説明

アデノウイルスベクターに基づくマラリアワクチン

本発明は、プロモーターに機能的に結合した異種抗原をコードする核酸配列(プラスモディウム属の核酸配列など)を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターを提供する。本発明はさらに、哺乳動物に該アデノウイルスベクターを投与することを含む、該哺乳動物でのマラリアに対する免疫応答を誘導する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦支援の研究開発に関する陳述)
本発明は、GenVec, Inc. と Naval Medical Research Center (NMRC) との間で締結されたCooperative Research and Development Agreement (CRADA) Number NMR-04-1869およびその修正に基づく政府の援助により部分的になされた。政府はこの発明において一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0002】
マラリアは、ヒトで発症する最も破壊的な寄生虫性疾患の1つである。実際、世界の人口の41%が、マラリアが伝染する地域(例えば、アフリカ、アジア、中東、中央アメリカおよび南アメリカ、イスパニョーラならびにオセアニアの一部)に居住している。世界保健機関(WHO)および疾病対策センター(CDC)は、年に3億〜5億人がマラリアに感染し、70万〜300万人が死亡し、死者の大半はサハラ以南のアフリカの子供であると見積もっている。マラリアはまた、世界の熱帯地域に配置された米国軍兵士にとっても健康に関する主要な懸案事項である。例えば、2003年8月に、リベリアのモンロビアに一時的に配備された第26海兵隊進攻部隊および統合機動部隊の28%が、マラリア原虫であるプラスモディウム ファルシパラム(Plasmodium falciparum)に感染した。さらに、157名の海兵隊進攻部隊は、モンロビアのロバート国際空港に駐屯した12日間にわたって、44%のマラリアによる死傷者を被った。マラリア流行地域で行われた前世紀中の全ての紛争で、マラリアは死傷原因の第1位であり、任務から失われる「人日」に及ぼすその影響において、敵によって負わされた死傷者数を上回ってきた。
【0003】
米国の軍事作戦の間、マラリアと闘うために、予防薬、虫除け、およびバリアの使用はいくらか成果を挙げてきたが、マラリア原虫による薬剤耐性や蚊媒体による殺虫剤耐性の発生により、これらの薬剤の有効性は制限されてきた。その上、これらの薬剤の使用に伴う補給上の負担や副作用は、遵守されない割合が高いこととしばしば関連する。ワクチンは、感染症に対して最も費用対効果が優れており、かつ最も効率的な治療的介入である。この点で、ワクチン接種は軍の配備に先立って投与するという利点があり、遵守されないリスクをおそらくは減少させるだろう。しかしながら、数十年に及ぶマラリアワクチンに関する研究開発は成功していない。最近は、数種の特定のマラリア遺伝子に対するワクチンおよび送達ベクターシステム(アデノウイルス、ポックスウイルス、プラスミドを含む)の開発に集中した取り組みがなされてきた。マラリアワクチンの開発および臨床試験の現状は、例えばGraves and Gelband, Cochrane Database Syst. Rev., 1: CD000129 (2003)、Moore et al, Lancet Infect. Dis., 2: 737-743 (2002)、Carvalho et al., Scand. J. Immunol, 56: 327-343 (2002)、Moorthy and Hill, Br. Med. Bull, 62: 59-72 (2002)、Greenwood and Alonso, Chem. Immunol, 80: 366-395 (2002)、およびRichie and Saul, Nature, 415: 694-701 (2002) で概観されている。
【0004】
過去15〜20年にわたって、マラリア抗原に基づく合成ペプチドまたは組換えタンパク質を用いた、一連のフェーズ1/2ワクチン試験が報告されてきた。1998年現在で、およそ40の試験が報告された(Engers and Godal, Parisitology Today, 14: 56-64 (1998)参照)。これらの試験のほとんどは、プラスモディウム属の生活環のスポロゾイトステージまたは肝臓ステージに対して行われており、そこでは、実験的な蚊によるチャレンジを使用することにより、フェーズ1からフェーズ2a予備的効能研究への迅速な進行が可能となる。試験した抗スポロゾイトワクチンには、完全な合成ペプチド、(T細胞の助けを提供するための)破傷風トキソイドのような合成ペプチドのタンパク質との複合体、組換えマラリアタンパク質、粒子形成組換えキメラ構築物、組換えウイルス、ならびにバクテリアおよびDNAワクチンが含まれる。無性血液ステージワクチンのいくつかの試験では、合成ペプチド複合体か組換えタンパク質のどちらかが使用されてきた。伝播阻止ワクチン(組換えPfs25)の単一の試験もある。これらのワクチン接種戦略の全てにおいて多発する問題は、動物モデルでは強い免疫原性応答があるにもかかわらず、ヒトにおいては十分に強力かつ長期持続的な免疫応答を得ることが難しいということである。
【0005】
これらの制限を克服するために、主要なスポロゾイトコートタンパク質であるスポロゾイト周囲タンパク質(CSP)に対するワクチンの開発に加えて、強力な免疫刺激複合体またはヒトの応答を増強するアジュバントを開発することが探索されてきた。組換えタンパク質、ペプチド複合体、組換えタンパク質複合体およびキメラタンパク質を使用した抗CSPワクチンは、抗CSP抗体を導くことが示されている。かなりの取り組みが依然としてタンパク質に基づくワクチンの開発に対して行われているが、DNAやウイルスに基づくワクチンなどの代替技術は、少なくとも動物モデルにおいて免疫原性および防御効果の点でいくらか展望が見られた。
【0006】
これに関しては、プラスモディウム属抗原をコードするDNAワクチンが開発され、かつマウス(Sedegah et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 91: 9866-9870 (1994)、およびDoolan et al., J. Exp. Med., 183: 1739-1746 (1996)参照)ならびにサル (Wang et al., Science, 282: 476-480 (1998)、Rogers et al., Infect. Immun., 69: 5565-5572 (2001)、およびRogers et al., Infect. Immun., 70: 4329-4335 (2002)参照)において、CD8+ CTLおよびIFN−γ応答、ならびにスポロゾイトチャレンジに対する防御を誘導することができた。さらに、フェーズIとフェーズ2aの臨床試験により、正常な健常人における、マラリア抗原をコードするDNAワクチンの安全性、耐容性および免疫原性が立証された(例えば、Wang et al., Infect Immun., 66: 4193-41202 (1998)、Le et al., Vaccine, 18: 1893-1901 (2000)、およびEpstein et al., Hum. Gene Ther., 13: 1551-1560 (2002)参照)。しかしながら、非ヒト霊長類およびヒトにおける、第1および第2世代のDNAワクチンの免疫原性は次善のものであった。マウスモデルにおいてでさえも、DNAワクチンは免疫システムの両腕を活性化するのには効果的でなかった(例えば、Doolan et al., supra、Sedegah et al., supra、Sedegah et al., Proc. NatlAcad. Sci USA, 95: 7648-7653 (1998)、Zavala et al., Virology, 280: 155-159 (2001)、およびPardoll, Nat. Rev. Immunol, 2: 227-238 (2002)参照)。
【0007】
したがって、ヒト宿主にマラリア抗原を効率よく送達して、病気の発症を予防する及び/又は更なる感染からヒト宿主を防御する、改良された構築物が依然として必要である。本発明は、かかる構築物を提供する。本発明のこの利点および他の利点は、本明細書中で提供される詳細な記載により明らかになるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(本発明の簡単な要旨)
本発明は、3つ以上の異種抗原をコードする核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターを提供する。3つ以上の核酸配列は、少なくとも2つの異なるプロモーターに機能的に結合する。
【0009】
本発明は、2つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターも提供する。各核酸配列は、プラスモディウム属抗原をコードし、少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合する。
【0010】
本発明は、さらに、哺乳動物においてマラリアに対する免疫応答を誘導する方法を提供する。該方法は、哺乳動物に対して(a)3つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターであって、各核酸配列がプラスモディウム属の前赤血球ステージ抗原をコードし、かつ少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合したもの、および(b)2つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターであって、各核酸配列がプラスモディウム属血液ステージ抗原をコードし、かつ少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合したもの、を投与し、該抗原を該哺乳動物で発現させてマラリアに対する免疫応答を誘導することを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
1つの病原体の複数の抗原に対して宿主を免疫し、病原体のチャレンジに対して防御する1つのワクチン(すなわち、「多価」ワクチン)を開発することは、現在のワクチン方法論を超えるたくさんの利点を提供する。特に、多価ワクチンは、所定の病原体に対するより強力で幅広い宿主の応答を誘導し、かつ1つの病原体を標的にする複数のワクチンを調製して投与するよりも費用対効果に優れた代替手段である。したがって、本発明は、マラリアに対するアデノウイルスベクターに基づく多価ワクチンを提供する。この点において、本発明は、3つ以上の異種抗原をコードする核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターを提供する。3つ以上の核酸配列は、少なくとも2つの異なるプロモーターに機能的に結合する。本発明は、2つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターも提供する。該各核酸配列は、プラスモディウム属抗原をコードし、少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合する。
【0012】
アデノウイルス(Ad)は、36kbの2本鎖DNAウイルスであり、多種多様な異なる標的細胞タイプに、インビボでDNAを効率よく導入する。本発明における使用のために、ウイルスの複製に必要な選り抜きの遺伝子を全部または部分的に欠失させることにより、アデノウイルスを複製欠損にすることが好ましい。より大きなDNA挿入物のためのさらなるスペースを割り当てるために、犠牲にできるE3領域もまた、しばしば欠失させる。該ベクターは、高力価で製造することができ、かつ複製する細胞および複製しない細胞にDNAを効率よく導入することができる。新たに導入された遺伝情報は、染色体外にとどまるので、ランダム挿入変異や標的細胞の遺伝子型の永久的な変化のリスクをなくす。しかしながら、所望すれば、AAV−Adキメラベクターを構築することによって、AAVのインテグレーション特性をアデノウイルスに与えることができる。例えば、AAVのITRおよびRepタンパク質をコードする核酸をアデノウイルスベクターに組み入れることで、アデノウイルスベクターを哺乳動物細胞ゲノムに組み込むことができる。それゆえ、AAV−Adキメラベクターは、本発明における使用にとって望ましい選択肢の1つであり得る。
【0013】
多様な起源、サブタイプ、またはサブタイプの混成物に由来するアデノウイルスが、アデノウイルスベクターのためのウイルスゲノム源として使用され得る。非ヒトアデノウイルス(例えば、サル、トリ、イヌ、ヒツジまたはウシアデノウイルス)がアデノウイルスベクターを作成するのに使用され得るが、好ましくはヒトのアデノウイルスがアデノウイルスベクターのためのウイルスゲノム源として使用される。例えば、アデノウイルスは亜群A(例えば、血清型12、18および31)、亜群B(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35および50)、亜群C(例えば、血清型1、2、5および6)、亜群D(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22〜30、32、33、36〜39および42〜48)、亜群E(例えば、血清型4)、亜群F(例えば、血清型40および41)、未分類の血清型群(例えば、血清型49および51)または任意の他のアデノウイルスの血清型であり得る。アデノウイルス血清型1から51(すなわち、Ad1からAd51)はAmerican Type Culture Collection(ATCC,Manassas,VA)から入手可能である。本発明おいては、好ましくは、アデノウイルスベクターはヒトの亜群C、特に血清型2、またはいっそう望ましくは血清型5である。しかしながら、非C群アデノウイルスを、宿主細胞に遺伝子産物を送達するためのアデノウイルス遺伝子導入ベクターを調製するために使用することができる。非C群アデノウイルス遺伝子導入ベクターを構築するのに使用される好ましいアデノウイルスは、Ad12(A群)、Ad7およびAd35(B群)、Ad30およびAd36(D群)、Ad4(E群)、ならびにAd41(F群)を含む。非C群アデノウイルスベクター、非C群アデノウイルスベクターの作製方法、および非C群アデノウイルスベクターの使用方法は、例えば、米国特許5,801,030、5,837,511および5,849,561ならびに国際特許出願公開WO97/12986およびWO98/53087に開示されている。
【0014】
アデノウイルスベクターはサブタイプの混成物を含み得、したがって、「キメラ」アデノウイルスベクターであり得る。キメラアデノウイルスベクターは、2つ以上(例えば2、3、4など)の異なるアデノウイルス血清型に由来するアデノウイルスゲノムを含み得る。本発明において、キメラアデノウイルスベクターは、2つ以上の異なるアデノウイルスの血清型の各々のゲノムを、ほぼ異なる、またはほぼ等しい量含み得る。キメラアデノウイルスベクターゲノムが2つの異なるアデノウイルス血清型のゲノムで構成される場合、キメラアデノウイルスベクターゲノムは、好ましくは1つのアデノウイルス血清型のゲノムを約70%以下(例えば、約65%、約50%、または約40%以下)を含み、その残りは他のアデノウイルス血清型のゲノムに由来する。1つの実施態様において、キメラアデノウイルスベクターは血清型2ゲノムの一部と血清型5ゲノムの一部とを含むアデノウイルスゲノムを含有し得る。例えば、かかるアデノウイルスベクターのヌクレオチド1−456は、血清型2ゲノム由来であり得、アデノウイルスゲノムの残りは血清型5ゲノム由来であり得る。
【0015】
本発明のアデノウイルスベクターは、複製能力を有し得る。例えば、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノム中に、宿主細胞中でのウイルス複製を阻害しない変異(例えば、欠失、挿入、または置換)を有し得る。アデノウイルスベクターはまた、条件付き複製可能でもあり得る。しかしながら、アデノウイルスベクターは、好ましくは宿主細胞内で複製欠損である。
【0016】
「複製欠損」とは、アデノウイルスベクターが、例えば少なくとも1つの複製に不可欠な遺伝子機能を欠損した結果として、複製に必要なアデノウイルスゲノムの1つ以上の領域が相補されることを必要とすることを意味する(すなわち、アデノウイルスベクターが、通常の典型的な宿主細胞中、特に本発明の方法の過程でアデノウイルスベクターに感染し得るであろうヒト患者の細胞中で複製しないように)。本明細書中で使用される、遺伝子、遺伝子機能、遺伝子またはゲノム領域の欠損とは、核酸配列が全部または部分的に変異または欠失した、ウイルスゲノムの十分な遺伝物質の変異または欠失により、遺伝子の機能を完全になくしたり損傷させたりする(例えば、遺伝子産物の機能が少なくとも約2倍、5倍、10倍、20倍、30倍、または50倍減少するように)こととして定義される。全遺伝子領域の欠失は、複製に必須な遺伝子機能の破壊には必要でないことが多い。しかしながら、アデノウイルスゲノムに1つ以上の導入遺伝子のための十分な余地を提供するために、遺伝子領域の大半を取り除くことが望ましいこともある。遺伝物質の欠失は好ましいが、付加や置換による遺伝物質の変異もまた遺伝子機能の破壊に適している。複製に必須な遺伝子機能は、複製(例えば、増殖)に必要であり、かつ例えばアデノウイルスの初期領域(例えば、E1、E2、およびE4領域)、後期領域(例えば、L1−L5領域)、ウイルスパッケージングに関与する遺伝子(例えば、IVa2遺伝子)、ならびにウイルス関連RNA(例えば、VA−RKA1および/またはVA−RNA−2)にコードされている遺伝子機能である。
【0017】
複製欠損アデノウイルスベクターは、望ましくは、ウイルスの複製のために、アデノウイルスゲノムの1つ以上の領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能の相補を必要とする。好ましくは、アデノウイルスベクターは、ウイルスの複製に必要なアデノウイルスゲノムのE1A領域、E1B領域、またはE4領域の、少なくとも1つの遺伝子機能の相補を必要とする(E1欠損またはE4欠損ウイルスベクターとよぶ)。E1領域の欠損に加えて、組換えアデノウイルスはまた、国際特許出願公開WO00/00628号で論じられるように、主要後期プロモーター(MLP)に変異を有し得る。最も好ましくは、アデノウイルスベクターは、E1領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(望ましくは全ての複製に必須な遺伝子機能)および必須ではないE3領域の少なくとも1つの遺伝子機能が欠損している(例えば、E3領域のXbaIの欠失)(E1/E3欠損アデノウイルスベクターとよぶ)。E1領域に関して、アデノウイルスベクターは、E1A領域の一部もしくは全ておよび/またはE1B領域の一部もしくは全てを欠損し得る(例えば、E1AおよびE1B領域の各々の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能であり、したがって、複製には、アデノウイルスゲノムのE1A領域およびE1B領域の相補を必要とする)。アデノウイルスベクターはまた、例えばE4領域の1つ以上の複製に必須な遺伝子機能の欠損により、複製に、アデノウイルスゲノムのE4領域の相補を必要とし得る。
【0018】
アデノウイルスベクターがE1欠損である場合、該アデノウイルスベクターゲノムは、ヌクレオチド335から375の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド356)で始まり、ヌクレオチド3310から3350の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド3329)で終わる、あるいは3490から3530の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド3510)で終わりさえする欠失を含み得る(アデノウイルス血清型5ゲノムに基づく)。E2A欠損である場合、アデノウイルスベクターゲノムは、ヌクレオチド22425から22465の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド22443)で始まり、ヌクレオチド24010から24050の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド24032)で終わる欠失を含み得る(アデノウイルス血清型5ゲノムに基づく)。E3欠損である場合、アデノウイルスベクターゲノムは、ヌクレオチド28575から29615の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド28593)で始まり、ヌクレオチド30450から30490の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド30470)で終わる欠失を含み得る(アデノウイルス血清型5ゲノムに基づく)。E4欠損である場合、アデノウイルスベクターゲノムは、例えば、ヌクレオチド32805から32845の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド32826)で始まり、ヌクレオチド35540から35580の間の任意のヌクレオチド(例えば、ヌクレオチド35561)で終わる欠失を含み得る(アデノウイルス血清型5ゲノムに基づく)。欠失したヌクレオチド部分を規定する端点は正確に決定することが困難であり得、また、通常はアデノウイルスベクターの性質に大して影響を与えないであろう(すなわち、前記ヌクレオチド番号はそれぞれ、+/−1、2、3、4、5ヌクレオチドであり得、あるいは10または20ヌクレオチドでさえあり得る)。
【0019】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスゲノムの1つの領域内の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠損する場合(例えば、E1/E3欠損アデノウイルスベクター)、該アデノウイルスベクターは「単一複製欠損」という。特に好ましい単一複製欠損アデノウイルスベクターは、例えば、アデノウイルスベクターを増殖させるために(例えば、アデノウイルスベクター粒子を形成するために)、せいぜいアデノウイルスゲノムのE1領域の相補を必要とする複製欠損アデノウイルスベクターである。
【0020】
