説明

アニリンの製造方法

本発明は、式(I)(ただし、R1、R2、およびR3はそれぞれ他と関係なく水素またはC1〜C4アルキルである)の化合物を、a)塩基および少なくとも1種類の触媒量のパラジウム錯体化合物の存在下で、式(II)(ただし、R1、R2、およびR3は式(I)について定義したものと同様であり、Xは臭素または塩素である)の化合物を式(III)(ただし、R4は水素またはC1〜C4アルキルである)の化合物と反応させて式(IV)(ただし、R1、R2、R3、およびR4は式(I)について定義したものと同様である)の化合物を形成し、b)これらの化合物を還元剤を用いて式(I)化合物に転化することによって調製する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルト−ビシクロプロピル置換ハロベンゼンのアミノ化の方法に関し、またさらにはこの方法の中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニルアミンなどのオルト−ビシクロプロピル置換第一級アニリンは、例えば国際公開第03/074491号に記載されているような殺真菌剤調製用の有用な中間体である。
【0003】
一般的に言えばアニリンは、パラジウム触媒によるクロスカップリング反応によってハロベンゼンから調製することができる。このようなパラジウム触媒によるクロスカップリング反応は次の要約記事、すなわちHandbook of Organometallic Chemistry for Organic Synthesis, Vol. 1, 1051-1096, 2002、Journal of Organometallic Chemistry, 576, 125-146, 1999、およびJournal of Organometallic Chemistry, 653, 69-82, 2002に記載されている。パラジウム触媒によるクロスカップリングの基本的な欠点は、第一級アニリンを直接調製することができないことである。
【0004】
したがってパラジウム触媒によるクロスカップリングを用いる場合、第一級アニリンは対応するハロベンゼンから少なくとも2段階を含んだ合成手順で調製されている。
【0005】
求核試薬としてイミンを用いたオルト−ビシクロプロピル置換第一級アニリンの調製のためのこのような2段階法は、国際公開第03/074491号に記載されている(スキーム1参照)。
【0006】
【化1】

【0007】
国際公開第03/074491号によれば、式(A)の置換2−(2−ハロフェニル)シクロプロパン(式中、ハロは臭素またはヨウ素であり、R3はとりわけ非置換または置換シクロプロピルである)を2段階反応でアミン化して対応する2−(2−アミノフェニル)シクロプロパン(C)を形成する。このためにまずベンゾフェノンイミン、ナトリウムtert−ブタノラート、トリス(ジベンジリデン−アセトン)ジパラジウム(Pd2dba3)、およびラセミ体2, 2′−ビス(ジフェニルホスフィン)−1, 1′−ビナフチル(「BINAP」)を加える。第二の反応ステップではその得られたイミン(B)を、例えばヒドロキシルアミンおよび酢酸ナトリウムと反応させて対応する2−(2−アミノフェニル)ビスシクロプロパン(C)を形成する。国際公開第03/074491号には別のパラジウム配位子として1, 1′−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(「dppf」)が提案されている。
【0008】
この反応手順は、国際公開第03/074491号中ではクロロベンゼンではなく、もっぱらブロモまたはヨードベンゼンについて記載されている。国際公開第03/074491号に記載の反応手順は、それほど反応性は大きくないがより経済的な値段の2−(2−クロロフェニル)シクロプロパンを高収率でイミノ化するにはあまり適さないことが分かっている。
【0009】
第一級アニリン調製のための国際公開第03/074491号に記載の反応手順は、そのベンゾフェノンイミンが高コストのためにオルト−ビシクロプロピル置換第一級アニリンの大規模な調製には適していない。
【発明の開示】
【0010】
したがって本発明の問題は、この既知の方法の上記欠点を回避し、またオルト−ビシクロプロピル置換第一級アニリンを高収率かつ高品質で、経済的に妥当なコストかつ容易に操作可能なやり方で調製することを可能にするこれら化合物の新しい調製方法を提供することである。
【0011】
したがって本発明は、式I
【化2】

(式中、R1、R2、およびR3はそれぞれ他と関係なく水素またはC1〜C4アルキルである)の化合物の調製方法に関し、この方法は、
a)式II
【化3】

(式中、R1、R2、およびR3は式Iについて定義したものと同様であり、Xは臭素または塩素である)の化合物を、塩基および触媒量の少なくとも1種類のパラジウム錯体化合物の存在下で、式III
【化4】

(式中、R4は水素またはC1〜C4アルキルである)の化合物と反応させて式IV
【化5】

(R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ他と関係なく水素またはC1〜C4アルキルである)の化合物を形成するステップ、および
b)還元剤を用いてこの化合物を式Iの化合物に転化するステップ
を含む。
【0012】
式Iの化合物は様々な立体異性体形態で現れ、それらは式II、III、IIII、およびIIV
【化6】

