説明

アトピー性皮膚炎改善剤

【課題】アトピー性皮膚炎に対する改善効果があり、安全性が高くかつ安価な内服用剤を提供すること。
【解決手段】 コーンファイバー及び/又はコーンコブに由来し、分子中にウロン酸残基を有する酸性オリゴ糖を有効成分とする内服用アトピー性皮膚炎改善剤。前記酸性オリゴ糖の平均重合度が2.0〜10.0であり、かつウロン酸以外の構成単糖のうち、キシロースの占める割合が70質量%〜95質量%であることを特徴とする請求項1に記載のアトピー性皮膚炎改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、機能性食品及び医薬品分野に於いて使用されるアトピー性皮膚炎改善剤に関する。より詳細には、優れた生理活性を有し、しかも安全性の高いヒト及び動物用のアトピー性皮膚炎改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、気管支喘息、花粉症及びアトピー性皮膚炎等のアレルギー性疾患の患者数が増加し、大きな問題となっている。特に、乳幼児の多くが発症するアトピー性皮膚炎は、第1次成長期の心身の発育に於いて深刻な影響を与えている。また、通常、このようなアトピー性皮膚炎は思春期に完治するが、完治に至らず成人型難治性アトピー性皮膚炎に悪化したり、或いは、成人後初めて発症したりするケ−スもあり、それらは何れも増加傾向にある。なお、犬や猫等の小動物におけるアトピー性皮膚炎も決して稀な症例ではなくなってきている。
【0003】
アトピー性皮膚炎発症の原因としては、遺伝的素因に加えて、住環境や食生活の変化、大気汚染や水質汚染及び心理的ストレスの増加等が挙げられているが、決定的な要因が不明であり、予防や治療の為の十分な手立てはない。病態の研究も多くの研究機関でなされているが、未だに解明されてない点が多く、根本的な治療による完治は困難な状況にあり、現状では、対処療法による症状改善が唯一の治療法となっている。
【0004】
アトピー性皮膚炎の症状が重篤な場合は、症状の増悪阻止や一時的な治癒を目的として、ステロイド外用剤・非ステロイド系消炎外用剤等の使用、抗アレルギー剤・抗ヒスタミン剤・ステロイド剤等の内服、更には、減感作療法・アレルゲン除去食療法・スキンケア・生活環境の改善等、様々な試みがなされている。しかし、これらの治療によって一時的に異常のない皮膚状態まで改善させることはできても、短期間のうちに症状が再発することが多く、長期にわたる治療期間を必要とすることが多い。更に、長期間の投薬により治療費が嵩む、副作用が懸念される等の問題もある。例えば、抗ヒスタミン剤はある程度の止痒効果はあるものの持続性に欠け、服用後に倦怠感や眠気を生じるものがあり、日常生活に支障を来す場合がある。また、ステロイド剤は皮膚症状の改善に高い効果を示すものの、大量使用による副腎皮質機能不全などの強い副作用があり、使用にあたっては医師の管理による十分な注意が必要で、長期連用は困難であった。
【0005】
一方、アトピー性皮膚炎症状が軽度の場合や乳幼児に於いては、薬剤の副作用の問題を避ける為、患部の直接的症状改善を目的として、低濃度の抗炎症剤やステロイド剤等の外用剤が使用されるが、十分な効果は期待出来ない。すなわち、アトピー性皮膚炎初期患者や乳幼児に対しては、適当な内服用剤がないのが現状であり、これはアトピー性皮膚炎が増加傾向にある小動物に於いても同様である。特に、乳幼児や小動物への外用剤の使用は、剤の付着した手や剤の塗布部を直接舐めることによる経口での体内取り込みの危険性、及び薬剤の効果低下の問題がある。従って、アトピー性皮膚炎に対する改善効果があり、安全性に問題がなく、日常的且つ簡易に使用可能な内服用のアトピー性皮膚炎改善剤が求められている。
【0006】
アトピー性皮膚炎改善作用を有する天然物として、甜菜由来のオリゴ糖であるラフィノース(特許文献1参照)、ブドウ属植物及びイタドリ科植物からなる組成物(特許文献2参照)、おたね人参水抽出物と牡蠣殻を含有する組成物(特許文献3参照)等の内服用途での提案がなされている。しかし、ラフィノースは耐酸性が低い為、経口接取に於ける十分な効果は期待出来ない。また、他の組成物は、価格及び安定供給の問題もある。
【0007】
