説明

アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法

【課題】細かいパターンを所望の位置に再現性よく形成させることができる方法の提供。
【解決手段】基体に対し、下記式(1)で表される化合物(式中、R1は、−NH2または−CH2NH2を表す。R2は、−NH2、−CH2NH2または−Hを表す。)を加熱してモノマーとした後に蒸着を行って、アミノ基を有する被膜を基体の表面に形成させる蒸着工程を具備する基体の製造方法であって、基体の表面が、少なくとも第1の材料からなる領域と第2の材料からなる領域とを有し、アミノ基を有する被膜の表面に存在するアミノ基の単位面積あたりの量が、表面の第1の材料からなる領域と、表面の第2の材料からなる領域とで異なる、基体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試薬、DNA、タンパク質分子、細胞等のパターンを施したバイオチップは、医療検査、細胞培養等に広く用いられる。例えば、異なった試薬等への反応を一度に検査することにより、生体試料のスクリーニングに用いられるマイクロアレイ(マイクロセルソーター)、多数の遺伝子の働き具合を一度に測定するDNAチップがある。
従来、このようなパターンを施す方法として、μCP(Micro Cantact Printing)法が知られている。このμCP法は、光リソグラフィー、電子線リソグラフィー等によって作製した凹凸パターン構造を有するマスターの上に、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等の樹脂の溶液を流し込み、固化させ、はく離させて凹凸パターンを有するスタンプを得た後、その凸部に表面改質剤を塗布し、表面改質剤と反応する膜を有する基板の表面に押し当てることにより、表面改質剤を基板の表面に転写させ、パターン状の表面改質剤の被膜を有する基板を得る方法である(例えば、非特許文献1参照。)。
また、パターンを施す方法として、ステンシル法も知られている。このステンシル法は、基板に、孔により所望のパターンが形成されたシート(ステンシル)を載置させ、その状態で表面改質剤の塗布等の改質処理を行い、その後、ステンシルを除去して、基板の孔に相当する部分のみを改質させる方法である(例えば、非特許文献2参照。)。
【0003】
【非特許文献1】Y.Xia&G.M.Whitesides,“Soft Lithography,”Angew.Chem.Int.Ed.,vol.37,pp.550−575(1998).
【非特許文献2】E.Ostuni et al.,“Patterning Mammalian Cells Using Elastomeric Membranes,”Langmuir,vol.16,pp.7811−7819(2000).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、μCP法は、用いられるスタンプが転写に必要とされるある程度の柔軟性を有するため、転写させる際の押圧力によってスタンプが変形するので、細かいパターン(例えば、1μm程度の間隔を有するもの)を得ることが困難であった。また、スタンプを所望の位置に再現性よく押し付けることも困難であった。
また、ステンシル法は、ステンシルの孔の大きさ、表面改質剤の粘度等による制限を受けるため、細かいパターン(例えば、1μm程度の間隔を有するもの)を得ることが困難であった。また、ステンシルを所望の位置に再現性よく載置させることも困難であった。
したがって、本発明は、細かいパターンを所望の位置に再現性よく形成させることができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、基体に対し、アミノ基を有する特定の化合物を加熱してモノマーとした後に蒸着を行う際に、2種以上の材料からなる表面を有する基体を用いると、得られる被膜の表面に存在するアミノ基の単位面積あたりの量が、基体の表面の材料ごとに異なったものになることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、以下の(i)〜(ix)を提供する。
(i)基体に対し、下記式(1)で表される化合物を加熱してモノマーとした後に蒸着を行って、アミノ基を有する被膜を前記基体の表面に形成する蒸着工程を具備する、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法であって、
前記基体の前記表面が、少なくとも第1の材料からなる領域と第2の材料からなる領域とを有し、
前記アミノ基を有する被膜の表面に存在するアミノ基の単位面積あたりの量が、前記表面の前記第1の材料からなる領域に形成された部分と、前記表面の前記第2の材料からなる領域に形成された部分とで異なる、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は、−NH2または−CH2NH2を表す。R2は、−NH2、−CH2NH2または−Hを表す。)
