説明

アップコンバージョンのためのポリマーの使用、およびアップコンバージョンのためのデバイス

本発明は、ポリマーおよび増感剤を含む、光エネルギのアップコンバージョンのための系に関する。前記ポリマーの三重項レベルは、前記増感剤の三重項レベルよりも低い。前記系は、アップコンバージョンの間、非常に効率的であり、従って、従来技術により用いられるポリマーと比較して、アップコンバージョンのために用いられるデバイスにおける使用に、より適している。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
「アップコンバージョン」という現象、すなわち、より低いエネルギの2個以上の光子の同時のまたは順次の吸収による、より高いエネルギの光子の発生は、既に、多くの有機材料において観察されている(T. Kojei et al., Chem. Phys. Lett. 1998, 298, 1;G. S. He et al., Appl. Phys. Lett. 1996, 68, 3549;R. Schroeder et al., J. Chem. Phys. 2002, 116, 3449;J. M. Lupton, Appl. Phys. Lett. 2002, 80, 186;C. Bauer et al., Adv. Mater. 2002, 14, 673)。この現象は、しばしば、パルスレーザからの比較的高い光量の使用に関係する。これについて記載されているメカニズムは、広い二光子吸収断面積を有する分子による二光子吸収(非線形光学効果)、高いポンプ強度(pump intensity)または多段階励起プロセスによる、さらに励起した状態への励起である。これらのメカニズムの利用は、比較的高コストを伴うために、実用上の障害となっている。しかしながら、このことは、非常に望ましいことであり、というのも、しばしば、応用に効果的なのは、スペクトルのより高エネルギ部分(青色)のみであるためである。アップコンバージョンは、スペクトルのより低エネルギのより赤色の部分をも利用することを可能にする。つまり、アップコンバージョンについての1つの可能性のある用途は、有機太陽電池(O−SC)の分野においてである。従って、光から自由電荷担体を発生させる青色光およびUV光のみならず、緑色または赤色も、これらからより高いエネルギの青色光、または可能な場合は直接に自由電荷担体を発生させることができれば用いることができる。さらなる応用は、有機発光ダイオードの分野においてであり、例えば、青色光の発生のための、または青色および赤色/黄色の同時発光による白色光発生のためのものである。しかしながら、さらなる用途も可能であって、例えば、有機青色レーザーにおいて、市販のグリーンレーザによってポンプすることができる。散乱および線形吸収を低減することができ、材料の光安定性を増すことができる。さらなる可能性のある応用は、例えば、架橋反応においてであり、ここで緑色光の使用によりUV光を発生することができ、増感剤へのその作用は、架橋反応を開始することを可能にする。なおさらなる可能性のある応用は、スイッチであり、ここで、比較的狭帯域の増感剤が吸収する、ある波長のみが青色光の放射を引き起こす。光データ記憶装置、化学センサ、温度センサ、生物学的および医学的応用などのための系も可能である。
【0002】
アップコンバージョンは、最近、増感剤として白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)でドープしたメチル置換の導体ポリマー(MeLPPP)を含む系において(S. A. Bagnich, H. Baessler, Chem. Phys. Lett. 2003, 381, 464)、増感剤としてパラジウムオクタエチルポルフィリン(PdOEP)でドープしたポリフルオレンに関して(EP 1484378)、および金属(II)オクタエチルポルフィリンでドープしたポリフルオレンに関して(P. E. Keivanidis et al., Adv. Mater. 2003, 15, 2095)記載されている。金属錯体の存在は、レーザのポンプ強度を、金属錯体を含まない単純なポリフルオレン系におけるアップコンバージョンと比較して、5桁低減させることを可能にした。しかしながら、アップコンバージョンの効率はなお低く、ポリフルオレンの直接励起と比較した、金属錯体の励起時のポリフルオレンの積算の光ルミネセンスの比は、パラジウムポルフィリンについて1:5000と測定された。白金ポルフィリンの使用は、この効率を、18倍改善することを可能にし、約1:300の比を示した。しかしながら、古典的なマトリックス−ゲスト系で予測されるように、これらの系において金属錯体の発光が優先的に得られる。
