説明

アスファルト乳化分散剤

【課題】セメント混合性、骨材混合性、耐久性、アスファルト乳剤の貯蔵安定性に優れたアスファルト乳剤組成物が得られるアスファルト乳化分散剤を提供する。
【解決手段】ポリオキシアルキレン基を有するエチレン系不飽和カルボン酸誘導体等の特定の単量体1とリン酸モノエステル系単量体2とリン酸ジエステル系単量体3とを共重合して得られる重合体を含有するアスファルト乳化分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルトを乳化する際に用いられるアスファルト乳化分散剤、及び、それを用いて得られる水中油滴型アスファルト乳剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルトは道路舗装、防水・接着材料、鉄道軌道の敷設等に広く使用されている。しかし、アスファルトは常温においては非常に粘性が高いため作業性が極めて悪い。そこで、常温での所望の作業性を確保するために、適当な乳化剤及び水を用いて水中油滴型の乳剤組成物の形態として流動性を向上し使用する技術がある。水中油滴型の乳剤用の乳化剤としては、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤または両性乳化剤が知られており、それぞれの用途により使い分けられている。
【0003】
また、一般道路、運動場、駐車場等に使用される舗装用常温混合物(以下、合材と称す)では強度や耐久性、対摩耗性が求められるため、骨材として砂、砂利、セメント、フィラー等とアスファルト乳剤の混合物が用いられる。
【0004】
しかし、従来のアニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤または両性乳化剤等を用いたアスファルト乳剤組成物では、砂、砂利、セメント、フィラー等の骨材との混合性が十分ではなく、混合中に乳剤組成物が分離したり凝集したりして作業性に優れる合材の製造に難点があり、強度や耐久性に問題があった。これらの問題を解決するために、乳化剤と、発泡剤や分散剤の併用が検討されている(特許文献1)。
【0005】
また、特許文献2には、セメント混合性、骨材混合性、耐久性に優れたアスファルト乳剤組成物が得られるアスファルト乳化分散剤として、炭素数2〜3のオキシアルキレン基を有するビニル系単量体(a)と、カルボキシル基等を有するビニル系単量体(b)とを重合して得られる水溶性共重合体を含有するアスファルト乳化分散剤が開示されている。
【特許文献1】特開平11−12016号公報
【特許文献2】特開2002−20626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これら従来のアスファルト乳剤分散剤では、得られたアスファルト乳剤の貯蔵安定性を十分に向上できるとは言い難い。また、セメント、アスファルト乳剤、砕石、細骨材等によって構成される合材混合物は、セメントと骨材の混合性に優れることが望まれるが、この点でも従来のアスファルト乳剤分散剤は更なる改善が望まれる。
【0007】
本発明は、セメント混合性、骨材混合性、アスファルト乳剤の貯蔵安定性に優れる水中油滴型アスファルト乳剤組成物を得ることのできるアスファルト乳化分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記一般式(1)で表される単量体1と、下記一般式(2)で表される単量体2と、下記一般式(3)で表される単量体3とを共重合して得られる重合体Aを含有するアスファルト乳化分散剤を提供する。
【0009】
【化4】

【0010】
〔式中、R1、R2は、それぞれ水素原子又はメチル基、R3は水素原子又は-(CH2)q(CO)pO(AO)rR4、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基、pは0又は1の数、qは0〜2の数、pとqは同時に0ではなく、rはAOの平均付加モル数であり、3〜300の数、R4は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【0011】
【化5】

【0012】
〔式中、R11は水素原子又はメチル基、R12は炭素数2〜12のアルキレン基、m1は1〜30の数、M3、M4はそれぞれ水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。〕
【0013】
【化6】

【0014】
〔式中、R13、R15は、それぞれ水素原子又はメチル基、R14、R16は、それぞれ炭素数2〜12のアルキレン基、m2、m3は、それぞれ1〜30の数、M5は水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。〕
【0015】
また、本発明は、アスファルト、前記本発明のアスファルト乳化分散剤及び水を含有する水中油滴型アスファルト乳剤組成物を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、セメント混合性、骨材混合性、アスファルト乳剤の貯蔵安定性に優れる水中油滴型アスファルト乳剤組成物を得ることのできるアスファルト乳化分散剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<重合体A>
重合体Aは、前述の一般式(1)で表される単量体1と、前述の一般式(2)で表される単量体2と、前述の一般式(3)で表される単量体3とを共重合して得られるリン酸エステル系重合体である。
【0018】
[単量体1]
