説明

アミン液の劣化度検出および再生方法ならびに装置

【課題】簡単な構成と操作により、アミン液中の熱安定性酸成分の濃度を監視して、アミン液の劣化度を正確かつ迅速に検出するアミン液の劣化度検出方法およびそれによるアミン液の再生方法、装置を得る。
【解決手段】 吸収塔1で酸性ガスを吸収させ、再生塔2で再生したアミン液の劣化度を検出するため、劣化度検出装置20の希釈装置21で希釈し、脱カチオン装置22で脱カチオンし、脱気装置23で熱分解性酸成分を除去し、導電率測定装置24で導電率を測定して劣化度を検出する。その結果により被処理アミン液を2次再生するために、陰極11および陽極12間に配置されたバイポーラ膜13とアニオン交換膜14間にアミン精製室15を、アニオン交換膜14の陽極12側に酸濃縮室16を形成し、アミン精製室15へ被処理アミン液を導入し、アミン精製室15から精製アミン液を取出し、酸濃縮室16から酸濃縮液を取出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸成分吸収用アミン液の劣化度を検出する方法および装置に関する。また本発明は、酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去して再生する方法および装置に関し、特に炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去して再生する際、アミン液中の熱安定性酸成分蓄積によるアミン液の劣化度を検出し、その検出結果に基づいてアミン液を再生する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油精製その他のプロセスでは、炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を含む酸性ガスが発生する。このような酸性ガスは吸収工程として、吸収塔においてアルカノールアミン等のアミン液(リーンアミン)と接触させることにより酸成分を吸収除去し、精製ガスは後工程へ送る。酸成分を吸収したアミン液(リッチアミン)は1次再生工程として、アミン再生塔へ送られ、加熱により熱分解性のアミン塩を分解し、ストリッピングにより気散性の酸成分を放出させてアミンを1次再生する。再生されたアミン液(リーンアミン)は酸成分吸収塔へ戻され、酸成分の吸収除去に利用される。
【0003】
ボイラの煙道ガス等の石炭、石油、燃料ガスなどを燃焼させた燃焼ガスのような炭酸ガス、SOx、NOxおよび他の酸成分を含む酸性ガスが発生するが、このような酸性ガスから炭酸ガスを除去する系でも、上記と同様のアミン液による吸収で処理することが試みられている。
【0004】
これらの酸性ガスに含まれる酸成分は、炭酸ガス、硫化水素のような熱分解性酸成分(気散性酸成分)が主成分であるが、この他にSOx、NOx、硫化カルボニル、シアン化水素、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の熱安定性酸成分(非気散性酸成分)が微量に含まれる。これらの酸性ガスに含まれるすべての酸成分が、吸収工程において吸収塔でアミン液に吸収されアミン塩となる。この内、硫化水素、炭酸ガスなどの熱分解性酸成分が吸収されて形成される熱分解性アミン塩は、1次再生工程において再生塔での加熱で熱分解され、ストリッピングで炭酸ガス、硫化水素ガスなどとして排出され、アミンが1次再生される。ところがSOx、NOx、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸、その他の無機酸等の熱安定性酸成分と結合したアミン塩は、アミン再生塔での加熱では分解せず、アミン液から分離できないので、熱安定性アミン塩(Heat Stable Amines Salt:以下、HSASと略記する場合がある)と称され、アミン液に蓄積する。このようなHSASが蓄積するとアミン液の吸収効率が低下するほか、2〜3重量%になると装置の腐食や発泡の原因となることから、アミン液から2次再生によりHSASを除去することが望まれている。
【0005】
このようなアミン液から熱安定性酸成分を除去するための2次再生として、例えば特許文献1(特公平6−43378号)および特許文献2(特開平7−299332号(特許第2779758号))には、イオン交換膜を用いる電気透析によりアミン液から熱安定性酸成分を除去する方法が試みられている。これらの電気透析法では、陰極、陽極間に配置されたカチオン交換膜とアニオン交換膜間の被処理液室に被処理アミン液を導入して、陰極、陽極間に通電することにより、解離したイオンをカチオン交換膜およびアニオン交換膜を透過させ分離する。
【0006】
アミン液から熱安定性酸成分を実質的に除去する別の2次再生の方法としてイオン交換法があり、特許文献3(特開平5−294902)には、カチオン交換樹脂層およびアニ
オン交換樹脂層にアミン液を通液することにより、アミン液中のカチオンおよびアニオンを除去し、アミン液を2次再生することが記載されている。上記特許文献3を含む従来のイオン交換法によるアミン液の再生方法は、ガス精製工程の再生塔から硫化水素、炭酸ガス等の気散性の酸性ガスを除去したアミン液(リーンアミン)を、ガス精製工程に付随して設けられたカチオン交換樹脂層およびアニオン交換樹脂層へ通液して、リーンアミン液中のカチオンおよびアニオンを除去することによりリーンアミン液を2次再生している。このようなイオン交換では、樹脂の交換容量が飽和すると対象のイオンが除去できなくなるので、除去対象のイオンがリークする貫流点において通液を停止し、再生に移る。再生は、カチオン交換樹脂層、アニオン交換樹脂層へ酸、塩、アルカリ等の再生剤を通液して再生し、リーンアミン液の2次再生に繰り返し使用している。
【0007】
酸成分を吸収したアミン液の2次再生は、アミン液にHSASが蓄積して、その濃度が所定値を超えたときに、HSASを構成する熱安定性酸成分を除去することによりアミン液の吸収性能を回復するために行われる。このためアミン液のHSASを構成する熱安定性酸成分の濃度を監視して、その濃度が所定値を超えたかどうかにより劣化度を検出し、それによりアミン液の2次再生を行うかどうかの判断をしている。従来は多く化学分析により、アミン液中の各種酸成分の濃度を測定していたが、多大な手間と費用がかかるという問題点があった。
【0008】
これを解決する方法として特許文献4(特開2003−93835号)には、ガス吸収アミン液中に含まれるイオンの濃度をイオン電極により測定してガス吸収液の劣化状態を検知する方法が提案されている。しかしイオン電極に関しては、実用的な蟻酸イオン電極が存在しないこと、チオシアン酸、塩化物イオン等のイオン電極はあるが、高価で安定性に欠け、感度が悪く、組成比変動に対応性が低いこと、またメンテナンスが面倒で、ドリフトがあり、校正が必要で、隔膜や内部液の交換が必要なこと、さらにはアミン濃度の影響を受けやすいことなどの問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平6−43378号公報