【0003】
従って、ポリフルオレン、および増感剤として金属ポルフィリン錯体を含む系は、既に、アップコンバージョン効率を著しく高めることを可能にした。しかしながら、アップコンバージョンにおけるさらに著しい増加を達成すること、およびさらに、重金属含有化合物による発光を減じることが、応用のためには望ましいであろう。従って、この研究の目的は、アップコンバージョン効率を、1:5000または1:300から、少なくとも1桁から1:30を超えるまで増加させることであった。
【0004】
驚くべきことに、重原子を含有する化合物(増感剤)を伴うポリマーは、アップコンバージョン効率に関して、非常に良好であり、特に、増感剤の最も低い三重項レベルが、ポリマーの最も低い三重項レベルよりも高い場合に、従来技術よりも優れた性質を有する。これは、アップコンバージョン効率を、1桁を超えて増加させることができる(1:300から1:30を超えるまで)。
【0005】
さらに、驚くべきことに、重原子を含有する化合物(増感剤)とともに、縮合芳香族環系を有するポリマーは、アップコンバージョン効率に関して、同様に非常に良好であり、従来技術よりも優れた性質を有する。
【0006】
従って、本発明は、アップコンバージョンのための、このタイプの系の使用、およびアップコンバージョンのためにこれらの系を含む光学デバイスおよび電子デバイスに関する。
【0007】
従って、本発明は、少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含む系の使用に関し、アップコンバージョンのために、上記増感剤の三重項レベルが、上記ポリマーの三重項レベルよりも高い、好ましくは少なくとも0.05eV高い、特に好ましくは少なくとも0.1eV高いことを特徴とする。
【0008】
本発明の目的上、「アップコンバージョン」という語は、より低いエネルギの光子の吸収後の、より高いエネルギの光子またはより高いエネルギの電子状態の発生を意味するものと解釈される。本発明による系において、これは、既知の、記載されたメカニズムにより、または P. E. Keivanidis(Adv. Mater. 2003, 15, 2095)に記載されているように進行し得る。この語は、同様に、電気的に発生したより低いエネルギの励起状態からの、より高いエネルギの光子の発生を意味するものと解釈される。
【0009】
本発明は、さらに、少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含む系であって、上記ポリマーは、特に電子デバイスおよび/または光学デバイスにおいて、アップコンバージョンのための、少なくとも1モル%、好ましくは少なくとも5モル%、特に好ましくは少なくとも10モル%の縮合芳香族環系を含むことを特徴とする系の使用に関する。
【0010】
本発明の好ましい態様において、増感剤の三重項レベルが、ポリマーの三重項レベルよりも高いと同時に、ポリマーは、少なくとも1モル%、好ましくは少なくとも5モル%、特に好ましくは少なくとも10モル%の縮合芳香族環系を含む。
【0011】
化合物の三重項エネルギとは、最低三重項状態T1と一重項基底状態S0間のエネルギ差を意味するものと解釈される。一重項基底状態S0の位置は、好ましくは、サイクリックボルタンメトリーを用いて、既知の標準に対する酸化電位(HOMOのエネルギレベル)の測定により決定される。T1とS0間のエネルギ差は、例えば D. Hertel 等(J. Chem. Phys. 2001, 115, 10007)に記載されているように、好ましくは分光法により決定される。真空電位E=0に対する三重項レベルの絶対位置は、基底状態S0(HOMOのエネルギレベル)のエネルギと、分光的に決定したT1およびS0間のエネルギ差の合計により与えられる。
【0012】
本発明の目的上、増感剤とは、入射波長の領域で光を吸収し、それによって三重項状態に変換され、続いて、適切な場合には、これをポリマーに伝達することができる化合物を意味するものと解釈される。ここで増感剤の三重項レベルは、好ましくは、ポリマーの三重項レベルよりも高い。
【0013】
増感剤は、好ましくは、38を超える原子番号を有する少なくとも1種の重原子、好ましくは38を超える原子番号を有する遷移金属、特に好ましくはタングステン、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金または金を含有する。増感剤は、あるいは、ポリマーに共有結合されていてもよく、その際は、アップコンバージョン系として単一のコポリマーを用いることができることを意味する。