単量体1において、一般式(1)中のR1、R2は、それぞれ水素原子又はメチル基である。R3は水素原子又は-(CH2)q(CO)pO(AO)r4であり、水素原子が好ましい。R4は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基であり、更に1〜12、更に1〜4、更に1、2のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。pが0の場合はAOは(CH2)qとエーテル結合、pが1の場合はエステル結合をする。qは0〜2であり、好ましくは0又は1であり、更に好ましくは0である。pとqは同時に0ではない。AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基であり、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基が好ましく、エチレンオキシ基(以下、EO基)を含むことがより好ましく、EO基が70モル%以上、更に80モル%以上、更に90モル%以上、特に全AOがEO基であることが好ましい。rはAOの平均付加モル数であり、アスファルト乳剤の貯蔵安定性の点で、3〜300の数であり、好ましくは4〜120であり、より好ましくは4〜80、さらに好ましくは4〜50、特にこのましくは4〜30である。また、平均r個の繰り返し単位中にAOが異なるもので、ランダム付加又はブロック付加又はこれらの混在を含むものであっても良い。例えばAOは、EO基以外にもプロピレンオキシ基等を含むこともできる。
【0019】
単量体1としては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、メトキシポリブチレングリコール、メトキシポリスチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸、マレイン酸との(ハーフ)エステル化物や、(メタ)アリルアルコールとのエーテル化物、及び(メタ)アクリル酸、マレイン酸、(メタ)アリルアルコールへの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物付加物が好ましく用いられる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の意味であり、(メタ)アリルは、アリル及び/又はメタリルの意味である(以下同様)。
【0020】
より好ましくはアルコキシ、特にはメトキシポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物である。具体的には、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステル、ω−メトキシポリオキシアルキレンアクリル酸エステル等を挙げることができ、ω−メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステルがより好ましい。
【0021】
重合体Aの製造に用いる単量体1は、例えば、アルコキシポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化によって得ることができる。該エステル化物は、セメント混合性、骨材混合性の観点から、未反応の(メタ)アクリル酸は、酸型換算で単量体1に対して5重量%以下が好ましく、3重量%以下がより好ましく、1.5重量%以下がさらに好ましく、1重量%以下がさらに好ましい。単量体1の製造時に残留する(メタ)アクリル酸の量を低減する方法として、トッピング、スチーミング、溶媒抽出等が挙げられる。
【0022】
[単量体2]
単量体2は、一般式(2)において、R11は水素原子又はメチル基であり、R12は炭素数2〜12のアルキレン基である。m1は1〜30の数であり、M3、M4はそれぞれ水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である。一般式(2)中のm1は1〜20が好ましく、1〜10が更に好ましく、1〜5が特に好ましい。
【0023】
具体的には、有機ヒドロキシ化合物のリン酸モノエステルが挙げられる。具体的には、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートアシッドリン酸エステル等が挙げられる。例えば、リン酸モノ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステル、リン酸モノ−〔(2−ヒドロキシエチル)アクリル酸エステル〕等が挙げられる。中でも、製造の容易さ及び製造物の品質安定性の観点から、リン酸モノ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルが好ましい。また、これらの化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などであっても良い。
【0024】
[単量体3]
単量体3は、一般式(3)において、R13、R15は、それぞれ水素原子又はメチル基であり、R14、R16は、それぞれ炭素数2〜12のアルキレン基である。m2、m3は、それぞれ1〜30の数であり、M5は水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属である。一般式(3)中のm2、m3は、それぞれ1〜20が好ましく、1〜10が更に好ましく、1〜5が特に好ましい。
【0025】
具体的には、有機ヒドロキシ化合物のリン酸ジエステルが挙げられる。具体的には、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートアシッドリン酸ジエステル等が挙げられる。例えば、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステル、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)アクリル酸〕エステル等が挙げられる。中でも、製造の容易さ及び製造物の品質安定性の観点から、リン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルが好ましい。また、これらの化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などであっても良い。