キシロオリゴ糖には、コーンコブやバガスから酵素処理により製造されるものや、リグノセルロースから酵素処理及びNF膜濃縮により製造されるものがあり、何れも整腸作用については既に開示されている(特許文献4及び5参照)。また、リグノセルロース材料より得られるウロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖に関しては、多くの生理作用に基づいた提案がなされており、内服におけるアトピー性皮膚炎改善効果も開示されている(非特許文献1参照、特許文献6、7、8、9、10、11、12及び13参照)。
しかしながらリグノセルロース材料より酸性キシロオリゴ糖を得る場合、原料となる木材に含まれるヘミセルロース含有量が多いものでも30%程度と少なく(非特許文献2参照)、生産効率が悪いという欠点があった。またリグノセルロース材料より酸性キシロオリゴ糖を得る場合、オリゴ糖はリグニン成分との複合体として得られるため酸加水分解処理によりリグニンを分離除去する必要があった。
【0008】
【特許文献1】特開平11−255656号公報
【特許文献2】特開2002−47193号公報
【特許文献3】特開2002−173434号公報
【特許文献4】特許第2643368号公報
【特許文献5】特開2000−333692号公報
【特許文献6】特許第3719207号公報
【特許文献7】特許第3772749号公報
【特許文献8】特開2003−221339号公報
【特許文献9】特開2004−59478号公報
【特許文献10】特開2004−59480号公報
【特許文献11】特開2004−59481号公報
【特許文献12】特開2003−183303号公報
【特許文献13】特開2004−210666号公報
【非特許文献1】石原光朗 セルラーゼ研究会報第16巻2001年、p17〜26
【非特許文献2】船岡正光 木質系有機資源の新展開(シーエムシー出版)2005年、p184
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明に於いては、アトピー性皮膚炎に対する改善効果があり、安全性が高くかつ安価な内服用剤を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する為、アトピー性皮膚炎モデル動物に於ける皮膚炎改善効果を指標として、内服用剤としての使用が可能なアトピー性皮膚炎改善剤のスクリーニングを行った。その結果、ウロン酸残基が付加した酸性オリゴ糖組成物が優れたアトピー性皮膚炎改善効果を有することを見出し、安全性も優れることより、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下の構成を採用する。即ち、本発明の第1は、「コーンファイバー及び/又はコーンコブに由来し、分子中にウロン酸残基を有する酸性オリゴ糖を有効成分とする内服用アトピー性皮膚炎改善剤」である。
【0012】
本発明の第2は、前記第1発明において、酸性オリゴ糖の平均重合度が2.0〜10.0であり、かつウロン酸以外の構成単糖のうち、キシロースの占める割合が70質量%〜95質量%であることを特徴とするアトピー性皮膚炎改善剤である。
【発明の効果】
【0013】
本発明で得られるコーンファイバー及び/又はコーンコブ由来の酸性オリゴ糖組成物を含有した内服用アトピー性皮膚炎改善剤は、安全性が高く、優れた薬理活性を有しており、食品、医薬部外品及び医薬品分野に於いて利用することが出来る。また、動物用の食品や医薬品としても用いることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成について詳述するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
本発明で使用するオリゴ糖は、コーンファイバー及び/又はコーンコブに由来し、その構成成分としてはキシロースを主体とし、アラビノース、ガラクトース、グルコース、マンノースなどの単糖類も含むものある。また本発明で使用する酸性オリゴ糖とは、オリゴ糖1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を有するものを言う。
