説明

アクリロニトリル系ポリマーの製造方法

【課題】紡糸原液とした際のろ過工程通過性が良好なアクリロニトリル系ポリマーを水系析出連続重合法にて提供する。
【解決手段】重合工程では、重合開始時から平均滞在時間の少なくとも10倍の重合経過時間に到達するまで、重合経過時間Tで得られるポリマー懸濁液中のポリマー粒子の体積平均粒子径Pを定期的に測定し、測定された前記体積平均粒子径Pのうちの最大値Pmaxを求め、該最大値Pmaxの85%以上の体積平均粒子径Pnが初めて測定された重合経過時間Tnを求め、該重合経過時間Tn以降に得られたポリマー懸濁液を分取し、これに対して後段の水分除去工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用繊維や炭素繊維用前駆体繊維束等の製造に用いられるアクリロニトリル系ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にアクリロニトリル系ポリマーの工業的製造法としては、水系析出重合法と溶液重合法が知られている。
水系析出重合法は、水性媒体中、水溶性重合開始剤を用いて、アクリロニトリルと必要に応じて使用される共重合性成分とからなる単量体を重合する方法であって、溶液重合法は、上述の単量体を溶解しうる無機溶媒または有機溶媒中で、該単量体を重合する方法である。
【0003】
これらの重合法によって連続重合を行う場合は、水性媒体、無機溶媒または有機溶媒、重合開始剤、単量体等の原料成分は連続的に重合反応器に供給され、攪拌により均一に分散させられながら重合される。これらのうち、特に、水系析出重合を連続的に行う水系析出連続重合法は、連続溶液重合法に比べて短い滞在時間で連続生産が可能で、しかも簡便な重合反応器を使用できるため、非常に生産性が優れている。
【0004】
水系析出連続重合法で生産されたアクリロニトリル系ポリマーを工業的に繊維にするには、まず、ポリマー粒子を含むポリマー懸濁液を洗浄、脱水、乾燥して、ポリマー粉体を得る。ついで、このポリマー粉体を溶剤に溶解して紡糸原液を調製し、この紡糸原液を紡糸する。この際、ポリマー粉体の溶剤への溶解性は、得られる繊維製品の性能だけでなく、紡糸原液のろ過工程における工程通過性(以下、ろ過工程通過性という。)に対しても大きな影響を及ぼすことが知られている。よって、紡糸原料としてのポリマー粉体には、溶剤への溶解性が優れていることが求められる。
【0005】
一方、水系析出連続重合法においては、水/単量体比が無限大の状態から漸次指数関数的に減じ、重合開始時からの重合経過時間が平均滞在時間の約4倍を経過した時点で、重合反応はほぼ定常状態になるとされており、重合開始時から定常状態に至るまでの過程では、定常状態時とは異なる性質のポリマーが生成することが知られている。
そこで、例えば特許文献1には、定常状態で得られたポリマー懸濁液をあらかじめ用意しておき、定常状態に至るまでに得られたポリマー懸濁液とこれを混合することにより、得られるポリマーの性質(含水率)を平均化しようとする技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭63−110204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、定常状態で得られたポリマー懸濁液と、定常状態に至るまでに得られたポリマー懸濁液とを混合後、水分を除去してポリマー粉体を得て、このポリマー粉体を溶剤に溶解して紡糸原液とした場合でも、ろ過工程通過性が悪化する場合があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、紡糸原液とした際のろ過工程通過性が良好なアクリロニトリル系ポリマーを水系析出連続重合法にて提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアクリロニトリル系ポリマーの製造方法は、水系析出連続重合法により、アクリロニトリル単位を90質量%以上含有する単量体を重合反応させ、ポリマー粒子を含有するポリマー懸濁液を調製する重合工程と、前記ポリマー懸濁液から水分を除去してポリマー粉体を得る水分除去工程とを有するアクリロニトリル系ポリマーの製造方法において、前記重合工程では、重合開始時から平均滞在時間の少なくとも10倍の重合経過時間に到達するまで、重合経過時間Tで得られるポリマー懸濁液中のポリマー粒子の体積平均粒子径Pを定期的に測定し、測定された前記体積平均粒子径Pのうちの最大値Pmaxを求め、該最大値Pmaxの85%以上の体積平均粒子径Pnが初めて測定された重合経過時間Tnを求め、該重合経過時間Tn以降に得られたポリマー懸濁液に対して、前記水分除去工程を行うことを特徴とする。