(ii)前記第2の材料が金属である、上記(i)に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
(iii)前記金属が、遷移金属である、上記(ii)に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
(iv)前記遷移金属が、クロム、金または銅である、上記(iii)に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
(v)前記基体が、前記第1の材料からなる部材の表面の一部が前記第2の材料からなる被膜で被覆されてなる基体である、上記(i)〜(iv)のいずれに記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
(vi)更に、前記蒸着工程の前に、
前記第1の材料からなる部材の表面に、前記第2の材料である金属の薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、
前記金属の薄膜の上にフォトレジストを形成するフォトレジスト形成工程と、
形成された前記フォトレジストを露光し、現像することにより前記フォトレジストの一部を除去してパターンを施す、パターニング工程と、
エッチングを施して、前記金属の薄膜の前記フォトレジストで被覆されていない部分を除去する金属薄膜除去工程と、
前記フォトレジストを除去し、前記第1の材料からなる部材の表面の一部が前記第2の材料からなる被膜で被覆されてなる前記基体を得るフォトレジスト除去工程と
を具備する、上記(v)に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
(vii)前記第1の材料が、ガラスである、上記(vi)に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
(viii)前記式(1)中、R1が−CH2NH2を表し、R2が−Hを表す、上記(i)〜(vii)のいずれかに記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
(ix)上記(i)〜(viii)のいずれかに記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法により得られる、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サブミクロンのパターンを所望の位置に再現性よく形成させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう。)を詳細に説明する。
本発明の製造方法は、基体に対し、下記式(1)で表される化合物を加熱してモノマーとした後に蒸着を行って、アミノ基を有する被膜を前記基体の表面に形成する蒸着工程を具備する、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法であって、
前記基体の前記表面が、少なくとも第1の材料からなる領域と第2の材料からなる領域とを有し、
前記アミノ基を有する被膜の表面に存在するアミノ基の単位面積あたりの量が、前記表面の前記第1の材料からなる領域に形成された部分と、前記表面の前記第2の材料からなる領域に形成された部分とで異なる、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法である。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R1は、−NH2または−CH2NH2を表す。R2は、−NH2、−CH2NH2または−Hを表す。)
【0013】
本発明の製造方法に用いられる基体は、その表面が、少なくとも第1の材料からなる領域と第2の材料からなる領域とを有するものであれば、材質を特に限定されない。
第1の材料および第2の材料としては、それぞれ、例えば、金属、ガラス(例えば、パイレックス(登録商標)ガラス、ソーダライムガラス)、半導体(例えば、シリコン)、樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂)が挙げられる。
【0014】
中でも、第1の材料または第2の材料が、金属であるのが好ましい態様の一つである(以下、この態様においては、第2の材料が金属であるとして説明する。)。
この態様において第2の材料に用いられる金属は、特に限定されず、種々の金属の単体およびそれらの2種以上の合金が挙げられる。中でも、遷移金属の単体および遷移金属を含む合金が好ましい。遷移金属は、特に限定されないが、例えば、クロム、金、銅が好適に挙げられる。
【0015】
