のアクリル系モノマーと比較して屈折率が高い。例えば、上記一般式(1)において、20℃(常温)における屈折率が1.45以上(好ましくは1.5程度)と高い。公知のアクリル系モノマーであるメタクリル酸メチル(MMA)の場合には、屈折率が1.4程度であるため、MMAと比べても屈折率が高く、光学材料への適用に有利である。
【0015】
なお、本発明のアクリル系モノマーは、単独でモノマー材料とできるだけでなく、他の重合性モノマーと混合した態様でアクリル系樹脂製造用のモノマー材料とすることができる。混合可能な他のモノマー成分については後述する。
【0016】
上記一般式(1)で示されるアクリル系モノマーは、その製造方法は限定されないが、例えば、メタリル酸と2−インダノールを反応させる製造方法によって、好適に製造することができる。反応のスキームの一例を次に示す。
【0017】
【化3】

【0018】
メタクリル酸に2−ノルボルネンメタノールを反応させて末端にノルボルネン基を導入する。反応生成物は、ノルボルネンメタクリル酸エステルである。ノルボルネン基の導入によって、メタクリル酸の分子間相互作用が高まるため、最終的に得られるメタクリル系モノマーの揮発性(蒸気圧)を低下させることができる。
【0019】
上記メタクリル系モノマーを含む熱硬化性組成物または光硬化性組成物を調製する際は、実質的に上記アクリル系モノマーと熱重合開始剤または光重合開始剤とを混合すれば良いが、必要に応じて、他の熱重合性または光重合性モノマー成分や公知の添加剤を含めても良い。
【0020】
他の熱重合性または光重合性モノマーとしては、例えば、アクリル酸エステルとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシロピルアクリレート、グリシジルアクリレートなどが例示され、メタクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどが例示される。エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などのモノカルボン酸が好適に用いられ、そのほか、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などのジカルボン酸、又はそれらの無水物やハーフエステルも用いることができる。これらの中でも、とりわけメタクリル酸メチル(メチルアクリレート)が好ましい。
【0021】
他の熱重合性または光重合性モノマーを添加する場合には、その添加量は全モノマー量の80重量%以下とすることが好ましく、60重量%以下とすることが好ましい。
【0022】
熱重合開始剤としては、例えば、ラウロイルパーオキサイド,ベンゾイルパーオキサイド,ジ-イソプロピルパーオキシジカーボネート,ジ-n-ブチルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、ならびに2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル),2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル),1,1'-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル),アゾビス(2,4-ジメチル4メトキシバレロニトリル)等のアゾ系化合物があげられる。これらの1種を単独でまたは2種以上を混合して使用される。重合開始剤の使用量はモノマー成分100重量部に対して0.01〜10重量部程度が好ましい。
【0023】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル、ベンジルジフェニルジスルフィド、ジベンジル、ジアセチル、アントラキノン、ナフトキノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン、p,p’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ピバロインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1,1−ジクロロアセトフェノン、p−t−ブチルジクロロアセトフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、フェニルグリオキシレート、α−ヒドロキシイソブチルフェノン、ジベンゾスパロン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパノン、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、トリブロモフェニルスルホン、トリブロモメチルフェニルスルホン等が挙げられる。このような光重合開始剤の添加量としては、モノマー成分100重量部に対して0.1〜10重量部程度が好ましい。
【0024】
なお、熱硬化性組成物または光硬化性組成物には、上記各成分のほかに、必要に応じて、重合禁止剤、連鎖移動剤、重合促進剤、溶剤、可塑剤、着色剤、表面張力改質剤、安定剤、消泡剤、密着性付与剤、難燃剤などの公知の添加剤を配合できる。
【0025】
熱硬化性組成物を硬化させるには、例えば、上記組成物を型材(例えばレンズ型)に流しいれた後、前述の熱重合開始剤の10時間半減期温度程度に加熱すればよい。
【0026】
光硬化性組成物を硬化させるには、例えば、上記組成物を型材(例えばレンズ型)に流しいれた後、光照射(紫外線、電子線、太陽光線等)すればよい。通常は紫外線照射により行い、その際の光源としては、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、キセノン灯、メタルハライドランプ、ケミカルランプなどが用いられる。照射量は限定されず、目的とする硬化体の形状や大きさに応じて調整する。光照射後は、必要に応じて加熱により硬化の完全を図ることもできる。
【0027】
上記硬化により得られるアクリル系樹脂は、重合時にモノマー成分の揮発が抑制されているため、屈折率分布が制御し易い。また、作業環境を悪化させることなく、所望のアクリル系樹脂が得られる点で有利である。更に、本発明のモノマーは低粘度であるため、取扱いが容易である。
【発明の効果】
【0028】
本発明のアクリル系モノマーは、低揮発性であるため、光重合時に作業環境を悪化させ難く、また重合物の屈折率分布を制御し易い。しかも、本発明のアクリル系モノマーは、高屈折率であるため、レンズ等の光学材料の製造用原料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】試験例1で得た1H−NMRスペクトルの結果である。
【図2】試験例1で得た13C−NMRスペクトルの結果である。
【図3】試験例4で得たTG曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の特徴をより明確にするため、以下に実施例及び比較例を示す。ただし、本発明の範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
下記化学式(2)で示されるアクリル系モノマーを調製した。このアクリル系モノマーは前記一般式(1)で示されるRがCH3、RがCH、RがCH2のものである。
【0032】
【化4】

