説明

アクリル系合成繊維の製造方法

【課題】強度の高い異形断面形状のアクリル系合成繊維を、紡糸溶媒として良溶媒を用いて安定生産する製造方法、特に、紡糸溶媒としてDMSO、DMF、DMAcなどの良溶媒を用いたアクリル系合成繊維の製造方法において、糸切れの発生頻度を抑制して単繊維繊度が30dtex以上、かつ、断面形状が異形断面であるアクリル系合成繊維を製造する方法を提供する。
【解決手段】アクリロニトリル系共重合体としてアクリロニトリル30〜60重量%、塩化ビニル35〜69.5重量%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー0.5〜5重量%、その他共重合可能なビニル系モノマー0〜5重量%を重合してなり、実質的に塩化ビニリデンを含まないアクリロニトリル系共重合体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、人形用ヘアー等に用いられるアクリル系合成繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系合成繊維、特に塩化ビニル、もしくは塩化ビニリデンをその共重合成分の一部に含むモダクリル系合成繊維は、その獣毛様でソフトな触感と独特の光沢から、かつら、ヘアピース、エクステンションヘアー(ウィービング)、人形用ヘアー等の用途に好適に用いられる。このようなかつら用アクリル系合成繊維の製造に用いられる溶媒としては、アセトンの他、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などの良溶媒が挙げられる。この中で、例えば特許文献1にはアセトンを用いる合成繊維の製造方法が示されている。しかしながら、アセトンは沸点が低いために潜在的に引火、爆発の危険があり、また、品質面においても断面の制御が難しい、溶解性が低く使用可能な共重合体の組成範囲が狭い、などの問題があった。一方、特許文献2に示されるようにDMSO、DMF、DMAcなどの良溶媒を用いればこれらの問題を回避することができるが、これらの溶媒を用いて異形断面繊維を製造しようとした場合には、延伸工程において糸切れが多発し、得られる繊維の強度が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−328222号公報
【特許文献2】国際公開WO2004/012542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、強度の高い異形断面形状のアクリル系合成繊維を、紡糸溶媒として良溶媒を用いて安定生産する製造方法を提供することを課題とする。特に、紡糸溶媒としてDMSO、DMF、DMAcなどの良溶媒を用いたアクリル系合成繊維の製造方法において、糸切れの発生頻度を抑制して単繊維繊度が30dtex以上、かつ、断面形状が異形断面であるアクリル系合成繊維を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、紡糸溶媒としてDMSO、DMF、DMAcなどの良溶媒を用いて、単繊維繊度が30dtex以上で、断面形状が異形断面のアクリル系合成繊維を製造する際に、アクリロニトリル30〜60重量%、塩化ビニル35〜69.5重量%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー0.5〜5重量%、その他の共重合可能なビニル系モノマー0〜5重量%を重合して得られ、実質的に塩化ビニリデンを含まないアクリロニトリル系共重合体を用いることで、実質的に糸切れを起こすことなく、例えば、かつら用途に好適な特性を有するアクリル系合成繊維を製造することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、アクリロニトリル系共重合体を繊維化して単繊維繊度が30dtex以上で、断面形状が異形断面であるアクリル系合成繊維を製造する方法において、繊維化に用いる紡糸溶媒としてDMSO、DMF、DMAcよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用い、アクリロニトリル系共重合体としてアクリロニトリル30〜60重量%、塩化ビニル35〜69.5重量%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー0.5〜5重量%、その他共重合可能なビニル系モノマー0〜5重量%を重合して得られ、実質的に塩化ビニリデンを含まないアクリロニトリル系共重合体を用いることを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法に関する。
【0007】
また、単繊維の普通強度、および結節強度が1cN/dtex以上であるアクリル系合成繊維の製造方法に関する。
【0008】
さらに、凝固浴、あるいは水洗浴中で250%以上、乾燥後に200%以上延伸を行うことを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、紡糸溶媒としてDMSO、DMF、DMAcなどの良溶媒を用いて単繊維繊度が30dtex以上で、断面形状が異形断面のアクリル系合成繊維を製造した際にも実質的に糸切れを起こすことなくかつら用途に好適な特性を有するアクリル系合成繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細説明する。
【0011】
本発明で使用するアクリロニトリル系共重合体とは、アクリロニトリル30〜60重量%、塩化ビニル35〜69.5重量%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー0.5〜5重量%、その他共重合可能なビニル系モノマー0〜5重量%を重合して得られる共重合体であり、共重合成分として実質的に塩化ビニリデンを含まないものである。
【0012】
本発明において特に重要な点は、用いるアクリロニトリル系共重合体が実質的に塩化ビニリデンを含まないことである。塩化ビニリデンを含む共重合体を用いて紡糸を行った場合、紡糸工程における糸切れが多発し、得られる繊維の強度が低下する。このため、工程安定性、品質の両面から実質的に塩化ビニリデンを含まない共重合体を使用することが非常に重要である。
【0013】
また、本発明のアクリロニトリル系共重合体に含まれるアクリロニトリルの量は30〜60重量%が好ましく、さらに好ましい下限値として40重量%、さらに好ましい上限値として55重量%が挙げられる。30重量%未満では繊維の耐熱性が低いために、かつら用に必要なカールセット性が得られない。一方、60重量%を超えるとかつら用途などにおいて望まれるソフトな触感が損なわれることがある。
【0014】
また、塩化ビニルの量は35〜69.5重量%が好ましく、さらに好ましい下限値として40重量%、さらに好ましい上限値として59.5重量%が挙げられる。塩化ビニルの量が35重量%未満になるとソフト且つ獣毛ライクな触感が得られにくくなることがあり、69.5重量%を超えると耐熱性が低下するためにかつら用に必要なカールセット性が得られない。
【0015】
ここで、スルホン酸基含有ビニル系モノマーとしては、例えばパラスチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸、およびこれらの塩が挙げられ、その量は0.5〜5重量%が好ましい。上記スルホン酸基含有ビニル系モノマーはそれらの1種以上を組み合わせて用いることもできる。0.5重量%未満では染色性が不足することになり、一方で5重量%を超えると共重合体の親水性が過多となり、紡糸時の凝固速度が低下するため紡糸性が悪化する。
【0016】
また、その他共重合可能なビニル系モノマーとしては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、又はそれらのモノ又はジアルキル置換体;スチレン若しくはスチレンのα,β置換体;ビニルアセテート;ビニルピロリドン、ビニルピリジン若しくはそれらのアルキル置換体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、ビニル基を有する限り本発明に用いることができる。上記モノマーは1以上を組み合わせて用いることもできる。また、これらのモノマーはかつらなどの用途に用いる上で必要な物性に影響を与えない範囲、すなわち0〜5重量%で用いることが好ましい。
【0017】
このアクリロニトリル系共重合体は公知の湿式紡糸法により繊維化することができる。このときの紡糸溶媒としては該共重合体の良溶媒を使用することが可能であり、DMSO、DMF、DMAcなどが例示される。紡糸原液の濃度は20〜35重量%が好ましい。さらに好ましい下限値としては25重量%を例示でき、さらに好ましい上限値としては30重量%を例示できる。紡糸原液の濃度が20重量%未満になると十分な繊維強度が得られず、35重量%を超えると紡糸原液の粘度が高くなるため紡糸性が悪化する。また、必要に応じてこの紡糸原液に艶消し剤や着色安定剤、難燃剤、光安定剤、防錆剤、静電剤、抗菌剤等を添加することもできる。
【0018】
このようにして調製された紡糸原液は通常の湿式紡糸法により紡糸されるが、本発明においては、ノズルとして異形断面形状のノズルが用いられる。ここでいう異形断面とは丸形以外の断面形状を指し、例えばY字形、六基形、亜鈴形、S字形、C字形、繭形、4〜8葉形、キ形などが例示できるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。上記異形断面ノズルを使用する目的は丸断面では得られない独特の光沢、およびソフトな触感を持つ繊維を得るためであり、目的とする製品の性質に合わせ、あらゆるノズルから適切な孔形状が選択されうる。
【0019】
上記ノズルから紡出された紡糸原液は、紡糸原液と同じ溶媒の水溶液からなる凝固浴中にて凝固された後、水洗工程へと導かれる。この際、強度の高い繊維を得る目的のため、凝固浴中、もしくは水洗浴中にて250%以上、好ましくは300%以上延伸する。
【0020】
なお、ここでいう強度の高い繊維とは、引張強度、および結節強度が1cN/dtex以上の繊維である。これらの値が1cN/dtex未満になると、かつらなどに加工する際のハックリング工程での作業性に問題が生じるため、かつら用途などに用いることが困難となる。
【0021】
水洗の終了した繊維は、続いて乾燥工程、延伸工程、および緩和熱処理工程を経て最終的に繊維へと加工される。乾燥には均熱風乾燥機やヒートロール型乾燥機など、一般に用いられる乾燥機を用いることができる。延伸工程では目的とする強度の高い繊維を得るために200%以上、好ましくは250%以上延伸する。
【0022】
このようにして延伸された繊維の単繊維繊度は緩和熱処理工程を経て最終的に30〜100dtex、好ましくは30〜80dtexに調整される。一般に単繊維繊度が大きくなると強度が低下するとともに繊維の柔軟性が失われ、100dtexを超えるとかつらなどに用いることが困難になる場合がある。
【0023】
本発明の製造方法は、実質的に塩化ビニリデンを含まないアクリロニトリル系共重合体を用いることで、強度の高いアクリル系合成繊維を安定的に生産する事が特徴であって、この方法を用いることによりDMSO、DMF、あるいはDMAcなどの良溶媒を用いた場合にも糸切れなどのトラブルなく異形断面形状の合成繊維を得ることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。実施例の記載に先立ち、測定法等の定義について説明する。
【0025】
(実験例1)強度
引張強度、および結節強度はJIS L 1015に従い測定した。一般にこれらの値が1cN/dtex未満になると、かつらなどに加工する際のハックリング工程での作業性に問題が生じるため、頭髪用途に用いることが困難となる。
【0026】
(実験例2)紡糸性
紡糸を行った際の延伸工程における糸切れの発生頻度から、以下の基準に従い紡糸性を4段階評価した。
◎:糸切れが発生せず、安定して紡糸を行うことができる。
○:まれに糸切れは発生するものの、安定して紡糸を行うことができる。
△:30分に数回以上の糸切れが発生し、安定して紡糸を行うことができない。
×:常に糸切れが発生し、紡糸を行うことが困難。
【0027】
(実施例1)
アクリロニトリル50重量%、塩化ビニル47.5重量%、パラスチレンスルホン酸ソーダ2.5重量%を重合してなるアクリロニトリル系共重合体をDMSOに溶解し、固形分濃度28重量%の紡糸原液を作製した。これを0.38mmΦ×50ホール、Y字形状の紡糸ノズルより、DMSO濃度60重量%、温度30℃のDMSO‐水系凝固浴中に紡糸速度2.5m/min.で紡出した。次いで、DMSO濃度30重量%、温度80℃のDMSO‐水系凝固浴中にて330%延伸後、沸騰水にて水洗を行った。続いて乾燥工程を経た後、温度140℃にて250%延伸、160℃にて30%緩和処理を施して50dtexのアクリル系合成繊維を得た。
【0028】