第1の材料は、ガラス、半導体(例えば、シリコン)であるのが好ましい態様の一つである。この場合、後述する第1の材料からなる部材の表面の一部が第2の材料からなる被膜で被覆されてなる基体を得ることが容易となる。
【0016】
本発明に用いられる基体は、その表面が、少なくとも第1の材料からなる領域と第2の材料からなる領域とを有するものであれば、第1の材料と第2の材料とをどのように配置したものであってもよい。例えば、第1の材料からなる部材と第2の材料からなる部材が接着、溶接、嵌合等により一体化したものであってもよいし、第1の材料からなる部材の表面の一部が第2の材料からなる被膜で被覆されたものであってもよい。また、第1の材料からなる部材と第2の材料からなる部材との境界が明確なものでなくてもよい。例えば、傾斜材料が挙げられる。より具体的には、例えば、組成が連続的に変化する合金が挙げられる。
【0017】
中でも、第1の材料からなる部材の表面の一部が第2の材料からなる被膜で被覆された基体が好ましい。この場合、第2の材料からなる被膜のパターンをリソグラフィー等により形成させると、細かいパターンを所望の位置に再現性よく形成させることができる。
この場合、特に、第1の材料がガラスであり、第2の材料が遷移金属、中でも、クロム、金または銅であるのが好ましい。
【0018】
本発明には、下記式(1)で表される化合物が用いられる。
【0019】
【化3】

【0020】
式中、R1は、−NH2または−CH2NH2を表す。R2は、−NH2、−CH2NH2または−Hを表す。
中でも、R1が−CH2NH2を表し、R2が−Hを表す化合物(例えば、第三化成(株)製のdiX AM)、R1が−NH2を表し、R2が−Hを表す化合物(例えば、第三化成(株)製のdiX A)が好ましい。
【0021】
上記式(1)で表される化合物の製造方法は、特に限定されず、例えば、従来公知の方法で行うことができる。具体的には、例えば、特開2002−340916号公報および特開2003−212974号公報に記載されている各方法を用いることができる。
【0022】
蒸着工程においては、上述した基体に対し、上記式(1)で表される化合物を加熱してモノマーとした後に蒸着を行う。
即ち、まず、上記式(1)で表される化合物(ダイマー)を加熱すると、分解してモノマーになる(下記式参照。)。
【0023】
【化4】

【0024】
式中、R1およびR2は、それぞれ上記と同様の意味を表す。
【0025】
ついで、このモノマーを上述した基体上に蒸着させると、重合が起こり、下記式(2)で表されるポリマーの被膜(アミノ基を有する被膜)が形成される。
【0026】
【化5】

【0027】
式中、R1およびR2は、それぞれ上記と同様の意味を表す。
nおよびmは、それぞれ整数を表す。
【0028】
蒸着の方法および条件は、上記式(2)で表されるポリマーの被膜が形成されるものであれば特に限定されず、例えば、公知の条件を用いることができる。以下、蒸着の好適な方法および条件を例示する。
まず、上記式(1)で表される化合物をそれが気化する温度以上の温度、好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜180℃に加熱し、上記式(1)で表される化合物のガス、即ち、ダイマーガスを得る。
ついで、ダイマーガスをその分解温度、好ましくは600〜750℃、より好ましくは650〜700℃まで加熱し、ダイマーガスを熱分解してモノマーガスを得る。
更に、モノマーガスを、真空度が好ましくは10〜100mTorr、より好ましくは50〜80mTorrのチャンバーに導入して、基体の表面に上記式(2)で表されるポリマーの被膜を形成する。
【0029】
上記式(2)で表されるポリマーの被膜の形成は、気相中で行われるので、均一な被膜の形成(コンフォーマルコーティング)が可能である。また、厚さの制御が容易である。
【0030】
アミノ基を有する被膜、即ち、上記式(2)で表されるポリマーの被膜の厚さは、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、50〜120nmであるのが好ましい態様の一つである。
【0031】
このようにして、基体の表面にアミノ基を有する被膜を形成して、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体が得られる。
【0032】
本発明においては、上述したように、基体の表面が、少なくとも第1の材料からなる領域と第2の材料からなる領域とを有しており、アミノ基を有する被膜の表面に存在するアミノ基の単位面積あたりの量が、表面の第1の材料からなる領域に形成された部分と、表面の第2の材料からなる領域に形成された部分とで異なっている。
したがって、第1の材料および第2の材料により、細かいパターンを形成させておけば、それに対応して、アミノ基の単位面積あたりの量の差異によりパターンが形成される。
また、上記式(2)で表されるポリマーの被膜は、生体適合性に優れるという利点を有する。
【0033】