【0033】
200mL三口フラスコに撹拌子とメタクリル酸(9.8mL、120mmol)、2−ノルボルネンメタノール(13mL、100mmol)、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール(274mL、220mmol)溶媒としてトルエン(14mL)を入れ、氷冷しながら1時間撹拌した。その際、触媒としてメタンスルホン酸(0.54mL、8.3mmol)を滴下した。
【0034】
次に、100−110℃で3時間攪拌し反応させた。反応後、ヘキサンを加えた。
【0035】
次に、水酸化ナトリウム水溶液(10%)で中和させ、エーテルで抽出した。
【0036】
次に、食塩水で洗浄し、有機層を無水水酸化ナトリウムで乾燥させ、減圧条件下で溶媒を留去した。
【0037】
これにより、淡黄色液体11.4gを得た。生成物はノルボルネンメチルメタクリレートであった。生成物の同定は、NMR(1H、13C)測定(JEOL社製、FT−NMR Spectrometer、JNM−GSX270)で行った。
【0038】
(比較例1)
メタクリル酸メチル(MMA)をそのままアクリル系モノマーとした。
【0039】
(試験例1)
1H−NMRスペクトルの結果を図1に示す。図1のaはビニル基に結合したメチル基の水素原子、bはビニル基の水素原子、c部は酸素原子と結合した炭素原子に結合している水素原子、d部はノルボルネン基の水素原子の典型的なスペクトルである。13C−NMRスペクトルの結果を図2に示す。図2のaはビニル基に結合したメチル基の炭素原子、b、cはビニル基の炭素原子、dはカルボニル基の炭素原子、eは酸素原子と結合した炭素原子、f部はノルボルネン基の炭素水素の典型的なスペクトルである。
それぞれのスペクトルの結果により(2)式で表したノルボルネンメタクリレートが合成していることが確認できた。
【0040】
【化5】

【0041】
(試験例2)
実施例1と比較例1のアクリル酸モノマーについて、20℃において屈折率(nD)を測定した。屈折率は、アタゴ社製「多波長アッベ屈折計 DR−M2」を使用して測定した。粘度はブルックフィールド社製「回転粘度計 HBDV−III(スピンドル:CP−42)」を使用して測定した。
【0042】
測定結果を下記表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
(試験例3)
実施例1と比較例1のアクリル系モノマーにそれぞれ、過酸化ベンゾイル(BPO,Benzoyl peroxide)を0.5重量部加え、さらに連鎖移動剤としてノルマルドデシルメルカプタン(n-DM,n-Dodecylamine mercaptan)を0.05重量部加えた。過酸化ベンゾイルを完全溶解させた後、10×10×5 mmの金型の凹部に流入れ、50℃の乾燥機中で5時間熱重合を行い、10×10×5 mmの透明な樹脂板を得た。この樹脂板を20℃において屈折率(nD)、アッベ数(νD)を測定した。屈折率及びアッベ数は、アタゴ社製「多波長アッベ屈折計 DR−M2」を使用して測定した。
【0045】
測定結果を下記表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
(試験例4)
実施例1と比較例1のアクリル系モノマーを大気下10℃/分の条件で常温から250℃まで昇温させて熱重量(TG)分析を行った。熱重量分析装置としては、Rigaku社製「Thermo plus2 TG7120」を使用した。
【0048】
分析結果(TG曲線)を図3に示す。MMA(比較例1)と比べて、実施例1のアクリル系モノマーは、格段に揮発性が低下していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気下10℃/分の条件で昇温させた場合に、100℃における重量減少量が5重量%未満であるアクリル系モノマー。
【請求項2】
前記アクリル系モノマーは、20℃における屈折率が1.45以上である、請求項1に記載のアクリル系モノマー。
【請求項3】
前記アクリル系モノマーは、下記一般式(1)
【化1】

〔式中RはHまたはCH3、R、RはそれぞれCH、CH2またはCH2、CHを示す。〕

で示される、請求項1又は2に記載のアクリル系モノマー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系モノマー及び熱重合開始剤または光重合開始剤を含有する硬化性成物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の硬化性組成物に加熱または光を照射することによって得られるアクリル系樹脂。
【請求項6】
光学材料である、請求項5に記載のアクリル系樹脂。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−38017(P2011−38017A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187719(P2009−187719)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人 科学技術振興機構、独創的シーズ展開事業 委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(593193000)日本ライトン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】