説明

アズレン誘導体含有液剤

【課題】(1)アズレン誘導体を含有する水性液剤であって、アズレン誘導体の安定性に優れる水性液剤、(2)アズレン誘導体の安定性を向上する方法、又は(3)アズレン誘導体に対する安定性向上剤を提供する。
【解決手段】アズレン誘導体とトコフェロール酢酸エステルを併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アズレン誘導体を含有する水性液剤に関する。また、本発明は、アズレン誘導体の安定性を向上する方法、並びにアズレン誘導体に対する安定性向上剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
グアイアズレン、アズレンスルホン酸ナトリウム等のアズレン誘導体は、消炎作用、組織修復作用、及び抗アレルギー作用等の広範な作用を示す薬剤である。主に抗炎症剤として経口剤、口腔咽喉剤、及び点眼剤等に配合されている。
【0003】
しかしながら、アズレン誘導体は光、熱、及び酸素に対して不安定であり、特に眼科用水性液剤等の水溶液中では著しく不安定になる傾向がある。そのため、アズレン誘導体を含有する水性液剤を長期間保存した場合、水性液剤中のアズレン誘導体が徐々に分解し、その消炎作用、組織修復作用、及び抗アレルギー作用が減少してしまい、その結果、水性液剤が十分な薬効を発揮できないという問題が生ずる。
【0004】
従来から、アズレン誘導体を含有する水性液剤において、アズレン誘導体の安定性を向上することを企図する方法が種々開発されてきており、安定化剤として縮合リン酸塩を添加する方法(特許文献1)、陽イオン性界面活性剤又はクロルヘキシジンと非イオン性界面活性剤を配合する方法(特許文献2)等がある。しかし、これらの安定化方法は長期間の安定性という面では不十分であった。また、低級アルコール又は多価アルコール類を配合することによりアズレン誘導体の安定性を向上する方法として、炭酸水素塩と30 w/v%以上のアルコール類を配合する方法(特許文献3)、及び多価アルコールを20w/v%以上添加する方法(特許文献4)等が知られているが、いずれも口腔咽喉用水性液剤に限られたもので、様々な用途の液剤への汎用性を欠いたものであり、特に眼科用水性液剤にした場合、眼粘膜に対する刺激性という面で問題があった。そのため、現在市販されている製品においては容器及び包材の工夫として、アズレン誘導体を含有する水性液剤と脱酸素剤とを共に密封包装することにより、アズレン誘導体の安定性が確保されている(特許文献5)。しかしながら、この方法は特別な設備を必要とし、また資材等のコストがかかるという欠点を有する上に、包装開封後の安定性は保つことができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−144365号公報
【特許文献2】特開昭59−196816号公報
【特許文献3】特公平7−35342号公報
【特許文献4】特開平6−65071号公報
【特許文献5】特開昭59−176247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アズレン誘導体を含有する水性液剤であって、アズレン誘導体の安定性に優れる水性液剤を提供することを課題とする。
【0007】
また、本発明は、アズレン誘導体の安定性を向上する方法、及びアズレン誘導体に対する安定性向上剤を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アズレン誘導体を含有する水性液剤において、種々の化合物を添加することによりアズレン誘導体の安定性を向上することができないか検討を重ねた。その結果、本発明者らは、アズレン誘導体を含有する水性液剤において、トコフェロール酢酸エステルを添加することによりアズレン誘導体の安定性を向上できることを見出した。このトコフェロール酢酸エステルによる効果は、一般に汎用されている他の抗酸化剤にはみられない特有なものであった。
【0009】
本発明者らは、トコフェロール酢酸エステルに加えてジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及び陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を添加することによりアズレン誘導体の安定性をさらに向上できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は次の通りである:
1.アズレン誘導体含有水性液剤
(1−1)アズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルを含有する水性液剤。
(1−2)さらに、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及び陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する(1−1)に記載の水性液剤。
(1−3)さらに、多価アルコール及び低級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含有し、多価アルコール及び低級アルコールの含有量の合計が20w/v%以下である(1−1)又は(1−2)に記載の水性液剤。
(1−4)陽イオン性界面活性剤が、第四級アンモニウム化合物である(1−2)又は(1−3)に記載の水性液剤。
(1−5)陽イオン性界面活性剤が、ベンザルコニウム塩化物及びベンゼトニウム塩化物からなる群より選択される少なくとも1種である(1−2)〜(1−4)のいずれかに記載の水性液剤。
(1−6)アズレン誘導体1重量部に対して、トコフェロール酢酸エステルを0.1〜1000重量部含有する(1−1)〜(1−5)のいずれかに記載の水性液剤。
(1−7)アズレン誘導体1重量部に対して、BHTを0.001〜100重量部含有する(1−2)〜(1−6)のいずれかに記載の水性液剤。
(1−8)アズレン誘導体1重量部に対して、陽イオン性界面活性剤を0.0001〜100重量部含有する(1−2)〜(1−7)のいずれかに記載の水性液剤。
(1−9)眼科用液剤である(1−1)〜(1−8)のいずれかに記載の水性液剤。
(1−10)アズレン誘導体が、アズレンの酸付加物、その塩、及びそのエステル;並びにグアイアズレン、カマアズレン、それらの酸付加物、それらの酸付加物の塩、及びそれらの酸付加物のエステルからなる群より選択される少なくとも1種である(1−1)〜(1−9)のいずれかに記載の水性液剤。
(1−11)アズレン誘導体が、アズレンスルホン酸塩及び/又はグアイアズレンである(1−1)〜(1−10)のいずれかに記載の水性液剤。
