説明

アクリル酸固定化不織布を用いたウイルス除去材、及びウイルスの除去方法

【課題】 目詰まりを起こすことなく血液等の肝炎ウイルスを含む液を流すことができ、液中に含まれる有用成分の除去を少なくして効率的に液中のウイルスを除去することが可能な基材、器具、及びそれらを用いたウイルスの除去方法を提供すること。
【解決手段】 (メタ)アクリル酸を、ポリエステル又はポリオレフィンを基質とする不織布にグラフト重合反応により固定化させてなる肝炎ウイルス吸着用高分子基材、当該高分子基材を用いた肝炎ウイルス除去器具、及びその除去方法を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル酸を、ポリエステル又はポリオレフィンを基質とする不織布にグラフト重合反応により固定化させてなる肝炎ウイルス吸着用高分子基材、当該高分子基材を用いた肝炎ウイルス除去器具、及びその除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)の慢性的感染が原因であり、薬剤による治療法としてペグインターフェロン、リバビリンの併用療法が一般的である。ジェノタイプ1bかつ血液中のウイルス量の多い患者では、治療成績は50%程度であり、肝硬変、肝がんへの移行割合が高いことからより有効な治療法、薬剤の開発が望まれている(非特許文献1)。一般的に薬剤による治療では血中のウイルス量が低い場合、治療成績が高いことが知られており、血中のHCVを多孔性のフィルターで除去し、薬剤との併用療法を行うと、治療成績が向上するとの報告がある(非特許文献2)。
【0003】
すなわち体内のウイルス量を下げることで、治療成績が向上したものと推定される。しかしながら、上記フィルターで除去する方法は、血漿分離膜および血漿浄化膜の2つを利用することで、血漿成分からウイルスを除去することから、回路構成は複雑で、より簡便に血中からウイルスを除去する方法がさらに望まれている。また、血漿成分浄化膜は、限外濾過膜であるために、血漿中の有効成分なども同時に除去してしまうといった課題も残されている。従って、より簡便にHCV除去出来る高分子基材が開発できれば、それを用いることにより、患者への負担の少ないHCV除去モジュール提供が可能になる。
【0004】
これまでのHCVを除去する技術は、例えば特許文献1及び特許文献2に、多孔質膜でウイルスを除去する方法が記載されている。
特許文献3には、不織布でウイルス及び白血球を除去することが記載されている。
特許文献4には、ウイルスが99%以上除去され、回収したい物質の透過率が90%以上になるような細孔を有したフィルターで多段階濾過する方法が記載されている。
非特許文献3には、透析でHCVが吸着除去され、特にPS膜はHCVを効率良く除去することが記載されている。
一方、不織布の表面修飾を行う技術に関しては、例えば特許文献5には、ビニルモノマーがグラフト重合したポリオレフィン不織布が記載されている。
非特許文献4には、PET製不織布にアクリル酸をグラフト重合する手法などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−168367号公報
【特許文献2】特公平01−148305号公報
【特許文献3】特開2009−18177号公報
【特許文献4】特開2000−5569号公報
【特許文献5】特開平08−273650号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ウイルス性肝炎−基礎・臨床研究の進歩−日本臨床62巻増刊号7(2004
【非特許文献2】A.K.Fujiwara et al.Hepatol.Res.,37,701(2007)
【非特許文献3】透析会誌43(1):55−60、2010:「血液透析療法における透析膜材質の違いによるHCV吸着についての検討」
【非特許文献4】Journal of Applied Polymer Science,Vol.89,1952−1958(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来技術を鑑み、目詰まりを起こすことなく血液等の肝炎ウイルスを含む液を流すことができ、液中に含まれる有用成分の除去を少なくして効率的に液中のウイルスを除去することが可能な基材、器具、及びそれらを用いたウイルスの除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、肝炎ウイルスを除去するための材料及びその除去方法に関し、更に詳しくは、(メタ)アクリル酸を、ポリエステル又はポリオレフィンを基質とする不織布にグラフト重合反応により固定化させてなる肝炎ウイルス吸着用高分子基材、当該高分子基材を用いた肝炎ウイルス除去器具、及びその除去方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、目詰まりを起こすことなく血液等の肝炎ウイルスを含む液を流すことができ、効率的に液中のウイルスを除去することが可能な基材、器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】不織布を備えてなるウイルス除去用カートリッジの概略を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