アミノ基を有する被膜の表面に存在するアミノ基の単位面積あたりの量が、表面の第1の材料からなる領域に形成された部分と、第2の材料からなる領域に形成された部分とで異なる理由は、明らかではない。
本発明者の検討によれば、少なくとも、第1の材料としてガラス、第2の材料としてクロムを用いた場合において、以下のことが明らかとなっている。
第1に、表面段差計(Alpha−step 500、KLA−Tencor社製)により、上記式(2)で表されるポリマーの被膜の厚さを測定した結果、第1の材料からなる領域に形成された被膜(ガラス上の被膜)の厚さと、第2の材料からなる領域に形成された被膜(クロム薄膜上の被膜)の厚さとには差が見られなかった。
第2に、X線光電子分析法(XPS)により、上記式(2)で表されるポリマーの被膜の表面から深さ10nmまでに存在する窒素原子の量を測定した結果、第1の材料からなる領域に形成された被膜(ガラス上の被膜)における窒素原子の量と、第2の材料からなる領域に形成された被膜(クロム薄膜上の被膜)における窒素原子の量には差が見られなかった。
第3に、基体の表面に、塩素化ポリパラキシレン樹脂被膜(上記式(1)中のR1およびR2をそれぞれ−Clに置換した化合物(第三化成(株)製のdiX C)を加熱してモノマーとした後に蒸着を行って形成した被膜)を形成した後に、上記式(2)で表されるポリマーの被膜を形成した場合において、被膜の表面に存在するアミノ基に対して蛍光分子(NHS−ローダミン)を結合させて蛍光顕微鏡により被膜の表面を観察した結果、第1の材料からなる領域に塩素化ポリパラキシレン樹脂被膜を介して形成された被膜の表面に存在するアミノ基の量と、第2の材料からなる領域に塩素化ポリパラキシレン樹脂被膜を介して形成された被膜の表面に存在するアミノ基の量には差が見られなかった。
したがって、上記式(2)で表されるポリマーの被膜が形成される表面において、第1の材料および第2の材料が異なることにより、上記式(2)で表されるポリマーの被膜の表面に露出して存在するアミノ基の量のみが異なる。
【0034】
本発明においては、更に、上述した蒸着工程の前に、
前記第1の材料からなる部材の表面に、前記第2の材料である金属の薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、
前記金属の薄膜の上にフォトレジストを形成するフォトレジスト形成工程と、
形成された前記フォトレジストを露光し、現像することにより前記フォトレジストの一部を除去してパターンを施す、パターニング工程と、
エッチングを施して、前記金属の薄膜の前記フォトレジストで被覆されていない部分を除去する金属薄膜除去工程と、
前記フォトレジストを除去し、前記第1の材料からなる部材の表面の一部が前記第2の材料からなる被膜で被覆されてなる前記基体を得るフォトレジスト除去工程と
を具備するのが好ましい態様の一つである。
以下、この態様について図を用いて説明する。
【0035】
図1は、本発明の製造方法の好適実施態様の一例を説明するための模式的な断面図である。
まず、図1(A)に示される第1の材料からなる部材であるガラス部材10の表面に、図1(B)に示されるように、第2の材料である金属の薄膜12を形成する金属薄膜形成工程を行う。
金属の薄膜12を形成する方法は、特に限定されず、例えば、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、蒸着、めっき、溶射、スパッタリングが挙げられる。
金属の薄膜12は、単層であってもよく、2層以上が積層されていてもよい。
金属の薄膜12の厚さは、特に限定されないが、10〜200nmであるのが好ましい。
【0036】
その後、図1(C)に示されるように、フォトレジスト14を形成するフォトレジスト形成工程を行う。
フォトレジストの形成の方法は、特に限定されず、例えば、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、フォトレジストを塗布し、加熱して硬化させる方法が挙げられる。
【0037】
その後、図1(D)に示されるように、形成されたフォトレジスト14を露光し、ついで、図1(E)に示されるように、フォトレジスト14を現像することによりフォトレジスト14の一部を除去してパターンを施す、パターニング工程を行う。
露光および現像の方法は、用いられたフォトレジストに応じて、適宜選択される。
なお、図に示されるフォトレジスト14は、現像により露光部が除去されるポジ型であるが、本発明においては、現像により非露光部が除去されるネガ型のフォトレジストを用いることもできる。
この好適実施態様においては、パターニング工程においてフォトレジストを用いてパターンを施すため、細かいパターンを形成させることができる。
【0038】
その後、図1(F)に示されるように、エッチングを施して、金属の薄膜12のフォトレジスト14で被覆されていない部分を除去する金属薄膜除去工程を行う。
