説明

アッセイ

本発明は、糖尿病又は肥満用薬物において使用する候補薬剤を同定するための方法であって、(i)PPMホスファターゼの阻害剤候補を準備することと、(ii)PPMホスファターゼを含む第1及び第2の試料を準備することと、(iii)前記阻害剤候補を、PPMホスファターゼを含む前記第1の試料と接触させることと、(iv)前記第1及び第2の試料をPPMホスファターゼ活性についてアッセイすることとを含み、前記PPMホスファターゼが、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、及びPPM1Mからなる群から選択され、PPMホスファターゼ活性が前記第2の試料より前記第1の試料の方が低い場合、前記阻害剤候補が、糖尿病又は肥満用薬物、好ましくはII型糖尿病用薬物に使用する候補薬剤として同定される方法に関する。本発明は、PPMホスファターゼの阻害剤としてのメトホルミン及びフェンホルミンの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファターゼの作用及び阻害の分野に属し、また、糖尿病及び肥満等のグルコース代謝/調節の障害に関する。
【背景技術】
【0002】
メトホルミンは、糖尿病の治療薬として知られているビグアニド化合物である。メトホルミンの標的は未知である。メトホルミンはミトコンドリア毒素として作用し得る。
【0003】
フェンホルミンは、メトホルミンの類似体であり、ビグアニド化合物でもある。フェンホルミンは、糖尿病の治療に使用されてきた。フェンホルミンの標的は未知である。フェンホルミンは、強力なミトコンドリア毒素である。フェンホルミンは、重症の乳酸アシドーシスを含む副作用を示す。これは致命的であり得るし、致命的であった。乳酸アシドーシスのようなこれらの副作用が存在するため、世界中の大多数の地域で、糖尿病治療薬としてのフェンホルミンが使用中止された。
【0004】
AMP活性化タンパク質キナーゼは、長い間、細胞エネルギーの重要な調節因子の1つと見なされ、少なくとも2つの上流キナーゼLKB1及びCaMKKβにより活性化されることが示されている。AMPKの脱リン酸化の原因であるタンパク質ホスファターゼは、細菌で発現されたPP2CαがAMPKのリン酸化状態を低減できた事実、AMPにより阻害された効果、並びにオカダ酸不感受性に関するデータから、PPMファミリータンパク質ホスファターゼのメンバーであると考えられた。
【0005】
タンパク質ホスファターゼのPPMファミリーのメンバーが多数特定されたが、AMPK脱リン酸化の原因であるPPMファミリーメンバー(複数可)の同一性は、当技術分野において未知のままである。抗糖尿病薬メトホルミンは、その触媒性Tループ残基であるThr172のリン酸化を強めることによりAMPKを活性化することが、多くの研究で示されている。メトホルミンは、AMPKの活性化を介して肝性グルコース産生を減少させ、グルコース利用を増加させるが、メトホルミンがAMPKを活性化する機序は未知である。
【0006】
Koh et al(2002 Current Biology vol 12 pp317-321)には、p21活性化キナーゼPAKが、POPX1及びPOPX2、即ちPP2Cファミリーの1対のセリン/トレオニンホスファターゼにより、負に調節されることが開示されている。
【0007】
国際公開第2006/091701号パンフレットには、生存若しくはデスキナーゼ又は生存若しくはデスホスファターゼを用いて細胞死を調節するための方法及び組成物が開示されている。本明細書は、アポトーシスの制御に何らかの役割を果たす場合に細胞死又は細胞生存を調節できる可能性のある代替キナーゼ及びホスファターゼの非常に大きな一覧を提示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2006/091701号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Koh et al(2002 Current Biology vol. 12 pp317-321)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術に伴う問題の克服を探求する。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、ホスファターゼ活性に対するビグアニド化合物の驚くべき効果を発見した。具体的には、糖尿病(II型糖尿病のような)及び肥満の治療に一般的に使用されるビグアニド化合物が、実際にタンパク質ホスファターゼ活性の阻害剤であることが示された。
【0012】
特に、本発明者らは、PPM型ホスファターゼとして影響を受けるホスファターゼのクラスを明確に定義し、それらの活性のどれが阻害されるかをこの酵素のファミリー内で特定した。
【0013】
したがって、本発明者らは、タンパク質ホスファターゼ、特にある種のPPMホスファターゼが、治療介入の核心であることを初めて開示する。
【0014】
本発明はこれらの予想外の知見に基づく。
【0015】
したがって広範な態様では、本発明は、タンパク質ホスファターゼ活性の阻害剤としてのビグアニド化合物の使用に関する。
【0016】
別の広範な態様では、本発明は、糖尿病及び/又は肥満等のグルコース調節障害の治療又は予防における、ホスファターゼ阻害剤、特にPPMホスファターゼ阻害剤の使用に関する。
【0017】
1つの態様では、本発明は、糖尿病又は肥満用薬物において使用する候補薬剤を特定するための方法であって、前記方法が、
(i)PPMホスファターゼの阻害剤候補を準備することと、
(ii)PPMホスファターゼを含む第1及び第2の試料を準備することと、
(iii)前記阻害剤候補を、PPMホスファターゼを含む前記第1の試料と接触させることと、
(iv)前記第1及び第2の試料をPPMホスファターゼ活性についてアッセイすることとを含み、
前記PPMホスファターゼ活性が前記第2の試料より前記第1の試料の方が低い場合、前記阻害剤候補が糖尿病又は肥満用薬物において使用する候補薬剤であると同定される方法に関する。
【0018】
好ましくは、ホスファターゼは、PPM BIGi(ビグアニド阻害)ファミリーメンバーである。好ましくは、ホスファターゼは、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、PHLPP、又はPHLPP2遺伝子によりコードされる。好ましくは、ホスファターゼは、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、又はPPM1L遺伝子によりコードされる。好ましくは、PPMホスファターゼはPPM1E及び/又はPPM1Fであり、好ましくは、PPMホスファターゼはPPM1Eである。
【0019】
本明細書中で使用される場合、「薬剤」又は「阻害剤候補」という用語は、単一の物質であってよく、又は物質の組合せであってよい。薬剤は、有機化合物又は他の化学薬品であってよい。薬剤は、天然か又は人工かにかかわらず、任意の好適な供給源から取得可能であるか又は任意の好適な供給源により産生された化合物であってよい。薬剤は、アミノ酸分子、ポリペプチド、若しくはその化学的誘導体、又はその組合せであってよい。薬剤は、さらにポリヌクレオチド分子であってよく、それはセンス又はアンチセンス分子であってよい。薬剤は、さらに抗体であってよい。薬剤は、低分子量有機分子のような他の化合物だけでなく、ペプチドも含み得る化合物のライブラリーから設計又は取得できる。
【0020】
PPMホスファターゼ活性のアッセイを本明細書中で詳述し、好適なアッセイ形式の例は、特に実施例2において提供する。
【0021】
試料は、PPMホスファターゼを含む任意の好適な試料であってよい。これは、組換え酵素の試料であってよく、又は精製された酵素の試料であってよく、又はPPMホスファターゼを含む簡単な抽出物若しくは溶解物であってよい。明らかに、試料は活性PPMタンパク質ホスファターゼ/PPMタンパク質ホスファターゼ活性を含むことが重要であり、そうでなければ、阻害効果を有しない薬剤と阻害効果を有する薬剤とを識別することは可能ではないだろう。これは、本明細書中に記載のように、リン光体−カゼインアッセイのようなアッセイを使用して容易に検証できる。
【0022】
好ましくは、障害は、糖尿病、より好ましくはII型糖尿病である。
【0023】
好ましくは前記阻害剤候補はビグアニドであり、好ましくは前記阻害剤候補はメトホルミン又はフェンホルミンの類似体又は誘導体である。
【0024】
別の態様では、本発明は、PPM型タンパク質ホスファターゼの阻害におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用を提供する。
【0025】
好ましくは、PPM型タンパク質ホスファターゼは、本明細書中に示されたPPMホスファターゼの特徴の1又は複数、好ましくは2以上、好ましくは3以上、好ましくは4以上、好ましくは本明細書中に示されたPPMホスファターゼの特徴の全てを有する。好ましくは、前記PPM型タンパク質ホスファターゼは、PPM1E又はPPM1Fである。
【0026】
別の態様では、本発明は、PPMホスファターゼの阻害に使用するメトホルミン又はフェンホルミンを提供する。
【0027】
別の態様では、本発明は、PPMホスファターゼ阻害剤として使用する組成物におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用を提供する。さらに、本発明は、PPMホスファターゼ阻害剤として使用する組成物の製造におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用を提供する。
【0028】
別の態様では、本発明は、AMPKのリン酸化の亢進又は維持におけるフェンホルミン又はその類似体の使用を提供する。
【0029】
別の態様では、本発明は、AMPKの脱リン酸化におけるPPM1E又はPPM1Fの使用を提供する。
【0030】
別の態様では、本発明は、p21活性化キナーゼ(PAK、p21-activated kinase)の活性化におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用を提供する。
【0031】
別の態様では、本発明は、Ca2+/カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII、Ca2+/Calmodulin dependent kinase II)の脱リン酸化の阻害におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用を提供する。
【0032】
別の態様では、本発明は、上述の方法により、薬物として使用するために同定された薬剤を提供する。
【0033】
別の態様では、本発明は、糖尿病又は肥満用薬物を製造するための、上述の方法により同定された薬剤の使用を提供する。
【0034】
別の態様では、本発明は、糖尿病又は肥満の治療に使用する、上述の方法により薬剤された薬剤を提供する。
【0035】
別の態様では、本発明は、糖尿病若しくは肥満を治療又は予防するための方法であって、上述された薬物を含有する組成物を対象に投与することを含み、前記薬物がメトホルミン又はフェンホルミンを含まない方法を提供する。
【0036】
別の態様では、本発明は、対象のPPMホスファターゼを阻害することを含む、糖尿病若しくは肥満を治療又は予防するための方法を提供する。好ましくは、前記PPMホスファターゼは、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、PPM1M、PHLPP、及びPHLPP2からなる群から選択される。好ましくは、前記PPMホスファターゼは、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、又はPPM1Mからなる群から選択される。好ましくは、前記PPMホスファターゼは、PPM1E及び/又はPPM1Fである。好ましくは、そのような阻害は、メトホルミン又はフェンホルミンによってではない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】未処理か又は10mMフェンホルミンで1時間処理されたかいずれかのHEK293細胞におけるI型タンパク質ホスファターゼの分析を示す図である。A:4つの未処理試料及び4つの処理済試料のThr172におけるAMPKのリン酸化レベル。負荷対照(loading control)として抗PP5TPRドメイン抗体を使用する。分子量(kDa)をパネルの左側に示す。B:4nMオカダ酸の存在下でホスホリラーゼaを基質として使用した、処理済及び未処理のHEK293細胞溶解物中のPP1ホスホリラーゼホスファターゼの活性。データは、三重反復で測定された4つの試料の平均±SEMである。C:200nMI−2の存在下でホスホリラーゼaを基質として使用した、処理済及び未処理のHEK293細胞溶解物中のPP2Aホスホリラーゼホスファターゼの活性。データは、三重反復で測定された4つの試料の平均±SEMである。
【図2】未処理か又は10mMフェンホルミンで1時間処理されたかのいずれかであるセル溶解物中のMg2+依存性でオカダ酸抵抗性のホスファターゼ(PPMホスファターゼ)活性を示す図である。A:10mMMgAc及び5μMオカダ酸の存在下でカゼインを基質として使用した、処理済及び未処理のHEK293細胞溶解物中のPPMホスファターゼの活性。データは、二重反復で測定された5つの独立した試料の平均±SEMである。(p<0.001)。B:10mMMgAc及び5μMオカダ酸の存在下でカゼインを基質として使用した、処理済及び未処理のヒーラ細胞溶解物中のPPMホスファターゼの活性。データは、二重反復で測定された5つの独立した試料の平均±SEMである。(p<0.001)。
【図3】カゼインを基質として使用した、1mMフェンホルミンでの事前インキュベーション後の組換えPPMホスファターゼの活性を示す図である。細菌で発現されたPPMホスファターゼを、10mMMgAc及び5μMオカダ酸の存在下で32Pカゼインを基質として使用して実施されるアッセイに先立って、1mMフェンホルミンと共に又はフェンホルミンなしで15分間インキュベートした。アッセイは三重反復で実施した。
