説明

アモルフォファルス属植物由来β3アドレナリン受容体アゴニスト組成物

【課題】 安全性が高く容易に製造することができ、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は医薬品、医薬部外品、化粧品などに使用することができるインスリン抵抗性、またはメタボリックシンドローム、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防又は処置用組成物を提供する。
【解決手段】 β3アドレナリン受容体アゴニスト活性を持つコンニャク抽出物を含有する、インスリン抵抗性、またはメタボリックシンドローム、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防又は処置用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は医薬品、医薬部外品、化粧品などに使用することができる、β3アドレナリン受容体アゴニスト組成物、及びこれを含有することを特徴とするインスリン抵抗性、またはメタボリックシンドローム、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防又は処置用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コンニャク(蒟蒻)(Amorphophallus konjac K. Koch)はサトイモ科(Araceae)の熱帯アジア原産植物であり、日本でもその球茎(corm)部分である蒟蒻芋を古くから食用としている。球茎にはブドウ糖とマンノースからなるコンニャクマンナンが含まれ、芋をそのままつぶして、或いは芋を切片にして乾燥させ微粉にして、水を多量に加えれば、水を吸収して糊状になることを特徴とする。これを石灰水と一緒に煮て凝固したものが食用のコンニャクである。芋から直接作る製法は現在でも行われており、風味や色の点で高く評価されているが、貯蔵性や大量生産性の点から市場のコンニャクはほとんどがグルコマンナンを多く含む精製製品の精粉から作られたものである。スライスしたコンニャク芋を乾燥させ荒く砕いたものを荒粉と呼び、さらに細かい粉にして密度が高く比重が重いグルコマンナンを主成分とする粒子を精粉と呼ぶ。荒粉から精粉を作る作業工程で発生する軽い微粒子粉末を飛粉と呼び、精粉と飛粉の産生割合はほぼ等量である。効率の良いコンニャク製造法に利用されている精粉製造過程では、飛粉は除去されており、コンニャクマンナンを多く含む精粉に比べて大変微細である。しかし、芋全体から製造するコンニャクの風味が良い原因は、この飛粉成分によるものが大きいと推測され、この飛粉を有効に使用すればコンニャク全体を利用することができると考えられる。コンニャクは日本の伝統食品であり、低カロリーで食物繊維を多く含む食品として積極的に摂取されている。現在言われているコンニャクの効能は、コンニャク精紛に含まれる主成分のコンニャクマンナンや食物繊維によるものであり、肝臓脂質量抑制による脂質代謝改善効果(非特許文献1)や胃内帯留時間延長作用及びグルコース拡散阻害による耐糖性改善効果(非特許文献2)が報告されている。飛粉はその大量生産法によるコンニャクの副産物として発生するが、ヒトが摂取する形での応用はそのえぐ味のため全く出来ておらず、成分と効能についてもほとんどこれまでに報告がない。すなわちコンニャク精紛はその利用が進む一方、飛粉は高い糖質含量、タンパク質含量を持つ栄養価の高いものであるが、シュウ酸やホモゲンチジンン酸、フェノール性物質のえぐ味や生臭さから現在は肥料や飼料等にしか利用されていない。また、飛粉やその抽出物に関する報告は、飛粉からのスフィンゴ糖脂質の製造と利用に関するもの(特許文献1〜3)、血圧降下作用物質の報告(非特許文献3)があるが、コンニャク抽出物にβ3アドレナリン受容体アゴニスト作用があることは知られていない。
【0003】
アドレナリン受容体は、交感神経から遊離されるアドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミン作動薬と結合する受容体であり、カテコールアミン作動薬に対する感受性によりα受容体とβ受容体の2種類に分けられる。すなわち、αアドレナリン受容体はノルアドレナリン≧アドレナリン>ドーパミン>イソプレテレノールの順に感受性を示し、βアドレナリン受容体はイソプレテレノール>アドレナリンノルアドレナリン>ドーパミンの順に感受性を示す。
【0004】
