説明

アスベスト含有材除去確認に用いる検査システム

【課題】検査が困難な場所でも対応することができるうえ、検査精度を高めることでアスベスト含有材の残留箇所の見落としを無くすことができる。
【解決手段】アスベスト含有材2の除去処理面(基材1の表面1a)に向けて照射する一対の赤外線ヒーター4A、4Bと、これら一対の赤外線ヒーター4A、4Bによる加熱範囲の温度を監視して画像を得る赤外線サーモグラフィ5と、赤外線サーモグラフィ5による監視範囲Rの画像位置データを得る位置検出装置6と、基材温度T1に比べて温度差のある部分をアスベスト含有材2の残留付着物2Aとした温度画像データを赤外線サーモグラフィ5で得られた画像に基づいて作成するとともに、温度画像データに画像位置データを関連付けし、残留付着物2Aの位置を特定した位置情報を出力する画像解析装置7とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に被覆されているアスベスト含有材を除去した後に行なわれるアスベスト含有材の残留付着物の確認に用いる検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的には、建物の梁や柱などの基材に被覆されている吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウールなどのアスベスト含有材を除去する方法として、ケレン棒等の工具による粗落しを行った後、例えばブラシ等を用いてセメント成分を主体としたアスベスト含有材の残留付着物を削ぎ落として磨き上げる作業が行われている。
【0003】
また、さらに効果的に基材からアスベスト含有材を除去するために、アスベスト含有材と基材との界面に酸性液を注入し、その界面に位置するアスベスト含有材を溶解することでアスベスト含有材と基材とを剥離させる除去方法も知られている。この場合、酸性液がすべての界面に均等に広がるように注入位置や注入量を調整することにより、アスベスト含有材を効率よく除去することが可能である。
さらにまた、人力でアスベスト含有材を削り落とす場合に比べて作業効率を高めた除去方法として、ブラシ等を装備した除去装置を使用する方法もある(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−199832号公報
【特許文献2】特開2008−253857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アスベスト除去方法では、除去作業を行った後に、確実にアスベスト含有材が除去されたことを確認する検査が必要であり、従来、目視により行なっているのが一般的である。このような目視による検査では、アスベスト含有材が取り残されている場合、再除去作業を行うためにその残留箇所を別途記録するという手間のかかる作業が生じていた。そして、とくに目視する検査対象となる基材が暗い場所、或いは狭小な場所にあっては、目視による検査作業が困難であり、残留箇所を見落としてしまうといった問題があった。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、検査が困難な場所でも対応することができるうえ、検査精度を高めることでアスベスト含有材の残留箇所の見落としを無くすことができるアスベスト含有材除去確認に用いる検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るアスベスト含有材除去確認に用いる検査システムでは、基材の表面に被覆されているアスベスト含有材の除去確認に用いる検査システムであって、アスベスト含有材の除去処理面に向けて照射する加熱手段と、加熱手段による加熱範囲の温度を監視して画像を得る温度監視手段と、温度監視手段による監視範囲の画像位置データを得る位置検出手段と、基材温度に比べて温度差のある部分をアスベスト含有材の残留付着物とした温度画像データを温度監視手段で得られた画像に基づいて作成するとともに、温度画像データに画像位置データを関連付けし、残留付着物の位置を特定した位置情報を出力する画像解析手段とを備えたことを特徴としている。
【0008】
本発明では、検査対象となる基材の表面を加熱手段により加熱し、その加熱範囲の温度変化を温度監視手段により監視して該加熱範囲の画像を画像解析手段へ出力し、画像解析手段において、温度監視手段で得られた画像に基づいた解析が行われる。すなわち、温度監視手段の画像に基づき、基材温度に比べて温度差のある部分をアスベスト含有材の残留付着物として判別した温度画像データが作成される。一方、位置検出手段において、温度監視手段による監視範囲の位置、つまり例えば温度監視手段の撮像カメラの位置や画角などが検出され、この検出値を画像位置データとして画像解析手段へ出力させることができる。