アデノウイルスベクターは、「多重複製欠損」であり得る。多重複製欠損とは、アデノウイルスベクターが、アデノウイルスゲノムの2つ以上の領域の各々で1つ以上の複製に必須な遺伝子機能を欠損しており、複製のためにそれらの機能の相補を必要とすることを意味する。例えば、前記E1欠損またはE1/E3欠損アデノウイルスベクターは、E4領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(E1/E4またはE1/E3/E4欠損アデノウイルスベクターと表す)、および/またはE2領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(E1/E2またはE1/E2/E3欠損アデノウイルスベクターと表す)、好ましくは、E2A領域(E1/E2AまたはE1/E2A/E3欠損アデノウイルスベクターと表す)をさらに欠損し得る。アデノウイルスベクターが多重複製欠損である場合、該欠損は個々の領域に関して前記したヌクレオチドの欠失の組合せであり得る。
【0021】
本発明のアデノウイルスベクターがE2A領域の複製に必須の遺伝子機能を欠損する場合、該ベクターは好ましくはE2A領域を完全には欠失しない。欠失は、好ましくは約230塩基対未満の長さである。一般的に、アデノウイルスのE2A領域は、DBP(DNA結合タンパク質)、すなわちDNA複製に必要なポリペプチドをコードする。DBPは、ウイルスの血清型により473個から529個のアミノ酸からなる。DBPは、延長されたNtドメインを有する球形のCtからなる長楕円として存在する非対称タンパク質であると信じられている。Ctドメインは、核酸に結合し、亜鉛に結合して、DNA鎖伸長のレベルでDNA合成に機能するというDBPの能力を担っていることを研究は示している。しかしながら、Ntドメインは転写および転写後レベルの両方で後期遺伝子発現に機能していると信じられており、タンパク質の効率的な核局在化性を担い、かつそれ自身の発現の増大にも関与し得る。アミノ酸2から38の間のNtドメインにおける欠失は、この領域がDBP機能にとって重要であることを示している(Brough et al., Virology, 196, 269-281 (1993))。DBPのCt領域をコードするE2A領域における欠失がウイルスの複製に影響しないのに対して、DBPのNtドメインのアミノ酸2から38をコードするE2A領域の欠失はウイルスの複製機能を損なう。いかなる多重複製欠損性アデノウイルスベクターも、アデノウイルスゲノムのE2A領域の当該部分を含んでいることが好ましい。詳しくは、例えば、保持されるべきE2A領域の所望の部分は、E2A領域の5’末端で定義されるアデノウイルスゲノムのE2A領域の一部であり、特にアデノウイルス血清型5ゲノムのE2A領域のAd5(23816)位からAd5(24032)位である。アデノウイルスゲノムのこの部分は、現在のE2A相補細胞株内では、所望のレベルのウイルス増殖を提供するようには相補されないので、当該部分はアデノウイルスベクター中に含まれることが望ましい。
【0022】
上記の欠失はアデノウイルス血清型5ゲノムに関して記載されているが、多様なアデノウイルス血清型(特にアデノウイルス血清型2と5)間のゲノムの類似性に基づいて、当業者は必要以上の実験をせずに他のアデノウイルス血清型(例えば、アデノウイルス血清型2ゲノムなど)の同じ領域のヌクレオチド座標を確定させることができる。
【0023】
本発明の1つの実施態様において、アデノウイルスベクターはE1およびE4領域のそれぞれの1つ以上の複製に必須な遺伝子機能を欠損したアデノウイルスゲノムを含むことができ(すなわち、アデノウイルスベクターはE1/E4欠損アデノウイルスベクターである)、好ましくはアデノウイルスゲノムからE4領域の全コーディング領域が欠失している。言い換えると、E4領域の全てのオープンリーディングフレーム(ORF)が取り除かれている。最も好ましくは、アデノウイルスベクターは全E1領域欠失とE4領域の一部の欠失により複製欠損の状態にする。アデノウイルスベクターのE4領域は天然のE4プロモーター、ポリアデニル化配列、および/または右側逆位末端反復配列(ITR)を保持し得る。
【0024】
アデノウイルスベクターの様々な領域の欠失が哺乳動物の免疫応答を変化させ得ることを理解すべきである。詳細には、様々な領域の欠失は、アデノウイルスベクターによって生じる炎症性応答を減少させ得る。全E4領域を欠失したアデノウイルスベクターは、宿主の免疫応答の低下を導き得る。さらに、国際特許出願WO98/40509に記載のように、アデノウイルスベクターのコートタンパク質を改変して、野生型コートタンパク質に対する中性抗体によって、アデノウイルスベクターが認識されにくくするか、認識されないようにすることができる。かかる改変は、持続性疾患の長期治療に有用である。
【0025】
多重複製欠損(特にE1およびE4領域の複製に必須な遺伝子機能において)である場合、アデノウイルスベクターは単一複製欠損アデノウイルスベクター(特にE1欠損アデノウイルスベクター)により達成されるのと同様の、相補細胞株でのウイルス増殖をもたらすスペーサー配列を含み得る。L5ファイバー領域が保持された本発明の好ましいE4欠損アデノウイルスベクターでは、スペーサーは望ましくはL5ファイバー領域と右側ITRとの間に位置する。かかるアデノウイルスベクターにおいて、より好ましくは、E4ポリアデニル化配列は単独で、または最も好ましくは他の配列と組み合わさって、L5ファイバー領域と右側ITRとの間に存在して、保持された右側ITRからL5ファイバー領域を十分に分離するようにし、そうしてかかるベクターのウイルス産生が単一複製欠損アデノウイルスベクター(特に単一複製欠損E1欠損アデノウイルスベクター)のウイルス産生に近付くようにする。
【0026】
スペーサー配列は、任意の所望の長さの1つまたは複数のヌクレオチド配列、例えば少なくとも約15塩基対(例えば、約15塩基対から12,000塩基対の間)、好ましくは約100塩基対から10,000塩基対、より好ましくは約500塩基対から約8,000塩基対、いっそう好ましくは約1,500塩基対から約6,000塩基対、および最も好ましくは約2,000から約3,000塩基対の長さの配列を含むことができる。。スペーサー配列は、アデノウイルスゲノムに関してコーディングまたは非コーディングおよび天然または非天然であり得るが、欠損領域の複製に必須な機能は回復させない。スペーサーは、プロモーター可変発現カセットも含有し得る。より好ましくは、スペーサーは追加のポリアデニル化配列および/またはパッセンジャー遺伝子を含む。好ましくは、スペーサーがE4を欠損した領域に挿入された場合、アデノウイルスゲノムのE4ポリアデニル化配列とE4プロモーターとの両方またはいずれか他の(細胞またはウイルスの)プロモーターがベクター内に残される。スペーサーは、E4ポリアデニル化部位とE4プロモーターとの間に位置し、もしくは、E4プロモーターがベクター内に存在しないときには、スペーサーは右側ITRに近接する。スペーサーはいかなる適切なポリアデニル化配列も含み得る。適切なポリアデニル化配列の例は、合成最適化配列、BGH(ウシ成長ホルモン)、ポリオーマウイルス、TK(チミジンキナーゼ)、EBV(エプスタイン・バーウイルス)およびパピローマウイルス(ヒトパピローマウイルスおよびBPV(ウシパピローマウイルス)を含む)を含む。好ましくは、特にE4欠失領域では、スペーサーはSV40ポリアデニル化配列を含む。SV40ポリアデニル化配列は、多重複製欠損アデノウイルスベクターのウイルス産生レベルをより高くできる。スペーサーがない場合、多重複製欠損アデノウイルスベクターのファイバータンパク質の産生および/またはウイルス増殖は、単一複製欠損アデノウイルスベクターのファイバータンパク質の産生および/またはウイルス増殖に比べて減少する。しかしながら、少なくとも1つの欠損アデノウイルス領域(好ましくはE4領域)にスペーサーを含むと、ファイバータンパク質産生およびウイルス増殖の該減少を弱めることができる。理想的には、スペーサーはグルクロニダーゼ遺伝子からなる。アデノウイルスベクターでスペーサーを使用することは、例えば米国特許5,851,806および国際特許出願公開WO97/21826にさらに記載されている。
【0027】
例えば米国特許6,225,113、6,649,373および6,660,521ならびに国際特許出願公開WO00/34496に記載されるように、少なくともE4欠損アデノウイルスベクターは限られた時間内にインビボで導入遺伝子を高レベルで発現すること、少なくともE4欠損アデノウイルスベクターにおける導入遺伝子の発現の持続がトランス作用因子(例えばHSV ICP0、Ad pTP、CMV−IE2、CMV−IE86、HIV tat、HTLV−tax、HBV−X、AAV Rep 78、HSV ICP0のような機能を有するU205骨肉腫細胞株から得た細胞性因子、または神経成長因子により誘導されるPC12細胞中の細胞性因子など)の作用により調節可能であることが観察されている。前述を考慮して、複製欠損アデノウイルスベクター(例えば、少なくともE4欠損アデノウイルスベクター)または第2の発現ベクターは、核酸配列の発現の持続性を調節するトランス作用因子をコードする核酸配列を含み得る。
【0028】
望ましくは、アデノウイルスベクターは、複製(すなわち増殖)のために、せいぜいアデノウイルスゲノムのE1、E2Aおよび/またはE4領域の複製に必須な遺伝子機能の相補を必要とするものである。しかしながら、アデノウイルスベクターが欠損のままであり、例えば相補細胞および/または壊された複製に必須な遺伝子機能をコードする外来DNA(例えば、ヘルパーアデノウイルス)を使用することにより増殖可能である限り、アデノウイルスゲノムは、実施者が望むように1つ以上の複製に必須な遺伝子機能を壊すように改変され得る。これに関し、アデノウイルスベクターはアデノウイルスゲノムの初期領域のみ、アデノウイルスゲノムの後期領域のみ、アデノウイルスゲノムの初期と後期領域の両方、または全てのアデノウイルス遺伝子の複製に必須な遺伝子機能を欠損させることができる(すなわち、高容量アデノベクター(HC−Ad)、Morsy et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 95: 965-976 (1998)、Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 94: 1645-1650 (1997)、およびKochanek et al., Hum. Gene Ther., 10: 2451-2459 (1999)参照)。適切な複製欠損アデノウイルスベクター(単一および多重複製欠損アデノウイルスベクターを含む)は、米国特許5,837,511、5,851,806、5,994,106、6,127,175、および6,482,616;米国特許出願公開2001/0043922 Al、2002/0004040 Al、2002/0031831 Al、2002/0110545 Al、および2004/0161848 Al;ならびに国際特許出願公開WO 94/28152、WO 95/02697、WO 95/16772、WO 95/34671、WO 96/22378、WO 97/12986、WO 97/21826、およびWO 03/022311に開示されている。
【0029】
例えば、アデノウイルスゲノムのE1、E3およびE4領域の全てまたは一部を取り除くことにより、生じたアデノウイルスベクターはアデノウイルスキャプシド中にパッケージングされる能力を残しつつ、外来核酸配列の挿入を受け入れ可能である。該核酸配列は、アデノウイルスゲノムのE1領域、E3領域またはE4領域中に配置され得る。実際、核酸配列は、配置が核酸配列の発現を妨げたりアデノウイルスベクターのパッケージングの邪魔をしない限り、アデノウイルスゲノム中のどこにでも挿入可能である。
【0030】
複製欠損アデノウイルスベクターは、通常、高力価のウイルスベクターストックを生み出すために適切なレベルで、複製欠損アデノウイルスベクター中に存在しないがウイルス増殖にとって必要な遺伝子機能を提供する相補細胞中で生産される。望ましくは、相補細胞株は、アデノウイルス増殖に必要な遺伝子機能をコードするアデノウイルス核酸配列を、細胞ゲノム中に組み込まれた状態で含む。好ましい細胞株は、複製欠損アデノウイルス中に存在しない少なくとも1つ、好ましくは全ての複製に必須な遺伝子機能を相補する。相補細胞株は、初期領域、後期領域、ウイルスパッケージング領域、ウイルス関連RNA領域またはそれらの組合せによりコードされる少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(全てのアデノウイルス機能(例えば、アデノウイルスアンプリコンの増殖を可能にする)を含む)の欠損を相補することができる。最も好ましくは、相補細胞株はアデノウイルスゲノムのE1領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(例えば、2つ以上の複製に必須な遺伝子機能)、特に、E1AとE1B領域の各々の複製に必須な遺伝子機能の欠損を相補する。さらに、相補細胞株はアデノウイルスゲノムのE2(特にアデノウイルスDNAポリメラーゼおよび末端タンパク質に関して)および/またはE4領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能の欠損を相補できる。望ましくは、E4領域の欠損を相補する細胞は、E4−ORF6遺伝子配列を含み、E4−ORF6タンパク質を生産する。かかる細胞は、アデノウイルスゲノムの少なくともORF6を含み、かつE4領域のその他のORFを含まない。この細胞株は、好ましくは、アデノウイルスベクターと重複しないように相補遺伝子を含有するということでさらに特徴付けられる。このことは、ベクターゲノムが細胞DNAと組み換わる可能性を最小化し、実質的に排除する。したがって、ベクターストック中に複製可能なアデノウイルス(RCA)が存在することを避けられないとしても最小化する。このことはある治療目的(特にワクチン接種目的)に適している。ベクターのストックでのRCAの欠如が、非相補細胞でのアデノウイルスベクターの複製を回避する。かかる相補細胞株の構築は標準的な分子生物学および細胞培養技術(例えばSambrook et al., supra、およびAusubel et al., supraに記載)を含む。
【0031】
アデノウイルスベクターを生産するための相補細胞株は、293細胞(例えば、Graham et al., J Gen. Virol, 36, 59-72 (1977)に記載)、PER.C6細胞(例えば、国際特許出願公開WO 97/00326ならびに米国特許5,994,128および6,033,908に記載)、293−ORF6細胞(例えば、国際特許出願公開 WO 95/34671およびBrough et al, J Virol, 71: 9206-9213 (1997)に記載)を含むが、これに限定されない。さらなる相補細胞は、例えば、米国特許6,677,156および6,682,929ならびに国際特許出願公開WO 03/20879に記載されている。いくつかの例では、細胞ゲノムは複製欠損アデノウイルスベクターの欠損の全てを相補する核酸配列、遺伝子産物を含む必要がない。複製欠損アデノウイルスベクターで欠如している1つ以上の複製に必須な遺伝子機能は、ヘルパーウイルス、例えば、所望のアデノウイルスベクターの複製に必要である1つ以上の不可欠な遺伝子機能をトランスに供給するアデノウイルスベクターによって供給することができる。ヘルパーウイルスは、しばしば感染性のヘルパーウイルスのパッケージングを妨げるように設計される。例えば、アデノウイルスゲノムのE1領域の1つ以上の複製に必須な遺伝子機能が相補細胞によって提供され、アデノウイルスゲノムのE4領域の1つ以上の複製に必須な遺伝子機能がヘルパーウイルスによって提供される。
【0032】
アデノウイルスベクターが複製欠損でないならば、理想的には、アデノウイルスベクターは標的組織内でのベクターの複製を限定するように操作される。アデノウイルスベクターは、条件付複製アデノウイルスベクターであり得、実施者が前もって決定した条件下で複製するように設計される。例えば、複製に必須な遺伝子機能(例えばアデノウイルス初期領域にコードされた遺伝子機能)は、誘導可能であり、抑制可能でありまたは組織特異的な転写制御配列(例えばプロモーター)に機能的に結合することができる。この実施態様において、複製には、転写制御配列に相互作用する特定の因子の存在または不在が必要である。例えば、自己免疫疾患の治療において、継続的な抗原産生を得、かつ免疫細胞産生を制御するために例えばリンパ節でのアデノウイルスベクターの複製を制御することは好都合であり得る。条件付複製アデノウイルスベクターは、さらに米国特許 5,998,205に記載されている。
【0033】
複製に必須な遺伝子機能をコードするアデノウイルス配列の改変(例えば、欠失、変異、または置換)に加えて、アデノウイルスゲノムは良性または非致死性の改変、すなわち、かかる改変がさもなくば複製に必須な遺伝子機能を含有するアデノウイルスゲノムの領域で行われたとしても、アデノウイルス複製欠損にしない、または望ましくは、ウイルス機能および/またはウイルスタンパク質の産生に悪影響を与えない改変を含有することができる。かかる改変は、一般的には、DNA操作の結果として生じ、または発現ベクター構築を容易にするように作用する。例えば、アデノウイルスゲノム中の制限酵素部位を取り除いたり導入したりすることは好都合であり得る。かかる良性の突然変異は、しばしばウイルス機能において検知できる副作用を有さない。例えば、アデノウイルスベクターは、VA−RNA−1の転写に関連するヌクレオチド10,594と10,595(アデノウイルス血清型5ゲノムに基づく)との欠失を含み得るが、該ヌクレオチドの欠失はVA−RNA−1の産生を妨げない。
【0034】
同様に、アデノウイルスベクターのコートタンパク質を操作して、可能性のある宿主細胞のウイルスレセプターに対するウイルスの結合特異性または認識を変化させることができる。アデノウイルスにとって、かかる操作はファイバー、ペントン、またはヘキソンの領域の欠失、コートタンパク質の部分への多様な天然または非天然のリガンドの挿入などを含み得る。コートタンパク質の操作は、アデノウイルスベクターに感染する細胞の範囲を広げることができ、または特定の細胞タイプへのアデノウイルスベクターの標的化を可能にする。
【0035】
宿主細胞への天然の結合(例えば、細胞のコクサッキーウイルスおよびアデノウイルスレセプター(CAR)へのファイバータンパク質の天然の結合)を変化させるいかなる適当な技術も用いることができる。例えば、細胞に対する天然の結合が除去されるようにファイバー長を変えることを利用し得る。これは、ペントンベースまたはファイバーノブへの結合配列の付加を介して任意に達成されることができる。この結合配列の付加は、直接にあるいは二重特異性または多重特異性結合配列を介して間接になされ得る。代わりの実施態様において、アデノウイルスファイバータンパク質はファイバーシャフト中のアミノ酸の数を減少するように改変し、それによって「短シャフト化」ファイバーを生み出すことができる(例えば、米国特許5,962,311に記載のように)。短シャフト化アデノウイルスファイバー遺伝子を含むアデノウイルスの使用は、アデノウイルスファイバーのその細胞表面レセプターへの結合のレベルまたは効率を減少させ、かつアデノウイルスペントンベースのその細胞表面レセプターへの結合を増加させ、それによって、所定の細胞へのアデノウイルスの結合特異性を増大させる。あるいは、短シャフト化ファイバーを含むアデノウイルスの使用が、ペントンベースまたはファイバーノブに非天然アミノ酸配列を導入することによる所望の細胞表面レセプターへのアデノウイルスの標的化を可能にする。
【0036】
さらに別の実施態様において、変異した核酸残基を組み込んだ(またはそれによりコードされるファイバータンパク質を有する)アデノウイルスベクターがその天然の基質に結合する能力を低下させるように、天然の基質結合に関連するアミノ酸残基をコードする核酸残基の変換、追加、または欠失が可能である(例えば、国際特許出願公開 WO 00/15823, Einfeld et al., J. Virol., 75(23): 11284-11291 (2001)、およびvan Beusechem et al., J Virol, 76(6): 2753-2762 (2002)参照)。この点において、アデノウイルスベクターの天然のCARおよびインテグリン結合部位(例えばそれぞれ、アデノウイルスファイバータンパク質のノブドメインおよびアデノウイルスペントンベースに位置するArg−Gly−Asp(RGD)配列など)は除去または破壊され得る。ファイバータンパク質が三量体化されることができる限り、ノブとCARとの間の相互作用を媒介または援助するファイバータンパク質のいかなる適切な1もしくは複数のアミノ酸残基も変異または除去され得る。同様に、ファイバータンパク質が三量体化する能力を保持する限り、アミノ酸をファイバーノブに付加し得る。適切な残基は、血清型5ファイバーノブドメインの外側に曝されたループ(例えばABループ、DEループ、FGループ、およびHIループなど)内のアミノ酸を含む(例えば、Roelvink et al., Science, 286, 1568-1571 (1999)、および米国特許6,455,314にさらに記載されている)。ペントンベースとインテグリンとの相互作用を媒介または援助するペントンベースタンパク質のいかなる適切な1もしくは複数のアミノ酸残基も変異または除去され得る。例えば、適切な残基はAd5ペントンベースタンパク質の超可変領域に位置する5つのRGDアミノ酸配列モチーフの1つ以上を含む(例えば、米国特許5,731,190に記載)。ペントンベースタンパク質の天然のインテグリン結合部位はまた、天然のRGDアミノ酸配列がαインテグリンレセプターと結合するために立体構造的に近づけないように天然のRGDモチーフをコードする核酸配列を改変することによっても破壊され得る(例えば、アデノウイルスペントンベースタンパク質をコードする核酸配列内にまたはそれに隣接させてDNA配列を挿入することによる)。好ましくは、アデノウイルスベクターは、それぞれCARおよびインテグリンに結合しないファイバータンパク質およびペントンベースタンパク質を含む。あるいは、アデノウイルスベクターは、それぞれCARおよびインテグリンと結合するが、対応する野生型コートタンパク質よりも低いアフィニティを有するファイバータンパク質およびペントンベースタンパク質を含む。もし改変されたアデノウイルスファイバータンパク質およびペントンベースタンパク質が同じ血清型の無改変アデノウイルスファイバータンパク質およびペントンベースタンパク質よりも少なくとも約5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、または100倍低いアフィニティでCARおよびインテグリンとそれぞれ結合するならば、アデノウイルスベクターはCARおよびインテグリンへの結合性が低下している。