【0026】
単量体2及び3は、単量体2及び単量体3を含む混合単量体として用いることができる。また、単量体2及び単量体3として、一般式(4)で表される有機ヒドロキシ化合物とリン酸化剤とを反応させて得られるリン酸エステルを用いても良い。
【0027】
単量体2及び単量体3を含む混合単量体は、例えば、一般式(4)で表される有機ヒドロキシ化合物とリン酸化剤を所定の仕込み比で反応させることで、反応生成物として製造することもできる。
【0028】
【化7】

【0029】
〔式中、R20は水素原子又はメチル基、R21は炭素数2〜12のアルキレン基、m4は1〜30の数を表す。〕
【0030】
一般式(4)中のm4は、1〜20が好ましく、1〜10が更に好ましく、1〜5が特に好ましい。
【0031】
リン酸化剤としては、オルトリン酸、五酸化リン(無水リン酸)、ポリリン酸、オキシ塩化リン等が挙げられ、オルトリン酸、五酸化リンが好ましい。これらは単独でも2種以上を組み合わせて用いることも出来る。有機ヒドロキシ化合物とリン酸化剤とを反応させる際のリン酸化剤の量は目的とするリン酸エステル組成に応じ適時決めることができる。
【0032】
単量体2及び単量体3を含む混合単量体として、例えばリン酸モノ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物を製造する場合、公知の技術(例えば特開昭57−180618号)により、合成することができる。
【0033】
単量体2及び単量体3を含む混合単量体としては、モノエステル体とジエステル体とを含む市販品を使用することもでき、例えば、ホスマーM、ホスマーPE、ホスマーP(ユニケミカル)、JAMP514、JAMP514P、JMP100(何れも城北化学)、ライトエステルP−1M、ライトアクリレートP−1A(いずれも共栄社化学)、MR200(大八化学)、カヤマー(日本化薬)、Ethyleneglycol methacrylate phosphate(アルドリッチ試薬)などとして入手できる。
【0034】
上記の市販品や反応生成物にはモノエステル体(単量体2)とジエステル体(単量体3)以外の化合物を含んでいる事が確認されている。それらの他の化合物は、重合性、非重合性のものが混在していると考えられるが、本発明ではこのような混合物(混合単量体)をそのまま使用することができる。
【0035】
本発明に係る重合体Aは、単量体1と、単量体2と、単量体3とを、共重合させて得られるリン酸エステル系重合体である。単量体2及び単量体3を含有する混合単量体を用いることも好ましい。
【0036】
単量体の共重合に際して、単量体1と、単量体2、3とのモル比は、単量体1/(単量体2+単量体3)=5/95〜95/5、更に、10/90〜90/10が好ましい。また、単量体1と単量体2と単量体3のモル比は、単量体1/単量体2/単量体3=5〜95/3〜90/1〜80、更に5〜96/3〜80/1〜60(ただし合計は100である)が好ましい。なお、単量体2と単量体3については、酸型の化合物に基づきモル比やモル%を算出するものとする(以下、同様)。
【0037】
また、重合体Aの製造では、反応に用いる全単量体中、単量体3の比率を1〜60モル%、更に1〜30モル%とすることが好ましい。
【0038】
また、単量体2と単量体3のモル比を、単量体2/単量体3=99/1〜4/96、更に99/1〜5/95とすることが好ましい。
【0039】
ゲル化を抑制する観点から、単量体2及び/又は単量体3を含む単量体溶液のpHを7以下で反応に用いることが好ましい。
【0040】
以下、ゲル化抑制、好適分子量の調整及びアスファルト乳化分散性、セメント分散性の観点から、観点から、更に好ましい製造条件を説明する。このような観点から、共重合の際に、単量体1、2及び3の合計モル数に対して4モル%以上、更に6モル%以上、特に8モル%以上の連鎖移動剤を使用することが好ましい。また、連鎖移動剤の使用量の上限は、単量体1、2及び3の合計モル数に対して好ましくは100モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、特に好ましくは15モル%以下とすることができる。更に詳しくは、(1)単量体1のrが3〜30の場合で、
(1−1)単量体2と単量体3の単量体1、2及び3の合計のモル比が50モル%以上の場合は、連鎖移動剤は、単量体1、2及び3の合計に対して6〜100モル%、特に8〜60モル%を用いるのが好ましく、
(1−2)単量体2と単量体3の単量体1、2及び3の合計中のモル比が50モル%未満の場合は、連鎖移動剤は、単量体1、2及び3の合計に対して4〜60モル%、特に5〜30モル%を用いるのが好ましい。
(2)重合体Aに用いる単量体1のrが30超の場合は、連鎖移動剤は、単量体1〜3に対して6〜50モル%、特に8〜40モル%を用いるのが好ましい。
【0041】
単量体2と3の反応率は60%以上、更に70%以上、更に80%以上、更に90%以上、特に95%以上を目標に行うことが好ましく、連鎖移動剤の使用量は、この観点から選定することができる。ここに、単量体2と3の反応率は、下記の式によって算出する。
【0042】
【数1】

【0043】
なお、反応開始時と反応終了時の反応系中のリン含有化合物中の単量体2と単量体3のエチレン性不飽和結合の割合(モル%)は、下記の1H−NMRの測定結果に基づき算出
することができる。
1H−NMR条件]
水に溶解した重合体Aを減圧乾燥したものを3〜4重量%の濃度で重メタノールに溶解し、1H−NMRを測定する。エチレン性不飽和結合の残存率は、5.5〜6.2ppmの積分値により測定される。なお、1H−NMRの測定は、Varian社製「Mercury 400 NMR」を用い、データポイント数42052、測定範囲6410.3Hz、パルス幅4.5μs、パルス待ち時間10S、測定温度25.0℃の条件で行う。
【0044】
