説明

アトバコンの新規な多形およびその調製のプロセス

アトバコンとして一般に公知の抗Pneumocystis carinii化合物(2−[4−(4−クロロフェニル)シクロヘキシル]−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン)の新規な結晶形態およびそれを製造するための方法が、本明細書中に開示される。これはまた、アトバコンのこの多形を含む薬学的組成物、およびPneumocystis carinii肺炎を処置する方法を提供し、この方法は、アトバコン多形形態を含有するプロダクト−バイ−プロセス組成物の有効量を温血動物に投与する工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、アトバコン(Atovaquone)として一般に公知の抗Pneumocystis carinii化合物(2−[4−(4−クロロフェニル)シクロヘキシル]−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン)の新規な結晶形態およびそれを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(背景および先行技術)
Pneumocystis cariniiは、正常な免疫系を有する宿主中の肺組織に天然の生息地を有する寄生虫である。処置がされなければ、Pneumocystis carinii肺炎は、免疫が損なわれた宿主においては、ほとんどいつでも致命的である。特許文献1は、アトバコンの調製のプロセスおよびアトバコンの活性を開示する。
【0003】
アトバコンの多形は、まだ報告されていない。用語「多形」は、異なる物理的形態、結晶形態/液晶形態/非晶形態を含むことが意図される。
【0004】
多くの活性な薬学的成分が多形を示し、そしてその多形形態のいくつか/1つが、高いバイオアベイラビリティを示し、そしてまた他の多形に比較してはるかに良好な活性を有するので、多形の研究は、非常に興味あるものでありかつ重要なものとなった。
【特許文献1】米国特許第4,981,874号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
出願人らは、出願人らの研究を、抗Pneumocystis carinii化合物であるアトバコンの新規な多形形態を開発するという目的をもって、新しい多形形態を開発することに焦点を当てた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
米国特許第4,981,874号は、アセトニトリル溶媒を用いる、アトバコンの再結晶/精製を開示する。この方法により得られる多形形態は、この後、形態Iと称され、それは、約7.2、11.04、11.77、19.34、21.14、24.61、25.28、28.4±0.2°にピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする。形態IのDSC示差熱分析曲線は、197℃の小さい吸熱および引き続く222℃での鋭い吸熱を示す。
【0007】
本発明は、結晶性アトバコン多形形態IIを提供し、この多形形態IIは、約7.02、9.68、10.68、11.70、14.25、14.83、18.60、19.29、23.32、24.54±0.2°にピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする。形態IIのDSC示差熱分析曲線は、169℃での小さい吸熱および引き続く222℃での鋭い吸熱を示す。
【0008】
本発明はまた、結晶性アトバコン多形形態IIIを提供し、この多形形態IIIは、約6.99、9.65、12.67、20.07、20.65、20.99、21.88、22.10、25.56±0.2°にピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする。形態IIIのDSC示差熱分析曲線は、222℃に特徴的な鋭い吸熱を示す。
【0009】
本発明はまた、形態Iを調製するためのプロセスを提供し、このプロセスは、粗アトバコンを溶媒中に溶解する工程;アンチソルベントをこの溶液に添加する工程;その得られる溶液を冷却する工程;および形態Iの結晶を集める工程、を包含する。
【0010】
本発明はまた、結晶性アトバコン形態Iを形態IIに変換するためのプロセスを提供し、このプロセスは、アトバコン形態Iを、加熱することにより、溶媒に溶解する工程;その得られる溶液を冷却する工程;および形態IIの結晶を集める工程を包含する。
【0011】
本発明はまた、結晶性アトバコン形態Iを形態IIIに変換するためのプロセスを提供し、このプロセスは、アトバコン形態Iを、加熱することにより、溶媒に溶解する工程;その得られる溶液を冷却する工程;および形態IIIの結晶を集める工程を包含する。
【0012】
本発明はまた、結晶性アトバコン形態IIIを調製するためのプロセスを提供し、このプロセスは、アトバコン形態Iを溶媒に溶解する工程;アンチソルベントをこの溶液に添加する工程;その得られる溶液を冷却する工程;および形態IIIの結晶を集める工程を包含する。
【0013】
治療有効量のアトバコンの多形IIおよびIIIを含有する薬学的組成物もまた、本明細書中に開示される。
【0014】
Pneumocystis carinii肺炎を処置する方法もまた本発明の一部として想定され、この方法は、アトバコンの多形形態を含有するプロダクト−バイ−プロセス組成物の有効量を温血動物に投与する工程を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(発明の説明)
本発明は、アトバコンの新しい結晶形態を提供する。活性な薬学的成分の新しい結晶形態の発見は、その製品の性能における改良に関して、有利である。