本発明で使用するオリゴ糖は、天然物から製造されるので、通常、重合度の異なる混合組成物として得られる。該組成物は、平均重合度で示す数値は酸性オリゴ糖の鎖長の数平均値で、2.0〜20.0が好ましく、5.0〜15.0がより好ましい。オリゴ糖の平均重合度が5〜15の場合には、オリゴ糖鎖長の上限と下限との差は10以下が好ましい。ウロン酸は天然では、ペクチン、ペクチン酸、アルギン酸、ヒアルロン酸、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸等の種々の生理活性を持つ多糖の構成成分として知られている。本発明におけるウロン酸としては特に限定されないが、グルクロン酸もしくは4−O−メチル−グルクロン酸が好ましい。
【0015】
上記のような酸性オリゴ糖組成物を得ることが出来れば、その製法は特に限定されないが、コーンファイバー又はコーンコブを酵素的及び/又は物理化学的に処理してオリゴ糖混合物を得、得られるオリゴ糖混合物から、1分子中に少なくとも1つ以上のウロン酸残基を側鎖として有するオリゴ糖を分離する方法が挙げられる。以下にその概要を示す。
【0016】
本発明において用いるコーンファイバー及び/又はコーンコブはコーンスターチ製造時の副産物であり、安価に入手できる上に酸性オリゴ糖含有量が高いため好適に用いられる。
コーンファイバーはとうもろこしの外皮を剥く際に出た外皮そのもので使用できるし、更に粉砕してから水に分散してスラリーにしても良い。コーンコブは通常、乾式でペレット状に粉砕したものをそのまま水に分散してスラリーとして使用するが、必要に応じて、更に微粉砕してから水に分散してスラリーにしても良い。
【0017】
酸性オリゴ糖の抽出効率を高める為に、加熱抽出前に糖質分解酵素やセルラーゼを用いてあらかじめコーンファイバーやコーンコブのセルロースやデンプン等を加水分解して前処理しておくと良い。糖質分解酵素としては、食品添加物として一般的に用いられているものなら特に限定はされない。例えば、液化酵素 T、リクィファーゼ L45、フクタミラーゼ 50、フクタミラーゼ10L、液化酵素 6T、オリエンターゼ AO10、オリエンターゼ AOG、プライマーゼ LC、プライマーゼ HT、ハイマルトシン G、ハイマルトシン GL、グルターゼ 6000、グルターゼ AN(以上、HBI社製)、スタラーゼ F(キッコーマン社製)、スペザイム AA、ピュラスター OxAm、オプチサイズ FLEX、オプチマルト BBA、オプチデックス L、オプチマックス 4060VHP、トランスグルコシダーゼL-500(以上、ジェネンコア共和社製)、ソフターゲン 3H、ソフターゲン3、ソフターゲン7(以上、タイショーテクノス社製)、グリンドアミルAG、グリンドアミルS、グリンドアミルXV、グリンドアミルEB77、グリンドアミルFD、グリンドアミルMAX-LIFE、グリンドアミルA(以上、ダニスコ カルタージャパン社製)、ビオテックス L#3000、ビオテックス TS、スピターゼ HS.、スピターゼ CP-40FG、スピターゼ XP-404、β-アミラーゼ #1500、β-アミラーゼ L、β-アミラーゼ #1500S、XL-4、グルコチーム #20000、長瀬酵素剤 T-50、ビオプラーゼ 3LAP、ビオプラーゼ APS、ビオプラーゼ AP(以上、ナガセケムテックス社製)、BAN、ファンガミル、ターマミル、バイオフィードアルファ、ノバミル、マルトゲナーゼ、ステインザイム、アクアザイム、サーモザイム、デュラミル、AMG、サンスーパー、プロモザイム、デキストロザイム、トルザイム、ファンガミルスーパー、セレミックス、デキストラナーゼ(以上、ノボザイムズ社製)、ユニアーゼ BM-8、ユニアーゼ L、ユニアーゼ K, 2K、ユニアーゼ 30、ユニアーゼ 60F、ユニアーゼ S(以上、ヤクルト薬品工業社製)、GODO-GBA、GODO-ANG(以上、合同酒精社製)コクラーゼ、コクラーゼ・G2、コクラーゼ・M、デキストラナーゼ2F(以上、三共ライフテック社製)、スミチーム L、スミチーム A-10、スミチーム AS、スミチーム、スミチーム SG、スミチームS、スミチームAS(以上、新日本化学工業社製)、クライスターゼ、クライスターゼT、コクゲン、コクゲンT、ネオマルツ、ネオマルツH、ビオクライスターゼ、ビオクライスターゼT、クライスターゼY、クライスターゼPLF(以上、大和化成社製)、ビオザイム F10SD、アミラーゼ S「アマノ」35G、ビオザイムA 、ビオザイム