【特許文献2】特開平7−299332号(特許第2779758号)公報
【特許文献3】特開平5−294902号公報
【特許文献4】特開2003−93835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、前記のような従来の問題点を解決するため、簡単な構成と操作により、アミン液中の熱安定性酸成分の濃度を監視して、アミン液の劣化度を正確かつ迅速に検出することができるアミン液の劣化度検出方法および装置を提案することである。
さらに本発明の課題は、上記劣化度の検出結果に基づいて、アミン液の再生を効率よく行うことができるアミン液の再生方法および装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次のアミン液の劣化度検出および再生方法ならびに装置である。
(1) 酸成分を吸収するアミン液の熱安定性酸成分蓄積による劣化度を検出する方法であって、
アミン液の試料を希釈後、脱カチオンし、さらに脱気処理した後、導電率を測定してアミン液の劣化度を検出することを特徴とするアミン液の劣化度検出方法。
(2) 酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去してアミン液を再生する熱安定性酸成分除去工程、および
アミン液中の熱安定性酸成分の蓄積によるアミン液の劣化度を検出する劣化度検出工程を含み、
前記アミン液の劣化度の検出は、アミン液の試料を希釈後、脱カチオンし、さらに脱気処理した後、導電率を測定してアミン液の劣化度を検出することを特徴とするアミン液の再生方法。
(3) 脱カチオンが、イオン交換樹脂を用いる脱カチオン、あるいはカチオン交換膜および/またはアニオン交換膜を用いる電気透析による脱カチオンである上記(1)または(2)記載の方法。
(4) 脱気処理が、放散塔、スプレー塔または脱気膜を用いる脱気処理である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 酸成分を吸収するアミン液の熱安定性酸成分蓄積による劣化度を検出する装置であって、
アミン液の試料を希釈する希釈装置と、
希釈装置で希釈された試料を脱カチオンする脱カチオン装置と、
脱カチオンされた試料を脱気処理する脱気装置と、
脱気処理された試料の導電率を測定してアミン液の劣化度を検出する導電率測定装置と
を含むことを特徴とするアミン液の劣化度検出装置。
(6) 酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去してアミン液を再生する熱安定性酸成分除去装置、および
アミン液中の熱安定性酸成分の蓄積によるアミン液の劣化度を検出する劣化度検出装置を含み、
前記劣化度検出装置は、アミン液の試料を希釈する希釈装置と、
希釈装置で希釈された試料を脱カチオンする脱カチオン装置と、
脱カチオンされた試料を脱気処理する脱気装置と、
脱気処理された試料の導電率を測定してアミン液の劣化度を検出する導電率測定装置と
を含むことを特徴とするアミン液の再生装置。
(7) 脱カチオン装置が、イオン交換樹脂を用いる脱カチオン装置、あるいはカチオン交換膜および/またはアニオン交換膜を用いる電気透析による脱カチオン装置である上記(5)または(6)記載の装置。
(8) 脱気装置が、放散塔、スプレー塔または脱気膜を用いる脱気装置である上記(5)ないし(7)のいずれかに記載の装置。
【0012】
本発明において、劣化度検出および再生の対象となる被処理アミン液は、炭酸ガス、硫化水素、SOx、NOx、その他の酸成分を吸収するアミン液である。このようなアミン液としては、前記石油精製その他のプロセスで発生する炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を含む酸性ガス、あるいはボイラの煙道ガス等の石炭、石油、燃料ガスなどを燃焼させた燃焼ガスのような炭酸ガス、SOx、NOxおよび他の酸成分を含む酸性ガスから、吸収塔において酸成分を吸収するアルカノールアミン等のアミン液、特に酸成分を吸収したアミン液(リッチアミン)を、アミン再生塔で加熱により熱分解性アミン塩を分解し、ストリッピングにより熱分解性酸成分を放出させてアミンを1次再生したアミン液(リーンアミン)があげられる。
【0013】
被処理アミン液の主成分であるアミンは、酸性ガスの吸収に用いられるアルカノールアミンが一般的であるが、その他のアミンを含んでいてもよい。アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、ジグリコールアミン(DGA)およびメチルジエタノールアミン(MDEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)等が一般に用いられるが、他のアミン例えばヒンダードアミンのようなアミンであってもよい。これらのアミン液は通常15〜55重量%の水溶液とされている。
【0014】
被処理アミン液は、このようなアミン液に酸性ガスを吸収させたリッチアミン液を熱分解し、ストリッピングにより1次再生したアミン液(リーンアミン)であり、酸性ガスの種類、組成、吸収条件、1次再生の条件等により異なるが、一般的には炭酸ガス、硫化水素等の熱分解により気散して放出される熱分解性アミン塩を構成する熱分解性酸成分を5〜50重量%、SOx、NOx、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸等の熱安定性アミン塩(HSAS)を構成する熱安定性酸成分を0.3〜3重量%含むものが本発明の再生に適している。劣化度検出の対象となるアミン液の熱安定性酸成分含量は特に限定されない。
【0015】
本発明ではこのような被処理アミン液から、イオン交換、電気透析等の熱安定性酸成分除去工程(装置)において熱安定性酸成分を除去してアミン液を再生するが、このような熱安定性酸成分除去工程(装置)による処理、すなわち2次再生を開始するかどうかを判定するために、劣化度検出工程(装置)において、アミン液中の熱安定性酸成分蓄積によるアミン液の劣化度を検出する。イオン交換により2次再生する場合は、イオン交換樹脂の再生時期を決めるためにも、処理後のアミン液の劣化度を検出することができる。本発明では、このアミン液の劣化度を検出するために導電率を測定するが、アミン吸収液にはアミン、熱分解性酸成分、熱安定性酸成分などが含まれているため、単にアミン液の導電率を測定しても劣化度を検出することはできない。
【0016】