この製造方法では安定して紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.5cN/dtex、結節強度1.3cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0029】
(実施例2)
実施例1と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸ノズルの孔形状が亜鈴形のものを用いた。
【0030】
この製造方法では安定して紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.4cN/dtex、結節強度1.2cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0031】
(実施例3)
実施例1と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸ノズルの孔形状が六基形のものを用いた。
【0032】
この製造方法では安定的に紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.5cN/dtex、結節強度1.2cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0033】
(実施例4)
実施例1と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液を作製する際、溶媒としてDMAcを用い、紡糸原液はDMAc‐水系凝固浴中にて紡出、延伸を行った。
【0034】
この製造方法では安定して紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.6cN/dtex、結節強度1.3cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0035】
(実施例5)
実施例1と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液の吐出量を変更し、最終的な繊度が40dtexとなるよう調節した。
【0036】
この製造方法では安定して紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.7cN/dtex、結節強度1.3cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0037】
(実施例6)
実施例1と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液の吐出量を変更し、最終的な繊度が30dtexとなるよう調節した。
【0038】
この製造方法では安定して紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.8cN/dtex、結節強度1.4cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0039】
(実施例7)
アクリロニトリル50重量%、塩化ビニル44.5重量%、アクリル酸メチル3重量%、パラスチレンスルホン酸ソーダ2.5重量%を重合してなるアクリロニトリル系共重合体を用い、実施例1の条件と同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液の吐出量を変更し、最終的な繊度が40dtexとなるよう調節した。
【0040】
この製造方法では安定的に紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.3cN/dtex、結節強度1.1cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0041】
(実施例8)
アクリロニトリル50重量%、塩化ビニル44.5重量%、酢酸ビニル3重量%、パラスチレンスルホン酸ソーダ2.5重量%を重合してなるアクリロニトリル系共重合体を用い、実施例1の条件と同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液の吐出量を変更し、最終的な繊度が30dtexとなるよう調節した。
【0042】
この製造方法では安定的に紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.4cN/dtex、結節強度1.1cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0043】
(比較例1)
アクリロニトリル56重量%、塩化ビニリデン41重量%、スルホン酸アクリルアミド3重量%を重合してなるアクリロニトリル系共重合体を用い、実施例1の条件と同様の条件にて合成繊維を製造した。
【0044】
この条件においては、合成繊維の製造中に常に糸切れが発生し、紡糸が困難であった。また、得られた合成繊維は強度が低く(普通強度1.1cN/dtex、結節強度0.8cN/dtex)、かつら作製に適したものではなかった。
【0045】
(比較例2)
比較例1と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液を作製する際、溶媒としてDMFを用い、紡糸原液はDMF‐水系凝固浴中にて紡出、延伸を行った。
【0046】
この条件においては、合成繊維の製造中に常に糸切れが発生し、紡糸が困難であった。また、得られた合成繊維は強度が低く(普通強度1.2cN/dtex、結節強度0.8cN/dtex)、かつら作製に適したものではなかった。
【0047】
(比較例3)
アクリロニトリル50重量%、塩化ビニル44.5重量%、塩化ビニリデン3重量%、パラスチレンスルホン酸ソーダ2.5重量%を重合してなるアクリロニトリル系共重合体を用い、実施例1の条件と同様の条件にて合成繊維を製造した。
【0048】
この条件においては、合成繊維の製造中に常に糸切れが発生し、紡糸が困難であった。また、得られた合成繊維は強度が低く(普通強度1.1cN/dtex、結節強度0.9cN/dtex)、かつら作製に適したものではなかった。
【0049】
(比較例4)
比較例3と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液の吐出量を変更し、最終的な繊度が40dtxとなるよう調節した。
【0050】
この条件においては、合成繊維の製造中に糸切れが多発し、紡糸性に問題があった。また、得られた合成繊維は強度が低く(普通強度1.1cN/dtex、結節強度0.9cN/dtex)、かつら作製に適したものではなかった。