で記述される。
【0013】
本発明による方法には、式II、III、IIII、およびIIV(ただしR1、R2、およびR3は式Iについて定義したものと同様である)のこれら立体異性体形態の調製およびこれら立体異性体形態の任意の比率の混合物の調製が含まれる。
【0014】
好ましくは本発明による方法は、R1が水素またはC1〜C4アルキルであり、R2およびR3が水素である式Iの化合物の調製に適している。
【0015】
好ましくは本発明による方法は、R1が水素またはメチルであり、R2およびR3が水素である式Iの化合物の調製に適している。
【0016】
特に本発明による方法は、R1、R2、およびR3が水素である式Iの化合物の調製に適している。
【0017】
Xが臭素である式IIの化合物が、本発明による方法において好ましくは使用される。
【0018】
Xが塩素である式IIの化合物が、本発明による方法において好ましくは使用される。
【0019】
方法ステップa):
方法ステップ(a)で使用されるパラジウム錯体化合物は、パラジウム前駆体および少なくとも1種類の適切な配位子から形成される。方法ステップ(a)ではこれらパラジウム錯体化合物は、好ましくはパラジウム−配位子の錯体として溶解形態で存在する。
【0020】
本発明との関連においてはパラジウム錯体化合物には、特に環状有機パラジウム化合物、いわゆる「パラダサイクル」と、第二級ホスフィンとからなる化合物が含まれるものと理解されたい。
【0021】
パラジウム錯体化合物は、すでに形づくられた錯体化合物として方法ステップ(a)で使用することができ、または方法ステップ(a)において現場で形成される。
【0022】
パラジウム錯体化合物を形成するにはパラジウム前駆体を少なくとも1種類の適切な配位子と反応させる。万一不完全な反応の場合には少量のパラジウム前駆体または配位子が反応混合物中に溶解しない恐れがある。
【0023】
好適なパラジウム前駆体は、酢酸パラジウム、二塩化パラジウム、二塩化パラジウム溶液、パラジウム2(ジベンジリデン−アセトン)3またはパラジウム(ジベンジリデン−アセトン)2、パラジウムテトラキス(トリフェニルホスフィン)、炭素担持パラジウム、パラジウムジクロロビス(ベンゾニトリル)、パラジウム(トリス−tert−ブチルホスフィン)2、あるいはパラジウム2(ジベンジリデン−アセトン)3とパラジウム(トリス−tert−ブチルホスフィン)2の混合物である。
【0024】
好適な配位子は、第三級ホスフィン配位子、N−ヘテロ環式カルベン配位子、またはホスフィン酸配位子である。
【0025】
本発明との関連において第三級ホスフィン配位子は、単座第三級ホスフィン配位子および二座第三級ホスフィン配位子にさらに分けられる。「単座配位子」は、そのパラジウム中心の一つの配位部位を占有することができる配位子であると考えられる。「二座配位子」は、そのパラジウム中心の二つの配位部位を占有することができる配位子であると考えられ、したがってパラジウム原子またはパラジウムイオンをキレート化することができる。
【0026】
第三級ホスフィン配位子の例は、
(A)単座第三級ホスフィン配位子、すなわちトリ−tert−ブチル−ホスフィン、トリ−tert−ブチル−ホスホニウムテトラフルオロホウ酸塩(「P(tBu)3HBF4」)、トリス−オルト−トリル−ホスフィン(「P(oTol)3」)、トリス−シクロヘキシル−ホスフィン(「P(Cy)3」)、2−ジ−tert−ブチルホスフィノ−1, 1′−ビスフェニル(「P(tBu)2BiPh」)、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−1, 1′−ビスフェニル(「P(Cy)2BiPh」)または2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2′, 4′, 6′−トリイソプロピル−1, 1′−ビスフェニル(「x-Phos」)、tert−ブチル−ジ−1−アダマンチル−ホスフィン(「P(tBu)(Adam)2」)、あるいは
(B)二座第三級ホスフィン配位子、
(B1)ビホスフィン配位子、すなわち
(B1.1)フェロセニルビホスフィン配位子、例えばR(−)−ジ−tert−ブチル−[1−[(S)−2−(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィン(「Josiphos 1」)
【化7】

や、ラセミ体ジ−tert−ブチル−[1−[2−(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィン(「ラセミJosiphos 1」)や、(R)−1−((S)−2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジ−オルト−トリルホスフィン(「Josiphos 2」)
【化8】

や、ラセミ体1−(2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセニル)エチル−ジ−オルト−トリルホスフィン(「ラセミJosiphos 2」)や、1, 1′−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(「dppf」)や、1, 1′−ビス(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセンや、R−1−[(S)−2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジシクロヘキシルホスフィンや、ラセミ体1−[2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジシクロヘキシルホスフィンや、R−1−[(S)−2−(2′−ジフェニルホスフィノフェニル)フェロセニル]エチル−ジ−tert−ブチルホスフィンなど、あるいは
(B1.2)ビナフチルビスホスフィン配位子、例えば2, 2′−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1, 1′−ビナフチル(「BINAP」)や、R(+)−2, 2′−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−1, 1′−ビナフチル(「Tol-BINAP」)や、ラセミ体2, 2′−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−1, 1′−ビナフチル(「ラセミTol-BINAP」)など、あるいは
(B1.3)9, 9−ジメチル−4, 5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン(「Xanphos」)、あるいは
(B2)アミノホスフィン配位子、すなわち
(B2.1)ビフェニル配位子、例えば2−ジシクロヘキシルホスフィノ−(N, N−ジメチルアミノ)−1, 1′−ビフェニル(「PCy2NMe2BiPh」)
【化9】

や、2−ジ−tert−ブチルホスフィノ−(N, N−ジメチルアミノ)−1, 1′−ビフェニル(「P(tBu)2NMe2BiPh」)などである。
【0027】
N−ヘテロ環式カルベン配位子の例は、
1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリド(「I-Pr」)
【化10】

や、1, 2−ビス(1−アダマンチル)イミダゾリウムクロリド(「I-Ad」)や、1, 3−ビス(2, 6−メチルフェニル)イミダゾリウムクロリド(「I-Me」)である。
【0028】
ホスフィン酸配位子の例は、ジ−tert−ブチルホスフィンオキシドである。
【0029】
「パラダサイクル」および第二級ホスフィンを基剤とするパラジウム錯体化合物の例は、式A−1
【化11】