【図4】未処理か又はフェンホルミンで処理されたかいずれかのHEK293細胞におけるPPMホスファターゼのレベルを示す図である。未処理か又は10mMフェンホルミンで1時間処理されたかいずれかのHEK293細胞溶解物のイムノブロッティング。指定のPPM酵素に対して誘発された抗体を使用して、細胞溶解物をイムノブロッティングした。2つの代表的な試料を各処理について示す。予測分子量をkDaで括弧内に示す。マーカータンパク質の分子量をkDaでパネルの左側に示す。
【図5】FPLCによる分離後の、処理済及び未処理のHEK293細胞溶解産物からのPPMホスファターゼの活性を示す図である。対照由来の溶解物、又はフェンホルミン処理済のHEK293細胞由来の溶解物を、0.45及び0.22μmのフィルターを介してろ過し、HiTrap脱塩カラムを使用して脱塩した。HR5/5 Source 15-Qカラムを使用して、それらの正味電荷によりタンパク質を分離した。画分のタンパク濃度を分析し、10mMMgAc及び5μMオカダ酸の存在下で32P標識カゼインを基質として使用して、各画分中のPP2Cホスファターゼの活性を測定した。
【図6】未処理か又はフェンホルミンで処理されたかいずれかのHEK293細胞におけるPPMホスファターゼの活性を示す図である。未処理か又は10mMフェンホルミンで1時間処理されたかのいずれかであるHEK293細胞溶解物中のPPMホスファターゼの活性。個々のアイソフォームを対照又はフェンホルミン処理済の細胞溶解物から免疫沈降し、10mMMgAc及び5μMオカダ酸の存在下で32P標識カゼインを基質として使用して、活性を測定した。データは、三重反復で実施されたアッセイの平均活性である。
【図7】PPM1E及びPPM1Fのドメイン構造を示す図である。保存された領域を斜線区域で示し、黒色ボックスは、全ファミリーメンバーで保存されているPP2Cの特徴的モチーフ(YFAVFDGHG)を表し、灰色ボックスは、PPM1には見られない酸性残基のクラスターを示す。
【図8】PPMホスファターゼがFPLCカラムから溶出する塩濃度の表を示す図である。HEK293細胞溶解物をFPLCにより分離した後で、収集された画分に対してイムノブロッティングを実施した。各酵素が溶出する近似塩濃度は、検出されたバンドのkDaでの予測分子量及び観測分子量と一緒に示されている。
【図9】未処理か又はフェンホルミンで処理されたかいずれかのHEK293細胞中のPPMホスファターゼ活性を表す棒グラフを示す図である(図6に表された絶対値データの%尺度)。
【図10】棒グラフを示す図である。
【図11】ウエスタンブロットの写真を示す。
【図12】ウエスタンブロットの写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
メトホルミンは、その作用機序は不明であるが、2型糖尿病の治療に使用される主要薬剤の1つであり、AMPKの活性を増加させる。AMPKは、通常は、AMPレベルの増加に応答して、αサブユニットの触媒部位内のトレオニン残基のリン酸化により活性化される。メトホルミン類似体であるフェンホルミンと共にHEK293及びヒーラ細胞をインキュベートした後でタンパク質ホスファターゼ活性を検査すると、マグネシウムイオン依存性でオカダ酸抵抗性のカゼインホスファターゼ活性が、フェンホルミン又はメトホルミンに応答して約20%減少したことが明らかになった。さらなる研究により、2つの密接に関連したPPMファミリータンパク質ホスファターゼ、PPM1E及びPPM1Fの活性が、HEK293細胞をフェンホルミンと共にインキュベートした後で阻害されたことが示され、それらがフェンホルミンにより直接的及び/又は間接的に標的とされ、AMPK活性の増加に繋がり得ることが明らかになった。本発明はこれらの予想外の知見に基づく。
【0039】
「薬剤」又は「阻害剤候補」という用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有し、有機若しくは無機化合物又はその混合物のような任意の化学物質を指すことができる。好ましくは、前記薬剤は低分子量化学物質であってよい。好ましくは、物質は、生体高分子、例えば核酸又はポリペプチドのような高分子であってよい。例としては、前記薬剤は、天然物質、生体高分子、又は細菌、真菌、若しくは動物(特に哺乳類)の細胞若しくは組織のような生体材料から作製された抽出物、有機若しくは無機分子、合成薬剤、半合成薬剤、構造的若しくは機能的模倣剤、ペプチド、ペプチド模倣剤、誘導体化薬剤、全タンパク質から切断されたペプチド、又は人工的に合成されたペプチド(例としては、ペプチド合成機を使用するか、又は組換え技術によるか、又はその組合せによるかのいずれかの、組換え薬剤、抗体、天然若しくは非天然薬剤、融合タンパク質、又はその等価物、及びその変異体、誘導体、又はその組合せなど)である。典型的には、前記薬剤は有機化合物であろう。好ましい薬剤は水溶性である。好ましくは、本発明の薬剤は、メトホルミン類似体又はフェンホルミン類似体である。好ましくは、本発明の薬剤は、細胞内への輸送手段を備えており、ミトコンドリア内への輸送手段を備えていてよい。より好ましくは、本発明の薬剤はミトコンドリアから排除される。
【0040】
[メトホルミン/フェンホルミン/類似体]
好ましくは、本発明によるPPM阻害剤はビグアニド化合物である。例としては、メトホルミン、フェンホルミン、又はブホルミンが含まれる。
【0041】
好ましくは、本発明によるPPM阻害剤は、メトホルミン若しくはその類似体、又はフェンホルミン若しくはその類似体を含む。
【0042】
メトホルミンの類似体には、そのPPMホスファターゼ阻害活性のため本発明の好ましい化合物であるフェンホルミンが含まれる。
【0043】
フェンホルミンは、フェニルエチルビグアニドである。フェンホルミンは、メトホルミンの特性に類似した特性を有するビグアニド血糖降下剤である。フェンホルミンは、多数の管轄範囲において、致死的であることが多い乳酸アシドーシスが許容できない高率で発生することと関連すると見なされていることに留意しなければならない。したがって好ましくは、フェンホルミンは、ヒト又は動物対象に投与されない。したがって本発明の医療応用の場合、好ましくは、PPMホスファターゼ阻害剤はフェンホルミンではない。
【0044】
メトホルミン(C11)とは、1−(ジアミノメチリデン)−3,3−ジメチル−グアニジンである。メトホルミンは、ビグアニドクラスに由来する抗糖尿病薬である。メトホルミンは、Glucophage、Diabex、Diaformin、Fortamet、Riomet、及びGlumetza等の商品名で広く入手可能である。メトホルミンは、そのPPMホスファターゼ阻害活性、及びそのより低い毒性のため、本発明の好ましい化合物である。
【0045】
[化学誘導体]
本発明は、化合物の誘導体、特にメトホルミン及び/又はフェンホルミンの誘導体にも関する。本明細書中で使用される場合、「誘導体」という用語は、薬剤の化学的修飾を含む。そのような化学的修飾の実例は、ハロ基、アルキル基、アシル基、又はアミノ基による水素の置換であろう。
【0046】
[塩/エステル]
本発明の化合物は、塩又はエステル、特に薬学的に許容される塩又はエステルとして存在することができる。
【0047】
本発明の化合物の薬学的に許容される塩には、好適なその酸付加塩又はその塩基塩が含まれる。好適な薬学的塩の総説は、Berge et al, J Pharm Sci, 66, 1-19 (1977)に見出すことができる。塩は、例えば、鉱酸、例えば硫酸、リン酸、若しくはハロゲン化水素酸のような無機強酸;酢酸のような、置換されていない若しくは置換されている(例えばハロゲンにより)1〜4個の炭素原子のアルカンカルボン酸のような強有機カルボン酸;飽和若しくは不飽和のジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、若しくはテトラフタル酸;ヒドロキシカルボン酸、例えばアスコルビン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、若しくはクエン酸;アミノ酸、例えばアスパラギン酸若しくはグルタミン酸;安息香酸;又はメタンスルフォン酸若しくはp−トルエンスルフォン酸のような、置換されていない若しくは置換されている(例えばハロゲンにより)(C−C)−アルキル若しくはアリールスルホン酸などの有機硫酸と形成される。
【0048】
エステルは、エステル化される官能基に依存して、有機酸又はアルコール/水酸化物のいずれかを使用して形成される。有機酸には、酢酸のような、置換されていない若しくは置換されている(例えばハロゲンにより)1〜12個の炭素原子のアルカンカルボン酸のようなカルボン酸;飽和若しくは不飽和のジカルボン酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、若しくはテトラフマル酸;ヒドロキシカルボン酸、例えばアスコルビン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、若しくはクエン酸;アミノ酸、例えばアスパラギン酸若しくはグルタミン酸;安息香酸;又はメタンスルフォン酸若しくはp−トルエンスルフォン酸のような、置換されていない若しくは置換されている(例えばハロゲンにより)(C〜C)−アルキル若しくはアリールスルホン酸などの有機硫酸が含まれる。好適な水酸化物には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムのような無機水酸化物が含まれる。アルコールには、例えばハロゲンにより置換されていない又は置換されている1〜12個の炭素原子のアルカンアルコールが含まれる。
【0049】
[鏡像異性体/互変異性体]
全ての態様において、本発明は、適切な場合には、本発明の化合物の全ての鏡像異性体及び互変異性体を含む。当業者であれば、光学的性質(1又は複数のキラル炭素原子)又は互変異性特徴を有する化合物を認識しよう。対応する鏡像異性体及び/又は互変異性体は、当技術分野で公知の方法により単離/調製できる。
【0050】
[立体異性体及び幾何異性体]
本発明の化合物の幾つかは、立体異性体及び/又は幾何異性体として存在してよく、例えばそれらは1又は複数の不斉中心及び/又は幾何学的な中心を有してよく、したがって2つ以上の立体異性形態及び/又は幾何学的形態が存在してよい。本発明は、それらの阻害薬剤の個々の立体異性体及び幾何異性体の全て、及びその混合物の使用を企図している。これらの形態が適切な機能的活性(必ずしも同程度とは限らないが)を保持する場合、特許請求の範囲で使用された用語は、前記形態を包含する。
【0051】
本発明は、薬剤はその薬学的に許容される塩の全ての好適な同位体変異も含む。本発明の薬剤又はその薬学的に許容される塩の同位体変異とは、少なくとも1つの原子が、同一の原子番号を有するが自然界において通常見出される原子質量とは異なる原子質量を有する原子に置換されたものとして定義される。薬剤及びその薬学的に許容される塩に組み込むことができる同位体の例には、H、H、13C、14C、15N、17O、18O、31P、32P、35S、18F、及び36Clのような、それぞれ水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素、及び塩素の同位体を含む。薬剤及びその薬学的に許容される塩のある種の同位体変異、例えば、H又はCのような放射性同位体が組み込まれたものは、薬剤及び/又は基質の組織分布研究に有用である。トリチウム化、つまりH同位体、及び炭素14、つまり14C同位体は、それらの調製及び検出性が容易なため特に好ましい。さらに、重水素、つまりHのような同位体との置換は、より大きな代謝安定性に起因するある種の治療上の利点、例えばインビボ半減期の増加又は必要用量の低減を提供することができ、したがって幾つかの状況で好ましいことがある。本発明の薬剤及び本発明のその薬学的に許容される塩の同位体変異は、好適な試薬の適切な同位体変異を使用して、従来の手順により一般的に調製できる。
【0052】
[溶媒和物]
本発明は、本発明の化合物の溶媒和物形態の使用も含む。特許請求の範囲で使用された用語はこれらの形態を包含する。
【0053】
[多形体]
本発明は、さらに、種々の結晶形態、多形形態、及び(無水)含水形態の本発明の化合物に関する。化学化合物は、そのような化合物の合成調製で使用される溶剤からの精製及び/又は単離の方法をわずかに変えることにより、そのような形態のいずれにも単離できることが、医薬品産業内で十分に確立されている。
【0054】
[プロドラッグ]
本発明は、プロドラッグ形態の本発明の化合物をさらに含む。そのようなプロドラッグは、一般的に、ヒト又は哺乳類の対象への投与に際して修飾が元に戻り得るように、1又は複数の適切な基が修飾された本発明の化合物である。インビボでの転換を実施するために、そのようなプロドラッグと一緒に第2の薬剤を投与することは可能であるが、そのような転換は、通常、そのような対象に本来的に存在する酵素によって実施される。そのような修飾の例には、エステル(例えば上述したもののいずれか)が含まれ、転換はエステラーゼなどにより実行できる。他のそのような系は当業者には周知であろう。
【0055】
[PPMファミリーのタンパク質ホスファターゼ]
PPMファミリーのタンパク質ホスファターゼは、一群のセリン/トレオニンホスファターゼを含み、それらの多くは、活性をMg2+又はMn2+に依存する。PPPとPPMファミリータンパク質ホスファターゼとの間には配列同一性が存在しないが、それらは著しく類似した三次元構造及び触媒機序を有する。PPMファミリーのタンパク質ホスファターゼは、少なくとも16のメンバーを含む(PPMをコードする16の遺伝子;幾つかは選択的にスプライスされて様々なタンパク質変異体(例えばB1及びB2)を産生する)。これらのタンパク質ホスファターゼは、構造的にはむしろ分岐にわたるが、非常に類似した触媒機序で機能する。慣習に従って、タンパク質名及び遺伝子名は、例えば下記に示すように異なることがある(例えば、PPM1E遺伝子はPOPX1タンパク質をコードする)。しかしながら、タンパク質が遺伝子名により参照される場合、これは前記遺伝子によりコードされたホスファターゼを指すと了解されよう(例えば、「PPM1Eホスファターゼ」は、PPM1E遺伝子によりコードされたホスファターゼ、つまりPOPX1タンパク質を指す)。