エッチングの方法は、薄膜に用いられた金属に応じて、適宜選択される。具体的には、例えば、ガラス部材10ごとエッチング液に浸せきさせる方法(浸せき法)、プラズマエッチング法が挙げられる。
【0039】
その後、図1(G)に示されるように、フォトレジスト14を除去し、第1の材料からなる部材であるガラス部材10の表面の一部が第2の材料からなる被膜である金属の薄膜12で被覆されてなる基体を得るフォトレジスト除去工程を行う。
フォトレジストの除去の方法は、用いられたフォトレジストに応じて、適宜選択される。
図1(G)に示される基体においては、その表面が、第1の材料からなる領域10aと第2の材料からなる領域12aとを有している。
【0040】
その後、図1(H)に示されるように、上述した蒸着工程を行い、図1(G)に示される基体の表面にアミノ基を有する被膜16を形成して、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体1を得る。
図1(H)に示されるアミノ基を有する被膜を表面に有する基体1においては、アミノ基を有する被膜16が、第1の材料からなる領域10aに形成された部分16aと、第2の材料からなる領域12aに形成された部分16bとを有する。アミノ基を有する被膜の部分16aと部分16bとでは、被膜の表面に存在するアミノ基の単位面積あたりの量が異なっている。
なお、図1(H)においては、第2の材料からなる領域12aの左右方向の長さより、第2の材料からなる領域12aに形成された部分16bの左右方向の長さの方が、長くなっているが、実際には、第2の材料からなる領域12aの左右方向の長さおよび第1の材料からなる領域10aの左右方向の長さがそれぞれ1〜10μm程度であり、アミノ基を有する被膜16の厚さが通常100nm程度であるから、第2の材料からなる領域12aにより形成されるパターンと第2の材料からなる領域12aに形成された部分16bのパターンとは、ほぼ一致する。
【0041】
なお、この例においては、第1の材料からなる部材としてガラス部材を用いているが、この好適実施態様においては、各工程により大きく変質しないものであれば、ガラス部材に限定されず、種々の材料からなる部材を用いることができる。
【0042】
また、別の好適実施態様としては、リフトオフ法が挙げられる。
リフトオフ法は、上述した蒸着工程の前に、第1の材料からなる部材の表面に、所望のパターンの逆パターンのフォトレジストを形成するフォトレジスト形成工程と、第1の材料からなる部材およびフォトレジストの上に、第2の材料である金属の薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、形成されたフォトレジストを除去することにより金属の薄膜の不用部分を除去し、所望のパターンを得る、フォトレジスト除去工程とを具備する方法である。
これらの各工程の方法および条件は、特に限定されず、例えば、従来公知の方法および条件で行うことができる。
【0043】
更に、ステンシルを用いる方法も用いることができる。
ステンシルを用いる方法は、上述した蒸着工程の前に、第1の材料からなる部材の表面に、孔により所望のパターンが形成されたシート(ステンシル)を載置させ、その状態で第2の材料である金属の薄膜を形成し、その後、ステンシルを除去して、第1の材料からなる部材の孔に相当する部分のみに金属の薄膜を形成する工程を具備する方法である。
ステンシルの材料は、特に限定されず、例えば、樹脂、変形する金属合金が挙げられる。
【0044】
更に、上述した蒸着工程の前に、溶射により、所望のパターンの金属の薄膜を形成する工程を具備する方法も用いることができる。
【0045】
中でも、図1を用いて説明した方法およびリフトオフ法が、より細かいパターンを所望の位置に、より再現性よく形成させることができる点で、好ましい。
【0046】
本発明のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体は、本発明の製造方法により得ることができる。
本発明のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体は、被膜において、アミノ基の単位面積あたりの量により、1μm程度の間隔を有するパターンを形成することができるという特性を有する。
本発明の製造方法により得られる本発明のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体は、用途を特に限定されないが、上記特性を活用した用途に好適に用いられる。
例えば、アミノ基に反応する種々の分子を結合させると、その分子の単位面積あたりの量により、1μm程度の間隔を有するパターンを形成させることができる。