【0014】
本発明の目的上、縮合芳香族環系とは、少なくとも2つの芳香族環または複素芳香族環、例えばベンゼン環が、互いに「縮合されて」いる、すなわち、アネレーションにより互いに縮合されている、つまり、少なくとも1つの共通の端部を有し、従って、共通の芳香族系を有する環系を意味するものと解釈される。これらの環系は、置換されていても置換されていなくてもよく、存在するどの置換基も、同様に、さらなる環系を形成していてもよい。つまり、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン等のような系が、縮合芳香族環系としてみなされる一方で、例えば、ビフェニル、フルオレン、スピロビフルオレン等は、縮合芳香族環系ではない。
【0015】
ポリマーは、共役していてもよいし、部分的に共役するか、または非共役であってもよい。好ましい態様において、ポリマーは、共役するか、または部分的に共役し、特に好ましい態様においては、ポリマーは共役する。
【0016】
本発明の目的上、共役ポリマーは、主鎖中に、主にsp混成(またはsp混成)炭素原子(これは、対応するヘテロ原子により置き換えられていてもよい)を含有するポリマーである。最も単純な場合においては、このことは、主鎖における二重結合と単結合の交互の存在を意味する。共役の中断をもたらす、(さらなる援助を必要とせず)自然に発生する欠損は、「共役ポリマー」という語の価値を減じないことを主に意味する。さらに、共役という語は、同様に、アリールアミン単位、アリールホスフィン単位、および/若しくはある種のヘテロ環(すなわち、N、O、SまたはP原子を介して共役)、並びに/または有機金属錯体、例えばイリジウム錯体または白金錯体のようなもの(金属原子を介して共役)が、主鎖中に位置する場合も、本明細書においては用いられる。本発明の目的上、部分的に共役したポリマーは、主鎖中に非共役部位により中断されている比較的長い共役部位を有するポリマー、または主鎖が非共役であるポリマーの側鎖中に比較的長い共役部位を有するポリマーである。これに対して、例えば単純アルキレン鎖、(チオ)エーテル架橋、エステル、アミドまたはイミド結合のような単位は、明らかに、非共役部位として定義される。
【0017】
本発明によれば、縮合芳香族環系を、ポリマーの主鎖および/または側鎖中に組み込むことができる。側鎖中に組み込む場合には、環系がポリマー主鎖と共役状態にあるか、または環系がポリマー主鎖と非共役状態にあることが可能である。本発明の好ましい態様において、縮合芳香族環系はポリマー主鎖と共役状態にある。本発明の特に好ましい態様において、縮合芳香族環系はポリマー主鎖の一部である。
【0018】
縮合芳香族環系は、好ましくは、2〜8個の芳香族単位を含み、これらは、それぞれの場合に、1つ以上の共通の端部を介して互いに縮合して、共通の芳香族系を形成し、かつこれらは置換されていても置換されていなくてもよく、置換基はさらなる環系を形成していてもよい。縮合芳香族環系は、特に好ましくは、2〜6個の芳香族単位、特に3〜5個の芳香族単位を有し、これらは、それぞれの場合に、1つ以上の共通の端部を介して互いに縮合して、共通の芳香族系を形成し、且つこれらは置換されていても置換されていなくてもよく、ここで、置換基はさらなる環系を形成していてもよい。
【0019】
互いに縮合された芳香族単位は、非常に特に好ましくは、ベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、およびチオフェンから選択され、これらのそれぞれは、置換されていても置換されていなくてもよく、特に好ましくはベンゼンおよびピリジンであり、これらのそれぞれは、置換されていても置換されていなくてもよい。
【0020】
可能性のある置換基は、ここでは、C〜C40炭素含有基から選択される。本発明の目的上、C−C40炭素含有基とは、好ましくは、以下の基を意味するものと解釈される。C−C40アルキル基、特に好ましくはメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、s−ペンチル、シクロペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−オクチルまたはシクロオクチル、C−C40アルケニル基、特に好ましくはエテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、シクロペンテニル、ヘキセニル、シクロヘキセニル、オクテニルまたはシクロオクテニル、C−C40アルキニル基、特に好ましくはエチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルまたはオクチニル、C−C40フルオロアルキル基、特に好ましくはトリフルオロメチル、ペンタフルオロエチルまたは2,2,2−トリフルオロエチル、C−C40アリール基、特に好ましくはフェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセニル、トリフェニレニル、[1,1’;3’,1’’]テルフェニル−2’−イル、ビナフチルまたはフェナントレニル、C−C40フルオロアリール基、特に好ましくはペンタフルオロフェニル、3,5−ビストリフルオロメチルフェニル、ペンタフルオロベンジリデン、3,5−ビストリフルオロメチルベンジリデン、テトラフルオロフェニルまたはヘプタフルオロナフチル、C−C40アルコキシ基、特に好ましくはメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、s−ブトキシまたはt−ブトキシ、C−C40アリールオキシ基、特に好ましくはフェノキシ、ナフトキシ、ビフェニルオキシ、アントラセニルオキシ、フェナントレニルオキシ、C−C40アリールアルキル基、特に好ましくはo−トリル、m−トリル、p−トリル、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジエチルフェニル、2,6−ジ−i−プロピルフェニル、2,6−ジ−t−ブチルフェニル、o−t−ブチルフェニル、m−t−ブチルフェニル、p−t−ブチルフェニル、C−C40アルキルアリール基、特に好ましくはベンジル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチルまたはナフタレニルメチル、C−C20アリールオキシアルキル基、特に好ましくはo−メトキシフェニル、m−フェノキシメチル、p−フェノキシメチル、C12−C40アリールオキシアリール基、特に好ましくはp−フェノキシフェニル、C−C40ヘテロアリール基、特に好ましくは2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、キノリニル、イソキノリニル、アクリジニル、ベンゾキノリニルまたはベンゾイソキノリニル、C−C40ヘテロシクロアルキル基、特に好ましくはフリル、ベンゾフリル、2−ピロリジニル、2−インドリル、3−インドリル、2,3−ジヒドロインドリル、C−C40アリールアルケニル基、特に好ましくはo−ビニルフェニル、m−ビニルフェニル、p−ビニルフェニル、C−C40アリールアルキニル基、特に好ましくはo−エチニルフェニル、m−エチニルフェニルまたはp−エチニルフェニル、C−C40−ヘテロ原子含有基、特に好ましくはカルボニル、ベンゾイル、オキシベンゾイル、ベンゾイルオキシ、アセチル、アセトキシまたはニトリル、ここで1個以上のC−C40炭素含有基は環系を形成していてもよい。
【0021】
特に好ましい縮合芳香族環系の例は、式(1)〜(24)の構造であり、これらのそれぞれは、いずれかの所望の位置において、ポリマーへの1つ以上の結合を有し、好ましくはポリマーへの2つの結合を有し、かつこれらのそれぞれは、1個以上の置換基Rにより置換されていてもよく、ここで置換基Rの数は最大で置換できるH原子の数に一致する:
【化2】

【0022】
ここで、以下がRに適用される。すなわち、
Rは、各々の出現について同一であるか異なり、H、F、Cl、Br、I、NO、CN、1〜40個のC原子を有する直鎖の、分枝の若しくは環状のアルキル基若しくはアルコキシ基(ここで、1個以上の非隣接のCH基は、C=O、C=NR、−RC=CR−、−C≡C−、−O−、−S−、−NR−、Si(Rまたは−CONR−により置き換えられていてもよく、かつ1個以上のH原子は、F、Cl、Br、I、CN、NOにより置き換えられていてもよい)、または4〜40個のC原子を有する芳香族環系若しくは複素芳香族環系(これらは、1個以上の非芳香族のR基により置換されていてもよい)、またはこれらの基の2〜4個の組み合わせであり、ここで2個以上の置換基Rは互いにさらなる単環または多環の脂肪族環系または芳香族環系を形成していてもよく、
は、各々の出現について同一であるか異なり、H、または1〜20個のC原子を有する脂肪族炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基であり、2個以上のR基、またはR基とR基は、さらなる単環または多環の脂肪族環系または芳香族環系を形成していてもよい。
【0023】