【0011】
2.水性液剤中アズレン誘導体の安定性を向上する方法
(2−1)水性液剤中においてアズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルを共存させることを特徴とする、アズレン誘導体の水性液剤中における安定性を向上する方法。
(2−2)さらに、BHT及び陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を共存させることを特徴とする、(2−1)に記載の方法。
(2−3)陽イオン性界面活性剤が、第四級アンモニウム化合物である(2−2)に記載の方法。
(2−4)陽イオン性界面活性剤が、ベンザルコニウム塩化物及びベンゼトニウム塩化物からなる群より選択される少なくとも1種である(2−2)又は(2−3)のいずれかに記載の水性液剤。
(2−5)アズレン誘導体1重量部に対して、トコフェロール酢酸エステルを0.1〜1000重量部共存させる(2−1)〜(2−4)のいずれかに記載の方法。
(2−6)アズレン誘導体1重量部に対して、BHTを0.001〜100重量部共存させる(2−2)〜(2−5)のいずれかに記載の方法。
(2−7)アズレン誘導体1重量部に対して、陽イオン性界面活性剤を0.0001〜100重量部共存させる(2−2)〜(2−6)のいずれかに記載の方法。
(2−8)水性液剤が眼科用液剤である(2−1)〜(2−7)のいずれかに記載の方法。
(2−9)アズレン誘導体が、アズレンの酸付加物、その塩、及びそのエステル;並びに
グアイアズレン、カマアズレン、それらの酸付加物、それらの酸付加物の塩、及びそれらの酸付加物のエステルからなる群より選択される少なくとも1種である(2−1)〜(2−8)のいずれかに記載の方法。
(2−10)アズレン誘導体が、アズレンスルホン酸塩及び/又はグアイアズレンである(2−1)〜(2−9)のいずれかに記載の方法。
【0012】
3.水性液剤中アズレン誘導体に対する安定性向上剤
(3−1)トコフェロール酢酸エステルを有効成分として含有する、水性液剤中に存在するアズレン誘導体に対する安定性向上剤。
(3−2)さらに、BHT及び陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、(3−1)に記載の安定性向上剤。
(3−3)陽イオン性界面活性剤が、第四級アンモニウム化合物である(3−2)に記載の安定性向上剤。
(3−4)陽イオン性界面活性剤が、ベンザルコニウム塩化物及びベンゼトニウム塩化物からなる群より選択される少なくとも1種である(3−2)又は(3−3)に記載の水性液剤。
(3−5)アズレン誘導体1重量部に対して、トコフェロール酢酸エステルを0.1〜1000重量部含有する(3−1)〜(3−4)のいずれかに記載の安定性向上剤。
(3−6)アズレン誘導体1重量部に対して、BHTを0.001〜100重量部含有する(3−2)〜(3−5)のいずれかに記載の安定性向上剤。
(3−7)アズレン誘導体1重量部に対して、陽イオン性界面活性剤を0.0001〜100重量部含有する(3−2)〜(3−6)のいずれかに記載の安定性向上剤。
(3−8)水性液剤が眼科用液剤である(3−1)〜(3−7)のいずれかに記載の安定性向上剤。
(3−9)アズレン誘導体が、アズレンの酸付加物、その塩、及びそのエステル;並びに
グアイアズレン、カマアズレン、それらの酸付加物、それらの酸付加物の塩、及びそれらの酸付加物のエステルからなる群より選択される少なくとも1種である(3−1)〜(3−8)のいずれかに記載の安定性向上剤。
(3−10)アズレン誘導体が、アズレンスルホン酸塩及び/又はグアイアズレンである(3−1)〜(3−9)のいずれかに記載の安定性向上剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アズレン誘導体にトコフェロール酢酸エステルを併用することにより、アズレン誘導体の安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.アズレン誘導体含有水性液剤
本発明の水性液剤は、アズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルを含有する水性液剤である。
【0015】
アズレン誘導体は、アズレン(azulene)の誘導体、その塩又はエステルである。
【0016】
塩及びエステルとしては、薬理学的又は生理学的に許容できるものが好ましい。
【0017】
アズレンはシクロペンタシクロヘプタン(cyclopentacycloheptane)とも呼ばれる化学式C10H8で表される分子量約128.17の非ベンゼン系芳香族化合物の一つである。アズレンはナフタレンの異性体で、五員環と七員環が縮環した構造を持つ。アズレンは、例えば、シクロペンタジエニドイオンにピリジウム塩から得られるグルタコンジアルデヒド誘導体を縮合させる方法で合成することができる。また、アズレンは、トロポロンを原料とする製法や、ビシクロ[5.3.0]オクタン類を脱水素する製法によっても得ることができる。
【0018】
アズレンの誘導体としては、例えば、ある種の植物精油成分を脱水素することで得られるアズレンの誘導体を使用することができる。例えば、グアヤク樹(Guaiacum officinalis L.)の精油中のグアイオールを脱水し、ついで脱水素して得られるグアイアズレン(guaiazulene)をアズレンの誘導体として使用することができる。グアイアズレンは、7-イソプロピル-1,4-ジメチルアズレンとも呼ばれる化学式C15H18で表される分子量約198.31のアズレンの誘導体の一つである。また、カミツレの精油成分であるカマアズレン(chamazulene)をアズレンの誘導体として使用することができる。カマアズレンは、7-エチル-1,4-ジメチルアズレンとも呼ばれる化学式C14H16で表される分子量約184.28のアズレンの誘導体の一つである。
【0019】
また、植物精油成分等の天然資源から得られたアズレンの誘導体をさらに人工的に改変したものや、人工的に合成されたものであってシクロペンタシクロヘプタン構造を有するものもアズレンの誘導体として使用することができる。
【0020】