【0056】
PPM1A
PP2Cαとも呼ばれるPPM1Aは、2つのアイソフォーム、PP2Cα1(PPM1A1)及びPP2Cα2(PPM1A2)からなり、それらは、それぞれ42及び36kDaの分子量を有し、それらの両方が単量体として存在する。PP2Cαは、大腸菌(E.Coli)で最初に発現され、組換えPP2Cαが、インビトロでAMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK、AMP-activated protein kinase)を脱リン酸化できたことが見出された。この脱リン酸化事象は、毒素であるオカダ酸に感受性がなく、Mg2+の必要性を示した。さらに、PP2Cαは、脂肪細胞のPI3キナーゼ活性の直接的活性化を介したインスリン感受性の正の調節因子であることが示され、p38MAPKと同様に、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ(MAPKK、mitogen-activated protein kinase kinase)の脱リン酸化及び不活性化を介したストレス応答経路の負の調節因子として示唆されている。細胞をストレスで刺激すると、p38及びPP2Cα間の直接的相互作用が検出できた。
【0057】
PPM1B
PP2Cβとも呼ばれるPPM1Bは、それぞれ43及び53kDaの分子量を有する、少なくとも2つのアイソフォーム、PP2Cβ1(PPM1B1)及びPP2Cβ2(PPM1B2)からなり、PP2Cαのように、これらの酵素は単量体として存在する。PP2Cβは、p38の脱リン酸化を介したストレス応答経路の負の調節因子であることが示され、TAK1、即ちJNK及びMAPK経路の活性化に関与する酵素の脱リン酸化にも関与している。PP2Cβは、サイクリン依存性ホスファターゼの脱リン酸化に役割を果たすことが示された。
【0058】
PPM1G
PP2Cγ又はFIN13とも呼ばれるPPM1Gは、G/S期で細胞周期停止を引き起こすことにより、細胞増殖を負に調節できることが示された、分子量59kDaの融合コラーゲン相同ドメインを含有する単量体タンパク質ホスファターゼである。PPM1Gは、成体組織では、主として精巣で発現されるが、増殖を起こしている多数の組織で高度に発現される。これらの組織には、発生中の胚、妊娠中の子宮、胎盤、及びジエチルスチルベストロール(DES、diethylstilbestrol)で濾胞形成を刺激した後の性的に未熟なマウスの卵巣中が含まれる。PPM1Gは、C末端核局在化シグナルを有し、PP2Cγが主として塩基性タンパク質に対する優先性を有すると考えられるため、基質特異性の付与に関与すると思われる大型の内部酸性ドメインを有する点で、PPMファミリーの他のメンバーと異なる。PPM1Gは、カルシウムにより阻害されることが示されているが、マイクロモルの高い濃度が阻害に必要なため、これが調節の様式である可能性は少ない。PPM1Gは、スプライセオソームの組立てと結びつけられ、mRNA前躯体スプライシング因子の構成要素と相互作用することが示されている。
【0059】
ILKAP
PP2Cδとも呼ばれるILKAP(Integrin-linked kinase 1-associated phosphatase、インテグリン結合キナーゼ1関連ホスファターゼの略)は、分子量43kDaの単量体タンパク質であり、インテグリン結合キナーゼ1(ILK1、integrin-linked kinase 1)で誘引された酵母ツーハイブリッドスクリーニング(yeast two-hybrid screen)で特定された。触媒的に不活性なILKAPの突然変異体ではないILKAPは、インスリン様増殖因子1で刺激されたGSK3βのSer9におけるリン酸化を強く阻害したが、Ser473におけるPKBのリン酸化には影響を及ぼさず、したがってILKAPはILK媒介性GSK3βシグナル伝達に選択的に影響を及ぼすことを示唆した。さらに、前立腺癌LNCaP細胞の足場非依存性増殖はILKAPにより阻害され、細胞形質転換の抑制におけるILKAPの重大な役割、及びILKAPが腫瘍化形質転換の阻害において重要な役割を果たすことを示唆する。
【0060】
PPM1D
Wip1(wildtype p53-induced phosphatase 1、野性型p53誘導ホスファターゼ1の略)とも呼ばれるPPM1Dは、66kDaの分子量を有する単量体タンパク質であり、p53標的遺伝子のスクリーニングにおいて最初に特定された。その発現は、電離放射線によりp53依存的様式で迅速に誘導されることが示され、p53が、PPM1D誘導を介した細胞周期抑制活性の一部分を媒介し得ることが示唆された。Wip1プロモーター領域は、従来のp53応答エレメントのいずれをも含有しないが、その代わり、NF−κB、E2F、c−Jun、及びATF/CREBファミリーのメンバーを含む転写因子の潜在的結合部位を含有する。他のPP2Cファミリーメンバーのように、PPM1Dは、p38MAPKファミリーのメンバーを脱リン酸化することができる。PPM1Dは、UV照射により損傷を受けた細胞の回復期中に、p38−p53シグナル伝達を下流調節することに役割を有する。さらに、PPM1Dは、アニソマイシン、過酸化水素、及びメチルメタンスルホン酸のような他の環境ストレスによっても誘導される。PPM1DのUV誘導の場合、p38活性がp53と同様に必要であり、PPM1Dは、その保存されたトレオニン残基における脱リン酸化によりp38を不活性化する一方で、p38によりリン酸化されると報告されたそれらの残基におけるUV誘導性p53リン酸化を減少させる。PPM1D発現は、UV照射に応答したp53媒介性の転写及びアポトーシスの両方も抑制する。
【0061】
PPM1E及びPPM1F
POPX1とも呼ばれるPPM1Eは、融合PAK相互作用性グアニンヌクレオチド交換因子(PIX、PAK-interacting guanine nucleotide exchange factor)結合ドメインを含有する83kDaの単量体タンパク質であり、PAKの負の調節に関与すると示唆されている。PPM1Eは、PIXを誘引物質として使用したツーハイブリッドスクリーニングで、PIXと相互作用するタンパク質であると特定された。POPX2とも呼ばれるPPM1Fは同じスクリーニングで特定され、2つは、コアホスファターゼドメイン及び相同性フランキング配列で66%の類似性を示す。PPM1E及びPPM1Fの両方は、アクチン張力線維の分解を阻害する能力、及び活性cdc42により推進される形態学的変化を阻害する能力を有するだけでなく、p21(cdc42/Rac)活性化キナーゼ(PAK)を脱リン酸化及び不活性化することが示されており、PPM1Fは、CaMKIIPase又はhFEM2としても知られており、その自己リン酸化部位、Thr286におけるCa2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼIIの脱リン酸化の原因である主要ホスファターゼであることが示されている。PPM1Fがインビトロで直接的にCaMKIIと相互作用することが示されてり、PPM1Fがその調節に重要な役割を果たすことが示唆されている。
【0062】
PDPC1及びPDPC2
PDPC1(ピルビン酸デヒドロゲナーゼホスファターゼ複合体1、Pyruvate Dehydrogenase Phosphatase Complex 1)及びPDPC2は、それぞれ61及び60kDaの分子量を有するヘテロ二量体タンパク質であり、糸粒体基質空間内に在留する少数の哺乳類ホスファターゼのうちの2つである。PDPC1はCa2+に応答して活性化されることが示されている一方で、PDPC2は、Ca2+不感受性であるが、PDPC1に効果を示さない生物学的なポリアミン、スペルミンに感受性であることが示されている。ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体は、3つの触媒構成要素:ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(E1)、ジヒドロリポアミドトランスアセチラーゼ(E2)、及びジヒドロリポアミドデヒドロゲナーゼ(E3)から構成される大きな多酵素複合体である。複合体は、30サブユニットのE1及び6〜12のE3サブユニットが結合された60のE2サブユニットのコア周辺に構築される。複合体は、E1構成要素の3つのセリン残基におけるリン酸化により不活性化され、PDPCアイソフォームによる脱リン酸化により再活性化される。ミトコンドリアにおいては、キナーゼ及びホスファターゼは両方とも、構成的に活性であり、これが不活性状態のPDCの割合を決定する。PDPC1活性及びPDPC2活性の調節は、明らかに非常に厳重に制御されなければならず、最近の研究では、飢餓及び糖尿病が心臓及び腎臓のPDPレベルを減少させることが示唆されている。興味深いことには、インスリンでの治療はPDPC2レベルを増加させることが示され、インスリンがピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の長期的調節に役割を果たし得るという事実を示唆している。
【0063】
PHLPP
PHLPP(PH-domain leucine-rich protein phosphatase、PHドメインロイシンリッチタンパク質ホスファターゼの略)は、PHドメインに結合されたタンパク質ホスファターゼのヒトゲノムスクリーニングで特定された、PKBのThr473を脱リン酸化する、約140kDaの新規なホスファターゼである。PKBの脱リン酸化におけるその役割と一致して、多数の結腸癌及び膠芽腫の細胞系はPHLPPレベルを減少させ、これらの細胞系へのPHLPPの再導入はそれらの成長速度を減少させる。したがって、PHLPPは、アポトーシスの促進及び腫瘍増殖の抑制において役割を有する。PHLPPの第2のアイソフォームは、ヒトゲノムにコードされている。PHLPP及びPHLPP2は、PKBとの結合によりあまり興味深いものではなく、したがって好適には、本発明のホスファターゼはPHLPP又はPHLPP2ではない。
【0064】
PPM1K
PPM1Kは、NP_689755、ENSP00000295908、ENSP00000324761、Q56AN8、Q8IUZ7、Q49AB5といった識別番号で、NCBI及びEBIデータベースにおいて近年特定及び提出されている、PPMセリン/トレオニンタンパク質ホスファターゼファミリーメンバーである。
【0065】
要約すると、フェンホルミン/メトホルミンにより阻害されないPPMには、PPM1A、PPM1B(B1及びB2)、PPM1G、ILKAP、PPM1D、NERPP−2C、PDPC1、及びPDPC2が含まれる。
【0066】
好ましくは、PPMは、PPM BIGi(ビグアニド阻害)ファミリーメンバーである。BIGiファミリーには、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、PHLPP、及びPHLPP2遺伝子によりコードされたホスファターゼ、並びに本明細書中に開示されたようにアッセイされた、メトホルミン及び/又はフェンホルミンのようなビグアニドにより阻害される任意の他のホスファターゼが含まれる。好ましくは、PPMホスファターゼは、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、PPM1M、PHLPP、及びPHLPP2からなる群から選択されるか、好ましくはPPMホスファターゼは、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、及びPPM1Mからなる群から選択されるか、又はそこから選択された1若しくは複数のホスファターゼの組合せであり、好ましくはPPMホスファターゼはPPM1E又はPPM1Fであり、好ましくはPPMホスファターゼはPPM1Eである。
【0067】
【表1】

【0068】
PPMホスファターゼの好ましい特徴を提示する。
【0069】
好ましくは、PPMホスファターゼは、マグネシウム(Mg2+)又はマンガン(Mn2+)依存性ホスファターゼであり、好ましくはマンガン依存性である。
【0070】
好ましくは、PPMホスファターゼはオカダ酸抵抗性である。
【0071】
好ましくは、PPMホスファターゼは、カゼイン(例えばホスホ−カゼイン)ホスファターゼ活性を有する。
【0072】
好ましくは、PPMホスファターゼはPIX結合ドメインを含む。
【0073】
好ましくは、PPMホスファターゼは、PPM1F若しくはPPM1E、又はその混合物である。
【0074】
好ましくは、PPMホスファターゼはPPM1Eである。
【0075】
好ましくは、PPMホスファターゼは、以下から選択されるアミノ酸配列を有する。
PPM1E.NP_055721
MAGCIPEEKTYRRFLELFLGEFRGPCGGGEPEPEPEPEPEPEPEPESEPE
PEPELVEAEAAEASVEEPGEEAATVAATEEGDQEQDPEPEEEAAVEGEEE
EEGAATAAAAPGHSAVPPPPPQLPPLPPLPRPLSERITPRPLSERITREE
VEGESLDLCLQQLYKYNCPSFLAAALARATSDEVLQSDLSAHYIPKETDG
TEGTVEIETVKLARSVFSKLHEICCSWVKDFPLRRRPQLYYETSIHAIKN
MRRKMEDKHVCIPDFNMLFNLEDQEEQAYFAVFDGHGGVDAAIYASIHLH
VNLVRQEMFPHDPAEALCRAFRVTDERFVQKAARESLRCGTTGVVTFIRG
NMLHVAWVGDSQVMLVRKGQAVELMKPHKPDREDEKQRIEALGGCIVWFG
AWRVNGSLSVSRAIGDAEHKPYICGDADSASTVLDGTEDYLILACDGFYD
TVNPDEAVKVVSDHLKENNGDSSMVAHKLVASARDAGSSDNITVIVVFLR
DMNKAVNVSEESDWTENSFQGGQEDGGDDKENHGECKRPWPQHQCSAPAD