本発明の目的上、芳香族環系または複素芳香族環系は、必ずしも芳香族基または複素芳香族基のみを含む系ではなく、複数の芳香族基または複素芳香族基に、例えばsp混成C、OまたはN原子等のような短い非芳香族単位(H以外の原子の10%未満、好ましくはH以外の原子の5%未満)が介在していてもよい系を意味するものと解釈されることが意図されている。つまり、例えば、9,9’−スピロビフルオレン、9,9−ジアリールフルオレン、トリアリールアミン、ジアリールエーテル等のような系も、本発明の目的上、芳香族環系を意味するものと解釈されることが意図されている。
【0024】
縮合芳香族環系または式(1)〜(24)の単位が、ポリマーへの結合を1つのみ有する場合には、ポリマーの側鎖中へのこれらの単位の組み込みを意味する。縮合芳香族環系または式(1)〜(24)の単位が、ポリマーへの結合を2つ有する場合には、ポリマーの主鎖中へのこれらの単位の組み込みを意味する。縮合芳香族環系または式(1)〜(24)の単位が、ポリマーへの結合を2つを超えて有する場合には、ポリマー鎖の分枝を意味する。
【0025】
縮合芳香族環系に加えて、ポリマーは好ましくはさらなる構造要素も含む。特に、WO 02/077060 中の比較的広範囲に渡るリストと、ここに挙げられる文献を参照してほしい。これらのさらなる構造単位は、例えば、以下に記載される群に由来し得る。
【0026】
群1:ポリマー骨格に相当するコモノマー
この群の単位は、6〜40個のC原子を有する芳香族、炭素環式の構造である。フルオレン誘導体(例えば、EP 0842208, WO 99/54385, WO 00/22027, WO 00/22026, WO 00/46321)がここでは考慮される。スピロビフルオレン誘導体(例えば、EP 0707020, EP 0894107, WO 03/020790)もさらに、可能性がある。WO 02/077060 に開示されているが、2つの最初に述べたモノマー単位の組み合わせを含むポリマーは、既に提案されている。しかしながら、形態、および得られるポリマーの発光色に影響を与えることができる他の構造要素も見込まれる。6〜40個のC原子を有する置換または無置換の芳香族構造、またはスチルベン、ビススチリルアリーレンまたはトラン誘導体、例えば、1,4−フェニレン、テトラヒドロピレニレン、ジヒドロフェナントレニレン、4,4’−ビフェニリレン、4,4’’−テルフェニリレン、インデノフルオレン、4,4’−スチルベニル、4,4’’−ビススチリルアリーレン、または4,4’−トラニレン誘導体のようなものが好ましい。ポリマー骨格に好ましい単位は、スピロビフルオレンおよびフルオレンである。
【0027】
群2:高いHOMOを有するコモノマー
これらは一般的に芳香族アミンか電子リッチなヘテロ環であり、例えば、置換または無置換のトリアリールアミン、ベンジジン、テトラアリーレン−パラフェニレンジアミン、フェノチアジン、フェノキサジン、ジヒドロフェナジン、チアントレン、ジベンゾ−p−ジオキシン、フェノキサチイン、カルバゾール、アズレン、チオフェン、ピロール、フラン、および高いHOMO(HOMO=最高被占軌道)を有する他のO−、S−またはN−含有ヘテロ環のようなものである。
【0028】
群3:低いLUMOを有するコモノマー
これらは一般的に電子欠損芳香族またはヘテロ環であり、例えば、置換または無置換のピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、またはオキサジアゾールのようなもの、並びにトリアリールボランおよび低いLUMO(LUMO=最低空軌道)を有する他のO−、S−若しくはN−含有へテロ環のような化合物である。
【0029】
群1〜3の1つからの1を超える構造単位が同時に存在することも、ここでは許容される。
【0030】
ポリマーはさらに金属錯体を含んでいてもよく、この金属錯体は一般的に1つ以上の配位子と1つ以上の金属中心から形成され、主鎖または側鎖中に結合する。このタイプのコモノマーが存在する場合には、良好なアップコンバージョン効率を達成するのに、増感剤としての別個の重原子含有化合物の使用は必ずしも必要ではない。
【0031】
縮合芳香族環系に加えて、同時にさらに、群1〜3から選択される1つ以上の単位を含むポリマーが好ましい。縮合芳香族環系に加えて、群1からの単位を含む、非常に特に好ましくは少なくとも30モル%のこれらの単位を含むポリマーがここでは好ましい。
【0032】
さらに、5〜80モル%の割合の縮合芳香族環系が好ましい。10〜50モル%の割合の縮合芳香族環系が特に好ましい。
【0033】
本発明によるコポリマーは、ランダム構造、交互構造、またはブロック様構造を有していてもよく、または交互の配列で複数のこれらの構造を有していてもよい。同様に、ポリマーは、線状構造または分枝構造を有していてもよく、または樹枝状構造を有していてもよいということを、ここで強調しておく。