また、これらの酸付加物もアズレンの誘導体として使用することができる。本発明において「酸付加物」とは、化合物の一部に酸性基(酸基;acid group)が少なくとも1つ付加されているものをいう。酸付加物としては、薬理学的又は生理学的に許容できるものが好ましい。薬理学的又は生理学的に許容できる酸付加物としては、例えば、有機酸付加物(例えば、乳酸付加物、酢酸付加物、酪酸付加物、トリフルオロ酢酸付加物、フマル酸付加物、マレイン酸付加物、酒石酸付加物、クエン酸付加物、コハク酸付加物、マロン酸付加物、メタンスルホン酸付加物、トルエンスルホン酸付加物、トシル酸付加物、パルミチン酸付加物、及びステアリン酸付加物等)、並びに無機酸付加物(例えば、付加物酸付加物、硫酸付加物、硝酸付加物、臭化水素酸付加物、及びリン酸付加物等)等が挙げられる。
【0021】
アズレンの誘導体の薬理学的又は生理学的に許容できる塩としては、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、アミノ酸、トリピリジン、及びピコリン等の有機アミンとの塩等)、並びに無機塩基との塩(例えばアンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、及びアルミニウムなどの金属との塩等)等が挙げられる。具体的には、例えば、アズレンスルホン酸(グアイアズレンスルホン酸、又は7-イソプロピル-1,4-ジメチルアズレン-3-スルホン酸ともいう)塩、及びカマアズレンスルホン酸(7-エチル-1,4-ジメチルアズレン-3-スルホン酸ともいう)塩が挙げられる。
【0022】
アズレン誘導体としては、アズレンの酸付加物、その塩、及びそのエステル;グアイアズレン、及びカマアズレン;グアイアズレンの酸付加物、その塩、及びそのエステル;並びにカマアズレンの酸付加物、その塩、及びそのエステルが好ましい。その中でも水性液剤における溶解度が高いという点では、アズレンの酸付加物及びその塩;グアイアズレンの酸付加物及びその塩;並びにカマアズレンの酸付加物及びその塩がより好ましい。その中でも日本薬局方外医薬品規格に収載されているアズレンスルホン酸塩(特にナトリウム塩)及びグアイアズレンがさらに好ましい。
【0023】
これらのアズレン誘導体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0024】
アズレン誘導体の水性液剤における含有濃度は、通常の医薬品に使用される濃度が好ましい。アズレン誘導体の種類によって異なるが、例えば製剤全体に対して0.0001〜15w/v%が好ましく、0.0001〜1w/v%がより好ましく、0.001〜0.1w/v%がさらに好ましい。
【0025】
トコフェロール酢酸エステルの含有割合は特に限定されないが、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、アズレン誘導体1重量部に対して、例えばトコフェロール酢酸エステル0.1〜1000重量部が好ましく、0.1〜100重量部がより好ましく、1〜50重量部がさらに好ましい。このような範囲内でトコフェロール酢酸エステルを含有することにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0026】
本発明の水性液剤には、さらにBHT及び陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種が含有されていてもよい。BHT又は陽イオン性界面活性剤が含有されているとアズレン誘導体の安定性がより向上する。BHT及び陽イオン性界面活性剤がともに含有されているとアズレン誘導体の安定性がさらに向上する。
【0027】
BHTは2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールとも呼ばれる。BHTの含有割合は特に限定されないが、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、アズレン誘導体1重量部に対して、例えばBHT0.001〜100重量部が好ましく、0.01〜10重量部がより好ましく、0.01〜5重量部がさらに好ましい。このような範囲内でBHTを含有することにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0028】
陽イオン性界面活性剤は、通常の医薬品に使用されるものであればよく、例えば、第四級アンモニウム化合物及びビグアニド系化合物等が挙げられる。第四級アンモニウム化合物としては、セチルピリジニウム塩化物水和物、デカリニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、ベンザルコニウム塩化物、アルキルジメチルアンモニウム塩化物、アルキルトリメチルアンモニウム塩化物、メチルベンゼトニウム塩化物、ラウロイルコラミノホルミルメチルピリジニウム塩化物などが挙げられる。また、ビグアニド系化合物としては、例えばクロルヘキシジン又はその塩を挙げることができ、好ましくはクロルヘキシジングルコン酸塩、塩酸クロルヘキシジンなどが挙げられる。特にアズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、第四級アンモニウム化合物が好ましく、ベンゼトニウム塩化物、ベンザルコニウム塩化物などがより好ましい。
【0029】
陽イオン性界面活性剤の含量割合は、陽イオン性界面活性剤の種類にもよるが、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、例えばアズレン誘導体1重量部に対して、例えば陽イオン性界面活性剤0.0001〜100重量部が好ましく、0.001〜50重量部がより好ましく、0.01〜10重量部がさらに好ましい。このような範囲内で陽イオン性界面活性剤を含有することにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0030】
本発明の水性液剤には、必要に応じて、種々の溶媒を含有させることができる。溶媒としては、例えば水、アルコール類、エーテル、又はそれらの混合物が挙げられる。なかでも、アルコール類はアズレン誘導体の安定性を向上させることが知られているため好ましい。アルコール類としては例えば、多価アルコール及び低級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0031】
多価アルコールとしては、プロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ジプロパンジオール、トリプロパンジオール、ブタンジオール、ジブタンジオール、ペンタンジオール、ペンタントリオール、ヘキサンジオール、シクロヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール及びマンニトールなどが挙げられる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコールなどが挙げられる。なかでも、安全性とアズレン誘導体の安定性の点から、アルコール類としては、プロピレングリコール、グリセリン、エタノールなどが好ましい。