βアドレナリン受容体には、β1、β2、β3受容体があり、近年β4受容体の存在も示唆されている。それぞれの受容体に対するアゴニスト(作動薬)の作用として、β1アドレナリン受容体アゴニストは心拍数増加作用、β2アドレナリン受容体アゴニストは気管支平滑筋弛緩作用、β3アドレナリン受容体アゴニストは熱産生の活性化作用及び脂肪分解の促進作用があることが知られている。このことから、肥満などの生活習慣病の予防及び/又は改善には、β3アドレナリン受容体アゴニストが有効である。β3アドレナリン受容体アゴニストは、1984年に初めて発見され、動物実験において熱産生や脂肪分解による抗肥満作用、抗糖尿病作用が認められた。しかし、これらの作用はヒトにおいて微弱であった。この効果差の原因が、1989年になり、マウスやラットなどの齧歯類とヒトのβ3アドレナリン受容体構造上の種差大きな原因の一つであることが明確になった(非特許文献4)。またこの効果差の原因として、βアドレナリン受容体の数がヒトよりも齧歯類にはるかに多いことも一因である。これらのことから、β1やβ2よりもβ3アドレナリン受容体に対して選択性が高く、且つ、ヒトのβ3アドレナリン受容体に対して選択性が高いアゴニスト、すなわち選択的ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニストが、インスリン抵抗性、またはメタボリックシンドローム、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などを主体とした生活習慣病の予防及び/又は改善に有効であり、その開発が望まれている。
【0005】
β3アドレナリン受容体は脂肪細胞に存在しており、交感神経刺激により脂肪分解と熱産生が促進され、その選択的アゴニストは抗肥満薬として期待されている(非特許文献5)。その一方、β3アドレナリン受容体は非脂肪細胞でも発現していること(非特許文献6)、排尿筋で発現されていることが確認され(非特許文献7)、β3アドレナリン受容体アゴニストが肥満以外に、頻尿や尿失禁に効果がある可能性が示された(特許文献4)。
【特許文献1】特開2002-38183
【特許文献2】特開2003-2835
【特許文献3】特開2004-168738
【特許文献4】WO98/07445
【非特許文献1】栄養学雑誌、31巻、152、(1973)
【非特許文献2】Nutr. Rep. Int., 23, 1145, (1981)
【非特許文献3】医学研究、46巻、22、(1976)
【非特許文献4】Diabetes & Metabolism, 25, 11, 1999
【非特許文献5】Nature, 309, 163, 1984
【非特許文献6】Eur. J. Pharmacol. Mol. Pharm. Section, 289, 223-228, 1995
【非特許文献7】Fujimura, T., et al., J. Urology, 161, 680-685, 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全性が高く容易に製造することができ、健康食品や保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)などの飲食品、又は医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することができる、β3アドレナリン受容体アゴニスト組成物、及びインスリン抵抗性、またはメタボリックシンドローム、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防又は処置用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、コンニャク抽出物にヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト活性を見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち本発明が提供するのは以下の通りである。
【0009】
(1)コンニャク属植物(Amorphophallus )材料を有効成分とするβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物。好ましくは、コンニャク属植物(Amorphophallus )材料の有機溶媒抽出物を有効成分とするβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物。
【0010】
(2)上記β3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を含有するインスリン抵抗性の予防又は処置用組成物、あるいは生活習慣病予防または処置用組成物。好ましくは、生活習慣病がメタボリックシンドローム、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧症、および痛風からなる群より選ばれる少なくとも1つの疾患である、前記組成物。
(3)上記β3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を配合することを特徴とする飲食品、化粧品、医薬品。
【0011】
(4)上記β3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を用いたインスリン抵抗性あるいは生活習慣病の予防または治療法。
【0012】