(式中「norb」はノルボルニル)の化合物である。化合物A−1はSYNLETT、2549〜2552、2004に記載されており、その中で呼称「SK-CC01-A」を与えられている。
【0030】
「パラダサイクル」および第二級ホスフィンを基剤とするパラジウム錯体化合物のさらなる例は、式A−2
【化12】

の化合物である。化合物A−2はSYNLETT、2549〜2552、2004に記載されており、その中で呼称「SK-CC02-A」を与えられている。
【0031】
ホスフィン酸配位子を用いたパラジウム錯体化合物の例は、Journal of Organic Chemistry, 66, 8677-8681に記載されており、その中で呼称「POPd」、「POPd2」、および「POPD1」を与えられている。
【0032】
N−ヘテロ環式カルベン配位子を用いたパラジウム錯体化合物の例は、ナフトキノン−1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウム(「[Pd-NQ-IPr]2」)
【化13】

や、ジビニル−テトラメチルシロキサン−1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウム(「Pd-VTS-IPr」)
【化14】

や、1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウムジクロリド(「Pd-Cl-IPr」)や、1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウム二酢酸塩(「Pd-OAc-IPr」)や、アリル−1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウムクロリド(「Pd-Al-Cl-IPr」)や、式A−3
【化15】

(式中、R5は2, 6−ジイソプロピルフェニルまたは2, 4, 6−トリメチルフェニル)の化合物である。[Pd-NQ-IPr]2、Pd-VTS-IPr、Pd-Cl-IPr、およびPd-Al-Cl-IPrは、Organic Letters, 4, 2229-2231, 2002およびSYNLETT、275-278, 2005に記載されている。式A−3の化合物は、Organic Letters, 5, 1479-1482, 2003に記載されている。
【0033】
1種類のパラジウム錯体化合物か、またはパラジウム錯体化合物の混合物を本発明による方法において使用することができる。
【0034】
パラジウム錯体化合物の形成に関しては、パラジウム前駆体として酢酸パラジウム、パラジウム2(ジベンジリデン−アセトン)3、パラジウム(ジベンジリデン−アセトン)2、二塩化パラジウム溶液、またはパラジウム2(ジベンジリデン−アセトン)3とパラジウム(トリス−tert−ブチルホスフィン)2の混合物の使用が好ましい。酢酸パラジウムまたは二塩化パラジウムの使用が特に好ましい。
【0035】
少なくとも1種類の配位子がこのパラジウム錯体化合物の形成に使用される。
【0036】
単座第三級ホスフィン配位子、二座第三級ホスフィン配位子、およびN−ヘテロ環式カルベン配位子から選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0037】
N−ヘテロ環式カルベン配位子と、単座第三級ホスフィン配位子と、フェロセニルビホスフィン配位子、ビナフチルビスホスフィン配位子、およびアミノホスフィン配位子から選択される二座第三級ホスフィン配位子とから選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0038】
トリ−tert−ブチルホスフィン、P(tBu)3HBF4、P(oTol)3、P(Cy)3、P(tBu)2BiPh、P(Cy)2BiPh、x-Phos、P(tBu)(Adam)2、Josiphos 1、ラセミJosiphos 1、Josiphos 2、ラセミJosiphos 2、dppf、1, 1′−ビス(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセン、R−1−[(S)−2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジシクロヘキシルホスフィン、ラセミ体1−[2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジシクロヘキシルホスフィン、R−1−[(S)−2−(2′−ジフェニルホスフィノフェニル)フェロセニル]エチル−ジ−tert−ブチルホスフィン、BINAP、Tol-BINAP、ラセミTol-BINAP、Xanphos、PCy2NMe2BiPh、P(tBu)2NMe2BiPh、I-Pr、I-Ad、およびI-Meから選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物か、あるいはR5が2, 6−ジイソプロピルフェニルまたは2, 4, 6−トリメチルフェニルである式A−3のパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0039】
トリ−tert−ブチルホスフィン、P(tBu)3HBF4、P(tBu)2BiPh、P(Cy)2BiPh、x-Phos、Josiphos 1、ラセミJosiphos 1、Josiphos 2、ラセミJosiphos 2、PCy2NMe2BiPh、およびI-Prから選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0040】
トリ−tert−ブチルホスフィン、P(tBu)3HBF4、P(tBu)2BiPh、P(Cy)2BiPh、x-Phos、PCy2NMe2BiPh、およびI-Prから選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0041】
トリ−tert−ブチルホスフィン、P(tBu)3HBF4、PCy2NMe2BiPh、およびI-Prから選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0042】
配位子トリ−tert−ブチルホスフィンまたはP(tBu)3HBF4を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0043】
配位子PCy2NMe2BiPhを含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0044】
配位子I-Prを含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0045】
Josiphos 1およびラセミJosiphos 1から選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0046】
配位子ラセミJosiphos 1を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0047】
本発明による方法ではパラジウム錯体化合物、パラジウム前駆体、および/または配位子が触媒量で使用される。
【0048】
パラジウム錯体化合物は、式IIの化合物に対して好ましくは1 : 10から1 : 10000までの比率、特に1 : 100から1 : 1000までの比率で用いられる。
【0049】
パラジウム前駆体は、式IIの化合物に対して好ましくは1 : 10から1 : 10000までの比率、特に1 : 100から1 : 1000までの比率で用いられる。
【0050】
配位子は、式IIの化合物に対して好ましくは1 : 10から1 : 10000までの比率、特に1 : 100から1 : 1000までの比率で用いられる。
【0051】
本発明による反応では式IIIの化合物としては、R4が水素である式IIIの化合物(ベンジルアミン)の使用が好ましい。
【0052】
式IIIの化合物は、式IIの化合物に対して好ましくは等モル量または過剰量が使用される。この反応にとって式IIIの化合物の適切な量は、例えば1から3当量、特に1から2当量である。
【0053】
好適な塩基は、例えばアルコラート、例えばナトリウムtert−ブタノラート、カリウムtert−ブタノラート、ナトリウムメタノラート、またはナトリウムエタノラート、あるいは無機塩基、例えば炭酸塩、例えばK2CO3、Na2CO3、またはCs2CO3、もしくは水酸化物、例えばNaOHまたはKOH、もしくはリン酸塩、例えばK3PO4であり、アルコラートの使用が好ましく、またナトリウムtert−ブタノラートの使用が特に好ましい。
【0054】
塩基としてNaOHまたはKOHを使用する場合、例えば臭化セチルトリメチルアンモニウムなどの相間移動触媒を用いることができる。
【0055】
この反応にとって塩基の適切な量は、例えば1から3当量、特に1から2当量である。
【0056】
本発明による反応は不活性溶媒中で行うことができる。
【0057】
本発明の一実施形態では本発明によるこの反応は不活性溶媒中で行われる。好適な溶媒は、例えば式V
【化16】