【0037】
アデノウイルスベクターはまた、基質(すなわち、リガンド)(例えば、CAR、αインテグリンレセプター以外の細胞性レセプター)に結合する非天然のアミノ酸配列を含むキメラコートタンパク質も含み得る。かかるキメラコートタンパク質は、天然の細胞表面レセプターに結合する能力を保持している対応のアデノウイルスが自然感染しない宿主細胞にアデノウイルスベクターが結合し、望ましくは感染することを可能にする。それによって、さらにアデノウイルスベクターに感染する細胞タイプのレパートリーが広がる。キメラアデノウイルスコートタンパク質の非天然アミノ酸配列は、非天然アミノ酸配列を持たない対応するアデノウイルスが自然感染しない宿主細胞(すなわち、対応する野生型アデノウイルスに感染しない宿主細胞)にキメラコートタンパク質を含むアデノウイルスベクターが結合し、望ましくは感染することを可能にし、対応するアデノウイルスが自然感染する宿主細胞に非天然アミノ酸配列を持たない対応するアデノウイルスよりも強いアフィニティで結合することを可能にし、または標的でない細胞よりも強いアフィニティで特定の標的細胞に結合することを可能にする。「非天然の」アミノ酸配列は、アデノウイルスコートタンパク質中に自然には存在しないアミノ酸配列、またはアデノウイルスコート中には見られるがキャプシド内の非天然の位置に存在しているアミノ酸配列を含み得る。「選択的に結合する」とは、非天然のアミノ酸配列が、1つのレセプター(例えば、αvβ3インテグリンなど)に対して、非天然のリガンドが異なるレセプター(例えば、αvβ1インテグリンなど)に結合するよりも少なくとも約3倍の強いアフィニティ(例えば、少なくとも約5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、35倍、45倍、または50倍強いアフィニティ)で結合することを意味する。
【0038】
望ましくは、アデノウイルスベクターは、野生型アデノウイルスコートタンパク質よりも効率よく免疫細胞に結合する能力をキメラコートタンパク質に与える非天然のアミノ酸配列を含むキメラコートタンパク質を含んでいる。詳しくは、アデノウイルスベクターは、非天然のアミノ酸配列を含むキメラアデノウイルスファイバータンパク質を含み得、該アミノ酸配列は免疫細胞による、好ましくは抗原提示細胞(樹状細胞、単球、およびマクロファージなど)によるアデノウイルスベクターの取込みを促進する。好ましい実施態様において、アデノウイルスベクターは、CRGDC(配列番号1)、CXCRGDCXC(配列番号2)(ここでXは任意のアミノ酸を意味する)およびCDCRGDCFC(配列番号3)を含むが、これに限定されないRGDモチーフを含むアミノ酸配列(例えば、非天然のアミノ酸配列)を含むキメラファイバータンパク質を含み、該ファイバータンパク質は樹状細胞へのアデノウイルスベクターの形質導入効率を高める。RGDモチーフ、またはいかなる非天然のアミノ酸配列も、好ましくはアデノウイルスファイバーノブ領域、理想的にはアデノウイルスノブの外側に曝されたループ(HIループなど)に挿入される。非天然のアミノ酸配列はまた、アデノウイルスファイバータンパク質のC末端に(任意にスペーサー配列を介して)付加され得る。スペーサー配列は好ましくは100から200の間のアミノ酸を含み、意図した機能をもち得る(が、必ずしも必要ではない)。
【0039】
樹状細胞が所望の標的細胞である場合、非天然のアミノ酸配列は樹状細胞表面に典型的に見られるタンパク質(例えば、接着タンパク質、ケモカインレセプター、補体レセプター、共刺激タンパク質、サイトカインレセプター、高レベル抗原提示分子、ホーミングタンパク質、マーカータンパク質、抗原取り込みレセプター、シグナル伝達タンパク質、ウイルスレセプターなど)を任意に認識してもよい。樹状細胞でのかかる可能性のあるリガンド結合部位の例は、αβインテグリン、αβインテグリン、2A1、7−TMレセプター、CD1、CD11a、CD11b、CD11c、CD21、CD24、CD32、CD4、CD40、CD44変異体、CD46、CD49d、CD50、CD54、CD58、CD64、ASGPR、CD80、CD83、CD86、E−カドヘリン、インテグリン、M342、MHC−I、MHC−II、MIDC−8、MMR、OX62、p200−MR6、p55、S100、TNF−Rなどを含む。樹状細胞が標的にされている場合、リガンドが好ましくはCD40細胞表面タンパク質を認識する(例えば、CD40に(二重)特異的な抗体断片により、またはCD40Lポリペプチド由来のドメインによる)。
【0040】
マクロファージが所望の標的である場合、非天然のアミノ酸配列がマクロファージの細胞表面で典型的に見られるタンパク質(例えば、ホスファチジルセリンレセプター、ビトロネクチンレセプター、インテグリン、接着レセプター、シグナル伝達および/または炎症に関与するレセプター、マーカー、サイトカインを誘導するレセプター、または病原体によるチャレンジでアップレギュレートされるレセプター、B群スカベンジャーレセプターのシステインリッチ(SRCR)スーパーファミリーのメンバー、シアル酸結合レセプター、Fcレセプターファミリーのメンバー、B7−1およびB7−2表面分子、リンパ球レセプター、白血球レセプター、抗原提示分子、など)を任意に認識してもよい。適切なマクロファージ表面の標的タンパク質の例は、ヘパリン硫酸プロテオグリカン、αβインテグリン、αβインテグリン、B7−1、B7−2、CD11c、CD13、CD16、CD163、CD1a、CD22、CD23、CD29、Cd32、CD33、CD36、CD44、CD45、CD49e、CD52、CD53、CD54、CD71、CD87、CD9、CD98、Igレセプター、Fcレセプタータンパク質(例えば、Fcα、Fcγ、Fcεのサブタイプなど)、葉酸レセプターb、HLAクラスI、シアロアドヘリン、siglec−5、ならびにToll様レセプター−2(TLR2)を含むが、これに限定されない。
【0041】
B細胞が所望の標的である場合、非天然のアミノ酸配列がB細胞表面に典型的に見られるタンパク質(例えばインテグリンおよび他の接着分子、補体レセプター、インターロイキンレセプター、食細胞レセプター、免疫グロブリンレセプター、活性マーカー、トランスフェリンレセプター、スカベンジャーレセプターのシステインリッチ(SRCR)スーパーファミリーのメンバー、成長因子レセプター、セレクチン、MHC分子、TNF−レセプター、ならびにTNF−R関連因子)を認識することが可能である。典型的なB細胞表面タンパク質の例は、β−グリカン、B細胞抗原レセプター(BAC)、B7−2、B細胞レセプター(BCR)、C3dレセプター、CD1、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD35、CD40、CD5、CD6、CD69、CD69、CD71、CD79a/CD79b二量体、CD95、エンドグリン、Fas抗原、ヒトIgレセプター、Fcレセプタータンパク質(例えば、Fca、Fcg、Fcεのサブタイプなど)、IgM、gp200−MR6、成長ホルモンレセプター(GH−R)、ICAM−1、ILT2、CD85、MHCクラスIおよびII分子、トランスフォーミング成長因子レセプター(TGF−R)、αβインテグリン、ならびにαβインテグリンを含む。
【0042】
別の実施態様において、アデノウイルスベクターは、真核細胞の特異的なタイプに選択的でないキメラウイルスコートタンパク質を含み得る。キメラコートタンパク質は、内部コートタンパク質配列の中にもしくは代わりに非天然のアミノ酸配列を挿入することで、またはコートタンパク質のN末端もしくはC末端に非天然のアミノ酸配列が付着することで、野生型のコートタンパク質とは異なる。例えば、約5から約9のリジン残基(好ましくは7リジン残基)を含むリガンドを、機能をもたないスペーサー配列を介してアデノウイルスファイバータンパク質のC末端に付着させる。この実施態様において、キメラウイルスコートタンパク質は野生型のウイルスコートよりも幅広い範囲の真核細胞に効率的に結合する(例えば、米国特許6,465,253および国際特許出願公開WO97/20051に記載)。かかるアデノウイルスベクターは抗原の幅広い産生を確実にし得る。
【0043】
可能性のある宿主細胞を認識するアデノウイルスベクターの能力は、コートタンパク質の遺伝的操作なしに(すなわち、二重特異性分子の使用を通じて)改変することができる。例えば、アデノウイルスとペントンベース結合ドメインおよび特定の細胞表面結合部位に選択的に結合するドメインを含む二重特異性分子とを複合体にすることが、特定の細胞タイプに対するアデノウイルスベクターの標的化を可能にする。同じように、非遺伝的手段により、抗原をアデノウイルス粒子の表面に結合することができる。
【0044】
非天然のアミノ酸配列を、何れのアデノウイルスコートタンパク質にも結合させてもキメラアデノウイルスコートタンパク質を形成することが可能である。それゆえ、例えば、非天然のアミノ酸配列をファイバータンパク質、ペントンベースタンパク質、ヘキソンタンパク質、タンパク質IX、VI、またはIIIaなどと結合、挿入、または付加することができる。かかるタンパク質の配列および該タンパク質を組換えタンパク質に用いる方法は当該分野でよく知られている(例えば、米国特許5,543,328;5,559,099;5,712,136;5,731,190;5,756,086;5,770,442;5,846,782;5,962,311;5,965,541;5,846,782;6,057,155;6,127,525;6,153,435;6,329,190;6,455,314;6,465,253;6,576,456;6,649,407;6,740,525、ならびに国際特許出願公開WO96/07734、WO96/26281、WO97/20051、WO98/07877、WO98/07865、WO98/40509、WO98/54346、WO00/15823、WO01/58940、およびWO01/92549参照)。キメラアデノウイルスコートタンパク質は当該分野で知られた標準的な組換えDNA技術を使用して産出することができる。好ましくは、キメラアデノウイルスコートタンパク質をコードする核酸配列は、アデノウイルスゲノム中に位置し、かつ野生型アデノウイルスにおいてコートタンパク質の発現を制御するプロモーターに機能的に結合される。あるいは、キメラアデノウイルスコートタンパク質をコードする核酸配列は、アデノウイルスゲノム中に位置し、かつキメラコートタンパク質の効率的発現に必要とされる遺伝的エレメントを含む発現カセットの一部である。
【0045】
キメラアデノウイルスコートタンパク質のコートタンパク質部分は、リガンドドメインが付加された完全長のアデノウイルスコートタンパク質であってもよく、例えば、内部で、またはC末端および/またはN末端で切り取られていてもよい。修飾(非天然アミノ酸の存在を含む)がなされているが、キメラコートタンパク質は、好ましくはアデノウイルスキャプシド中に組み込まれ得る。非天然のアミノ酸配列がファイバータンパク質に付加される場合、好ましくは該アミノ酸配列は、ウイルスのタンパク質間またはファイバー単量体間の相互作用を邪魔しない。したがって、非天然のアミノ酸配列は好ましくは、それ自体オリゴマー化ドメインではない(そのようなものは、アデノウイルスファイバーの三量体化ドメインと不利に相互作用し得るので)。好ましくは、非天然のアミノ酸配列は、ビリオンタンパク質に付加され、基質、細胞表面レセプターまたは免疫細胞に容易に曝されるような様式で(例えば、アデノウイルスタンパク質のNまたはC末端で、基質に面する残基に付加されて、ペプチドスペーサー上に位置するなどして)組み込まれ、非天然アミノ酸配列が最大限に曝される。理想的には、非天然のアミノ酸配列は、ファイバータンパク質のC末端でアデノウイルスファイバータンパク質中に組み込まれ(およびスペーサーを介して付加され)、またはファイバーの露出したループ(例えばHIループ)中に組み込まれ、キメラコートタンパク質を生じる。非天然のアミノ酸配列がペントンベースの部分に付加または置換される場合、好ましくは該アミノ酸配列は基質、細胞表面レセプター、または免疫細胞と接触することを確実にするための超可変領域内にある。非天然のアミノ酸配列がヘキソンに付加される場合、好ましくは該アミノ酸配列は超可変領域内にある(Miksza et al., J. Virol., 70(3), 1836-44 (1996))。非天然のアミノ酸がpIXの部分に付加または置換される場合、好ましくは該アミノ酸配列はpIXのC末端内にある。アデノウイルス粒子の表面から離れて非天然アミノ酸配列を外へ伸ばすためにスペーサー配列を用いることは、非天然アミノ酸配列をレセプターに結合させるのにより利用可能である点、および非天然アミノ酸配列とアデノウイルスファイバーモノマーとの間のいかなる立体的相互作用も低下させ得るという点で有利であり得る。
【0046】
細胞性レセプターに対する非天然のアミノ酸配列の結合アフィニティは、いかなる適切なアッセイによっても決定され得る。多くの該アッセイは既知であり、かつアデノウイルスコートタンパク質中に組み込まれる非天然のアミノ酸配列を選択するのに有用である。望ましくは、宿主細胞の形質導入レベルが相対的結合効率の決定に利用される。すなわち、例えば、細胞表面上にαvβ3インテグリンを提示している宿主細胞(例えば、MDAMB435細胞)を、キメラコートタンパク質を含むアデノウイルスベクターおよび非天然のアミノ酸配列を持たない対応するアデノウイルスに曝露した後、形質導入効率を比較して相対的結合アフィニティを決定し得る。同様に、細胞表面にαvβ3インテグリンを提示している宿主細胞(例えば、MDAMB435細胞)および細胞表面に主にαvβ1を提示している宿主細胞(例えば、293細胞)の両方をキメラコートタンパク質を含むアデノウイルスベクターに曝露した後、形質導入効率を比較して結合アフィニティを決定し得る。
【0047】
別の実施態様において(例えば、特定の操作された細胞タイプ中での精製または増殖を容易にするための)、非天然のアミノ酸(例えば、リガンド)は細胞表面のタンパク質以外の化合物と結合することができる。すなわち、リガンドは、血液および/またはリンパ球由来タンパク質(例えば、アルブミン)、ポリアミノ酸のような合成ペプチド配列(例えば、ポリリジン、ポリヒスチジンなど)、人工ペプチド配列(例えば、FLAG)、ならびにRGDペプチド断片と結合することができる(Pasqualini et al., J. Cell. Biol., 130, 1189 (1995))。リガンドは非ペプチド基質(例えば、プラスチック(例えば、Adey et al., Gene, 156: 27 (1995))、ビオチン(Saggioet al., Biochem. J., 293: 613 (1993))、DNA配列(Cheng et al., Gene, 171: 1 (1996)、およびKrook et al., Biochem. Biophys., Res. Commun., 204: 849 (1994))、ストレプトアビジン(Geibelet al., Biochemistry, 34: 15430 (1995)、およびKatz, Biochemistry, 34: 15421 (1995))、ニトロストレプトアビジン(Balass et al., Anal, Biochem., 243: 264 (1996))、ヘパリン(Wickham et al., Nature Biotechnol., 14, 1570-73 (1996))、または他の基質)にさえも結合可能である。
【0048】
細胞表面レセプターへのアデノウイルスコートタンパク質の天然の結合を破壊することは、該タンパク質が自然または獲得宿主免疫システムと相互作用することがあまりできないようにもし得る。既存の免疫に加えて、アデノウイルスベクター投与は炎症を誘導し、自然免疫および獲得免疫のメカニズムの両方を活性化させる。アデノウイルスベクターは、抗原特異的(例えば、T細胞依存的)免疫応答を活性化し、そのことがベクターの初期投与後に導入遺伝子の発現の持続期間を限定する。さらに、アデノウイルスベクターに曝されることがB細胞による中和抗体の産生を刺激し、アデノウイルスベクターのその後の投与による遺伝子発現を妨げ得る(Wilson & Kay, Nat. Med., 3(9), 887-889 (1995))。実際、ベクターの反復投与の効果は宿主の免疫によってひどく限定され得る。体液性免疫の刺激に加えて、細胞媒介免疫機能が生体からのウイルスのクリアランスに関与している。ウイルスの急速なクリアランスは自然免疫メカニズムが貢献し(例えば、Worgall et al., Human Gene Therapy, 8, 37-44 (1997)参照)、肝臓中で見られるクッパー細胞が関与しているようである。したがって、アデノウイルスファイバータンパク質およびペントンベースタンパク質の天然の結合を除くことにより、免疫システムによるアデノウイルスベクターの認識が損なわれ、それにより、宿主によるベクターの寛容性が増す。
【0049】
アデノウイルス(特に血清型5アデノウイルス)に対して先在する宿主の免疫を逃れる他の方法は、宿主免疫系に認識されにくいようにアデノウイルスコートタンパク質を改変することを含む。したがって、本発明のアデノウイルスベクターは好ましくは、かかる改変されたコートタンパク質を含む。改変されたコートタンパク質は好ましくはペントン、ファイバー、またはヘキソンタンパク質である。最も好ましくは、改変されたコートタンパク質はヘキソンタンパク質である。コートタンパク質は、いかなる適切な方法でも改変することができるが、好ましくはコートタンパク質に多様性を生じさせることによって改変する。好ましくは、かかるコートタンパク質の変異体は、先在する宿主(例えば、ヒト)のアデノウイルス特異的中和抗体に認識されない。多様性は、当該分野で既知のいずれの適切な方法を用いても生じさせることができ、例えば定向進化(すなわちポリヌクレオチドシャッフリング)および変異性PCR(例えば、Cadwell, PCR Meth. Appl, 2: 28-33 (1991), Leung et al., Technique, 1: 11-15 (1989)、およびPritchard et al., J Theoretical Biol, 234: 497-509 (2005)参照)を含むことができる。好ましくは、例えばStemmer, Nature, 370: 389-91 (1994), Cherry et al., Nat. Biotechnol, 17: 379-84 (1999)、およびSchmidt- Dannert et al., Nat Biotechnol, 18(7): 750-53 (2000)に開示されているような方法で、コートタンパク質の多様性は定向進化技術を通して得ることができる。一般的に、定向進化は、3つの反復された操作:突然変異、選択、および複製を含む。定向進化で行われる主な工程は(1)目的の遺伝子の突然変異または組換え、(2)突然変異または組み換えた遺伝子のライブラリー構築、(3)適切な宿主細胞におけるライブラリーの発現、(4)所望の機能または活性を有する変異体を発現する細胞の選択、および(5)所望の変異体をコードする遺伝子の単離を典型的には含む。この過程は、所望の数の変異体が産生されるまで繰り返される。
【0050】
本発明において、コートタンパク質の多様性は、例えばポリヌクレオチドシャッフリングまたは変異性PCRを用いてコートタンパク質をコードしている遺伝子のランダムな突然変異を最初に作ることによって生じる。突然変異を起こしたコートタンパク質の遺伝子はE1欠損Ad5アデノウイルスベクターのライブラリーに組み込まれる。各Ad5ベクターは、Ad35ファイバータンパク質とE1領域に挿入された2つのマーカー遺伝子(例えば、ルシフェラーゼと緑蛍光タンパク質)を発現する二重発現カセットとを含む。ライブラリーのベクターは、適切な宿主細胞(例えば、E. coli)中で増殖し、目的の潜在的なコートタンパク質変異体をコードするベクターをヒト抗Ad5中和抗体の存在する競争条件下でレスキューする。レスキューされたベクターは、抗Ad5中和抗体の存在下で増やされ、精製され、またはクローン化され、コートタンパク質変異体は核酸配列決定に供される。
【0051】
一度同定されれば、前記戦略で生産されたコートタンパク質変異体にコードされるタンパク質の生物活性を選別しなければならない。コートタンパク質変異体の所望の生物学的活性を測定するいずれの適切なアッセイも使用することができる。例えば、変異コートタンパク質を含むAd5ベクターの増殖特性を評価する重要性は、当業者にとって自明であるだろう。さらに、変異したコートタンパク質を含み、かつ異種抗原(例えばプラスモディウム属抗原)をコードするAd5ベクターの免疫原性を、野生型コートタンパク質を含む同様のAd5ベクターと比べることができる。さらに、理想的なコートタンパク質変異体は先在するアデノウイルス特異的中和抗体に認識されないため、コートタンパク質変異体に対するヒト血清の潜在的な中和効果を評価する必要がある。
【0052】
アデノウイルスコートタンパク質はまた、コートタンパク質のある領域を欠失させ、他のアデノウイルス血清型(特にヒトに対して免疫原性がより小さい血清型)のコートタンパク質由来の対応する領域に置換することにより、先在する宿主の免疫を逃れるように改変することができる。これに関しては、ファイバータンパク質、ペントンベースタンパク質、および/またはヘキソンタンパク質内のアミノ酸配列を取り除き、異なるアデノウイルス血清型由来の対応する配列に置換することができる。前述のように、本発明で使用される好ましいアデノウイルス血清型は、血清型5である。したがって、例えば、ファイバータンパク質を先在する宿主の免疫を逃れるように改変する場合、血清型5ファイバータンパク質のノブ領域由来のアミノ酸残基を欠失させ、異なる血清型(例えば本明細書中で記載した血清型)のアデノウイルス由来の対応するアミノ酸残基に置換することができる。同様に、ペントンベースタンパク質を先在する宿主の免疫を逃れるように改変する場合、血清型5ペントンベースタンパク質の超可変領域内のアミノ酸残基を欠失させ、異なる血清型(例えば本明細書中で記載した血清型)のアデノウイルス由来の対応するアミノ酸残基と置換することができる。好ましくは、アデノウイルスベクターのヘキソンタンパク質が先在する宿主の免疫を逃れるためのこのような方法で改変される。これに関しては、アデノウイルスベクターが血清型5のものである場合、超可変領域(ヘキソンタンパク質のループで生じる)の1つ以上にあるアミノ酸残基が取り除かれ、かつ異なる血清型のアデノウイルス由来の対応するアミノ酸残基に置換される。好ましくは、血清型5ヘキソンタンパク質のFG1、FG2またはDE1ループ中のアミノ酸残基を欠失させ、異なるアデノウイルス血清型のヘキソンタンパク質由来の対応するアミノ酸残基に置換させる。完全なループ領域を血清型5ヘキソンタンパク質から取り除き、他のアデノウイルス血清型の対応するループ領域に置換することができる。あるいは、ループ領域の一部を、血清型5ヘキソンタンパク質から取り除き、他のアデノウイルスの血清型のヘキソンループの対応する部分に置換することができる。血清型5アデノウイルスベクターの1つ以上のヘキソンループまたはその一部が、例えば本明細書中で記載されたように、取り除かれ、任意の他のアデノウイルス血清型由来の対応する配列と置換できる。好ましくは、Ad5ベクターの1つ以上のヘキソンループまたはその一部が取り除かれ、血清型2、34、または43のアデノウイルス由来の対応するアミノ酸配列に置換される。Ad2およびAd5のヘキソンタンパク質の構造ならびにヘキソンタンパク質の改変方法は、例えば、Rux et al., J Virol, 77: 9553-9566 (2003)および米国特許 6,127,525に開示されている。ヘキソンタンパク質の超可変領域はまた、ランダムなペプチド配列または疾患を引き起こす病原体(例えば、プラスモディウム ファルシパラム(Plasmodium falciparum))由来のペプチド配列に置換することができる。