次いで、画像解析手段において、温度画像データに位置検出手段で得た画像位置データを関連付けた位置情報が抽出される。つまり、基材と残留付着物とは材質が異なり互いに温度差を有することから、検査領域の基材に残留付着物が存在する場合において、前記温度差から残留付着物の位置を特定することができ、画像位置データに基づいて残留付着物の位置に座標値をもたせた位置情報をモニターや印刷により出力することができる。
【0009】
このように、本検査システムでは、温度監視手段を用いてアスベスト含有材の取り残し状況と、その位置を確認することができる。つまり、すべてのアスベスト含有材が除去されていれば、温度監視手段によって得られる温度画像データの温度変化領域が基材温度として連続的となるが、アスベスト含有材の取り残しがあると、基材に不連続性が発生する。この不連続な領域を形成するアスベスト含有材の残留付着物を画像中の座標として認識することにより、残留付着物の位置を把握することができる。
そして、作業員は、位置情報を確認しながら、アスベスト含有材の残留付着物を再度除去することができるので、目視による検査に比べて見落としなく、粗落しをした後に残った残留付着物を確実に見つけて除去することができる。
また、画像解析手段によって出力される位置情報が座標値をもっているため、この位置情報を除去作業を行うロボットの動作指令としても用いることも可能である。
さらに、本検査システムを除去作業ロボットと一体化することにより、検査をしながら除去作業を進めることも可能となり、より確実で効率的な除去作業を行うことができる。
【0010】
また、本発明に係るアスベスト含有材除去確認に用いる検査システムでは、加熱手段は、赤外線ヒーターであり、温度監視手段は、加熱範囲を撮像する赤外線サーモグラフィであることが好ましい。
本発明では、赤外線ヒーターで基材の表面を加熱し、その加熱範囲を赤外線サーモグラフィで撮像することで、前記温度画像データを取得することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアスベスト含有材除去確認に用いる検査システムによれば、温度監視手段で得た画像により基材温度との温度差のある部分を基材に付着するアスベスト含有材の残留付着物として検出し、さらにその残留付着物の位置を特定することができるので、目視による検査が困難な暗い場所、或いは狭小な場所であっても、撮像カメラ等を備えた温度監視手段で監視可能な範囲であれば対応することができる。また、温度によって残留付着物を判別する高精度な検査となるので、アスベスト含有材の除去残し状況を見落としなく把握することが可能となり、より確実な除去作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態によるアスベスト含有材除去確認に用いる検査システムを説明するための斜視図である。
【図2】図1に示す検出システムの概略構成の模式図である。
【図3】検査システムを用いたアスベスト含有材除去確認方法を示す動作フローである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態によるアスベスト含有材除去確認に用いる検査システムについて、図面に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、本実施の形態による検査システム10は、建物などの鉄筋コンクリート造の柱や梁等の基材1の表面1aに被覆されたアスベスト含有材2を除去する施工に適用されるものであり、アスベスト含有材2を粗落しした後に機材1に付着する残留付着物2Aの除去確認に用いられる。
ここで、基材1は、例えば吹付け厚25〜60mm程度のアスベスト含有材2を吹き付けて施工されたH形鋼の梁である。
なお、アスベスト含有材2として、吹付けアスベスト材やアスベスト含有吹付けロックウール等が挙げられる。
【0015】
図2に示すように、検査システム10は、アスベスト含有材2の除去処理面(基材1の表面1a)に向けて照射する一対の赤外線ヒーター4(4A、4B)(加熱手段)と、これら一対の赤外線ヒーター4A、4Bによる加熱範囲の温度を監視して画像を得る赤外線サーモグラフィ5(温度監視手段)と、赤外線サーモグラフィ5による監視範囲Rの画像位置データD2(図3参照)を得る位置検出装置6(位置検出手段)と、基材温度T1に比べて温度差のある部分をアスベスト含有材2の残留付着物2Aとした温度画像データD1(図3参照)を赤外線サーモグラフィ5で得られた画像に基づいて作成するとともに、温度画像データD1に画像位置データD2を関連付けし、残留付着物2Aの位置を特定した位置情報D3(図3参照)を出力する画像解析装置7(画像解析手段)とを備えて概略構成されている。
