説明

アブレイシブジェットを含むウォータージェットの水中における効率向上方法及び装置

【課題】気体を減少させつつアブレイシブジェット等ウォータージェットの噴流圧力を維持し、できる限り遠方までの障害物を切断可能とすることができ、道路陥没などの地上への悪影響を及ぼすことなく、水中におけるウォータージェットの切断効率を気中における切断効率まで近づけることが可能なウォータージェットの水中における効率向上方法及び装置を得る。
【解決手段】ウォータージェットの噴流に沿ってその周辺に炭酸ガスを噴射させ、ウォータージェットの外周囲を噴射された炭酸ガスで保護させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブレイシブジェット等ウォータージェットの水中における効率向上方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、アブレイシブジェット等ウォータージェットを噴射して掘削障害物を粉砕しつつ掘進する掘進方法及び掘進機が知られている。アブレイシブジェットの切断効率は、水中で噴射圧力が減殺され格段に低下するために、近年では、水中におけるアブレイシブジェットの切断効率を気中における切断効率まで近づけようとする方法及び装置が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−123661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地中にあるシールドマシンにおいて上記特許文献1に記載されたようなエアコーティング方法を併用する場合、地中に噴射された後の空気(エア)は、高圧噴射地盤改良工法の場合、切削・撹拌された土砂などと一体化せず分離し、上方へ移動するため、シールド内へ回収することが困難である。シールド内へ回収できずに地中に残留した空気塊による空間は、経時的に地表へ移動するため、また施工中においても地表へ噴発するため、道路陥没などの地上への悪影響を及ぼしてしまうと問題がある。
【0005】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解消するため、炭酸ガス(二酸化炭素(CO)ガス)を使用したアブレイシブジェット等ウォータージェットの水中における効率向上方法及び装置を提供することを目的とする。炭酸ガスは、一般的に水に対する溶解度が高く、超高圧ジェット水に沿わせて噴射することで、吐出時点では、炭酸ガスの円筒状気層でジェット水と地下水との摩擦による噴射圧力の減殺を低減し、その化学的親和性から経時的にジェット水及び地下水に溶解する。炭酸ガスを含んだ圧力下にある地下水は、単独あるいは地山土砂と撹拌され、シールド(推進)掘進に伴う排土とともに排土口(坑内あるいは地表部)で大気中に解放され、その時点で炭酸ガスは気中に解放される。すなわち、ウォータージェット等の噴流圧力を維持し、できる限り遠方までの障害物を切断可能とすることができ、道路陥没などの地上への悪影響を及ぼすことなく、水中におけるアブレイシブジェットの切断効率やウォータージェットによる掘削効率を気中における切断効率まで近づけることが可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アブレイシブジェットの噴射口の周辺から炭酸ガスを噴射させ、前記アブレイシブジェットの噴流に沿った外周を前記噴射された炭酸ガスで保護することを特徴とするアブレイシブジェットの水中における効率向上方法及び装置を提供する。
【0007】
前記アブレイシブジェットは、その外周全体が前記噴射された炭酸ガスで保護される方が好ましい。また、前記炭酸ガスの吐出圧は、地下水圧よりも例えば、略0.2乃至0.3Mpa高く設定される方が好ましい。前記炭酸ガスの供給量は、例えば、毎分略3Nm以下に設定することができる。
【0008】
また、本発明は、アブレイシブジェット等ウォータージェットの水中における効率向上装置であって、アブレイシブジェットを噴射する場合に例をとればアブレイシブジェットノズルと、前記アブレイシブジェットノズルの外周に配置された、炭酸ガスを噴射する炭酸ガスノズルとを備え、前記アブレイシブジェットノズルから噴射されたアブレイシブジェットの噴流の外周を少なくとも部分的に前記炭酸ガスノズルから噴射された炭酸ガスで保護させることを特徴とするアブレイシブジェットの水中における効率向上装置を提供することを目的とする。
【0009】
また、前記炭酸ガスノズルは、前記アブレイシブジェットノズルを中心にして複数の吐出口を環状に離散配置したノズルで構成することができる。また、ウォータージェットノズルを中心にして環状に配置させた炭酸ガスの吐出口の前部を円弧状スリット開口で拡開することができる。また、前記炭酸ガスノズルから噴射される炭酸ガスの吐出圧は、地下水圧よりも例えば略0.2乃至0.3Mpa高く設定されている方が好ましい。また、前記炭酸ガスノズルから噴射される炭酸ガスの供給量は、例えば、毎分略3Nm以下にすることができる。また、前記装置は、掘進機である場合、前記アブレイシブジェットノズル及び前記炭酸ガスノズルは、前記掘進機の開削面の噴射ノズルとして設けることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アブレイシブジェットの周辺から炭酸ガスを噴射させ、アブレイシブジェットの外周囲を噴射された炭酸ガスで保護させるため、気体を減少させつつアブレイシブジェットの噴流圧力を維持し、できる限り遠方の障害物まで切断可能とすることができ、道路陥没などの地上への悪影響を及ぼすことなく、水中におけるアブレイシブジェットの切断効率を気中における切断効率まで近づけて地盤改良工事等を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明にかかるアブレイシブジェットを例としてその水中における効率向上方法及び装置の実施の形態を示す概略全体図である。
