説明

アルカリ乾電池

【課題】内部抵抗が低く、成型強度が高い正極合剤を備えて、生産性に優れ、より安価なアルカリ乾電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を含んで環状に成型されてなる正極合剤3が正極集電体を兼ねる有底筒状の正極缶2内に配置されてなるアルカリ乾電池1であって、前記正極合剤には、ポリアクリル酸ナトリウムがバインダーとして添加されているとともに、当該ポリアクリル酸ナトリウムは、40wt%水酸化カリウム水溶液に3wt%混合したときの粘度が15Pa・s以下であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアルカリ乾電池に関し、とくに、アルカリ乾電池の生産性向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に本発明の対象となるアルカリ乾電池の一般的な構造を示した。当該図は、LR14型の円筒形アルカリ乾電池1であり、円筒軸10の延長方向を縦方向としたときの縦断面図である。このアルカリ乾電池1は、有底筒状の金属製電池缶(正極缶)2、環状に成型された正極合剤3、この正極合剤3の内側に配設された有底円筒状のセパレーター4、亜鉛合金を含んでセパレーター4の内側に充填される負極ゲル5、この負極ゲル5中に挿入された負極集電子6、負極端子板7、封口ガスケット8などにより構成される。この構造において、正極合剤3、セパレーター4、負極ゲル5が、電解液の存在下でアルカリ乾電池1の発電要素を形成する。
【0003】
電池ケースを兼ねる正極缶2は、底面に正極端子9を備えるともに、内面にて正極合剤3と直接接触することによって正極集電体として機能する。したがって、環状に成型された状態の正極合剤3を正極缶2に圧入するなどして、環状の正極合剤3を正極缶2の内壁に密着させた状態で配置し、正極缶2と正極合剤3との間の接触抵抗を可能な限り低減させる必要がある。また、接触抵抗を低減させるために、正極缶2の内壁には、普通、導電塗料を塗布してなる導電膜が形成されている。
【0004】
負極ゲル5中に挿入された棒状の金属製負極集電子6は、皿状の金属製負極端子板7の内面7iに溶接により立設固定されている。負極端子板7、負極集電子6および封口ガスケット8は、封口体としてあらかじめ一体に組み合わせられており、封口ガスケット8の外周部が正極缶2の開口縁部と負極端子板7の周縁部との間にかしめられるなどして挟持されて正極缶2が気密シールされる。
【0005】
ところで、正極合剤3は、二酸化マンガンなどの正極活物質、黒鉛、バインダー、電解液である水酸化カリウム水溶液を混合し、この混合体をコンパクティング、解砕、造粒等の工程によって、所定の粒度に調整された粉体状の造粒物(合剤粒)を作製するとともに、その合剤粒を金型を用いて環状の成型体にすることで得られる。そして、上述したように、環状の正極合剤3を正極缶2内に圧入し、正極缶2の内面に密着させる。あるいは、正極缶2内に粉体状の合剤粒を入れ、正極缶2を型にして圧力を掛けて環状に成型する。いずれにしても、環状の正極合剤3は、正極缶2内に密着した状態で配置される。しかし、正極合剤3の成型強度が不足していると、正極合剤3が、その圧入時や、正極缶2内に配置された後の電池組立工程などにおいて欠損することがある。そのため、十分な成型強度を確保するために、従来から、正極合剤3に含ませる黒鉛や水分の比率を高めたり、成型圧力を高めたりしていた。あるいは、以下の特許文献1に記載の技術のように、バインダーとしてポリアクリル酸などの膨潤タイプのバインダーを用いるとともに、そのバインダーの添加量を最適化していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−144304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の技術では、正極合剤の成型強度と、アルカリ乾電池の他の性能(内部抵抗、放電性能、生産性、製造コストなど)との関係が背反してしまう。例えば、黒鉛比率を高めれば、相対的に正極活物質の量が減り、電池容量が減る。とくに、正極活物質の減少は、軽負荷時の放電性能を劣化させる。
【0008】
また、正極合剤中の水分を多くする場合では、金型成型時に成型体と金型との摩擦抵抗が増加し、金型から成型体を取り出しにくくなる。そのため、正極合剤の生産性が低下する。また、摩擦抵抗が高いために、金型から成型体を取り出すときに、その成型体が破損する場合もある。さらに、摩擦抵抗が大きいと、金型の摩耗が早くなり、金型の寿命を短くする。もちろん、成型圧力を上げても同様に金型の寿命が短くなる。