【0032】
本発明の水性液剤におけるアルコール類の合計含有割合は、多価アルコール又は低級アルコールの種類にもより特に制限されないが、20w/v%以下であることが好ましく、10w/v%以下であることがより好ましく、5w/v%以下であることがさらに好ましい。このように本発明の水性液剤によれば、従来、アズレン誘導体の安定性を向上させることが知られているアルコールの含有量を少なくすることができることから、粘膜適用製剤、とくに口腔咽喉科用や眼科用製剤として好ましく用いることができる。
【0033】
本発明の水性液剤は、目的に応じて例えば、内服あるいは外用の形態で使用することができる。内服の形態としては内科用等として、外用の形態としては眼科用、歯科用、耳鼻科用、又は皮膚科用等として、それぞれ様々な用途の局所投与製剤として提供することができる。
【0034】
本発明の水性液剤はアズレン誘導体の安定性が向上していることから、通常アズレン誘導体の安定性の低さが問題視されている製剤として利用することが好ましい。アズレン誘導体の安定性の低さが問題視されている製剤としては、例えば粘膜適用製剤、とくに口腔咽喉科用や眼科用製剤が挙げられる。一般にアルコール類を配合することでアズレン誘導体の安定性を向上できることが知られているものの、上述の通り粘膜適用製剤においては安全性に対する懸念からアルコール類を多量には配合できないとされる。このため粘膜適用製剤においては容器及び包材の工夫によりアズレン誘導体の安定性を確保するしかないとされていた。本発明の水性液剤はこのような安全上の問題を有するアルコール類に頼ることなく、かつ容器及び包材の工夫に頼ることなくアズレン誘導体の安定性を向上できる。したがって、本発明の水性液剤を眼科用製剤として利用することにはこの点で大きな利点が認められる。なお、眼科用製剤としては医薬用の製剤に限らず、コンタクトレンズ用剤などの非医薬用の製剤としても利用できる。眼科用製剤の具体例としては例えば、点眼薬(点眼剤ともいい、コンタクトレンズ装用中にも使用できる点眼薬を含む)、洗眼薬(洗眼剤ともいい、コンタクトレンズ装用中にも使用できる洗眼薬を含む)、コンタクトレンズ装着液、並びにコンタクトレンズ用剤(洗浄液、保存液、すすぎ液、消毒液、及びマルチパーパスソリューション等)等が挙げられる。なお、本明細書において、コンタクトレンズとは、ハードコンタクトレンズ(酸素透過性ハードコンタクトレンズも含む)、及びソフトコンタクトレンズ等のあらゆるタイプのコンタクトレンズをも意味する。
【0035】
本発明の水性液剤は有効成分の安定性が高いので、複数回に亘り投与する形態で包装され、かつ使用者が継続的に使用するマルチドーズの水性液剤、例えば、点眼薬、洗眼薬、鼻洗浄液、口腔用薬(口腔咽頭薬、及び含嗽用薬等)、点耳薬、点鼻薬、液状内服薬(液状胃腸薬、液状風邪薬等)、並びに皮膚外用薬等としても有用である。
【0036】
本発明の水性液剤は、例えば、内服用液剤では、通常、服用感及び有効成分の安定性という点ではpH2.0〜10.0であれば好ましく、pH4.0〜9.0であればより好ましく、pH6.0〜8.0であればさらに好ましい。外皮用組成物では、通常、皮膚に対する低刺激性、使用感のよさ及び有効成分の安定性という点ではpH3.0〜10.0であれば好ましく、pH3.0〜9.0であればより好ましく、pH4.0〜9.0であればさらに好ましい。特に点眼薬、又は洗眼薬等の粘膜適用組成物の場合、通常、粘膜に対する低刺激性及び有効成分の安定性という点ではpH5.0〜9.5であれば好ましく、pH5.5〜9.0であればより好ましく、pH6.0〜8.0であればさらに好ましい。
【0037】
本発明の水性液剤には、必要に応じて、アズレン誘導体の薬理作用及び安定性を損なわない範囲で、当該分野において通常用いられるその他の成分をさらに含有させることができる。ただし、既に説明した含有成分と重複する場合はこの限りでない。このようなその他の成分としては、例えば、充血除去成分、眼調節成分、抗炎症成分、収斂成分、抗ヒスタミン成分、抗アレルギー成分、ビタミン類、アミノ酸類、抗菌成分、殺菌成分、糖類、多糖類及びその誘導体、セルロース及びその誘導体、水溶性高分子、局所麻酔成分、ステロイド成分、緑内障治療成分、並びに白内障治療成分等が挙げられる。本発明において好ましいその他の成分としては、例えば、次のようなものが挙げられる。
【0038】
充血除去成分:例えば、α−アドレナリン作動薬、具体的にはエピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、硝酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硝酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、酒石酸水素エピネフリンなどが挙げられる。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0039】
眼筋調節薬成分:例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミンなどの第4級アンモニウム化合物及びそれらの薬理学的に許容される塩類などが挙げられる。
【0040】
抗炎症薬成分または収斂薬成分:例えば、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、アラントイン、イプシロン−アミノカプロン酸、インドメタシン、塩化リゾチーム、硝酸銀、プラノプロフェン、グリチルリチン酸ニカリウム、ジクロフェナクナトリウム、ブロムフェナクナトリウム、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、サリチル酸メチルなどが挙げられる。
【0041】