【0053】
アデノウイルスベクターに対する適切な改変は、米国特許5,543,328;5,559,099;5,712,136;5,731,190;5,756,086;5,770,442;5,846,782;5,871,727;5,885,808;5,922,315;5,962,311;5,965,541;6,057,155;6,127,525;6,153,435;6,329,190;6,455,314;6,465,253;6,576,456;6,649,407;および6,740,525;米国特許出願公開2001/0047081 A1、2002/0099024 A1、2002/0151027 A1、2003/0022355 A1、および2003/0099619 A1、ならびに国際特許出願WO96/07734、WO96/26281、WO97/20051、WO98/07865、WO98/07877、WO98/40509、WO 98/54346、WO00/15823、WO01/58940、およびWO01/92549に記載されている。
【0054】
本発明の1つの実施態様において、アデノウイルスベクターは3つ以上の異種核酸配列を含む。「異種核酸配列」は、アデノウイルスベクターの天然の核酸配列から得られず、由来せず、または基づかない任意の核酸配列である。「天然の」とは、核酸配列が天然に見出され、合成的に改変されていないことを意味する。例えば、異種核酸配列はウイルス、細菌、植物または動物の核酸配列であり得る。配列が起源から単離されたとき、配列は起源から「得られ」る。配列が起源から単離されるが、起源遺伝子の正常な機能を破壊しないような任意の適切な方法(例えば、配列に対する欠失、置換(突然変異)、挿入または他の改変)で改変されるとき、該配列は起源に「由来」する。配列が起源と約70%より高い同一性を有する配列である(好ましくは約80%より同一性が高く、より好ましくは約90%より同一性が高く、および最も好ましくは約95%より同一性が高い)が、合成的手法(例えば、ポリヌクレオチド合成、定向進化など)により得られたとき、該配列は起源に「基づ」く。(ギャップの可能性も含めて)同一性の程度を決定することは、任意の適切な方法(例えば、GenBank提供のBLASTnr)を使用して達成することができる。前述のことにも関わらず、異種核酸配列はアデノウイルスベクター中に天然に見ることができるがアデノウイルスゲノム中の非天然の場所に位置し、および/または非天然のプロモーターと機能的に結合し得る。アデノウイルスベクターは3つ以上の異種核酸配列(例えば、3,4,5,6,7,8,9,10またはそれ以上の異種核酸配列)を含むことができるが、アデノウイルスベクターは好ましくは3つの異種核酸配列を含む。
【0055】
アデノウイルスベクターに挿入することができるいずれのタイプの核酸配列(例えば、DNA、RNAおよびcDNA)も、本発明に関して使用することができる。好ましくは、各異種核酸配列はDNAであり、好ましくはタンパク質をコードしている(すなわち、1つ以上のタンパク質をコードする1つ以上の核酸配列)。特に好ましい実施態様において、3つ以上の異種核酸配列の各々は、抗原をコードする。「抗原」は、哺乳動物において免疫応答を誘導する分子である。例えば、「免疫応答」は、抗体産生および/または免疫エフェクター細胞(例えばT細胞)の活性化を伴うことができる。本発明における抗原は、いかなるタンパク質分子(ウイルス、微生物、寄生虫、菌類、原虫、プリオン、細胞、または細胞外起源のタンパク質またはペプチドを含む)のいかなるサブユニット、断片、またはエピトープも含み得る。該抗原は理想的には哺乳動物に免疫応答を誘発し、好ましくは防御免疫を導く。「エピトープ」は、抗体または抗原レセプターにより認識される抗原の配列を意味する。エピトープはまた、当該分野で「抗原決定基」ともよばれる。
【0056】
1つの実施態様において、抗原は腫瘍抗原である。「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞で発現するが正常細胞では発現しない抗原、または正常細胞では発現するが腫瘍細胞では過剰に発現する抗原を意味する。適切な腫瘍抗原の例は、β-カテニン、BCR−ABL融合タンパク質、K−ras、N−ras、PTPRK、NY−ESO−l/LAGE−2、SSX−2、TRP2−INT2、CEA、gp100、カリクレイン4、前立腺特異的抗原(PSA)、TRP−l/gp75、TRP−2、チロシナーゼ、EphA3、HER−2/neu、MUCl、p53、mdm−2、PSMA、RAGE−1、生存、テロメラーゼ、およびWT1を含むが、これに限定されない。他の腫瘍抗原が当該分野では既知であり、例えばラドウィッグ癌研究所により保守されているT細胞により定義された腫瘍抗原のペプチドデータベース(The Peptide Database of T-Cell Defined Tumor Antigens)(http://www.cancerimmunity.org/statics/databases.htm)、Van den Eynde et al., Curr. Opin. Immunol, 9: 684-93 (1997)、Houghton et al., Curr. Opin. Immunol., 13: 134-140 (2001)、およびvan derBruggen et al., Immunol. Rev., 188: 51-64 (2002)に記載されている。
【0057】
1つの実施態様では、抗原はウイルスの抗原でありうる。ウイルス抗原は以下のウイルス科のいずれか由来のウイルスを含むがこれに限定されないいかなるウイルスからも単離できる:アレナウイルス科、アルテリウイルス属、アストロウイルス科、バキュロウイルス科、バドナウイルス属、バルナウイルス科、ビルナウイルス科、ブロモウイルス科、ブニヤウイルス科、カルシウイルス科、カピロウイルス属、カーラウイルス属、カリモウイルス属、サーコウイルス科、クロステロウイルス属、コモウイルス科、コロナウイルス科(例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスのようなコロナウイルス)、コルチコウイルス科、シストウイルス科、デルタウイルス属、ダイアントウイルス属、エナモウイルス属、フィロウイルス科(例えば、マールブルグウイルスおよびエボラウイルス(例えば、ザイール、レストン、アイボリーコースト、またはスーダン系統))、フラビウイルス科、(例えば、C型肝炎ウイルス、デング熱ウイルス1、デング熱ウイルス2、デング熱ウイルス3、およびデング熱ウイルス4)、ヘパドナウイルス科(例えば、B型肝炎ウイルス)、ヘルペスウイルス科(例えば、ヒトヘルペスウイルス1、3、4、5、および6、ならびにサイトメガロウイルス)、ハイポウイルス科、イリドウイルス科、レビウイルス科、リポスリクスウイルス科、ミクロウイルス科、オルトミクソウイルス科(例えば、A型およびB型インフルエンザウイルス)、パポバウイルス科、パラミクソウイルス科(例えば、麻疹、ムンプスおよびヒト呼吸器合胞体ウイルス)、パルボウイルス科、ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルス、ライノウイルス、ヘパトウイルスおよびアフトウイルス)、ポックスウイルス科(例えば、ワクシニアウイルス)、レオウイルス科(例えば、ロタウイルス)、レトロウイルス科(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)1およびHIV2のようなレンチウイルス)、ラブドウイルス科、およびトティウイルス科。特に好ましいレトロウイルス科(レトロウイルス)の抗原は、例えば、gag、env、またはpolタンパク質の全部または一部などのHIV抗原、あるいはgag、env、またはpolタンパク質の全部または一部を含む融合タンパク質を含む。HIVのいかなるクレード(クレードA、B、C、MNなどを含む)も抗原選択に適合する。特に好ましいコロナウイルス抗原は、例えばSARSウイルス抗原を含む。本発明に適したSARSウイルス抗原は、例えば、SARSウイルスのEタンパク質、Mタンパク質、およびスパイクタンパク質の全部または一部を含む。適したウイルス抗原はデング熱Mタンパク質、デング熱Eタンパク質、デング熱D1NS1、デング熱D1NS2、およびデング熱D1NS3の全部または一部も含む。本明細書中で具体的に列挙される抗原性のペプチドは、本発明においてあらゆるウイルスタンパク質が使用され得ることの単なる例示にすぎない。
【0058】
あるいは、または追加して、アデノウイルスベクターにコードされた少なくとも1つの抗原はバクテリアの抗原である。該抗原は以下に含まれるが、これらに限られないいかなるバクテリアに起源することもできる:アクチノミセス属、アナベナ属、バシラス属、バクテロイデス属、ブデロビブリオ属、カウロバクター属、クラミジア属、クロロビウム科、クロマチウム属、クロストリジウム属、サイトファーガ属、デイノコックス属、エシェリキア属、好塩菌属、ヘリコバクター属(Heliobacter)、ヒポミクロビウム属、メタン細菌属、ミクロコッカス属、ミオバクテリウム属(Myobacterium)、マイコプラズマ属、ミクソコッカス属、ナイセリア属、硝酸菌属、ユレモ属、プロクロロン属、プロテウス属、シュードモナス属、ロドスピリラム属(Phodospirillum)、リケッチア属、サルモネラ属、シゲラ属、スピリルム属、スピロヘータ属、スタフィロコッカス属、連鎖球菌属、ストレプトミセス属、スルホロブス属、サーモプラズマ属、硫黄菌属、およびトリポネーマ属。
【0059】
望ましくは、抗原は寄生虫抗原(例えば胞子虫門(またはアピコンプレクサ門ともいう)、繊毛虫、根足上網または動物性鞭毛虫網の寄生虫であるが、これに限られない)であり得る。好ましくは、該抗原は胞子虫門およびプラスモディウム属の寄生虫である。抗原は、いずれの適切なプラスモディウム属の種類に由来するものであってもよいが、好ましくはヒトに感染してマラリアを発症させるプラスモディウム属の種に由来する。ヒトに感染するプラスモディウム属の種は、P.マラリエ(P. malariae)、P.オバーレ(P. ovale)、P.バイバックス(P. vivax)およびP.ファアルシパラム(P. falciparum)を含む。P.バイバックスとP.ファルシパラムとが最も一般的であり、P.ファルシパラムが最も致命的なヒトのプラスモディウム属の種である。あるいは、抗原は、非ヒト動物に感染するプラスモディウム属の種由来であり得る。例えば、P.ビンケイ(P. vinckei)、P.チャバウディ(P. chabaudi)、P.ヨエリイ(P. yoelii)およびP.ゲルグヘイ(P. berghei)はげっ歯類に感染し、P.ノウレシ(P. knowlesi)、P.シノモルギ(P. cynomolgi)、P.シミオバーレ(P. simiovale)、P.フィエルディ(P. fieldi)、P.イヌイ(P. inui)およびP.バラシリアヌム(P. brasilianum)は非ヒト霊長類に感染する。P.ガリナセウム(P. gallinaceum)は鳥類に感染する。ワクチンの開発を進展させるために、多くのプラスモディウム属の種のゲノム配列が決定された。例えば、完全なP.ファルシパラムゲノムの配列が決定され、Gardner et al, Nature, 419: 498-511 (2002)で開示されている。さらに、完全なP.ヨエリイゲノム配列がCarlton et al., Nature, 419: 512-9 (2002)で開示されている。それにより、当業者は、当該分野で既知の通常の方法を用いて適当なプラスモディウム属抗原を同定して単離することができる。
【0060】
天然では、マラリア原虫は2タイプの宿主(ヒトおよびメスのハマダラカ)に順次感染することにより広がる。これに関し、マラリア原虫はメスのハマダラカの唾液腺で「スポロゾイト」として存在する。ハマダラカが他のヒトを吸血するとき、スポロゾイトが蚊の唾液とともに注入されて、循環系に入り、接種から数分以内にヒトの肝臓細胞(肝細胞)に侵入するだろう。肝細胞に侵入した後、寄生虫は無性複製を経験する。スポロゾイトおよび肝臓ステージを含むこの寄生虫の生活環のステージは、当該分野で通常「前赤血球ステージ」、「肝臓ステージ」、または「赤血球外ステージ」とよばれる。「メロゾイト」とよばれる子孫が、宿主の肝細胞を壊した後、循環系に放出される。
【0061】
感染した肝臓細胞から放出されたメロゾイトは、赤血球(赤色血液細胞)に侵入する。メロゾイトは赤血球表面の特異的なタンパク質を認識して、蚊が保有する他の寄生虫と同様の方法で細胞に能動的に侵入する。赤血球に入った後、寄生虫は、栄養期を経験した後、無性複製してメロゾイトを連続的に増やす。子孫のメロゾイト寄生虫は赤血球中で成長し、赤血球を壊し、それから放出されて感染の別のラウンドが始まる。感染のこのステージは、当該分野で通常「血液ステージ」または「赤血球ステージ」とよばれる。血液ステージの寄生虫は、マラリアの症状を引き起こすものである。特定の形状の血液ステージ寄生虫(すなわち「ガメトサイト」)が吸血中にメスのハマダラカに吸い上げられると、寄生虫は蚊の中で成長および複製の別の異なるサイクルを始める。プラスモディウム属の生活環は、例えばRamasamy et al., Med. Vet. Entomol, 11(3): 290-6 (1997)、Hall et al., Science, 307(5706): 82-6 (2005)、およびLW. Sherman, ed., Malaria: Parasite Biology, Pathogenesis, and Protection, American Society of Microbiology (1998)に記載されている。
【0062】
本発明のいくつかの実施態様では3つ以上の異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターが好ましいが、本発明の別の実施態様ではアデノウイルスベクターは3つ未満の異種核酸配列を含んでいてもよい。したがって、本発明はまた、2つ以上(例えば、2,3,4,5,6,7,8,9,10またはそれ以上)の異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターを提供する。この実施態様において、各核酸配列は好ましくはプラスモディウム属抗原をコードし、少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合する。いずれにしても、プラスモディウム属抗原は好ましくはP.ファルシパラム抗原である。異種核酸配列は、いずれの適切なP.ファルシパラム抗原をコードしていてもよいが、好ましくは感染の血液ステージの間に発現する抗原(「血液ステージ抗原」)および/または感染の前赤血球ステージの間に発現する抗原(「前赤血球ステージ抗原」)をコードする。血液ステージ抗原は免疫系の体液性(すなわち、抗体介在性)の部分を活性化することが当該分野で既知であり、一方、前赤血球ステージ抗原は免疫系の細胞性(すなわち、T細胞応答)の部分を活性化する。適切な前赤血球ステージ抗原は、スポロゾイト周囲タンパク質(CSP)、スポロゾイト表面タンパク質2(SSP2)、肝臓ステージ抗原1(LSA−I)、Pf exported タンパク質1(PfExp−1)/Py肝細胞赤血球タンパク質17(PyHEP17)、およびPf抗原2を含むが、それに限定されない。適切な血液ステージ抗原は、メロゾイト表面タンパク質1(MSP−1)、メロゾイト表面タンパク質2(MSP−2)、赤血球結合抗原175(EBA−175)、リング状感染赤血球表面抗原(RESA)、セリン反復抗原(SERA)、グリコホリン結合タンパク質(GBP−130)、ヒスチジンリッチタンパク質2(HRP−2)、ロプトリー関連タンパク質1および2(RAP−1およびRAP−2)、赤血球膜タンパク質1(PfEMP1)、および頂端膜抗原1(AMA−1)を含むが、これに限定されない。
【0063】
アデノウイルスベクターが3つ以上の異種核酸配列を含む実施態様において、各異種核酸配列は好ましくは前赤血球ステージ抗原、血液ステージ抗原、またはその組合せをコードする。例えば、アデノウイルスベクターは、(i)各異種核酸配列が前赤血球ステージ抗原をコードする、(ii)各異種核酸が血液ステージ抗原をコードする、(iii)1つの異種核酸配列が血液ステージ抗原をコードし、2つの異種核酸配列が各々前赤血球ステージ抗原をコードする、または(iv)1つの異種核酸配列が前赤血球ステージ抗原をコードし、2つの異種核酸配列が各々血液ステージ抗原をコードする3つの異種核酸配列を含み得る。本発明のより好ましい実施態様において、好ましくは3つ以上の各異種核酸配列の各々が前赤血球ステージ抗原をコードする。より好ましくは、アデノウイルスベクターはCSP、SSP2、LSA−1または抗原2をコードする3つの異種核酸配列を含む。
【0064】
同様に、アデノウイルスベクターがプラスモディウム属抗原をコードする2つ以上の異種核酸配列を含む実施態様において、各異種核酸配列は好ましくは前赤血球ステージ抗原、血液ステージ抗原、またはその組合せをコードする。例えば、アデノウイルスベクターは、(i)各異種核酸配列が血液ステージ抗原をコードする、(ii)各核酸配列が前赤血球ステージ抗原をコードする、または(iii)1つの異種核酸配列が血液ステージ抗原をコードし、1つの異種核酸配列が前赤血球ステージ抗原をコードする2つの異種核酸配列を含み得る。本発明の好ましい実施態様において、各核酸配列は好ましくは血液ステージ抗原をコードする。より好ましくは、アデノウイルスベクターはMSP−1とAMA−1とをそれぞれコードする2つの異種核酸配列を含む。
【0065】
完全な無傷の、ウイルス、微生物または寄生虫のタンパク質が免疫応答を生じさせるのに必要ないことは理解されるであろう。実際、ほとんどの抗原エピトープは比較的サイズが小さく、それゆえにタンパク質断片は哺乳動物の免疫系に曝露するのに十分である。さらに、1つ以上の抗原の2つ以上の抗原エピトープの間で融合タンパク質を生じさせることもできる。哺乳動物に対するアデノウイルスベクターを介した融合タンパク質の送達は、複数の抗原に免疫系を曝すことを可能にし、したがって、単独ワクチン組成物が複数の病原体に対する免疫を提供することを可能にする。さらに、特定の抗原をコードする異種核酸配列を、哺乳動物宿主による抗原の認識を増強するように改変することができる。これに関し、シグナル配列と糖鎖付加の存在は、アデノウイルスベクターにより発現したプラスモディウム属抗原の免疫原性に影響し得る。シグナル配列を含む血液ステージ抗原は、頑強な免疫応答を誘導することが示されているが、シグナル配列はP.ファルシパラムタンパク質の効率的な分泌または輸送のために必ずしも十分ではない(例えば、Yang et al., Vaccine, 15: 1303-13 (1997)参照)。同様に、糖鎖付加はP.ファルシパラムのMSP−1抗原(MSP142)のC末端42kD断片に基づくワクチン候補の効能を減少させることが示されている(例えば、Stowers et al., Proc. Natl. Acad. SciUSA, 99: 339-44 (2002)参照)。しかしながら、他のP.ファルシパラムのDNAやタンパク質のワクチンを調査した研究により得られた結果は、糖鎖付加がワクチンの効能に影響しないかもしれないことを実証している(例えば、Stowers et al., Infect. Immun., 69: 1536-46 (2001)参照)。
【0066】
したがって、本明細書に記載された異種核酸配列は、シグナル配列を含み得る、または含まなくてもよい抗原をコードする。本発明の好ましい実施態様において、アデノウイルスベクターに存在する少なくとも1つの異種核酸配列は、シグナル配列をコードする。本明細書で使用される用語「シグナル配列」は、典型的にはタンパク質のアミノ末端に位置し、該タンパク質を特定の細胞内小区画(小胞体など)にターゲッティングし、該タンパク質を産生する細胞から成熟タンパク質を分泌させるアミノ酸配列をいう。シグナル配列は典型的には前駆体ポリペプチドから取り除かれ、したがって、成熟タンパク質には存在しない。異種核酸配列にコードされたタンパク質の分泌を指示するいずれのシグナル配列も、本発明のアデノウイルスベクターへの使用に適している。好ましくは、シグナル配列は異種シグナル配列である。より好ましくは、シグナル配列はヒト分解促進因子(DAF)タンパク質由来であり、該タンパク質はP.ファルシパラム MSP−1タンパク質の細胞表面での発現と分泌を増強することが示されている(例えば、Burghaus et al., MoI. Biochem. Parasitol., 104: 171-83 (1999)参照)。本発明のアデノウイルスベクター中の異種核酸配列は、望ましくは、発現した際に、シグナル配列が1つの異種核酸配列によってコードされるタンパク質のN末端に位置するように構築される。例えば、異種シグナル配列を含むMSP142P.ファルシパラム抗原をコードする核酸配列は、配列番号20、配列番号22、および配列番号24を含む。あるいは、異種核酸配列にコードされる抗原の非分泌(NS)バージョンは、いかなる適切な方法で生産されてもよいが、好ましくは異種核酸配列からシグナル配列を欠失させることによって生産される。シグナル配列を欠くP.ファルシパラム抗原をコードする核酸配列は、例えば、配列番号14(AMA−1)および配列番号18(MSP142)を含む。特定の抗原はまた、抗原のアミノ酸配列中のアンカーアミノ酸配列の存在によっても細胞表面に導かれうる。かかるアンカー配列は当該分野で既知であり、例えば、グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidylinisotol)(GPI)アンカーを含む。GPIで固定されたタンパク質は動物界を通じて見出される膜結合タンパク質である。GPIで固定されたタンパク質は、ホスホエタノールアミンのホスホジエステル結合により、それらのカスボキシ末端で、トリマンノシル非アセチル化グルコサミン(Man3−GlcN)コアに結合する。GlcNの還元末端は、ホスファチジルイノシトール(PI)に結合する。PIは、次いで、疎水性領域(例えば、Sigma-Aldrich websiteおよびTakeda et al., Trends. Biochem. Sci, 20(9): 367-71 (1995)参照)による別のホスホジエステル結合により細胞膜に固定される。GPIアンカーを欠失させるかまたはそうでなければ阻害すること(例えば、GPIアンカーを阻害するテールを介して)により、細胞から抗原が分泌される。