(式中、RはC1〜C6アルキル、好ましくはメチル)の化合物、ジメトキシエタン、tert−ブチルメチルエーテル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、または例えばメシチレンなどのトリメチルベンゼン類、あるいはこれらの混合物である。好ましい溶媒はジメトキシエタンまたはキシレンである。
【0058】
この実施形態では不活性溶媒は、好ましくは無水である。
【0059】
本発明のさらなる実施形態では反応は溶媒なしで行われる。この実施形態では式IIIの化合物を、式IIの化合物に対して好ましくは過剰量で用いる。
【0060】
本発明によるこの反応は、周囲温度または高温で、好ましくは50℃から180℃までの温度範囲、特に50℃から100℃までの温度範囲で行われる。
【0061】
本発明によるこの反応は、標準圧力、高圧、または低圧で行うことができる。一実施形態では本発明によるこの反応は標準圧力で行われる。
【0062】
本発明によるこの反応の反応時間は、一般には1から48時間、好ましくは4から30時間、特に4から18時間である。
【0063】
本発明によるこの反応は、不活性ガス雰囲気中で行うことができる。例えば窒素またはアルゴンが不活性ガスとして使用される。
【0064】
本発明によるこの反応の一実施形態では、反応は窒素雰囲気中で行われる。
【0065】
方法ステップb):
方法ステップb)にとって好適な還元剤は、例えば金属触媒の存在下での水素である。
【0066】
この反応に適した還元剤の量は、例えば1から5当量、特に1から1.3当量である。
【0067】
好適な金属触媒は、例えばパラジウム触媒、例えば炭素担持パラジウム触媒など、またはロジウム触媒であり、特にパラジウム触媒が好ましい。
【0068】
この反応に適した金属触媒の量は、例えば0.001から0.5当量、特に0.01から0.1当量のような触媒量である。
【0069】
この反応は、好ましくは不活性溶媒の存在下で行われる。好適な溶媒は、例えばアルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、またはイソプロパノール、あるいは非プロトン性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、ジオキサン、酢酸エチル、またはジメトキシエタン、およびこれらの混合物であり、特にテトラヒドロフランが好ましい。
【0070】
温度は一般には0から80℃であり、0から25℃までの範囲が好ましく、特にこの反応は周囲温度で行うことが好ましい。
【0071】
この反応の反応時間は、一般には1から48時間、好ましくは1から6時間である。
【0072】
本発明によるこの反応は、標準圧力、高圧、または低圧で行うことができる。一実施形態では本発明によるこの反応は標準圧力で行われる。
【0073】
適切な反応条件が選択されるならば、反応のステップa)で得られる式IVの化合物を直接反応させて、中間体を単離することなく式Iの化合物を形成することができる。
【0074】
本発明によるこの方法は、R1、R2、およびR3がそれぞれ他と関係なく水素またはC1〜C4アルキルである式Iの化合物を、
a)ナトリウムtert−ブタノラート、およびトリ−tert−ブチルホスフィンと、トリ−tert−ブチルホスホニウムテトラフルオロホウ酸塩と、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−(N, N−ジメチルアミノ)−1, 1′−ビフェニルと、1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリドとから選択される少なくとも1種類の配位子を含む触媒量の少なくとも1種類のパラジウム錯体化合物の存在下において、R1、R2、およびR3がそれぞれ他と関係なく水素またはC1〜C4アルキルであり、Xが塩素である式IIの化合物をベンジルアミンと反応させて、R1、R2、R3、およびR4がそれぞれ他と関係なく水素またはC1〜C4アルキルである式IVの化合物を形成し、
b)この式IVの化合物を金属触媒の存在下において水素を用いて式Iの化合物に転化することによって調製するのにとりわけ適している。
【0075】
R1が水素またはメチルであり、R2およびR3が水素である式Iの化合物が、この実施形態には特に適している。
【0076】
R1、R2、およびR3が水素である式Iの化合物が、この実施形態にはとりわけ適している。
【0077】
Xが臭素である式IIの化合物が一般に知られており、これは国際公開第03/074491号に記載の方法に従って調製することができる。
【0078】
Xが塩素である式IIの化合物は、対応するXが臭素である式IIの化合物についての国際公開第03/074491号に記載の方法と類似のやり方で調製することができる。例えばR1、R2、およびR3が水素であり、Xが塩素である式IIの化合物(化合物番号B1)は、反応スキーム1に示す通り、また後で述べる実施例A1〜A3により説明する通り調製することができる。
【0079】
【化17】