【0034】
本発明によるポリマーは、一般的に、10〜10,000、好ましくは20〜5000、特に好ましくは50〜2000の繰り返し単位を有する。
【0035】
ポリマーの必要な溶解性は、特に、種々の繰り返し単位上の置換基、縮合芳香族環系の置換基と、他の繰り返し単位上の置換基の双方により保証される。
【0036】
骨格としてスピロビフルオレンを含み、種々の縮合芳香族環系を含み得るポリマー、およびこれらのモノマー単位とポリマーの合成は、例えば、WO 03/020790 に詳細に記載されている。
【0037】
その三重項レベルが、用いる増感剤の三重項レベルよりも低いポリマー、および/または縮合芳香族環系を含むポリマーの使用は、Adv. Mater. 2003, 15, 2095 に記載されているポリフルオレンと白金ポルフィリン(PtOEP)を含む系(この系に三重項エネルギのこの比は当てはまらず、この系は、いかなる縮合芳香族環系も含まず、最も近い従来技術を示す)と比較して、1桁を超えるアップコンバージョン効率における顕著な増加を生じる。
【0038】
これは、特に、ポリマーの三重項レベルが、増感剤のものよりも低く、かつポリマーが縮合芳香族環系を含む場合に当てはまる。PtOEPドープのポリフルオレン膜におけるアップコンバージョンの正確なメカニズムは、現在まで解明されていない。従って、何故、アップコンバージョンの現象が、従来技術による単純な系と比較して、本発明による系において1桁を超えてより効率的であるのかは明らかでない。上記した結果は、従って、予期せぬことであり、驚くべきことである。特定の理論に拘束されることを望まないが、我々は、増感剤からポリマーへ移行される三重項状態が、おそらく、続いて消滅し(三重項−三重項消滅)、ポリマーの励起した一重項状態を生じ、これは続いて、青色蛍光を発光するということを推測している。縮合芳香族環系、または増感剤のものよりも低い三重項レベルをもたらす他の単位との共重合を通じてのみ、アップコンバージョンにおける大幅な増加が得られる。
【0039】
本発明は、さらに、少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含むアップコンバージョンのための系であって、上記増感剤の三重項レベルはポリマーのものよりも高く、および/または上記ポリマーは少なくとも1モル%の縮合芳香族環系を含むことを特徴とする系に関する。これらの系の使用についての上記した好ましさは、ここでも当てはまる。
【0040】
本発明は、さらに、少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含む、アップコンバージョンのための光学デバイスおよび/または電子デバイスであって、上記増感剤の三重項レベルが上記ポリマーのものよりも高く、および/または上記ポリマーは少なくとも1モル%の縮合芳香族環系を含むことを特徴とする光学デバイスおよび/または電子デバイスに関する。これらのデバイスは、例えば、有機太陽電池(O−SC)であってよく、また、他の光学デバイスまたは電子デバイス、例えば、有機発光ダイオード(OLED)または有機レーザ(O−laser)であってもよい。
【0041】
上に示した記載は、ポリマーを含む系に関してのみであるが、当業者には、これらの記載を、さらなる発明を必要とすることなく、オリゴマーおよびデンドリマーに適用することは容易である。従って、本発明は、このタイプのオリゴマーおよびデンドリマーの使用に関する。
【0042】
本発明を、以下の例によってさらに詳しく説明するが、これらに制限されることを望まない。
【0043】
例:
例1:モノマー合成
モノマー(M)の構造を以下に示す。合成は、WO 03/020790 およびここに挙げられる文献に記載されている。9,10−ジブロモアントラセンを、アルドリッチ社から得て、ジオキサンからの再結晶によりさらに精製した。
【化3】

【0044】
例2:ポリマー合成
ポリマーを、WO 03/048225 に記載されているように、スズキカップリングにより合成した。ここで用いたポリマーP1の組成は、50モル%のM1、10モル%のM2、10モル%のM3および30モル%のM4である。
【0045】
用いた比較ポリマーC1は、最も近い従来技術(P.E. Keivanidis et al., Adv. Mater. 2003, 15, 2095)による、ポリ[2,7−(9,9−ビス(2−エチルヘキシル)フルオレン)](H.G. Nothofer et al., Macromol. Symp. 2000, 154, 139)であった。用いた他の比較ポリマーC2は、50モル%のM1と50モル%のM2を含むスピロビフルオレンホモポリマーであり、これは、ポリマーP1と同じポリマー骨格を含むが、縮合芳香族環系を含まない。双方の比較ポリマーは、構造的に、および/または電子的にポリマーP1に類似している。