具体的には、例えば、バイオチップ(例えば、マイクロアレイ(マイクロセルソーター)、DNAチップ)に好適に用いられる。例えば、DNAチップとして用いる場合、被膜中に存在するアミノ基が、プローブとなるDNA断片のリン酸基(PO4)と結合して、プローブDNAを基体上に固定することができる。また、細胞の培養を数個から始める場合や、所望の位置から細胞を増殖させる場合にも用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
1.アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造
(実施例1)
(1)金属の薄膜の形成
ガラス製の基板(パイレックス社製)の表面に、クロムを蒸着させ、厚さ20nmの薄膜を形成した。
(2)フォトレジストの形成
上記で得られた薄膜の上に、フォトレジスト(AZ P4400、AZエレクトロニックマテリアルズ社製)をスピンコート法により、毎分4000回転の条件で、塗布した。厚さ3.9μmであった。
ついで、100℃で、10分間加熱し、フォトレジストを形成した。
(3)フォトレジストのパターニング
形成されたフォトレジストに、紫外線を用いて8秒間露光した。その後、基板を現像液(AZ developer 400K、AZエレクトロニックマテリアルズ社製)に90秒間浸せきさせ、露光部のフォトレジストを除去して、1μm程度の間隔を有するパターンを施した。
【0048】
(4)金属の薄膜の除去
その後、基板を、20質量%の硝酸第二セリウムアンモニウムおよび3.6質量%の過塩素酸を含有する水溶液に3秒間浸せきさせてエッチングを施すことにより、フォトレジストにより被覆されていない部分のクロムを除去した。
(5)フォトレジストの除去
基板を除去液(AZ remover 700、AZエレクトロニックマテリアルズ社製)に浸せきさせ、その状態で、超音波洗浄を2分間行い、フォトレジストを除去して、パターンを形成しているクロムの薄膜を露出させた。
(6)アミノ基を有する被膜の形成
上記式(1)で表される化合物であって、式中、R1が−CH2NH2、R2が−Hを表す化合物(diX AM、第三化成(株)製)を700℃に加熱して、圧力が80mTorrとなる条件で蒸着を行い、パターンを形成しているクロムの薄膜を有する基板の表面に、アミノ基を有する被膜(上記式(2)で表されるポリマーの被膜)を形成し、アミノ基を有する被膜を表面に有する基板を得た。アミノ基を有する被膜の厚さを表面段差計(Alpha−step 500、KLA−Tencor社製)により測定したところ、約100nmであった。
【0049】
(実施例2)
上記(1)において、クロムの薄膜を形成した後、更に、その上に、金を蒸着させ、厚さ200nmの薄膜を形成した(薄膜の厚さは合計で220nm)以外は、実施例1と同様の方法により、アミノ基を有する被膜を表面に有する基板を得た。
【0050】
(実施例3)
上記(1)において、クロムの代わりに銅を蒸着させ、厚さ20nmの薄膜を形成した以外は、実施例1と同様の方法により、アミノ基を有する被膜を表面に有する基板を得た。
【0051】
2.アミノ基を有する被膜の観察およびその表面に存在するアミノ基の量の測定
1mLのNHS−ローダミン(ローダミンのN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル)のDMSO溶液(濃度1mg/mL)を、150mLのビシン緩衝液(pH8.0)に溶解させた。
ついで、得られた溶液(30℃)の30mLを、シャーレに満たし、上記で得られたアミノ基を有する被膜を表面に有する基板を1時間浸せきさせた。
その後、超純水を用いて流水洗浄し、更に、窒素ブローにより乾燥させた。
【0052】
蛍光顕微鏡により、被膜の表面を観察した。実施例1で得られたアミノ基を有する被膜を表面に有する基板の被膜の表面の写真(倍率20倍)を図2に示す。
図2においては、明るい領域がガラスの基板上に形成された部分であり、暗い領域がクロムの薄膜上に形成された部分である。
図2に示されるように、アミノ基を有する被膜において、アミノ基の単位面積あたりの量の多少により、1μm程度の間隔を有するパターンが形成されていた。また、このパターンは、基板上のクロムの薄膜のパターンと一致していた。
【0053】
また、蛍光顕微鏡により、基板の表面の128×128ピクセルの領域から、ガラスの基板上に形成された被膜および金属の薄膜上に形成された被膜における輝度の平均値および分散を測定し、被膜の表面に存在するアミノ基の量の評価を行った。この際、バックグラウンドの輝度は補正した。
【0054】
結果を図3に示す。図3(A)は実施例1、図3(B)は実施例2、図3(C)は実施例3におけるアミノ基を有する被膜の表面に存在するアミノ基の量の平均値および分散を示す。
図3に示されるように、ガラス製の基板にクロムの薄膜を形成した場合(実施例1)および銅の薄膜を形成した場合(実施例3)は、金属の薄膜上に形成された被膜は、ガラスの基板上に形成された被膜に比べて、輝度の平均値が低かった。また、クロムの場合(実施例1)と銅の場合(実施例3)とでは、ガラスの基板上に形成された被膜における輝度に対する、金属の被膜上に形成された被膜における輝度の程度が異なっていた。
