説明

アリール置換ピリジンの水素化によるアリール置換ピペリジンの合成

本発明は、2−フェニル−3−アミノピリジンのようなアリール置換ピリジンを、そのアリール環を過剰還元することなく、特定のPt/C触媒を用いて水素化する方法である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明はピペリジン誘導体を製造するための水素化方法に関し、この方法は、望ましくない副生成物を可及的に少なくし、収率を向上させ、そして他の方法で必要とされる一定の精製を排除して製造を簡素化する。好ましい実施においては、特定の不均一系触媒を用いて2−フェニル−3−アミノピリジンのようなアリール置換ピリジンを水素化し、これにより、そのピリジンがそのフェニルからシクロへキシルへの過剰還元を伴うことなくピペリジンに還元される。
【0002】
先行技術の説明
ピペリジン誘導体は、医薬を包含する種々の化合物の合成において用いられる。例えば、2−フェニル−3−アミノピリジンは、過剰のサブスタンスPにより媒介される疾患の治療において有用性を有するアンタゴニストの製造における反応体として用いられる。サブスタンスPは、タキキニンファミリーのペプチドに属する天然に存在するウンデカペプチドであり、そのメンバーは平滑筋組織上で迅速な刺激作用を発揮する。それは、例えばUS4680283中に記載されているような特徴的なアミノ酸配列を有する。多くの疾患の病理生理学におけるサブスタンスP及び他のタキキニン類の関与は、当該技術分野において知られている。例えば、サブスタンスPは、偏頭痛の移行(transition)に、並びに、不安症及び精神分裂症を包含する中枢神経系(CNS)障害;喘息及びリウマチ様関節炎のような呼吸器および炎症性疾患;潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群及びクローン病のような胃腸障害に関与することが示されている。サブスタンスP及び他のタキキニンアンタゴニストは、心血管疾患、アレルギー状態、免疫調節、血管拡張(vascodilation)、気管支痙攣、内臓反射または内臓の神経制御、アルツハイマータイプの老人性痴呆症、嘔吐、日焼け、及びヘリコバクターピロリ感染症の治療に有用であることも報告されている。
【0003】
サブスタンスPアンタゴニストの製造において通常用いられる一つの特定のアリール置換ピリジンは、2−フェニル−3−アミノピリジンである。これに関する製造には、典型的には、この化合物を水素化して2−フェニル−3−アミノピペリジンを形成することが必要である。具体的には、そのフェニル環の水素化よりも、ピリジン環からピペリジンへの水素化(または還元)が選択的に望まれる。産業上、この目的のためには不均一系触媒が好ましく、白金担持炭素(Pt/C)触媒が好ましい。商業的には用いることができるが、それでもこれまでにこの状況に用いられたPt/C触媒には、重大なことに、不所望の副生成物の生成を包含する一定の欠点が現れる。例えば、これらの先行の触媒は、2−フェニル−3−アミノピリジン出発物質の過剰還元を許容できないレベルまで生じ得うる。この使用における過剰還元は、フェニルからシクロヘキシルへの水素化により生じる2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジンをもたらす。この副生成物が大規模生成設備においてこれまでに知られているレベルで生成すると、製品規格を満たすために再結晶のような追加の精製工程が必要となる。例えば、先行技術プラクティスにおいては、およそ12%〜15%の2−フェニル−3−アミノピリジン出発物質が2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジンへ過剰還元される。
【0004】
このような副生成物の生成は、出発物質の非効率的な利用、製品収率の低下を引き起こし、そして精製を複雑化し、これら素材を除去するための追加の工程を必要とする。したがって、過剰還元をあまり示さず、他の方法に随伴する不都合な結果を改善する水素化方法を開発する継続的な必要性がある。
【0005】
発明の要旨
本発明は、上述した必要性を取り扱う。一つのプラクティスにおいては、本発明は、水素と2−フェニル−3−アミノピリジンのようなアリール置換ピリジンとを、Pt/Cタイプ18MA触媒、好ましくは5%Pt/Cタイプ18MA触媒の存在下で、そのピリジンを選択的に水素化するのに有効な条件下で接触させることを含む水素化方法に向けられる。好ましい態様においては、約6%以下の出発物質、例えば、2−フェニル−3−アミノピリジンが、不所望の副生成物、例えば、2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジンへ過剰還元されるに過ぎない。
【0006】
発明の詳しい説明
アリール置換ピリジン:
本発明の方法に付すアリール置換ピリジンには、当該技術分野で知られているものが含まれる。好ましいピリジン類には、サブスタンスPアンタゴニストのような医薬化合物の製造に有用なものが含まれ、限定されることなくそれには、式:
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R及びRは、各々独立して水素又はC1−6アルキルであり、それらの各々は独立して分岐鎖又は直鎖であってよく;そして、Arは、フェニル、ナフチル、ビフェニルのようなC5−10アリールであり、これらのいずれもが場合により1以上のC1−4アルキル基で置換されていてよい。)を有するもののようなアリール置換アミノピリジンが含まれる。
【0009】
最も好ましくは、R及びRは各々水素であり、そして、Arはフェニルであり、当該ピリジンは、式:
【0010】
【化2】