ビタミン類:例えば、ビタミンA類、ビタミンB類、ビタミンC類、ビタミンD類、ビタミンE類、及びその他のビタミン類からなる群より選択される少なくとも1種のビタミン類を含有することができる。ビタミンA類としては、例えば、レチナール、レチノール、レチノイン酸、カロチン、デヒドロレチナール、リコピン及びその薬理学的に許容される塩類などが挙げられる。ビタミンB類としては、例えば、チアミン、チアミンジスルフィド、ジセチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン、ピリドキサール、ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミン、メチルコバラミン、デオキシアデノコバラミン、葉酸、テトラヒドロ葉酸、ジヒドロ葉酸、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチニックアルコール、パントテン酸、パンテノール、ビオチン、コリン、イノシトール及びその薬理学的に許容されるこれらの塩類が挙げられる。ビタミンC類としては、例えば、アスコルビン酸及びその誘導体、エリソルビン酸及びその誘導体及びその薬理学的に許容される塩類などが挙げられる。ビタミンD類としては、例えば、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、ヒドロキシコレカルシフェロール、ジヒドロキシコレカルシフェロール、ジヒドロタキステロール及びその薬理学的に許容される塩類などが挙げられる。ビタミンE類としては、例えば、トコフェロール及びその誘導体、ユビキノン誘導体及びその薬理学的に許容される塩類などが挙げられる。その他のビタミン類としては、例えば、カルニチン、フェルラ酸、γ−オリザノール、オロチン酸、ルチン、エリオシトリン、ヘスペリジン及びその薬理学的に許容される塩類などが挙げられる。
【0042】
アミノ酸類:例えば、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、グルタミン酸、クレアチニン、グルタミン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどが挙げられる。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
【0043】
抗菌薬成分または殺菌薬成分:例えば、硫酸アミノデオキシカナマイシン、硫酸カナマイシン、硫酸ゲンタマイシン、硫酸シソマイシン、硫酸ストレプトマイシン、トブラマイシン、硫酸ミクロノマイシン、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロラムフェニコール、塩酸テトラサイクリン、塩酸オキシテトラサイクリン、オフロキサシン、ノルフロキサシン、レボフロキサシン、塩酸ロメフロキサシン、スルベニシンナトリウム、塩酸セフメノキシム、ベンジルペニシリンカリウム、硫酸ベルベリン、塩化ベルベリン、コリスチンメタスルホン酸ナトリウム、エリスロマイシン、ラクトビオン酸エリスロマイシン、キタサマイシン、スピラマイシン、硫酸フラジオマイシン、硫酸ポリミキシン、ジベカシン、アミカシン、硫酸アミカシン、アシクロビル、イオドデオキシサイチジン、イドクスウリジン、シクロサイチジン、シトシンアラビノシド、トリフルオロチミジン、ブロモデオキシウリジン、ポリビニルアルコールヨウ素、ヨウ素、アムホテリシンB、イソコナゾール、エコナゾール、クロトリマゾール、ナイスタチン、ピマリシン、フルオロシトシン、ミコナゾールなどが挙げられる。
【0044】
糖類:例えば、単糖類、二糖類、具体的にはグルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトースなどが挙げられる。
【0045】
多糖類又はその誘導体:例えば、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0046】
セルロース又はその誘導体又はそれらの塩:例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロースなどが挙げられる。
【0047】
前述以外の水溶性高分子:例えば、ポリビニルアルコール(完全又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、デキストリン、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0048】
局所麻酔薬成分:例えば、リドカイン、オキシブプロカイン、ジブカイン、プロカイン、アミノ安息香酸エチル、メプリルカイン、及びそれらの塩などが挙げられる。
【0049】
ステロイド成分:例えば、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、及びそれらの塩などが挙げられる。
【0050】
緑内障治療成分:例えば、レボブノロール、チモロール、及びそれらの塩などが挙げられる。
【0051】
白内障治療成分:例えば、ピレノキシンなどが挙げられる。
【0052】
水性液剤中のこれらの成分の含有割合は、製剤の種類、及び含有成分の種類等に応じて適宜決定される。例えば、製剤全体に対して0.0001〜50w/v%、好ましくは、0.0001〜25w/v%、より好ましくは0.001〜10w/v%である。
【0053】
また、本発明の水性液剤には、必要に応じて、アズレン誘導体の薬理作用及び安定性を損なわない範囲で、当該分野において通常用いられる添加剤をさらに含有させることができる。ただし、既に説明した含有成分と重複する場合はこの限りでない。このような成分としては、例えば、防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤、増粘剤、可溶化剤又は溶解補助剤、pH調節剤、等張化剤、香料、清涼化剤、キレート剤、緩衝剤、安定化剤、及び基材等が挙げられる。本発明において好ましい添加物としては、例えば、次のような添加物が挙げられる。
【0054】
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物、アクリノールなどが挙げられる。
【0055】
増粘剤:例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストラン、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0056】