【0067】
さらに、本明細書に記載された異種核酸配列は、糖鎖付加(例えば、N結合糖鎖付加またはO結合糖鎖付加)されても、またはされなくてもよい抗原をコードする。本発明の好ましい実施態様において、アデノウイルスベクター中に存在する少なくとも1つの異種核酸配列は、糖鎖付加(Nグリコシル化またはOグリコシル化)されない抗原をコードする。より好ましくは、該異種核酸配列は、Nグリコシル化されない抗原をコードする。P.ファルシパラムのタンパク質が有意な量のN結合糖およびO結合糖を含有しないということを最近の研究(Gowda et al., Parisitol. Today, 15: 147-52 (1999))が示しているが、可能性のある糖鎖付加部位を含有するP.ファルシパラムタンパク質もある(Yang et al., Glycobiology, 9: 1347-56 (1999))。本発明のアデノウイルスベクター中の異種核酸配列によってコードされる抗原の糖鎖付加は、いずれの適切な方法でも阻害することができる。好ましくは、糖鎖付加は、異種核酸配列に存在する糖鎖付加部位に突然変異を生じさせることにより阻害される。かかる突然変異は、抗原中のアミノ酸の欠失、置換、および/または挿入を生じさせることを含む。好ましくは、糖鎖付加は、プラスモディウム属抗原をコードする異種核酸配列を、糖鎖付加部位の少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸で置換されるように突然変異させることによって阻害される。典型的な置換は、P.ファルシパラム MSP-1タンパク質の321位のアスパラギン残基をグルタミン残基で置換することを含む。加えて、P.ファルシパラム AMA-1タンパク質の特定のアスパラギン残基もまた、糖鎖付加を阻害するために置換することができる。例えば、162位のアスパラギン残基を、リジン残基に置換することができ、266位、371位、421位、422位および499位のアスパラギン残基をグルタミン残基に置換することができる。これらの突然変異は典型的な例であり、決して限定するものではない。実際、天然の糖鎖付加部位を破壊するいかなる突然変異も利用可能である。突然変異した糖鎖付加部位を含むP.ファルシパラム抗原をコードする核酸配列は、例えば、配列番号12、配列番号16および配列番号22を含む。
【0068】
異種核酸配列が抗原(好ましくはプラスモディウム属の抗原)をコードする場合、該異種核酸配列は、異種核酸配列が由来する病原体におけるよりもヒトでより頻繁に発現されるコドンを含む。遺伝的コードは一般的に種を越えて普遍的であるが、同義コドンの間での選択はしばしば種依存的である。生物が特定のコドンを稀にしか利用しないことは、おそらく、その生物において対応するトランスファーRNA(tRNA)のレベルが低いことを反映している。したがって、生物が頻繁に利用しないコドンを含む核酸配列を該生物中に導入すると、該核酸配列の発現が限定的になるかもしれない。プラスモディウム属の感染に対する最大限の防御を達成するために、本発明のアデノウイルスベクターは哺乳動物(好ましくはヒト)宿主においてプラスモディウム属抗原を高レベルで発現することができなければならないということを、当業者であれば理解するであろう。これに関し、異種核酸配列は好ましくはプラスモディウム属抗原の天然のアミノ酸をコードするが、プラスモディウム属よりも哺乳動物(例えばヒト)においてより頻繁に発現するコドンを含む。かかる改変された核酸配列は、当該分野で「ヒト化した」、「コドンを最適化した」、または「哺乳動物に好ましい」もしくは「ヒトに好ましい」コドンの利用として一般的には記載される。
【0069】
本発明において、核酸配列中の野生型コドンの少なくとも約60%(例えば、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%)が哺乳動物に好ましいコドンをコードするように改変される場合、プラスモディウム属の核酸配列は「コドンを最適化した」という。すなわち、その中にコードされたコドンの少なくとも約60%が哺乳動物に好ましいコドンである場合、プラスモディウム属の核酸配列はコドンを最適化したものである。P.ファルシパラム CSP抗原をコードする好ましいコドンを最適化した核酸配列は、例えば、配列番号4、配列番号6、および配列番号8を含む。P.ファルシパラム SSP−2抗原をコードする好ましいコドンを最適化した核酸配列は、例えば、配列番号28および配列番号30を含む。P.ファルシパラム AMA−1抗原およびLSA−1抗原をコードする好ましいコドンを最適化した核酸配列は、それぞれ配列番号10と配列番号26を含む。しかしながら、本発明はこれらの典型的な配列に限定されない。実際、遺伝的配列は異なる株の間で変わり得、この天然の対立遺伝子変異の範囲は本発明の範囲に含まれる。さらに、また、代わりに、P.ファルシパラム抗原をコードするコドンを最適化した核酸配列は、前述の配列と少なくとも中程度の(好ましくは高い)ストリンジェンシー条件(例えばSambrook et al., supraに記載された条件など)下でハイブリダイズするいずれの配列でもあり得る。相同性の程度の決定は、任意の適切な方法(例えば、GenBank提供のBLASTnr)を使用して行うことができる。
【0070】
本発明のアデノウイルスベクターにおける各異種核酸配列は、望ましくは発現カセット(すなわち、核酸配列のサブクローニングと回収(例えば、1つ以上の制限酵素認識部位)または核酸配列の発現(例えば、ポリアデニル化またはスプライス部位)を促進する機能を有する特定のヌクレオチド配列)の一部として存在する。各異種核酸は、アデノウイルスゲノムのE1領域(例えばE1領域の全体または一部と置換する)および/またはE4領域に位置することが好ましい。例えばE1領域を、異種核酸を含む1つ以上のプロモーター可変発現カセットに置換することができる。あるいは、アデノウイルスベクターがE1領域を含むがE4領域を欠損する実施態様においては、E4領域を1つ以上の発現カセットに置換することができる。この方法において、アデノウイルスゲノムのE4領域中に発現カセットを挿入することは、「復帰突然変異体E1アデノベクター」(REA)の形成を阻害する。なぜなら、E1領域と相補細胞株(例えば293細胞)またはヘルパーウイルスのE1DNAとの相同組換えにより、アデノウイルスキャプシド内にパッケージングするには大きすぎるE1含有アデノウイルスゲノムが生じるからである。各発現カセットは3’−5’の方向に挿入することができる。例えば、発現カセットの転写の方向が周囲の隣接したアデノウイルスゲノムの転写の方向と反対であるように配向する。しかしながら、発現カセットを、周囲のゲノムの転写方向に関して5’−3’の方向に挿入することもまた適当である。これに関し、本発明のアデノウイルスベクターは、例えば3’−5’方向でE1領域に挿入された少なくとも1つの異種核酸配列、および5’−3’の方向でE4領域に挿入された少なくとも1つの異種核酸配列を含むことが可能である。E1および/またはE4領域が2つ以上の発現カセット(例えば、二重発現カセット)に置換された実施態様において、各発現カセットは互いにいずれの方向にも配置することができる。例えば、2つの発現カセットは、それぞれのプロモーターが互いに隣接するように配置することができる。この方法において、1つの発現カセットはアデノウイルスゲノムの転写方向に関して5’−3’方向であり、もう1つの発現カセットは3’−5’の方向である。2つのプロモーターを互いに隣接して配置することにより、1つのプロモーターの活性を隣接したプロモーターの活性により増強することができる。
【0071】
本発明によると、少なくとも1つの異種核酸配列(例えば、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の異種核酸配列)がアデノウイルスゲノムのE1領域に配置され、少なくとも1つの異種核酸配列(例えば、1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の異種核酸配列)がアデノウイルスゲノムのE4領域に配置される。アデノウイルスベクターが3つ以上の核酸配列を含む実施態様においては、少なくとも1つの異種核酸配列が好ましくはアデノウイルスゲノムのE1領域に配置され、少なくとも2つの異種核酸配列が好ましくはアデノウイルスゲノムのE4領域に配置される。あるいは、少なくとも2つの異種核酸配列がアデノウイルスゲノムのE1領域に配置され、少なくとも1つの異種核酸配列がアデノウイルスゲノムのE4領域に配置され得る。好ましくはないが、全ての異種核酸配列をアデノウイルスゲノムのE1領域またはE4領域のどちらかに配置することができる。アデノウイルスベクターがプラスモディウム属抗原をコードする2つ以上の核酸配列を含む実施態様において、2つ以上の核酸配列の各々は好ましくはアデノウイルスゲノムのE1領域またはE4領域に配置される。最も好ましくは、2つ以上の異種核酸配列の各々はアデノウイルスゲノムのE4領域に配置される。アデノウイルスゲノムへの(例えばゲノムのE1領域中への)発現カセットの挿入は、既知の方法、例えば、アデノウイルスゲノムの所定の場所にユニークな制限酵素認識部位を導入することによって促進することができる。前記のように、好ましくはアデノウイルスベクターのE3領域の全部または一部もまた欠失している。
【0072】
好ましくは、各異種核酸配列は1つ以上のプロモーターおよび/またはエンハンサー要素と(例えば、プロモーター可変発現カセットの一部として)機能的に(すなわち、その転写制御下で)結合する。配列を一緒に機能的に結合する技術は、当該分野で周知である。異種核酸配列の十分な発現が達成されて、かつコードされた抗原に対する頑強な免疫応答が生じる限り、いずれのプロモーターまたはエンハンサー配列も、本発明で使用することができる。好ましくは、プロモーターは、アデノウイルスベクターの天然のプロモーターから得られず、由来せず、または基づかないという点で、異種プロモーターである。これに関して、該プロモーターはウイルスのプロモーターであり得る。適切なウイルスのプロモーターは、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(例えば、マウスCMV前初期プロモーター(mCMV)またはヒトCMV前初期プロモーター(hCMV))(例えば、米国特許5,168,062および5,385,839に記載)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のプロモーター(例えば、HIVロングターミナルリピートプロモーター)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(例えば、RSVロングターミナルリピートまたは配列番号4のプロモーター)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、HSVプロモーター(例えば、Lap2プロモーターまたはヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci, 78: 144-145 (1981)))、SV40またはエプスタイン・バーウイルス由来のプロモーター、アデノ随伴ウイルスプロモーター(例えば、p5プロモーター)などを含む。好ましくは、該プロモーターはCMV前初期プロモーター(マウスまたはヒト)またはRSVプロモーターである。
【0073】
あるいは、該プロモーターは細胞性のプロモーター(すなわち、真核生物細胞、好ましくは動物細胞に天然にあるプロモーター)であり得る。1つの局面において、細胞性プロモーターは、好ましくは多様な細胞タイプ(例えば、免疫系に関する細胞)で働く構成的プロモーターである。適切な構成的プロモーターは真核生物細胞に共通の転写因子、ハウスキーピング遺伝子、または構造遺伝子をコードする遺伝子の発現を駆動することができる。適切な細胞性プロモーターは、例えば、ユビキチンプロモーター(例えばUbCプロモーター)(例えば、Marinovic et al., J. Biol. Chem., 277(19): 16673-16681 (2002)参照)、ヒトβアクチンプロモーター、EF−1αプロモーター、YY1プロモーター、塩基性ロイシンジッパー核因子ー1(BLZF−1)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、熱ショックタンパク質70B(HSP70B)プロモーター、およびJEM−Iプロモーターを含む。好ましくは、細胞性プロモーターはユビキチンプロモーターである。
【0074】
前記プロモーターの多くは構成的プロモーターである。構成的プロモーターの代わりに、該プロモーターは誘導可能なプロモーター(すなわち、適当なシグナルに反応してアップレギュレートおよび/またはダウンレギュレートされるプロモーター)であり得る。レギュレート可能なプロモーターまたは発現制御配列の使用は、抗原タンパク質(ウイルス抗原および寄生虫抗原を含む)が相補細胞株ににとってしばしば毒性を有するため、特にDNAワクチンの開発に適用できる。プロモーターは放射エネルギー源または細胞にストレスを与える物質によりアップレギュレートすることが可能である。例えば、発現制御配列は薬剤、ホルモン、超音波、光活性化化合物、無線周波数、化学療法および低温凍結(cyofreezing)によってアップレギュレートすることができる。したがって、異種核酸配列の発現をレギュレートするプロモーター配列は、外因性因子による調整に応答する少なくとも1つの異種調節配列を含有することができる。適切な誘導可能なプロモーターシステムはIL−8プロモーター、メタロチオニン誘導可能プロモーターシステム、細菌のlacZYA発現システム、テトラサイクリン発現システム、およびT7ポリメラーゼシステムを含むが、それに限定されない。さらに、異なる発生ステージで選択的に活性化されるプロモーター(例えば、グロビン遺伝子は胚と成体とではグロビン関連プロモーターから示差的に転写される)を使用することができる。
【0075】
該プロモーターは組織特異的プロモーター、すなわち、好ましくは所定の組織で活性化されて、活性化された組織での遺伝子産物の発現を結果として生じるプロモーターであることができる。本発明の使用に適した組織特異的プロモーターは、標的組織または細胞タイプに基づいて当業者が選択することができる。本発明の方法に使用する好ましい組織特異的プロモーターは、免疫細胞に特異的である(例えば、Morita et al., Gene Ther., 8: 1729-37 (2001)に記載の樹状細胞特異的Dectin−2プロモーターなど)。
【0076】
さらに別の実施態様において、該プロモーターはキメラプロモーターであり得る。少なくとも2つの異なる起源(例えば、1つの生物ゲノムの2つの異なる領域、2つの異なる生物または合成配列を組み合わせた生物)から得られ、由来し、または基づく少なくとも2つの核酸配列部分を含むという点で、プロモーターは「キメラ」である。好ましくは2つの異なる核酸配列部分は、互いに約40%未満、より好ましくは約25%未満、一層好ましくは約10%未満の核酸配列の同一性を示す(該相同性は本明細書の他の箇所に記載される方法によって決定することができる)。キメラのプロモーターは標準的な分子生物学的技術、例えばSambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(2001)、およびAusubelet al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons, New York, N.Y.(1994)に記載された技術を用いて生産することができる。
【0077】
プロモーターは、その特定の活性パターンを抗原(複数の抗原)の発現の所望のパターンとレベルに一致させることによって、本発明の方法に使用するために選択することができる。これに関して、アデノウイルスベクターは好ましくは異なる抗原をコードし、かつはっきりと区別できる発現プロファイルを示す異なるプロモーターに機能的に結合した、2つ以上の異種核酸配列を含む。例えば、第1のプロモーターは抗原産生の最初のピークを媒介するために選択され、それによって、コードされた抗原に対する免疫系をプライミングする。第2のプロモーターは、第1のプロモーターによって駆動される抗原産生の最初のピークから数日後に発現がピークになるように、同じまたは異なる抗原の産生を駆動するために選択され、それによって抗原に対する免疫系を「後押し」する。あるいは、キメラプロモーターは、複数のプロモーターの望ましい面を組み合わせるように構築することができる。例えば、CMVプロモーターの活性を最初に急増させる点にRSVプロモーターの活性を高いレベルで維持する点を組み合わせたCMV−RSVハイブリッドプロモーターは、本発明の方法の多くの実施態様に使用するのに特に好ましい。さらに、プロモーターは、活性を増強する異種要素を含むように改変することができる。例えば、ヒトCMVプロモーター配列は、合成スプライスシグナルを含み得、それに機能的に結合した核酸配列の発現を増強する。抗原が真核生物細胞にとって毒性であり得るという点では、アデノウイルスベクターを増殖させるために使用する相補細胞株における活性を減少させるようにプロモーターを改変することは有利であり得る。
【0078】
複数の異種核酸配列は、同じまたは異なるプロモーターに機能的に結合することができる。本発明の好ましい実施態様において、各異種核酸配列は別個のプロモーターに機能的に結合する。各プロモーターが異なることが好ましいが、当業者(one or ordinary skill in the art)はアデノウイルスベクターに存在する各異種核酸配列の発現を制御するのに1つの特に効率的なプロモーターを使用する利点を理解するであろう。したがって、各異種核酸配列は同じプロモーターに機能的に結合することができる。アデノウイルスベクターが3つ以上の異種核酸配列を含む場合、3つ以上の異種核酸配列は2つ以上の異なるプロモーターに操作可能に結合する(例えば、2つの異種核酸配列は同じプロモーターにそれぞれ機能的に結合し、1つの異種核酸配列は異なるプロモーターに機能的に結合する)。最も好ましくは、3つ以上の異種核酸配列の各々は異なるプロモーターに操作可能に結合する。所定の異種核酸配列に適切なプロモーターを選択することは、たくさんの要因(プロモーターの強さとアデノウイルスゲノム中の発現カセットの位置を含む)に依存するであろうし、当該分野で既知の慣用の方法を用いて行うことができる。
【0079】
タンパク質の産生を最適化するために、好ましくは各異種核酸配列はコード配列の3’にさらにポリアデニル化部位を含む。いずれの適切なポリアデニル化配列(合成最適化配列ならびにBGH(ウシ成長ホルモン)、マウスグロビンD(MGD)、ポリオーマウイルス、TK(チミジンキナーゼ)、EBV(エプスタイン・バーウイルス)、およびパピローマウイルス(ヒトパピローマウイルスおよびBPV(ウシパピローマウイルス)のポリアデニル化配列を含む)を含む)も使用可能である。好ましいポリアデニル化配列はSV40(ヒト肉腫ウイルス40)ポリアデニル化配列である。また、好ましくは、核酸配列が導入された細胞内で適切に発現するように、全ての適切な転写シグナル(および必要に応じて翻訳シグナル)が正確に配置される。必要に応じて、異種核酸配列はまた、mRNA産生を促進するスプライス部位(すなわち、スプライスアクセプターとスプライスドナー部位)を組み込むことができる。
【0080】
本発明はまた、哺乳動物におけるマラリアに対する免疫応答を誘導する方法を提供する。該方法は哺乳動物に(a)3つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターであって、各核酸配列はプラスモディウム属前赤血球ステージ抗原をコードし、少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合しているベクター、および(b)2つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターであって、各核酸配列はプラスモディウム属血液ステージ抗原をコードし、少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合しているベクターを投与することを含む。本発明の他の実施態様と関連して前で述べたアデノウイルスベクター、プラスモディウム属抗原、およびプロモーターの記載が、前記方法の同じ局面にも当てはまる。
【0081】
本発明の方法において、アデノウイルスベクターは好ましくは哺乳動物(例えば、ヒト)に投与され、プラスモディウム属抗原をコードする核酸配列が発現して抗原に対する免疫応答を誘導する。該アデノウイルスベクターは別々に製剤化され、同時または任意の順序で順次投与することができる。あるいは、これらのアデノウイルスベクターは同じ医薬組成物の一部であり得る。免疫応答は、体液性免疫応答、細胞介在性免疫応答、または望ましくは、体液性免疫と細胞介在性免疫の組合せであり得る。理想的には、免疫応答は、抗原を含む感染性因子によるその後のチャレンジの際に防御を提供する。しかしながら、防御免疫は本発明においては必要ではない。本発明の方法は、さらに抗体の産生と採取に使用することができる。
【0082】
プラスモディウム属抗原をコードするアデノウイルスベクターの投与は、哺乳動物に免疫応答を誘導するための複数ステップのあるレジメンの1つの構成要素であり得る。具体的には、本発明の方法は、プライムブースト免疫レジメンの1つの部分を代表することができる。本発明の方法は、したがって、アデノウイルスベクターを投与する前に少なくとも1つの抗原をコードする核酸配列を含む呼び水となる遺伝子導入ベクターを、哺乳動物に投与することを含み得る。呼び水となる遺伝子導入ベクターによりコードされる抗原は、アデノウイルスベクターの抗原と同じまたは異なるものであり得る。次いで本発明のアデノウイルスベクターが、所定の病原体に対する免疫応答を増強するために投与される。アデノウイルスベクターを含む組成物の2回以上の追加免疫が、免疫を維持するための任意の適切な時間枠(例えば少なくとも約1週間、2週間、4週間、8週間、12週間、16週間また初回免疫後はそれ以上で提供され得る。
【0083】
