説明

アクリル系樹脂組成物

【課題】耐熱性に優れるとともに、透明性の温度変化が小さく、例えば、自動車用内装材、自動二輪車用外装材などの表面温度の変化が大きく、透明性が要求される用途に使用される成形材料として好適に使用することができる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)メタクリル酸エステル系重合体、(B)ゴム成分、および(C)芳香族ジカルボン酸エステル、脂肪族ジカルボン酸エステルおよびリン酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の改質剤を含有するアクリル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、例えば、自動車用内装材、自動二輪車用外装材などの表面温度の変化が大きい用途に使用される成形材料などとして好適に使用することができるアクリル系樹脂組成物に関する。なお、本明細書にいう自動二輪車は、いわゆる原動機付き自転車を含む概念のものである。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は、透明性に優れている半面、耐衝撃性に乏しいことから、アクリル樹脂にジエン系グラフト共重合体を主成分とする耐衝撃性改質剤が添加されたアクリル樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、このアクリル系樹脂組成物は、常温で透明性を有し、耐衝撃性が良好である半面、アクリル樹脂とジエン系グラフト共重合体との線膨張係数が異なるため、アクリル樹脂とジエン系グラフト共重合体との屈折率の差が大きくなり、透明性や光沢性の温度変化が大きくなるという欠点がある。
【0003】
また、耐熱性、耐衝撃性、透明性などに優れた組成物として、メタクリル酸エステル系重合体ブロックとアクリル酸エステル系ブロックとを含有するアクリル系のブロック共重合体と、ジエン系重合体などのゴムとを含有する熱可塑性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この熱可塑性樹脂組成物は、メタクリル酸エステル系重合体ブロックとアクリル酸エステル系ブロックとを含有するブロック共重合体という特殊なアクリル系樹脂を必要とするため、工業的生産性の観点から好ましいものであるとはいえない。
【0004】
したがって、近年、一般に使用されているメタクリル酸エステル系重合体とゴム成分とが併用された樹脂組成物であって、透明性や光沢性の温度変化が小さく、夏期などのように室内温度が高くなる自動車の内装材などに好適に使用することができる樹脂組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−309056号公報
【特許文献2】国際公開第2002/081561号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、良好な透明性および実用上満足しうる耐熱性を有し、透明性や光沢性の温度変化が小さいアクリル系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)(A)メタクリル酸エステル系重合体、(B)ゴム成分、および(C)芳香族ジカルボン酸エステル、脂肪族ジカルボン酸エステルおよびリン酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の改質剤を含有してなるアクリル系樹脂組成物、
(2)原料として前記アクリル系樹脂組成物を用いて成形されてなる自動車用内装材、ならびに
(3)原料として前記アクリル系樹脂組成物を用いて成形されてなる自動二輪車用外装材
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、良好な透明性および実用上満足しうる耐熱性を有し、透明性や光沢性の温度変化が小さいという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例1〜11および比較例1で用いられる光透過度測定装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、メタクリル酸エステル系重合体とゴム成分とが併用された樹脂組成物は、ゴム成分が使用されているので耐衝撃性に優れている半面、アクリル系樹脂とゴム成分との線膨張係数が異なるため、常温から高温状態になるにしたがって透明性や光沢性が損なわれるという技術的課題に着目して鋭意研究を重ねた結果、この樹脂組成物に特定の改質剤を配合した場合には、この樹脂組成物は、ゴム成分を含有するので耐衝撃性に優れるとともに、驚くべきことに透明性の温度変化が小さく、良好な透明性を有することが見出された。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0011】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、(A)メタクリル酸エステル系重合体、(B)ゴム成分、および(C)芳香族ジカルボン酸エステル、脂肪族ジカルボン酸エステルおよびリン酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の改質剤を含有する。
【0012】
好適なメタクリル酸エステル系重合体としては、メタクリル酸エステルを主成分とする重合体が挙げられる。ここで、本明細書にいう「メタクリル酸エステルを主成分とする」とは、メタクリル酸エステル系重合体の原料モノマーにおけるメタクリル酸エステルの含有量が50質量%以上であることを意味する。メタクリル酸エステル系重合体の原料モノマーにおけるメタクリル酸エステルの含有率は、メタクリル酸エステル系重合体の耐熱性および透明性を高める観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0013】