前記単量体は、前記アクリロニトリル単位を95質量%以上含有し、アクリルアミド単位を0.5質量%以上含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、紡糸原液とした際のろ過工程通過性が良好なアクリロニトリル系ポリマーを水系析出連続重合法にて提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリロニトリル系ポリマーの製造方法は、水性媒体中で単量体を連続的に重合する水系析出連続重合法により、アクリロニトリル単位を90質量%以上含有する単量体を重合反応させ、ポリマー粒子を含有するポリマー懸濁液を調製する重合工程と、調製されたポリマー懸濁液から水分を除去してポリマー粉体を得る水分除去工程とを有する。
【0011】
重合工程で重合される単量体中のアクリロニトリル単位の割合は90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上である。このような単量体から得られたポリマー粉体を原料とすると、十分な性能を有する高品質な炭素繊維を最終的に得ることができる。アクリロニトリル単位の割合が上記範囲未満では、得られたポリマー粉体を原料として炭素繊維を製造した場合、アクリロニトリル単位以外の共重合成分が欠陥点となり易く、得られる炭素繊維の品質や性能が不十分となる可能性がある。
また、単量体には、アクリルアミド単位が0.5質量%以上含まれることが好ましい。アクリルアミド単位は、得られたポリマー粉体を溶剤に溶解して紡糸原液とし、この紡糸原液を紡糸した際の凝固過程において、凝固を緩慢にする効果がある。そのため、アクリルアミド単位を含有する単量体から製造されたポリマー粉体を用いると、緻密な繊維構造が形成されやすい。よって、例えば、炭素繊維前駆体繊維束を製造する場合などには、単量体中にアクリルアミド単位が含まれることが好ましく、凝固を緩慢にする効果を十分に得るためには、単量体中に0.5質量%以上含まれることが好ましい。
【0012】
重合に使用される開始剤は、単量体の組成などに応じて適宜選択される。例えば開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物と比較して安価な水溶性のレドックス系触媒が好ましい。レドックス系触媒における酸化剤、還元剤の組合せ、酸化剤と還元剤の供給比率は、単量体の組成などに応じて適宜選択できる。
【0013】
水系析出連続重合法で重合する際には、例えば、あらかじめ重合反応器に水(水性媒体)を仕込んでおき、そこへ開始剤が溶解した開始剤溶液や単量体を連続的に供給し、攪拌により均一に分散させながら重合を進行させる。
ここで、重合反応器内へ仕込む水の単量体に対する質量比(定常状態における重合反応器内での比率)は、単量体の組成などに応じて適宜選択されるが、水/単量体=1.5〜8.0の範囲が好ましい。このような範囲未満であると、重合反応器内が粘調になり、攪拌困難となりやすく、一方、このような範囲を超えると、生産性が低下する傾向にある。
【0014】
重合反応器における平均滞在時間は、30〜150分の範囲が好ましい。30分間未満であると重合率が充分に上昇せず、150分間を超えると生産性が低下する傾向にある。なお、平均滞在時間とは、下記式(1)で定義される。
平均滞在時間[hr]=[重合反応器容量(L)]/[重合反応器への供給量(L/hr)]・・・(1)
ここで供給量とは、単位時間あたりに定常状態時に重合反応器に供給される水性媒体、単量体、開始剤などの総量である。
【0015】
また、重合反応器内のpH、温度などは、単量体の組成などに応じて適宜選択可能であり、また、重合反応を促進するために、重合反応器内に微量の金属イオンを添加してもよい。さらに必要に応じて、通常用いられる界面活性剤や凝集剤を重合反応器内に供給してもよい。
【0016】
本発明では、このような重合工程において、重合開始時から平均滞在時間の少なくとも10倍の重合経過時間に到達するまで、重合経過時間Tで得られるポリマー懸濁液中のポリマー粒子の体積平均粒子径Pを定期的に測定し、測定された体積平均粒子径Pのうちの最大値Pmaxを求める。
ついで、この最大値Pmaxの85%以上、好ましくは90%以上の体積平均粒子径Pnが初めて測定された重合経過時間Tnを求める。