LGYDGRVDSFTDRTSLSPGSQINVLEDPGYLDLTQIEASKPHSAQFLLPV
EMFGPGAPKKANLINELMMEKKSVQSSLPEWSGAGEFPTAFNLGSTGEQI
YRMQSLSPVCSGLENEQFKSPGNRVSRLSHLRHHYSKKWHRFRFNPKFYS
FLSAQEPSHKIGTSLSSLTGSGKRNRIRSSLPWRQNSWKGYSENMRKLRK
THDIPCPDLPWSYKIE
PPM1E.ENSP00000312411
MAGCIPEEKTYRRFLELFLGEFRGPCGGGEPEPEPEPEPEPEPESEPEPE
PELVEAEAAEASVEEPGEEAATVAATEEGDQEQDPEPEEEAAVEGEEEEE
GAATAAAAPGHSAVPPPPPQLPPLPPLPRPLSERITREEVEGESLDLCLQ
QLYKYNCPSFLAAALARATSDEVLQSDLSAHYIPKETDGTEGTVEIETVK
LARSVFSKLHEICCSWVKDFPLRRRPQLYYETSIHAIKNMRRKMEDKHVC
IPDFNMLFNLEDQEEQAYFAVFDGHGGVDAAIYASIHLHVNLVRQEMFPH
DPAEALCRAFRVTDERFVQKAARESLRCGTTGVVTFIRGNMLHVAWVGDS
QVMLVRKGQAVELMKPHKPDREDEKQRIEALGGCVVWFGAWRVNGSLSVS
RAIGDAEHKPYICGDADSASTVLDGTEDYLILACDGFYDTVNPDEAVKVV
SDHLKENNGDSSMVAHKLVASARDAGSSDNITVIVVFLRDMNKAVNVSEE
SDWTENSFQGGQEDGGDDKENHGECKRPWPQHQCSAPADLGYDGRVDSFT
DRTSLSPGSQINVLEDPGYLDLTQIEASKPHSAQFLLPVEMFGPGAPKKA
NLINELMMEKKSVQSSLPEWSGAGEFPTAFNLGSTGEQIYRMQSLSPVCS
GLENEQFKSPGNRVSRLSHLRHHYSKKWHRFRFNPKFYSFLSAQEPSHKI
GTSLSSLTGSGKRNRIRSSLPWRQNSWKGYSENMRKLRKTHDIPCPDLPW
SYKIE
【0076】
これらの2つのPPM1E配列、NP_055721及びENSP00000312411は98%同一である。
【0077】
或いは、PPM1E配列は、Q8WY54_2、Q8WY54_1、又はQ8WY54_3から選択されてよい。Q8WY54_2は、上記に列挙された最も好適な配列と比較して、追加的EPを有する(MAGCIPEEKTYRRFLELFLGEFRGPCGGGEP...)が、一方Q8WY54_l及びQ8WY54_3は、アミノ末端領域に他の変異を有する。
PPM1F.NP_055449及びENSP00000263212
MSSGAPQKSSPMASGAEETPGFLDTLLQDFPALLNPEDPLPWKAPGTVLS
QEEVEGELAELAMGFLGSRKAPPPLAAALAHEAVSQLLQTDLSEFRKLPR
EEEEEEEDDDEEEKAPVTLLDAQSLAQSFFNRLWEVAGQWQKQVPLAARA
SQRQWLVSIHAIRNTRRKMEDRHVSLPSFNQLFGLSDPVNRAYFAVFDGH
GGVDAARYAAVHVHTNAARQPELPTDPEGALREAFRRTDQMFLRKAKRER
LQSGTTGVCALIAGATLHVAWLGDSQVILVQQGQVVKLMEPHRPERQDEK
ARIEALGGFVSHMDCWRVNGTLAVSRAIGDVFQKPYVSGEADAASRALTG
SEDYLLLACDGFFDVVPHQEVVGLVQSHLTRQQGSGLRVAEELVAAARER
GSHDNITVMVVFLRDPQELLEGGNQGEGDPQAEGRRQDLPSSLPEPETQA
PPRS
PPM1F.Q6IPC0
MSSGAPQKSSPMASGAEETPGFLDTLLQDFPALLNPEDPLPWKAPGTVLS
QEEVEGELAELAMGFLGSRKAPPPLAAALAHEAVSQLLQTDLSEFRKLPR
EEEEEEEDDDEEKAPVTLLDAQSLAQSFFNRLWEVAGQWQKQVPLAARAS
QRQWLVSIHAIRNTRRKMEDRHVSLPSFNQLFGLSDPVNRAYFAVFDGHG
GVDAARYAAVHVHTNAARQPELPTDPEGALREAFRRTDQMFLRKAKRERL
QSGTTGVCALIAGATLHVAWLGDSQVILVQQGQVVKLMEPHRPERQDEKA
RIEALGGFVSHMDCWRVNGTLAVSRAIGDVFQKPYVSGEADAASRALTGS
EDYLLLACDGFFDVVPHQEVVGLVQSHLTRQQGSGLRVAEELVAAARERG
SHDNITVMVVFLRDPQELLEGGNQGEGDPQAEGRRQDLPSSLPEPETQAP
PRS
PPM1F.Q0VGL7
MSSGAPQKSSPMASGAEETPGFLDTLLQDFPALLNPEDPLPWKAPGTVLS
QEEVEGELAELAMGFLGSRKAPPPLAAALAHEAVSQLLQTDLSEFRKLPR
EEEEEEEDDDEEEKAPVTLLDAQSLAQSFFNRLWEVAGQWQKQVPLAARA
SQRQWLVSIHAIRNTRRKMEDRHVSLPSFNQLFGLSDPVNRAYFAVFDGH
GGVDAARYAAVHVHTNAARQPELPTDPEGALREAFRRTDQMFLRKAKRER
LQSGTTGVCALIAGATLHVAWLGDSQVILVQQGQVVKLMEPHRPERQDEK
【0078】
各々の場合でホスファターゼタンパク質がホスファターゼ活性を保持する限り、ホスファターゼタンパク質は、好ましくはこれらの配列の1つと少なくとも80%同一である配列を有し、好ましくはこれらの配列の1つと少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも96%同一、少なくとも97%同一、少なくとも98%同一、少なくとも99%同一である配列を有する。これは、本明細書中に記載されたアッセイを使用して容易に確認できる。
【0079】
[PPMホスファターゼ活性の阻害剤及びアッセイ]
ホスファターゼ阻害剤の場合、特にPPMホスファターゼ阻害剤は、ホスファターゼに関する教示に従って解釈されるべきであり、つまり好ましくはホスファターゼ阻害剤(複数可)は、マグネシウム又はマンガン依存性PPMホスファターゼの阻害剤、好ましくはオカダ酸抵抗性PPMホスファターゼの阻害剤、好ましくはPPMホスファターゼカゼインホスファターゼ活性の阻害剤、好ましくはPIX結合ドメインを含むPPMホスファターゼの阻害剤、好ましくはPPM1E若しくはPPM1Fホスファターゼの阻害剤又はその混合物、好ましくはPPM1Fホスファターゼの阻害剤、好ましくはPPM1Eホスファターゼの阻害剤である。
【0080】
好ましくは、本発明のホスファターゼ阻害剤は、PPMホスファターゼの阻害剤であり、PP2Aホスファターゼ活性に対して著しい効果を示さず、好ましくはPP2Aホスファターゼ活性に対する検出可能な効果を示さず、好ましくは本明細書中に記載されたようにホスホリラーゼaを基質として使用してアッセイされた際に(特にPP1がI−2阻害剤の使用により阻害される場合。実施例2を参照)、PP2Aホスファターゼ活性に対する検出可能な効果を示さない。
【0081】
好ましくは、PPM阻害剤は、PP1活性に著しい効果を示さず、好ましくはPP1活性に対する検出可能な効果を示さず、好ましくは実施例2に記載されたようにアッセイされた際にPP1活性に対する検出可能な効果を示さない。
【0082】
好ましくは、PPM阻害剤は、PP5活性に著しい効果を示さず、好ましくはPP5活性に対する検出可能な効果を示さず、好ましくは実施例2に記載されたようにアッセイされた際にPP5活性に対する検出可能な効果を示さない。
【0083】
PPMホスファターゼの阻害は、好ましくは、PPM阻害剤の投与により達成される。「阻害」には、PPM活性の低減若しくは排除又はPPMホスファターゼレベルに関する干渉/介入が含まれてもよい。例えば、PPMホスファターゼ発現の抑制若しくは阻害、PPMホスファターゼの転写及び/若しくは翻訳の抑制若しくは阻害、又はPPMホスファターゼ自体の下流調節(その活性化を防止又はその不活性化を引き起こすような酵素の調節によるか、又はその分解の促進若しくは他のそのような技術によるかによって)である。したがって、「阻害」とは、低下、鎮圧、除去、又はPPMホスファターゼ活性を抑制若しくは低減する他のそのような様式を指す。阻害剤は、好ましくは、本明細書中に開示されたアッセイにより特定される阻害剤である。PPMホスファターゼの他の阻害様式が使用されてよい。これらには、PPMの活性化因子(複数可)又は調節因子(複数可)の操作が伴っていてよい。或いは、これらには、PPM活性のsiRNAノックダウンのようなPPMノックダウンが伴っていてよい。好ましくは、PPM活性の阻害に使用されるsiRNAsは、PPM1E又はPPM1FのsiRNAsである。
【0084】
PPMホスファターゼ活性のアッセイは、任意の好適なアッセイによるものでよい。考え得る形式が、実施例セクションに多数詳述されている。
【0085】
アッセイの好ましい特徴は、アッセイが、Mg2イオン又はMn2イオン、好ましくはMg2イオン;好ましくはMgAc(酢酸マグネシウム、magnesium acetate);好ましくは10mMMgAcを含むことである。これは、PPMホスファターゼがMg/Mn依存性であるため、活性に許容的であるという利点を有する。好適にはアッセイはMn2イオン、好適にはMnCl(塩化マンガン);好適には2mMの塩化マンガン(II)を含む。好適には、アッセイは、Mg2イオン及びMn2イオンの両方を含む。
【0086】
好ましくは、アッセイは、オカダ酸、好ましくは5μMのオカダ酸を含む。これは、PP2Aを阻害するという利点を有する。
【0087】
好ましくは、アッセイは、結果を混乱させないように、つまりアッセイが、非PPMホスファターゼのような別のホスファターゼの活性/阻害ではなく、PPMホスファターゼの活性/阻害を正確に読み取ることを保証するよう努めるために使用される特定の基質に作用し得る他のホスファターゼの1又は複数の阻害剤を含む。そのような阻害剤、及びそれらが阻害するホスファターゼは公知であり、典型的な阻害剤は、それらがどの酵素を阻害するかという表示とともに本明細書中に、特に実施例部分に記載されている。
【0088】
好ましくは、アッセイは、カゼインを基質(ホスホ−カゼイン)として使用して実施される。好ましくは、このカゼインは、PPMの作用により取り除かれたリン酸の検出を容易にするために、32Pで標識される。
【0089】
好ましくは、アッセイは、FPLCで精製されたホスファターゼについて行う。
【0090】
好ましくは、アッセイは、哺乳動物細胞、細菌細胞、又は他の異種性発現系で発現されたPPM1E/PPM1FホスファターゼのようなPPMホスファターゼにについて行うが、そのような物質が活性(本明細書中で示されたように容易に試験される)を有する場合に限られる。
【0091】
好ましくは、アッセイは、免疫精製されたホスファターゼにについて行う。好ましくは、ホスファターゼは、抗PPM1E及び/若しくは抗PPM1F抗体又は抗体断片(複数可)を使用して免疫精製される。
【0092】
好ましくは、アッセイのPPMホスファターゼ活性は、PPM1E及び/又はPPM1Fである。
【0093】
[一般的なタンパク質ホスファターゼアッセイ]
タンパク質ホスファターゼを、30μlの体積中で1μM〜10μMの32P標識基質を用いて30℃でアッセイする。32P標識基質及びホスファターゼ阻害剤/活性化因子を、緩衝液Cで別々に希釈する。タンパク質ホスファターゼを、緩衝液Bで希釈する。10μlの希釈ホスファターゼ(又は10μlの緩衝液B中の免疫沈澱物)を10μlの阻害剤/活性化因子又は緩衝液Cと混合し、30℃で10分間混合物をインキュベートすることにより、アッセイを実施する。アッセイは、10μlの32P標識基質の添加により開始される。その後、アッセイをさらなる時間(5〜30分)30℃でインキュベートし、100μlの20%(w/v)トリクロロ酢酸の追加により停止する。混合物を短時間ボルテックスし、14,000xgで5分間遠心分離する。100μlの上澄みを回収し、Wallac社製1409型液体シンチレーション計数器でチェレンコフ計数法により、遊離した32Pを測定する。免疫沈澱されたホスファターゼ活性のアッセイの場合、洗浄された免疫沈澱物を10μlの緩衝液Bに再懸濁し、30℃、1200rpmでアッセイを振とうしながらインキュベートしたことを除いて、手順は上記の記載と全く同じである。
緩衝液A 50mM Tris−HCl pH7.5、0.1mM EGTA、0.1%(v/v)2−メルカプトエタノール。
緩衝液B 1mg/mlのBSAを含有している緩衝液A。
緩衝液C 0.01%(v/v)のBrij−35を含有している緩衝液A。
【0094】
32P標識カゼイン基質は、タンパク質キナーゼAの触媒性サブユニットを使用して[γ32P]ATPで標識された、部分的に加水分解にされたウシミルクカゼイン(Sigma社、Poole、英国)である。
【0095】
所望のホスファターゼ(例えばPPM1E及びPPM1F)が作用して基質を脱リン酸化する限り、他の32P標識基質を使用してよい。
【0096】
インビトロPPMアッセイ
PPMホスファターゼ活性は、PP1活性及びPP2A様活性を阻害するためにオカダ酸の存在下で、グルタチオニン−S−トランスフェラーゼ−ペプチド基質、GST−(GGGGRRAT[p]VA)3基質からの[32P]オルトリン酸を遊離により決定できる。
【0097】
ホスファターゼは、実施例10におけるように免疫沈澱することにより準備でき、又はより便利には、PPM1Eを発現し、標準的技術(PPM1Eポリペプチドに融合された6his又はGSTのような精製タグ(複数可)を使用するような)により発現されたタンパク質を精製することにより準備できる。任意の助言が必要な場合に備えて、好ましいPPM1E変異体のアミノ酸配列(複数可)を本明細書中に提供する。