(5)コンニャク属植物(Amorphophallus )材料を有機溶媒を用いて抽出することを特徴とするβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、天然物由来の生活習慣病予防または処置用組成物を提供することができる。また、β3アドレナリン受容体アゴニスト組成物、及びそれを有効成分として含有する生活習慣病予防または処置用組成物を提供できる。本発明は、飲食品または医薬品、医薬部外品、化粧品などに利用することで、インスリン抵抗性、またはメタボリックシンドローム、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病を予防または処置用組成物として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本明細書の生活習慣病予防または処置用組成物は、コンニャク属植物またはその加工物などのコンニャク属植物材料を有効成分とし、生活習慣病予防または処置効果が発揮できる範囲の有効量を含んでいればよい。
また、本明細書のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物は、コンニャク属植物材料を有効成分とし、β3アドレナリン受容体アゴニスト活性が発揮できる範囲の有効量を含んでいればよい。
【0015】
ここにいうコンニャク属植物にはAmorphophallus konjacAmorphophallus bulbiferAmorphophallus campanulatusなどが挙げられるが、好ましくは、我国で大量に栽培されているAmorphophallus konjac種がよく、さらに好ましくは、Amorphophallus konjac K. Koch(コンニャク)である。
【0016】
また、本発明で使用するコンニャク属植物の採取時期や生育年数、栽培方法、栽培期間は特に限定されず、コンニャク属植物材料は球茎由来の加工物とするほうが良く、コンニャク芋の粉、特にコンニャク飛粉が好ましい。
【0017】
本発明に使用するコンニャク属植物材料由来の組成物は、例えば、コンニャク飛粉から溶媒抽出などによって得ることができる。当該抽出物は、飲料品や医薬品として不適当な不純物を含有しない限り、抽出液のまま、又は粗抽出物あるいは半精製抽出物として本発明に使用できる。
【0018】
抽出溶媒としては、アルコール類(例えばエタノール、メタノールの低級アルコール、あるいはグリセリンなどの多価アルコール)、酢酸などの極性溶媒を、単独、2種以上の液を任意に組み合わせて、或いは水との混合物として使用することが出来る。そのなかでも、水溶性有機溶媒が好ましく、炭素数1〜3の低級アルコールがより好ましく、残留溶媒の安全性の点からはエタノールが特に好ましい。また、水溶性有機溶媒の濃度は10容量%以上の水溶液であることが好ましく、50容量%以上がより好ましく、70容量%が特に好ましい。また、各々の溶媒抽出物を組み合わせても使用できる。用いる抽出溶媒の量としては、用いるコンニャク属植物材料の0.5重量〜50重量が好ましく、2重量〜10重量がさらに好ましい。
溶媒抽出を行う場合は、例えば微細粉末の飛粉を、普通1〜20倍量の抽出溶媒に浸し、攪拌及び/又は放置により抽出し、濾過又は遠心分離などにより抽出液を得ることができる。次いで得られた抽出液から、濃縮及び/又は濃縮乾固、更には凍結乾燥などにより溶媒および含有水分を除去し、当該抽出物を得ることができる。抽出温度は、特に限定されず、一般に−20〜121℃、通常室温の1〜80℃、好ましくは20〜60℃で好適に実施できる。抽出時間は、特に限定されず、通常0.1時間〜1ヶ月、好ましくは0.5時間〜7日間で好適に実施できる。抽出後は濃縮乾固或いは油脂等により溶液状、ペースト状、ゲル状、粉状としてもよい。場合によっては30〜120℃の条件下で抽出することや、オートクレーブ、二酸化炭素等による超臨界条件での抽出も可能であり、抽出時間は適宜設定すれば良い。必要であれば、さらに活性炭カラムやイオン交換樹脂等により、任意の操作で精製することもできる。
【0019】
本発明の一つの実施態様としては、コンニャク属植物材料を70%エタノール水溶液で抽出した抽出物を使用することができる。抽出に使用する量70%エタノールの量は、コンニャク属植物材料に含まれる活性成分を十分に溶解しうる量であることが好ましい。
【0020】
本発明におけるコンニャク属植物材料を有効成分とする組成物は、スライスしたコンニャク芋を乾燥させ荒く砕き、さらに細かい粉にして密度が高く比重が重いグルコマンナンを主成分とする精粉を作る作業工程で発生する飛粉を利用することができる。また、採取したコンニャク属植物を洗浄して表面に付着した汚れや生物を除去した後、裁断、ボールミル、超音波処理、ホモジェナイザーなどによってこれを破砕したものを利用することもできる。破砕に先立って風乾や凍結乾燥処理を行ってもよい。溶媒抽出する場合、飛粉あるいは破砕したコンニャク属植物材料は、撹拌しながら抽出溶媒で数回繰り返し抽出するのが好ましい。
【0021】
