説明

アラミドドープの製造方法及びそれに用いるアラミドスラリー

【課題】アラミド繊維を製造・加工する工程において発生する延伸されたアラミド繊維屑から、自動車用のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に使用される摩擦材として使用可能なアラミドフィブリッドを製造する方法を提供する。
【解決手段】アラミド繊維を製造する工程において発生するアラミド繊維屑を、該アラミド繊維屑に対し30〜150重量%の無機塩を含有するアミド系溶媒と接触させ、該アラミド繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合せしめることによりアラミドスラリーを形成させ、次いで、該スラリー中のアラミド繊維屑が溶解する温度に加熱することによりアラミドドープを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維、アラミドフィルム、アラミドパルプ等、産業上有用なアラミド素材を製造するのに利用できるアラミドドープを、アラミド繊維の製造工程で発生するアラミド繊維屑を用いて製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなるアラミド繊維(全芳香族ポリアミド繊維)は、その高強度、高弾性率、耐薬品性等の特性を生かして産業資材用途や機能性衣料用途等に広く利用されている。
ところで、アラミド繊維の製造現場では、紡出される繊維を乾燥し、延伸あるいは熱処理後、紙管に巻いて出荷されるのが通常である。しかし、紙管への巻き始め時、紙管交換時、品種変更時、トラブル発生時等には、繊維屑が発生する。
【0003】
アラミド繊維は高価な素材であるため、工程にて発生する繊維屑(屑糸)を資源として再利用することは重要であり、加えて、近年地球環境に対する配慮から、産業廃棄物を減らすと同時に、廃棄物を焼却せずに処理することが社会的要請になっている。
かかる観点で、アラミド繊維屑を再利用する方法がいくつか提案されている(例えば、下記特許文献1〜4参照)。しかしながら、繊維屑をドープにする方法は未だ知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開2002−127139号公報
【特許文献2】特開2003−334814号公報
【特許文献3】特開2004−190193号公報
【特許文献4】特開2006−37240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる背景になされたもので、一つの目的はアラミド繊維屑を有効に再利用してアラミドドープを製造する方法を提供することにあり、他の目的はアラミド繊維屑から安価にアラミドドープを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、上記課題を達成する手段として、以下の方法が提供される。
(1)アラミド繊維を製造する工程において発生するアラミド繊維屑を、該アラミド繊維屑に対し30〜150重量%の無機塩を含有するアミド系溶媒と接触させ、該アラミド繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合せしめることによりアラミドスラリーを形成させ、次いで、該スラリー中のアラミド繊維屑が溶解する温度に加熱することを特徴とするアラミドドープの製造方法。
(2)スラリー形成時の混合をせん断応力下にて実施することを特徴とする上記(1)記載のアラミドドープの製造方法。
(3)アラミド繊維が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミドであることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のアラミドドープの製造方法。
(4)アラミド繊維屑が未延伸のアラミド繊維屑であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のアラミドドープの製造方法。
【0007】
また、本発明によれば上記のアラミドドープ製造用のアラミドスラリーとして、
(5)アラミド繊維を製造する工程において発生する未延伸のアラミド繊維屑を、該アラミド繊維屑に対し30〜150重量%の無機塩を含有するアミド系溶媒と接触させ、該アラミド繊維屑が溶解しない温度で上記アミド系溶媒中に微細な繊維として混合・分散していることを特徴とする請求項1記載のアラミドドープ製造用のアラミドスラリーが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アラミド繊維の製造工程又は加工工程で発生する繊維屑を有効に再利用することができる。特に、本発明によれば一たんスラリーの状態にしてから、該スラリーを混練溶解することによって短時間で良好な透明ドープを得ることができる。そして、本発明により得られるアラミドドープは、良好な成形性を有し、これを用いてアラミド繊維、アラミドフィルム、アラミドパルプ(フィブリッド)等の製造に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明でいうアラミドとは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されている芳香族ポリアミドであって、該芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄又はアルキレン基で結合されたものであってもよい。また、これらの2価の芳香族基の水素が、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、ハロゲン等で置換されていてもよい。さらには、これらアミド結合の形態は限定されず、パラ型、メタ型のどちらでもよい。
【0010】