【実施例】
【0080】
調製実施例A1:3−(2−クロロフェニル)−1−シクロプロピル−プロペノンの調製:
30%水酸化ナトリウム溶液67 gを水350 mlおよびシクロプロピルメチルケトン97.5 g(1.1 mol)と混合し、撹拌しながら90℃まで加熱する。得られた混合物に2−クロロ−ベンズアルデヒド143.5 g(1 mol)を1滴ずつ加え、5時間撹拌を行う。撹拌の間、2時間後およびさらに3時間後に、シクロプロピルメチルケトン2 mlを加える。6時間の全反応時間の後に50℃まで冷却する。反応混合物を濾過し、相を分離する。有機相を濃縮する。3−(2−クロロフェニル)−1−シクロプロピル−プロペノン188.6 gが黄色の油の形態で得られる。
【0081】
1H NMR(CDCl3):0.95-1.04 (m, 2H)、1.16-1.23 (m, 2H)、2.29-2.37 (m, 1H)、6.83 (d, J=15 Hz)、7.27-7.35 (m, 2H)、7.40-7.47 (m, 1H)、8.03 (d, J=15 Hz)
【0082】
調製実施例A2:5−(2−クロロフェニル)−3−シクロプロピル−4, 5−ジヒドロ−1H−ピラゾールの調製:
A1により調製した3−(2−クロロフェニル)−1−シクロプロピル−プロペノン188.6 g(1 mol)にエタノール250 gを加える。20℃においてヒドラジン水和物53 g(1.05 mol)を撹拌しながら1滴ずつ加える。反応混合物を70℃で2時間撹拌する。次いで反応混合物を50℃まで冷却する。シュウ酸二水和物5.5 g(0.044 mol)およびエタノール20 gの混合物を加えると固体が沈殿する。反応混合物を25℃まで冷却し、焼結ガラス吸込フィルターを通して濾過し、エタノール50 gで洗浄する。黄色の濾液が得られ、これを20ミリバールまで下げる回転減圧蒸発器を用いて60℃において蒸発させることによって濃縮して黄色の油を形成する。主成分5−(2−クロロフェニル)−3−シクロプロピル−4, 5−ジヒドロ−1H−ピラゾールを有する異性体混合物201.5 gが黄色の油の形態で得られる。
【0083】
調製実施例A3:2−(2−クロロフェニル)ビシクロプロピルの合成:
エチレングリコール600 gに溶かした炭酸カリウム50 g(0.36 mol)の溶液に、A2で述べた通り調製した5−(2−クロロフェニル)−3−シクロプロピル−4, 5−ジヒドロ−1H−ピラゾール201.5 gを、190℃において2時間かけて加える。次いで撹拌を190℃で2時間行う。反応の終了はガスの発生の停止によって示される。次いで反応混合物を100℃まで冷却すると相分離が起こり、その上部の生成物の相を分離する。2−(2−クロロフェニル)ビシクロプロピル158 gが粗生成物として得られ、これを、例えば蒸留によってさらに精製する。
【0084】
1H NMR(CDCl3):0.0-1.13 (m, 8H)、1.95-2.02 (m, 0.63H, trans異性体)、2.14-2.22 (m, 0.37H, cis異性体)、6.88-6.94 (m)、7.05-7.24 (m)、7.31-7.42 (m)
【0085】
方法ステップ(a)で使用するパラジウム錯体化合物、パラジウム前駆体、および配位子は一般に知られており、大部分は市販されている。
【0086】
式IVの化合物は式Iの化合物の調製にとって有用な中間体であり、本発明によるこの方法のために特に開発された。したがって本発明はまたこれにも関する。
【0087】
本発明を下記の実施例を用いてより詳細に説明することにする。
【0088】
実施例P1:ベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミンの調製:
2−(2−クロロフェニル)ビシクロプロピル3 g(15.6 mmol、trans/cis比約2 : 1)、ベンジルアミン2.5 g(23.4 mmol)、ナトリウムtert−ブタノラート2.4 g(25 mmol)、酢酸Pd(II)35 mg(0.16 mmol)、およびR(−)−ジ−tert−ブチル−[1−[(S)−2−(ジシクロヘキシルホスファニル)−フェロセニル]エチル]ホスフィン60 mg(0.11 mmol)をジメトキシエタン30 ml中に溶解する。この反応混合物を溶媒の還流温度まで加熱し、24時間撹拌する。冷却後、酢酸エチルを加え、有機相を水で洗浄する。水流減圧装置(water jet vacuum)を用いて溶媒を除去し、残渣を乾燥する。生成物をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン1 : 15)により精製する。ベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミン3.58 g(理論の87%)が褐色の油の形態で得られる(trans/cis比約2 : 1)。
【0089】
実施例P2:ベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミンの調製:
2−(2−ブロモフェニル)ビシクロプロピル3.7 g(15.6 mmol、trans/cis比約3 : 1)、ベンジルアミン2.0 g(18.7 mmol)、ナトリウムtert−ブタノラート2.1 g(21.8 mmol)、酢酸Pd(II)3.5 mg(0.016 mmol)、およびR(−)−ジ−tert−ブチル−[1−[(S)−2−(ジシクロヘキシルホスファニル)−フェロセニル]エチル]ホスフィン8.6 mg(0.016 mmol)をジメトキシエタン30 ml中に溶解する。この反応混合物を70℃まで加熱し、24時間撹拌する。冷却後、酢酸エチルを加える。有機相を水で洗浄する。水流減圧装置を用いて溶媒を除去し、残渣を乾燥する。生成物をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン1 : 15)により精製する。ベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミン3.47 g(理論の84%)が褐色の油の形態で得られる(trans/cis比約3 : 1)。
【0090】
実施例P3:2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニルアミンの調製:
ベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミン1 g(3.8 mmol、trans/cis比約3 : 1)を無水テトラヒドロフラン15 ml中に溶解する。次いで50 mgの活性炭担持Pd(5%)を加える。次いで水素化を撹拌しながら室温で1時間行う。反応の完了後、触媒を濾過して除き、水流減圧装置を用いて溶媒を除去する。生成物をシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘキサン1 : 15)により精製する。2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニルアミン0.61 g(理論の92%)が茶色がかった液体の形態で得られる(trans/cis比約3 : 1)。
【0091】
上記実施例を用いて次の式Iの化合物を調製することができる。
表1. 式Iの化合物
【化18】