L 、グルクSG、グルクザイムAF6、グルクザイムNL4.2、酒造用グルコアミラーゼ「アマノ」SD、プルラナーゼ「アマノ」3、グルクSBG、AMT 1.2L、トランスグルコシダーゼ L「アマノ」、コンチザイム、アミラーゼAY「アマノ」2、デキストラナーゼ L「アマノ」(以上、天野エンザイム社製)、ベイクザイム P500、ベイクザイム AN301、ベイクザイム AG800、ベイクザイム H1000(以上、日本シイベルヘグナー社製)、VERON AX、VERON GX、VERON M4、VERON ESL(以上、樋口商会社製)、ラタターゼ SR、ラクトーゼRCS、SVA、マグナックスJW-121、マグナックスJW-201、マグナックスJW-101(以上、洛東化成工業社製)等が挙げられる。
【0018】
セルラーゼとしては、食品添加物として一般的に用いられているものなら特に限定はされない。セルラーゼでは、例えばセルロシン AC40、セルロシン AL、セルロシン T2(以上、HBI社製)、キタラーゼ(ケイアイ化成社製)、スペザイム CP、GC220、マルチフェクト CL、マルチフェクト BGL、β−グルカナーゼ 750L(以上、ジェネンコア協和社製)、ソフィターゲンC-1(タイショーテクノス社製)、セルラーゼ XL-531、セルチーム C(以上、ナガセケムテックス社製)、ウルトラフロ、ビスコザイム、フィニザイム、グルカネックス、バイオフォードプラス、エネルジェックス、セルクラスト(以上、ノボザイムズ社製)、セルラーゼ”オノズカ”3S、セルラーゼY-NC、パンセラーゼ BR(以上、ヤクルト薬品工業社製)、スミチームAC、スミチームC(以上、新日本化学工業社製)、ツニカーゼ(大和化成社製)、セルラーゼ A「アマノ」3、セルラーゼ T「アマノ」4、YL-NL「アマノ」(以上、天野エンザイム社製)、ベイクザイム XE(日本シイベルヘグナー社製)、エンチロンMCH、フェドラーゼ(以上、洛東化成工業社製)等が挙げられる。
【0019】
また、上記の前処理とは別に、熱水抽出の前または後にヘミセルラーゼによる酵素処理を行い、酸性オリゴ糖の収率を上げることが可能である。
ヘミセルラーゼとしては、例えばセルロシン HC100、セルロシン HC、セルロシン TP25、セルロシン B、ヘミセルラーゼM(以上、HBI社製)、マルチフェクト720(ジェネンコア協和社製)、グリンドアミルH(ダニスコ カルタージャパン社製)、ペントパン、ペントパンモノ、パルプザイム、シーアザイム(以上、ノボザイムズ社製)、スミチーム X(新日本化学工業社製)、ヘミセルラーゼ「アマノ」90(天野エンザイム社製)、ベイクザイム HS2000、ベイクザイム l Conc(以上、日本シイベルヘグナー社製)、VERON 191、VERON 393、Xylanase Conc(以上、樋口商会社製)、エンチロンLQ(洛東化成工業社製)等が挙げられる。
【0020】
コーンファイバー及び/又はコーンコブの酵素処理方法、としては、酵素の至適pH付近に調整したコーンファイバー及び/又はコーンコブの水性スラリーに、酵素を添加することによって行う。pHの調整は、先に述べた酸もしくはアルカリを用いて行えばよい。酵素反応時のスラリー濃度としては、1〜30%が好ましく、5〜10%がより好ましい。
熱水抽出液をヘミセルラーゼ処理する場合も同様で、酵素の至適pH付近に調整した抽出液に、酵素を添加することによって行う。pHの調整は、先に述べた酸もしくはアルカリを用いて行えばよい。
【0021】
上記のように必要に応じて前処理を施したコーンファイバー及び/又はコーンコブから酸性オリゴ糖を熱水抽出する際の温度は、50℃以上であればよいが、好ましくは100℃の沸騰水中での抽出、より好ましくは加圧条件下で100℃以上に過熱することが好ましい。圧力としては0.1〜0.5MPaの範囲が好ましい。
