説明

アクリロニトリル系重合体粒子の製造方法

【課題】ナノメートルサイズのアクリロニトリル系重合体粒子を乳化剤や分散安定剤等を用いることなく製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】アクリロニトリル単量体単位とイオン性単量体単位とを含有する単量体混合物を、水と単量体混合物の質量比(水/単量体混合物)が17以上である条件下で重合させる、アクリロニトリル単量体単位を70〜90質量%とイオン性単量体単位10〜30質量%とを含有するアクリロニトリル系重合体粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル系重合体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体積平均粒子径がナノメートルサイズである、アクリロニトリル系重合体粒子は、イオン吸着剤、重合体に添加するフィラー、ドラッグキャリア(薬物運搬体)、反応触媒、充填剤、被覆材料等への応用が期待されている。
【0003】
ところで、アクリロニトリル系重合体粒子の製造には、該重合体が単量体に溶解しないことより、水系で重合を行う場合、析出重合や懸濁重合などの方法を用いることが多い(特許文献1参照)。
ところが、特許文献1に記載の方法では、アクリロニトリル系重合体粒子の体積平均粒子径はマイクロメートルサイズとなってしまう。
そこで、アクリロニトリル系重合体粒子の体積平均粒子径をナノメートルサイズにする方法として、乳化剤や分散安定剤を用いる乳化重合やミニエマルジョン重合が挙げられる(非特許文献1参照)。
また、微細な粒子を得る重合方法としては、乳化剤を用いないソープフリー重合法なども挙げられる。
【特許文献1】特開2003−226720号公報
【非特許文献1】Lior Boguslavsky著「ジャーナル・オブ・コロイド・アンド・インターフェイス・サイエンス(Journal of Colloid and Interface Science)」第289巻、p71−85(2005年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の乳化重合及びミニエマルジョン重合では、作成した重合体粒子の水分散液中に乳化剤や分散安定剤が存在しており、実際に使用した際に着色、劣化及び汚染等が起こりやすいという問題がある。
一方、ソープフリー重合では、乳化剤を用いておらず、乳化剤等の添加剤に起因する問題は起こらない。しかしながら、ソープフリー重合でアクリロニトリル系重合体粒子を製造しようとした場合、マイクロメートルサイズの凝集体が生成してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、ナノメートルサイズのアクリロニトリル系重合体粒子を乳化剤や分散安定剤等を用いることなく製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のアクリロニトリル系重合体粒子の製造方法は、アクリロニトリル単量体単位とイオン性単量体単位とを含有する単量体混合物を、水と単量体混合物の質量比(水/単量体混合物)が17以上である条件下で重合させて、アクリロニトリル単量体単位を70〜90質量%とイオン性単量体単位10〜30質量%とを含有するアクリロニトリル系重合体粒子を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、乳化剤や分散安定剤等を用いることなくナノメートルサイズのアクリロニトリル系重合体粒子を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアクリロニトリル系重合体粒子は、アクリロニトリル単量体単位とイオン性単量体単位とを含有する単量体混合物を重合して得られる。
【0009】
イオン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、メタリルスルホン酸、ソディウムパラスルホフェニルメタリルエーテル等が挙げられるがこの限りではない。また、これらの単量体を1種類用いても、2種類以上用いてもよい。
【0010】
なお、本発明の主旨に反しない範囲で、イオン性単量体単位以外の単量体単位を単量体混合物に含有させてよい。
単量体としては特に限定しないが、スチレン、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等、また、架橋性単量体として、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール(メタ)アクリレート、アリルメタクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等が挙げられるがこの限りではない。また、これらの単量体を1種類用いても、2種類以上用いてもよい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0011】