重合体Aの製造においては、上記単量体1、2及び3の他に、共重合可能なその他の単量体を用いることもできる。共重合可能な他の単量体としては、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、これら何れかのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又はアミン塩を挙げることができる。また、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などのアクリル酸系単量体を挙げることができ、またこれらの何れか1種以上のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、メチルエステル、エチルエステルや無水マレイン酸などの無水化合物であっても良い。更に、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアミド−2−メタスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−エタンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸、スチレン、スチレンスルホン酸などが挙げられる。全単量体中、単量体1、2及び3の合計の割合は、30〜100モル%、更に50〜100モル%、特に75〜100モル%が好ましく、更に、95モル%超〜100モル%、更に97〜100モル%が好ましい。
【0045】
重合体Aの製造は、好ましくは所定量の連鎖移動剤の存在下で、単量体を共重合させる。また、共重合可能な他の単量体や重合開始剤等を用いても良い。
【0046】
単量体1、2及び3の反応温度は、40〜100℃、更に60〜90℃が好ましく、反応圧力はゲージ圧で101.3〜111.5kPa(1〜1.1atm)、更に101.3〜106.4kPa(1〜1.05atm)が好ましい。
【0047】
なお、反応系のpHは、必要に応じて、無機酸(リン酸、塩酸、硝酸、硫酸等)や、NaOH、KOH、トリエタノールアミンなどを用いて調整できる。
【0048】
ここで、単量体2及び/又は単量体3を含む単量体溶液は、pH測定上、含水系(すなわち、溶媒が水を含むこと)である事が好ましいが、非水系の場合には必要量の水を加えて測定しても良い。単量体溶液の均一性、ゲル化防止、性能低下の抑制の観点で、pHは7以下が好ましく、0.1〜6がより好ましく、更に0.2〜4.5が好ましい。また、単量体1もpH7以下の単量体溶液として用いることが好ましい。このpHは、20℃のものである。
【0049】
本発明では、反応途中(反応開始時〜反応終了時)で採取した反応液の20℃でのpHを、反応中のpHとする。反応中のpHが7以下となることが明らかな条件(単量体比率、溶媒、その他の成分等)で反応を開始することが好ましい。
【0050】
なお、反応系が非水系の場合は、pH測定可能な量の水を反応系に加えて測定することができる。
【0051】
重合体Aの製造方法において、単量体1、2及び3は、以下の(1)、(2)に例示した条件で反応を行えば、その他の条件の考慮の下で、通常は、反応中のpHも7以下になると考えられる。
(1)単量体1、2及び3を全て含むpH7以下の単量体溶液を、単量体1、2及び3の共重合反応に用いる。
(2)単量体1、2及び3の共重合反応をpH7以下で開始する。すなわち、単量体1、2及び3を含む反応系を、pH7以下にした後、反応を開始する。
【0052】
[連鎖移動剤]
連鎖移動剤は、ラジカル重合における連鎖移動反応(成長しつつある重合体ラジカルが他の分子と反応してラジカル活性点の移動が起こる反応)をもたらす機能を有し、連鎖単体の移動を目的として添加される物質でアスファルト乳化分散性及びセメント分散性の観点から、重合の際に連鎖移動剤を使用することが好ましい。
【0053】
連鎖移動剤としては、チオール系連鎖移動剤、ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤等が挙げられ、チオール系連鎖移動剤が好ましい。
【0054】
チオール系連鎖移動剤としては、−SH基を有するものが好ましく、特に一般式HS−R−Eg(ただし、式中Rは炭素原子数1〜4の炭化水素由来の基を表し、Eは−OH、−COOM、−COOR’または−SO3M基を表し、Mは水素原子、一価金属、二価金属、アンモニウム基または有機アミン基を表し、R’は炭素原子数1〜10のアルキル基を表わし、gは1〜2の整数を表す。)で表されるものが好ましく、例えば、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、チオグリコール酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル等が挙げられ、単量体1〜3を含む共重合反応での連鎖移動効果の観点から、メルカプトプロピオン酸、メルカプトエタノールが好ましく、メルカプトプロピオン酸が更に好ましい。これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0055】
ハロゲン化炭化水素系連鎖移動剤としては、四塩化炭素、四臭化炭素などが挙げられる。
【0056】
その他の連鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、ジペンテン、2−アミノプロパン−1−オールなどを挙げることができる。連鎖移動剤は、1種又は2種以上を用いることができる。
【0057】
[重合開始剤]
重合体Aの製造方法では、重合開始剤を使用することが好ましく、特に、単量体1、2及び3の合計モル数に対して重合開始剤を5モル%以上、更に7〜50モル%、特に10〜30モル%使用することが好ましい。
【0058】
水系の重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム塩又はアルカリ金属塩あるいは過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート等の水溶性アゾ化合物が使用できる。また、重合開始剤と併用して、亜硫酸水素ナトリウム、アミン化合物などの促進剤を使用することもできる。