ついで、この重合経過時間Tn以降に得られたポリマー懸濁液を分取し、重合経過時間Tnよりも前に得られたポリマー懸濁液を分離、除去する。そして、重合経過時間Tn以降に得られたポリマー懸濁液のみに対して水分除去工程を行い、ポリマー粉体を得る。こうして得られたポリマー粉体は、重合経過時間Tnよりも前に得られたポリマー懸濁液中のポリマー粒子を含まないため、溶剤への溶解性に優れ、これを溶剤に溶解して得られた紡糸原液は、ろ過工程通過性が良好となる。
【0017】
この際、重合開始時とは、単量体が重合反応器内に導入された時点のことを言う。すなわち、例えば、重合反応器に水性媒体などをあらかじめ仕込み、重合反応器内を所定の温度に加熱した後、単量体を導入する場合には、単量体を導入した時点を重合開始時とする。また、重合経過時間Tとは、重合開始時を基準(0時間)とした重合反応時間のことである。また、体積平均粒子径は、例えばレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、製品名:LA−910)などで測定できる。
【0018】
重合工程を具体的に説明すると、例えば、平均滞在時間が70分間に設定されている重合反応の場合には、70分間の10倍、すなわち、重合経過時間Tが700分間(=11.7時間)に少なくとも到達するまで、定期的に、例えば1時間に1回の頻度で、重合反応器から留出するポリマー懸濁液を数十ml程度採取して、ポリマー懸濁液に含まれるポリマー粒子の体積平均粒子径Pを測定する。ついで、このように測定された各体積平均粒子径Pのうちの最大値Pmaxを求め、この最大値Pmaxの85%以上となる体積平均粒子径Pnが初めて測定された重合経過時間Tnを求める。
例えば、1時間に1回の頻度で、重合経過時間Tが12時間に到達するまで、ポリマー粒子の体積平均粒子径Pを測定して、表1に示すような測定結果が得られた場合には、最大値Pmaxは45μmであり、最大値Pmaxの85%は38.25μmと算出される。表1によれば、重合経過時間Tが1時間、2時間、3時間の各時点では、測定された体積平均粒子径はそれぞれ22μm、28μm、36μmであって、いずれも38.25μm未満である。よって、この場合、最大値Pmaxの85%以上となる体積平均粒子径Pnが初めて測定された重合経過時間Tnは、4時間となる。
したがって、この場合には、重合経過時間4時間以降に得られたポリマー懸濁液のみを分取し、このポリマー懸濁液に対して水分除去工程を行い、ポリマー粉体を得る。
なお、重合経過時間4時間以降に得られたポリマー懸濁液であれば、重合経過時間4時間以降に得られたポリマー懸濁液の全てを水分除去工程に供する必要はなく、例えば、重合経過時間5時間の時点で得られたポリマー懸濁液のみを水分除去工程へ供するなどしてもよい。
【0019】
【表1】

【0020】
水系析出連続重合法においては、重合開始時からの重合経過時間Tが平均滞在時間の約4倍を経過した時点で、重合反応がほぼ定常状態になるとされている。また。生成するポリマー粒子の粒子径は、一般的に、重合開始時から次第に大きくなる過程を経て、その後、定常状態でほぼ一定になるとされている。よって、本発明においては、重合反応が確実に定常状態に到達していると考えられる平均滞在時間の10倍の重合経過時間Tまで、ポリマー粒子の体積平均粒子径Pを定期的に測定したうえで、体積平均粒子径の最大値Pmaxを求める。
また、仮に、重合経過時間Tnを求める際の基準を最大値Pmaxの85%未満とすると、重合経過時間Tn以降に得られたポリマー懸濁液のみを分取して、このポリマー懸濁液に対して水分除去工程を行っても、紡糸原液とした際のろ過工程通過性に優れるポリマー粉体は得られにくい。よって、本発明においては、重合経過時間Tnを求める際の基準を最大値Pmaxの85%以上、好ましくは90%以上とする。
【0021】
体積平均粒子径Pを測定する頻度は、好ましくは10〜90分間に1回の頻度、より好ましくは15〜70分間に1回の頻度である。このような頻度であると、体積平均粒子径の最大値Pmaxを精度良く、かつ、過剰な手間をかけずに求めることができる。
【0022】
水分除去工程では、重合工程で得られたポリマー懸濁液を例えば70℃程度のイオン交換水で洗浄、脱水後、熱風循環型の乾燥機などで乾燥することによって、ポリマー粉体として回収する。