すなわちアミン液に含まれるアミンは、吸収液の主成分として大量に含まれていて、導電率を発生させる主要成分である。また熱分解性酸成分は、1次再生で除去されずに残留する成分であるが、アミン液に含まれる酸成分中では大きい部分を占め、またpH等により解離度が変わり、正確な導電率の測定を妨げる場合がある。このためアミン液に含まれる熱安定性酸成分の濃度を正確に測定するためには、アミンや熱分解性酸成分を取り除く必要がある。またアミンは20重量%以上の濃度で使用されることが多く、このような高濃度のアミンを除去することは困難である。従って本発明では、このようなアミン液の劣化度の検出のために、アミン液の試料を希釈後、脱カチオンし、さらに脱気処理した後、導電率を測定して劣化度を検出する。
【0017】
劣化度検出のためのアミン液の試料は、酸成分を吸収したアミン液(リッチアミン)でもよいが、このようなリッチアミンより熱分解性のアミン塩を分解し、ストリッピングにより熱分解性酸成分を放出させてアミンを1次再生したアミン液(リーンアミン)が好ましい。アミン液の試料は循環するアミン液から分流して採取されるが、その採取量は1μL/min〜100mL/min、好ましくは10μL/min〜1mL/minとされる。採取した試料は希釈工程(装置)において、溶媒(好ましくは純水)を加えて、10〜1000倍、好ましくは50〜200倍に希釈した後に、脱カチオン工程(装置)において脱カチオンする。
【0018】
脱カチオン工程(装置)では、希釈した試料から脱カチオンできる装置を採用できるが、イオン交換樹脂を用いる脱カチオン装置、あるいはカチオン交換膜および/またはアニオン交換膜を用いる電気透析により脱カチオンするのが好ましい。イオン交換樹脂を用いる場合は、カチオン交換樹脂を用いてカチオンを交換除去することにより、酸成分を主成分として含む試料を得るのが好ましいが、アニオン交換樹脂を用いてアニオンを交換吸着し、アニオンを溶離して酸成分を主成分として含む試料を得ることもできる。
【0019】
電気透析により脱カチオンする場合は、カチオン交換膜および/またはアニオン交換膜を用いるが、カチオン交換膜を通してカチオンを透過させて除去することにより、酸成分を主成分として含む試料を得てもよく、またアニオン交換膜を通してアニオンを透過させて酸成分を主成分として含む試料を得てもよく、さらにはこれらの組合せでもよい。アニオン交換膜を通してアニオンを透過させて酸成分を主成分として含む試料を得る場合は、
アニオン交換膜の陽極側液流量を被処理希釈アミン液流量より少なくすることにより、酸成分の濃度を高くして検出感度を高くすることができる。
【0020】
脱気工程(装置)では、主として熱分解性酸成分を除去できる脱気装置により脱気処理することができるが、熱分解性酸成分を高度に除去するためには、放散塔、スプレー塔または脱気膜を用いる脱気装置により脱気処理するのが好ましい。脱気工程(装置)では、加温下で脱気処理を行うことにより、脱気効率を高くすることができる。また放散塔、スプレー塔の塔内、または脱気膜の気体移行側を真空にすることにより、同様に脱気効率を高くすることができる。この工程における脱気処理により、主として熱分解性酸成分が除去される。この脱気処理は、脱カチオン後の試料に対して行う必要がある。
【0021】
導電率測定工程(装置)では、導電率測定装置を用いて、脱気処理された試料の導電率を測定してアミン液の劣化度を検出する。ここで測定される試料の導電率は、希釈試料に含まれる全熱安定性酸成分により発生するものである。試料の導電率は、希釈試料に含まれるそれぞれの熱安定性酸成分の種類、およびその組成等により異なるが、希釈試料に含まれる熱安定性酸成分の総和と実質的な相関関係がある。この場合、酸性ガスの吸収系ごとにアミン液に含まれる熱安定性酸成分、およびその組成等が変化するので、熱安定性酸成分、およびその組成等ごとに検量線を作成しておくことにより、導電率の測定値からその系におけるアミン液の熱安定性酸成分濃度を知ることができる。
【0022】
アミン液の熱安定性酸成分濃度とアミン液の劣化度の関係は、アミン液に含まれる熱安定性酸成分の種類、組成、濃度等と、それらの許容限界により決まる。アミン液の2次再生を開始する時点の判断は、アミン液に含まれる熱安定性酸成分の濃度が許容限界を超えた時であり、これは劣化度の上限であるが、この濃度の許容限界は導電率によって示される。従って導電率の測定値、あるいはそれに対応する熱安定性酸成分の濃度等が所定値(許容値の上限)に達した時点を、劣化度の上限を検出した時点として、アミン液の再生(2次再生)を開始するように制御することができる。
【0023】
このように劣化度検出工程(装置)において、アミン液中の熱安定性酸成分蓄積によるアミン液の劣化度を検出することにより、熱安定性酸成分除去工程(装置)による処理、すなわち2次再生を開始するかどうかを判定する。2次再生としての熱安定性酸成分除去工程(装置)としては、イオン交換、電気透析などによる熱安定性酸成分除去があげられる。イオン交換による熱安定性酸成分除去は、アニオン交換樹脂により熱安定性酸成分を除去するものであるが、アニオン交換樹脂の充填層に通液して熱安定性酸成分を除去することができる。電気透析による熱安定性酸成分除去は、カチオン交換膜および/またはアニオン交換膜を用いる電気透析により熱安定性酸成分を除去することができる。
【0024】
好ましい熱安定性酸成分除去として、バイポーラ膜およびアニオン交換膜を用いる電気透析による熱安定性酸成分除去について、以下に説明する。この方法は、陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間にアミン精製室を形成し、アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室を形成し、アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行い、アミン精製室から精製アミン液を取出し、酸濃縮室から酸濃縮液を取出す方法である。アミン塩を構成する酸成分を高除去率で除去すると導電率が下がり、電圧が上昇するため、電気透析が効率的に行えなくなる。これを避けるためには、被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行う。被処理アミン液に含まれる炭酸ガス、硫化水素等の熱分解性酸成分は、1次再生において熱分解により除去されるので、吸収工程に循環してもあまり問題はない。
【0025】
被処理アミン液に含まれるHSASを構成する熱安定性酸成分のうち、SOx、NOx
のような強酸性成分は腐食性が高いので、可能な限り除去するのが好ましいが、蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸等の弱酸性成分は濃縮されると害を及ぼすので、除去されるが、多少のものは循環してもよい。弱酸性の熱分解性酸成分、弱酸性の熱安定性酸成分、強酸性の熱安定性酸成分の順に含まれる量は少なくなるが、解離度は高く成るので、上記と逆の順序で電気透析により除去される量は多くなる。このため熱安定性酸イオンの除去率が低い状態で電気透析を終えると、無害の弱酸性の熱分解性酸成分を残留させて、熱安定性酸イオンの移行に使われる電流の利用効率を高く維持することができ、しかも有害な強酸性の熱安定性酸成分の除去率を高くすることができる。