本発明におけるアクリロニトリル系重合体粒子の重合方法は溶媒に水を用いる。本発明の目的を損なわない範囲で有機溶媒を加えることも可能である。
重合時、水と前記単量体混合物の質量比(水/単量体混合物)は17以上とすることが必要である。対して、質量比が500以下であると好ましく、100以下であるとより好ましく、40以下であると特に好ましい。
水と単量体混合物の質量比(水/単量体混合物)が17以上であると、アクリロニトリル系重合体粒子が安定化し、体積平均粒子径が50〜200nmのアクリロニトリル系重合体粒子を90%以上含むアクリロニトリル系重合体粒子が得やすくなる傾向にある。従って、イオン吸着剤、重合体に添加するフィラー、ドラッグキャリア(薬物運搬体)、反応触媒、充填剤、被覆材料等に応用し得るようになる。
対して、水と単量体混合物の質量比が500以下であれば生産性にすぐれる傾向にある。
【0012】
重合開始剤及び触媒としては、硫酸、過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸あるいはそれらのナトリウム塩、アンモニウム塩等のレドックス触媒、硫酸第一鉄等を用いると好ましい。
【0013】
アクリロニトリル系重合体粒子を得る方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。
まず、重合容器に水、重合開始剤及び触媒を入れ、そこに単量体混合物を攪拌しながら滴下し、更に一定の温度を維持して一定時間攪拌して、アクリロニトリル系重合体粒子の水分散液を得る。
次に、得られたアクリロニトリル系重合体粒子の水分散液を、遠心分離し、洗浄、乾燥を経てアクリロニトリル系重合体粒子を得る。
このとき、重合温度は25〜75℃であると好ましく、45〜60℃であるとより好ましい。重合温度が25℃以上であれば生産性から有利であり、75℃以下であれば安全性から有利である。また重合時間は0.1〜10時間であると好ましく、0.5〜3時間であるとより好ましい。重合時間が0.1時間以上であれば除熱等反応制御が容易であり、10時間以下であれば生産性から有利である。
なお、アクリロニトリル系重合体粒子は、重合後水分散液のまま使用することも可能である。また、回収方法としては上記の遠心分離以外に、塩を加えて沈殿させる方法もある。
【0014】
以上の方法によって得られた、アクリロニトリル系重合体粒子における、アクリロニトリル単量体単位の含有量は70〜90質量%であり、80〜90質量%であるとより好ましく、83〜90質量%であると更に好ましい。
アクリロニトリル単量体単位の含有量が70質量%以上であれば、耐薬品性が得られる傾向にあり、90質量%以下であれば、イオン性のモノマーと10質量%以上共重合できるため、アクリロニトリル系重合体粒子が安定化し、体積平均粒子径が50〜200nmのアクリロニトリル系重合体粒子を90%以上含むアクリロニトリル系重合体粒子を作成することができる。
【0015】
また、アクリロニトリル系重合体粒子における、イオン性単量体単位の含有量は10〜30質量%であり、11〜20質量%であるとより好ましい。
イオン性単量体単位の含有量が10質量%以上であれば、アクリロニトリル系重合体粒子が安定化し、体積平均粒子径が50〜200nmのアクリロニトリル系重合体粒子を90%以上含むアクリロニトリル系重合体粒子を作成することができる。これは、イオン性単量体単位が粒子の分散を安定化する作用を示すためであると予測される。
対して、イオン性単量体単位の含有量が30質量%以下であれば、耐薬品性を維持し易い。
【0016】
また、アクリロニトリル系重合体粒子における、他の単量体単位の含有量は20質量%以下であると好ましく、15質量%以下であるとより好ましく、10質量%以下であると更に好ましい。
他の単量体単位の含有量が20質量%以下であれば、耐薬品性を維持することと、体積平均粒子径が50〜200nmのアクリロニトリル系重合体粒子を90%以上含むアクリロニトリル系重合体粒子を作成することが両立できる。
【0017】
また、アクリロニトリル系重合体粒子において、重合度を示すアクリロニトリル系重合体粒子の数平均分子量は10000以上が好ましく、20000以上であるとより好ましい。
数平均分子量が10000以上であれば、重合体としての形態保持性に優れ、更に耐薬品性が発揮できる傾向にある。
【0018】
以上の方法によれば、体積平均粒子径が50〜200nmであるアクリロニトリル系重合体粒子を90質量%以上含有したアクリロニトリル系重合体粒子を得ることができる。
これは、重合前の単量体混合物において、イオン性単量体単位を10〜30質量%含有させたことと、重合時の水と単量体混合物の質量比(水/単量体混合物)を17以上としたことによって得られる相乗効果である。