【0059】
[溶媒]
重合体Aの製造では、溶液重合法で実施することができ、その際に使用される溶媒としては、水、あるいは、水と、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールアセトン、メチルエチルケトン等とを含有する含水溶媒系の溶媒が挙げられる。取り扱いと反応設備から考慮すると、水が好ましい。特に水系の溶媒を用いる場合、単量体2及び/又は単量体3を含む単量体溶液のpHは7以下であることが好ましく、更に0.1〜6、特に0.2〜4で反応に用いて共重合反応を行うことが、モノマー混液の均一性(取り扱い性)、モノマー反応率の観点や、リン酸系化合物のピロ体の加水分解により架橋を抑制する点で好ましい。
【0060】
重合体Aの製造方法の一例を示す。反応容器に所定量の水を仕込み、窒素等の不活性気体で雰囲気を置換し昇温する。予め単量体1、単量体2、単量体3、連鎖移動剤を水に混合溶解したものと、重合開始剤を水に溶解したものとを用意し、0.5〜5時間かけて反応容器に滴下する。その際、各単量体、連鎖移動剤及び重合開始剤を別々に滴下してもよく、また、単量体の混合溶液を予め反応容器に仕込み、重合開始剤のみを滴下することも可能である。すなわち、連鎖移動剤、重合開始剤、その他の添加剤は、単量体溶液とは別に添加剤溶液として添加しても良いし、単量体溶液に配合して添加してもよいが、重合の安定性の観点からは、単量体溶液とは別に添加剤溶液として反応系に供給することが好ましい。何れの場合も、単量体2及び/又は単量体3を含有する溶液はpH7以下が好ましい。また、酸剤等により、好ましくはpHを7以下に維持して共重合反応を行い、好ましくは所定時間の熟成を行う。なお、重合開始剤は、全量を単量体と同時に滴下しても良いし、分割して添加しても良いが、分割して添加することが未反応単量体の低減の点では好ましい。例えば、最終的に使用する重合開始剤の全量中、1/2〜2/3の重合開始剤を単量体と同時に添加し、残部を単量体滴下終了後1〜2時間熟成した後、添加することが好ましい。必要に応じ、熟成終了後に更にアルカリ剤(水酸化ナトリウム等)で中和し、本発明に係るリン酸エステル系重合体を得る。この製造例は、本発明に係る重合体Aの製造方法として好適である。
【0061】
反応系の単量体1、2及び3並びに共重合可能なその他の単量体の総量は、5〜80重量%が好ましく、10〜65重量%がより好ましく、20〜50重量%が特に好ましい。
【0062】
重合体Aは、重量平均分子量(Mw)が10,000〜150,000であることが好ましい。この重合体Aは、アスファルトの乳化分散性の観点から、Mwが10,000以上であり、好ましくは12,000以上、さらに好ましくは13,000以上、より好ましくは14,000以上、特に好ましくは15,000以上で、架橋による高分子量化、ゲル化の抑制や性能面ではセメント混合性、骨材混合性の観点から、150,000以下であり、好ましくは130,000以下、さらに好ましくは120,000以下、より好ましくは110,000以下、特に好ましくは100,000以下であり、前記両者の観点から、好ましくは12,000〜130,000、より好ましくは13,000〜120,000、さらに好ましくは14,000〜110,000、特に好ましくは15,000〜100,000である。この範囲のMwを有し、かつMw/Mnが1.0〜2.6であることが好ましい。ここで、Mnは数平均分子量である。
【0063】
重合体AのMw及びMnは、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定されたものである。なお、本発明における重合体AのMw/Mnは、該重合体のピークに基づいて算出されたものとする。
[GPC条件]
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.2mg/mL
標準物質:ポリエチレングリコール換算
【0064】
上記のようなMw/Mnを満たす重合体Aは、ジエステル体である単量体3による架橋を抑制することにより適度な分岐構造となり、分子内に密に吸着基が存在する構造を形成するものと考えられる。Mw/Mnは、例えば連鎖移動剤の量を調整することで制御することができる。連鎖移動剤の量を多くすると、Mw/Mnは小さくなる傾向がある。
【0065】
上記のような重合体AのMw/Mnは、実用的な製造容易性、アスファルトの乳化分散性及びセメント混合性を確保する観点から、1.0以上が好ましく、分散性及び粘性低減効果を両立する観点から、2.6以下が好ましく、より好ましくは2.4以下、より好ましくは2.2以下、さらに好ましくは2.0以下、特に好ましくは1.8以下であり、前記2点を総合した観点から、好ましくは1.0〜2.4、より好ましくは1.0〜2.2、より好ましくは1.0〜2.0、特に好ましくは1.0〜1.8である。
【0066】
また、上記条件でのGPC法で得られる分子量分布を示すチャートのパターンにおいて、分子量10万以上の面積が当該チャート全体の面積の5%以下であることが、分散したセメント粒子が凝集しにくい点でより好ましい。
【0067】
[アスファルト乳化分散剤]
本発明のアスファルト乳化分散剤は重合体Aを含有するものである。
【0068】
本発明に係る重合体Aの乳化分散剤中の含有量は好ましくは0.1〜100重量%であり、またこの共重合体のアスファルト乳剤組成物中の含有量は使用目的により異なるが、好ましくは0.05〜10重量%であり、更に好ましくは0.1〜5重量%である。
【0069】
本発明のアスファルト乳化分散剤を用いたアスファルト乳剤組成物が、セメント混合性、骨材混合性、耐久性に優れるメカニズムは必ずしも明確ではないが、本発明に係る重合体Aがセメントや骨材の表面に吸着して保護コロイド的な機能を発揮し、セメントの反応やセメントとアスファルト乳剤の反応、及び骨材とアスファルト乳剤の反応を抑制するため、混合性が向上するものと予想される。また、混合性が良好となることから、セメントや骨材とアスファルト乳剤とが均一に混合され、道路施工時の敷固めが十分に行われ、耐久性に優れた舗装が可能となると考えられる。
