説明

アミノ酸を構成イオンとするハロゲンフリーなイオン液体

【課題】ハロゲン原子を含まないイオン液体の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩からなるイオン液体。


(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の炭化水素基を示し、Yはアミノ酸のアミノ基およびカルボキシ基を除いた構成部分を示し、Rは水素原子、またはYと一緒になって形成される環を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸を構成イオンとするハロゲンフリーなイオン液体に関する。
【背景技術】
【0002】
化学反応において、用いられる溶媒は試薬の反応の選択性や反応速度をコントロールする機能などを有するが、反応後において、この溶媒を分離、除去する必要があり、大量の溶媒をいかに環境汚染がない状態で除去し排出するかが問題であった。また、溶媒抽出などで不純物を取り除くために溶媒を多量に用いるがこの場合も同様の問題があった。
【0003】
この問題を解決する方法として、グリーンケミストリーを指向して、液体状態を保持する温度範囲が広く、揮発性がないイオン液体を有機反応溶媒または、抽出溶媒として用いることが提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
しかしながら、室温で液体状態を示すイオン液体の多くは原料および生成物のアニオンにハロゲン原子を含んでおり、熱履歴などで分解しハロゲン化合物が発生する可能性がある。また使用後のイオン液体を加熱廃棄処理時にもハロゲン化合物が発生する可能性がある。これらのハロゲン化合物が大気中に放出されると環境汚染を引き起こし問題となることから、従来のイオン液体は必ずしもグリーンケミストリーに指向しているとは言い難かった。
【0005】
電気化学デバイスのイオン伝導体としてイオン液体をしばしば用いることが提案されている。例えば、リチウム電池、リチウムイオン電池、燃料電池、電解コンデンサ、キャパシタ、色素増感太陽電池等の電気化学デバイスに用いられている(例えば特許文献2)。
【0006】
これらの、電気化学デバイスに用いられるイオン液体もアニオンにハロゲン原子を含んでおり、電気分解によりハロゲン化合物が発生する可能性があり、ハロゲン化合物が大気中に放出されると環境汚染を引き起こし問題となることから、ハロゲン原子が含まれないイオン液体を電解液に用いた電気化学デバイスに用いることが望ましい。
【0007】
また、フォトレジスト用剥離剤として従来、ハロゲン化アルキルが用いられてきたが、これに代わるものとして、環境問題を考慮し、揮発性のないイオン液体を用いることが提案されている(例えば特許文献3)。この用途においても同様にハロゲン化合物が大気中に放出されると環境汚染を引き起こし問題となることからハロゲン原子が含まれないイオン液体が望ましい。
【0008】
従来知られているイオン液体は、アニオンが、PF、BF、トリフレートアニオン(CFSO)、イミドアニオン(TFSI)、AlClなどハロゲン原子を含むものが多かった。これは、ハロゲンの強い電子吸引効果により負電荷を非局在化することで系の融点を下げ、常温で液体状態にするためであり、それゆえイオン液体の多くは、アニオンにハロゲン原子を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2005−314500号公報
【特許文献2】特表2002−076924号公報
【特許文献3】特開2003−228181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ハロゲン原子を含まないイオン液体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩からなるイオン液体を提供する。
【化1】