【図2】図2(a)は、本発明にかかるアブレイシブジェットの水中における効率向上装置の噴射ノズルの一例の図2(c)における線X−Xで切り取った拡大横断面図であり、図2(b)は、この噴射ノズルの一例を示す拡大正面図であり、図2(c)は、この噴射ノズルの一例を示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明にかかるアブレイシブジェットの水中における効率向上方法及び装置を実施するための最良の形態について図面を参照しながら述べる。図1には、本発明にかかるアブレイシブジェットの水中における効率向上装置が適用された掘進機を示している。図1に示すように、掘進機1は、その中心部に回転軸2を有するシールド本体部3と、シールド本体部3に対して回転可能なカッターヘッド部4と、スクリューコンベヤ等を有する排泥管5と、カッターヘッド部4を回転軸2を中心にして回転駆動するための駆動用モータ6とを主に備えている。
【0013】
カッターヘッド部4は、掘進方向先端部に設けられており、カッターヘッド部4には、中心ビット、カッタービット、先行ビット、トリムビット等の複数のビット7が適宜設けられている。また、カッターヘッド部4には、前面部で半径方向に移動自在な拡張ノズル8が後述する噴射ノズル9と前面部において上下対称の位置に配置されている。これらのノズル8、9は、装置1の本体を超える外径の地山の掘削、切断に主に使用されることができる。
【0014】
カッターヘッド部4には、本発明の特徴部分である噴射ノズル9が設けられている。噴射ノズル9の拡大横断面図、拡大正面図及び拡大縦断面図を図2(a)、(b)及び(c)にそれぞれ示している。図2(a)、(b)及び(c)によく示されるように、この前記拡張ノズル8及び噴射ノズル9は、その中心部に配置された、アブレイシブジェットを噴射するアブレイシブジェットノズル10と、アブレイシブジェットノズル10の外周に配置された、炭酸ガス(二酸化炭素(CO)ガス)を噴射する少なくとも一つの炭酸ガスノズル11とから構成されている併射型である。図示の実施形態では、炭酸ガスノズル11は、複数(例として8個)のノズルが後述する炭酸ガスライン19からノズル先端部分までアブレイシブジェットノズル10を中心にして環状に離散配置され(図2(a)参照)、ノズル先端部分が所定の幅寸法で周方向に沿って伸びた複数(図示のものは4個)の円弧状スリット開口11aで形成された(図2(b)参照)構成となっている。すなわち、図示の形態の炭酸ガスノズル11は、ノズル先端部分の各円弧状スリット開口11aがノズルの軸線方向において所定の深さまで形成され、ノズル先端部分まで伸びた互いに隣接する二つのノズルと連結されているように構成されている。このように、炭酸ガス吐出位置におけるノズル先端部分の形状を、ノズルの軸線方向において所定の深さ寸法を有するスリット形状にすることにより、炭酸ガスをノズルからスリット形状の内壁で保護しながら噴射させることができ、もって、スリット形状の内壁で保護しながら噴射された炭酸ガスによりアブレイシブジェットの外周囲をより強度に保護することができる。なお、図示の実施形態では、一つの円弧状開口11aが隣接する二つのノズルに対して設けられているがこれに限定されない。すなわち、一つの円弧状開口11aを一つのノズルに対して設けることもでき、あるいは、一つの円弧状開口11aを三つ以上のノズルに対して設けることも可能である。
【0015】
図1及び図2(b)に示すように、アブレイシブジェットノズル10は、超高圧ジェット水を噴射ノズル側に供給するジェットライン12と、アブレシブスラリーを噴射ノズル側に供給するアブレシブライン13とからなるホースラインに接続されている。ジェットライン12は、装置外部の地上等に配置された、珪酸ナトリウム溶液供給装置14、吸水ユニット15及び超高圧発生装置16等で主に構成された外部供給源を有しており、珪酸ナトリウム溶液を含む超高圧ジェット水をアブレイシブジェットノズル10に供給するようになっている。一方、アブレシブライン13は、装置外部の地上等に配置された、スラリー撹拌装置17及びスラリー供給装置18等で主に構成された外部供給源を有しており、アブレシブスラリーをアブレイシブジェットノズル10に供給するようになっている。従って、障害物の切断時はジェットラインからの超高圧ジェット水とアブレシブラインからのアブレシブスラリーとが混合されたアブレイシブジェットがアブレイシブジェットノズル10から噴射される。
【0016】
また、炭酸ガスノズル11は、炭酸ガスを噴射ノズル側に供給する炭酸ガスライン19に接続されている。炭酸ガスライン19は、装置外部の地上等に配置された、炭酸ガス発生装置20に連結されている。従って、炭酸ガス発生装置20から供給される炭酸ガスは、炭酸ガスライン19を介して炭酸ガスノズル11から噴射される。炭酸ガスノズル11から噴射される炭酸ガスの吐出圧は、地下水圧よりも略0.2乃至0.3Mpa高く設定されている。また、炭酸ガスノズル11から噴射される炭酸ガスの供給量は、毎分略3Nm以下に設定されている。
【0017】