【0011】
を有する2−フェニル−3−アミノピリジンである。
触媒:
本発明の方法において用いられる触媒は、Johnson−Matthey plc(ロンドン、イギリス)から商業的に入手可能であるPt/Cタイプ18MA触媒である。好ましくは、炭素支持体上のPt充填量は、上述のJohnson−Mattheyから得ることができる5%Pt/Cタイプ18MAのように約5%である。触媒は、乾燥粉末のような、又は好ましくは、例えば約40%〜約50%(w/w)水湿潤ペーストのような、当該技術分野で知られている物理学的状態で用いることができる。反応装置内への触媒の送り込みは、当該技術分野で知られている注射及び計量デバイスのような慣用的な手段で行えばよい。
【0012】
アリール置換ピリジン基質の水素化は、同基質と水素又はその目的に適する他の同様の(1以上の)還元剤とを、タイプ18MA触媒の存在下で、そのピリジン環を選択的に水素化するのに有効な条件下で接触させることにより起きる。その方法におけるPt/Cタイプ18MA触媒の本発明の使用に加えて、これに関して有効な条件には、そのアリール置換基の還元ではなくピリジン環の還元に有利に働くプロセスパラメーターが含まれることが、当業者によりさらに理解される。また、当業者により理解されるように、その用語には、選択的水素化反応のための終点が含まれる。即ち、一旦所望量又は最終量の2−フェニル−3−アミノピリジンが選択的に取得されたら、その反応は、更なる還元(ここではフェニル環の)が生じることにより不所望の2−フェニル−3−アミノピペリジン副生成物が生成しないように、適時に終結されなければならない。時間、温度、圧力、反応物、反応容器及び触媒量、並びにこれまでに知られている選択的水素化を包含する水素化が現れる他のプロセスパラメーターといった条件は、慣用的なプラクティスに一致する。
【0013】
例示としてだけ示すが、そのようなパラメーターには、典型的には、反応装置系、例えば連続反応装置、又は好ましくは適する構成素材の攪拌オートクレーブ反応装置のようなバッチ反応装置、例えば、Hastelloy等;100psig(約689,475Pa)まで、好ましくは約40〜100psig(約275,790〜約689,475Pa)、より好ましくは約50〜約90psig(約344,737〜約620,528Pa)の還元性雰囲気(例えばH);約10℃〜約25℃、好ましくは、約18℃〜約25℃の温度が含まれる。当業者に理解されるように反応時間は変動し得、それは本明細書において描写される。バッチ反応については、最も好ましい態様においては、約0.5〜約2時間が典型的であり、バッチモードは比較的低い温度(例えば、18℃〜約22℃)及び比較的高い圧力(例えば、約80〜約90psig(約551,580〜約620,528Pa))の条件下で用いられる。本発明の好ましいプラクティスにおいては、約6%以下のアリール置換ピリジン出発物質、例えば、2−フェニルー3−アミノピリジンが、過剰還元された2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジンへ変換されるに過ぎず;より好ましくは、前記変換は約5%以下、例えば約3%〜5%しか生じない。
【0014】
本発明の方法は、好ましくは、一般に水素化について知られているものを包含する1種類以上の溶媒の存在下で起きる。溶媒は、好ましくは極性であり、より好ましくは1以上のヒドロキシル基を有し、それは、例えば、水、及びメタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)等のアルコールである。さらに、溶媒が酸性であるか又は酸性にされると好ましい。実用的な溶媒の例には、10%HCl/水(最も好ましい:水+10%v/v濃HCl)及び10%HCl/IPAのような水性酸性溶媒が含まれる。
【0015】
便宜のため、2−フェニル−3−アミノピリジンを選択的に水素化して2−フェニル−3−アミノピペリジンを形成するという状況で、本発明を説明する。次の説明を、本発明の範囲内に含まれる他のアリール置換ピリジンに適合させることは、当業者の容易な理解の範囲内である。
【0016】
次の実施例は、本発明の方法を例証するものであり、本発明の範囲又はプラクティスを限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0017】
実施例1
実施例1は、パイロットプラントにおける本発明の態様を示す。その態様においては、2−フェニル−3−アミノピリジンが、5%Pt/Cタイプ18MA触媒の存在下で水素と接触させることにより水素化された。一連の実施において、およそ8kgの5%Pt/Cタイプ18MA触媒の形態の50%水湿潤触媒ペーストを、撹拌オートクレーブ反応装置(Hastelloy C)へ送り込んだ。そのペーストは、約4kgの乾燥触媒と50%水湿潤ペーストを生成させるのに釣り合った量の水とを混合することにより形成された。その後に、10%HCl/水の溶液中のおよそ9kgの2−フェニル−3−アミノピリジンが反応装置内へ送り込まれ、約80〜約90psig(約551,580〜約620,528Pa)の圧力でHで充填した。反応温度はおよそ18℃〜約22℃であった。反応は約0.5〜約7.0時間続き、その後に反応装置からの流出液を採取してHP−5ガスクロマトグラフ(GC)中で分析した。生成物量を示す面積百分率報告が生成された。当業者により理解されるように、GC面積百分率は、内在する生成物の量と直接相関する。
【0018】
最初の実施においては、所望の生成物2−フェニル−3−アミノピペリジンについての面積%が約87.9%であったのに対して、過剰還元による不所望の副生成物である2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジンについての面積%は約3.5%であった。
【0019】
2回目の実施においては、所望の生成物2−フェニル−3−アミノピペリジンについての面積%が約89.2%であったのに対して、過剰還元による不所望の副生成物である2−シクロへキシル−3−アミノピペリジンについての面積%は約5.1%であった。
【0020】
比較例1
比較例1は先行技術を示す。先行技術において以前用いられて2−フェニル−3−アミノピリジンを還元して2−フェニル−3−アミノピペリジンを形成した5%Pt/C触媒(タイプ18MAでない)である触媒Aを使用したことを除いて、実施例1におけるものと同じ条件が用いられた。GC値及び面積百分率は、実施例1における通りに評価された。
【0021】
最初の比較実施においては、所望の生成物2−フェニル−3−アミノピペリジンについての面積%が約83.2%であったのに対して、過剰還元による不所望の副生成物である2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジンについての面積%は約10.2%であった。
【0022】
2回目の比較実施においては、所望の生成物2−フェニル−3−アミノピペリジンについての面積%が約84.5%であったのに対し、過剰還元による不所望の副生成物である2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジンについての面積%は約9.1%であった。
【0023】
上記結果は、本発明方法を介した不所望の副生成物の劇的な減少を、並びに同時に起きる生成物収率の上昇を示している。即ち、例示された本発明の態様においては、不所望の生成物である2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジン不純物が平均して50%を超えて減少したのに対して、同時に、求められている生成物である2−フェニル−3−アミノピペリジンが、通し収率の上昇を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素とアリール置換ピリジンとを、Pt/Cタイプ18MA触媒の存在下で、そのピリジンを選択的に水素化するのに有効な条件下で接触させることを含む水素化方法。
【請求項2】
前記触媒が約5%のPt充填量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アリール置換ピリジンがアリール置換アミノピリジンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アリール置換アミノピリジンが、式:
【化1】