【0051】
(比較例5)
比較例3と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸ノズルの孔形状が亜鈴形のものを用いた。
【0052】
この条件においては、合成繊維の製造中に糸切れが多発し、紡糸性に問題があった。また、得られた合成繊維は強度が低く(普通強度1.0cN/dtex、結節強度0.8cN/dtex)、かつら作製に適したものではなかった。
【0053】
(比較例6)
比較例3と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸ノズルの孔形状が六基形のものを用いた。
【0054】
この条件においては、合成繊維の製造中に常に糸切れが発生し、紡糸性に問題があった。また、得られた合成繊維は強度が低く(普通強度0.9cN/dtex、結節強度0.7cN/dtex)、かつら作製に適したものではなかった。
【0055】
(参考例1)
比較例3と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸ノズルの孔形状が丸形のものを用いた。
【0056】
この製造方法では安定して紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.7cN/dtex、結節強度1.3cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0057】
(参考例2)
比較例3と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液の吐出量を変更し、最終的な繊度が20dtexとなるよう調節した。
【0058】
この製造方法では安定して紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.9cN/dtex、結節強度1.5cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0059】
(参考例3)
比較例3と同じ樹脂を用い、同様の条件にて合成繊維を製造した。ただし、紡糸原液を作製する際、溶媒としてアセトンを用い、紡糸原液はアセトン濃度30%のアセトン‐水系凝固浴中に紡出した。
【0060】
この製造方法では安定して紡糸を行うことができた。また、得られた合成繊維は光沢に優れるとともに十分な強度を有し(普通強度1.7cN/dtex、結節強度1.4cN/dtex)、かつら作製に適したものであった。
【0061】
以上の結果を表1にまとめた。
【0062】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル系共重合体を繊維化して単繊維繊度が30dtex以上で、断面形状が異形断面であるアクリル系合成繊維を製造する方法において、繊維化に用いる紡糸溶媒としてジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種を用い、アクリロニトリル系共重合体としてアクリロニトリル30〜60重量%、塩化ビニル35〜69.5重量%、スルホン酸基含有ビニル系モノマー0.5〜5重量%、その他共重合可能なビニル系モノマー0〜5重量%を重合してなり、実質的に塩化ビニリデンを含まないアクリロニトリル系共重合体を用いることを特徴とするアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項2】
前記アクリロニトリル系共重合体がアクリロニトリル40重量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項3】
前記アクリロニトリル系共重合体が塩化ビニル59.5重量%以下含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項4】
前記スルホン酸基含有ビニル系モノマーが、パラスチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸、およびこれらの塩からなる群から選ばれる1以上の化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項5】
前記その他共重合可能なビニル系モノマーが、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、又はそれらのモノ又はジアルキル置換体;スチレン若しくはスチレンのα,β置換体;ビニルアセテート;ビニルピロリドン、ビニルピリジン若しくはそれらのアルキル置換体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸からなる群から選ばれる1以上の化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項6】
前記異形断面が、丸形以外の断面形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項7】
前記異形断面が、Y字形、六基形、亜鈴形、S字形、C字形、繭形、4〜8葉形、又は、キ形のいずれかであることを特徴とする請求項6に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項8】
前記単繊維繊度が100dtex以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項9】
前記単繊維繊度が80dtex以下であることを特徴とする請求項8に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項10】
単繊維の普通強度、および結節強度が1cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。
【請求項11】
さらに凝固浴、あるいは水洗浴中で250%以上、乾燥後に200%以上延伸を行うことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のアクリル系合成繊維の製造方法。

【公開番号】特開2011−252251(P2011−252251A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126160(P2010−126160)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】