抽出方法としては、過熱水又は過熱水蒸気を用いる方法が好ましく、回分式と連続式の何れの装置で行うこともできる。過熱水を用いる方法の具体的な例としては、コーンファイバー及び/又はコーンコブの水性スラリーを耐圧容器に入れて間接加熱によって過熱水とする方法、又はジェットクッカーのように連続的に過熱水処理できる装置を利用する方法などが挙げられる。一方、過熱水蒸気を用いる方法の具体的な例としては、コーンファイバー及び/又はコーンコブのスラリーを耐圧容器に入れて過熱水蒸気を導入する方法、又は連続式の蒸煮装置や蒸解装置を利用する方法などが挙げられる。尚、抽出に供するコーンファイバー及び/又はコーンコブのスラリー濃度は、1〜30%程度であればよいが、5〜20%の濃度が生産効率や、作業効率の点から好ましい。またスラリー濃度が30%以上であると、得られるオリゴ糖の平均重合度が高くなり、好ましくない。加熱時間は加熱温度によって最適な条件を適宜選択すればよい。100℃で抽出する場合は30分以上が好ましい。加圧条件下で抽出する場合は15分以上が好ましい。また、加熱処理中に攪拌機などを用いて攪拌しながら抽出を行うことで、抽出効率を高め、加熱時間を短縮することが出来る。
【0022】
熱水抽出時にpHを酸性側もしくはアルカリ側に調整することで抽出効率を高めることが出来る。酸性側では、pH0.5〜4.0が好ましく、pH1.0〜3.5がより好ましい。アルカリ側ではpH9.0〜13.0が好ましく、pH10.0〜11.0がより好ましい。pH調整に用いる酸としては、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、シュウ酸等、食品添加物として食品製造に一般的に用いられている酸であれば良い。pH調整に用いるアルカリとしては、重曹や苛性ソーダなど、食品添加物として食品製造に一般的に用いられているアルカリであれば良い。
前記した温度およびpHの組み合わせとして、温度110〜130℃、pH1.0〜3.5の範囲にすれば、得られるオリゴ糖の構成糖としてキシロースの割合が多くなる。酸性キシロオリゴ糖の整理活性作用が最近研究されており、この点で、上記範囲が好ましい。全糖中の構成糖を分析した時のキシロース含有量で言うと50質量%が好ましく、特に70〜95質量%が好ましい。
【0023】
熱水抽出処理後は、まず抽出液と固形分を分離する固液分離処理が必要である。
固液分離には、濾過、遠心分離、湿式分級などの一般的な方法を採用することができる。その後、必要に応じて加水、pH調製を行い、酸性キシロオリゴ糖を含む糖液を得る。
前記した、熱水抽出後のヘミセルラーゼ処理を行う場合は、熱水抽出後の抽出液にヘミセルラーゼを添加して酵素処理しても良いし、固液分離後の糖液中に対してヘミセルラーゼ処理を行っても良い。
【0024】
本発明の酸性オリゴ糖の製造方法は、酸性オリゴ糖を含む糖液をイオン交換処理することを特徴の一つとする。酸性オリゴ糖を含む糖液をイオン交換処理することにより、酸性オリゴ糖のみを得ることができる。
本発明において、オリゴ糖は、次のようにして得ることができる。すなわち、酸性オリゴ糖を含む糖液を陰イオン交換樹脂が装填されたカラムに通液して、陰イオン交換樹脂に糖液中の酸性オリゴ糖を吸着させる。次いで、酸性オリゴ糖が吸着した陰イオン交換樹脂に塩溶液又はアルコールを通液して、陰イオン交換樹脂に吸着した酸性オリゴ糖を塩溶液又はアルコールに溶出させる。このようにして得られた溶出液には、酸性オリゴ糖のみが含まれる。
【0025】
陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂又は弱塩基性陰イオン交換樹脂のいずれも用いることができる。強塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIRA410J CL、アンバーライトIRA411 CL若しくはアンバーライト910CT CL(以上、オルガノ(株)社製)又はダイヤイオンSA10A、ダイヤイオンNSA100、ダイヤイオンPA308、ダイヤイオンPA408若しくはダイヤイオンHPA25(以上、三菱化学(株)社製)を挙げることができる。弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIRA67、アンバーライトIRA96SB、アンバーライトXT6050RF若しくはアンバーライトXE583(以上、オルガノ(株)社製)又はダイヤイオンWA10、ダイヤイオンWA20、ダイヤイオンWA21J若しくはダイヤイオンWA30(以上、三菱化学(株)社製)等を挙げることができる。
【0026】