【0026】
バイポーラ膜は特公昭32−3962号、特公昭34−3961号等に記載されているもので、カチオン交換膜とアニオン交換膜が積層された複合膜であり、中間にカチオン交換基とアニオン交換基を有する樹脂部などが介在するものもある。カチオン交換膜はカチオンを選択的に透過させ、アニオンの透過を阻止するので、バイポーラ膜は外部からのカチオンとアニオンの通過を阻止するが、内部で水の電解によって発生する水素イオンや水酸イオンなどは、それぞれの極性に応じて透過する。
【0027】
このような透析装置によるアミン液の再生方法は、被処理アミン液導入路からアミン精製室へ被処理アミン液を導入し、制御機構によりアミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように制御して電気透析を行い、アミン精製室から精製アミン液取出路を通して精製アミン液を取出し、酸濃縮室から酸濃縮液取出路を通して酸濃縮液を取出すことによりアミン液の再生を行う。アミン精製室内の被処理アミン液中の解離したアニオン、すなわち酸成分は、電気透析により陽極側に引かれるため、アニオン交換膜を通して酸濃縮室に透過する。被処理アミン液中の解離したカチオン、すなわちアミンは陰極側に引かれるが、バイポーラ膜により阻止されるためアミン精製室内に留まる。このためアミンは移行することなく、アミン精製室内に留まった状態で精製されるので、アミンの損失は少ない。
【0028】
一方、解離したアニオンすなわち酸成分は酸濃縮室に透過するが、このとき移行する各酸成分の量は、アミン液中の解離した各酸成分の割合に比例する。一般に強酸性の酸ほど解離度が高いので、強酸性の熱安定性酸成分は含まれる量は少ないが、多くが解離して透過する。弱酸性の熱安定性酸成分はこれに続き、弱酸性の熱分解性酸成分は、含まれる量は多いが、解離および透過する量は少なくなる。このため強酸性の熱安定性酸成分が移行を終わっても、弱酸性の熱分解性酸成分が残留するような条件で電気透析を行うと、導電率を低下させることなく、効率よく電気透析を行って、除去する必要のある強酸性および弱酸性の熱安定性酸成分を除去することができる。ここでアミン精製室に残留させる熱分解性酸成分の残留率は被処理アミン液として導入される熱分解性酸成分の80%以上、好ましくは90%以上である。
【0029】
アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行うためには、アミン液中の弱酸性の熱分解性酸成分の解離および透析が進行する前にアミン精製室から精製アミン液を取出すように、制御機構を構成することができる。制御機構の構成としては、酸成分の含量や除去率等から予め設定した設定値に基づいて、アミン精製室へ導入する被処理アミン液量および/またはアミン精製室から取出す精製アミン液量を制御する構成、あるいは酸濃縮室に移行した酸成分の量や電圧などを検出して導入する被処理アミン液量および/または取出す精製アミン液量を制御する構成などがあげられる。
【0030】
酸成分の除去率としては、各酸成分の除去率を検出してもよいが、熱安定性酸成分の除去率を検出して制御するのが好ましい。熱安定性酸成分の除去率の検出は容易であり、また熱安定性酸成分の除去率と残留熱分解性酸成分との間には相関性があるので、制御は容易である。アミン精製室から酸濃縮室へ移行して除去される熱安定性酸成分の除去率を1
0〜50%、好ましくは20〜40%に制御することにより、アミン精製室に残留する熱分解性アミン塩の残留率を80%以上、好ましくは90%以上にすることができ、HSASに対しての電流効率を25〜35%に維持することができる。
【0031】
熱安定性酸成分の除去率(%)は次の(1)式で示され、熱分解性酸成分の残留率(%)は次の(2)式で示される。
熱安定性酸成分の除去率(%)=〔(酸濃縮液中の熱安定性酸成分濃度)×(酸濃縮液排出量)〕/〔(導入する被処理アミン液中の熱安定性酸成分濃度)×(被処理アミン液導入量)〕×100 ・・・(1)
熱分解性酸成分の残留率(%)=〔(精製アミン液中の熱分解性酸成分濃度)×(精製アミン液排出量)〕/〔(導入する被処理アミン液中の熱分解性酸成分濃度)×(被処理アミン液導入量)〕×100・・・(2)
【0032】
熱安定性酸成分除去工程(装置)として、陰極および陽極間に配置されたバイポーラ膜およびアニオン交換膜間にアミン精製室を形成し、アニオン交換膜の陽極側に酸濃縮室を形成し、アミン精製室へ被処理アミン液を導入し、アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行い、アミン精製室から精製アミン液を取出すように構成すると、アルカリなど不純物となる物質を添加することなく、アミンの損失を少なくして、熱安定性酸イオンを効率よく除去してアミン液を高度に精製し、再生することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の劣化度検出方法および装置では、アミン液の試料を希釈後、脱カチオンし、さらに脱気処理した後、導電率を測定してアミン液の劣化度を検出するようにしたので、簡単な構成と操作により、アミン液中の熱安定性酸成分の濃度を監視して、アミン液の劣化度を正確かつ迅速に検出することができる。
【0034】
本発明のアミン液の再生方法および装置では、酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去してアミン液を再生する際、アミン液中の熱安定性酸成分の蓄積によるアミン液の劣化度を上記のように検出するようにしたので、簡単な構成と操作により、アミン液中の熱安定性酸成分の濃度を監視して、アミン液の劣化度を正確かつ迅速に検出し、その検出結果に基づいてアミン液の再生を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施形態のアミン液の再生方法および装置を示すフロー図である。
【図2】実施形態の劣化度検出検出方法および装置を示すフロー図である。
【図3】実施例7の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態を図1により説明する。図1において、1はガス処理工程を構成する吸収塔、2は再生塔であり、流路L1、L2により、ポンプP1、P2および熱交換器3、冷却器4を介して連絡している。吸収塔1および再生塔2は内部に充填層5、6を備え、気−液接触により吸収および1次再生を行うように構成されている。吸収塔1には流路L3、L4が連絡している。流路L3は石油精製プロセスやボイラ等からプロセスガスや煙道ガス等の酸成分を含む酸性ガスを、脱塵、脱硝、脱硫装置等の前処理装置を経由して吸収塔1に導入するようにされており、また流路L4はプロセスや煙突等に導かれるが、詳細な図示は省略されている。
【0037】