メタクリル酸エステルを主成分とする重合体の代表例としては、メタクリル酸エステル単独重合体、およびメタクリル酸エステルと他の単量体を含有し、メタクリル酸エステルを主成分とする原料モノマーを重合させることによって得られるメタクリル酸エステル系共重合体が挙げられる。
【0014】
好適なメタクリル酸エステルとしては、加熱溶融時における流動性、耐熱分解性およびゴム成分との相溶性を高める観点から、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどのエステル部分におけるアルキル基の炭素数が1〜18であるメタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニルなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらのメタクリル酸エステルは、加熱溶融時における流動性、耐熱分解性およびゴム成分との相溶性に優れている。
【0015】
前記メタクリル酸エステルのなかでは、入手が容易なことから、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸トリデシルおよびメタクリル酸ステアリルが好ましい。また、耐熱性の観点から、エステル部分におけるアルキル基の炭素数が1〜4であるメタクリル酸アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸メチルがさらに好ましい。
【0016】
なお、メタクリル酸エステル単独重合体において、その原料モノマーとして、前記メタクリル酸エステルのうちの1種類が用いられる。原料モノマーとして、2種類以上のメタクリル酸エステルが用いられている場合には、メタクリル酸エステル系重合体は、メタクリル酸エステル共重合体となる。
【0017】
メタクリル酸エステルと他の単量体を含有し、メタクリル酸エステルを主成分とする原料モノマーを重合させることによって得られるメタクリル酸エステル系共重合体としては、前記メタクリル酸エステルのうちの1種類以上と他の単量体とを含有し、メタクリル酸エステルを主成分とする原料モノマーを重合させることによって得られる共重合体が挙げられる。メタクリル酸エステル系共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、あるいはブロック共重合体であってもよい。メタクリル酸エステルを主成分とする原料モノマーを重合させることによって得られるメタクリル酸エステル系共重合体は、通常、ランダム共重合体であり、このランダム共重合体は、市場にて容易に入手することができる。
【0018】
前記他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリルなどのアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの水酸基含有アクリル酸アルキルエステル;アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸3−メトキシブチル、アクリル酸トリフルオロメチル、アクリル酸トリフルオロエチル、アクリル酸ペンタフルオロエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸3−ジメチルアミノエチルなどの他のアクリル酸エステル;メタクリル酸、アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル化合物;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステルなどの不飽和ジカルボン酸化合物またはその誘導体;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド化合物;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン系化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、クロロプレンなどのハロゲン含有不飽和化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのケイ素含有不飽和化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他のモノマーは、それぞれ単独でまたは2種類以上を混合して用いることができる。
【0019】
前記他のモノマーの中では、耐熱性の観点から、アクリル酸アルキルエステルおよびシアン化ビニル化合物が好ましく、エステル部分のアルキル基の炭素数が1〜4であるアクリル酸アルキルエステル、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルがより好ましい。
【0020】
メタクリル酸エステル系重合体の原料モノマーにおける前記他のモノマーの含有率は、メタクリル酸エステル系共重合体の耐熱性および透明性を高める観点から、50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0021】
本発明においては、原料モノマーとしてメタクリル酸メチルを主成分とするメタクリル酸エステル系重合体が耐熱性および透明性の観点から好ましい。
【0022】
メタクリル酸エステル系重合体の原料モノマーの重合方法は、特に限定されないが、その方法の例として、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法などが挙げられる。
【0023】
メタクリル酸エステル系重合体のメルトフローレート(230℃、37.3N)は、特に限定されないが、メタクリル酸エステル系重合体の加熱溶融時における流動性を高める観点から、好ましくは5g/10min以上、より好ましくは15g/10min以上であり、メタクリル酸エステル系重合体の機械的強度を高める観点から、好ましくは30g/10min以下、より好ましくは25g/10min以下である。なお、メタクリル酸エステル系重合体のメルトフローレートは、重合温度、重合開始剤および連鎖移動剤の種類や量を調整することによって容易に調節することができる。