【0098】
GST−(GGGGRRAT[p]VA)ホスファターゼ基質は、タンパク質キナーゼA(PKA、protein kinase A)でリン酸化することにより好適に調製できる。細菌で発現された2mgのGST−(GGGGRRATVA)3を、1〜2mUのPKAと共に、50mMTris−HCl、pH7.0、0.1mMEGTA、10%グリセロール、10mM酢酸マグネシウム、0.1%(v/v)2−メルカプトエタノール、0.1mM[gamma32P]ATPからなる緩衝液中で穏やかに振とうしながら、30℃で終夜インキュベートする。
【0099】
GST−(GGGGRRATVA)3タンパク質配列(前切断プロテアーゼ部位は下線付きである):
MSPILGYWKIKGLVQPTRLLLEYLEEKYEEHLYERDEGDKWRNKKFELGL
EFPNLPYYIDGDVKLTQSMAIIRYIADKHNMLGGCPKERAEISMLEGAVL
DIRYGVSRIAYSKDFETLKVDFLSKLPEMLKMFEDRLCHKTYLNGDHVTH
PDFMLYDALDVVLYMDPMCLDAFPKLVCFKKRIEAIPQIDKYLKSSKYIA
WPLQGWQATFGGGDHPPKSDLEVLFQGPLGSGGGGRRATVAGGGGRRATV
AGGGGRRATVAGGG
【0100】
グルタチオン−セファロースカラムでのカラムクロマトグラフィーにより、組み込まれなかった放射性ヌクレオチドから、標識GST−(GGGGRRAT[p]VA)3を分離し、50mMTris−HCl pH7.0、0.1mMEGTA、10%グリセロール、10mM酢酸マグネシウム、0.1%(v/v)2−メルカプトエタノール、20mMグルタチオンで溶出した。アッセイ中の添加に先立って、GST−(GGGGRRAT[p]VA)3を1〜4μMに希釈した。
【0101】
30μlの全体積中で、一定に振とうしたまま10分間30℃でホスファターゼをアッセイする。アッセイには、20μlの緩衝液に希釈されたホスファターゼが含有されており、10μlの32P標識GST(GGGGRRAT[p]VA)ホスファターゼ基質の添加に先立って、2分間30℃でインキュベートした。10分後、100μlの20%トリクロル酢酸の添加により反応を終了させた。その後、さらに1分間チューブをボルテックスして完全な混合を保証し、室温で5分間16,000xgで遠心分離した。各反応物から100μlの上澄みを新しいエッペンドルフチューブに取り出し、液体シンチレーション計数器でチェレンコフ計数法により計数した。
【0102】
酸−モリブデン酸塩抽出により、汚染プロテアーゼ活性がほとんどないことを明らかする。
【0103】
ホスファターゼアッセイの組成(終濃度):
50mMTris−HCl pH7.0
0.1mMEGTA
10mM酢酸マグネシウム
2mM塩化マンガン(II)
5μMオカダ酸
0.1%(v/v)2−メルカプトエタノール
【0104】
アッセイで使用されるホスファターゼの質量は、調製に依存して、典型的には10ng〜10μgである。
【0105】
非放射性アッセイ
10分間のアッセイ後(トリクロル酢酸の添加前)のリン酸の遊離は、10mg/mlのモリブデン酸アンモニウム及び0.38mg/mlのマラカイトグリーンを含有する150μlの1N塩酸を、100μlのアッセイに添加することにより測定できる。室温(例えば18〜25℃)で20分後、620nmの吸光度を測定する。250μlあれば、プレートリーダ上で吸光度を読み取ることができる。しかしながら、このアッセイは、放射性に基づくアッセイより感受性が10〜100倍低く、したがって必要があればアッセイに10〜100倍多くのホスファターゼを使用して補償してよく、又は単に、結果を評価する際により低い読み取りを考慮に入れてよい。
【0106】
PPM1Eのアッセイ
アミノ酸配列KTHDIPCPDLPWSYに対して誘発された抗体でPPM1Eを免疫沈澱し、10mMMg2+イオン又はMn2+イオン及び5μMオカダ酸の存在下で32P標識カゼインを基質として使用したタンパク質ホスファターゼアッセイで、免疫沈澱物中のホスファターゼ活性を測定する。
【0107】
遺伝子ENSG00000175175によりコードされたPPM1Eタンパク質(複数可)を認識する他の抗体を使用できる。
【0108】
PPM1Fのアッセイ
アミノ酸配列LPSSLPEPETQAPPRSに対して誘発された抗体でPPM1Fを免疫沈澱し、10mMMg2+イオン又はMn2+イオン及び5μMオカダ酸の存在下で32P標識カゼインを基質として使用したタンパク質ホスファターゼアッセイで、免疫沈澱物中のホスファターゼ活性を測定する。
【0109】
遺伝子ENSG00000100034によりコードされたPPM1Fタンパク質(複数可)を認識する他の抗体を使用できる。
【0110】
[AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)]
AMPKは、細胞エネルギーのセンサーとして機能し、ATP消費経路のスイッチを切り、ATPを産生する異化過程のスイッチを入れる。多数の異なる代謝過程の作用がAMPKの支配下にあり、それらにはグルコース恒常性、脂質代謝、及びミトコンドリアバイオジェネシスが含まれる。この酵素はヘテロ三量体でできており、触媒性αサブユニット並びに調節性βサブユニット及びγサブユニットからなり、その各々は多数の遺伝子によりコードされている。各々のスプライスバリアントが多数存在し、それはヘテロ三量体には幾つかの組合せが可能であることを意味する。AMPKのαサブユニットは、触媒性キナーゼドメイン、並びにβサブユニット及びγサブユニットとの複合体の形成に必要であると共に十分であるC末端に近接するドメインを含有する。βサブユニットは、糖結合ドメインを含有しており、複合体とグリコーゲン粒子との結合に関与すると考えられている。上記で考察したように、AMPKの生理学的標的の1つは、グリコーゲン粒子にも常在するグリコーゲンシンターゼであり、高細胞グリコーゲンはAMPK活性の減少に帰着するという多数の根拠が増加しつつある。AMPKのγサブユニットは、CBSドメインと命名された約60残基のモチーフの4つの繰り返しを含有する。これらのモチーフは対で機能し、相互に排他的な様式でAMP又はATPの1分子と各々結合し、高濃度のATPが、AMPによるAMPKの活性化を阻害するという見解と一致している。
【0111】
AMPKは、運動及び関連したATP利用の増加に応答して活性化できる。運動の期間中、AMPKはATP消費経路を阻害し、その一方でATPレベルを回復しようとして糖及び脂肪酸代謝を活性化する。AMPKは、AMPにより、及びαサブユニットの触媒性「Tループ」内のトレオニン残基、Thr172のリン酸化によりアロステリック的に活性化できる。AMPKがAMP:ATPの細胞内比率の変化に応答することは十分に確証されている。腫瘍抑制因子キナーゼLKB1は、インビボでThr172のリン酸化の原因である酵素である。LKB1は、マウスタンパク質25(MO25、mouse protein 25)及びSTE20関連アダプタータンパク質(STRAD、STE20-related adaptor protein)との相互作用を介して活性化され、STRADは擬似キナーゼであり、その一方でMO25はLKB1及びSTRAD間の相互作用を安定させる。さらに、MO25及びSTRADは、細胞質においてLKB1を局在化するように機能する。興味深いことには、LKB1は、AMPKを活性化する刺激によっては調節されず、AMPによっても活性化されない。多数の研究者が、LKB1調節の考え得る様式を現在研究している。AMPKの活性化に加えて、LKB1は、11の他のAMPK関連キナーゼもそれらのTループ残基で活性化できる。Ca2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼキナーゼベータ(CaMKKβ、Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase kinase beta)は、インビボでAMPKの上流キナーゼとしても機能し、筋収縮とAMPKの活性化との間の潜在的関連を特定する。根拠は限定されているが、AMPKの脱リン酸化は、インビボではPP2C様酵素により実行されると考えられる。
【0112】
AMPKは、肝性グルコース産生の減少及びグルコース利用の増加を介して、2型糖尿病に有益である抗糖尿病薬メトホルミンの間接的標的である。メトホルミンは、肝細胞のAMPKを活性化し、Ser79におけるリン酸化の増加を介してACC活性を結果的に減少させ、脂肪酸酸化を増加させ、脂質生成に関与する酵素を抑制できる。メトホルミンは、ビグアニドファミリーの薬剤のメンバーであり、呼吸鎖の複合体1を阻害できることが示されている。
【0113】
AMPKの下流標的が多数特定されており、それらにはアセチルco−Aカルボキシラーゼ及びGLUT4が含まれている。最も重要な効果の1つは、グリコーゲンシンターゼ(GS、glycogen synthase)に対してであり、活性AMPKを有しない動物モデルの使用により、これが、GSの部位2のリン酸化の原因である一次的キナーゼであったことが証明された。AMPKの非特異的活性化因子、5−アミノイミダゾール−4−カルボキサミド−1−β−D−リボフラノシド(AICAR、5-aminoimidazole-4-carboxamide-1-3-β-ribofuranoside)は、GS活性を減少させることが示されている。AICAR刺激後に検査すると、GSは、ラット筋肉において、部位3a又は3bに対していかなる効果も及ぼさずに、部位2におけるリン酸化を増加させた。対照的に、AICARでの処理後、マウスはグリコーゲンレベルを増加させ、それは、グルコース取込みを増加させるAICARの効果、及びリン酸化状態と無関係のアロステリックな活性化によるGS活性の同時増加による可能性が最も高い。運動に応答してGS活性が増加し、この増加は、運動期間後にグリコーゲン貯蔵が迅速に再充填されることを可能にしようと考えられている。しかしながら、非常に激しい運動中は、グリコーゲン分解が極度に高い速度に達することがあり、したがって増加したGS活性の効果を減弱することがある。したがって、GSに対するAMPKの効果は、AMPKが運動中に強度依存的様式で活性化されるため、運動の期間及び強度に依存すると考えられる可能性が高い。優性阻害のAMPKを発現するマウスモデルでは、GS活性が、通常は10分間のインビトロ収縮に応答して増加した。これは、AMPKが収縮中のこの時点でのGS活性化に大きな役割を果たさないが、運動が継続されれば、部位2におけるGSのリン酸化が増加することを強く示唆する。部位3a及び3bのリン酸化が減少するまで、部位2のこのリン酸化は基底レベルのGS活性を維持する。AMPKに対するその効果に加えて、骨格筋のAICAR処理は、AMPK活性化の程度に従ってGLUT4の動員を増加させる。本発明は、AMPKリン酸化及びしたがってその活性化を維持又は亢進し、それによってその下流効果を増加又は維持/保持することにより、そのような応用に有用である。
【0114】
メトホルミンは、AMPKを活性化する、2型糖尿病の治療で広く用いられている薬剤である。AMPレベルの上昇に応答した、その触媒性Tループ残基、Thr172におけるAMPKのリン酸化の増加は、AMPKがその上流キナーゼによってより良好にリン酸化されるようにAMPKのコンフォメーションが変化することにより生じると考えられている。したがって、AMPKの脱リン酸化の原因であるタンパク質ホスファターゼ(複数可)の特定と、フェンホルミン、及びメトホルミンのようなその類似体に対する、AMPKに応答したこれらのホスファターゼ(複数可)の役割(複数可)とを含み、本明細書中に開示されている、AMPKの脱リン酸化に関与する機序を理解することは重要である。
【0115】
PPM1Fは、優先的にAMPKα1と結合できる。したがって幾つかの態様では、本発明は、AMPKα1の脱リン酸化におけるPPM1Fの使用に関する。1つの実施形態では、本発明は、PPM1Fの濃縮又は精製を含む、AMPKα1を精製するための方法に関する。
【0116】
PPM1Eは、優先的にAMPKα2と結合できる。1つの実施形態では、本発明は、PPM1Eの濃縮又は精製を含む、AMPKα2を精製するための方法に関する。
【0117】
PPM1E及びPPM1Fは結合できる。したがって幾つかの実施形態では、本発明は、PPM1Fの濃縮又は精製を含む、PPM1Eを精製するための方法に関していてよい。逆に幾つかの実施形態では、本発明は、PPM1Eの濃縮又は精製を含む、PPM1Fを精製するための方法に関していてよい。
【0118】
[さらなる応用]
好ましくは、本発明の使用はインビトロでの使用である。より好ましくは、メトホルミンに関する本発明の使用は、インビトロでの使用である。より好ましくは、フェンホルミンに関する本発明の使用は、インビトロでの使用である。
【0119】
本発明の幾つかの実施形態は、ホスファターゼ活性の活性化因子である薬剤のスクリーニングを伴っていてよく、その場合には、PPMホスファターゼ活性の比較ステップ(例えば、PPMホスファターゼ活性が、本発明の方法の前記第2の試料より前記第1の試料でより低いかどうか判断すること)は、前記第2の試料と比較した前記第1の試料における活性の増加が、薬剤を活性化因子であると特定するように、単に逆にされる。ホスファターゼ活性の阻害剤である候補薬剤のような化合物が、特に好ましい。好適には、薬剤は、実施例で言及されたような細胞における(例えば細胞溶解物中の)ホスファターゼ活性の阻害剤である。
【0120】
ホスファターゼ活性に対する(阻害のような)効果は、直接的でも又は間接的でもよい。薬剤は、ホスファターゼ又はAMPKに直接的に結合しても又はしなくてもよい。薬剤は、例えば相互作用の低減若しくは阻害により、又は解離を促進することにより、ホスファターゼ及びAMPK間の相互作用に影響を及ぼしてもよい。したがって、本発明は、AMPK及びホスファターゼ間の相互作用に影響を及ぼすことが可能な薬剤(複数可)のアッセイにも関する。これは、実施例で示されたように、アッセイされる薬剤(複数可)の存在下における共免疫沈降の阻害又は促進によってであってもよく、又は当業者に公知の他の技術によってでもよい。