【0046】
例3:三重項エネルギの測定
化合物の三重項エネルギは、時間分解光ルミネセンス分光法により測定した。実験手法の詳細は、文献(D. Hertel et al., J. Chem. Phys. 2002, 115, 10007)に記載されている。
【0047】
アントラセン−スピロビフルオレンコポリマーP1について、最も低い三重項エネルギは分光学的に1.77eVと測定された(図1)。比較ポリマーC1の三重項エネルギは2.18eVであり、これは文献に記載されている(D. Hertel et al., J. Chem. Phys. 2002, 115, 10007)。比較ポリマーC2の最も低い三重項エネルギは分光学的に2.2eVと測定された(図2)。本試験系における増感剤PtOEPの三重項エネルギは1.91eVである。従って、増感剤の三重項エネルギはポリマーP1のものよりも高いが、比較ポリマーC1およびC2のものよりは低い。
【0048】
例4:アップコンバージョンにおける、ポリマーP1、並びに比較ポリマーC1およびC2の使用
調べた試験系は、白金オクタエチルポルフィリン(PtOEP)を0.1〜2.0重量%(ポリマーに基づく)の濃度でドープした、例2に記載したアントラセン−スピロビフルオレンのコポリマーP1、または比較ポリマーC1およびC2から成っていた。混合物の分光特性決定のために、薄膜を、石英基板上にスピンコーティングにより生成した。サンプルを、PtOEPのS→S0−0遷移に対応する、2.31eVのエネルギのパルスOPOレーザー系(537nm)を用いて、真空サンプルホルダ(10−6mbar)中で励起させた。サンプルによる発光は、分光計を用いてスペクトル的に分散させ、光学マルチチャネルアナライザ(OMA III、EG&G)により検出した。アップコンバージョンの測定のために、励起パルスに対して50nsの遅延を伴う、10msの検出ウインドウを選択した。典型的な励起パワーは、2mmのスポット直径を有し、50uJ/パルスであった。シグナル/ノイズ比を改善するために、100を超えるレーザパルスを累積した。ドーパントPtOEPを励起させると、ポリマーマトリックスの青色蛍光が観察された。これは、ポリマーP1の直接的な励起に起因するものでない。というのは、これは、2.31eV(537nm)の励起エネルギにおいて吸収しないためである。従って、ルミネセンスは、ドーパントの存在により引き起こされているはずである。さらに、直接の比較において、青色蛍光の強度は、従来技術によるポリフルオレンC1を含むマトリックスの使用時と比較して、ポリマーP1で、10倍(約1:300〜1:30を超えるまで)強い。従って、ポリマーP1におけるアップコンバージョンは、これまで青色発光共役ポリマーについて記載されたものと比較して、1桁、より効率的である。
【0049】
さらに、このコポリマー中のアントラセンの存在は、三重項レベルの位置について重要であり、従って、アップコンバージョン効率における改善について重要である。ポリスピロビフルオレンホモポリマーC2を含むマトリックスとの比較は、この材料のアップコンバージョンは、ドープしたポリフルオレンC1におけるアップコンバージョンと同程度であるということを示した。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】記載なし。
【図2】記載なし。
【図3】記載なし。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アップコンバージョンのための、少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含む系の使用であって、前記増感剤の三重項レベルが、前記ポリマーの三重項レベルよりも高いことを特徴とする系の使用。
【請求項2】
アップコンバージョンのための、少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含む系の使用であって、前記ポリマーは少なくとも1モル%の縮合芳香族環系を含有することを特徴とする系の使用。
【請求項3】
前記増感剤の三重項レベルは前記ポリマーの三重項レベルよりも高く、かつ前記ポリマーは少なくとも1モル%の縮合芳香族環系を含有することを特徴とする請求項1および請求項2に記載の系の使用。
【請求項4】