【表1】

【0092】
式IIの下記化合物は、本発明による方法で使用するのに適している。
【0093】
表2. 式IIの化合物
【化19】

【表2】

【0094】
式Iの化合物の調製にとって好適な中間体を表3に記述する。
【0095】
表3. 式IVの中間体
【化20】

【表3】

【0096】
本発明の対応の結果としてオルト−ビシクロプロピル置換ハロベンゼンを高い収率で、また少ない費用でアミノ化することが可能である。
【0097】
本発明の方法の出発化合物は、容易に入手できかつ容易に扱えることを特徴とし、またさらにこれらは経済的な値段である。
【0098】
本発明による方法の好ましい実施形態では、その方法に使用されるパラジウムはリサイクルされる。この実施形態は本発明による方法の変形態様を構成し、特に経済的見地から興味深い。
【0099】
本発明の好ましい実施形態ではXが塩素である式IIの化合物が使用される。本発明の方法のこの好ましい実施形態の出発化合物は、とりわけ容易に入手できること、またそれらがとりわけ経済的な値段であることを特徴とする。したがってこの実施形態は、本発明による方法の変形態様を構成し、特に経済的見地から興味深い。
【0100】
しかし、パラジウム触媒によるクロスカップリングの条件下ではこの種の出発化合物、すなわち不活性化クロロベンゼン基質は、不活性化ブロモベンゼン基質と比べて塩素脱離基の極端に低い反応性のためにアミノ化が特に難しい。
【0101】
これに加えて、例えば式IIIの化合物のようなβ位に水素原子を有する第一級アルキルアミン求核試薬を使用する場合、その収率は一般にさらに低下する。これは第一に、アルキルアミン求核試薬内でβ脱離してイミンを形成する、すなわちそのハロゲン化アリール基質から非置換アリールが形成される副反応に起因する。第二に、第一級アミン求核試薬を使用する場合にはまた、第二級アリールアミンへと更にアミノ化する後続反応を考慮に入れることも必要である。これは、所望の第一級アリールアミンの収率を低下させる恐れがある。
【0102】
したがって電子に富む不活性化クロロベンゼン基質を第一級アルキルアミン求核試薬でアミノ化することは、その低い反応性のために、またその副反応および後続反応のためにきわめて困難であると思われる。これらの難点は、例えば上記要約記事中で指摘されている。
【0103】
驚くべきことにN−ヘテロ環式カルベン配位子と、単座第三級ホスフィン配位子と、フェロセニルビホスフィン配位子およびアミノホスフィン配位子から選択される二座第三級ホスフィン配位子とから選択される少なくとも1種類の配位子を有するパラジウム錯体化合物は、Xが塩素である式IIの化合物のアミノ化に特に適していることを見出した。
【0104】
この理由で、パラジウム錯体化合物の形成に関してはN−ヘテロ環式カルベン配位子と、単座第三級ホスフィン配位子と、フェロセニルビホスフィン配位子およびアミノホスフィン配位子から選択される二座第三級ホスフィン配位子とから選択される少なくとも1種類の配位子を使用することが好ましい。
【0105】
トリ−tert−ブチルホスフィン、P(tBu)3HBF4、P(tBu)2BiPh、P(Cy)2BiPh、x-Phos、Josiphos 1、ラセミJosiphos 1、Josiphos 2、ラセミJosiphos 2、PCy2NMe2BiPh、およびI-Prから選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0106】
表4および5は、クロロベンゼンのアミノ化反応の収率について述べる。
【0107】
表4. クロロベンゼンのアミノ化反応の収率
2−(2−クロロフェニル)ビシクロプロピル100 mg(0.5 mmol)、ベンジルアミン0.085 ml(0.78 mmol)、ナトリウムtert−ブタノラート8 mg(0.83 mmol)、酢酸Pd(II)1.2 mg(0.005 mmol、1 mol%)、および配位子0.0035 mmol(0.69 mol%)の混合物を準備する。ジメトキシエタン3 mlを加え、90℃で16時間撹拌を行う。冷却後、酢酸エチル2.5 mlおよび水3 mlを加え、有機相を抽出する。反応生成物がベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミンそのものであることおよびその収率をガスクロマトグラフィーによって決定する。
【0108】
【表4】