【0121】
ホスファターゼ活性がインビトロで影響を受けるかどうか、及び必要に応じてには例えば細胞中で(例えば細胞溶解物中で)この効果が検証されるかどうかを試験することが重要である。
【0122】
本発明の目的は、対象(複数可)においてそれらのホスファターゼを阻害することを視野に入れて、AMPKのリン酸化及びしたがって(例えば)糖尿病の治療に有用な活性を増加又は維持するために、重要なホスファターゼの阻害剤を特定することである。
【0123】
好適には、ホスファターゼはPPM1Eである。
【0124】
好適には、ホスファターゼはPPM1Fである。
【0125】
好適には、ホスファターゼは、PPM1E及びPPM1F(例えば、PPM1E及びPPM1Fの両方を含む混合物、又は会合体若しくは複合体)である。
【0126】
下記で本発明を実施例により説明する。これらの実施例は説明が目的であり、添付の特許請求の範囲を制限することを意図していない。
[実施例]
【実施例1】
【0127】
[AMPKのリン酸化に対するビグアニドの効果]
ビグアニド(メトホルミン又はフェンホルミンのような)の効果がタンパク質ホスファターゼに対する効果により部分的に仲介され得るかどうかを決定するために、メトホルミン類似体フェンホルミンが、AMPKを脱リン酸化し得るタンパク質ホスファターゼの活性に影響を及ぼすかどうかを調べることを目的に実験を実施した。タンパク質ホスファターゼに対するフェンホルミンの効果を記述する。
【0128】
AMPK活性に対するフェンホルミンの効果を研究するために、血清飢餓HEK293細胞を、10mMフェンホルミンで1時間37℃で刺激した。AMPKのリン酸化状態を保存するために、1μMミクロシスチン−LRを含有する溶解緩衝液で細胞を溶解した。AMPKの触媒性Thr172残基周囲の区域に対応するリンペプチドに対して誘発された抗体を使用して、イムノブロッティングを実施した。フェンホルミンでの刺激後、Thr172におけるAMPKのリン酸化の増加が観察できた。(図1A、上段パネル)。
【実施例2】
【0129】
[タンパク質ホスファターゼの活性に対するビグアニドの効果]
タンパク質ホスファターゼの活性に対するビグアニドの効果を研究するために、未処理か又はビグアニド(この実施例では上述のように10mMフェンホルミン)で処理されたかいずれかのHEK293細胞溶解物を、イムノブロッティングしたか、又は様々なリン酸化基質だけでなく、ホスファターゼ阻害剤及び活性化因子の組合せを使用することにより特定のタンパク質ホスファターゼ活性についてアッセイした。
【0130】
HEK293細胞のPP5活性は低いため、PP5レベルは、タンパク質のTPRドメインに対する抗体を使用したイムノブロッティングにより評価した。フェンホルミンに応答したPP5レベルの変化は観察できなかった(図1A、下段パネル)。
【0131】
フェンホルミンに応答したPP1活性は、PP2Aの活性を阻害するために反応液に含まれていた4mMオカダ酸、及び金属イオン活性化タンパク質ホスファターゼを阻害するためのEGTA(0.1〜2mM)と共に、32P標識ホスホリラーゼaを基質として使用して評価した。非刺激細胞溶解物と10mMフェンホルミンで刺激された細胞溶解物との間で、PP1ホスホリラーゼホスファターゼ活性の変化は検出できなかった(図1B)。
【0132】
フェンホルミンに応答したPP2Aの活性も、32P標識ホスホリラーゼaを基質として使用して評価したが、このアッセイの場合、200nMのI−2、及び金属イオン活性化タンパク質ホスファターゼを阻害するためのEGTA(0.1〜2mM)が、PP1を阻害するために含まれていた。非刺激細胞溶解物と10mMフェンホルミンで刺激された細胞溶解物との間で、PP2Aホスホリラーゼホスファターゼ活性の変化は検出できなかった(図1C)。
【0133】
PPM阻害剤アッセイ
PP2C(PPM1)及びPPMファミリー関連メンバーの活性は、PP2Aを阻害するために反応液に含まれていた5μMオカダ酸、及びPP2Cの活性に必要であることが知られている10mM酢酸マグネシウムと共に、32P標識カゼインを基質として使用して評価した(Ingebritsen and Cohen, 1983 Science vol 221, pp331-338; Ingebritsen et al., 1983 Eur J Biochem vol 132, pp263-274)。
【0134】
HEK293細胞では、Mg2+依存性でオカダ酸抵抗性のカゼインホスファターゼ活性(以後PPMホスファターゼ活性と称する)は、未処理の対照細胞と比較してフェンホルミンで処理された細胞で約20%減少し(図2A)、細胞における、つまりインビボでの、この活性に対するフェンホルミンの阻害効果を実証する。
【0135】
LKB1(AMPKの上流活性化因子の1つ)を欠如するヒーラ細胞では、フェンホルミンはAMPKを活性化できなかった(Hawley et al., 2003 J. Biol vol 2, p28)。フェンホルミンがこの細胞系で類似の効果を示すことができるかどうかを試験するために、未処理か又は10mMフェンホルミンで処理されたかいずれかのヒーラ細胞のPPMホスファターゼ活性を評価した。同様に、PPMホスファターゼ活性の約20%減少が、フェンホルミンで処理された細胞において観察できた(図2B)。この実験では多くのPP2Cアイソフォームの活性が測定されており、観察された20%の減少は、たった1つのそのようなアイソフォームの活性がより激しく減少したことを表している可能性がある。
【0136】
10mMフェンホルミンの代りに2mMメトホルミンを用いて、同じ実験を実施した。PPMホスファターゼ活性でも同じ20%減少が、メトホルミンで処理された細胞において観察された。
【0137】
したがって、フェンホルミン及びメトホルミンのようなビグアニドがPPMホスファターゼ活性の阻害剤であり、前記活性の特異的阻害剤であると考えられることが初めて実証される。
【実施例3】
【0138】
[PPMファミリーメンバーの活性に対するビグアニドの効果]
PPMファミリーのタンパク質ホスファターゼは、様々な基質特異性を有する少なくとも16の構造的に異なるアイソフォームを含む。これらのホスファターゼのどれがビグアニドに応答して活性を変化させ得るのかを決定するために、細菌で発現されたPPM酵素を試験した。緩衝液のみで事前インキュベーションした後、又は1mMビグアニド(この実施例では、フェンホルミン)で事前インキュベーションした後で、各酵素に結合したPPMホスファターゼ活性を評価した。活性型で発現できるそれらの酵素(PPM1A、PPM1B、PDPC1、PDPC2、及びNerpp)では、対照試料と、フェンホルミンで事前インキュベートされた試料との間で、違いを検出できなかった。細菌で発現されたPPM1F及びILKAPは、これらのアッセイ条件下ではホスホカゼイン(phosphocasein)に対する活性を示さず(図3)、PPM1D、PPM1E、及びPPM1Gは、この実験では試験されなかった。
【実施例4】
【0139】
[PPMファミリーメンバーのレベルに対するビグアニドの効果]
PPMホスファターゼのいずれかのレベルに対してビグアニドが任意の効果を有し得たかどうかを決定するために、抗体を使用してイムノブロッティングを実施した。PPM1A、PPM1B1、PPM1B2、PPM1D、PPM1F、PPM1G、及びILKAPに対して誘発された抗体は、酵素の予測分子量に近いバンドを生じさせたが、PPM1Dは他のバンドも多数生じさせた。未処理の細胞と、ビグアニド(この実施例では、フェンホルミン)で刺激された細胞との間では、これらのいずれの酵素レベルでも違いが検出できなかった(図4)。PPM1E及びPDPC1に対する抗体は、いかなるシグナルも生成しなかったが、PDPC2及びNerppは、それぞれ正しくない分子サイズの微かなバンド及び一般的な背景染色を生じさせた。
【実施例5】
【0140】
[FPLCにより分離された、処理済及び未処理の細胞溶解物のPPM活性]
フェンホルミンのようなビグアニドにより阻害されたPPMホスファターゼを正確に同定するために、処理済及びフェンホルミン処理済の細胞に由来するHEK293細胞溶解物を、FPLCによって正味電荷により分離する前に、ろ過及び脱塩した。500μlの画分を収集し、各画分の総PPMホスファターゼ活性を測定した。タンパク質ホスファターゼ活性における幾つかのわずかな相違は、約150mM及び500mMのNaClでFPLCカラムから溶出する未処理試料とフェンホルミン処理済試料との間で検出可能だった(図5)。図5で視認可能な最大ピークはこの方法によっては特定されなかったが、FPLCカラムからの画分をイムノブロッティングすることにより、幾つかのPPMホスファターゼ、及びそれらが溶出する塩濃度が特定された(表−図8を参照)。
【0141】
この実験では、PPM1G及びILKAPに対する抗体が、不正確なサイズのバンドを特定した一方で、PPM1D、PPM1E、Nerpp、及びPDPC1は検出できなかった。フェンホルミンにより阻害されるPPM活性が、150又は500mMNaClのいずれかの付近でFPLCカラムから溶出することはあり得ることである。理論により束縛されることは望まないが、この結果は、PPMアイソフォームの1つに結合した低分子がカラム内で洗い流され、したがって以前は観察された活性の変化の検出を妨げた可能性を除外しない。
【実施例6】
【0142】
[特定のPPM酵素の活性に対するビグアニドの効果]
どのPPMホスファターゼがビグアニドにより影響を受けたかをより高い確実性で決定するために、PPM酵素の各々に結合したPPMホスファターゼ活性を評価した。この実施例では、ビグアニドはメトホルミン及びフェンホルミンである。
【0143】
未処理又は10mMフェンホルミンで処理されたHEK293細胞溶解物由来のペプチド抗体を使用して、PPMホスファターゼの免疫沈降を実施した(図6/図9;図9では、図6の絶対値は32P標識の組込みレベルのような非本質的な実験要因に依存して変動し得るため、尺度は比較を容易にするためのパーセンテージ尺度である)。PPM1A1、PPM1B1、PPM1B2、PPM1D、PPM1G、ILKAP、Nerpp、PDPC1、又はPDPC2と結合したPPMホスファターゼにおいて、変化は検出できなかった。興味深いことには、しかしながら、密接に関連したPPM1Fの活性が約40%減少した一方で、PPM1E活性は、フェンホルミンでの処理後ほとんど完全に除去された(図6)。未処理のHEK293細胞からのPPM1E免疫沈降物を免疫沈降及びイムノブロッティングした後では、PPM1E対する抗体を使用してシグナルを検出できなかった。
【実施例7】
【0144】
[ビグアニドはPPPホスファターゼに効果を示さないが、PPMホスファターゼを阻害する]
フェンホルミンのようなビグアニドは、Thr172残基におけるαサブユニットのリン酸化を増加させることにより、HEK293細胞のAMPK活性化を引き起こす。ヒーラ細胞は、AMPKの上流キナーゼの1つであるLKB1を欠如するため、この効果は、これらの細胞では減少する。LKB1自体の活性はフェンホルミンにより影響を受けないため、したがって、フェンホルミンが、AMPKの脱リン酸化の原因であるタンパク質ホスファターゼの活性に影響を及ぼし得る可能性があるかどうかを評価することは重大な重要性を有する。発明者らは、オカダ酸に不感受性であるタンパク質ホスファターゼが、生菌中のAMPK脱リン酸化の原因であると考えた。PP2A及びPP2Cα(PPM1A)の両方はインビトロでこの役割を行うことができるが、金属イオン依存性PP2C(PPM1)が、インビボでのAMPK脱リン酸化の原因であり得ることを示唆する根拠が報告されている。
【0145】
フェンホルミンを用いたHEK293細胞の刺激は、インビトロのホスファターゼアッセイで測定されるようなPP1又はPP2Aの活性に対する効果、又はPP5のレベルに対する効果を示さなかった。しかしながら、HEK293細胞及びヒーラ細胞の両方において、フェンホルミンは、PPMホスファターゼ活性を約20%阻害できる。PPM酵素がAMPK脱リン酸化の原因である一次的ホスファターゼであり得るという根拠と併せると、これは、フェンホルミンが、PPM酵素の活性を阻害し、したがってAMPK活性を増加させるように機能している可能性があるという興味深い可能性を提起した。フェンホルミンがAMPKを活性化する正確な機序(複数可)は当技術分野において未知であるため、タンパク質ホスファターゼ活性の阻害は、抗糖尿病薬によるAMPK活性化の新規な機序を表す。したがって、PPMホスファターゼは、そのような障害における治療介入の標的であることが実証される。
【実施例8】
【0146】
[PPM酵素に対するビグアニドの効果]
PPM酵素には様々なアイソフォームが多数存在し、細菌で発現された多数のPPMホスファターゼのカゼインホスファターゼ活性は、フェンホルミンのようなビグアニドでの事前インキュベーションにより影響を受けなかった。PPM1A、PPM1B、PPM1F、PDPC1、PDPC2、ILKAP、及びNerppは、発現及び精製が可能であった。カゼインホスファターゼ活性が、PPM1A1、PPM1B、PDPC1、PDPC2、及びNerppの調製物で検出されたが、これは、1mM濃度のフェンホルミンでの事前インキュベーションにより影響を受けなかったため、これらの酵素への直接的結合及びこれらの酵素の阻害におけるフェンホルミンの役割を否定するものであった。これらの精製された酵素は、ホスホカゼインに対する活性を示さなかったため、この特定の実験からPPM1F又はILKAPに関する結論を導き出すことはできない。
【0147】
個々のPPM酵素に対する特異的抗体は、多くのPPMホスファターゼのレベルにおける変化を検出しなかった。これらのイムノブロッティング実験は、フェンホルミンが、PPM1A1、PPM1B1、PPM1B2、PPM1D、PPM1F、PPM1G、又はILKAPのレベルを変化させるように機能するということを否定する。これらの特定のイムノブロッティング実験では、PPM1E、PDPC1、PDPC2、又はNerppのレベルがフェンホルミンにより影響を受けたかどうかを決定することはできない。