【0024】
なお、メタクリル酸エステル系重合体には、本発明の目的を阻害しない範囲内で、他の重合体が含まれていてもよい。
【0025】
ゴム成分は、本発明のアクリル系樹脂組成物に耐衝撃性を付与するために用いられる。
ゴム成分の具体例としては、例えば、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−アクリロニトリル−スチレン系共重合体、アクリル系ゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、イソブチレン重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのゴム成分は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
ゴム成分は、耐衝撃性を高めるとともに、本発明のアクリル系樹脂組成物の透明性や光沢性を高める観点から、25℃におけるメタクリル酸エステル系重合体との屈折率の差(絶対値)は、好ましくは0.03以下、より好ましくは0.01以下である。このようなゴム成分としては、例えば、アクリル系ゴム、酢酸ビニル含量が20〜32質量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0027】
なお、アクリル系ゴムとは、アクリル酸、メタクリル酸、その誘導体などのアクリル系単量体を主成分とするゴムを意味する。アクリル系ゴムは、アクリル系単量体のみで構成されていてもよく、あるいは該アクリル系単量体と他の単量体とで構成されていてもよい。ここで、「アクリル系単量体を主成分とする」とは、アクリル系ゴムを構成する原料モノマーにおけるアクリル系単量体の含有量が50質量%以上であることを意味する。他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジエチルスチレン、4−ブトキシスチレン、N,N−ジメチルアミノスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどのα,β−エチレン性不飽和ニトリル化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル化合物;エチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの他の単量体は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
なお、アクリル系ゴムは、例えば、アクリル系ゴムラテックスやコア−シェル型のアクリル系ゴムであってもよい。コア−シェル型のアクリル系ゴムとしては、例えば、コアがアクリル系重合体からなるゴム状ポリマーで形成され、シェルが60℃以上のガラス転移点を有するガラス状ポリマーで形成されているコア−シェル型のアクリル系ゴムなどが挙げられる。
【0029】
アクリル系ゴムとしては、例えば、ガンツ化成(株)から商業的に入手しうる商品名:スタフィロイドIM−701などのコア−シェル型のアクリルゴムなどが挙げられる。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体としては、例えば、東ソー(株)から商業的に入手しうる商品名:ウルトラセン637、ウルトラセン750などが挙げられる。これらのなかでは、透明性を高める観点から、アクリル系ゴムが好ましく、コア−シェル型のアクリル系ゴムがより好ましい。
【0030】
ゴム成分は、架橋剤を用いて架橋されていてもよい。架橋剤としては、例えば、硫黄;2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキシジイソプロピルベンゼンなどの有機過酸化物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドなどの有機硫黄化合物;p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシムなどのオキシム化合物;ヘキサメチレンジアミンカーバメートなどのポリアミンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、架橋剤を用いる場合には、必要により、例えば、ジフェニルグアジニン、亜鉛ジメチルジチオカーバメート、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルスルフィドなどの加硫促進剤を用いてもよい。
【0031】
ゴム成分の量は、メタクリル酸エステル系重合体100質量部あたり、透明性および耐衝撃性を向上させる観点から、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは25質量部以上であり、耐熱性を高める観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
【0032】
改質剤は、芳香族ジカルボン酸エステル、脂肪族ジカルボン酸エステルおよびリン酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種である。
【0033】
本発明においては、メタクリル酸エステル系重合体およびゴム成分とともに、特定の改質剤が用いられている点に、1つの大きな特徴を有する。本発明のアクリル系樹脂組成物は、特定の改質剤が用いられているので、耐熱性に優れるとともに、メタクリル酸エステル系重合体とゴム成分との線膨張係数が大きく異なっているにもかかわらず、本発明のアクリル系樹脂組成物の透明性の温度変化が小さくなるという優れた性質が本発明のアクリル系樹脂組成物に付与される。
【0034】
改質剤のなかでは、本発明のアクリル系樹脂組成物の高温における透明性を高める観点から、芳香族ジカルボン酸エステルおよびリン酸エステルが好ましく、芳香族ジカルボン酸エステルがより好ましい。また、本発明のアクリル系樹脂組成物の透明性の温度変化を小さくする観点から、脂肪族ジカルボン酸エステルおよびリン酸エステルが好ましく、脂肪族ジカルボン酸エステルがより好ましい。