なお、図1では、検査システム10における赤外線ヒーター4(4A、4B)、位置検出装置6、画像解析装置7が省略されている。
【0016】
赤外線ヒーター4A、4Bは、基材1の所定の検査範囲(ここでは、H形鋼からなる基材1のウェブ1bが検査対象)を照射することで加熱による温度変化を与えるものであり、そのウェブ1bに対向する側の適宜な位置に配置されている。これら赤外線ヒーター4A、4Bでは、加熱領域が重複している。
【0017】
赤外線サーモグラフィ5は、基材1のウェブ1bのうち赤外線ヒーター4A、4Bによって加熱される領域に対向する適宜な位置に配置されるとともに、画像処理装置7に接続されている。
そして、赤外線サーモグラフィ5は、撮像カメラ5aを備え、赤外線ヒーター4A、4Bの加熱領域を温度画像として撮像するものであり、この撮像した画像が画像処理装置7へ出力されるようになっている。
【0018】
位置検出装置6は、赤外線サーモグラフィ5と画像解析装置7とのそれぞれに接続され、赤外線サーモグラフィ5自体の位置を座標値で検出するとともに、その位置での撮像カメラ5aの画角を座標値で検出し、これら検出値は画像位置データD2として画像処理装置7へ出力されるようになっている。
【0019】
画像解析装置7は、赤外線サーモグラフィ5で得られた画像に基づいて温度画像データD1を作成し、この温度画像データD1と位置検出装置6による画像位置データD2とを関連付ける解析が行われる構成となっている。具体的には、画像解析装置7において、基材1の鋼材部分と残留付着物2Aであるアスベスト含有材2とがそれぞれの材質の違いにより赤外線ヒーター4による加熱温度が異なることから、残留付着物2Aが存在する場合には基材1と残留付着物2Aとの温度差に基づく温度分布が得られることになり、その温度分布における残留付着物2Aに相当する箇所を位置検出装置6により得た画像位置データD2に基づいて座標値として位置を特定し、その位置情報D3がモニター或いは印刷物として出力されるようになっている。
【0020】
なお、上述した検査システム10の赤外線ヒーター4や赤外線サーモグラフィ5は、検査対象に合わせて移動させる構成となっている。
【0021】
次に、上述した検査システム10を用いてアスベスト含有材2の除去確認を行う方法について、図3に示す動作フローなどを用いて詳細に説明する。
ここで、検査を行うにあたって、図2に示す基材1に被覆されるアスベスト含有材2(図2で二点鎖線)を適宜な方法により除去する。この除去方法としては、ケレン棒等の冶具を用いて削り落とす従来の方法でも良いし、ブラシ等を備えた除去装置を使用する方法でも良く、或いは削り落とす前にアスベスト含有材2に対して酸性液(図示省略)を注入してアスベスト含有材2のセメント分に反応させて溶解する方法であっても良い。
【0022】
そして、図1に示すように、上記方法によりアスベスト含有材2を除去した基材1における所定の検査領域を加熱し且つ撮像できるように、一対の赤外線ヒーター4A、4Bと赤外線サーモグラフィ5とを所定位置に配置する。
【0023】
そして、図2および図3に示すように、一対の赤外線ヒーター4A、4Bを検査対象となる基材1のウェブ1bの表面1aの検査領域に照射して加熱する(ステップS1)。
次に、ステップS2において、赤外線ヒーター4A、4Bによる加熱範囲の温度変化を赤外線サーモグラフィ5により撮像(監視)して加熱範囲の画像を画像解析装置7へ出力する。そして、ステップS3では、画像解析装置7において、赤外線サーモグラフィ5で得られた画像に基づいた解析が行われる。すなわち、赤外線サーモグラフィ5の画像に基づき、基材温度T1に比べて温度差のある部分をアスベスト含有材2の残留付着物2Aとして判別した温度画像データD1が作成される。
【0024】
このとき、位置検出装置6において、赤外線サーモグラフィ5による監視範囲Rの位置、つまり赤外線サーモグラフィ5の撮像カメラ5aの位置と画角が検出され、画像位置データD2として画像解析装置7へ出力される(ステップS4)。
【0025】
さらに、ステップS5では、画像解析装置7において、温度画像データD1に位置検出装置6で検出した画像位置データD2を関連付けた位置情報D3が抽出される。つまり、基材1と残留付着物2Aとは材質が異なり互いに温度差を有することから、検査領域の基材1に残留付着物2Aが存在する場合において、前記温度差から残留付着物2Aの位置を特定することができ、画像位置データD2に基づいて残留付着物2Aの位置に座標値をもたせた位置情報D3がモニターや印刷により出力されることになる。