こうして回収されたポリマー粉体は、例えばこのポリマー粉体が衣料用繊維や炭素繊維用前駆体繊維束等の繊維製造用途である場合には、溶剤に溶解されて紡糸原液とされ、紡糸される。ここで使用される溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、γ−ブチルラクトン、硝酸水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液等が挙げられる。なかでも、ジメチルアセトアミドは、ポリマー粉体が良好に溶解する点、紡糸時において凝固し易い点から好ましい。紡糸方法としては、湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法が採用できる。
【0023】
以上説明したように、このようなアクリロニトリル系ポリマーの製造方法によれば、重合工程において、重合開始時から平均滞在時間の少なくとも10倍の重合経過時間に到達するまで、重合経過時間Tで得られるポリマー懸濁液中のポリマー粒子の体積平均粒子径Pを定期的に測定し、測定された体積平均粒子径Pのうちの最大値Pmaxを求め、さらに最大値Pmaxの85%以上の体積平均粒子径Pnが初めて測定された重合経過時間Tnを求め、重合経過時間Tn以降に得られたポリマー懸濁液に対して、水分除去工程を行うため、紡糸原液に使用した場合のろ過工程通過性が良好なポリマー粉体を得ることができる。このようなポリマー粉体を使用した紡糸原液によれば、ろ過工程で使用するフィルターの交換頻度を低減することができ、衣料用繊維や炭素繊維用前駆体繊維束等の生産性が向上する。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(体積平均粒子径の測定)
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、製品名:LA−910)を用いて、ポリマー粒子の体積平均粒子径を測定した。ポリマー粒子の分散媒にはイオン交換水を用い、ポリマー粒子の屈折率は1.14とした。なお、本明細書中における体積平均粒子径とは、本測定による体積平均換算でのメジアン径のことをいう。
(質量平均分子量(ポリスチレン換算値)の測定)
GPCシステム(東ソー株式会社製、製品名:HLC−8120)を使用し、カラム(TOSHO製、製品名:TSK−GEL,GHXL)、標準物質としてはポリスチレンを用いて、ポリマー粒子の質量平均分子量を求めた。溶離液には0.01mol/l−LiClのDMF溶液を使用し、カラムへの流量は1.0ml/minとし、アクリロニトリル系ポリマーの濃度は0.001g/mlとして測定した。
(共重合組成の分析)
ポリマー粒子のジメチルスルホキシド−d6溶液を用いて、NMR(バリアン社製、製品名:UNITY INOVA500)でH−NMRを測定し、ケミカルシフトの積分比から共重合組成を求めた。
(ポリマー粉体の溶解性評価)
−15℃に冷却したジメチルアセドアミドに、ポリマー粉体を固形分21質量%となるように均一に分散して分散液を調製した。ついで、内径12mmの熱媒を循環可能なジャケット付きの配管に、この分散液を通し、滞在時間9分で110℃まで加熱して、ポリマー粉体を溶解させた。こうして得られたポリマー溶液を90%捕集効率5μmの金属不織布のフィルター(日本精線製ナスロン)に1kg/mm・hrの割合にて1kg通過させ、その際の差圧上昇の値(昇圧度(MPa))を測定した。そして、この昇圧度をポリマー粉体の溶解性の指標とした。昇圧度が小さいほど、フィルターに捕捉される未溶解物は少なく、溶解性に優れる。
【0025】
(実施例1)
容量80リットルのステンレス製でグラスライニングしたタービン撹拌翼付き重合釜に、イオン交換水76.5kgと、単量体に対して0.3ppmの硫酸第一鉄(FeSO ・7HO)と、0.1質量%の硫酸とをあらかじめ仕込んでおいた。ついで、重合釜中の重合反応液温度を50℃に加熱した後、単量体に対して0.4質量%のレドックス重合開始剤過硫酸アンモニウムと、0.6質量%の亜硫酸水素アンモニウムと、0.3ppmの硫酸第一鉄と、0.1質量%の硫酸とをそれぞれイオン交換水に溶解した開始剤溶液を連続的に重合釜に供給した。
開始剤溶液を供給し始めてから30分後に、水と単量体の質量比、すなわち水/単量体が90分後に3.0(w/w)になるように、単量体の連続供給を開始した。この時点が重合開始時(重合経過時間=0hr)である。
そして、重合釜中の重合反応液のpHが3.0になるように硫酸供給量を調節し、重合反応液温度を50℃に保ち、十分な撹拌を行い、平均滞在時間が70分間になるように、重合釜オーバーフロー口より連続的にポリマー懸濁液を取り出した。