陰イオン交換樹脂に吸着した酸性オリゴ糖を回収する際に用いられる塩溶液及びアルコールとしては、塩化ナトリウム水溶液又はエタノールを挙げることができる。塩化ナトリウム水溶液の濃度としては、特に制限はないが、50〜100mMであるのが好ましい。
【0027】
陰イオン交換樹脂に酸性オリゴ糖を含む糖液を通液する際の通液速度としては、2.0〜5.0ml/min.であるのが好ましい。
【0028】
粉末状の酸性オリゴ糖を得たい場合には、陰イオン交換樹脂に塩溶液又はアルコールを通液して得られた溶出液をスプレードライ処理又は凍結乾燥処理等をすることができる。
【0029】
得られた酸性オリゴ糖を含む糖液は、必要に応じて脱色、脱塩、分画、精製、濃縮、乾燥などの操作を施す。
【0030】
コーンファイバー及び/又はコーンコブを原料とした酸性オリゴ糖組成物の上記製造法のメリットは、経済性とオリゴ糖の平均重合度の高い酸性オリゴ糖組成物が容易に得られる点にある。平均重合度は、例えば、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理することによって変えることが可能である。また、弱陰イオン交換樹脂溶出時に用いる溶出液の塩濃度を変化させることによって、1分子あたりに結合するウロン酸残基の数が異なる酸性オリゴ糖組成物を得ることもできる。さらに、適当なキシラナーゼ、ヘミセルラーゼを作用させることによってウロン酸結合部位が末端に限定された酸性オリゴ糖組成物を得ることも可能である。
【0031】
このようにして得られた酸性オリゴ糖組成物は、水に溶解させたりまたはスプレードライヤーで乾燥し粉体に加工後、アトピー性皮膚炎改善剤とすることができる。また、内服用用途に支障のない材質を用いてマイクロカプセル化したりリポソームに内含させて添加してもよい。アトピー性皮膚炎改善剤に於ける酸性オリゴ糖または、酸性オリゴ糖組成物の含有率としては、0.01〜50%(以下全て質量%)の範囲で使用することができるが、0.1〜30%がより好ましい。
【0032】
本発明の酸性オリゴ糖組成物を配合したアトピー性皮膚炎改善剤の形態としては、酸性オリゴ糖自身を直接摂取しても良いが、飲料に添加したり食品にも添加したりすることが出来る。直接摂取する場合は、粉体化しても良いし、打錠により錠剤化しても良い。また、酸性オリゴ糖の精製後の水溶液をそのままか、或いは飲料に添加して接取しても良い。
【0033】
本発明に於ける酸性オリゴ糖は、他の食品、経腸栄養剤、他の栄養成分、或いは医薬品と混合して医療用食品として使用することが出来る。また、一般的に医薬部外品や医薬品に使用される成分と混合し、医薬部外品や医薬品としても提供することも出来る。なお、上述の食品、医療用食品及び医薬品の対象としては、ヒトだけではなく、動物用としても用いることが可能である。
【実施例】
【0034】
以下、本発明について実施例により詳説する。本発明はこれにより限定されるものではない。まず、各測定法の概要、本発明で有効成分として含有させた酸性オリゴ糖組成物の調製例1〜調製例3を示す。
【0035】
<測定法の概要>
(1) 全糖量の定量:
全糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(2) 還元糖量の定量:
還元糖量は検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(3) ウロン酸量の定量:
ウロン酸は検量線をD−グルクロン酸(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、カルバゾール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(4) 平均重合度の決定法:
サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(5) 酸性オリゴ糖の分析方法:
オリゴ糖鎖の分布はイオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、分析用カラム:Carbo Pac PA−10)を用いて分析した。分離溶媒には100mM NaOH溶液を用い、溶出溶媒には前述の分離溶媒に酢酸ナトリウムを500mMとなるように添加し、溶液比で、分離溶媒:溶出溶媒=10:0〜4:6となるような直線勾配を組み分離した。得られたクロマトグラムより、オリゴ糖鎖長の上限と下限との差を求めた。また酸性オリゴ糖鎖中のウロン酸を除いた部分の構成単糖の比率は酸性オリゴ糖を硫酸で単糖にまで加水分解した後、イオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、分析用カラム:Carbo Pac PA−1)を用いて分析した。分離溶媒には水を用い、内部標準法により構成糖の質量比を決定した。