【0148】
FPLCによるPPM活性の分離は、ホスファターゼ活性の2つの主要なピークに帰着した。HEK293細胞では、各ピークは複数のPPMホスファターゼ活性を含有しているが、骨格筋溶解物に由来する活性の2つのピークは、PP2Cα(PPM1A)及びPP2Cβ(PPM1B)を表していたことが示唆された。
【0149】
PPMホスファターゼに対する特異的抗体を使用して、PPM酵素の各々に結合したカゼインホスファターゼ活性の免疫沈降及びアッセイを実施した。興味深いことには、ビグアニドフェンホルミン又はメトホルミンで処理された細胞では、PPM1Eの活性がほとんど完全に除去され、PPM1Fの活性は未処理細胞のレベルの約60%にまで減少した。PPM1E及びPPM1Fは密接に関連した2つの酵素であり、コアホスファターゼドメイン及び相同性フランキング配列において66%の類似性を共有し、融合PIX結合ドメインを各々含有している。PPM1Eは、p21活性化キナーゼPAKの脱リン酸化に関与する。PPM1Fは、自己リン酸化型カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII(CaMKII)並びにCaMKI及びCaMKIVの触媒性Thr286残基を脱リン酸化できることが示された。
【0150】
図10は、未処理又は2mMメトホルミンで処理されたHEK293細胞におけるPPMホスファターゼ、PPM1A1及びPPM1Eの活性を示す。溶解に先立って、2mMメトホルミンで10分間HEK293細胞を処理した。未処理又はメトホルミン処理済のHEK293細胞溶解物から、PPM1A1及びPPM1Eのアイソフォームを三重反復で免疫沈降し、10mM酢酸マグネシウム及び5μMオカダ酸の存在下で32P標識カゼインを基質として使用して、活性を測定した。対照免疫沈降物を、各溶解物について免疫前抗体を使用して三重反復で実施し、PPMホスファターゼ免疫沈降について算出された活性から減算した。活性は、未処理のPM1A1との比較で示される。メトホルミン処理によるPPM1E活性の実質的な特異的ノックダウンが実証される。
【0151】
ヒトキノーム(http://www_kinase.com/human/kinome)内で、プロテインキナーゼは、それらの触媒性ドメインの配列類似性、触媒性ドメイン外部のドメイン構造、それらの既知の生物学的機能、及び他の種におけるそれらの分類の比較により、多数の異なるキナーゼファミリーに分類される。プロテインキナーゼのAMPKファミリー及びCaMKKファミリーの両方は、CaMKスーパーファミリー内に含有されている。AMPK及びCaMKの調節は、両方とも興味をそそられるほど類似している。両酵素は、それらの適切なリガンド(AMPKにはAMP、及びCaMKKにはCa2+/カルモジュリン)によるアロステリックな活性化を必要とし、その後で活性化ループ内のトレオニン残基がリン酸化される。
【0152】
ここに記載された結果は、少なくとも2つの考え得る意味を有する。第1には、CaMKと、それらの上流キナーゼCaMKKα及びCaMKKβとの間の構造的類似性を考慮すると、PPM1E及びPPM1Fは、CaMKKアイソフォームを脱リン酸化するように機能することができ、したがってそれらの活性を減少させ、それによりAMPKの活性を減少させる。第2には、上記で考察されたように、CaMK及びAMPKの両方の活性化機序が保存されていることと、AMPK及びCaMKの両方が同一のタンパク質キナーゼスーパーファミリー内に存在するという事実とを考慮すると、PPM1E及びPPM1Fは、AMPKを直接的に脱リン酸化するように機能できる。いずれのシナリオでも、フェンホルミンのようなビグアニドが、AMPKの脱リン酸化に関与するタンパク質ホスファターゼ活性を阻害することができることが実証される。したがって、PPMホスファターゼは、AMPK活性を調節するための有効な治療上の標的であり、PPMホスファターゼの阻害剤は、そのための優れた治療法候補であることが実証される。
【実施例9】
【0153】
[PPMファミリータンパク質ホスファターゼのメンバーに対するビグアニドの効果]
ここで提示されたデータは、AMPKの脱リン酸化の原因であるタンパク質ホスファターゼと、メトホルミン及びフェンホルミンのような抗糖尿病薬の標的との両方を特定する研究の結果である。これらの化合物が血糖レベルを低下させる機序の1つは、AMPK活性を増加させることによってであり、この作用機序についての理解は、当分技術分野には存在しなかった。発明者らは、PPMファミリーのタンパク質セリン/トレオニンホスファターゼの1又は複数のメンバーが、ビグアニド化合物に応答したAMPK活性の増加に関与していることを開示する。
【0154】
PPMファミリータンパク質ホスファターゼPPM1E及びPPM1Fが、メトホルミン/フェンホルミンに応答してAMPKを脱リン酸化するように機能できることは、重要な進歩である。AMPKα含有複合体は、AMPに対するより大きな依存性を有し、AMPKα含有複合体と比較して核内に多く含まれており、そこで遺伝子転写における役割を果たすと仮定されている。運動がAMPKαの核内へのトランスロケーションを誘導することは知られていたが、それが起こる機序は当技術分野において不明であった。PPM1E及びPPM1Fは、それらのホスファターゼドメインにおいて64%の相同性を共有するが、PPM1Eは、N末端及びC末端の両方において相同性のない大きな領域を有する(図7)。PPM1EのC末端における2つの核局在化シグナルが、それらの機能にとって不可欠な塩基性残基のクラスターと共に特定されている。PPM1F、CaMKI、CaMKII、及びCaMKKβは、特異的に細胞質に局在化する一方で、PPM1E、CaMKIV、及びCaMKKαは、特異的に核に局在化しており、2つのCaMK調節系が細胞内に存在し、PPM1E及びPPM1Fが細胞内で補完的な役割を果たし得ることを示唆している。この研究で使用されたものと類似した、タンパク質のC末端残基に対して誘発された抗体を使用したイムノブロッティング実験において、PPM1Eは脳内で最も豊富に発現される。理論によって束縛されることは望まないが、したがって、このタンパク質の発現が他の組織では低い可能性があり、これらの特定の実験ではイムノブロッティングによりタンパク質を検出できないという事実を説明できる。
【0155】
脳内に存在する大多数のPPM1Eは、細胞質で最も豊富な切断型で存在しており、PPM1Eが、細胞質内及び核内CaMKファミリープロテインキナーゼの両方を脱リン酸化できるかもしれないという可能性を提起する。
【0156】
メトホルミンは、肝性グルコース産生の減少と、骨格筋グルコース取込みの増加との両方により、グルコース及び脂質を低下させることが知られており、AMPKは、薬剤効果の潜在的媒介物質として最初に仮定されたが、メトホルミンがAMPKを活性化する機序は、長い間当技術分野における謎であった。メトホルミンは、呼吸鎖の複合体Iを阻害できることが示されており、したがってミトコンドリア機能及び細胞呼吸を損傷し、それにより肝性グルコース産生を阻害し、グルコース利用を増加させる。メトホルミンは、主として肝性グリコーゲン分解の阻害によりグルコース産生を阻害する。細胞内のAMP:ATP比率の増加におけるメトホルミンの関与をめぐっては幾つかの論争がある。メトホルミンは、アデニンヌクレオチド非依存的な機序によってAMPKを活性化することが報告されているが、別の報告では、より有力なビグアニドであるフェンホルミンと共に一連の細胞タイプをインキュベートすると、AMP:ATP比率が増加することが記述されている。AMP:ATP比率に対するメトホルミンの効果は、より長い期間にわたってより低い効力で生じ、検出するのがより難しい可能性が高いと考えられる。PPM1E活性及び/又はPPM1F活性のメトホルミン阻害、及びこの阻害がAMP:ATP比率の変化に依存するかどうかは、重要である場合がある。
【0157】
カルシウム及びカルモジュリンがCaMKファミリー及びしたがってAMPKの活性を調節するため、カルシウム及びカルモジュリンが、PPM1E及びPPM1Fに対しても効果を有し得る可能性が存在する。ここに示された実験で使用されたアッセイ条件下では、カルシウムイオンは、反応混合液中に存在すべきではない。カルシウム及び/又はEGTAが反応混合液に添加された実験をさらに行って、カルシウムが、これらの酵素の活性と、メトホルミン/フェンホルミンによるこれらの酵素の阻害とに対して任意の効果を有したかどうか評価できる。さらに、ホスファターゼPPM1E及びPPM1Fが、CaMKタンパク質キナーゼスーパーファミリーの特定のメンバーを脱リン酸化できるかどうかを理解するために、ホスホカゼインよりも特異的な基質を使用することは有用であり得る。非刺激の細胞抽出液から酵素を免疫沈降した後で、PPM1Eの活性に対するメトホルミン/フェンホルミンの効果を直接評価することも役に立ち得る。
【0158】
低分子干渉RNA(siRNA、short interfering RNA)を使用する研究は、PPM1E又はPPM1Fのレベルのノックダウンが、AMPK活性に多大な効果を示すかどうか、及びメトホルミン/フェンホルミンが、ホスファターゼの非存在下でAMPKを活性化するかどうかを実証することに有用である。そのような研究は、基質の脱リン酸化に対するこれらの酵素の各々のインビボの相対的寄与率を評価するのに応用される。
【実施例10】
【0159】
[アッセイ/スクリーニング]
糖尿病又は肥満の薬物において使用する候補薬剤を特定するための方法を実証する。本方法は、PPMホスファターゼの阻害剤候補を準備することと、PPMホスファターゼを含む第1及び第2の試料を準備することと、前記阻害剤候補を、PPMホスファターゼを含む前記第1の試料と接触させることと、前記第1及び第2試料をPPMホスファターゼ活性についてアッセイすることとを含む。この実施例では、PPMホスファターゼはPPM1Eである。
【0160】
アミノ酸配列KTHDIPCPDLPWSYに対する抗体で、PPM1Eを免疫沈澱する。
【0161】
10mMMg2+又はMn2+イオン及び5μMオカダ酸の存在下で32P標識カゼインを基質として使用したタンパク質ホスファターゼアッセイで、免疫沈澱物中のホスファターゼ活性を測定する。この実施例では、以下のようにアッセイを実施する。
【0162】
洗浄された免疫沈澱物を、10μlの緩衝液Bに再懸濁する。タンパク質ホスファターゼを、30μlの体積中で1μM〜10μMの32P標識基質を用いて30℃でアッセイする。この実施例では、32P標識カゼイン基質は、タンパク質キナーゼAの触媒性サブユニットを使用して[γ32P]ATPで標識された、部分的に加水分解にされたウシミルクカゼイン(Sigma社、Poole、英国)である。
【0163】
32P標識基質及びホスファターゼ阻害剤/活性化因子を、緩衝液Cで別々に希釈する。10μlの緩衝液B中の免疫沈澱物を、10μlの阻害剤/活性化因子又は緩衝液Cと混合し、30℃で10分間混合物をインキュベートすることにより、アッセイを実施する。アッセイは、10μlの32P標識基質の添加により開始される。その後、アッセイを、30℃でさらなる時間(15分)1200rpmで振とうさせてインキュベートし、100μlの20%(w/v)トリクロロ酢酸の添加により停止させる。混合物を短時間ボルテックスし、14,000xgで5分間遠心分離する。100μlの上澄みを回収し、Wallac社製1409型液体シンチレーション計数器を用いてチェレンコフ計数法により、遊離された32Pを測定する。
緩衝液A 50mM Tris−HCl pH7.5、0.1m MEGTA、0.1%(v/v)2−メルカプトエタノール。
緩衝液B 1mg/mlのBSAを含有している緩衝液A。
緩衝液C 0.01%(v/v)のBrij−35を含有している緩衝液A。
【0164】
その後、PPMホスファターゼ活性を前記第1及び第2試料で比較し、活性が前記第2の試料より前記第1の試料の方が低い場合、前記阻害剤候補は、糖尿病又は肥満の薬物に使用する候補薬剤として特定される。
【実施例11】
【0165】
[標的としてのPPMの検証]
本明細書中で考察したシグナル伝達経路のエレメント間の関係をさらに特徴づけるために、及び本発明の方法(複数可)により特定された化合物候補を検証するためのさらなる方法を提供するために、発明者らは分子間相互作用を研究した。
【0166】
セファロースビーズに共有結合で結合されたAMPKα1、AMPKα2、幾つかのPPM、及び対照IgGを使用して、それぞれの抗原をHEK293細胞溶解物から免疫吸着した。結果を図11及び12に示す。免疫沈澱物(IP、immuno-pellet)を洗浄し、20μlのSDSゲルローディング緩衝液に溶解し、SDS−PAGE及び指定された抗体を用いたイムノブロッティングにより分析した。バンドのサイズ(キロダルトンでの)を右側に示す。
【0167】
材料及び方法
HEK293細胞を、50mMTris−HC1 pH7.5、1mMEGTA、1mMEDTA、1%(v/v)Igepal CA-630(Np-40の代用品)、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、10mMβ−グリセロリン酸ナトリウム、50mMフッ化ナトリウム、5mMピロリン酸ナトリウム、0.27Mスクロース、5mMN−エチルマレイミド、「完全」プロテアーゼ阻害剤カクテル(1錠/50ml)中に溶解した。溶解物を、50mMTris−HCl pH7.5、150mM塩化ナトリウム、「完全」プロテアーゼ阻害剤カクテル(1錠/50ml)で、およそ5倍に希釈して1mg/mlにした。抗体−セファロース(10μlセファロースビーズ及び10μgの抗体から調製された)を添加した、100μgのタンパク質を含有する希釈細胞溶解物を使用して、免疫吸着を実施した。4℃で3時間免疫吸着した後、免疫沈澱物を13,000xgで5分間遠心分離し、氷冷した50mMTris−HCl pH7.5、150mM塩化ナトリウムで2回洗浄した。
【0168】