本発明のコンニャク属植物材料を有効成分とする組成物は、必要に応じて希釈あるいは濃縮して適当な濃度に調節することもできる。たとえば、本発明の組成物を油脂等と混ぜてクリームにすることも可能である。さらに、組成物を含有する溶液や抽出液を噴霧乾燥することによって、粉末状の生活習慣病予防改善組成物にすることもできる。このように、本発明の組成物は濃度や形状は特に制限されず、その用途に応じて適宜決定することができる。
【0022】
本発明の組成物にはコンニャク属植物材料の抽出物以外の成分を含ませてもよい。本発明の組成物は、食用に供されているコンニャク属植物材料を活性成分としているため、生体に対する安全性が高い。このため、本発明の抽出物は、医薬品、機能性食品、飲食品、医薬部外品、化粧品、浴用剤などの広範な製品中に含有させることができる。
【0023】
本発明のコンニャク属植物材料の成分またはコンニャク属植物材料の抽出物はβ3アドレナリン受容体アゴニスト活性を持つことから、メタボリックシンドローム、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病予防または処置用組成物としてとして有用である。
【0024】
本発明において、インスリン抵抗性とは、肝臓・脂肪細胞・骨格筋で、インスリンの主な作用である糖の吸収促進作用が弱っている状態を指す。インスリン抵抗性の予防とは、SSPG(steady-state plasma glucose)法などによるインスリン抵抗性の指標となる値がより悪化するのを防ぐ又は遅らせることを指す。インスリン抵抗性の改善とは、上記のインスリン抵抗性の指標となる値をより改善することを指す。
【0025】
ここにいう、生活習慣病とは、公衆衛生審議会(平成8年12月18日)の意見具申「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について」に基づくものである。食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣がその発症・進行に関与する疾病群をいう。生活習慣病としては、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風、高体脂肪率、高血糖、高インスリン血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高血圧、および高尿酸血症などが挙げられる。また生活習慣病においては、これらは単独の疾患ではなく相互に関係している。
【0026】
本発明においてメタボリックシンドロームの予防とは、日本内科学会等が2005年4月に日本内科学会誌で発表した定義と診断基準による状態または境界域の状態、米国高脂血症治療ガイドライン(NCEP-ATPIII)で2001年に発表された定義と診断基準による状態または境界域の状態、あるいはWHOが2001年に発表した定義と診断基準による状態または境界域の状態になるのを防ぐ又は遅らせることを指す。また、メタボリックシンドロームの改善とは上記に示す高脂血症の状態又は境界域の状態から、上記ガイドラインにて正常域と定義している状態に近づけることを指す。尚、ここで言うメタボリックシンドロームとは、松澤らが言う「内臓脂肪症候群(visceral fat syndrome)」およびマルチプルリスクファクター症候群と同義である(Matsuzawa et al., Diabetes/Metabolism Reviews, 13,3-13, 1997参照)。
【0027】
本発明において、高脂血症の予防とは、日本動脈硬化学会が動脈硬化性疾患診療ガイドライン(2002年9月発行)にて定義している高脂血症の状態又は境界域の状態になるのを防ぐ又は遅らせることを指す。また、高脂血の改善とは、上記に示す高脂血症の状態又は境界域の状態から、上記ガイドラインにて正常域と定義している状態に近づけることを指す。
【0028】
本発明において、糖尿病の予防とは、日本糖尿病学会が糖尿病治療ガイド2002−2003(2002年5月発行)にて定義している糖尿病の状態又は境界域の状態になるのを防ぐ又は遅らせることを指す。また、糖尿病の改善とは、上記の糖尿病の状態又は境界域の状態から、上記ガイドにて正常域と定義している状態に近づけることを指す。
【0029】
本発明において、肥満の予防とは、日本肥満学会が肥満・肥満症の指導マニュアル第2版(2001年7月発行)にて、肥満又は肥満症であると定義している状態になるのを防ぐ又は遅らせることを指す。また、肥満の改善とは、上記学会が肥満症又は肥満であると定義している状態から、上記学会が正常域と定義している状態に近づけることを指す。
【0030】
本発明でいうβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物とは、β3アドレナリン受容体に結合する能力、即ちβ3アドレナリン受容体アゴニスト活性を有している化合物を含む物質である。本発明のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を含有することを特徴とするメタボリックシンドローム、肥満、肥満症、糖尿病、高脂血症、高血圧症、痛風などの生活習慣病の予防または処置用組成物(以下、本発明予防処置用組成物と称する)は、飲食用及び医薬用として利用することができ、その形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品、機能性食品などの飲食品、あるいはOTCなどの容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品などとして利用できる。