可溶化剤又は溶解補助剤:例えば、アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型両性界面活性剤、アルキルエーテルカルボン酸塩、テトラデセンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、N−ココイルメチルタウリンナトリウムなどのN−アシルタウリン塩、POE(10)ラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのPOEアルキルエーテルリン酸及びその塩、ラウロイルメチルアラニンナトリウムなどのN−アシルアミノ酸塩、POE(3) ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのPOEアルキルエーテル硫酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩などの陰イオン界面活性剤などが挙げられる。具体的にはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレイン酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル40、ショ糖ステアリン酸エステル、モノステアリン酸デカグリセリル、ラウリルグルコシド、マクロゴール4000。なお、括弧内の数字は付加モル数を示す。
【0057】
pH調整剤:例えば、塩酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなどが挙げられる。
【0058】
等張化剤:例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0059】
香料又は清涼化剤:例えば、テルペン類(具体的には、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、メントール、リモネン、リュウノウなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。)精油(具体的には、ウイキョウ油、クールミント油、ケイヒ油、スペアミント油、ハッカ水、ハッカ油、ペパーミント油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油など)などが挙げられる。
【0060】
キレート剤:例えば、アスコルビン酸、エデト酸四ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸などが挙げられる。
緩衝剤:例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂などが挙げられる。
【0061】
安定剤:例えば、シクロデキストリン、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0062】
基剤:例えば、オクチルドデカノール、オリブ油、ゴマ油、酸化チタン、臭化カリウム、ダイズ油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、パラフィン、ヒマシ油、プラスチベース、ラッカセイ油、ラノリン、ワセリンなどが挙げられる。
【0063】
本発明の水性液剤は、必要に応じて、生体に許容される範囲内の浸透圧比に調節する必要がある。生理食塩液に対する浸透圧比は、通常0.3〜4.0、好ましくは0.5〜2.0、より好ましくは0.5〜1.4である。浸透圧比の調節は前記pH調整剤の他に、緩衝剤、等張化剤、及び塩類等を適宜用いて行うことができる。
【0064】
本発明の水性液剤は、公知の方法により製造できるが、前述のように、トコフェロール酢酸エステルの存在下でアズレン誘導体の安定性が向上するので、この点を考慮して必要に応じてアズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルの配合順序を決定してもよい。すなわち、この点ではトコフェロール酢酸エステルをアズレン誘導体よりも先に配合することが好ましい。また、眼科用製剤が点眼剤、洗眼剤などの場合は、まず各成分を混合してから、さらに必要によりろ過滅菌処理を行い、最後に容器へと充填することにより調製できる。組成物が点眼剤である場合、より具体的には、蒸留水又は精製水及び添加剤を用いてトコフェロール酢酸エステルを溶解させ、さらにアズレン誘導体を溶解させ、所定の浸透圧及びpHに調整し、無菌環境下、ろ過滅菌処理し、洗浄滅菌済みの容器に無菌充填することにより製造できる。ここで、容器としては、とくに限定されないが、例えば、眼科用製剤など、充填した水性液剤の内容量や残量を把握したい場合もあることなどから、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂やポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂などからなる透明容器があげられる。透明容器に充填した場合、通常、アズレン誘導体が光に曝されやすく、安定性を低下させることになるが、本発明の水性液剤によればアズレン誘導体の安定性を担保することができることから、容器として透明容器を採用することが、本発明の水性液剤としての効果を発揮するのにとくに好ましい。
【0065】
2.水性液剤中アズレン誘導体の安定性を向上する方法
本発明の水性液剤中アズレン誘導体の安定性向上方法は、水性液剤中においてアズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルを共存させることを特徴とする、アズレン誘導体の水性液剤中における安定性を向上する方法である。
【0066】
本明細書において「水性液剤中においてアズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルを共存させる」とは、水性液剤中においてアズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルをともに含有させることを意味する。
【0067】
トコフェロール酢酸エステルの含有割合は特に限定されないが、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、アズレン誘導体1重量部に対して、例えばトコフェロール酢酸エステル0.1〜1000重量部が好ましく、0.1〜100重量部がより好ましく、1〜50重量部がさらに好ましい。このような範囲内でトコフェロール酢酸エステルを含有することにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0068】
本発明の水性液剤中アズレンの安定性向上方法は、さらにBHT及び陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種をアズレン誘導体と共存させてもよい。BHT又は陽イオン性界面活性剤をさらに共存させるとアズレン誘導体の安定性がより向上する。BHT及び陽イオン性界面活性剤をさらに共存させるとアズレン誘導体の安定性がさらに向上する。
【0069】