即ち、本発明は、
1.不織布に、(メタ)アクリル酸をグラフト重合反応により固定化させてなる肝炎ウイルス吸着用高分子基材、
2.不織布が、ポリエステル又はポリオレフィンを構成成分とするものである1.に記載のウイルス吸着用高分子基材、
3.肝炎ウイルスが、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスである1.又は2.に記載の肝炎ウイルス吸着用高分子基材、
4.1.〜3.の何れかに記載の肝炎ウイルス吸着用高分子基材を備えた肝炎ウイルス除去器具、
5.4.に記載の肝炎ウイルス除去器具を用いた肝炎ウイルスの除去方法、
に関する。
【0012】
・不織布
本発明に用いる(メタ)アクリル酸を固定化させる不織布は、化学反応や物理的吸着によって(メタ)アクリル酸を固定化出来る高分子化合物を基材としていれば特に制限なく用いることができる。このような高分子化合物としては血液適合性の高いものであれば種々のものを用いることができるが、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、スルホン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、エーテル系樹脂又はセルロースアセテートが挙げられ、より具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリ−4−メチルペンテン等を例示できる。
また、不織布はその製法や後処理によって、目付け、繊維径、厚さや平均孔径等を制御することが可能であり、目的に応じて、適宜最適なものを選択すればよく、特に制限なく用いることが出来る。
目付けに関しては、1〜200g/mの範囲であれば特に制限はないが、目付けが増えるに従い、ウイルスを吸着する表面積が増えると考えられるが、特に液体などの透過性が悪くなる問題点が残るため、目的の除去率や処理能力に応じて適宜最適な設計を行う必要がある。
厚さに関しては、10〜2000μmの範囲であれば特に制限はないが、処理能力やモジュール等に組み込むための空間に応じて適宜最適な設計を行う必要がある。
繊維径に関しては、10nm〜50000nmの範囲であれば特に制限はないが、目付けが同じ場合、繊維径の細い方がウイルスを吸着する表面積は大きくなることが考えられる。
これ以外にも、広く一般的に不織布の物性として想定される範囲において、適宜最適なものを選択してやればよい。
【0013】
・グラフト重合
本発明では、前記不織布に発生させたラジカルと、(メタ)アクリル酸が有するエチレン性不飽和基を反応させて高分子支持体にグラフト重合させる。グラフト重合に際しては、公知慣用の方法を用いればよく、電離放射線源を用いる場合は、α線、β線、γ線、加速電子線やX線等があげられ、実用的にはγ線や加速電子線が望ましい。重合開始剤を用いる場合は、過酸化ベンゾイル、硝酸二アンモニウムセリウム、過硫酸塩やAIBN等のアゾ系化合物など公知慣用の開始剤が挙げられる。
【0014】
電離放射線グラフト重合法は前記不織布と(メタ)アクリル酸とを接触させて電離放射線を照射する同時照射グラフト重合法と、不織布を予め照射した後(メタ)アクリル酸と接触させる前照射グラフト重合法のいずれでも可能であり、目的に合わせて選択できる。
【0015】
本発明に用いる重合開始剤を用いるグラフト重合法については、開始剤と(メタ)アクリル酸を同時に添加して行う方法、開始剤を一旦不織布に付着させた後に(メタ)アクリル酸を接触させて重合させる方法、(メタ)アクリル酸を一旦不織布に付着させた後に開始剤を添加して重合させる方法のいずれに方法を用いても良く、不織布基材の物性、使用する開始剤や溶媒によって適宜選択してやればよい。
【0016】
・肝炎ウイルスを含む液
本発明では、肝炎ウイルスを除去するためには、対象とする肝炎ウイルスを含む液を不織布に接触させるか又は通過させる特徴を有する。本発明の肝炎ウイルスを含む液は、肝炎ウイルスを含む液であれば特に制限はない。より具体的には、例えば、ヒトの体内液体成分である体液、肝炎ウイルスを含んだ培養液等を挙げることができる。体液のより具体的な例としては、血液、唾液、汗、尿、鼻水、精液、血漿、リンパ液、組織液等を挙げることができる。
【0017】
本発明で得られる肝炎ウイルス吸着用高分子基材を備えてなるウイルス除去器具の形態としては、前記用途に適用可能な形状であれば特に限定されるものではないが、例えば1枚以上の不織布を図1で示すカートリッジに固定し、カートリッジに肝炎ウイルスを含む液を注入して、不織布を通じてろ過することにより、ウイルスを除去することができる。また、一度の処理での肝炎ウイルスの除去効率を向上させるために必要に応じて2枚以上の不織布を前記カートリッジ中で重ねて用いることもできる。