【0070】
本発明に用いられる重合体Aと、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤または両性乳化剤からなる群より選ばれる1種以上を併用することによりアスファルトの乳化性能を更に高めることができる。
【0071】
アニオン性乳化剤としては、脂肪酸、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸またはそれらの塩等を挙げることができる。カチオン性乳化剤としては、アルキルアミン、アルキルポリアミン、アミドアミン、アルキルイミダゾリン等のアミンの鉱酸または低級カルボン酸塩、4級アンモニウム塩等を挙げることができる。両性乳化剤としては、酢酸ベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン、イミダゾリウムベタイン、アミンオキシド等を挙げることができる。ノニオン性乳化剤としては、ソルビタンエステル、ソルビタンエステルのAO付加物、長鎖アルコールのエチレンオキシド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキシド付加物、アルキルグリコシド等を挙げることができる。
【0072】
重合体Aと他の乳化剤との併用比率は使用目的により異なるが、好ましくは重量比で、重合体A/乳化剤=0.1/99.9〜99.9/0.1であり、さらに好ましくは0.5/99.5〜50/50、より好ましくは1/99〜30/70である。
【0073】
本発明のアスファルト乳化分散剤は、アスファルトを乳化する際に予め水と混合して、アスファルトに添加することが望ましいが、本発明の乳化分散剤の一部を、乳剤組成物と骨材を混合する合材製造時に添加することも可能である。
【0074】
本発明のアスファルト乳化分散剤は、アスファルト乳剤の貯蔵安定性を改善する目的で水溶性高分子を併用することができる。この水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カチオン化セルロース、ガム類を挙げることができる。さらに、施工後の骨材とアスファルトの接着性を向上させる目的でタンニン、没食子酸等のフェノール系化合物を添加することもできる。
【0075】
本発明のアスファルト乳化分散剤の添加量は、アスファルトと水の合計重量に対し好ましくは0.02〜10重量%、更に好ましくは0.05〜5重量%である。
【0076】
[アスファルト乳剤組成物]
【0077】
本発明の水中油滴型アスファルト乳剤組成物は、アスファルト、本発明のアスファルト乳化分散剤及び水を含有するものである。
【0078】
本発明で用いられるアスファルトとしては、ストレートアスファルト、カットバックアスファルト、ブローンアスファルト、セミブローンアスファルト、ポリマー改質アスファルト、天然ビチューメン、再生アスファルト等を挙げることができる。
【0079】
水中油滴型アスファルト乳剤組成物におけるアスファルト及び水の含有量は、乳剤の貯蔵安定性及び道路舗装体の強度と耐久性の観点から、アスファルトの含有量が好ましくは40〜80重量%であり、更に好ましくは50〜75重量%であり、水の含有量が好ましくは20〜60重量%であり、さらに好ましくは25〜50重量%である。
【0080】
本発明のアスファルト乳剤組成物は、コロイドミル、ホモジナイザー、ラインミキサー等の乳化機により製造することができる。
【0081】
本発明のアスファルト乳剤組成物は、セメント、骨材、他の添加剤等と、混合して使用しても良い。セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、高ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸セメント等のセメントであり、またこれらに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加されたものでもよい。
【0082】
その他、本発明では必要に応じて発泡剤、凝結遅延剤、あるいは、その他の混和材を使用することができる。
【0083】
発泡剤としては、例えば、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、硅素合金等の粉末が例示され、アルミニウム粉末が好ましい。
【0084】
また、凝結遅延剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、C5オレフィン・マレイン酸ナトリウム共重合体などがある。
【0085】
本発明のアスファルト乳剤組成物は、半たわみ性舗装用注入材やサブシーリング等のコンクリート版下への隙間てん充材、ブロック舗装の支持材等に利用する事が出来る。
【実施例】
【0086】
以下に、実施例、及び比較例で用いた重合体Aの製造例を示す。
<製造例A1>
撹拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水366gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23)450g(有効分60.8%、水分35%)とリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物であるリン酸エステル化物(A)71.6gと3−メルカプトプロピオン酸4.5gを混合したものと過硫酸アンモニウム.8.4gを水48gに溶解したものの2者を、それぞれ1.5時間かけて滴下した。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.8gを水10gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後1.5時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に32%水酸化ナトリウム水溶液44.4gで中和し、重量平均分子量(Mw)が35000、重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)が1.29の共重合体A−1を得た。(単量体重合pH:1.0、反応率100%)