【0031】
β3アドレナリン受容体アゴニスト活性は、例えば、ヒトβ3アドレナリン受容体を発現している細胞を用いることにより評価できる。すなわちin vitro実験系にて、CHO(チャイニーズ・ハムスター卵巣由来の培養細胞)などの動物細胞にヒトβ3アドレナリン受容体を安定的に発現させ、その細胞に当該抽出物を添加し、細胞内サイクリックAMP濃度の上昇を測定することにより評価できる(A. A. Konkar, et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 291, 875〜883, 1999;T. Kiso, et al., Biol. Pharm. Bull., 22, 1073〜1078, 1999)。また、上記ヒトβ3アドレナリン受容体を安定的に発現している細胞に、CRE−LUCレポーター遺伝子をトランスフェクションした後、当該抽出物を添加し、ルシフェラーゼ活性を測定することにより評価できる(W. Zheng, et al., J. Med. Chem., 42, 2287〜2994, 1999;S. S. Vansal & D. R. Feller, Biochem. Phaemacol., 58, 807〜810, 1999)。なお、CRE−LUCはサイクリックAMPレスポンス・エレメント(CRE)にルシフェラーゼ(LUC)遺伝子を結合したレポーター遺伝子であり、細胞内サイクリックAMP濃度の上昇によりルシフェラーゼが発現する。
【0032】
動物モデルを使った評価系としては、げっ歯類、例えばC57/BLマウスなど、に高脂肪食を与え、同時にサンプルを混餌摂取させて内臓脂肪量などのマーカー測定により抗肥満効果を評価する方法や、げっ歯類にサンプルを摂取させた後の呼吸商を系時的に測定することでエネルギー消費を見る抗肥満評価法などがある。
【0033】
飲食品として用いる場合は、そのまま直接摂取することができ、また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用し易い形態に製剤化して摂取することができる。これらの製剤における本発明のヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物の含有量は特に限定されないが、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは2〜95重量%、さらに好ましくは10〜90重量%である。さらに、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、半片などの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。飲食用として本発明予防処置用組成物を摂取する場合、その摂取量は当該抽出物として成人一人一日あたり、好ましくは0.01〜1000mg/kg重量、より好ましくは0.1〜100mg/kg重量である。
【0034】
医薬品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、坐剤、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。結合剤の好適な例としてはデンプン、トレハロース、デキストリン、アラビアゴム末などが挙げられる。滑沢剤の好適な例としてはステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。崩壊剤の好適な例としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチなどが挙げられる。安定剤の好適な例としては油脂、プロピレングリコールなどが挙げられる。乳化剤の好適な例としては、アニオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。緩衝剤の好適な例としてはリン酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液が挙げられる。
これら製剤の投与量としては、当該抽出物換算で成人一人一日あたり、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.1〜100mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【0035】
医薬部外品として用いる場合は、必要に応じて他の添加剤などを添加して、例えば、軟膏、リニメント剤、エアゾール剤、クリーム、石鹸、洗顔料、全身洗浄料、化粧水、ローション、入浴剤などに使用することができ、局所的に用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)コンニャク抽出物の調製