BHTの含有割合は特に限定されないが、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、アズレン誘導体1重量部に対して、例えばBHT0.001〜100重量部が好ましく、0.01〜10重量部がより好ましく、0.01〜5重量部がさらに好ましい。このような範囲内でBHTを含有することにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0070】
陽イオン性界面活性剤の含量割合は、陽イオン性界面活性剤の種類にもよるが、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、例えばアズレン誘導体1重量部に対して、例えば陽イオン性界面活性剤0.0001〜100重量部が好ましく、0.001〜50重量部がより好ましく、0.01〜10重量部がさらに好ましい。このような範囲内で陽イオン性界面活性剤を含有することにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0071】
水性液剤中アズレンの安定性を向上させるための含有成分、その他の成分、及び添加物に関する説明、並びに水性液剤そのものについての説明は本発明の水性液剤に関する発明と同様であるため省略する。
【0072】
3.水性液剤中アズレン誘導体に対する安定性向上剤
本発明の水性液剤中アズレン誘導体に対する安定性向上剤は、トコフェロール酢酸エステルを有効成分として含む、水性液剤中に存在するアズレン誘導体に対する安定性向上剤である。
【0073】
本発明の安定性向上剤は、例えば、アズレン誘導体を含有する水性液剤に対して添加することにより用いることができる。また、例えば、反対に本発明の安定性向上剤に対してアズレン誘導体を含有する水性液剤を添加することにより用いることもできる。
【0074】
本発明の安定性向上剤におけるトコフェロール酢酸エステルの含有割合は特に限定されないが、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、アズレン誘導体1重量部に対して、例えばトコフェロール酢酸エステル0.1〜1000重量部が好ましく、0.1〜100重量部がより好ましく、1〜50重量部がさらに好ましい。このような範囲内となるように本発明の安定性向上剤を用いることにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0075】
本発明の安定性向上剤は、さらにBHT及び陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有していてもよい。BHT又は陽イオン性界面活性剤をさらに含有しているとアズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。BHT及び陽イオン性界面活性剤をさらに共存させるとアズレン誘導体の安定性をさらに向上させることができる。
【0076】
本発明の安定性向上剤におけるBHTの含有割合は特に限定されないが、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、アズレン誘導体1重量部に対して、例えばBHT0.001〜100重量部が好ましく、0.01〜10重量部がより好ましく、0.01〜5重量部がさらに好ましい。このような範囲内となるように本発明の安定性向上剤を用いることにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0077】
本発明の安定性向上剤における陽イオン性界面活性剤の含量割合は、特に限定されないが、陽イオン性界面活性剤の種類にもよるものの、アズレン誘導体の安定性を向上させるという点では、例えばアズレン誘導体1重量部に対して、例えば陽イオン性界面活性剤0.0001〜100重量部が好ましく、0.001〜50重量部がより好ましく、0.01〜10重量部がさらに好ましい。このような範囲内となるように本発明の安定性向上剤を用いることにより、アズレン誘導体の安定性をより向上させることができる。
【0078】
水性液剤中アズレンの安定性を向上させるための含有成分、その他の成分、及び添加物に関する説明、並びに水性液剤そのものについての説明は本発明の水性液剤に関する発明と同様であるため省略する。
【実施例】
【0079】
以下に実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例にのみ限定されるものではない。
【0080】
1.実施例:本願発明の水性液剤の調製
表1〜4に示す組成の通り、実施例1〜27として、本願発明の水性液剤を調製した。液剤のpHはpH7.5にした。
【0081】
2.比較例:比較対照水性液剤の調製
表1及び5に示す組成の通り、比較例1〜10として、本願発明の水性液剤とは異なる水性液剤を調製した。液剤のpHはpH7.5にした。
【0082】
3−1.試験例1:各水性液剤中におけるアズレン誘導体の安定性評価(1)
[方法と結果]実施例1〜27、及び比較例1〜10として調製された水性液剤を、それぞれ苛酷試験に付した。苛酷試験開始後1ヶ月経過時にアズレンスルホン酸ナトリウムの含量を測定し、苛酷試験開始前と比べてアズレンスルホン酸ナトリウムが残存している割合を残存率(%)として算出した。残存率を表1に示す。また、比較例1における残存率を100としたときの、それぞれの水性液剤における残存率の相対値を残存率相対値として表1に示す。
【0083】
苛酷試験は、各水性液剤をポリエチレンテレフタレート製透明容器に充填、密封し、50℃の恒温槽(暗室)中で1ヶ月間静置することにより行った。アズレンスルホン酸ナトリウムの含量は、高速液体クロマトグラフィーで測定した。測定条件は以下のとおりである。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:246nm)
カラム:内径約4.6mm、長さ約15cmのステンレス管に5μm の液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんする。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:トリエチルアミン0.7mLに蒸留水900mLを加えた後、リン酸を加えてpHを7.5に調整し、更に蒸留水を加えて1000mLとした溶液にアセトニトリルを7:3の割合で加える。
【0084】
アズレンスルホン酸ナトリウムの残存率は、次の計算式に従い算出した。
残存率(%)=苛酷試験後のアズレンスルホン酸ナトリウム含量/苛酷試験前のアズレンスルホン酸ナトリウム含量×100