かかるアラミドの具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、コポリパラフェニレン等が挙げられるが、本発明においては、実質的に、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドが好ましく使用される。
【0011】
本発明で対象とするアラミド繊維は、公知の製造方法により製糸されたものでよい。例えば、紡糸用のアラミドドープを半乾半湿式紡糸法により凝固液中に押し出し、凝固液から凝固糸として引き取り、水洗工程にて溶媒を十分に除去し、乾燥工程にて水分を乾燥したのち熱処理あるいは熱延伸を行なうことにより製造される。
【0012】
本発明の方法で原料となるアラミド繊維屑は、上記の如きアラミド繊維の製造現場で発生する繊維屑であり、例えば、巻き始め時、紙管交換時、品種変更時、トラブル発生時に発生するものである。
【0013】
本発明で用いられるアラミド繊維屑としては、アラミド繊維を製造する工程で発生する繊維屑のうち、特に未延伸繊維屑が好適に使用される。未延伸繊維屑とは、熱延伸又は熱処理を行なう工程より前に発生する繊維屑のことであり、この繊維屑は後述のスラリーを形成しやすいため有利に使用される。
【0014】
また、本発明で用いられるアミド系溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン等を例示することができるが、取り扱い性や安定性及び溶媒の毒性等の点から、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0015】
本発明では、まず、アラミド繊維屑をスラリー状態にするが、後述するドープ調製段階で上記アラミド繊維屑のスラリーを混練・溶解させるに当り、溶解性を向上せしめるために、アミド系溶媒中に無機塩を添加することが必要である。かかる無機塩としては塩化カルシウム、塩化リチウム、炭酸リチウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。該無機塩の量は、アラミド繊維屑に対して30〜150重量%の範囲、なかでも40〜120重量%の範囲、であることが好ましい。該無機塩の量が30重量%未満の場合には、アラミド繊維屑のアミド溶媒に対する溶解性が不十分となるため好ましくない。一方、150重量%を越える場合には、該無機塩をアミド溶媒中に完全に溶解することが困難となるため好ましくない。
【0016】
本発明において、アラミド繊維屑の無機塩を含むアミド系溶媒に対する濃度は、生産性の観点からはできるだけ高い方が好ましいが、ドープの粘性の観点から20%重量以下、特に、3重量%以上10重量%以下が好ましい。ポリマー濃度が20重量%を超えるとドープの粘性が著しく高くなり、取り扱いが困難になるため好ましくない。
【0017】
本発明においては、まず、第1の工程で、上記混合物をアラミド繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合せしめることにより、アラミド繊維屑をスラリー状態にすることが必要である。本発明におけるスラリー状態とは、数ミクロン〜数千ミクロンの微細なアラミド繊維屑がアミド溶媒中に分散した状態のことである。
【0018】
ここで繊維屑が実質的に溶解しない温度は、アミド系溶媒の種類、無機塩の種類、量によって相違し、またアラミド繊維屑の繊度によっても相違するが、本発明における「実質的に融解しない温度」とは、アミド系溶剤中に繊維屑を1時間浸漬して、重量減少率が0.1%以下になるときの温度をもって実質的に溶解しない温度と定義する。本発明においては、該温度は、15〜40℃の範囲が好ましい。このときの温度が40℃を越えると、アラミド繊維屑の溶解が進行するため、アラミド繊維屑の凝集物が発生してしまい、その後、該凝集物を溶解するのに時間を要するとともに、該凝集物が未溶解物として残留しやすくなる。したがって、スラリー化の温度は、15〜40℃の範囲が好ましい。該温度が15℃未満の場合には、スラリー化するまでに長時間を要するため、工業的に好ましくない。
【0019】
一般的に、繊維屑等を溶解させる際には、溶媒への溶解効果を高める目的で、あらかじめシュレッダー等により微細に粉砕しておくことが行なわれるが、本発明においては、アラミド繊維屑のスラリー化によって、微細なアラミド繊維屑がアミド溶媒中に分散した状態が得られるため、あらかじめシュレッダー等により微細に粉砕しておくことは不要であり、かつ、ドープ調製に要する期間が大幅に短縮できるので、工業的に好ましい。このスラリーは上記の温度範囲で安定であり、この温度範囲ではスラリーのままで保存したり、輸送したりすることができる。
【0020】
本発明の方法によれば、その後、上記のアラミドスラリーをアラミド繊維屑が溶解する温度範囲に加熱し、せん断応力下に混練することによりアラミドドープが得られる。該温度は、アラミド繊維屑の溶解性を高める観点からは高い方がよいが、アミド溶媒の熱劣化・分解を避けるという点で、130℃以下、特に50℃以上120℃以下の温度が好ましい。
【0021】
本発明では、ドープ調製に際して、スラリーを混練装置に供給して、加熱下に攪拌・混練するのが好ましい。かかる混練に用いられる混練装置としては、せん断混練りのできるものであれば特に制限はなく、一軸押出機、二軸押出機等のスクリュー式押出機、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー、ローラー、ニーダー等を挙げることができる。
このようにして得られたアラミドドープは、不溶分の濾別、脱色等の処理を施して精製することができる。
【0022】
本発明によって得られるアラミドドープはそのままで、又はこれに同質のアラミドポリマーを加えるかあるいは同じアミド系溶媒を加えて希釈する等の方法によって適当な濃度に調節され、再利用することができる。
【0023】