【0035】
芳香族ジカルボン酸エステルとしては、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジn−ブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシル、テトラヒドロフタル酸ジエステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの芳香族ジカルボン酸エステルは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらの芳香族ジカルボン酸エステルの中では、高温状態における本発明のアクリル系樹脂組成物の透明性を高める観点から、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジn−ブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシルおよびフタル酸ジトリデシルが好ましく、フタル酸ジ2−エチルヘキシルがより好ましい。
【0036】
脂肪族ジカルボン酸エステルとしては、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジn−ブチル、アジピン酸ジヘプチル、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシルなどのアジピン酸ジエステル;セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ2−エチルヘキシルなどのセバシン酸ジエステル;マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジ2−エチルヘキシルなどのマレイン酸ジエステル;フマル酸ジブチルなどのフマル酸ジエステルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの脂肪族ジカルボン酸エステルは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらの脂肪族ジカルボン酸エステルの中では、高温状態における本発明のアクリル系樹脂組成物の透明性を高める観点から、アジピン酸ジエステルが好ましく、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジn−ブチル、アジピン酸ジヘプチル、アジピン酸ジ2−エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニルおよびアジピン酸ジイソデシルがより好ましく、アジピン酸ジ2−エチルヘキシルがさらに好ましい。
【0037】
リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリクレシル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)、リン酸トリス(2−クロロエチル)、リン酸トリス(ジクロロプロピル)、リン酸トリブトキシエチル、リン酸トリス(β−クロロプロピル)、リン酸トリフェニル、リン酸オクチルジフェニル、リン酸トリス(イソプロピルフェニル)、リン酸クレジルジフェニルなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのリン酸エステルは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらのリン酸エステルの中では、高温状態における本発明のアクリル系樹脂組成物の透明性を高める観点から、リン酸トリクレシル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)、リン酸トリス(2−クロロエチル)、リン酸トリス(ジクロロプロピル)およびリン酸トリブトキシエチル、リン酸トリス(β−クロロプロピル)が好ましく、リン酸トリクレシルがより好ましい。
【0038】
改質剤の量は、メタクリル酸エステル系重合体100質量部あたり、本発明のアクリル系樹脂組成物の透明性の温度変化を小さくする観点から、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上であり、本発明のアクリル系樹脂組成物の耐熱性および機械的強度を高める観点から、好ましくは40質量部以下、より好ましくは35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下、より一層好ましくは25質量部以下である。
【0039】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、それ自体が良好な透明性を有するので、そのままの状態で、例えば、樹脂成形体の成形用材料などとして好適に使用することができる。
【0040】
一般に、樹脂成形体には、所望の色彩を付与するために着色剤が配合されている。本発明のアクリル系樹脂組成物においても、所望の色彩を付与するために顔料などの着色剤をさらに含有させることができる。本発明のアクリル系樹脂組成物は、温度変化による透明性の変化が小さい。したがって、本発明のアクリル系樹脂組成物に着色剤を含有させたアクリル系樹脂組成物を成形材料として用いて所定形状の樹脂成形体を成形した場合、色彩の温度変化が小さい成形体を得ることができる。
【0041】
着色剤としては、顔料および染料が挙げられる。着色剤は、本発明のアクリル系樹脂組成物を用いて成形される成形体に要求される色彩に応じて適宜選択して用いることができる。着色剤のなかでは、耐光性の観点から、顔料が好ましい。顔料は、例えば、カーボンブラックなどの無機顔料および有機顔料のいずれであってもよい。
【0042】
着色剤の量は、本発明のアクリル系樹脂組成物の用途、着色剤の種類などによって異なるので一概には決定することができない。通常、着色剤の量は、本発明のアクリル系樹脂組成物が硬くならないようにする観点から、本発明のアクリル系樹脂組成物100質量部あたり、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。なお、着色剤の量の下限値は、本発明のアクリル系樹脂組成物の色彩を着色透明とする場合もあるため、その用途に応じて適宜決定することが好ましい。