【0109】
表5. クロロベンゼンのアミノ化反応の収率
2−(2−クロロフェニル)ビシクロプロピル100 mg(0.5 mmol)、ベンジルアミン0.085 ml(0.78 mmol)、ナトリウムtert−ブタノラート8 mg(0.83 mmol)、および所望のパラジウム錯体化合物濃度の状態のパラジウム錯体化合物の混合物を作製する。文献から知られる方法を用いてそのパラジウム錯体化合物を調製し、これをすでに形成済みのパラジウム錯体化合物として反応混合物に直接加える。ジメトキシエタン3 mlを加え、90℃で16時間撹拌を行う。冷却後、酢酸エチル2.5 mlおよび水3 mlを加え、有機相を抽出する。反応生成物がベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミンそのものであることおよびその収率をガスクロマトグラフィーによって決定する。
【0110】
【表5】

【0111】
本発明の特に好ましい実施形態ではN−ヘテロ環式カルベン配位子、単座第三級ホスフィン配位子、および二座アミノホスフィン配位子から選択される少なくとも1種類の配位子を有するパラジウム錯体化合物が使用される。
【0112】
本発明の特に好ましい実施形態では、Xが塩素である式IIの化合物を、高い収率を維持しながら少量のパラジウム錯体化合物と反応させることができる。この結果、触媒のコストは実質的に下がる。したがってこの実施形態は本発明による方法の変形態様を構成し、特に経済的見地からきわめて興味深い。
【0113】
本発明のこの特に好ましい実施形態は、高い収率を維持しながら配位子を式IIの化合物に対して1 : 10000から1 : 200の比率(すなわち式IIの化合物に関して0.01 mol%から0.5 mol%)で使用することを可能にする。
【0114】
Angewandte Chemie International Edition, 44, 1371-1375, 2005には、Josiphos 1がオルト−メチル置換クロロベンゼンの反応用の配位子として適していることが記述されており、この配位子を式IIの化合物に対して1 : 1000から1 : 10000の範囲で使用する。そこにはJosiphos 1を式IIの化合物に対して1 : 1000の比率で使用した場合の収率は97%、またJosiphos 1を式IIの化合物に対して1 : 10000の比率で使用した場合の収率は98%と述べられている。上記反応は窒素雰囲気下のグローブボックス中で行われた。グローブボックス中の反応はきわめて敏感な反応物/触媒を暗示している。大規模製造作業の場合、それは農芸化学では一般に必要なのだが、グローブボックスプロセスは経済的に実現性のある調製方法を構成しない。
【0115】
さらに、グローブボックスプロセスで認められた配位子Josiphos 1のこの性質により簡単にはオルト−メチル置換クロロベンゼンからオルト−ビシクロプロピル置換クロロベンゼンへ転移させることができないことが分かった。それどころかJosiphos 1を使用した場合、式IIの化合物に対して1 : 700の配位子量でさえ収率が39%まで低下することが分かった(表6参照)。同様の収率はJosiphos 2を用いた場合にも見出された。
【0116】
驚くべきことに幾つかのパラジウム錯体化合物が本発明のこの実施形態に特に適していることが分かった(表6および7参照)。
【0117】
表6. 配位子を減量した場合のアミノ化反応収率
2−(2−クロロフェニル)ビシクロプロピル100 mg(0.5 mmol)、ベンジルアミン0.085 ml(0.78 mmol)、ナトリウムtert−ブタノラート8 mg(0.83 mmol)、酢酸Pd(II)0.24 mg(0.001 mmol、0.2 mol%)、および配位子0.0007 mmol(0.14 mol%)の混合物を作製する。ジメトキシエタン3 mlを加え、90℃で16時間撹拌を行う。冷却後、酢酸エチル2.5 mlおよび水3 mlを加え、有機相を抽出する。反応生成物がベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミンそのものであることおよびその収率をガスクロマトグラフィーによって決定する。
【0118】
【表6】

【0119】
表7. 配位子を減量した場合のアミノ化反応収率
2−(2−クロロフェニル)ビシクロプロピル100 mg(0.5 mmol)、ベンジルアミン0.085 ml(0.78 mmol)、ナトリウムtert−ブタノラート8 mg(0.83 mmol)、および所望のパラジウム錯体化合物濃度の状態のパラジウム錯体化合物の混合物を作製する。文献から知られる方法を用いてパラジウム錯体化合物を調製し、これをすでに形成済みのパラジウム錯体化合物として反応混合物に直接加える。ジメトキシエタン3 mlを加え、90℃で16時間撹拌を行う。冷却後、酢酸エチル2.5 mlおよび水3 mlを加え、有機相を抽出する。反応生成物がベンジル(2−ビシクロプロピル−2−イル−フェニル)アミンそのものであることおよびその収率をガスクロマトグラフィーによって決定する。
【0120】
【表7】

【0121】
トリ−tert−ブチルホスフィン、P(tBu)3HBF4、PCy2NMe2BiPh、およびI-Prから選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0122】
PCy2NMe2BiPhおよびI-Prから選択される少なくとも1種類の配位子を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0123】
配位子トリ−tert−ブチルホスフィンまたはP(tBu)3HBF4を含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0124】
配位子PCy2NMe2BiPhを含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0125】
配位子I-Prを含むパラジウム錯体化合物の使用が好ましい。
【0126】
パラジウム錯体化合物としてPd-Al-Cl-IPr、Pd-VTS-IPr、および[Pd-NQ-IPr]2から選択される化合物の使用が好ましい。
【0127】
パラジウム錯体化合物として[Pd-NQ-IPr]2またはPd-VTS-IPrの使用が好ましい。
【0128】
パラジウム錯体化合物として[Pd-NQ-IPr]2の使用が好ましい。
【0129】
この特に好ましい実施形態では配位子は、式IIの化合物に対して好ましくは1 : 10000から1 : 200の比率、特に1 : 1000から1 : 200の比率、非常に特に1 : 700から1 : 500の比率で使用される。
【0130】
本発明による方法によって調製されるオルト−ビシクロプロピル置換アニリンは、例えば国際公開第03/074491号に記載されているような殺真菌剤の調製に使用することができる。本発明による方法を用いたR1、R2、およびR3が水素である式Iのアニリン(化合物番号A1)の調製の間に、式IA(化合物番号C1)および式IB
【化21】