一方、ガラス製の基板にクロムおよび金の薄膜をこの順に形成した場合(実施例2)は、金属の薄膜上に形成された被膜は、ガラスの基板上に形成された被膜に比べて、輝度の平均値が高かった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の製造方法の好適実施態様の一例を説明するための模式的な断面図である。
【図2】実施例1で得られたアミノ基を有する被膜を表面に有する基板の被膜の表面の写真(倍率20倍)である。
【図3】実施例におけるアミノ基を有する被膜の表面に存在するアミノ基の量の平均値および分散を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 アミノ基を有する被膜を表面に有する基体
10 ガラス部材
12 金属の薄膜
14 フォトレジスト
16 アミノ基を有する被膜
10a 基体の第1の材料からなる領域
12a 基体の第2の材料からなる領域
16a 基体の第1の材料からなる領域に形成された被膜の部分
16b 基体の第2の材料からなる領域に形成された被膜の部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に対し、下記式(1)で表される化合物を加熱してモノマーとした後に蒸着を行って、アミノ基を有する被膜を前記基体の表面に形成する蒸着工程を具備する、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法であって、
前記基体の前記表面が、少なくとも第1の材料からなる領域と第2の材料からなる領域とを有し、
前記アミノ基を有する被膜の表面に存在するアミノ基の単位面積あたりの量が、前記表面の前記第1の材料からなる領域に形成された部分と、前記表面の前記第2の材料からなる領域に形成された部分とで異なる、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【化1】


(式中、R1は、−NH2または−CH2NH2を表す。R2は、−NH2、−CH2NH2または−Hを表す。)
【請求項2】
前記第2の材料が金属である、請求項1に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【請求項3】
前記金属が、遷移金属である、請求項2に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【請求項4】
前記遷移金属が、クロム、金または銅である、請求項3に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【請求項5】
前記基体が、前記第1の材料からなる部材の表面の一部が前記第2の材料からなる被膜で被覆されてなる基体である、請求項1〜4のいずれに記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【請求項6】
更に、前記蒸着工程の前に、
前記第1の材料からなる部材の表面に、前記第2の材料である金属の薄膜を形成する金属薄膜形成工程と、
前記金属の薄膜の上にフォトレジストを形成するフォトレジスト形成工程と、
形成された前記フォトレジストを露光し、現像することにより前記フォトレジストの一部を除去してパターンを施す、パターニング工程と、
エッチングを施して、前記金属の薄膜の前記フォトレジストで被覆されていない部分を除去する金属薄膜除去工程と、
前記フォトレジストを除去し、前記第1の材料からなる部材の表面の一部が前記第2の材料からなる被膜で被覆されてなる前記基体を得るフォトレジスト除去工程と
を具備する、請求項5に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【請求項7】
前記第1の材料が、ガラスである、請求項6に記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【請求項8】
前記式(1)中、R1が−CH2NH2を表し、R2が−Hを表す、請求項1〜7のいずれかに記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のアミノ基を有する被膜を表面に有する基体の製造方法により得られる、アミノ基を有する被膜を表面に有する基体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−322219(P2007−322219A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151848(P2006−151848)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000157887)KISCO株式会社 (30)
【出願人】(591228340)第三化成株式会社 (7)
【Fターム(参考)】