(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の炭化水素基を示し、Yはアミノ酸のアミノ基およびカルボキシ基を除いた構成部分を示し、Rは水素原子、またはYと一緒になって形成される環を示す。)
【0012】
かかるイオン液体は、ハロゲン原子を含まない。
【0013】
上記イオン液体のアニオン部分は、天然のα−アミノ酸由来のアニオンであることが好ましく、L−セリン、L−プロリン、L−グルタミン酸およびL−リジンからなる群より選ばれる1種のアミノ酸由来のアニオンであることがより好ましい。これらのα−アミノ酸由来のアニオンを用いると、キラリティーや低毒化、生物分解性などの性質を付与しやすくなるので好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハロゲン原子を含まないイオン液体を提供することができる。本発明によればさらに、従来は合成が困難であった不斉合成用材料やデバイス材料、あるいは気体のキャリアとしてのイオン液体を容易に入手することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】1−エチル−3−メチルイミダゾリウムセリン(実施例1)のH−NMRチャートである。
【図2】1−エチル−3−メチルイミダゾリウムプロリン(実施例2)のH−NMRチャートである。
【図3】1−エチル−3−メチルイミダゾリウムグルタミン酸(実施例3)のH−NMRチャートである。
【図4】1−エチル−3−メチルイミダゾリウムリジン(実施例4)のH−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について詳述するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
上記式(1)のR〜Rにおける炭素数1〜12の炭化水素基の例としては、直鎖または分枝状の炭素数1〜12、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4のアルキル基や炭素数5〜12のアリール基が挙げられる。
【0018】
炭素数1〜12のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどを挙げることができ、好ましくは、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシルであり、より好ましくは、エチルおよびブチルである。
【0019】
炭素数5〜12のアリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基などを挙げることができ、好ましくはベンジル基である。
【0020】
上記式(1)のR〜Rにおける「置換基」は、上記炭素数1〜12の炭化水素基の途中または末端に結合するものである。「置換基」の具体例としては、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基、アルデヒド基、シリル基などが挙げられる。
【0021】
上記式(1)のアニオン部分は、好ましくは天然のα−アミノ酸由来のアニオンであり、より好ましくはグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン(リジン)、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、プロリン、2−アミノ酪酸、2−アミノイソ酪酸、2−アミノシクロペンタンカルボン酸由来のアニオンであり、特に好ましくはL−セリン、L−プロリン、L−グルタミン酸およびL−リジンからなる群より選ばれるアミノ酸由来のアニオンである。
【0022】
上記イミダゾリウム塩は、例えば以下に示す方法で製造することができる。
上記式(1)のカチオン部に対応するイミダゾリウムの炭酸エステル、好ましくは炭酸水素メチル炭酸エステル、1重量部を水性溶媒に溶解させ、これに、上記式(1)のアニオン部に対応するアミノ酸約1.0〜1.1重量部、好ましくは、約1.0重量部を添加し、得られた混合溶液を攪拌し、溶媒を減圧留去することにより、所望のイオン液体が得られる。
このような製造方法により、イミダゾリウム塩を製造した場合には、原料にハロゲンを使用しなくとも良いので好ましい。
【0023】
上記式(1)のカチオン部に対応するイミダゾリウムの炭酸エステルとしては、例えば、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム メチルカルボナート、1,2,3−トリエチルイミダゾリウム メチルカルボナート、1,2,3−トリメチルイミダゾリウム メチルカルボナート、1−メチル−2,3−ジエチルイミダゾリウム メチルカルボナートなどが挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム メチルカルボナート50%溶液(水:メタノール=3:2) (アルドリッチ社製)2.8gにL−セリン(アルドリッチ社製)0.7gを加え、攪拌しながら、100℃で減圧乾燥を行い余分な水分およびメタノールを除去し、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムセリン1.3g(収率82%)を得た。本品のH−NMR測定を行った結果は図1および以下に示したとおりであり、プロトンの化学シフトと積分強度から目的の生成物が得られていることが確認された。
H−NMR(DMSO,δ/ppm TMS基準):1.34(t,3H),2.58(s,3H),2.81(m,1H),3.21−3.28(m,2H),3.75(s,3H),4.14(q,2H),7.63(d,1H),7.68(d,1H).
【0026】
実施例2
1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム メチルカルボナート50%溶液(水:メタノール=3:2) 2.8gにL−プロリン(東京化成社製)0.8gを加え、攪拌しながら、100℃で減圧乾燥を行い余分な水分およびメタノールを除去し、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムプロリン1.6g(収率96%)を得た。本品のH−NMR測定を行った結果は図2および以下に示したとおりであり、プロトンの化学シフトと積分強度から目的の生成物が得られていることが確認された。
H−NMR(DMSO,δ/ppm TMS基準):1.33(t,3H),1.35−1.48(m,2H),1.68(m,1H),1.71−1.75(m,1H),2.58(s,3H),2.90(m,1H),3.00(m,2H),3.75(s,3H),4.14(q,2H),7.63(s,1H),7.68(s,1H).
【0027】
実施例3
1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム メチルカルボナート50%溶液(水:メタノール=3:2) 2.8gにL−グルタミン酸(キシダ薬品社製)1.0gを加え、攪拌しながら、100℃で減圧乾燥を行い余分な水分およびメタノールを除去し、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムグルタミン酸1.5g(収率78%)を得た。本品のH−NMR測定を行った結果は図3および以下に示したとおりであり、プロトンの化学シフトと積分強度から目的の生成物が得られていることが確認された。
H−NMR(DMSO,δ/ppm TMS基準):1.33(t,3H),1.65−1.83(m,2H),2.05−2.18(m,2H),2.58(s,3H),3.03−3.05(m,1H),3.74(s,3H),4.13(q,2H),7.64(s,1H),7.67(s,1H).
【0028】
実施例4
1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム メチルカルボナート50%溶液(水:メタノール=3:2) 1.8gにL−リジン一水和物(アルドリッチ社製)7.3gを加え、攪拌しながら、100℃で減圧乾燥を行い余分な水分およびメタノールを除去し、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムリジン1.1g(収率91%)を得た。本品のH−NMR測定を行った結果は図4および以下に示したとおりであり、プロトンの化学シフトと積分強度から目的の生成物が得られていることが確認された。
H−NMR(DMSO,δ/ppm TMS基準):1.22−1.51(m,6H),1.34(t,3H),2.51(m,2H),2.59(s,3H),2.73(m,1H),3.75(s,3H),4.14(q,2H),7.65(s,1H),7.69(s,1H).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるイミダゾリウム塩からなるイオン液体。
【化1】


(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の炭化水素基を示し、Yはアミノ酸のアミノ基およびカルボキシ基を除いた構成部分を示し、Rは水素原子、またはYと一緒になって形成される環を示す。)
【請求項2】
前記イミダゾリウム塩のアニオン部分が、天然のα−アミノ酸由来のアニオンである、請求項1に記載のイオン液体。
【請求項3】
前記イミダゾリウム塩のアニオン部分が、L−セリン、L−プロリン、L−グルタミン酸およびL−リジンからなる群より選ばれる1種のアミノ酸由来のアニオンである、請求項1に記載のイオン液体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−285399(P2010−285399A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141548(P2009−141548)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】