(6) オリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液のウロン酸量(D−グルクロン酸換算)を還元糖量(キシロース換算)で割ってオリゴ糖1分子あたりのウロン酸残基数を求めた。
(7) 酵素力価の定義:
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0036】
<酸性オリゴ糖組成物の調製例>
<調製例1>
コーンファイバー200gに水1800mlを加え、溶液を希硫酸でpH1.7に調整した。オートクレーブ装置を用いて120℃、60分間加熱した。室温にまで冷却後、遠心分離によって上清を得た。
次に、得られた処理液を濃縮工程、精製工程の順に供した。
濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR-7410)を用いて濃縮液を調製した。
【0037】
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外濾過膜(オスモニクス社製、分画分子量8000)を通過させた後、活性炭(和光純薬(株)製)600mgの添加及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)各100gを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製WA30)100gを充填したカラムに供した。この弱陰イオン交換樹脂充填カラムから50mM NaCl溶液によって溶出した溶液をスプレードライ処理することによって、酸性オリゴ糖組成物の粉末を得た。以下、この酸性オリゴ糖組成物をCX10とする。前述の測定方法により、CX10は平均重合度10.3、キシロース鎖長の上限と下限との差は10、酸性キシロオリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。ウロン酸を除いた構成糖の比率はキシロースが84%、アラビノースが9%、ガラクトースが7%であった。
【0038】
<調製例2>
調整例1と同様にして得られた希酸処理液1800mlに、スミチームX(新日本化学工業(株)製のキシラナーゼ)44mgを添加し、40℃で20時間の反応させた。加熱処理(70℃、1時間)により酵素を失活させた後、スミチームX処理液を調整例1と同様の精製工程を経て、酸性オリゴ糖粉末(を得た。以下、この酸性オリゴ糖をCX5とする。前述の測定方法により、CX5は平均重合度4.8、キシロース鎖長の上限と下限との差は9、酸性オリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。ウロン酸を除いた構成糖の比率はキシロースが89%、アラビノースが7%、ガラクトースが4%であった。
【0039】
<調製例3>
調製例1より得られたCX10の10%水溶液200mlに、スミチームX(新日本化学工業(株)製のキシラナーゼ)50mgを添加し、60℃、20時間反応後、弱アニオン交換樹脂(WA30)10gを充填したカラムに供した。カラムを水洗した後、50mM NaCl溶液によって溶出した溶液を凍結乾燥することによって、酸性オリゴ糖粉末を得た。以下、この酸性オリゴ糖をCX3とする。前述の測定方法により、CX3は平均重合度3.4、オリゴ糖鎖長の上限と下限との差は4、酸性オリゴ糖1分子あたりウロン酸残基を1つ含む糖組成化合物であった。ウロン酸を除いた構成糖の比率はキシロースが93%、アラビノースが3%、ガラクトースが4%であった。
【0040】
次に、得られた酸性オリゴ糖を用いて実施したアトピー性皮膚炎改善試験、安定性及び安全性試験の概要と結果を、それぞれ、実施例1(動物試験)、実施例2(安全性試験)及び実施例3(安定性試験)に示す。
【0041】
<実施例1:動物試験>