重合開始後12時間後まで、すなわち、平均滞在時間の10.3倍の重合経過時間に到達するまで、1時間おきにポリマー懸濁液を数十ml採取し、これに含まれるポリマー粒子の体積平均粒子径を測定した。1時間ごとに測定された体積平均粒子径を表2および図1に示す。また、この際、ポリマー粒子の質量平均分子量と組成比も分析した。結果をあわせて表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2から明らかなように、測定された体積平均粒子径のうちの最大値Pmaxは45μmであり、該最大値Pmaxの85%は38.25μmである。よって、38.25μm以上の体積質量平均粒子径が初めて測定された重合経過時間Tnは4時間となる。
そこで、本実施例1では、重合経過時間4時間の時点で取り出したポリマー懸濁液のみを次の水分除去工程に供した。
すなわち、まず、重合経過時間が4時間の時点で取り出したポリマー懸濁液に、0.5質量%のシュウ酸ナトリウム、1.5質量%の重炭酸ナトリウムがイオン交換水に溶解した重合停止剤水溶液を、ポリマー懸濁液のpHが5.5〜6.0になるように加えた。ついで、得られたポリマー水系分散液を、オリバー型連続フィルターによって脱水処理した後、ポリマーに対して10倍量の70℃のイオン交換水で再びポリマー懸濁液化分散した。さらに、得られたポリマー懸濁液を再度オリバー型連続フィルターによって脱水処理し、ペレット成形して、80℃にて8時間熱風循環型の乾燥機で乾燥後、ハンマーミルで粉砕した。
得られたポリマー粉体について、上記の溶解性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0028】
(実施例2)
重合経過時間7時間の時点で取り出したポリマー懸濁液のみを水分除去工程に供した以外は、実施例1と同様にして、重合から溶解性の評価まで行った。評価結果を表3に示す。
【0029】
(比較例1)
重合経過時間2時間の時点で取り出したポリマー懸濁液のみを水分除去工程に供した以外は実施例1と同様にして、重合から溶解性の評価まで行った。評価結果を表3に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
表3から明らかなように、実施例1および2では昇圧度が小さく、溶解性が良好であることが示された。また、別途、溶解性評価で使用した溶液と同じ液を紡糸原液として、ろ過工程のフィルターに通液したところ、フィルターの差圧上昇は小さく、安定にろ過工程を実施することができた。
一方、比較例1では昇圧度が大きく溶解性は不良であり、別途、溶解性評価で使用した溶液と同じ液を紡糸原液として、ろ過工程のフィルターに通液したところ、実施例1および2に比べてフィルターの差圧上昇は大きく、フィルターの交換頻度も3倍であった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】重合経過時間と、各重合経過時間で測定されたポリマー粒子の体積平均粒子径との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系析出連続重合法により、アクリロニトリル単位を90質量%以上含有する単量体を重合反応させ、ポリマー粒子を含有するポリマー懸濁液を調製する重合工程と、前記ポリマー懸濁液から水分を除去してポリマー粉体を得る水分除去工程とを有するアクリロニトリル系ポリマーの製造方法において、
前記重合工程では、重合開始時から平均滞在時間の少なくとも10倍の重合経過時間に到達するまで、重合経過時間Tで得られるポリマー懸濁液中のポリマー粒子の体積平均粒子径Pを定期的に測定し、測定された前記体積平均粒子径Pのうちの最大値Pmaxを求め、該最大値Pmaxの85%以上の体積平均粒子径Pnが初めて測定された重合経過時間Tnを求め、
該重合経過時間Tn以降に得られたポリマー懸濁液に対して、前記水分除去工程を行うことを特徴とするアクリロニトリル系ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記単量体は、前記アクリロニトリル単位を95質量%以上含有し、アクリルアミド単位を0.5質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル系ポリマーの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−6967(P2010−6967A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168570(P2008−168570)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】