【0016】
本発明はまた、本明細書中に記載される方法により調製され得るアトバコンの固体状態の形態(すなわち、多形)に関する。
【0017】
本明細書中で使用される場合、溶媒は、室温またはより高温のいずれかで有機化合物であるアトバコンを溶解させる能力を有する任意の液体物質をいう。アンチソルベントは、アトバコンのような有機化合物が低い溶解度を有する有機溶媒である。
【0018】
本明細書中で使用される場合、室温とは、約25℃〜30℃の温度を意味する。
【実施例】
【0019】
X線粉末回折パターンを、銅Kα線(λ=1.5406Å)を使用するシンチレーション検出器を備えたD8−Advance,Bruker AXE回折計(Germany)で、2〜50 θの間の走査範囲に対して2°/分の走査速度で、得た。
【0020】
示差走査熱量測定を、Mettler DSC 20装置で実施した。穴を有するアルミニウム坩堝中に秤量された2mg〜3mgのサンプルを、35ml/分の窒素雰囲気下で、毎分10℃の加熱速度で走査した。
【0021】
(アトバコン形態I)
アトバコンは、米国特許第4,981,874号に記載される方法により調製し、このアトバコンを形態Iと称する。形態IのX線粉末回折図およびDSC示差熱分析曲線を、それぞれ、図1および4に示す。
【0022】
(アトバコン形態Iの調製)
(実施例1)
1gの粗アトバコン形態Iを、10mLのメチレンジクロリドに、室温で溶解した。この溶液に、攪拌下で、同じ温度で、20mLのメタノールを滴下した。得られたスラリーを、同じ温度で4時間攪拌した。その固体を濾過し、乾燥して、形態Iを得た。
【0023】
(実施例2)
1gの粗アトバコン形態Iを、10mLのメチレンジクロリドに、室温で溶解した。この溶液に、攪拌下で、同じ温度で、20mLのn−ヘプタンを滴下した。得られたスラリーを、同じ温度で4時間攪拌した。その固体を濾過し、乾燥して、形態Iを得た。
【0024】
(アトバコン形態IIの調製)
アトバコン形態IIを形態Iから、以下に記載される方法により調製し、そして形態IIのDSC示差熱分析曲線、X線粉末回折図を、それぞれ、図2および5に示す。
【0025】
(実施例3)
1gの粗アトバコン形態Iを、5mLの1,4−ジオキサンに、還流条件下で溶解した。その透明な溶液を、30分間室温に冷却し、次いで4時間、5℃で冷却した。次いで、得られた固体を、ブフナー漏斗に回収し、そして乾燥し形態IIを得た。
【0026】
(アトバコン形態IIIの調製)
アトバコン形態IIIを形態Iから、以下に記載される方法により調製し、そして形態IIIのDSC示差熱分析曲線、X線粉末回折図を、それぞれ、図3および6に示す。
【0027】
(実施例4)
0.5gのアトバコン形態Iを、20mLのアセトンに、還流条件下で溶解した。40mlの水を0℃に維持し、この冷水に、上記アトバコンの熱溶液を、攪拌しながら滴下した。この溶液を、同じ温度に1時間維持した。このようにして得た固体を、濾過し、そして乾燥して形態IIIを得た。
【0028】
(実施例5)
0.5gのアトバコン形態Iを、15mLのクロロホルムに、室温で溶解した。この溶液に、20mlのメタノールを、同じ温度で攪拌しながら、滴下した。得られたスラリーを、同じ温度で4時間攪拌した。その固体を濾過し、そして乾燥して形態IIIを得た。
【0029】
(実施例6)
0.5gのアトバコン形態Iを、80mLのジイソプロピルエーテルに、還流条件下で溶解した。この溶液を室温まで冷却し、そして同じ温度に4時間維持した。得られた固体を、濾過し、そして乾燥して形態IIIを得た。
【0030】
この方法により得られる多形形態Iは、約7.2、11.04、11.77、19.34、21.14、24.61、25.28、28.4±0.2°にピークを有するX線粉末回折パターン(図1)を特徴とする。形態IのDSC示差熱分析曲線(図2)は、197℃の小さい吸熱および引き続く222℃での鋭い吸熱を示す。
【0031】
本発明は、結晶性アトバコン形態IIを提供し、この形態IIは、図2に示されるように、約7.02、9.68、10.68、11.70、14.25、14.83、18.60、19.29、23.32、24.54±0.2°にピークを有するX線粉末回折パターンを特徴とする。図3の形態IIのDSC示差熱分析曲線は、169℃での小さい吸熱および引き続く222℃での鋭い吸熱を示す。
【0032】
本発明はまた、結晶性アトバコン形態IIIを提供し、この形態IIIは、約6.99、9.65、12.67、20.07、20.65、20.99、21.88、22.10、25.56±0.2°にピークを有するX線粉末回折パターンを有する(図4)を特徴とする。形態IIIのDSC示差熱分析曲線(図5)は、222℃に特徴的な鋭い吸熱を示す。
【0033】
治療有効量の、アトバコンの多形IIおよびIIIを含む薬学的組成物は、従来の方法により調製される。
【0034】
Pneumocystis carinii肺炎を処置する方法もまた、本発明の一部として想定され、この方法は、アトバコン多形形態を含有するプロダクト−バイ−プロセス組成物の有効量を温血動物に投与する工程を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、アトバコン形態IのX線回折図を示す。
【図2】図2は、アトバコン形態IIのX線回折図を示す。
【図3】図3は、アトバコン形態IIIのX線回折図を示す。
【図4】図4は、アトバコン形態IのDSC示差熱分析曲線を示す。
【図5】図5は、アトバコン形態IIのDSC示差熱分析曲線を示す。
【図6】図6は、アトバコン形態IIIのDSC示差熱分析曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性アトバコン多形形態IIであって、7.02、9.68、10.68、11.70、14.25、14.83、18.60、19.29、23.32、24.54の2θ値にピークを伴うXPRDパターンを特徴とする、結晶性アトバコン多形形態II。