吸収塔1では、流路L3から入る酸成分を含む酸性ガスを充填層5において、流路L1から入るリーンアミン液と接触させ、これにより酸成分を吸収除去して処理ガスを流路L4から系外へ排出し、生成するリッチアミン液を流路L2から再生塔2へ送るように構成されている。再生塔2では、流路L5からリーンアミン液をリボイラ7へ送って蒸気加熱することにより、流路L2から入るリッチアミン液を熱分解して蒸気ストリッピングし、炭酸ガスや硫化水素等の熱分解性酸成分のアミン塩のような熱分解性アミン塩を分解して熱分解性酸成分を放出し、アミンを1次再生してリーンアミン液を生成する。リーンアミン液は流路L1から吸収塔1に循環し、蒸気はコンデンサ8で凝縮し、凝縮水は流路L6から再生塔2へ還流し、気散したガスは流路L7から排出されるように構成されている。
【0038】
吸収塔1で酸性ガスをリーンアミン液と接触させて酸成分を吸収させ、生成するリッチアミン液を再生塔2で熱分解して熱分解性酸成分を放出し、生成するリーンアミン液を吸収塔1に循環して酸成分を吸収させる操作を繰返していると、アミン液に熱安定性酸成分が蓄積してアミン液が劣化する。劣化したアミン液を2次再生するために、熱安定性酸成分除去装置として電気透析装置10が設けられている。そして再生塔2から吸収塔1へリーンアミン液を循環する流路L1から、被処理アミン液導入路L11が分岐して、ポンプP3を介して電気透析装置10に連絡しており、また電気透析装置10から精製アミン液取出路L12がポンプP4を介して流路L1に連絡しており、電気透析装置10で2次再生された精製アミン液を流路L1に送るように構成されている。
【0039】
電気透析装置10で被処理アミン液の熱安定性酸成分を除去し、アミン液を2次再生する処理、すなわち2次再生を開始するかどうかを判定するために、劣化度検出装置20が設けられており、アミン液中の熱安定性酸成分蓄積によるアミン液の劣化度を検出するように構成されている。劣化度検出装置20には希釈装置21、脱カチオン装置22、脱気装置23および導電率測定装置24が設けられており、被処理アミン液導入路L11から分岐する試料導入路L21、流路L22、流路L23、流路L24、流路L25によってシリーズに連絡している。
【0040】
図2A、図2B、図2Cはそれぞれ異なる実施形態の劣化度検出装置20を示すフロー図である。図2A、図2B、図2Cにおいて、希釈装置21はそれぞれ攪拌器を有する容器状に構成され、試料導入路L21および希釈水導入路L26に連絡している。脱カチオン装置22は、図2Aではカチオン交換樹脂層25を有する脱カチオン塔が用いられており、図2Bではカチオン交換膜26およびアニオン交換膜27を有する電気透析装置が用いられており、図2Cではカチオン交換膜28および29を有する電気透析装置が用いられている。脱気装置23は、図2Aでは充填層31を有する放散塔またはスプレー塔が用いられており、図2Bおよび図2Cでは脱気膜モジュール33を有する真空脱気装置が用いられている。導電率測定装置24はいずれも測定電極セルを有する導電率計が用いられている。
【0041】
図2Aの劣化度検出装置20では、希釈装置21に試料導入路L21から被処理アミン液の試料を、希釈水導入路L26から純水をそれぞれ所定量導入し、攪拌器で攪拌して希釈し希釈試料を調製する。希釈試料は流路L22より脱カチオン塔からなる脱カチオン装置22に送られ、カチオン交換樹脂層25を通過してカチオンを交換除去する。カチオンを除去した希釈試料は加熱されて、流路L23より放散塔またはスプレー塔からなる脱気装置23に送られ、充填層31上に放散またはスプレーして脱気処理し、流路L27より熱分解性酸成分を除去する。熱分解性酸成分を除去した希釈試料は流路L24から導電率測定装置24に送られ、導電率を測定してアミン液の劣化度が検出される。
【0042】
図2Bの劣化度検出装置20では、希釈装置21における希釈試料の調製は図2Aの場
合と同様である。希釈試料は流路L22より電気透析装置からなる脱カチオン装置22のカチオン交換膜26およびアニオン交換膜27間の電解室34に送られる。電解室34にはカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を充填しておき、カチオン交換膜26と陰極35間に陰極室36を形成し、アニオン交換膜27と陽極37間に陽極室38を形成する。陰極35、陽極37間に通電して電気透析を行うと、希釈試料中の酸成分がアニオン交換膜27を透過して陽極室38に移行することにより、脱カチオンが行われる。ここで流路L28から陽極室38に陽極液を供給し、その流量を電解室34に供給する被処理希釈アミン液の流量より少なくすることにより、陽極液中の酸成分の濃度を高くして検出感度を高くすることができる。陰極室36内の陰極液は流路L29から入り、流路L30から出る。アニオン交換膜27を透過した酸成分を含む陽極液は流路L23から脱気装置23に送られ、脱気膜モジュール33を通過する間に脱気膜を通して熱分解性酸成分を除去する。脱気装置23は真空に保つことにより熱分解性酸成分の除去性能を高くすることができる。熱分解性酸成分を除去した希釈試料は流路L24から導電率測定装置24に送られ、導電率を測定してアミン液の劣化度が検出される。
【0043】
図2Cの劣化度検出装置20では、希釈装置21における希釈試料の調製は図2Aの場合と同様である。希釈試料は流路L22より電気透析装置からなる脱カチオン装置22のカチオン交換膜28、29間の電解室34に送られる。電解室34にはカチオン交換樹脂およびアニオン交換樹脂を充填しておき、カチオン交換膜28と陰極35間に陰極室36を形成し、カチオン交換膜29と陽極37間に陽極室38を形成する。陰極35、陽極37間に通電して電気透析を行うと、希釈試料中のカチオンがカチオン交換膜28を透過して陰極室36に移行することにより、脱カチオンが行われる。陰極室36内の陰極液は流路L29から入り、流路L30から出る。また陽極室38内の陽極液は流路L28から入り、流路L31から出る。カチオンが除去され、酸成分が残留する電解室34内の試料液は流路L23から脱気装置23に送られ、脱気膜モジュール33を通過する間に脱気膜を通して熱分解性酸成分を除去する。脱気装置23は真空に保つことにより熱分解性酸成分を除去性能を高くすることができる。熱分解性酸成分を除去した希釈試料は流路L24から導電率測定装置24に送られ、導電率を測定してアミン液の劣化度が検出される。
【0044】
このように劣化度検出装置20において、試料アミン液中の熱安定性酸成分蓄積によるアミン液の劣化度を検出することにより、電気透析装置10による熱安定性酸成分除去工程、すなわち2次再生を開始するかどうかを判定する。アミン液の2次再生を開始する時点の判断は、アミン液に含まれる熱安定性酸成分の濃度が許容限界を超えた時であり、これは劣化度の上限であるが、この濃度の許容限界は導電率によって示される。従って導電率の測定値、あるいはそれに対応する熱安定性酸成分の濃度等が所定値(許容値の上限)に達した時点を、劣化度の上限を検出した時点として、アミン液の再生(2次再生)を開始する。