【0018】
本発明の肝炎ウイルス除去器具の使用方法としては、肝炎ウイルスを含む液(例えば、肝炎ウイルスを含む水溶液や血液、血漿、血清等の体液)と接触させて、又は不織布に通過させて該液中のウイルスを吸着除去、分離することができればいずれの方法でもよい。
【0019】
また、本発明の肝炎ウイルス吸着用高分子基材は、上記肝炎ウイルスを含む液からウイルスを捕捉することにより当該液からウイルスを除去することができるが、空気中に存在するウイルスを捕捉し、空気中のウイルスの除去にも使用することが可能である。
【0020】
・肝炎ウイルス吸着能の評価
本発明で対象とする肝炎ウイルスは、B型又はC型肝炎ウイルスであることに特徴を有する。本発明では、肝炎ウイルス吸着能を評価するため、HCV E2蛋白質(His−tag)に対する吸着能を評価した。E2蛋白質は脂質膜と共に、ウイルス粒子の外被(エンベロープ)を構成し、ウイルスのエントリーに重要な役割を果たす蛋白質であって、E2蛋白質への吸着能を評価することにより、HCVへの吸着能の評価が可能となる蛋白質である。
以下の実施例に示すように、本発明のアクリル酸固定化高分子基材で、HCV E2蛋白質の吸着能が確認された。
【実施例】
【0021】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0022】
本実施例での各測定法は以下の方法で行った。
【0023】
(実施例1)
ポリエステル不織布50cm(繊維径1〜2μm、目付け50g/m)を200mL3つ口フラスコに入れ、アクリル酸を40mL滴下し、1時間浸漬した。そこへ、5%硝酸水溶液を40mL滴下し、氷浴上にてフラスコ内を窒素雰囲気にした。窒素雰囲気下、硝酸二アンモニウムセリウム200mgを添加し、80℃で1時間反応させた。反応終了後、メタノールと水で洗浄しアクリル酸をグラフトしたポリエステル不織布を得た。このときのグラフト率は3%だった。
グラフト率の評価は、以下の式に従った。

グラフト率(%)={(グラフト反応後の不織布の重量)−(グラフト反応前の不織布の重量)}/グラフト反応前の不織布の重量×100

上記アクリル酸をグラフトした不織布を5cmに切り取り、マイクロチューブに入れて、ブロッキング液として1%BSA/PBS溶液を加え、4℃、一晩放置した。ブロッキング液を除去し、2μg/mL濃度のE2溶液(Abcam社製)を500μL加え、室温で2時間ローテートして吸着前後のE2量をELISA法にて測定した。HCV E2の吸着除去率は、91%であった。
【0024】
(比較例1)
ポリエステル不織布(繊維径1〜2μm、目付け50g/m)を、アクリル酸をグラフト重合せずに用いて、実施例1と同様の生物評価を行った。HCV E2の吸着除去率は、67%であった。
上記の実施例及び比較例から、アクリル酸をグラフト重合させた不織布の方が、好適にウイルスの除去を行うことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の高分子基材及び当該高分子基材を用いた器具は、肝炎ウイルスの除去への利用が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1:肝炎ウイルスを含む液をホルダーに導入する流路
2:不織布を保持するホルダー
3:不織布
4:肝炎ウイルスが除去された液をホルダーから排出する流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布に、(メタ)アクリル酸をグラフト重合反応により固定化させてなる肝炎ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項2】
不織布が、ポリエステル又はポリオレフィンを構成成分とするものである請求項1に記載のウイルス吸着用高分子基材。
【請求項3】
肝炎ウイルスが、B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスである請求項1又は2に記載の肝炎ウイルス吸着用高分子基材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の肝炎ウイルス吸着用高分子基材を備えた肝炎ウイルス除去器具。
【請求項5】
請求項4に記載の肝炎ウイルス除去器具を用いた肝炎ウイルスの除去方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229353(P2012−229353A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99422(P2011−99422)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】