微細粉末のコンニャク飛粉((株)オオカワ)10gを、100mlの70容量%エタノール水溶液にて抽出(室温(23〜24℃)、暗所、3日間放置)し、濾過、濃縮乾固、凍結乾燥を行い、抽出物約710mgを得た。
【0038】
(実施例2) ヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト活性
CHO−K1細胞(チャイニーズ・ハムスター卵巣由来の培養細胞)に、ヒトβ3アドレナリン受容体遺伝子の発現用プラスミドを遺伝子導入用試薬であるリポフェクトアミンTM2000(Invitrogen社)を用いてトランスフェクションし、ヒトβ3アドレナリン受容体を発現している細胞(以下、β3/CHO細胞と称す)を取得した。
【0039】
実験1日目: β3/CHO細胞を96穴培養プレートに3×104cells/wellとなるように植え込み、37℃、5%CO2条件下で約24時間培養した。培地には、5%FBS(ウシ胎児血清)を含むHD培地を用いた。なお、HD培地は、Ham F−12(SIGMA社)5.35g/L、DMEM(GIBCO社)4.75g/L、L−グルタミン(和光純薬工業)0.59g/L、CaCl2・2H2O(和光純薬工業)0.044g/L、重炭酸ナトリウム(GIBCO社)1.27g/Lの組成で調製した。
【0040】
実験2日目: 細胞にpCRE−luc(STRATAGENE社)をリポフェクトアミンTM2000(Invitrogen社)を用いてトランスフェクションした。その6時間後、新たな培地に交換し、一晩培養した。なお、pCRE−lucはサイクリックAMPレスポンス・エレメント(CRE)にルシフェラーゼ遺伝子を結合したレポータープラスミドである。
【0041】
実験3日目: サンプルを含む培地に交換し、6時間培養した。サンプルはジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したものを、培地に1/1000容量添加し、表3記載の濃度とした。無処置対照にはDMSOを、陽性対照には選択的β3アドレナリン受容体アゴニストであるBRL37344(TOCRIS社)を用いた。細胞をCa,Mg含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS+)で洗浄した後、ルシフェラーゼによる発光測定試薬であるルックライトTM(Perkin Elmer社)を添加し、トップカウントTMマイクロシンチレーション/ルミネッセンスカウンター(Perkin Elmer社)にてルシフェラーゼの発光強度を測定した。無処置対照のルシフェラーゼ発光強度に対する比をとり、サンプルのβ3アドレナリン受容体アゴニスト活性とした。
【0042】
【表1】

実施例1のコンニャク抽出物にヒトβ3アドレナリン受容体アゴニスト活性が認められた。
【0043】
(実施例3) ヒトβ1、β2、β3アドレナリン受容体への結合活性
ヒトβ1、β2,β3アドレナリン受容体それぞれに対する結合活性は、RI標識リガンド(β1とβ3アドレナリン受容体はシアノピンドロール、β3アドレナリン受容体はCGP-12177)に対する結合阻害実験により評価した。各受容体結合に対する結合阻害率(%)をアドレナリン受容体結合活性とした。
【0044】
【表2】

実施例1のコンニャク抽出物は、ヒトβ1及びβ2アドレナリン受容体よりもヒトβ3アドレナリン受容体に対して濃度依存的な結合阻害が認められた。このことから、実施例1のコンニャク抽出物は、ヒトβ3アドレナリン受容体に対する特異的結合活性を持つことが示された。
【0045】
(実施例4)コンニャク抽出物含有錠剤の製造
コンニャク抽出物(実施例1) 45重量部
乳糖 35重量部
結晶セルロース 15重量部
ショ糖脂肪酸エステル 5重量部
上記組成で混合、打錠して、コンニャク抽出物を含有する飲食用錠剤を製造した。
【0046】
(実施例5)コンニャク抽出物含有ソフトカプセルの製造
コンニャク抽出物(実施例1) 40重量部
オリーブ油 55重量部
グリセリン脂肪酸エステル 5重量部
上記組成で混合、粉砕し、ゼラチン製カプセルに充填して、コンニャク抽出物を含有する飲食用カプセル剤を製造した。
【0047】
(実施例6)コンニャク抽出物含有清涼飲料水の製造
コンニャク抽出物(実施例1) 0.5重量部
液糖 30重量部
クエン酸 0.1重量部
香料 0.5重量部
水 150重量部
上記組成で混合して、コンニャク抽出物を含有する清涼飲料水を製造した。
【0048】
(実施例7)コンニャク抽出物含有クラッカーの調製
コンニャク抽出物(実施例1) 1重量部
薄力粉 120重量部
食塩 1重量部
ベーキングパウダー 2重量部
バター 30重量部
水 40重量部
上記組成で常法によりコンニャク抽出物含有クラッカーを調製した。
【0049】
(実施例8)コンニャク抽出物含有スコーン
コンニャク抽出物(実施例1)10重量部
薄力粉 100重量部