【0045】
熱安定性酸成分除去装置としての電気透析装置10は、陰極11および陽極12間に配置されたバイポーラ膜13およびアニオン交換膜14と、バイポーラ膜13およびアニオン交換膜14間に形成されたアミン精製室15と、アミン精製室15へ被処理アミン液を導入する被処理アミン液導入路L11と、アミン精製室15から精製アミン液を取出す精製アミン液取出路L12と、アニオン交換膜14の陽極12側に形成された酸濃縮室16と、酸濃縮室16から酸濃縮液を取出す酸濃縮液取出路L13と、アミン精製室の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行う制御機構17とを含む。酸濃縮室16には酸捕捉液を導入する酸捕捉液導入路L14が連絡している。陰極11のバイポーラ膜13側には、陰極室18が構成されている。
【0046】
バイポーラ膜13は、陰極11側にカチオン交換膜13C、陽極12側にアニオン交換膜13Aが積層された構造になっている。被処理アミン液導入路L11は流路L1から分
岐し、ポンプP3によりリーンアミン液を電気透析装置10のアミン精製室15へ導き、精製アミン液取出路L12は電気透析装置10のアミン精製室15から2次再生された精製アミン液を流路L1に導くように連絡している。酸濃縮室16は陽極室を兼ねており、陽極室液としての酸濃縮液をポンプP7により循環する循環路L15に、ポンプP5を有する酸濃縮液取出路L13およびポンプP6を有する酸捕捉液導入路L14が連絡している。陰極室18には、陰極室液をポンプP8により循環する循環路L16が連絡している。ポンプP3〜P8は制御機構17で制御される。
【0047】
上記の構成において、劣化度検出装置20において、試料アミン液中の熱安定性酸成分蓄積によるアミン液の劣化度を検出することにより、2次再生を開始する時点であるとの判定がなされたときは、制御機構17によりポンプP3を始動し、被処理アミン液としてのリーンアミン液を被処理アミン液導入路L11からアミン精製室15へを導入し、アミン精製室15の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように制御して電気透析を行う。アミン精製室15から精製アミン液取出路L12を通して、ポンプP4により精製アミン液を取出し、酸濃縮室16からポンプP5により酸濃縮液取出路L13を通して酸濃縮液を取出すことによりアミン液の再生を行う。
【0048】
アミン精製室15内の被処理アミン液中の解離したアニオン、すなわち酸成分(X)は、電気透析により陽極12側に引かれるため、アニオン交換膜14を通して酸濃縮室16に透過する。被処理アミン液中の解離したカチオン、すなわちアミン(RN)は陰極11側に引かれるが、バイポーラ膜13により阻止されるためアミン精製室15内に留まる。このためアミンは移行することなく、アミン精製室15内に留まった状態で精製されるので、アミンの損失は少ない。バイポーラ膜13内では水の電解により水素イオン(H)と水酸イオン(OH)が生成するが、水素イオン(H)は陰極室18に移行して水素ガス(H)が発生する。水酸イオン(OH)はアミン精製室15へ移行する。酸濃縮室(陽極室)16では水の電解により、水素イオン(H)と酸素ガス(O)が発生する。
【0049】
解離したアニオンすなわち酸成分(X)は酸濃縮室16に透過するが、このとき移行する各酸成分(X)の量は、アミン液中の解離した各酸成分の割合に比例する。一般に強酸性ほど解離度が高いので、SOx、NOxのような強酸性の熱安定性酸成分は含まれる量は少ないが、多くが解離して透過する。蟻酸、酢酸、シュウ酸、チオシアン酸、チオ硫酸等の弱酸性の熱安定性酸成分はこれに続く。炭酸ガス、硫化水素等の弱酸性の熱分解性酸成分は、含まれる量は多いが、解離および透過する量は少なくなる。このため強酸性の熱安定性酸成分が移行を終わっても、弱酸性の熱分解性酸成分が残留するような条件で電気透析を行うと、導電率を低下させることなく、効率よく電気透析を行って、除去する必要のある強酸性および弱酸性の熱安定性酸成分を除去することができる。
【0050】
アミン精製室15の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように電気透析を行うためには、アミン液中の弱酸性の熱分解性酸成分の解離および透析が進行する前にアミン精製室15から精製アミン液を取出すように、制御機構17を構成することができる。制御機構17の構成としては、酸成分の含量や移行率等から予め設定した設定値に基づいて、アミン精製室15へ導入する被処理アミン液量および/またはアミン精製室15から取出す精製アミン液量をポンプP3、P4により制御する構成、あるいは酸濃縮室16に移行した酸成分の量や、陰極11、陽極12間の電圧などを検出して導入する被処理アミン液量および/または取出す精製アミン液量を制御する構成などがあげられる。
【0051】
酸成分を移行させて除去する除去率としては、各酸成分の除去率を検出してもよいが、熱安定性酸成分の除去率を検出して制御するのが好ましい。熱安定性酸成分の除去率の検出は容易であり、また熱安定性酸成分の除去率と残留熱分解性酸成分との間には相関性が
あるので、制御は容易である。アミン精製室15から酸濃縮室16へ移行させて除去することによる熱安定性酸成分の除去率を10〜50%、好ましくは20〜40%に制御することにより、アミン精製室15に熱分解性アミン塩を80%以上、好ましくは90%以上残留させることができ、HSASに対しての電流効率を25〜35%に維持することができる。
【0052】
酸濃縮室16に酸捕捉液導入路L14を通して酸捕捉液を導入することにより、アミン精製室15から移行する酸成分を捕捉して酸を濃縮し、酸濃縮液を生成する。この酸濃縮液は酸濃縮液取出路L13から取出される。酸捕捉液としては、透過する酸を捕捉して濃縮できるものであればよいが、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物のようなアルカリ液を用いることにより、アミン精製室15から移行する酸成分を中和することができ、これにより装置の腐食、損傷等を防止し、排液処理を容易にすることができる。酸濃縮室16内の酸濃縮液(酸捕捉液)はポンプP7により、循環路L15を通して循環することにより、液の攪拌とガスの除去を行うことができる。pH10以下、特にpH6〜10にすると、熱分解性酸成分の透過が少なくなる。陰極室18には0.1〜4Nのアルカリ金属水酸化物等のアルカリを陰極液として入れ、ポンプP8により、循環路L16を通して循環することにより、液の攪拌とガスの除去を行うことができる。
【0053】
上記のバイポーラ膜13およびアニオン交換膜14、ならびにこれらにより形成されるアミン精製室15および酸濃縮室16の構成は、陰極11および陽極12間に1組だけ設けた例を示したが、複数組を直列または並列に設けてもよい。複数組を並列に設ける場合、陰極11および陽極12は両端に設けられる。そして陰極11側には陰極室18が設けられるが、陽極12に隣接する酸濃縮室16は陽極室を兼ねることになる。