【0009】
また、金型の摩耗が早いと、成型体である正極合剤の寸法精度を高めることが難しくなる。そして、その寸法は、設計値より大きくなるため、正極缶に圧入する際により大きな圧力が必要となり、たとえ成型強度が高くなっていても破損する可能性が高くなる。金型を頻繁に交換すれば、さらにアルカリ乾電池の生産性が劣化するとともに、金型に掛かる費用が製品価格に転嫁されて大きなコストアップを招く。さらに、金型が摩耗すると、金型の材質である鉄が正極合剤中に混入しやすくなる。鉄は、電解液中で活物質と反応しガスを発生させ、漏液を発生させる要因となる。
【0010】
上記特許文献1に記載のアルカリ乾電池のように、ポリアクリル酸を正極合剤のバインダーとして用いる場合では、確かに正極合剤の成型強度が向上し、金型の寿命を短くさせる可能性も少ない。しかし、ポリアクリル酸をバインダーとして用いた正極合剤を用いたアルカリ乾電池では、内部抵抗が増加する、という問題があることが本発明者らによって知見された。そして、その内部抵抗増加のメカニズムについて検討したところ、ポリアクリル酸は、電解液に分散することで造粒された合剤粒同士の結着力の起源となる粘性が発現すること。アルカリ乾電池は、合剤粒に電解液を染みこませて成型した正極合剤を正極缶内に配置した後、さらに電解液を染みこませて作製するため、合剤粒同士の間に分散されたポリアクリル酸が、正極合剤配置後の吸液に際し、さらに膨潤し、正極合剤自体が膨張すること。すなわち、成型強度が高くても、実際は、合剤粒の表面同士が密着せず、合剤粒子同士の接触抵抗が大きくなる、というメカニズムで内部抵抗が増加するのではないか、という結論に至った。
【0011】
本発明は、上述したようなアルカリ乾電池における正極合剤の成型強度に関わる問題に鑑み、また、上記知見に基づく考察に基づいて創作されたものであり、その目的は、内部抵抗が低く、成型強度が高い正極合剤を備えて、生産性に優れ、より安価なアルカリ乾電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明は、正極活物質を含んで環状に成型されてなる正極合剤が正極集電体を兼ねる有底筒状の正極缶内に配置されてなるアルカリ乾電池であって、前記正極合剤には、ポリアクリル酸ナトリウムがバインダーとして添加されているとともに、当該ポリアクリル酸ナトリウムは、40wt%水酸化カリウム水溶液に3wt%混合したときの粘度が15Pa・s以下であることを特徴としている。
【0013】
また、前記ポリアクリル酸ナトリウムは、前記正極活物質に対して0.1wt%〜3.0wt%添加されていること。さらに、前記正極缶の内面には導電膜が形成されていないことを特徴とするアルカリ乾電池とすれば、より好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアルカリ乾電池によれば、内部抵抗が低く、成型強度が高い正極合剤を備えて、電池として十分な性能を有するとともに、生産性に優れてより安価に提供することが可能となる。なお、その他の効果については,以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般的なアルカリ乾電池の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例に係るアルカリ乾電池の基本的な構造は、図1に示した一般的なアルカリ乾電池1と同様である。しかし、本実施例のアルカリ乾電池は、正極合剤3の組成が従来のものとは異なっており、バインダーとしてポリアクリル酸ナトリウム(Na−PA)が添加されており、かつ、そのバインダーの粘度や添加量が最適化されている点に特徴を有している。そして、本発明の実施例におけるアルカリ乾電池の特性を評価するために、バインダーの添加条件が異なる各種正極合剤を正極缶に組み込んだ各種アルカリ乾電池をサンプルとして作製し、それらのサンプルの特性を評価した。
【0017】
===サンプルの作成条件===
本実施例のアルカリ乾電池に対応するサンプル(以下、実施例)と、当該実施例と特性を比較するためのサンプル(以下、比較例)は、図1に示した構造のLR14形のアルカリ乾電池1であり、実施例と比較例とでは、正極合剤3に含まれるバインダーの添加条件(樹脂、粘度、添加量)が異なっている。そして、実施例のアルカリ乾電池は、正極合剤のバインダーにNa−PAを使用している。そこで、まず、バインダーを含まない正極合剤、およびNa−PA以外のバインダーを用いて成型した正極合剤を、内面に導電膜が形成されている正極缶に組み込んで従来のアルカリ乾電池(比較例1〜5)を作成し、その比較例1〜5のアルカリ乾電池に対して、Na−PAを添加した正極合剤3を用いたアルカリ乾電池の性能を評価することで、正極合剤の最適作成条件を求めた。