【0087】
なお、このリン酸エステル化物(A)は、反応容器中にメタクリル酸2-ヒドロキシエチル200gと85%リン酸(H3PO4)36.0gを仕込み、5酸化2リン(無水リン酸)(P2O5)89.1gを温度が60℃を超えないように冷却しながら徐々に添加した後、反応温度を80℃に設定し、6時間反応させ、冷却後、リン酸エステル化物(A)を得た。以下の製造例の一部でもこのリン酸エステル化物(A)を用いた。
【0088】
<製造例A2>
撹拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水371gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23)500g(有効分60.8%、水分35%)とリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物であるリン酸エステル化物(A)34.1gと3−メルカプトプロピオン酸2.8gを混合したものと過硫酸アンモニウム.7.2gを水41gに溶解したものの2者を、それぞれ1.5時間かけて滴下した。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.6gを水9gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後1.5時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に32%水酸化ナトリウム水溶液21.2gで中和し、重量平均分子量34000、Mw/Mnが1.28の共重合体A−2を得た。(単量体重合pH:1.1、反応率100%)
【0089】
<製造例A3>
撹拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水381gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数23)520g(有効分60.8%、水分35%)とリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物であるリン酸エステル化物(A)28.6gと3−メルカプトプロピオン酸2.8gを混合したものと過硫酸アンモニウム.7.2gを水41gに溶解したものの2者を、それぞれ1.5時間かけて滴下した。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.6gを水9gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後1.5時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に32%水酸化ナトリウム水溶液17.7gで中和し、重量平均分子量36000、Mw/Mnが1.27の共重合体A−3を得た。(単量体重合pH:1.1、反応率100%)
【0090】
<製造例A4>
撹拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水471gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数9)290g(有効分84.4%、水分10%)とリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物であるリン酸エステル化物(A)93.8gと3−メルカプトプロピオン酸11.3gを混合したものと過硫酸アンモニウム.8.2gを水46gに溶解したものの2者を、それぞれ1.5時間かけて滴下した。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム3.3gを水19gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後1.5時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に32%水酸化ナトリウム水溶液58.2gで中和し、重量平均分子量25000、Mw/Mnが1.21の共重合体A−4を得た。(単量体重合pH:1.0、反応率99%)
【0091】
<製造例A5>
撹拌機付きガラス製反応容器(四つ口フラスコ)に水489gを仕込み、撹拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの平均付加モル数9)290g(有効分84.4%、水分10%)とリン酸モノ(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸エステルとリン酸ジ−〔(2−ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルの混合物であるリン酸エステル化物(A)53.2gと3−メルカプトプロピオン酸9.1gを混合したものと過硫酸アンモニウム.7.8gを水44gに溶解したものの2者を、それぞれ1.5時間かけて滴下した。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム3.1gを水18gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後1.5時間同温度(80℃)で熟成した。熟成終了後に32%水酸化ナトリウム水溶液33.0gで中和し、重量平均分子量21000、Mw/Mnが1.18の共重合体A−5を得た。(単量体重合pH:1.1、反応率98%)
【0092】