(式中、R及びRは各々独立に、水素またはC1−6アルキルであり;Arは、1以上のC1−4アルキル基で場合によって置換されていてもよいC5−10アリールである。)を有するものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アリール置換アミノピリジンが2−フェニル−3−アミノピリジンである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記接触が溶媒の存在下で起きる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶媒が水性酸性溶媒またはアルコール性酸性溶媒である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒がHCl水である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
水素と2−フェニル−3−アミノピリジンとを、5%Pt/Cタイプ18MA触媒及び10%HCl/水溶媒の存在下で、そのピリジンを選択的に水素化するのに有効な条件下で接触させて、2−フェニル−3−アミノピペリジンを生成させることを含む水素化方法。
【請求項10】
過剰還元の副生成物として生成される2−シクロヘキシル−3−アミノピペリジンが、前記水素化の終わりにおいて、前記水素化の開始時において用いられる2−フェニル−3−アミノピリジンの量の約6%以下の量で存在する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
水素化が約15℃〜約25℃の温度で起きる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
水素化が約40〜約100psigの圧力で起きる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アリール置換ピリジンの過剰還元を可及的に少なくするための方法であって、水素及びアリール置換ピリジンとPt/Cタイプ18MA触媒とを、そのピリジン環を選択的に水素化するのに有効な条件下で接触させることを含む方法。

【公表番号】特表2006−523205(P2006−523205A)
【公表日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506315(P2006−506315)
【出願日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【国際出願番号】PCT/IB2004/000667
【国際公開番号】WO2004/083181
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】