【0043】
本発明のアクリル系樹脂組成物には、必要により、例えば、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、発泡剤、滑剤、充填剤などの添加剤を本発明の目的が阻害されない範囲内で添加してもよい。
【0044】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、例えば、メタクリル酸エステル系重合体、ゴム成分、改質剤、および必要により添加剤をバッチミキサー、タンブラー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ロール、単軸押出機、二軸押出機などの手段により、加熱溶融混練することによって容易に調製することができる。
【0045】
メタクリル酸エステル系重合体、ゴム成分、改質剤、および必要により添加剤を加熱溶融混練するときの温度は、各成分を均一に分散させる観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上であり、各成分の劣化を防止する観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、さらに好ましくは210℃以下である。
【0046】
以上のようにして、メタクリル酸エステル系重合体、ゴム成分、改質剤、および必要により添加剤を加熱溶融混練し、各成分を均一に分散させることにより、本発明のアクリル系樹脂組成物が得られる。
【0047】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、カレンダー成形、熱成形、回転成形、シート成形、フイルム成形などにより、所望の形状を有する成形体に加工することができる。
【0048】
本発明のアクリル系樹脂組成物が用いられた成形体としては、例えば、プレート、シート、フイルムなどの一般に使用されている成形体のほか、本発明のアクリル系樹脂組成物は、良好な透明性を有し、透明性の温度変化が小さいことから、夏期などに直射日光によって高温となる自動車のインストルメントパネル、ドアトリムなどの自動車用内装材を構成するパーツ(部品)、自動二輪車のウインドシールド、泥除けなどの樹脂で構成されている自動二輪車用外装材などに好適に使用することができる。
【0049】
さらに、本発明のアクリル系樹脂組成物は、前記成形体以外にも、例えば、ボトル、パイプ、パッキン、継手、柱、壁材、床材、容器、電気機器の筐体、電気回路基板などの種々の成形体に使用することができる。
【実施例】
【0050】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
実施例1〜11
メタクリル酸エステル系重合体としてポリメチルメタクリレート〔住友化学(株)製、商品名:スミペックスLG21、メルトフローレート(230℃、37.3N):21g/10min〕、ゴム成分としてアクリル系ゴム〔ガンツ化成(株)製、商品名:スタフィロイドIM−701〕、改質剤として表1に示す化合物を、それぞれ、表1に示す組成となるように混合し、得られた混合物をバッチミキサー〔(株)東洋精機製作所製、商品名:ラボプラストミル〕に入れ、180℃で回転数30rpmにて3分間、加熱溶融混練することにより、アクリル系樹脂組成物40gを得た。
【0052】
なお、改質剤の詳細は、以下のとおりである。
〔改質剤の詳細〕
・改質剤A:アジピン酸ジ2−エチルヘキシル
・改質剤B:リン酸トリクレシル
・改質剤C:フタル酸ジ2−エチルヘキシル
【0053】
比較例1
メタクリル酸エステル系重合体とゴム成分とを表1に示す比率となるように混合し、得られた混合物をバッチミキサー〔(株)東洋精機製作所製、商品名:ラボプラストミル〕に入れ、180℃で回転数30rpmにて3分間、加熱溶融混練することにより、アクリル系樹脂組成物40gを得た。
【0054】
【表1】

【0055】
実験例
卓上テストプレス機〔テスター産業(株)製、商品名:テーブルタイプテストプレスSA-303-I-S〕を用い、各実施例および比較例1で得られたアクリル系樹脂組成物をそれぞれ200℃で10MPaの圧力にて溶融プレスした後、20℃に冷却し、厚さが約1mmおよび約300μmのフイルムを作製した。得られたフイルムの物性として、光透過率(1)、光透過率(2)、破断強度および耐熱性を以下の測定方法に基づいて測定した。光透過率(1)、破断強度および耐熱性の測定結果を表2に、光透過率(2)の測定結果を表3に示す。
【0056】
〔光透過率(1)〕
各実施例および比較例1で得られた厚さが約1mmフイルムの光透過率(1)を測定する際に用いられた光透過度測定装置の概要を図1に示す。図1は、光透過度測定装置の概略説明図である。
【0057】
図1において、He−Neレーザー照射装置〔メレス・グリオ(MELLES GRIO)社製、品番:05-LHP-121、波長:633nm〕1からの入射光2は、光透過度測定装置3の入射光2の照射孔から光透過度測定装置3内に入り、厚さが約1mmのフイルム4に入射光2を照射させる。フイルム4を透過した透過光5は、フイルム4から127mm離れた位置で光透過度測定装置3に設けられている直径10mmの透過光取出孔6から取り出し、フイルム4から約500mm離れた位置に配設されている検出器7(一辺の長さが約15mmの正方形)で透過光5の透過光強度を測定する。
【0058】
まず、光透過度測定装置3を用いて各実施例および比較例1で得られた厚さが約1mmのフイルム4の透過光強度を室温(25℃)で測定する。その後、そのフイルム4を加熱し、40℃、60℃および80℃に到達した時点で、前記と同様にして透過光強度を測定し、28℃に冷却した後に、再度、そのフイルム4の透過光強度を測定する。
【0059】