【0018】
なお、バインダーを添加した正極合剤については、電解二酸化マンガン(EMD)、黒鉛、および電解液(40%水酸化カリウム水溶液)を、それぞれ、89wt%、7wt%、および4wt%の重量比とし、これらの材料に、さらにバインダーをサンプルごとに条件を変えて混合し、その混合物を圧延、造粒した後、金型成型して作成した。
【0019】
また、各サンプルの正極合剤に添加した樹脂の種類や粘度が異なる各種バインダーについては、架橋剤の配合比などが異なるそれぞれの樹脂材料を入手し、実際の粘度については、各種樹脂材料を40wt%水酸化カリウム水溶液に3wt%の重量比で混合したものを粘度計(東機産業株式界社製TV−10)を用い、回転数5RPMの条件で測定した。
【0020】
また、正極合剤の成型強度については、環状(中空円筒状)の正極合剤を、その円筒軸が水平方向となるように水平試験台上に載置し、その正極合剤の上方から下方に向けて漸次高圧の圧力を加えていき、正極合剤が割れたときの圧力とした。
【0021】
===従来のアルカリ乾電池===
以下の表1に従来のアルカリ乾電池に対応する各サンプル(比較例1〜5)における正極合剤中のバインダーの添加条件と、短絡電流特性とを示した。
【表1】

【0022】
上記表1において、比較例1は、バインダーを添加しないで成型した正極合剤を内面に導電膜が形成された一般的な正極缶に組み込んだサンプルであり、この比較例1における正極合剤の成型強度や放電性能を基準値100として他のサンプルの性能を基準値に対する相対値(性能値)で評価した。また、基準値に対する合否判定としては、正極合剤の成型強度については、性能値150以上で合格とし、内部抵抗の指標となる短絡電流については性能値100以上で合格とした。
【0023】
表1より、正極合剤中にバインダーとして、ポリアクリル酸(PA)、ポリビニルアルコール(PVA)、およびポリエチレン(PE)を0.5wt%の割合で添加したサンプル(比較例2〜5)について、バインダーをPAとした比較例2、3の正極合剤では、十分な成型強度を有していることが分かった。また、正極合剤の成型強度が粘度に比例して高くなることも分かった。しかし、短絡電流についての性能が不合格となり、正極合剤にバインダーとしてPAを含むアルカリ乾電池における、内部抵抗が大きくなる、という課題を確認できた。また、PVAやPEをバインダーとした比較例4、5正極合剤では、短絡電流については基準値と同等の性能値を得たが、十分な粘度が得られず成型強度が不足して不合格となった。なお、PEの粘度は、測定限界以下であった。
【0024】
===ポリアクリル酸ナトリウムの最適粘度====
つぎに、バインダーとしてNa−PAを用いた正極合剤を、内面に導電膜が形成されている正極缶に組み込んで作成したサンプルについて特性を評価した。まず、Na−PAの粘度の最適値を求めるために、Na−PAの添加量を、表1に示した従来のアルカリ乾電池に対応する各サンプルと同じ0.5wt%とした上で、粘度が異なるNa−PAを添加した各種正極合剤を正極缶に組み込んでサンプル(実施例1〜3,比較例6,比較例7)を作成した。
【0025】
表2に、正極合剤の成型強度とアルカリ乾電池の短絡電流について、Na−PAの粘度依存性を示した。
【表2】

【0026】
表2より、成型強度と短絡電流とは、その特性がトレードオフの関係にあることが分かった。そして、Na−PAの粘度が15Pa・s以下となる実施例1〜3のサンプルでは、成型強度と短絡電流がともに合格判定となり、粘度が15Pa・sよりも大きなサンプル(比較例6、比較例7)では、大きな短絡電流が得られず不合格判定となった。
【0027】
ここで、表1における、比較例2と比較例3の特性を見ると、PAの粘度をさらに低くすれば、短絡電流についての性能も合格になると推測されるが、表2に示した結果と比較すると、添加量と成型強度が同じ場合では、PAの方が粘度が高くなることが分かる。例えば、成型強度の性能値が同じ200となった比較例2と実施例3とを比較すると、PAの粘度は、Na−PAの粘度の3割以上も大きい。そのため、PAをバインダーとした正極合剤では、その合剤の材料を混合する際に材料が均一に混ざりにくい、ということが懸念される。均一に混合するためには、混合時の攪拌時間を長くする必要があり、生産性が低下する。
【0028】
また、実施例1と、バインダーにPVAを用いた比較例4とでは、バインダーの粘度がともに測定限界に近い低い粘度(1Pa・s)であり、極めて低い。そして、比較例4では、十分な成型強度が得られなかったが、実施例1では、十分な成型強度が得られ、Na−PAをバインダーとした正極合剤では、粘度が極めて低くても十分な成型強度が得られることが確認できた。