いずれの遺伝子導入ベクターも、呼び水となる遺伝子導入ベクターとして用いることができ、プラスミド、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、ヘルペスウイルス、アルファウイルス、またはアデノウイルスを含むが、これに限定されない。理想的には、呼び水となる遺伝子導入ベクターは、プラスミド、アルファウイルス、またはアデノウイルスのベクターである。プライミングレジメンの効果を最大化するため、該呼び水となる遺伝子導入ベクターは抗原をコードする2つ以上の異種核酸配列を含むことができる。好ましくは、該呼び水となる遺伝子導入ベクターは2つ以上(例えば、2,3,5、またはそれ以上)の、または3つ以上(例えば、3,5,7,9、またはそれ以上)の異種核酸配列を含み、該異種核酸配列はそれぞれ1つの抗原をコードしている。あるいは、免疫応答は、抗原それ自体(例えば、抗原性タンパク質、無傷の病原体(例えば、プラスモディウム属スポロゾイト)、寄生された赤血球、不活化された病原体など)を投与することによってプライミングされ、または増強され得る。
【0084】
いかなる投与経路も、哺乳動物にアデノウイルスベクターを送達するために使用することができる。実際、2つ以上の経路がアデノウイルスベクターを投与するために使用できるが、ある特定の経路が他の経路よりもより即時的でより効果的な応答を提供することができる。好ましくは、該アデノウイルスベクターは筋肉内注射を介して投与される。1回量のアデノウイルスベクターはまた、体腔中に適用または注入され、皮膚から吸収され(例えば経皮パッチ)、吸入され、経口摂取され、組織に局所的に適用され、または非経口的に(例えば、静脈内、腹膜、または動脈内投与により)投与される。
【0085】
該アデノウイルスベクターは制御または持続した放出を可能にする手段(例えばスポンジ、生体適合性網目構造、機械的容器、または機械的インプラント)の中または表面に存在させて投与することができる。インプラント(例えば、米国特許5,443,505参照)、機具(例えば、米国特許4,863,457参照)(例えば、インプラント可能な機具(例えば、機械的容器またはインプラント)または高分子組成物で構成される機具)が、特にアデノウイルスベクターの投与に有用である。該アデノウイルスベクターはまた、例えばゲル発泡体、ヒアルロン酸、ゼラチン、コンドロイチン硫酸、ポリリン酸エステル(例えば、ビス−2−ヒドロキシエチル-テレフタレート(BHET))、および/またはポリ乳酸−グリコール酸を含む徐放性製剤(例えば、米国特許5,378,475参照)の形状で投与することができる。
【0086】
哺乳動物に投与するアデノウイルスベクターの用量は、多数の要因(標的組織の大きさ、全ての副作用の程度、特定の投与経路などを含む)に左右されるであろう。該用量は理想的には、アデノウイルスベクターの「有効量」、すなわち、哺乳動物に所望の免疫応答を誘発するアデノウイルスベクターの用量を含む。所望の免疫応答は、抗体の産生、その後チャレンジの際の防御、免疫寛容、免疫細胞活性化などを伴い得る。望ましくは、1回用量のアデノウイルスベクターは少なくとも約1×10粒子(粒子ユニットともよばれる)のアデノウイルスベクターを含む。該用量は好ましくは、少なくとも約1×10粒子(例えば、約1×10〜1×1012粒子)、より好ましくは少なくとも約1×10粒子、より好ましくは少なくとも約1×10粒子(例えば、約1×10〜1×1011粒子)、および最も好ましくは少なくとも約1×10粒子(例えば、約1×10〜1×1010粒子)のアデノウイルスベクターである。該用量は、望ましくは約1×1014粒子未満、好ましくは約1013粒子未満、さらにより好ましくは約1×1012粒子未満、さらにより好ましくは約1×1011粒子未満、および最も好ましくは約1×1010粒子未満(例えば、約1×10粒子未満)を含む。言い換えると、1回用量のアデノウイルスベクターは、例えば約1×10粒子ユニット(pu)、2×10pu、4×10pu、1×10pu、2×10pu、4×10pu、1×10pu、2×10pu、4×10pu、1×10pu、2×10pu、4×10pu、1×1010pu、2×1010pu、4×1010pu、1×1011pu、2×1011 pu、4×1011pu、1×1012pu、2×1012pu、または4×1012puのアデノウイルスベクターを含むことができる。
【0087】
該アデノウイルスベクターは望ましくは、組成物、好ましくは医薬上許容可能な(例えば、生理学的に許容可能な)組成物で投与される。該組成物は、担体、好ましくは医薬上(例えば、生理学的に許容可能な)担体およびアデノウイルスベクター(複数のアデノウイルスベクター)を含む。本発明においては、いかなる適切な担体も使用可能であり、かかる担体は当該分野において周知である。該担体の選択は、組成物が投与されると特定の部位に組成物を投与するために使用される特定の方法と、部分的には決定されるであろう。理想的には、アデノウイルスベクターとの関連で、組成物は好ましくは複製可能なアデノウイルスを含まない。該組成物は任意に滅菌または本発明のアデノウイルスベクターを除いて滅菌することができる。
【0088】
組成物の適切な製剤は、抗酸化剤、緩衝液、および静菌剤を含有し得る水性および非水性溶液、等張滅菌溶液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存剤を含み得る水性および非水性滅菌懸濁液を含む。製剤は単回用量または複数回用量の密封容器(例えば、アンプルおよびバイアル)で提供され得、滅菌した液体担体例えば、水を使用直前に追加するだけでよい凍結乾燥した(lyophilized)状態で保存され得る。即席の溶液および懸濁液が前記の種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製され得る。好ましくは、担体は緩衝生理食塩水である。より好ましくは、本発明の方法に使用されるアデノウイルスベクターは、投与に先立つダメージから発現ベクターを保護するために製剤化された組成物で投与される。例えば、発現ベクターを調製、保存、または投与するために使用される手段(例えば、ガラス製品、シリンジ、または針)での、アデノウイルスベクターの損失を減らすために該組成物は製剤化され得る。該組成物は、発現ベクターの光感受性および/または温度感受性を減らすために製剤化され得る。この目的のため、該組成物は、好ましくは医薬上許容可能な液体担体(例えば、前記の担体、ならびにポリソルベート80、L−アルギニン、ポリビニルピロリドン、トレハロース、およびそれらの組合せよりなる群から選択される安定化剤)を含む。かかる組成物の使用は、ベクターの貯蔵寿命を延長し、投与を容易にし、かつ本発明の方法の効率を良くするであろう。アデノウイルスベクターを含有する組成物の製剤は、例えば、米国特許6,225,289、米国特許6,514,943、米国特許出願公開No.2003/0153065 A1、および国際特許出願公開WO00/34444にさらに記載されている。組成物はまた、形質導入効率を増大させるためにも製剤化され得る。加えて、当業者はアデノウイルスベクターが別の治療的なまたは生物学的に活性な因子とともに、組成物中に存在し得ることを理解するであろう。例えば、炎症を制御する因子(例えば、イブプロフェンまたはステロイド)は、ウイルスベクターの生体内投与に伴う腫れおよび炎症を減少させるため、組成物の一部とすることができる。本明細書に記載のように、免疫系刺激因子または賦活剤(例えば、インターロイキン類、リポ多糖および2本鎖RNA)は、抗原に対するいかなる免疫応答も増大または改変させるために投与され得る。抗生物質(すなわち、殺菌剤および防カビ剤)は、既存の感染の治療のため、および/または将来の感染、例えば遺伝子導入手順と付随した感染のリスクを減らすため存在させ得る。
【実施例】
【0089】
以下の実施例は本発明をさらに説明するものであるが、もちろん、その範囲を何ら限定するものと解すべきではない。
【0090】
(実施例1)
この実施例は、P.ファルシパラム血液ステージ抗原をコードする異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターの調製を示す。
【0091】
欠失したE1領域の代わりに、P.ファルシパラムのAMA−I(PfAMA1)およびMSP−142(PfMSP142)タンパク質の非分泌(NS)、分泌かつ糖鎖付加化(SG)、および分泌かつ非糖鎖付加化(SNG)バージョンをコードする核酸配列を含有する10の血清型5E1/E3/E4欠損アデノウイルスベクターが生み出された。PfMSP142のSGバージョンは、分解促進因子(DAF)シグナル配列をPfMSP142遺伝子の5’末端と融合させることによって生み出された。PfMSP142のSNGバージョンは、DAFシグナル配列とアミノ酸の位置が321でアスパラギンから置換されたグルタミンを含む。PfAMA1のSGバージョンはPfAMA1遺伝子の完全長である。PfAMA1のSNGバージョンはアミノ酸の位置286、371、421、422および499がアスパラギンから置換されたグルタミンおよびアミノ酸の位置162がアスパラギンから置換されたリジンを含有する。PfAMA1のNSバージョンは、天然のシグナル配列の欠失を含有する。
【0092】
各アデノウイルスベクター構造において、PfMSP142遺伝子はアデノウイルスベクターの転写に関して反対の方向にE1欠失の部位中に挿入された発現カセットから発現した。発現カセットは、5’から3’に向けて、合成スプライスシグナルを有するヒトCMVプロモーター(hCMV)、PfMSP142遺伝子、およびSV40ポリアデニル化シグナルを含む。各アデノウイルスベクターの構造において、PfAMA1遺伝子はE4欠失部位に挿入された発現カセットでマウスCMVプロモーター(mCMV)から発現した。
【0093】
E4領域に配置されたmCMV発現カセットがE1領域のhCMV発現カセットと同等であることを確かめるために、3つの追加のベクターがコントロールとして生み出された:(1)E1領域のhCMVプロモーターと機能的に結合したPfAMA1のSGバージョンを含むAdPfAMA1(SG)、(2)E1領域のmCMVプロモーターと機能的に結合したPfAMA1のSGバージョンを含むAdmCMVPfAMA1(SG)、および(3)E4領域のhCMVプロモーターと機能的に結合したPfAMA1のSGバージョンを含むAda.E4t.PfAMA1(SG)。
【0094】
PfAMAl遺伝子とPfMSP142遺伝子のSG、SNGおよびNSバージョンを含むベクターは、糖鎖付加の状態と抗原の細胞局在性を評価した。免疫ブロット解析は、PfAMAlのSGバージョンの見た目の分子量がNSやSバージョンの分子量よりも重いということを示した。これは、SGバージョンが翻訳後に改変されたことを示唆している。免疫ブロット解析はまた、MSP142のSGバージョンの見た目の分子量がNSやSNGバージョンの分子量よりも重いということを示した。これは、SGバージョンが翻訳後に改変されたことを示唆している。糖鎖付加の状態は、PfMSP142ベクターのPfAMA1にA549細胞を感染させ、その後に、感染24時間後に採取された細胞溶解物をEndo HまたはPNGase Fのどちらかで処理することによって確認することができる。PNGase Fは複合体、ハイブリッド、高マンノースタイプN−グリカンを加水分解し、Endo Hは高マンノースタイプ構造のみを開裂させる。両酵素の処理の結果として、PfAMA1(SG)産物とMSP−142(SG)産物の見た目の分子量が減少することは、PfAMAl(SG)とMSPl42(SG)とが両方ともN−糖化することを示している。PfAMA1のNSまたはSNGバージョンの見た目の分子量における変化は観察されなかった。PfMSP142のNSバージョンの分子量における変化がなく、SNGバージョンの分子量における変化が少ないことが観察された。これは、おそらく、酵素分解緩衝液におけるイオン強度の違いによるものである。PfAMA1(NS)抗原の発現は、SG抗原とSNG抗原に比べてはるかに減少した;しかしながら、異なる抗体を使用した別の免疫ブロットはNS抗原が効率的に発現したことを示した。
【0095】
全てのアデノベクター構築物の免疫ブロット解析により、培養培地中に抗原を分泌したAMA1ベクターがなかったこと、大半のMSPタンパク質は培養培地中に分泌されなかったことが示された。免疫蛍光分析(IFA)により、同様のレベルのPfAMA1が非透過性細胞対透過性細胞において観察されたように、PfAMA1(SG)抗原が細胞表面に位置することが示された。AMA1のSNGバージョンは、透過化はIFAによって抗原を検出する必要があるので、細胞外には存在しなかった。生存している感染細胞をプロテアーゼで分解することによりこれらの発見が確認され、PfAMA1(SG)がトリプシンにより開裂し、PfAMA1(SNG)およびPfAMA1(NS)抗原はトリプシンにより開裂しないことが明らかになった。該解析は、PfAMA1(SG)抗原が4G2抗体に認識され、トリプシン分解に感受性のある構造で、抗原が細胞表面に存在することを示唆する。
【0096】
IFAはまた、IFAによりPfMSP1抗原を検出するために細胞の透過性が必要であるので、MSP142抗原は細胞表面に関与しないことを示した。しかしながら、生存している感染細胞のプロテアーゼ分解は、Pf−MSP142(SG)がトリプシンにより開裂すること、PfMSP142(SNG)およびPfMSP142(NS)抗原がトリプシンにより開裂しないことを明らかにした。この解析は、トリプシン分解に感受性があるがIFAアッセイに使用されたポリクローナル抗血清に認識されない構造で、PfMSP142(SG)抗原が細胞表面に存在することを示唆している。これらの実験結果は表1に要約する。
【0097】
【表1】

【0098】
この実施例の結果は、P.ファルシパラムの血液ステージ抗原の分泌、非分泌、糖鎖付加(glcosylated)、および非糖鎖付加バージョンを含むアデノウイルスベクターの産生を示す。
【0099】
(実施例2)
この実施例は、P.ファルシパラムの血液ステージ抗原をコードする異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターの免疫原性を示す。
【0100】
4つの血清型5E1/E3/E4欠損アデノウイルスベクター(欠失したE1領域の代わりに、P.ファルシパラムMSP142(PfMSP142)またはAMA−1(PfAMA1)タンパク質の非分泌(NS)、分泌かつ糖鎖付加(SG)、分泌かつ非糖鎖付加(SNG)、および野生型バージョンをコードする核酸配列)を含有する)は、実施例1に記載のように産生された。細胞膜にMSP142タンパク質を固定するために、PfMSP142のNS、SG、およびSNGバージョンをコードする核酸配列もまた、グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidylinisotol)(GPI)アンカー配列を含有する。同様に、野生型MSP142核酸配列は、DAFアンカー配列とDAFシグナル配列(すなわち、Ad.PfMSP142(DSA))とを含む。実施例1に記載のPfAMA1の分泌かつ非糖鎖付加(SNG)バージョンに加えて、2つ目のSNG PfAMA1アデノベクター構築物(SNG2)が産生された。PfAMA1のSNG2バージョンは次のアミノ酸置換体を含む:Asnl62Lys、Tyr287Leu、Thr288Val、Ala372Arg、Ser373Val、Ser423Lys、Asn422Asp、Ser424Asn、およびAsn499Gln。
【0101】
実施例1に記載のように、アデノウイルスベクターを糖鎖付加の状態と抗原の細胞局在性で評価した。前記組換えアデノウイルスベクターにより誘導されたT細胞免疫応答は、マウスモデルで評価した。具体的には、前記のPfMSP142またはPfAMA1発現アデノベクターを、全容積100μl中1×10puの用量で、2つの筋肉間で分割して3〜6週齢のBALB/cマウスの前脛骨筋の筋肉内に免疫した。CD8+とCD4+のT細胞応答は、PfMSP142またはPfAMA1由来の合成ペプチドのプールを用いたインビトロでの再刺激に続いて、細胞間サイトカイン染色(ICS)またはIFN−γ ELIspotにより測定された。免疫化されていない未使用のマウスを同時に評価した。抗体応答は、アデノベクターを発現するPfAMA1の各PfMSP142を用いて免疫されたマウス由来の抗血清の連続的な希釈物を利用したELISAアッセイにより評価された。これらの実験結果は表2に示される。
【0102】
【表2】

【0103】
この実施例の結果は、P.ファルシパラム血液ステージ抗原の分泌、非分泌、糖鎖付加(glcosylated)、および非糖鎖付加バージョンを含むアデノウイルスベクターの産生およびインビボでの関連する免疫原性を示す。
【0104】
(実施例3)
この実施例は、インビボおよびインビトロでのアデノウイルスベクターによりコードされるプラスモディウム属抗原の発現におけるプロモータータイプ、さらにプロモーターの配置および方向の効果を示す。
【0105】
多価ベクターにおいて異なる抗原を発現する1つの強いプロモーターの複数のコピーを使用することにより、プロモーター間で相同組換えすることによりベクターを不安定にすることが予期される。したがって、多価アデノウイルスベクターに基づくマラリアワクチンのための適切なプロモーターを同定するため、多様なプロモーター由来のルシフェラーゼを発現する一連のアデノウイルスベクターを、プラスモディウム属遺伝子の発現を制御するのに適切なプロモーターを同定するために、マウスにおいてスクリーニングした。特に、5匹のメスのC57BL/6マウスの集団に、E1欠失部位にルシフェラーゼ発現カセットを含有するE1/E3/E4欠損アデノウイルスベクターの1×1010粒子ユニット(pu)を注射した。ルシフェラーゼ遺伝子は、次の各プロモーターに操作可能に結合した:ヒトCMVプロモーター(hCMV)、ヒトCMV増強トリβアクチンキメラプロモーター(CCBA)、ヒトβアクチン(hβA)プロモーター、マウスCMVプロモーター、伸長因子α(Ef1α)プロモーター、ユビキチン(Ub)プロモーター、RSVプロモーター、Ying Yang 1(YY1)プロモーター、塩基性ロイシンジッパー核因子−1(BLZF1)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、および熱ショック特異的7OB(HSP70B)プロモーター。各マウスの脛骨筋への注射24時間後、筋肉組織が採取され、相対照度ユニット(RLU)/μgのタンパク質におけるルシフェラーゼレベルが測定された。反応緩衝液を注射したマウスをネガティブコントロールとして使用した。
【0106】
プロモーターの3つの分類:高発現、中発現、および低発現を示す。高発現は、mCMVプロモーターと活性が等量か、より高いものとして定義される。高発現グループは、hCMV、CCBA、hBA、Ef1αおよびmCMVプロモーターを含む。中発現グループはユビキチン(Ub)プロモーターを含み、低発現グループはRSV、YYl、BLZF−1、NSEおよびHSP70Bプロモーターを含む。
【0107】
アデノベクターゲノム内の発現カセットの配置と方向の効果をまた、インビボでルシフェラーゼマーカー遺伝子を用いて評価した。E1領域およびE4領域は、hCMVおよびmCMVプロモーターを用いて試験したとき、同様の高レベルの発現を提供することが見られた。同様に、E4領域内の発現カセットの方向は発現レベルにまで影響しなかった。しかしながら、hBA発現カセットがアデノベクターの欠失したE3領域中に挿入されたとき、欠失したE1領域に同一カセットが挿入されたときに見られる発現に比べて100分の1に減少した発現が見られた。
【0108】
この結果より、高レベルのアデノベクター中のプラスモディウム属遺伝子発現により高発現プロモーター(例えばhCMVプロモーター)の使用を達成することができ、かつE1および/またはE4欠失の部位中に発現カセットを挿入できることが示唆された。
【0109】
(実施例4)
この実施例は、P.ファルシパラムの血液ステージ抗原をコードする2つの異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターの調製を示す。
【0110】
前記実験に基づいて、PfAMA1およびPfMSP142の両方のSNGのSGバージョンをコードするアデノウイルスベクターが結果として効果的なワクチン構築物である可能性が最も高いことを決定した。この目的のために、E1/E4欠損アデノウイルスベクターが、欠失したE1領域に配置する発現カセット中のPfMSP142(SNG)遺伝子およびウイルスの欠失したE4領域に配置する発現カセット中のPfAMA1(SNG)遺伝子を含んで構築された。特に、hCMVプロモーター由来のPfMSF142(SNG)抗原を発現するE1シャトルベクターが構築された(pAdCMV.PfMSP142(SNG))。mCMVプロモーター由来PfAMA1(SNG)抗原を発現するE4シャトルベクター(pAdE4mCMV.PfAMA1(SNG))はまた、例えば、国際特許出願公開No.WO99/15686および米国特許6,329,200に記載の方法を用いて生産した。これらのシャトルベクターは、pAd(t.PfMSPl42SNG)E3(10)E4(mCMV.PfAMAlSNG)pkgとよばれる新規なアデノベクタープラスミドを産生するために、AdFast(登録商標)technology (GenVec,Inc.,Gaithersburg,Maryland)によって生産されたプラスミドに組み換えられた(国際特許出願公開No.WO99/15686および米国特許6,329,200参照)。このプラスミドは、ウイルス中で変換されて、Adt.PfMSPl42(SNG)E4mCMV.PfAMA1(SNG)アデノウイルスベクターの高力価ベクターストックを産生するために拡大された。同様の方法で、2つ目のE1/E4欠損アデノウイルスベクターが、E1領域が2つの発現カセットに置換されて構築された:1つはPfMSP142(SG)遺伝子を含み、もう1つはPfAMA1(SG)遺伝子を含む(AdE1(MSP142SSG/mCMVAMASG))。両方のベクターの高力価ストックは十分に証明され、遺伝的構造の同一性がPCRに基づくアッセイにより確認された。
【0111】
組換えアデノウイルスベクターAdE1(MSPl42SSG/mCMVAMASG)により誘導されるT細胞免疫応答は、実施例2に記載のようにして評価した。詳細には、マウスを16グループに分け、1〜5グループはプライミング免疫をせず、6〜10グループはコントロールDNA、PfAMA1 DNA、PfMSP1 DNAまたはPfAMA1 DNAとPfMSP1 DNAとの混合物のプライミング免疫をし、11〜15グループにはAdNull、PfAMA1(SG)(AdPfAMA1(SG))、またはPfMSP142(SG)(AdPfMSP142(SG))、AdP/AMAl(SG)とAdPfMSP142(SG)との混合物またはAdE1(MSP142SSG/mCMVAMASG)のみをコードするE1/E4欠損ベクター、のいずれかのプライミング免疫をした。マウスは4週間でブースト免疫を投与した。これに関し、1〜15グループはAdNull、AdPZAMA1(SG)、AdPfMSP142(SG)、AdP/AMA1(SG)とAdPfMSP142(SG)との混合物、またはAdEl(MSP142SSG/mCMVAMASG)のいずれかを用いて免疫した。16グループのマウスは未処理のマウスであった。マウスは免疫付与後2週間または6週間で屠殺した。11〜16グループのマウスの抗体応答は、実施例2に記載のようにELISA分析により評価した。