アトピー性皮膚炎改善試験を、アトピー性皮膚炎モデル動物として汎用されているNC/NgaTndCrjマウス(日本チャールズ・リバー(株)、以下NCマウスと略)を用いて実施した。以下にその概要を示す。
【0042】
NCマウス(雄、6週齢、SPFグレード)を購入し、1週間の予備飼育終了後、マウスを対照群、酸性オリゴ糖組成物CX10投与群(以下、CX10群と略)、CX5投与群(以下、CX5群と略)、CX3投与群(以下、CX3群と略)の4群(各群10匹)に分け、以降を試験期間とした。なお、全飼育期間中の餌〔MF固形飼料(オリエンタル酵母工業(株)製)〕と水は自由摂取とし、飼育は通常の環境下(温度23±1℃、湿度55%±5%)で実施した。
群分けから2週間後、毛刈りしたNCマウス腹部に5%の2,4,6−トリニトロクロロベンゼン(以下、PiClと略)を塗布することにより、感作させた。更に、1週間後、毛刈りしたNCマウス背部に0.8%PiCl溶液を塗布し、アトピー性皮膚炎症状を誘発させた。誘発処理は週1回実施し、試験終了まで、5週間継続した。
各サンプルは、ゾンデを用いて経口投与した。投与期間及び頻度は、群分け終了後から試験終了までの8週間の期間中、1回/日とした。また、1回の投与量は、精製水に溶解させた5%の酸性キシロオリゴ糖組成物200μl(CX10群、CX5群、CX3群)、或いは、精製水200μl(対照群)とした。
【0043】
試験期間終了後のマウス皮膚病変部の状態を観察、写真撮影し、下記基準に従って各マウスの皮膚炎症状のスコア判定を実施した。スコアは、(1)掻痒症、(2)発赤・出血、(3)浮腫、(4)擦傷・組織欠損、(5)痂皮形成・乾燥の各項目について、症状の軽い順から0〜5の5段階評価の和とした。また、写真の第三者によるスコア判定確認も実施した。以上の結果を「NCマウス皮膚炎スコア」として表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
CX10群及びCX5群にCX3群に於いて、皮膚炎改善効果が見られた。
【0046】
<実施例2:安全性試験>
<皮膚刺激性試験>
各酸性オリゴ糖組成物の5%水溶液100μlを、それぞれ、除毛後のC3Hマウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)の背皮に、約1ヶ月間、連日塗布した(各群10匹)。塗布期間及び塗布期間後の2週間、マウス背皮において、紅斑、浮腫、炎症等の異状は特に観察されなかった。また、対照(精製水塗布群)と比較し、体重推移においても有意な差が認められなかった。これは、皮膚塗布における酸性オリゴ糖の安全性の高さを示す。
【0047】
<急性経口毒性試験>
各酸性オリゴ糖組成物の60%水溶液を、それぞれ、ICR系マウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)に胃ゾンデを用いて、2週間、連日経口投与した(投与量:2g/マウス体重1Kg/日、各群10匹)。投与期間及び投与後の2週間、マウス死亡例はなかった。また、ブランク(水投与群)と比較し、体重推移においても有意な差が認められなかった。これは、経口摂取における酸性オリゴ糖の安全性の高さを示す。
【0048】
<実施例3:安定性試験>
酸性オリゴ糖組成物の60%水溶液を調製後、室温で保存した。6ヶ月後、イオンクロマトグラムに於ける変化は認められなかった。これは、酸性オリゴ糖の安定性の高さを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーンファイバー及び/又はコーンコブに由来し、分子中にウロン酸残基を有する酸性オリゴ糖を有効成分とする内服用アトピー性皮膚炎改善剤。
【請求項2】
前記酸性オリゴ糖の平均重合度が2.0〜10.0であり、かつウロン酸以外の構成単糖のうち、キシロースの占める割合が70質量%〜95質量%であることを特徴とする請求項1に記載のアトピー性皮膚炎改善剤。

【公開番号】特開2009−7319(P2009−7319A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−172390(P2007−172390)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】