【0054】
また電気透析装置10においては、アミン液へアルカリ金属塩を添加しないので、アミン液へのアルカリ金属塩の混入がなく、腐食や析出の懸念がなくなる。またアミンの移動がないため、系外への流出による損失がなくなる。そして電気透析装置の構成が陽極室、陰極室以外には、アミン精製室、酸濃縮室の2室(の繰り返し)となるため装置構成が簡単となり、装置コストが安価になるとともに、セル数が減るため操作電圧の低下により運転費が軽減する。
【0055】
さらにアミン精製室15の被処理アミン液中の熱分解性アミン塩が残留するように制御して電気透析を行うことにより、熱分解性アミン塩を構成する気散性酸成分の移動で消費される余計な電流を流さずに済み、運転コストが安価になる。またアミン精製室15内の気散性酸成分濃度が高く保たれるため、アミン精製室15の電気抵抗が高くならず、電圧が低く保持されるので、運転コストが安価となる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例、比較例について説明する。各例における%は特に指示しない限り重量%であり、また分析法および模擬ガス吸収アミン液は以下の通りである。
〔アミン濃度〕:OH形強塩基性アニオン交換樹脂に通液、フリーのアミン形にした後、0.1N−HCl溶液で滴定した。
〔全酸濃度〕:H形強酸性カチオン交換樹脂に通液してフリーの酸にし、曝気しないで、PP指示薬を用い0.1N−NaOH溶液で中和滴定した。
〔HSAS濃度〕:H形強酸性カチオン交換樹脂に通液してフリーの酸にし、曝気して熱分解性酸を放散させた後、MB指示薬を用い0.1N−NaOH溶液で中和滴定した。
〔熱分解性酸濃度〕:(全酸濃度)−(HSAS濃度)
〔模擬ガス吸収アミン液A〕:試薬のメチルジエタノールアミンを水で希釈し、試薬の酢酸を添加し、硫化水素ガスを吹き込んで、アミン濃度38%、熱分解性酸濃度1.5%、HSAS濃度1.5%となるように調製した。このアミン液を純水で100倍前後に希
釈したものを被測定溶液とした。
〔模擬ガス吸収アミン液B〕:試薬のメチルジエタノールアミンを水で希釈し、試薬の酢酸、チオシアン酸、チオ硫酸を等モルずつ添加し、硫化水素ガスを吹き込んで、アミン濃度38%、熱分解性酸濃度1.5%、HSAS濃度1.5%となるように調製した。このアミン液を純水で100倍前後に希釈したものを被測定溶液とした。
【0057】
〔実施例1〕:
図2Aに準じて模擬ガス吸収アミン液Aの劣化度を検出した。脱カチオン装置22のカチオン交換樹脂層25として、H形カチオン交換樹脂ダイヤイオンSK1B(三菱化学(株)製、商標)100mLを充填した。このカチオン交換樹脂層に、表1に示すように希釈された模擬ガス吸収アミン液Aを1mL/minで通液して脱カチオンした。脱カチオン液50mLをビーカーに取り、ヒーター付きスターラーで60℃に加温しながらNガスを吹き込んだ。その後、液の一部が蒸発したので、50mLになるようメスアップし、導電率を測定した。導電率の測定は、電気伝導率計ES−51流通形3561−10Dセル(堀場製作所製、商標)に0.5mL/minに通液して測定した。結果を表1に示す。表1より、HSAS濃度と導電率とに相関があり、本発明のイオン交換樹脂による脱カチオンおよび脱気処理による方法でHSAS濃度を精度よく測定できることが分かる。
【0058】
【表1】

【0059】
〔比較例1〕:
被測定溶液である模擬ガス吸収アミン液Aに酢酸を添加して導電率が変化するかを確かめた。すなわちHSASである酢酸を250mg/Lとなるように追加添加したが、導電率に殆ど変化は見られなかった。この結果より、酸成分を吸収したアミン液自体の導電率を測定しても、アミン液に含まれる熱安定性酸成分を検出できないことが分かる。
【0060】
〔比較例2〕:
実施例1において、脱ガス操作することなく、そのまま導電率を測定したところ、セル内で気泡が発生して安定した測定ができなかった。目視で気泡がなさそうなときの測定結果を表2に示す。表2より、脱カチオンとともに脱ガス操作が必要であることが分かる。
【0061】
【表2】

【0062】
〔実施例2〕:
図2Bに準じて模擬ガス吸収アミン液Aの劣化度を検出した。透析装置からなる脱カチオン装置22の陰極35にはステンレスを用い、陽極37にはPtメッキしたチタンを用い、カチオン交換膜26にはネオセプタCMX(アストム社製、商標)を用い、アニオン交換膜27にはネオセプタAHA(アストム社製、商標)を用い、電解室34にはカチオン交換樹脂ダイアイオンSK1Bおよびアニオン交換樹脂ダイアイオンSA10A(三菱化学(株)製、商標)を充填し、陰極室36と陽極室38にはそれぞれ厚さ1mmのメッシュスぺーサを入れて流路を確保した。電極およびイオン交換膜の有効面積は100cm(5cm×20cm)とした。この透析装置の電解室34に100mLの被測定液を5mL/minで循環通液し、純水50mLを1mL/minで陽極室38に陽極室液として導入し、電流5Aで通電して脱カチオンした酸濃縮液として取出した。この液を脱気膜モジュール33を有する真空脱気装置LG−102(ラボコーティック社製、商標)に循環通液し、熱分解性酸成分を除去した酸濃縮液を得た。この酸濃縮液の導電率を実施例1と同様にして測定した。結果を表に示す。表より、HSAS濃度と導電率とに相関があり、本発明の電気透析および脱気処理による方法でHSAS濃度を精度よく測定できることが分かる。
【0063】
【表3】

【0064】
〔比較例3〕:
実施例2において、脱ガス操作することなく、そのまま導電率を測定したところ、比較例2と同様にセル内で気泡が発生して安定した測定ができなかった。目視で気泡がなさそうなときの測定結果を表に示す。表4より、脱カチオンとともに脱ガス操作が必要であることが分かる。
【0065】
【表4】

【0066】
〔実施例3〕:
図2Cに準じて模擬ガス吸収アミン液Aの劣化度を検出した。透析装置からなる脱カチオン装置22として、2枚のカチオン交換膜を有するサプレッサーASRS−300(ダイオネクス社製、商標、4mm)を用い、被測定溶液を0.5mL/minで通液して脱カチオンした。この液を実施例2と同様に、脱気膜モジュール33を有する真空脱気装置LG−102(ラボコーティック社製、商標)に循環通液し、熱分解性酸成分を除去し、導電率を実施例1と同様にして測定した。その結果、実施例1と同等の結果が得られた。
【0067】
〔比較例4〕:
実施例3において、脱ガス操作することなく、そのまま導電率を測定したところ、比較例2と同様にセル内で気泡が発生して安定した測定ができなかった。
【0068】
〔実施例4〕:
模擬ガス吸収アミン液Bについて、実施例1と同様に試験した結果を表5に示す。表5より、HSASが複数種の場合でも、それらの濃度と導電率とに相関があり、本発明のイオン交換樹脂による脱カチオンおよび脱気処理による方法でHSAS濃度を精度よく測定できることが分かる。