【0026】
このように、本検査システム10では、赤外線サーモグラフィ5を用いてアスベスト含有材2の取り残し状況と、その位置を確認することができる。つまり、すべてのアスベスト含有材2が除去されていれば、赤外線サーモグラフィ5によって得られる温度画像データの温度変化領域が基材温度T1として連続的となるが、アスベスト含有材2の取り残しがあると、基材1に不連続性が発生する。この不連続な領域を形成するアスベスト含有材2の残留付着物2Aを画像中の座標として認識することにより、残留付着物2Aの位置を把握することができる。
【0027】
そして、作業員は、位置情報D3を確認しながら、アスベスト含有材2の残留付着物2Aを再度除去することができるので、目視による検査に比べて見落としなく、粗落しをした後に残った残留付着物2Aを確実に見つけて除去することができる。
【0028】
また、画像解析装置7によって出力される位置情報D3が座標値をもっているため、この位置情報D3を除去作業を行うロボットの動作指令としても用いることも可能である。
さらに、本検査システム10を除去作業ロボットと一体化することにより、検査をしながら除去作業を進めることも可能となり、より確実で効率的な除去作業を行うことができる。
【0029】
上述のように本実施の形態によるアスベスト含有材除去確認に用いる検査システム10では、赤外線サーモグラフィ5で得た画像により基材温度T1との温度差のある部分を基材1に付着するアスベスト含有材2の残留付着物2Aとして検出し、さらにその残留付着物2Aの位置を特定することができるので、目視による検査が困難な暗い場所、或いは狭小な場所であっても、撮像カメラ5aを備えた赤外線サーモグラフィ5で監視可能な範囲であれば対応することができる。
また、温度によって残留付着物2Aを判別する高精度な検査となるので、アスベスト含有材2の除去残し状況を見落としなく把握することが可能となり、より確実な除去作業を行うことができる。
【0030】
以上、本発明によるアスベスト含有材除去確認に用いる検査システムの実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では検査対象の加熱手段として赤外線ヒーター4を採用しているが、これに限定されることはなく、他の加熱装置を用いることも可能である。要は加熱対象(ここでは基材1や残留付着物2A)に温度変化を与えることができれば良いのである。また、赤外線ヒーター4の数量、位置などの構成についても任意に設定することが可能である。
また、赤外線サーモグラフィ5による撮像範囲(監視範囲R)も適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 基材
1a 表面
2 アスベスト含有材
2A アスベスト含有材の残留付着物
4、4A、4B 赤外線ヒーター(加熱手段)
5 赤外線サーモグラフィ(温度監視手段)
6 位置検出装置(位置検出手段)
7 画像解析装置(画像解析手段)
10 検査システム
D1 温度画像データ
D2 画像位置データ
D3 位置情報
R 監視範囲
T1 基材温度
T2 アスベスト含有材温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に被覆されているアスベスト含有材の除去確認に用いる検査システムであって、
アスベスト含有材の除去処理面に向けて照射する加熱手段と、
該加熱手段による加熱範囲の温度を監視して画像を得る温度監視手段と、
該温度監視手段による監視範囲の画像位置データを得る位置検出手段と、
基材温度に比べて温度差のある部分をアスベスト含有材の残留付着物とした温度画像データを前記温度監視手段で得られた画像に基づいて作成するとともに、前記温度画像データに前記画像位置データを関連付けし、前記残留付着物の位置を特定した位置情報を出力する画像解析手段と、
を備えたことを特徴とするアスベスト含有材除去確認に用いる検査システム。
【請求項2】
前記加熱手段は、赤外線ヒーターであり、
前記温度監視手段は、前記加熱範囲を撮像する赤外線サーモグラフィであることを特徴とする請求項1に記載のアスベスト含有材除去確認に用いる検査システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−21833(P2012−21833A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158652(P2010−158652)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】