【請求項2】
169℃での吸熱および引き続く222℃での別の吸熱を有するDSC示差熱分析曲線を示す、請求項1に記載の結晶性アトバコン形態II。
【請求項3】
請求項1および2に記載の結晶性アトバコン形態IIを作製するためのプロセスであって、以下の工程:
a)アトバコン形態Iを、溶解溶媒に、該溶媒の還流温度で溶解し、溶液を形成する工程;
b)該溶液を冷却し、アトバコン結晶を析出させる工程;
c)吸引で該析出した結晶を集める工程;および
d)該結晶を乾燥する工程、
を包含する、プロセス。
【請求項4】
前記溶解溶媒が、環状エーテル、1,4−ジオキサンである、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記冷却する工程が、5℃で実施される、請求項3に記載のプロセス。
【請求項6】
結晶性アトバコン多形形態IIIであって、6.99、9.65、12.67、20.07、20.65、20.99、21.88、22.10、25.56の2θ値に特徴的なX線回折ピークを有する、結晶性アトバコン多形形態III。
【請求項7】
222℃に特徴的な吸熱を有するDSC示差熱分析曲線を示す、請求項6に記載の結晶性アトバコン多形形態III。
【請求項8】
請求項6に記載の結晶性アトバコン形態IIIを作製するためのプロセスであって、以下の工程:
a)アトバコン形態Iを、溶解溶媒に、該溶解溶媒の還流温度で溶解し、溶液を形成する工程;
b)該溶液を冷却し、アトバコン結晶を析出させる工程;
c)吸引で該析出した結晶を集める工程;および
d)該結晶を乾燥する工程、
を包含する、プロセス。
【請求項9】
前記溶解溶媒が、ジイソプロピルエーテルである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記冷却する工程が、室温で実施される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項6および7に記載の結晶性アトバコン形態IIIを作製するためのプロセスであって、以下の工程:
a)アトバコン形態Iを、溶解溶媒に、室温、または使用される溶媒に基づく還流温度で溶解し、溶液を形成する工程;
b)アトバコンの溶解性が小さいアンチソルベントを、濁り度が得られるまで、該溶液に添加する工程;
c)冷却しながら、該溶液を攪拌する工程;および
d)析出した結晶を集め、そして乾燥する工程、
を包含する、プロセス。
【請求項12】
前記溶解溶媒が、クロロホルムのような塩素化溶媒またはアセトンのようなケトンより選択される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記固体を再生成するために添加される前記アンチソルベントが、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群より選択される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
前記アンチソルベントが、メタノールである、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記固体を再生成するために添加されるアンチソルベントが水である、請求項11に記載のプロセス。
【請求項16】
アトバコン形態Iを作製するためのプロセスであって、以下の工程:
a)アトバコンを、溶解溶媒に、室温で溶解して溶液を形成する工程;
b)アンチソルベントを、濁り度が見られるまで、該溶液に添加する工程;
c)冷却しながら、該溶液を攪拌する工程;および
d)析出した結晶を集め、そして該結晶を乾燥する工程、
を包含する、プロセス。
【請求項17】
前記溶解溶媒が、メチレンジクロリドまたはエチレンジクロリドのような塩素化溶媒である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項18】
前記固体を再生成するために添加されるアンチソルベントが、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールからなる群より選択される、請求項15に記載のプロセス。
【請求項19】
前記アンチソルベントが、メタノールである、請求項17に記載のプロセス。
【請求項20】
前記固体を再生成するために添加されるアンチソルベントが、n−ペンタン、n−ヘキサンおよびn−ヘプタンのような脂肪族炭化水素からなる群より選択される、請求項17に記載のプロセス。
【請求項21】
前記アンチソルベントが、n−ヘプタンである、請求項19に記載のプロセス。
【請求項22】
請求項3〜5、8〜21のいずれかに記載のプロセスにより調製される前記多形を含む、組成物。
【請求項23】
Pneumocystis carinii肺炎感染における使用のための医薬の処方のための、単独でかまたは多形形態Iとの組合せでかのいずれかのアトバコン多形IIおよびIII。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−510715(P2007−510715A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−539076(P2006−539076)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/IN2004/000213
【国際公開番号】WO2006/008752
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(506078563)ユーエスヴィー リミテッド (7)
【Fターム(参考)】