算出した比較例1における残存率を100としたときの、それぞれの水性液剤における残存率の相対値を残存率相対値として、以下の基準にしたがって評価した。結果は表1〜4に示す。
★:残存率相対値130以上
◎:残存率相対値115〜130未満
○:残存率相対値105〜115未満
×:残存率相対値105未満
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
【表3】

【0088】
【表4】

【0089】
アズレン誘導体に加えてトコフェロール酢酸エステルを含む実施例1〜5は、苛酷試験後におけるアズレン誘導体の残存率が、トコフェロール酢酸エステルを含まない比較例1〜4に比べてより向上していた。このことより、トコフェロール酢酸エステルを共存させることによりアズレン誘導体の安定性が向上することが明らかになった。
【0090】
また、実施例1〜5からトコフェロール酢酸エステルは濃度依存的にアズレン誘導体の安定性を向上させることが確認された。ここで、アズレン誘導体1重量部に対してトコフェロール酢酸エステルを1〜5重量部含有させた場合が、とくにトコフェロール酢酸エステルの含有量に対するアズレン誘導体の安定性向上率が高かった。
【0091】
アズレン誘導体、トコフェロール酢酸エステルに加えてBHTをさらに含む実施例6〜10は、苛酷試験後におけるアズレン誘導体の残存率が、BHTを含まない実施例1〜5に比べてより向上していた。このことより、トコフェロール酢酸エステルに加えてさらにBHTも共存させることによりトコフェロール酢酸エステルを単独で共存させた場合に比べてよりアズレン誘導体の安定性が向上することが明らかになった。
【0092】
また、実施例6〜10からBHTは濃度依存的にアズレン誘導体の安定性を向上することが確認された。ここで、アズレン誘導体1重量部に対してBHTを0.5〜1.5重量部含有させた場合が、とくにBHTの含有量に対するアズレン誘導体の安定性向上率が高かった。
【0093】
アズレン誘導体、トコフェロール酢酸エステルに加えて陽イオン性界面活性剤をさらに含む実施例11〜21は、苛酷試験後におけるアズレン誘導体の残存率が、陽イオン性界面活性剤を含まない実施例1〜5に比べてより向上していた。このことより、トコフェロール酢酸エステルに加えてさらに陽イオン性界面活性剤も共存させることによりトコフェロール酢酸エステルを単独で共存させた場合に比べてよりアズレン誘導体の安定性が向上することが明らかになった。
【0094】
また、実施例11〜21から陽イオン性界面活性剤は濃度依存的にアズレン誘導体の安定性を向上することが確認された。ここで、アズレン誘導体1重量部に対して陽イオン性界面活性剤を0.5〜2.5重量部含有させた場合が、とくに陽イオン性界面活性剤の含有量に対するアズレン誘導体の安定性向上率が高かった。
【0095】
とくに第四級アンモニウム化合物を含有させた実施例11〜18は、他の陽イオン性界面活性剤を含有させた実施例19〜21や両性界面活性剤を含有させた実施例22及び23を含有させた場合に比べてより顕著なアズレン誘導体の安定性の向上がみられることが分かった。
【0096】
3−2.試験例2:各水性液剤中におけるアズレン誘導体の安定性評価(2)
[方法と結果]比較例5〜10として調製された水性液剤を、それぞれ苛酷試験に付した。苛酷試験開始後1ヶ月経過時にアズレンスルホン酸ナトリウムの含量を測定し、苛酷試験開始前と比べてアズレンスルホン酸ナトリウムが残存している割合を残存率(%)として算出した。なお、苛酷試験、アズレンスルホン酸ナトリウムの測定などは試験例1と同様に行った。
【0097】
【表5】

【0098】
比較例5〜10は、トコフェロール酢酸エステル及びBHTの代わりに、これらとは異なる別の汎用されている抗酸化剤をアズレンスルホン酸ナトリウムとともに含有する水性液剤である。表5に示す通り、これらの抗酸化剤にはいずれもアズレン誘導体の安定性を向上させる効果は認められなかった。この結果が示す通り、アズレン誘導体の安定性を向上させるという効果は、多くの抗酸化剤の中でもトコフェロール酢酸エステル及びBHTという限られた抗酸化剤を含有させた場合に限り奏されることが明らかになった。
【0099】
4.処方例
下記表6〜11に示す処方に従い、常法により、水性液剤を調製し、無菌環境下、ろ過滅菌処理し、洗浄滅菌済みの透明容器(ポリエチレンテレフタレート)に充填し、製したところ、実施例と同様にアズレン誘導体の安定性の向上が確認された。
【0100】
【表6】

【0101】
【表7】

【0102】
【表8】

【0103】
【表9】

【0104】
【表10】

【0105】
【表11】

【0106】
【表12】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルを含有する水性液剤。
【請求項2】
さらに、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)及び陽イオン性界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項1に記載の水性液剤。
【請求項3】
さらに、多価アルコール及び低級アルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含有し、多価アルコール及び低級アルコールの含量が合計で20w/v%以下である請求項1又は2に記載の水性液剤。
【請求項4】
陽イオン性界面活性剤が、第四級アンモニウム化合物である請求項2又は3に記載の水性液剤。
【請求項5】
アズレン誘導体1重量部に対して、トコフェロール酢酸エステルを0.1〜1000重量部含有する請求項1〜4のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項6】
眼科用液剤である請求項1〜5のいずれかに記載の水性液剤。
【請求項7】
水性液剤中においてアズレン誘導体及びトコフェロール酢酸エステルを共存させることを特徴とする、アズレン誘導体の水性液剤中における安定性を向上する方法。
【請求項8】
トコフェロール酢酸エステルを有効成分として含む、水性液剤中に存在するアズレン誘導体に対する安定性向上剤。

【公開番号】特開2010−235508(P2010−235508A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−84974(P2009−84974)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】