ベーキングパウダー 5重量部
塩 0.5重量部
砂糖 15重量部
バター 40重量部
溶き卵 5重量部
サワークリーム 10重量部
牛乳 10容量部
上記組成で混合し、コンニャク抽出物を含有するスコーンを調製した。
【0050】
(実施例9)コンニャク抽出物含有ドレッシングの調製
コンニャク抽出物(実施例1) 10重量部
オリーブ油 80重量部
食酢 60重量部
食塩 3重量部
コショウ 1重量部
レモン水 5重量部
上記組成で常法によりコンニャク抽出物含有ドレッシングを調製した。
【0051】
(実施例10)コンニャク抽出物含有チューインガムの調製
コンニャク抽出物(実施例1) 0.5重量部
ガムベース 20重量部
砂糖 70重量部
香料 0.5重量部
水 適量
上記組成で常法によりコンニャク抽出物含有チューインガムを調製した。
【0052】
(実施例11)コンニャク抽出物含有茶の調製
コンニャク抽出物(実施例1)0.1重量部をお茶に懸濁した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンニャク属植物(Amorphophallus )材料を有効成分とするβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物。
【請求項2】
コンニャク属植物(Amorphophallus )材料の有機溶媒抽出物を有効成分とする請求項1記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物。
【請求項3】
コンニャク属植物(Amorphophallus )材料の有機溶媒抽出物が、10容量%以上の濃度のエタノールで抽出された抽出物である請求項1または2記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物。
【請求項4】
コンニャク属植物(Amorphophallus )がコンニャク(Amorphophallus konjac K. Koch)である請求項1〜3のいずれか1項記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物。
【請求項5】
コンニャク属植物(Amorphophallus )材料がコンニャク飛粉またはコンニャク加工物のいずれかである請求項1〜4のいずれか1項記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物。
【請求項6】
β3アドレナリン受容体がヒトβ3アドレナリン受容体である請求項1〜5のいずれか1項記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を含有するインスリン抵抗性の予防又は処置用組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を含有する生活習慣病予防または処置用組成物。
【請求項9】
生活習慣病がメタボリックシンドロームである請求項8記載の生活習慣病予防または処置用組成物。
【請求項10】
生活習慣病が肥満である請求項8記載の生活習慣病予防または処置用組成物。
【請求項11】
生活習慣病が糖尿病、高脂血症、高血圧症、および痛風からなる群より選ばれる少なくとも1つの疾患である、請求項8記載の生活習慣病予防または処置用組成物。
【請求項12】
請求項1〜6いずれか1項に記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を配合することを特徴とする飲食品。
【請求項13】
請求項1〜6いずれか1項に記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を配合することを特徴とする化粧品。
【請求項14】
請求項1〜6いずれか1項に記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を配合することを特徴とする医薬品。
【請求項15】
請求項1〜6いずれか1項に記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物を用いたインスリン抵抗性あるいは生活習慣病の予防または治療法。
【請求項16】
コンニャク属植物(Amorphophallus )材料を有機溶媒を用いて抽出することを特徴とするβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物の製造方法。
【請求項17】
有機溶媒が、10容量%以上の濃度のエタノールである請求項16記載のβ3アドレナリン受容体アゴニスト組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−335742(P2006−335742A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165289(P2005−165289)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】