なお、前記透過光5は、フイルム4を透過した光を意味し、この透過光5は、レーザー照射装置1からの入射光2がフイルム4を透過し、フイルム4で屈折せずに直進した透過光と、フイルム4で屈折し、透過光取出孔6を通過した散乱光との双方を含む概念のものである。
【0060】
光透過率は、式:
〔光透過率〕
=〔検出器7で検出された透過光5の強度〕÷〔レーザー照射装置1からの入射光2の強度〕
に基づいて求める。
【0061】
また、室温(25℃)での光透過率と80℃での光透過率との差(表2中の「25℃と80℃との差」)(絶対値)を求める。
【0062】
〔光透過率(2)〕
各実施例および比較例1で得られたフイルムの光透過率(2)の測定には、光透過率(1)の測定方法と同様に図1に示される光透過度測定装置3を用いる。
【0063】
光透過率(2)は、光透過率(1)の測定方法において、光透過度測定装置3の透過光取出孔6を覆うように検出器7を配設し、フイルム4から検出器7までの距離を約130mmに変更したことを除き、光透過率(1)の測定方法と同様にして測定する。
【0064】
〔破断強度〕
厚さ約300μmのフイルムを両手で保持し、フイルム面が互いに100度の角をなすまで折り曲げた際、破断が生じるか否かを調べ、以下の評価基準に基づいて破断強度を評価する。
(評価基準)
○:破断なし
×:破断あり
【0065】
〔耐熱性〕
各実施例および比較例1で得られた厚さ約1mmのフイルムのガラス転移点(Tg)を動的粘弾性測定装置〔(株)ユービーエム製、商品名:レオゲル-E4000-DVE〕を用いて測定する。
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
表2および表3に示された結果から、各実施例で得られたアクリル系樹脂組成物は、いずれも、改質剤が使用されているので、光透過率の温度変化が小さく、透明性に優れていることがわかる。さらに、メタクリル酸エステル系重合体100質量部あたりの改質剤の量を約10質量部以上とした場合には、アクリル系樹脂組成物の光透過率の温度変化がより一層小さくなることがわかる。これに対して、比較例1で得られたアクリル系樹脂組成物は、改質剤が用いられていないため、光透過率の温度変化が大きいことがわかる。
【0069】
また、表2に示された結果から、各実施例で得られたアクリル系樹脂組成物は、いずれも、改質剤が使用されているので、破断強度に優れていることがわかる。これに対して、比較例1で得られたアクリル系樹脂組成物は、改質剤が用いられていないため、破断強度に劣ることがわかる。
【0070】
さらに、表2に示された結果から、各実施例および比較例1で用いられているメタクリル酸エステル系重合体のガラス転移点は104℃であるのに対し、各実施例で得られたアクリル系樹脂組成物は、そのガラス転移点がメタクリル酸エステル系重合体のガラス転移点よりも低いが、50℃以上のガラス転移点を有するので、実用上満足しうる耐熱性を有することがわかる。
【0071】
以上のことから、本発明のアクリル系樹脂組成物は、機械的強度に優れ、透明性の温度変化が小さく、良好な透明性を有するので、透明性が要求される用途に好適に使用することができることがわかる。また、本発明のアクリル系樹脂組成物は、透明性の温度変化が小さいことから、着色剤を含有する場合であっても、温度変化によってその色彩が変化しがたいことがわかる。
【0072】
したがって、本発明のアクリル系樹脂組成物は、例えば、自動車用内装材、自動二輪車用外装材などの表面温度の変化が大きく、透明性が要求される用途に使用される成形材料として好適に使用することができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のアクリル系樹脂組成物は、例えば、自動車用内装材、自動二輪車用外装材などの表面温度の変化が大きく、透明性が要求される用途に使用される成形材料として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 He−Neレーザー照射装置
2 入射光
3 光透過度測定装置
4 フイルム
5 透過光
6 透過光取出孔
7 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)メタクリル酸エステル系重合体、(B)ゴム成分、および(C)芳香族ジカルボン酸エステル、脂肪族ジカルボン酸エステルおよびリン酸エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の改質剤を含有してなるアクリル系樹脂組成物。
【請求項2】
メタクリル酸エステル系重合体がメタクリル酸エステルを主成分とする重合体である請求項1に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項3】
メタクリル酸エステル系重合体100質量部あたりのゴム成分の量が10〜100質量部である請求項1または2に記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項4】
メタクリル酸エステル系重合体100質量部あたりの改質剤の量が3〜40質量部である請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、着色剤を含有してなる請求項1〜4のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物。
【請求項6】
原料として請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物を用いて成形されてなる自動車用内装材。
【請求項7】
原料として請求項1〜5のいずれかに記載のアクリル系樹脂組成物を用いて成形されてなる自動二輪車用外装材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−180393(P2010−180393A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93780(P2009−93780)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】