本発明により得られるアラミドドープの固有粘度(IV)は2.0〜4.0である。ここで、固有粘度(IV)は98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した値をいう。
【0024】
本発明のアラミドドープは、必要に応じて、例えば、安定剤、難燃剤、離型剤、着色剤、艶消し剤、帯電紡糸剤、接着性向上樹脂、フィラー等の添加剤を含むことができる。
本発明によるアラミドドープは、良好な成形性を有し、アラミド繊維、アラミドフィルム、アラミドパルプ等の製造に有効に使用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で使用したアラミド繊維屑の製造方法は次のとおりである。
【0026】
[参考例]
(アラミド繊維の製造)
窒素を内部にフローしている攪拌槽に、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記する)中に、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルが当モルとなるように秤量して投入し溶解させた。このジアミン溶液に、テレフタル酸ジクロライドを、ジアミン総モル量と略当モル、秤量し投入した。反応終了後、水酸化カルシウムで中和し、アラミド(コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド)ドープを得た。該ドープは孔径0.3mm、孔数100ホールの紡糸口金から吐出し、半乾半湿式紡糸法により、エアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し繊維状に凝固させた後、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で10倍に延伸した後、巻き取ることにより、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドからなるアラミド繊維を得た。
【0027】
(アラミド繊維屑)
アラミド繊維屑としては、上記延伸工程における糸切れによって発生した、固有粘度(IV)が3.5の未延伸繊維屑を使用した。
【0028】
[実施例1]
上記のアラミド繊維屑に対して、NMP/塩化カルシウム=95/5(重量比)の溶液を重量比で繊維屑の20倍量加え(したがって、アラミド繊維屑に対する塩化カルシウムの割合は100重量%となる)、25℃にて30分間撹拌して、アラミド繊維屑のアミド溶媒スラリーを得た。該スラリーを浅田鉄工株式会社製プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を用いて、60℃に加熱し混練した。60分後に内容物の確認を行ったところ、溶解は完了していた。得られたアラミドドープは未溶解成分がなく、透明なドープであった。その結果を表1に示す。
【0029】
このドープと参考例1のアラミドドープとを重量にて1:1に混合して紡糸用ドープを調製し、これを参考例と同様に、孔径0.3mm、孔数100ホールの紡糸口金から吐出し、半乾半湿式紡糸法にてエアーギャップ約10mmを介してNMP濃度30重量%の水溶液中に紡出し凝固させた後、水洗、乾燥し、次いで、温度500℃下で10倍に延伸した後、巻き取った。この製糸工程では特段のトラブルはなく、円滑な繊維製造が可能であった。
【0030】
[比較例1]
上記のアラミド繊維屑に対して、NMP/塩化カルシウム=95/5(重量比)の溶液を重量比で20倍量加えた。該混合物を浅田鉄工株式会社製プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を用いて、100℃に加熱・混練してアラミドドープを得た。溶解には360分を要した。該アラミドドープは未溶解成分がなく、透明なドープであった。その結果を表1に示す。
【0031】
[比較例2]
あらかじめアラミド繊維屑をシュレッダーにて裁断した以外は比較例1と同様の条件にて、アラミド繊維屑を溶解したところ、溶解には240分を要した。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維を製造する工程において発生するアラミド繊維屑を、該アラミド繊維屑に対し30〜150重量%の無機塩を含有するアミド系溶媒と接触させ、該アラミド繊維屑が実質的に溶解しない温度において混合せしめることによりアラミドスラリーを形成させ、次いで、該スラリー中のアラミド繊維屑が溶解する温度に加熱することを特徴とするアラミドドープの製造方法。
【請求項2】
スラリー形成時の混合をせん断応力下にて実施することを特徴とする請求項1記載のアラミドドープの製造方法。
【請求項3】
アラミド繊維が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミドであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のアラミドドープの製造方法。
【請求項4】
アラミド繊維屑が未延伸のアラミド繊維屑であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアラミドドープの製造方法。
【請求項5】
アラミド繊維を製造する工程において発生する未延伸のアラミド繊維屑を、該アラミド繊維屑に対し30〜150重量%の無機塩を含有するアミド系溶媒と接触させ、該アラミド繊維屑が溶解しない温度で上記アミド系溶媒中に微細な繊維として混合・分散していることを特徴とする請求項1記載のアラミドドープ製造用のアラミドスラリー。

【公開番号】特開2007−321069(P2007−321069A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−153481(P2006−153481)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】