【0112】
これらの実験結果は、図1〜4に示す。図1は、免疫付与後2週間の処置されたマウスのIFNγ ELIspot解析の結果を示す。図2は、免疫付与後6週間の処置されたマウスのIFNγ ELIspot解析の結果を示す。図3と4は、それぞれ、AMA1タンパク質とMSP142タンパク質に対するELISAアッセイの結果を示す。
【0113】
この実施例の結果は、2つの異種核酸配列を含む本発明のアデノウイルスベクターの産生と免疫原性を示す。ここで、各核酸配列はプラスモディウム属抗原をコードし、少なくとも1つのプロモーターと機能的に結合している。
【0114】
(実施例5)
この実施例は、P.ファルシパラム前赤血球ステージ抗原をコードする異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターの調製を示す。
【0115】
血清型5E1/E3/E4欠損アデノウイルスベクター(欠失したE1領域の代わりに、P.ファルシパラムのCSP遺伝子またはSSP−2遺伝子をコードする核酸配列を含有する)は、例えば国際特許出願公開No.WO99/15686および米国特許6,329,200に記載の方法を用いて産生した。CSP遺伝子またはSSP−2遺伝子は、次のプロモーターの1つ(hCMV、mCMV、RSV、またはUb)に機能的に結合した。各アデノウイルスベクター構築物は、そこにコードされるプラスモディウム属遺伝子にしたがって命名し、プロモーターはプラスモディウム属遺伝子を制御するために使用した。
【0116】
インビトロでの抗原発現レベルがプロモーターの使用によって影響を受ける範囲を決定するために、ヒト胎児胚(HEL)細胞を、ベクターの欠失したE1領域に挿入されたPfSSP2発現カセットを含む6つのアデノウイルスベクターの1つに感染させた。全発現カセットは、天然のSSP−2配列を含有するコドン最適化PfSSP2遺伝子(ベクターAdCMV.PfSSP2nを除く)を利用した。ベクターAdCMV.PfSSP2dlTMCTは、PfSSP2アミノ酸配列のカルボキシ末端の欠失をコードする核酸配列を含み、該配列はタンパク質の膜貫通ドメインを取り除かれる。ベクターAdCMV.PfSSP2、AdRSV.PfSSP2、AdUb.PfSSP2、およびAdmCMV.PfSSP2は、hCMVプロモーター(合成スプライシングシグナルを含有する)、RSVプロモーター、Ubプロモーター、またはmCMVプロモーターをそれぞれ機能的に結合したPfSSP2をコードする核酸配列を含む。
【0117】
免疫ブロット分析は、hCMVおよびmCMVプロモーターがコドン最適化PfSSP2抗原の発現を制御するために使用されるとき、高レベルのPfSSP2発現が見られることを示した。AdCMV.PfSSP2とAdCMV.PfSSP2nとの比較は、コドン最適化PfSSP2配列の使用が天然の配列に関しておよそ100倍PfSSP2発現を増強することを示す。RSVおよびUbプロモーター由来のPfSSP2発現は、hCMVプロモーターに関して約20〜100分の1に減少した。
【0118】
この実施例の結果は、多様な異なるプロモーターに機能的に結合したP.ファルシパラム前赤血球ステージ抗原をコードする異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターの産生を示す。
【0119】
(実施例6)
この実施例は、インビボで、P.ファルシパラム前赤血球ステージ抗原をコードするアデノウイルスベクターの免疫原性を示す。
【0120】
実施例4に記載の組換えアデノウイルスベクターにより誘導された免疫原性は、マウスモデルで評価した。詳細には、3〜6週齢の6匹のメスBALB/cマウスの集団(各グループn=6)を、全容量100μl中1×10puの用量で、RSVプロモーター、hCMVプロモーター、mCMVプロモーター、またはUbプロモーター由来の哺乳動物コドン最適化PfSSP2、もしくはhCMVプロモーター由来で発現した非コドン最適化(すなわち天然の)PfSSP2を発現するベクターを2つの筋肉間で分割して前脛骨筋内の筋肉内に免疫した。マウスは10グループに分けた。2〜4グループは各PfSSP2アデノベクターでブースト免疫される4週間前にPfSSP2 DNAのプライミング免疫を受けた。5〜7グループは、4週間の間隔で、PfSSP2アデノベクターの2回用量で免疫した。8〜10グループは、アデノベクターの1回用量で免疫した。マウスは免疫付与後2週間または6週間で屠殺した。CD8+およびCD4+のT細胞応答は、PfSSP2由来でA20/2J標的細胞に存在する合成ペプチドのプールを用い、インビトロでの再刺激に続く細胞間サイトカイン染色(ICS)またはIFN−γ ELIspotにより測定した。1グループの免疫していない未処理マウスを同時に評価した。
【0121】
PfSSP2はhCMVまたはmCMVプロモーターからの発現であってRSVプロモーターからでないとき、強力な免疫応答が観察された。さらに、インビトロでのIFN−γ応答とインビボでの防御免疫の間の高い関係が指摘され(r=0.903)、RSVプロモーターを使用した構築物は短期(免疫付与後2週間、6週間、または12週間)または長期(6ヵ月)のどちらの病原体のチャレンジに対しても滅菌防御を誘導するほど効果的でなかった。RSVプロモーターを含むベクターに誘導された場合に比較して、頻度および強さまたは応答では、hCMVプロモーターから発現した天然のPfSSP2アデノベクターにより誘導されたインビボでの免疫応答は乏しい。これらのデータは、候補となるアデノベクターマラリアワクチンが天然の遺伝子配列よりもむしろ哺乳動物コドン最適化遺伝子を利用すべきであることを確かにする。
【0122】
CD4+T細胞応答は細胞内サイトカイン染色によって検出されたが、アデノベクターにより誘導されたT細胞応答は、主にCD8+表現型であった。CD4+T細胞応答を誘導するためのプロモーターの相対的な免疫原性のプロファイルは、CD8+T細胞応答のプロファイルと同じであった。これらのデータは、P.ヨエリイマウスモデルにおいてPyCSPを使用する他の研究結果と一致する。前赤血球ステージマラリアに対する防御が主にCD8+T細胞(2番目の役割をするCD4+T細胞とともに)によって媒介されるので、本明細書に記載の組換えアデノウイルスベクターによって誘導された免疫応答のプロファイルおよび表現型が、プラスモディウム属のチャレンジに対する防御にとって望ましい。
【0123】
外挿によると、これらのデータもまた、RSVプロモーターではなくhCMVおよびmCMVプロモーターがP.ファルシパラムに対する防御免疫を誘導するのに効率的であり得ることを示唆する。同様に該データと一致して、試験された用量では、hCMVまたはmCMVプロモーターに誘導されたPfSSP2抗原特異的応答間は顕著には異ならなかった。該データによっても有効用量として1×10puが確立され、該有効用量は続く研究のための標準用量として選択された。
【0124】
実施例5に記載のアデノウイルスベクターもまた、抗原特異的抗体応答を誘導する能力を評価した。詳細には、高発現、中発現または低発現プロモーター由来のPfSSP2を発現する構築物により促進された抗体応答を比較した。この解析結果は表3に示す。該抗体応答は、試験したアデノウイルスベクターにより促進されたT細胞応答と比較した。これに関し、RSVプロモーター構築物は免疫原性が乏しく、かつヒトおよびマウスのCMVプロモーターは抗原特異的抗体応答を誘導するのに効率が良かった。
【0125】
【表3】

【0126】
この実施例の結果は、インビボでのhCMV、mCMV、またはRSVプロモーターと操作可能に結合するP.ファルシパラム前赤血球ステージ抗原をコードするアデノウイルスベクターの免疫原性を示す。
【0127】
(実施例7)
この実施例は、P.ファルシパラム前赤血球ステージ抗原をコードする2つの異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターの調製を示す。
【0128】
E1/E4欠損アデノウイルスベクターは、アデノウイルスの欠失したE1領域に配置される発現カセット中のテール(PfCSPt)および欠失したE4領域に配置される発現カセット中のPfLSA遺伝子を抑制するGPIアンカーを含有するように改変されたPfCSP遺伝子を含むように構築された。詳細には、E1シャトルベクターは、hCMVプロモーター由来のPfCSPt抗原を発現するように構築された。E4シャトルベクターは、mCMVプロモーター由来のPfLSA抗原を発現し、例えば国際特許出願公開No.WO99/15686および米国特許6,329,200に記載の方法を使用しても生産された。これらのシャトルベクターを、AdFast(登録商標)技術(GenVec,Inc.,ゲイサーズバーグ,メリーランド州)によって生産されたプラスミド(国際特許出願公開No.WO99/15686および米国特許6,329,200参照)で組み換え、新規アデノベクタープラスミドを生産した。このプラスミドはアデノウイルスに変換され、AdEl(CSPt)E4(mCMV.LSA)とよばれるアデノベクターの高力価のベクターストックを産生するために拡張された。アデノウイルスベクターの高力価ストックは十分に証明され、その遺伝的構造の同一性はPCRに基づくアッセイによって確認された。免疫ブロットアッセイは、インビトロで、この二価のベクターが結果的にPfCSPtとPfLSAとの抗原の両方で効率的に発現されることを確認した。
【0129】
組換えアデノウイルスベクターに誘導されたT細胞免疫応答は、実施例2に記載のようにして評価した。詳細には、マウスは、いずれのP.ファルシパラム抗原(AdNull)も欠くコントロールベクター、CSPt抗原のみをコードするE1/E4欠損アデノベクター(AdPfCSPt)、LSA抗原のみをコードするEL/E4欠損アデノベクター(AdPfLSA)、AdPfCSPtおよびAdPfLSAの混合物、またはAdEl(CSPt)E4(mCMV.LSA)のどれかの1回用量または2回用量で免疫した。マウスは、免疫付与後2週間および6週間で屠殺した。処理したマウスの各グループの抗原応答を、実施例2に記載のELISAアッセイで評価した。
【0130】
これらの実験結果は図5および6に示す。図5は、免疫付与後6週間の処理されたマウスのIFNγ ELIspot解析の結果を示す。図6は、前記記載のアデノウイルスベクターの1回用量または2回用量を受けたマウスのELISAアッセイの結果を示す。これらの結果は、2つの前赤血球ステージマラリア抗原をコードする二価のアデノウイルスベクターが、両方の抗原に対して強いT細胞応答および抗体応答をインビボで誘導することを示す。
【0131】
(実施例8)
この実施例は、それぞれが少なくとも2つの異なるプロモーターに機能的に結合した3つの異種核酸配列を含むアデノウイルスベクターの調製を示す。
【0132】
マーカー遺伝子をコードする3つの核酸配列を含む三価E1/E3/E4欠失アデノウイルスベクターは、E1領域の場所に挿入された一重発現カセット、およびE4領域の場所に挿入された二重発現カセットを組み込むことにより生産された。試験された該マーカー遺伝子はルシフェラーゼを含み、アルカリホスファターゼ(SEAP)および緑色蛍光タンパク質(GFP)を分泌した。試験された該プロモーターは、RSVプロモーター、合成スプライシングシグナルを有するヒトCMVプロモーター(CMV)、マウスCMVプロモーター(mCMV)、CCBAプロモーター、およびEF−lαプロモーターを含む。生産された三価の構築物は図7に図式化して示す。
【0133】
国際特許出願公開No.WO99/15686および米国特許6,329,200に記載の方法を用いて、全ての三価の構築物が、コントロールプラスミドとして同様の効率で、アデノベクタープラスミドから救出された。2つのアデノウイルスベクター構築物(AdEl(EF.S)E4(f.CCBA_mCMV.L)およびAdEl(mCMV.L)E4(S.R_CMV.f))の精製されたベクターストックの全収量は、他の試験されたアデノウイルスよりも高かった。これは、1つのベクター設計が他のベクター設計を超える成長利点を有し得ることを示唆する。
【0134】
これらのベクターの成長特性を決定するために、成長曲線実験を行った。293−ORF6細胞(Brough et al, J Virology, 70: 6497-6501 (1996)参照)は、生産における最も少ない収量の2つを含む三価ベクターの3つの溶解物を感染させた。細胞は感染48時間後および72時間後に得て、焦点形成ユニット(ffu)アッセイを用いて活性化したベクター粒子を解析した。感染効率(MOI)が20ffu/cellである感染は、全ての三価ベクターに対して結果として顕著なベクターを生じる。三価ベクターの収量は、ただ1つの発現カセット(AdL.11D)のみを保有するコントロールアデノベクターで得られた収量と同じであった。
【0135】
PfCSPとPfSSP2との両方を発現するアデノウイルスベクターの産生は、証明することが難しい。なぜなら、これらの抗原はアデノウイルス粒子にアデノベクタープラスミドが変換することを抑制するからであり、精製されたPfSSP2発現アデノベクターの収量はほとんどの別のアデノベクターストックのおよそ10分の1であった。この問題に取り組むために、PfSSP2突然変異を発現しているアデノベクターが生産された。これに関し、PfSSP2−4は、膜貫通ドメインを取り除いたもののC末端欠失およびSSP2タンパク質のC末端を含有する。PfSSP2−6は、PfSSP2のトロンボスポンジンドメイン中に欠失を含む。これらの突然変異SSP2遺伝子それぞれを発現するE1/E3/E4欠失血清型5アデノウイルスベクターは、前記野生型PfSSP2発現アデノウイルスベクターと同時に成長曲線実験において解析した。
【0136】
PfSSP2−6をコードするアデノベクターは、野生型のPfSSP2をコードするアデノベクターまたはPfSSP2−4をコードするアデノベクターよりも顕著に低い力価になり、それゆえ、さらに解析しなかった。最もよい成長パフォーマンスは、天然のPfSSP2ヌクレオチド配列を含むアデノベクターで見られた。mCMVプロモーター由来のコドン最適化SSP2抗原を発現するアデノベクターは、このアッセイでよく増大し、かつ強力な免疫応答をマウスにおいて誘導した。
【0137】
この実施例の結果は、3つの異種核酸配列を含む本発明のアデノウイルスベクターの産生を示す。各核酸配列は少なくとも2つの異なるプロモーターに対して機能的に結合する。
【0138】
(実施例9)
この実施例は、3つの異種核酸配列を含む1つのアデノウイルスベクターの調製を示す。各異種核酸配列はプラスモディウム属抗原をコードする。
【0139】
E1/E3/E4欠失血清型5アデノウイルスベクターは、ウイルスゲノムのE1およびE4領域に配置された二重発現カセットからPfLSAとPfCSPとの両方を発現するように生産された。予備試験の結果は、E1発現ベクターがよく成長することを示す。さらに、3つの前赤血球ステージプラスモディウム属抗原を発現する1つの三価のアデノベクターの発現カセットが構築された。これらの発現カセットは、E1欠失部位に挿入されたPfSSP2遺伝子およびE4欠失部位に挿入された二重発現カセットの一部としてPfLSAおよびPfCSP遺伝子を含む。
【0140】
(実施例10)
この実施例は、宿主免疫系による認識が減じることを示す改変されたヘキソンタンパク質を含むアデノウイルスベクターの調製を示す。
【0141】
アデノウイルスのヘキソンタンパク質の輸送は、例えばStemmer, supra、Cherry et al., supra、およびSchmidt-Dannertet al., supraに記載の方法を用いた例えばポリヌクレオチドシャッフリングまたは変異性PCRによって、ヘキソンにコードされる遺伝子にランダム突然変異が最初に生じることにより生産される。突然変異を起こしたヘキソン遺伝子は、E1欠損Ad5アデノウイルスベクターのライブラリー中に組み込まれ、各Ad5ベクターはAd35ファイバータンパク質および二重発現カセットを含む。該カセットは、E1領域に挿入された2つのマーカー遺伝子(例えば、ルシフェラーゼおよび緑色蛍光タンパク質)を発現する。ライブラリーベクターは適切な宿主細胞で増殖され、目的の見込みのあるヘキソン変異体をコードするベクターをヒト抗Ad5中和抗体の存在する競合条件化で救出する。救出されたベクターは、抗Ad5中和抗体の存在下で増殖、精製、またはのいずれかが行われ、ヘキソン変異体の配列が決定される。
【0142】
改変されたヘキソンタンパク質は、それから、インビボでヒト中和抗体を避ける能力を試験する。詳細には、前記変異体核酸配列によりコードされ、かつP.ヨエリ(P. yoelli)CSPタンパク質(Ad(mod)−PyCSP)をコードする改変ヘキソンタンパク質を含むアデノウイルスベクターが産生される。BALB/cマウス(各グループn=20)は、Ad(mod)−PyCSPまたは無改変PyCSPアデノウイルスベクター(Ad−PyCSP)の1×10pu用量で、6週間の間隔をあけて2回または3回、免疫される。数グループでは、マウスは野生型アデノウイルス(血清型5)で、ワクチン接種の前に先在する抗Ad5中和抗体を産生するために、前免疫される。前免疫付与および免疫付与後14日の血清が集められる。3回目の免疫付与後14日では、各グループ6匹のマウスがT細胞研究のために屠殺され、各グループ14匹のマウスが防御効果の評価のためにチャレンジされた。寄生虫のチャレンジに対して防御したマウスは、アッセイされ、ワクチン誘導免疫応答および防御免疫の期間を評価するために促進後6ヵ月で再チャレンジされる。
【0143】
これらの実験の結果に基づいて、ヘキソン改変アデノウイルスの潜在能力がワクチン接種過程の間に産生された中和抗体により限定されないことを確認するために、アデノウイルスベクターの用量(例えば、1×1010puまで)は増加させ得る。代わりに、免疫付与の間隔は強力な抗原特異的免疫応答をより最適に産むために増加させ得る。しかし、別の選択肢において、プライミングのときに潜在する中和抗体のレベルが増加され得る。
【0144】
(実施例11)
この実施例は、改変されたヘキソンタンパク質を含むアデノウイルスベクターの調製を示す。
【0145】
血清型5のアデノウイルスベクターは、ヘキソンタンパク質中にAd5−Ad2キメラループを含有して産生される。詳細には、2つのE1/E4欠損アデノウイルスベクターが産生され、該ベクターの1つはルシフェラーゼ遺伝子をコードし、別のものはPyCSP抗原をコードする。Ad5−A2キメラヘキソンタンパク質はAd5の超可変領域1〜6を含有するヘキソンDE1ループ(すなわち、Ad5ヘキソンアミノ酸132〜315)、およびAd5の超可変領域7〜9を含有するFGループ(すなわち、Ad5ヘキソンアミノ酸420〜449)に位置して産生される。該対応するループは血清型2アデノウイルス(すなわち、Ad2ヘキソンアミノ酸132〜327、およびAd2ヘキソンアミノ酸432〜465)に由来する。各ベクターは、高力価で成長し、明細書中に記載の方法に従ったインビボでの実験のために生産および精製された。
【0146】
同様のアプローチは、ヘキソンタンパク質におけるAd5−Ad43キメラループを含む血清型5アデノウイルスベクターを生産するために使用された。これに関し、Ad5−Ad43キメラヘキソンタンパク質は、FG1ループ(Ad43ヘキソンアミノ酸410〜440に対応)をAd43のFG1ループ(Ad43ヘキソンアミノ酸410〜440に対応)に置換することによって産生された。さらに、Ad5DE1ループ(Ad5ヘキソンアミノ酸123〜316に対応)を、Ad43のDE1ループ(Ad43ヘキソンアミノ酸123〜308に対応)に置換した。Ad5−Ad43 DE1ループ交換を保有するアデノウイルスベクターは救出されなかった。これは、交換された配列のいくつかはAd5ヘキソンの構造的特徴が必要であることを示唆する。DE1ループは、血清型を横断してより保存されている6つの超可変領域および介在配列からなる。介在配列は、2つのグループCヘキソン(Ad2とAd5)の間で、Ad5とグループDのヘキソン(Ad43)との間よりも、より良く保存される。
【0147】
Ad5ヘキソン(Ad5中和抗体には感受性でないが、高度に構築されたアデノウイルスキャプシド中に保持されることができる)を生産させるために、Ad5由来超可変領域間の介在配列を有するAd5ヘキソン中に挿入されたAd43の超可変領域からなるキメラのDE1ループが合成された。Ad5超可変領域に生じた特定のアミノ酸置換は、表4に示す。
【0148】
【表4】

【0149】
キメラで生産された特定のAd5−Ad43ヘキソンループの1つの例は、Ad43由来の対応するHVRからHVR1(Ad5ヘキソンアミノ酸136−165)、HVR2(Ad5ヘキソンアミノ酸188−194)、HVR3(Ad5ヘキソンアミノ酸212−220)、HVR4(Ad5ヘキソンアミノ酸252−260)、HVR5(Ad5ヘキソンアミノ酸268−281)、およびHVR6(Ad5ヘキソンアミノ酸303−310)への置換体を含む。
【0150】
この実施例は、Ad5ベクターに対する先在する宿主免疫を避けるように設計されたキメラヘキソンタンパク質を含む血清型5アデノウイルスベクターの産生を示す。
【0151】
(実施例12)
先在する宿主Ad5中和抗体の潜在的な副作用を回避する、実施例11で産生されたアデノウイルスベクターの能力を測定するために、これらのベクターを用いた主要なブースト免疫戦略は、マウスモデルで行われるだろう。
【0152】
実施例11に記載のキメラヘキソンタンパク質を含むアデノウイルスベクターを中和するため、マウスにおいて産生されたAd5、Ad2およびAd43に対する中和抗体の能力が測定されるだろう。詳しくは、Balb/cマウスの7つの異なるグループが以下のアデノウイルス構築物の1つの1×1010粒子ユニット(pu)を含有するプライミング免疫付与を受けることができるだろう:(1)Ad35ファイバータンパク質を含有するE1欠損Ad5ベクター(Ad5E1(L)F35)、(2)E1/E4欠損Ad5ベクター(AdE1(L)11D)、(3)野生型Ad2、(4)野生型Ad34、(5)野生型Ad43、(6)野生型Ad5、および(7)野生型Ad35。プライミング免疫付与21日後、中和抗体解析のための血清を得るために全血液が採取されるだろう。22日では、マウスは、実施例11に記載のヘキソン改変アデノウイルスベクターの1つの1×1010puを含有するブースト免疫付与を受けるだろう。43日(すなわち促進後21日)で、中和抗体応答を測定するために、処理されたマウスから全血液が再度採取されるだろう。