抗体は、それぞれのヒト抗原に対してアフィニティ精製し、1μg/mlの濃度でブロッティングに使用し、増強された化学発光により検出した。AMPKα1(344−CTSPPDSFLDDHHLTR−358)に対して誘発された抗AMPKα1、及びAMPKα2(352−CMDDSAMHIPPGLKPH−366)に対して誘発された抗AMPKα2は、D.G. Hardie(University of Dundee)教授からのものだった。PPM1A1(369−KNDDTDSTSTDDMW−382)に対して誘発された抗PPM1A1、ILKAP(373−KAVQRGSADNVTVMV−387)に対して誘発された抗ILKAP、PPM1E(728−RSSLPWRQNSWK−739)に対して誘発された抗PPM1E、及びPPM1F(439−LPSSLPEPETQAPPRS−454)に対して誘発された抗PPM1F、PPM1K(359−FSFSRSFASSGRWA−372)に対して誘発された抗PPM1Kは、Hilary McLauchlan博士及びJames Hastie博士により管理されたDivision of Signal Transduction Therapy(University of Dundee)で調製された。抗PHLIPP−Lは、Novus Biologicals社製(Littleton、コロラド)だった。対照IgGは、免疫応答が誘発されなかったヒツジの血清に由来する免疫前IgG画分だった。
【0169】
図11は、内因性PPM1Fが、内因性AMPKα1の免疫沈澱物(レーン2)には存在したが、AMPKα2(レーン3)には存在しなかったことを示す。相互免疫沈澱物により、PPM1F免疫沈澱物中には、AMPKα1は存在するが(レーン7)、AMPKα2は存在しないことが示された。幾つかの環境ではPPM1E及びPPM1Fが結合し、PPM1E免疫沈澱物中にある程度のPPM1Fが存在することに繋がり得る(レーン6)ことに留意されたい。内因性PPM1Eの免疫沈澱物は、内因性AMPKα2のバンドの存在を示したが、AMPKα1のバンドの存在は示さなかった(図12)。
【0170】
【表2】

【0171】
上記の表中のデータは、AMPKアルファ1のIPに存在しなかった、実験で試験されたPPMを列挙する。さらに、AMPKアルファ1のIPにPPM1Fを見出すことができることを示唆するデータが存在する。
【0172】
AMPKアルファ2のIPでPPM1Eについて得られたシグナルは、非常に低い。理論によって束縛されることは望まないが、PPM1E抗体は十分にIPしないことがあり、したがってIP中のAMPKアルファ2は、この理由で低い(イムノブロッティングにより検出可能なように)可能性がある。いずれにせよ、図11及び図12に提示されたIPは、内因性タンパク質(過剰発現されたタンパク質ではなく)であり、技術的に実施が困難であることに留意すべきである。しかしながら、提示されたような内因性タンパク質でのデータは、相互作用に関して科学的に非常に強い裏づけを提供し、したがって本明細書中で開示された標的及び方法を実証する。
【実施例12】
【0173】
[インビトロPPMアッセイ]
糖尿病又は肥満用薬物に使用する候補薬剤を同定するための方法を示す。本方法は、PPMホスファターゼの阻害剤候補を準備することと、PPMホスファターゼを含む第1及び第2の試料を準備することと、前記阻害剤候補を、PPMホスファターゼを含む前記第1の試料と接触させることと、前記第1及び第2試料をPPMホスファターゼ活性についてアッセイすることとを含む。この実施例では、PPMホスファターゼはPPM1Eである。
【0174】
この実施例では、1995年のDavisらに記述されているように、大腸菌でPPM1A1を産生させる(Davies, S.P., Helps, N.R., Cohen, P. T. W. and Hardie, D. G. (1995) FEBS Lett. 377, 421-425.*5*-AMP inhibits dephosphorylation, as well as promoting phosphorylation of the AMP-activated protein kinase; studies using bacterially expressed human protein phosphatase-2Calpha and homogeneous native bovine protein phosphatase-2AC.*)。
【0175】
より詳細には、15℃で発現を誘導したことを除いてDaviesら(同書)における教示のように、Mn2の非存在下又は存在下で、GST−PPM1(230〜755){カルボキシ末端側の3分の2}及びGST−PPM1F(2〜454){全長}を大腸菌で発現させた。
【0176】
PPMホスファターゼ活性は、PP1様活性及びPP2A様活性を阻害するためにオカダ酸の存在下で、グルタチオニン−S−トランスフェラーゼ−ペプチド基質GST−(GGGGRRAT[p]VA)基質からの[32P]オルトリン酸の遊離により決定する。
【0177】
GST−(GGGGRRAT[p]VA)ホスファターゼ基質は、タンパク質キナーゼA(PKA)でリン酸化することにより調製する。細菌で発現された2mgのGST−(GGGGRRATVA)を、1〜2mUのPKAと共に、50mM Tris−HCl pH7.0、0.1mM EGTA、10%グリセロール、10mM酢酸マグネシウム、0.1%(v/v)2−メルカプトエタノール、0.1mM[gamma32P]ATPからなる緩衝液中で穏やかに振とうしながら、30℃で終夜インキュベートする。
【0178】
グルタチオン−セファロースカラムでのカラムクロマトグラフィーにより、組み込まれなかった放射性ヌクレオチドから、標識GST−(GGGGRRAT[p]VA)を分離し、50mMTris−HCl pH7.0、0.1mMEGTA、10%グリセロール、10mM 酢酸マグネシウム、0.1%(v/v)2−メルカプトエタノール、20mM グルタチオンで溶出した。アッセイ中での添加に先立って、GST−(GGGGRRAT[p]VA)を1〜4μMに希釈した。
【0179】
30μlの全体積中で、一定に振とうしたまま10分間30℃でホスファターゼをアッセイする。アッセイの第1及び第2の試料には、第1の試料中の阻害剤候補と一緒に、20μlの緩衝液に希釈されたホスファターゼが含有されており、その後第1及び第2の試料を、10μlの32P標識GST−(GGGGRRAT[p]VA)ホスファターゼ基質の添加に先立って、30℃で2分間インキュベートする。10分後、100μlの20%トリクロル酢酸の添加により反応を終了させる。その後、さらに1分間チューブをボルテックスして完全な混合を保証し、室温で5分間16,000xgで遠心分離した。各反応物から100μlの上澄みを新しいエッペンドルフチューブに取り出し、液体シンチレーション計数器でチェレンコフ計数法により計数した。
【0180】
酸−モリブデン酸塩抽出により、汚染プロテアーゼ活性がほとんどないことを明らかする。
ホスファターゼアッセイ組成(終濃度):
50mM Tris−HCl pH7.0
0.1mM EGTA
10mM 酢酸マグネシウム
2mM 塩化マンガン(II)
5μM オカダ酸
0.1%(v/v)2−メルカプトエタノール
【0181】
アッセイで使用されたホスファターゼの質量は、調製に依存して、典型的には10ng〜10μgである。
【0182】
その後、PPMホスファターゼ活性を前記第1及び第2試料で比較し、活性が前記第2の試料より前記第1の試料の方が低い場合、前記阻害剤候補は、糖尿病又は肥満の薬物に使用する候補薬剤として特定される。
【実施例13】
【0183】
[ハイスループットアッセイ]
実施例10又は12のアッセイは、ハイスループット形式で実施できる。この実施例では、非放射性の形式でアッセイを読み取る。以下を除いて、他の詳細は実施例10又は12の通りである。
【0184】
10分間のアッセイ後(トリクロル酢酸の添加前)のリン酸の遊離は、10mg/mlのモリブデン酸アンモニウム及び0.38mg/mlのマラカイトグリーンを含有する150μlの1N塩酸を、100μlのアッセイに添加することにより測定する。室温(18〜25℃)で20分後、620nmの吸光度を測定する。この形式では、250μlの試料の吸光度をプレートリーダ上で読み取る。
【0185】
その後、PPMホスファターゼ活性を前記第1及び第2試料で比較し、活性が前記第2の試料より前記第1の試料の方が低い場合、前記阻害剤候補は、糖尿病又は肥満の薬物に使用する候補薬剤として特定される。
【0186】
上記の明細書中で言及された刊行物は全て、参照により本明細書中に組み込まれる。記載された本発明の態様及び実施形態の種々の改変及び変更は、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱せずに明白であろう。本発明は特定の好ましい実施形態と関連して記載されたが、特許請求された本発明は、そのような特定の実施形態に不当に限定されないことが理解されるべきである。実際、当業者にとって明白である、本発明を実行するための記載された様式の種々の改変は、以下の特許請求の範囲内にあることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病又は肥満用薬物において使用する候補薬剤を同定するための方法であって、前記方法が、
(i)PPMホスファターゼの阻害剤候補を準備することと、
(ii)PPMホスファターゼを含む第1及び第2の試料を準備することと、
(iii)前記阻害剤候補を、PPMホスファターゼを含む前記第1の試料と接触させることと、
(iv)前記第1及び第2試料をPPMホスファターゼ活性についてアッセイすることとを含み、
前記PPMホスファターゼが、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、及びPPM1Mからなる群から選択され、
前記PPMホスファターゼ活性が前記第2の試料より前記第1の試料の方が低い場合、前記阻害剤候補が糖尿病又は肥満用薬物において使用する候補薬剤であると同定される方法。
【請求項2】
PPMホスファターゼがPPM1E及び/又はPPM1Fである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
障害が糖尿病である、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
糖尿病がII型糖尿病である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
阻害剤候補がメトホルミン又はフェンホルミンの類似体又は誘導体である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
対象のPPMホスファターゼを阻害することを含む、糖尿病若しくは肥満を治療又は予防するための方法。
【請求項7】
PPMホスファターゼが、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、及びPPM1Mからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
PPMホスファターゼがPPM1Eである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PPMホスファターゼがPPM1Fである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
PPM型タンパク質ホスファターゼの阻害におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用であって、前記PPMホスファターゼが、PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、及びPPM1Mからなる群から選択される使用。
【請求項11】
PPM型タンパク質ホスファターゼがPPM1E又はPPM1Fである、請求項10に記載のメトホルミン又はフェンホルミンの使用。
【請求項12】
PPM1E、PPM1F、PPM1J、PPM1K、PPM1L、及びPPM1Mからなる群から選択されるPPMホスファターゼの阻害に使用するメトホルミン又はフェンホルミン。
【請求項13】
PPMホスファターゼ阻害剤として使用する組成物におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用。
【請求項14】
AMPKのリン酸化の亢進又は維持におけるフェンホルミン又はその類似体の使用。
【請求項15】
AMPKの脱リン酸化におけるPPM1E又はPPM1Fの使用。
【請求項16】
p21活性化キナーゼ(PAK)の活性化におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用。
【請求項17】
Ca2/カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII)の脱リン酸化の阻害におけるメトホルミン又はフェンホルミンの使用。
【請求項18】
薬物として使用する、請求項1〜5のいずれかに記載の方法により同定された薬剤。
【請求項19】
糖尿病又は肥満用薬物を製造するための、請求項1〜5のいずれかに記載の方法により同定された薬剤の使用。
【請求項20】
糖尿病又は肥満の治療に使用するための、請求項1〜5のいずれかに記載の方法により同定された薬剤。
【請求項21】
糖尿病若しくは肥満を治療又は予防するための方法であって、請求項18又は19のいずれかに記載の薬物を含有する組成物を対象に投与することを含み、前記薬物がメトホルミン又はフェンホルミンを含まない方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2010−510797(P2010−510797A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538780(P2009−538780)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004561
【国際公開番号】WO2008/065397
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(504171433)メディカル リサーチ カウンシル (16)
【Fターム(参考)】