前記増感剤は38を超える原子番号を有する少なくとも1種の重原子を含有することを特徴とする請求項1〜3の一項以上に記載の系の使用。
【請求項5】
前記ポリマーは共役していることを特徴とする請求項1〜4の一項以上に記載の系の使用。
【請求項6】
前記増感剤の三重項レベルは前記ポリマーの三重項レベルよりも少なくとも0.05eV高いことを特徴とする請求項1〜5の一項以上に記載の系の使用。
【請求項7】
前記増感剤の三重項レベルがは前記ポリマーの三重項レベルよりも少なくとも0.1eV高いことを特徴とする請求項6に記載の系の使用。
【請求項8】
前記縮合芳香族環系の割合は5〜80モル%であることを特徴とする請求項1〜7の一項以上に記載の系の使用。
【請求項9】
前記縮合芳香族環系の割合は10〜50モル%であることを特徴とする請求項8に記載の系の使用。
【請求項10】
前記縮合芳香族環系は前記ポリマー主鎖中に組み込まれていることを特徴とする請求項1〜9の一項以上に記載の系の使用。
【請求項11】
前記縮合芳香族環系は2〜8個の芳香族単位を含み、これらはそれぞれの場合において、1つ以上の共通の端部を介して互いに縮合して、共通の芳香族系を形成し、かつこれらは置換されていても置換されていなくてもよく、ここで、置換基はさらなる環系を形成していてもよいことを特徴とする請求項1〜10の一項以上に記載の系の使用。
【請求項12】
前記縮合芳香族環系は3〜5個の芳香族単位を含有し、これらは、それぞれの場合において、1つ以上の共通の端部を介して互いに縮合して、共通の芳香族系を形成し、かつこれらは置換されていても置換されていなくてもよく、ここで、置換基はさらなる環系を形成していてもよいことを特徴とする請求項11に記載の系の使用。
【請求項13】
互いに縮合している芳香族単位は、ベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジンおよびチオフェンから選択され、これらのそれぞれは置換されていても置換されていなくてもよいことを特徴とする請求項11および/または12に記載の系の使用。
【請求項14】
前記縮合芳香族環系は式(1)〜(24)の構造から選択されることを特徴とする請求項11〜13の一項以上に記載の系の使用。
【化1】

【請求項15】
前記縮合芳香族環系に加えて、前記ポリマーはさらなる構成要素を含み、これらは、フルオレン誘導体、スピロビフルオレン誘導体、1,4−フェニレン誘導体、ジヒドロフェナントレニレン誘導体、テトラヒドロピレニレン誘導体、4,4’−ビフェニリレン誘導体、4,4’’−テルフェニリレン誘導体、インデノフルオレニレン誘導体、4,4’−スチルベニル誘導体、4,4’’−ビススチリルアリーレン誘導体、トラニレン誘導体、およびこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1〜14の一項以上に記載の系の使用。
【請求項16】
前記ポリマーは、主鎖または側鎖に結合された金属錯体を含むことを特徴とする請求項1〜15の一項以上に記載の系の使用。
【請求項17】
少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含む、アップコンバージョンのための系であって、前記増感剤の三重項レベルが前記ポリマーの三重項レベルよりも高いことを特徴とする系。
【請求項18】
少なくとも1種のポリマーと、少なくとも1種の重原子を含有する少なくとも1種の増感剤とを含む、アップコンバージョンのための系であって、前記ポリマーは少なくとも1モル%の縮合芳香族環系を含むことを特徴とする系。
【請求項19】
請求項17および/または18に記載の少なくとも1つの系を含む、アップコンバージョンのための光学デバイスおよび/または電子デバイス。
【請求項20】
有機太陽電池、有機発光ダイオード、または有機レーザであることを特徴とする請求項19に記載の光学デバイスおよび/または電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−506798(P2008−506798A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520762(P2007−520762)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007671
【国際公開番号】WO2006/008068
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(597035528)メルク パテント ゲーエムベーハー (209)
【Fターム(参考)】