【0153】
2つめの実験は、Ad5中和抗体を回避する実施例11のヘキソン改変アデノウイルスベクターの能力を測定するだろう。詳しくは、Ad5中和抗体の存在するとき、または存在しないときに、試験した抗原PfCSPに対する応答により生み出されたT細胞と抗体応答が評価されるだろう。Balb/cマウスは12の処理グループに分けられる。免疫付与21日前に、4つのグループのマウスが野生型Adに曝露され、1つのグループが導入遺伝子を欠くE1/E4欠損Ad5ベクター(AdNull)に曝露される。18日後、Ad5曝露マウスは、中和抗体レベルを測定するために採血される。次の日、全ての12グループが、次のアデノウイルスベクター構築物の1つの1×10pu/mLを含有する主要な免疫付与を投与される:(1)Ad5−PyCSP、すなわちE1領域に挿入されたPyCSP遺伝子を含むE1/E4欠損Ad5ベクター、(2)Ad5PyCSP(H)2−2、すなわちE1領域とAd2 DE1ループおよびAd2 FG1ループを含むキメラヘキソンとを挿入したPyCSP遺伝子を含むE1欠損Ad5ベクター、(3)Ad35−PyCSP、すなわちE1領域に挿入されたPyCSP遺伝子を含むE1欠損Ad35ベクター、ならびに(4)Ad35PyCSP.F(5S)、すなわちAd35−PyCSP(Ad35ファイバータンパク質の場所にAd5ファイバータンパク質を含むものを除く)と同様もの。AdNullに曝露されたマウスは、AdNullの用量で準備され、免疫されていない天然のマウスもまたコントロールとして供された。
【0154】
プライミング免疫付与の投与6週間後、各グループのマウスは、Ad5−PyCSP、Ad5PyCSP(H)2−2、Ad35−PyCSP、またはAd35PyCSP.F(5S)の1×10pu/mLを含有するブースト免疫付与を受ける。詳細でプライミング/ブースト免疫付与は表5に示す。
【0155】
【表5】

【0156】
促進免疫付与の投与2週間後、マウスは採血され、T細胞と抗体応答が本明細書に記載の方法を用いて測定されるだろう。
【0157】
本明細書中で引用した刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が、本明細書中で参考として援用されることが個別におよび具体的に示され、かつその全体が記載されているのと同じ程度に、本明細書中で参考として援用される。
【0158】
本発明を記載する文脈において(特に、添付の特許請求の範囲の文脈において)、用語「a」及び「an」及び「the」及び同様の指示語の使用は、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含するように解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」及び「含有する(containing)」という用語は、他に特に明記がない限り、オープンエンドの用語(即ち、「〜を含むが、限定されない」ことを意味する)として解釈されるべきである。本明細書中での値の範囲の記載は、本明細書中で他に特に明記がない限り、その範囲内にある各々の別々の値を個々に言及する略記方法として働くことが単に意図され、そして各々の別々の値は、それが本明細書中で個々に列挙されているかのように本明細書中に含まれるものである。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書中で他に特に明記がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行われ得る。本明細書中で提供される任意及び全ての例、又は例示的な言葉(例えば、「などの」)の使用は、本発明をより良く明瞭にすることが単に意図され、そして他に特に主張されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中の如何なる言葉も、本発明の実施に不可欠なものとして主張されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0159】
本発明の実施に関して、本発明者らが知っている最良の形態を含む、本発明の好適な実施態様を本明細書中に記載する。もちろん、それらの好適な実施態様のバリエーションは、上記の説明を読むと、当業者に明白となるであろう。本発明者らは、当業者が適宜このようなバリエーションを用いることを予想し、そして本発明者らは、本発明が本明細書中に具体的に記載されたものとは別の状態で実施されることを意図する。従って、本発明は、適用法によって許されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題の全ての改変物及び均等物を含む。さらに、その全ての可能なバリエーションにおける上記要素の任意の組合わせは、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】図1は、実施例4に示すプライムブーストレジメンに従ってマウスを免疫した2週間後に行ったIFN−γ ELIspotのアッセイの結果を示すグラフである。
【0161】
【図2】図2は、実施例4で示されたプライムブーストレジメンに従ってマウスを免疫した6週間後に行ったIFN−γ ELIspotアッセイの結果を示すグラフである。
【0162】
【図3】図3は、実施例4に示すプライムブーストレジメンに従ってマウスを免疫した後に行ったPfAMA1特異的ELISAアッセイの結果を示すグラフである。上のパネルは、初回免疫を受けなかったマウスに対応する。真ん中のパネルは、初回免疫としてDNA構築物および追加免疫としてアデノウイルスベクターの感作を受けたマウスに対応する。下のパネルは、初回免疫としてアデノウイルスベクターおよび追加免疫としてアデノウイルスベクターの感作を受けたマウスに対応する。
【0163】
【図4】図4は、実施例4に示すプライムブーストレジメンに従ってマウスを免疫した後に行ったPfMSP142特異的ELISAアッセイの結果を示すグラフである。上のパネルは、初回免疫付与を受けなかったマウスに対応する。真ん中のパネルは、初回免疫としてDNA構築物および追加免疫としてアデノウイルスベクターの感作を受けたマウスに対応する。下のパネルは、初回免疫としてアデノウイルスベクターおよび追加免疫としてアデノウイルスベクターの感作を受けたマウスに対応する。
【0164】
【図5】図5は、実施例7に示すレジメンに従ってマウスを免疫した後に行ったIFN−γ ELIspotアッセイの結果を示すグラフである。上のパネルは、LSA1特異的T細胞応答を示し、一方、下のパネルはCSP特異的T細胞応答を示す。
【0165】
【図6】図6は、実施例7に示すレジメンに従ってマウスをした後に行ったELISAアッセイの結果を示すグラフである。上のパネルは、1回用量の各アデノウイルスベクターを受けたマウスに対応する。下のパネルは、2回用量の各アデノウイルスベクターを受けたマウスに対応する。
【0166】
【図7】図7は、3つの異なるマーカー遺伝子(すなわち、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、および分泌アルカリホスファターゼ(SEAP))を発現する三価E1/E3/E4欠失アデノウイルスベクター構築物の略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つ以上の異種抗原をコードする核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターであって、3つ以上の核酸配列が少なくとも2つの異なる異種プロモーターに機能的に結合したアデノウイルスベクター。
【請求項2】
3つ以上の異種抗原をコードする核酸配列の各々がプラスモディウム属抗原をコードする、請求項1に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項3】
3つ以上の異種抗原をコードする核酸配列の各々がプラスモディウム属血液ステージ抗原、プラスモディウム属前赤血球ステージ抗原、またはそのエピトープをコードする、請求項1または2に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項4】
異種抗原をコードする各核酸配列がプラスモディウム属前赤血球ステージ抗原またはそのエピトープをコードする、請求項3に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項5】
前赤血球ステージ抗原がスポロゾイト周囲タンパク質(CSP)、スポロゾイト表面タンパク質2(SSP2)、肝臓ステージ抗原1(LSA−1)、Pf exportedタンパク質1(PfExp−1)/Py肝細胞赤血球タンパク質17(PyHEP17)、およびそれらのエピトープからなる群より選ばれる、請求項4に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項6】
異種抗原をコードする各核酸配列がプラスモディウム属よりも哺乳動物においてより高頻度に発現するコドンを含む、請求項2〜5の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項7】
3つ以上の異種抗原をコードする核酸配列の各々が異なるプロモーターに機能的に結合する、請求項1〜6の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項8】
プロモーターがヒトCMV(hCMV)プロモーター、マウスCMV(mCMV)プロモーター、ヒトCMV増強トリβアクチンキメラプロモーター(CCBA)、hβAプロモーター、EF−lαプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ユビキチンプロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、および熱ショックタンパク質70B(HSP70B)プロモーターからなる群より選ばれる、請求項7に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項9】
アデノウイルスベクターが複製欠損であり、増殖のためにE1領域とE4領域の両方の相補を必要とする、請求項1〜8の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項10】
アデノウイルスゲノムがE1領域全体とE4領域の少なくとも一部とを欠く、請求項9に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項11】
異種抗原をコードする核酸配列の少なくとも2つが、アデノウイルスゲノムの欠失したE1領域に挿入され、かつ異種抗原をコードする核酸配列の少なくとも1つが、アデノウイルスゲノムの欠失したE4領域に挿入される、請求項10に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項12】
アデノウイルスベクターが、欠失したE1領域に挿入されたスポロゾイト周囲タンパク質2をコードする核酸配列、欠失したE1領域に挿入された肝臓ステージ抗原をコードする核酸配列、および欠失したE4領域に挿入されたスポロゾイト表面タンパク質をコードする核酸配列を含む、請求項11に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項13】
2つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターであって、各核酸配列がプラスモディウム属抗原をコードし、かつ少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合する、アデノウイルスベクター。
【請求項14】
2つ以上の、抗原をコードする核酸配列の各々が、プラスモディウム属前赤血球ステージ抗原またはそのエピトープをコードする、請求項13に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項15】
2つ以上の、抗原をコードする核酸配列の各々が、プラスモディウム属血液ステージ抗原またはそのエピトープをコードする、請求項13に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項16】
血液ステージ抗原がメロゾイト表面タンパク質1(MSP−1)、メロゾイト表面タンパク質2(MSP−2)、赤血球結合抗原175(EBA−175)、リング状感染赤血球表面抗原(RESA)、セリン反復抗原(SERA)、グリコホリン結合タンパク質(GBP−130)、ヒスチジンリッチタンパク質2(HRP−2)、ロプトリー関連タンパク質1および2(RAP−1およびRAP−2)、赤血球膜タンパク質1(PfEMPl)、頂端膜抗原1(AMA−1)、およびそれらのエピトープからなる群より選ばれる、請求項15に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項17】
各抗原をコードする核酸(nucleic)によりコードされる抗原がシグナルペプチドを含む、請求項13〜16の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項18】
各抗原をコードする核酸配列によりコードされる抗原がN−グリコシル化されていない、請求項13〜17の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項19】
各抗原をコードする核酸配列がプラスモディウム属よりも哺乳動物においてより高頻度で発現するコドンを含む、請求項13〜18の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項20】
各抗原をコードする核酸配列が異なるプロモーターに機能的に結合する、請求項13〜19の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項21】
各抗原をコードする核酸配列が同一プロモーターに機能的に結合する、請求項13〜19の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項22】
該プロモーターがヒトCMV(hCMV)プロモーター、マウスCMV(mCMV)プロモーター、CCBAプロモーター、hβAプロモーター、EF−lαプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、およびユビキチンプロモーターからなる群より選択される、請求項20または21に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項23】
アデノウイルスベクターが複製欠損であり、増殖のためにE1領域とE4領域の両方の相補を必要とする、請求項13〜22の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項24】
アデノウイルスゲノムがE1領域全体とE4領域の少なくとも一部とを欠く、請求項23に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項25】
抗原をコードする核酸配列の少なくとも1つが、アデノウイルスゲノムの欠失したE1領域に挿入され、かつ抗原をコードする核酸配列の少なくとも1つが、アデノウイルスゲノムの欠失したE4領域に挿入される、請求項24に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項26】
2つ以上の、抗原をコードする核酸配列が、アデノウイルスゲノムの欠失したE1領域に挿入される、請求項24に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項27】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスゲノムの欠失したE1領域に挿入された、頂端膜抗原1(AMA−1)をコードする核酸配列およびメロゾイト表面タンパク質1(MSP−1)をコードする核酸配列、またはそれらのエピトープを含む、請求項26に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項28】
2つ以上の、抗原をコードする核酸配列が、アデノウイルスゲノムの欠失したE4領域に挿入される、請求項24に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項29】
アデノウイルスベクターが、アデノウイルスゲノムの欠失したE4領域に挿入された、頂端膜抗原1(AMA−1)をコードする核酸配列およびメロゾイト表面タンパク質1(MSP−1)をコードする核酸配列、またはそれらのエピトープを含む、請求項28に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項30】
アデノウイルスベクターが、ヒトアデノウイルス特異的抗体により中和されない、請求項1〜29の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項31】
アデノウイルスベクターが、宿主免疫系による認識が減少した改変コートタンパク質を含む、請求項30に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項32】
改変コートタンパク質がファイバータンパク質、ペントンタンパク質、およびヘキソンタンパク質からなる群より選択される、請求項31に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項33】
アデノウイルスベクターが、天然のCAR結合部位が突然変異したファイバータンパク質を含む、請求項1〜32の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項34】
アデノウイルスベクターが非天然のアミノ酸配列を含むファイバータンパク質を含む、請求項32に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項35】
非天然のアミノ酸配列がRGD配列を含む、請求項34に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項36】
非天然のアミノ酸配列がプラスモディウム属エピトープ配列を含む、請求項34に記載のアデノウイルスベクター。
【請求項37】
抗原をコードする核酸配列がプラスモディウム ファルシパラム(Plasmodium falciparum)から得られる、請求項1〜36の何れかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項38】
請求項1〜37の何れかに記載のアデノウイルスベクターを哺乳動物に投与することを含む、該哺乳動物においてマラリアに対する免疫応答を誘導する方法であって、該抗原が該哺乳動物で発現してマラリアに対する免疫応答を誘導する、方法。
【請求項39】
哺乳動物でマラリアに対する免疫応答を誘導する方法であって、該方法は哺乳動物に:
(a)3つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターであって、各核酸配列はプラスモディウム属前赤血球ステージ抗原またはそのエピトープをコードし、かつ少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合するベクター、および
(b)2つ以上の核酸配列を含むアデノウイルスゲノムを含むアデノウイルスベクターであって、各核酸配列はプラスモディウム属血液ステージ抗原またはそのエピトープをコードし、かつ少なくとも1つのプロモーターに機能的に結合するベクター
を投与することを含み、該抗原が該哺乳動物で発現してマラリアに対する免疫応答を誘導する、方法。
【請求項40】
アデノウイルスベクターが複製欠損であり、増殖のためにE1領域とE4領域の両方の相補を必要とする、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
アデノウイルスゲノムがE1領域全体とE4領域の少なくとも一部とを欠く、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前赤血球ステージ抗原がスポロゾイト周囲タンパク質(CSP)、スポロゾイト表面タンパク質2(SSP2)、肝臓ステージ抗原1(LSA−1)、Pf exportedタンパク質1(PfExp−1)/Py肝細胞赤血球タンパク質17(PyHEP17)、およびそれらのエピトープからなる群より選択される、請求項39〜41の何れかに記載の方法。
【請求項43】
血液ステージ抗原がメロゾイト表面タンパク質1(MSP−1)、メロゾイト表面タンパク質2(MSP−2)、赤血球結合抗原175(EBA−175)、リング状感染赤血球表面抗原(RESA)、セリン反復抗原(SERA)、グリコホリン結合タンパク質(GBP−130)、ヒスチジンリッチタンパク質2(HRP−2)、ロプトリー関連タンパク質1および2(RAP−1およびRAP−2)、赤血球膜タンパク質1(PfEMP1)、頂端膜抗原1(AMA−1)、ならびにそれらのエピトープからなる群より選択される、請求項39〜41の何れかに記載の方法。
【請求項44】
各核酸配列がプラスモディウム属よりも哺乳動物においてより高頻度に発現するコドンを含む、請求項39〜43の何れかに記載の方法。
【請求項45】
各核酸配列が異なるプロモーターに機能的に結合する、請求項39〜44の何れかに記載の方法。
【請求項46】
各核酸配列が同一のプロモーターに機能的に結合する、請求項39〜44の何れかに記載の方法。
【請求項47】
該方法が、哺乳動物にアデノウイルスベクターを投与する前に、呼び水となる遺伝子導入ベクターを投与することを含み、該呼び水となる遺伝子導入ベクターが抗原をコードする核酸配列を含む、請求項39〜45の何れかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−505680(P2009−505680A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529263(P2008−529263)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/033982
【国際公開番号】WO2007/027860
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(500129085)ジェンベク、インコーポレイティッド (13)
【出願人】(508061893)アメリカ合衆国 (1)
【Fターム(参考)】