【0131】
の副生物が形成される可能性があり、したがってまたそれらが所望の最終生成物中の不純物の形態で一定量存在する可能性がある。
【0132】
副生物IAは反応のステップa)を行う際に形成され、また副生物IBは反応のステップb)を行う際に形成される可能性がある。
【0133】
したがって本発明により調製されるアニリン番号A1を、例えば国際公開第03/074491号に記載されているような方法によって殺真菌剤IC
【化22】

の調製に使用する場合、不純物IDおよびIE
【化23】

が式ICの所望の殺真菌剤中に存在する可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化1】

(式中、R1、R2、およびR3はそれぞれ他と関係なく水素またはC1〜C4アルキルである)の化合物の調製方法であって、
a)式II
【化2】

(式中、R1、R2、およびR3は式Iについて定義したものと同様であり、Xは臭素または塩素である)の化合物を、塩基および少なくとも1種類の触媒量のパラジウム錯体化合物の存在下で、式III
【化3】

(式中、R4は水素またはC1〜C4アルキルである)の化合物と反応させて式IV
【化4】

(式中、R1、R2、およびR3は式Iについて定義したものと同様であり、R4は式IIIについて定義したものと同様である)の化合物を形成するステップ、および
b)前記化合物を還元剤を用いて式Iの化合物に転化するステップ
を含む、前記方法。
【請求項2】
Xが塩素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パラジウム錯体化合物が、単座第三級ホスフィン配位子、二座第三級ホスフィン配位子、およびN−ヘテロ環式カルベン配位子から選択される少なくとも1種類の配位子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記パラジウム錯体化合物が、トリ−tert−ブチル−ホスフィン、トリ−tert−ブチル−ホスホニウムテトラフルオロホウ酸塩、トリス−オルト−トリル−ホスフィン、トリス−シクロヘキシル−ホスフィン、2−ジ−tert−ブチルホスフィノ−1, 1′−ビスフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2′, 4′, 6′−トリイソプロピル−1, 1′−ビスフェニル、R(−)−ジ−tert−ブチル−[1−[(S)−2−(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィン、ラセミ体ジ−tert−ブチル−[1−[2−(ジシクロヘキシルホスフィニル)フェロセニル]エチル]ホスフィン、(R)−1−((S)−2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジ−オルト−トリルホスフィン、ラセミ体1−(2−(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセニル)エチル−ジ−オルト−トリルホスフィン、1, 1′−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1, 1′−ビス(ジ−tert−ブチルホスフィノ)フェロセン、R−1−[(S)−2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジシクロヘキシルホスフィン、ラセミ体1−[2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチル−ジシクロヘキシルホスフィン、2, 2′−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1, 1′−ビナフチル、R(+)−2, 2′−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−1, 1′−ビナフチル、ラセミ体2, 2′−ビス(ジ−p−トリルホスフィノ)−1, 1′−ビナフチル、9, 9−ジメチル−4, 5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−(N, N−ジメチルアミノ)−1, 1′−ビフェニル、1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリド、1, 2−ビス(1−アダマンチル)イミダゾリウムクロリド、tert−ブチル−ジ−1−アダマンチルホスフィン、R−1−[(S)−2−(2′−ジフェニルホスフィノフェニル]フェロセニル)エチル−ジ−tert−ブチルホスフィン、2−ジ−tert−ブチルホスフィノ−(N, N−ジメチルアミノ)−1, 1′−ビフェニル、および1, 3−ビス(2, 6−メチルフェニル)イミダゾリウムクロリドから選択される少なくとも1種類の配位子を含むか、または前記パラジウム錯体化合物が式A−3
【化5】

(式中、R5は2, 6−ジイソプロピルフェニルまたは2, 4, 6−トリメチルフェニルである)の化合物である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記パラジウム錯体化合物が、トリ−tert−ブチル−ホスフィン、トリ−tert−ブチル−ホスホニウムテトラフルオロホウ酸塩、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−(N, N−ジメチルアミノ)−1, 1′−ビフェニル、および1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリドから選択される少なくとも1種類の配位子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記パラジウム錯体化合物が、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−(N, N−ジメチルアミノ)−1, 1′−ビフェニルおよび1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリドから選択される少なくとも1種類の配位子を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記パラジウム錯体化合物が、少なくとも1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾリウムクロリドを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記パラジウム錯体化合物が、ナフトキノン−1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウム、ジビニル−テトラメチルシロキサン−1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウム、1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウムジクロリド、および1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウム二酢酸塩から選択される化合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記パラジウム錯体化合物が、ナフトキノン−1, 3−ビス(2, 6−ジイソプロピルフェニル)イミダゾール−2−イリデン−パラジウムである、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記配位子を前記式IIの化合物に対して0.01 mol%から0.5 mol%の比率で使用する、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
式IV
【化6】

(式中、R1、R2、R3、およびR4はそれぞれ他と関係なく水素またはC1〜C4アルキルである)の化合物。
【請求項12】
R4が水素である、請求項11に記載の式IVの化合物。

【公表番号】特表2009−506083(P2009−506083A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528396(P2008−528396)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/008398
【国際公開番号】WO2007/025693
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】