【0069】
【表5】

【0070】
〔実施例5〕:
模擬ガス吸収アミン液Bについて、実施例2と同様に試験したところ、電気透析による濃縮に見合った値の約2倍の導電率を示した。
【0071】
〔実施例6〕:
模擬ガス吸収アミン液Bについて、実施例3と同様に試験したところ、表5とほぼ同等の結果が得られた。
【0072】
〔実施例7〕:
図1に示す電気透析装置10において、陰極11にステンレス鋼、陽極12に白金メッキしたチタンを用いた。バイポーラ膜13にはアストム社製ネオセプタBP−1E(商品名)を、アニオン交換膜14には同社のネオセプタAHA(商品名)を用いた。各室には厚さ1mmのメッシュスぺーサを入れて流路を確保した。各電極およびイオン交換膜の有効面積は100cm(5cm×20cm)とした。
【0073】
この電気透析セルに、酸性ガスを吸収し蒸気ストリッピングで1次再生したメチルジエタノールアミン(アミン濃度38%、熱分解性酸濃度1.5%、HSAS濃度1.5%)の模擬溶液を1mL/minで通液、電流2Aで通電したところ、HSAS濃度が低下したアミン(アミン濃度38%、熱分解性酸濃度1.2%、HSAS濃度1.1%)が得られた。このときの電圧は3.4Vであり、移動した熱分解性酸イオンと熱安定性酸イオンの比はモル比で約0.2:0.8であった。前記の模擬液は、試薬のメチルジエタノールアミンを水で希釈し、試薬の酢酸を添加、硫化水素ガスを吹き込んで調整したものである。
【0074】
上記の条件で電解時間を延長し、HSAS除去率を変化させたところ、熱分解性酸の除去率、ならびにHSAS除去のための電流効率も変化した。その結果を図3に示す。図3より、HSAS除去率を上げると、熱分解性酸の除去率が高くなり、電流効率が低下する。そして熱安定性酸成分の除去率を10〜50%、好ましくは20〜40%に制御することにより、アミン精製室に熱分解性アミン塩を80%以上、好ましくは90%以上残留させることができ、HSASに対しての電流効率を25〜35%に維持することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、酸成分吸収用アミン液の劣化度を検出する方法および装置に利用可能である。また酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去して再生する方法および装置、特に炭酸ガス、硫化水素、その他の酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去して再生する際、アミン液中の熱安定性酸成分蓄積によるアミン液の劣化度を検出し、その検出結果に基づいてアミン液を再生する方法および装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1: 吸収塔、2: 再生塔、3: 熱交換器、4: 冷却器、5,6: 充填層、7: リボイラ、8: コンデンサ、9: 前処理装置、10: 電気透析装置、11:
陰極、12: 陽極、13: バイポーラ膜、13C: カチオン交換膜、13A: アニオン交換膜、14: アニオン交換膜、15: アミン精製室、16: 酸濃縮室、17: 制御機構、18: 陰極室、20: 劣化度検出装置、21: 希釈装置、22: 脱カチオン装置、23: 脱気装置、24: 導電率測定装置、25: カチオン交換樹脂層、26,28,29: カチオン交換膜、27: アニオン交換膜、31: 充填層、33: 脱気膜モジュール、34: 電解室、35: 陰極、36: 陰極室、37: 陽極、38: 陽極室、L1〜L6,L22〜L25,L27〜L31: 流路、L11: 被処理アミン液導入路、L12: 精製アミン液取出路、L13: 酸濃縮液取出路、L14: 酸捕捉液導入路、L15,L16: 循環路、L21: 試料導入路、L26: 希釈水導入路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸成分を吸収するアミン液の熱安定性酸成分蓄積による劣化度を検出する方法であって、
アミン液の試料を希釈後、脱カチオンし、さらに脱気処理した後、導電率を測定してアミン液の劣化度を検出することを特徴とするアミン液の劣化度検出方法。
【請求項2】
酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去してアミン液を再生する熱安定性酸成分除去工程、および
アミン液中の熱安定性酸成分の蓄積によるアミン液の劣化度を検出する劣化度検出工程を含み、
前記アミン液の劣化度の検出は、アミン液の試料を希釈後、脱カチオンし、さらに脱気処理した後、導電率を測定してアミン液の劣化度を検出することを特徴とするアミン液の再生方法。
【請求項3】
脱カチオンが、イオン交換樹脂を用いる脱カチオン、あるいはカチオン交換膜および/またはアニオン交換膜を用いる電気透析による脱カチオンである請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
脱気処理が、放散塔、スプレー塔または脱気膜を用いる脱気処理である請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酸成分を吸収するアミン液の熱安定性酸成分蓄積による劣化度を検出する装置であって、
アミン液の試料を希釈する希釈装置と、
希釈装置で希釈された試料を脱カチオンする脱カチオン装置と、
脱カチオンされた試料を脱気処理する脱気装置と、
脱気処理された試料の導電率を測定してアミン液の劣化度を検出する導電率測定装置と
を含むことを特徴とするアミン液の劣化度検出装置。
【請求項6】
酸成分を吸収したアミン液から熱安定性酸成分を除去してアミン液を再生する熱安定性酸成分除去装置、および
アミン液中の熱安定性酸成分の蓄積によるアミン液の劣化度を検出する劣化度検出装置を含み、
前記劣化度検出装置は、アミン液の試料を希釈する希釈装置と、
希釈装置で希釈された試料を脱カチオンする脱カチオン装置と、
脱カチオンされた試料を脱気処理する脱気装置と、
脱気処理された試料の導電率を測定してアミン液の劣化度を検出する導電率測定装置と
を含むことを特徴とするアミン液の再生装置。
【請求項7】
脱カチオン装置が、イオン交換樹脂を用いる脱カチオン装置、あるいはカチオン交換膜および/またはアニオン交換膜を用いる電気透析による脱カチオン装置である請求項5または6記載の装置。
【請求項8】
脱気装置が、放散塔、スプレー塔または脱気膜を用いる脱気装置である請求項5ないし7のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−149018(P2012−149018A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9993(P2011−9993)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】