表1〜3に実施例及び比較例に使用した本発明のアスファルト乳化分散剤の組成を示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
表中の共重合体の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法/ポリスチレンスルホン酸ナトリウム換算による分子量から求めた重量平均分子量である。表中、EOはエチレンオキシドを表し、括弧の次の数字は平均付加モル数を表す。また、POEはポリオキシエチレンの略であり、EOpはエチレンオキシド平均付加モル数である。Mwは重量平均分子量である。
【0097】
(アスファルト乳剤組成物の製造)
針入度80〜100のストレートアスファルトを145℃に加熱溶融した。50℃の温水に、表1〜3に示す水溶性共重合体及び乳化剤を所定の比率で計5.0重量%(アスファルト乳剤組成物に対して2.0重量%)を溶解し乳化分散剤を準備した。前記溶融アスファルト60重量部と乳化分散剤40重量部を同時にコロイドミル(5000rpm)に通してアスファルト乳剤組成物を得た。得られたアスファルト乳剤組成物を室温まで冷却した後、アスファルト乳剤の貯蔵安定性、セメント混合性、混合状態及び残留安定度を以下の方法で測定した。その結果を表4に示す。
【0098】
(アスファルト乳剤組成物の貯蔵安定性)
JIS K 2280「貯蔵安定度」試験法に基づき、25℃で24時間静置後のアスファルト乳剤組成物のアスファルト乳剤貯蔵安定度を測定した。数値の低い方がアスファルト乳剤の分離が少なく、1.0以下で実用上問題ないレベルである。
【0099】
(セメント混合性)
社団法人日本道路協会編、「舗装試験法便覧」(平成5年12月20日、第6版)497頁のセメント混合性試験方法に従い測定した。測定値が小さいほどセメントとアスファルト乳剤組成物の混合性が良好である。
【0100】
(残留安定度)
「舗装試験法便覧」507頁のマーシャル安定度試験方法により供試体を作成し、水浸強度と非水浸強度との比を残留安定度とした。残留安定度が高いほど耐久性が良好である。養生条件は、20℃気中で28日間養生した後、水浸強度測定用供試体は20℃水中7日間養生し、非水浸強度測定用供試体は20℃気中7日間養生した。
【0101】
(混合状態)
舗装用常温アスファルト混合物製造の際の混合状態を骨材の混合性として評価した。すなわち、6号砕石35重量部、細砂42重量部、スクリーニングス6重量部、普通ポルトランドセメント7重量部、アスファルト乳剤組成物10重量部、比較例11では更に発泡剤(アルミニウム粉末C−250、中島金属箔粉工業(株))0.2重量部を、モルタルミキサーに投入し2分間混合しアスファルト合材を製造した。1バッチの練り混ぜ量は10kgである。練り上がり直後のミキサー中の合材(表面の直径約30cm)の混合状態を目視にて観察し、6号砕石とそれ以外の成分の分離が無く均一に混合した状態を「良い」、1〜10個の砕石が分離した状態を「普通」、11個以上の砕石が分離した状態を「悪い」として3段階評価をした。
【0102】
【表4】


表4から明らかなように、本発明のアスファルト乳化分散剤は、乳剤組成物のセメント混合性を飛躍的に改良すると共に、骨材混合性をも改善しアスファルト合材の作業性を良好にする。また、乳剤組成物の貯蔵安定性も良好となる。さらに、本発明のアスファルト乳化分散剤で乳化したアスファルト乳剤組成物を用いた舗装用合材の残留安定度は十分に高く実用上問題ない強度を有しており、耐久性に優れる道路舗装体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される単量体1と、下記一般式(2)で表される単量体2と、下記一般式(3)で表される単量体3とを共重合して得られる重合体Aを含有するアスファルト乳化分散剤。
【化1】


〔式中、R1、R2は、それぞれ水素原子又はメチル基、R3は水素原子又は-(CH2)q(CO)pO(AO)rR4、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基、pは0又は1の数、qは0〜2の数、pとqは同時に0ではなく、rはAOの平均付加モル数であり、3〜300の数、R4は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を表す。〕
【化2】


〔式中、R11は水素原子又はメチル基、R12は炭素数2〜12のアルキレン基、m1は1〜30の数、M3、M4はそれぞれ水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。〕
【化3】


〔式中、R13、R15は、それぞれ水素原子又はメチル基、R14、R16は、それぞれ炭素数2〜12のアルキレン基、m2、m3は、それぞれ1〜30の数、M5は水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を表す。〕
【請求項2】
重合体Aが単量体1〜3をpH7以下で共重合して得られたものである請求項1記載のアスファルト乳化分散剤。
【請求項3】
重合体Aが単量体1〜3を連鎖移動剤の存在下で共重合して得られたものである請求項1又は2記載のアスファルト乳化分散剤。
【請求項4】
さらに、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤及び両性乳化剤からなる群より選ばれる1種以上を含有する、請求項1〜3の何れか1項記載のアスファルト乳化分散剤。
【請求項5】
アスファルト、請求項1〜4の何れか1項記載のアスファルト乳化分散剤及び水を含有する水中油滴型アスファルト乳剤組成物。

【公開番号】特開2007−186654(P2007−186654A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7757(P2006−7757)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】