上記構成により、アブレイシブジェットノズル10から噴射されたアブレイシブジェットの外周囲を少なくとも部分的に炭酸ガスノズルから噴射された炭酸ガスで保護させることができる。図示の実施形態では、炭酸ガスノズル11は、アブレイシブジェットノズル10を中心にして環状に離散配置された複数(例として8個)のノズルで構成されているため、アブレイシブジェットノズル10から噴射されたアブレイシブジェットの外周囲全体を炭酸ガスノズルから噴射された炭酸ガスで保護させることができる。すなわち、アブレイシブジェットノズル10から噴射されるアブレイシブジェットの周辺から炭酸ガスノズル11によって炭酸ガスを噴射させ、アブレイシブジェットの噴流に沿ってその外周を少なくとも部分的に(上記実施の形態ではアブレイシブジェットの噴流外周全体を)炭酸ガスノズル11から噴射された炭酸ガスで保護させることができる。
【0018】
なお、環境条件により、二酸化炭素(CO)ガスだけでなく、不活性ガス等も使用可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 掘進機
2 回転軸
3 シールド本体部
4 カッターヘッド部
5 排泥管
6 駆動用モータ
7 ビット
8 拡張ノズル
9 噴射ノズル
10 アブレイシブジェットノズル
11 炭酸ガスノズル
11a 円弧状スリット開口
12 ジェットライン
13 アブレシブライン
14 珪酸ナトリウム溶液供給装置
15 吸水ユニット
16 超高圧発生装置
17 スラリー撹拌装置
18 スラリー供給装置
19 炭酸ガスライン
20 炭酸ガス発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォータージェットの周辺から炭酸ガスを噴射させ、前記ウォータージェットの噴流に沿ってその外周を少なくとも部分的に前記噴射された炭酸ガスで保護することを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上方法。
【請求項2】
請求項1記載のウォータージェットの水中における効率向上方法において、
前記ウォータージェットの噴流に沿った外周全体を前記噴射された炭酸ガスで保護することを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のウォータージェットの水中における効率向上方法において、
前記炭酸ガスの吐出圧は、地下水圧よりも略0.2乃至0.3Mpa高く設定することを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか一つに記載のウォータージェットの水中における効率向上方法において、
前記炭酸ガスの供給量は、毎分略3Nm以下であることを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上方法。
【請求項5】
ウォータージェットの水中における効率向上装置であって、
ウォータージェットを噴射するウォータージェットノズルと、
前記ウォータージェットノズルの外周に配置された、炭酸ガスを噴射する炭酸ガスノズルとを備え、
前記ウォータージェットノズルから噴射されたウォータージェットの噴流の外周を少なくとも部分的に前記炭酸ガスノズルから噴射された炭酸ガスで保護させることを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上装置。
【請求項6】
請求項5記載のウォータージェットの水中における効率向上装置において、
前記炭酸ガスノズルは、前記ウォータージェットノズルを中心にして炭酸ガスの吐出口を環状に離散配置した複数のノズルで構成されていることを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上装置。
【請求項7】
請求項6記載のウォータージェットノズルを中心にして環状に配置させた炭酸ガスの吐出口の前部を円弧状スリット開口で拡開したことを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上装置。
【請求項8】
請求項6又は7記載のウォータージェットの水中における効率向上装置において、
前記炭酸ガスノズルから噴射される炭酸ガスの吐出圧は、地下水圧よりも略0.2乃至0.3Mpa高く設定されることを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上装置。
【請求項9】
請求項6乃至8のうちのいずれか一つに記載のウォータージェットの水中における効率向上装置において、
前記炭酸ガスノズルから噴射される炭酸ガスの供給量は、毎分略3Nm以下であることを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上装置。
【請求項10】
請求項6乃至9のうちのいずれか一つに記載のウォータージェットの水中における効率向上装置において、
前記装置は、掘進機であり、前記ウォータージェットノズル及び前記炭酸ガスノズルは、前記掘進機の開削面に噴射ノズルとして設けられていることを特徴とするウォータージェットの水中における効率向上装置。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−39636(P2013−39636A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177942(P2011−177942)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(596149899)中黒建設株式会社 (11)
【Fターム(参考)】