また、本発明の製造方法で得られた、アクリロニトリル系重合体粒子は、重合時に乳化剤や分散安定剤を用いておらず、着色、劣化及び汚染等が起こり難い。
このように粒子が小さく、乳化剤や分散安定剤等の不純物を含有しないアクリロニトリル系重合体粒子は、イオン吸着剤、重合体に添加するフィラー、ドラッグキャリア(薬物運搬体)、反応触媒、充填剤、被覆材料等に用いることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、特に限定しない限り、実施例中の「部」は質量部を、「%」は質量%を示す。
また、本実施例及び比較例における各物性の測定及び評価は以下の方法で行った。
【0020】
[アクリロニトリル系重合体粒子の組成]
アクリロニトリル系重合体粒子の組成は、1H−NMR法(日本電子株式会社製、製品名:GSZ−400型超伝導FT−NMR)により定量した。
【0021】
[アクリロニトリル系重合体粒子の分子量]
GPCシステム(東ソー株式会社製、製品名:HLC−8120)を用いて下記条件にてポリスチレン換算のアクリロニトリル系重合体粒子の質量平均分子量を測定した。
(条件)
カラム :TOSHO社製、製品名:TSK−GEL,GHXL
溶離液 :塩化リチウム濃度0.01mol/Lのジメチルホルムアミド溶液
流速 :1.0ml/min
温度 :40℃
検出器 :示差屈折率
標準物質 :ポリスチレン
試料濃度 :0.001g/ml
【0022】
[体積平均粒子径]
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、製品名:LA−910)を用いて、アクリロニトリル系重合体粒子の体積平均粒子径を測定した。
アクリロニトリル系重合体粒子は重合後の水分散液を5日間25℃にて放置したものを使用した。
アクリロニトリル系重合体粒子の分散媒にはイオン交換水を用い、アクリロニトリル系重合体粒子の屈折率は1.14とした。
本明細書中における体積平均粒子径は、本測定による体積基準の粒子径を用いて表した。
【0023】
[粒子の割合]
上記体積平均粒子径測定結果より、重合したアクリロニトリル系重合体粒子における、体積平均粒子径50〜200nmの粒子の割合を算出した。
【0024】
[実施例1]
まず重合容器に、蒸留水、硫酸を入れ、更に重合開始剤として、過硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム、及び硫酸第一鉄を入れた。
次いで、アクリロニトリルとメタクリル酸を含有した単量体混合物を30分かけて滴下し、50℃の温度に維持しながら2時間攪拌を続けてアクリロニトリル系重合体粒子の水分散液を得た。
得られたアクリロニトリル系重合体粒子の水分散液を遠心分離し、洗浄、乾燥を経てアクリロニトリル系重合体粒子を得て、各物性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0025】
[実施例2〜3、比較例1〜2]
実施例1と同様にして、各アクリロニトリル系重合体粒子を得た。
得られた各アクリロニトリル系重合体粒子について、実施例1と同様にして各物性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1によれば、単量体混合物にイオン性単量体単位を特定割合で混合し、重合時の水と単量体混合物の質量比(水/単量体混合物)が17以上である実施例1〜3では、体積平均粒子径が50〜200nmの範囲であるアクリロニトリル系重合体粒子を90質量%以上含有するアクリロニトリル系重合体粒子を得ることができた。
対して、比較例1では重合時の水と単量体混合物の質量比(水/単量体混合物)が14であり、体積平均粒子径は4000nmと大きく、体積平均粒子径が50〜200nmの範囲であるアクリロニトリル系重合体粒子は10質量%程度しか得られなかった。
また、比較例2では、単量体混合物にイオン性単量体単位を混合せずに重合を行ったので、体積平均粒子径は58000nmとなり、体積平均粒子径が50〜200nmの範囲であるアクリロニトリル系重合体粒子は得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル単量体単位とイオン性単量体単位とを含有する単量体混合物を、水と単量体混合物の質量比(水/単量体混合物)が17以上である条件下で重合させる、アクリロニトリル単量体単位を70〜90質量%とイオン性単量体単位10〜30質量%とを含有するアクリロニトリル系重合体粒子の製造方法。

【公開番号】特開2009−293000(P2009−293000A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150992(P2008−150992)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】