【0029】
ここで、Na−PAが、低い粘度でも大きな成型強度が得られる、という事実について考察してみると、Na−PAにおける粘度の発現メカニズムが、PAのように電解液中に分散されることで粘度が発現するのとは異なり、Na−PAが電解液を吸収し、その分子構造内に電解液を保持することで粘度が発現し、低い粘度でも十分に結着力を発揮する、と考えることができる。また、この考察に基づけば、Na−PAは、PAのように成型強度を高めるために粘度を大きくする必要が無いため、正極合剤の膨張に伴う内部抵抗の上昇がなく、その結果、大きな短絡電流を得ることができる。という論理が成立する。
【0030】
そして、Na−PAの粘度の最適値は、40wt%水酸化カリウム水溶液に3wt%の重量比で混合したときに15Pa・s以下であり、粘度がその最適値となるNa−PAをバインダーとした正極合剤を用いた本発明の実施例に係るアルカリ乾電池では、十分な短絡電流が得られるとともに、十分な成型強度の正極合剤を用いているため、正極缶に圧入する際に破損する可能性が少なくなり、生産性が向上し、より安価に提供することが期待できる。また、バインダーの粘度が低いため、正極合剤を作成する際に合剤の材料が均一に混合され、正極合剤自体の特性が均一となる。結果的に、最終製品であるアルカリ乾電池の品質が均一となり、さらに生産性を向上させる。
【0031】
===添加量の最適化===
上述したように、Na−PAをバイダーとした正極合剤は、低い粘度でも大きな成型強度が得られるともに、短絡電流特性についても、バインダーを含まない正極合剤を用いたアルカリ乾電池(比較例1)よりも大きな電流値を得ることができ、生産性を向上させつつ、内部抵抗が低いアルカリ乾電池を達成することができた。
【0032】
つぎに、Na−PAの添加量が異なる正極合剤を、内面に導電膜が形成されている正極缶に組み込んで各種サンプル(実施例4〜6,比較例1,比較例8,比較例9:実施例5は、実施例2と同じ条件)を作成し、各サンプルについて、正極容量の指標となる放電性能を評価した。周知のごとく、正極合剤中のバインダーの添加量が増えれば正極活物質の量は相対的に少なくなり、正極容量が減少する。また、添加量を少なくすれば、正極合剤の成型強度が低下する。そこで、Na−PAをバインダーとした正極合剤を用いたアルカリ乾電池において、正極合剤の成型強度と十分な放電性能が得られる条件について検討した。
【0033】
なお、放電性能については、各サンプルについて、終止電圧を0.9Vとし、一日に4時間、10Ωの負荷で放電させ、残りの20時間を無負荷の状態で放置する、というサイクルを繰り返したときに、終止電圧に至るまでの放電時間を計測することで評価した。また、評価結果は、正極合剤にバインダーが含まれず、理論的に正極容量が最も大きくなる比較例1のサンプルの放電時間を100としたときに、性能値が95以上となったサンプルを合格とした。粘度については、比較例1と同じ5Pa・sとした。
【0034】
以下の表3にNa−PAの添加量と放電性能との関係を示した。
【表3】

【0035】
表3の結果より、Na−PAの添加量が0.1wt%以上、3%以下であれば、正極合剤の成型強度が十分に高く、十分な放電性能が得られることが分かった。
【0036】
なお、表3に示した放電性能のNa−PA添加量依存性では、粘度を5Pa・sとしているが、表2に示したように、0.5%の添加量で、少なくとも、1Pa・s〜30Pa・sまでの粘度に調整可能なことが判明しており、添加量が0.1wt%〜3wt%であれば、粘度を最適値の範囲である1Pa・s〜15Pa・sに調整することは容易である。したがって、Na−PAをバインダーとして含んだ正極合剤を用いたアルカリ乾電池では、十分な短絡電流を得た上で生産性を向上させるために、そのNa−Paの粘度を15Pa・s以下とすることが必要であり、さらに十分な放電性能を得るためには、その添加量を0.1wt%〜3wt%とすればよい。
【0037】
===正極缶内面の導電膜について===
上述したように、Na−PAをバインダーとした正極合剤を用いたアルカリ乾電池は、高い生産性によって安価に提供できるともに、正極合剤の成型強度が高く、内部抵抗が低く、十分な短絡電流を得ることができる。ここで、本発明者は、十分に内部抵抗が低ければ、従来、内部抵抗の上昇を抑制するために正極缶内面に形成されていた導電膜を省略しても、実用的なアルカリ乾電池が達成できるのではないか、と考えた。そして、導電膜が不要であれば、導電膜となる導電塗料、及び導電塗料の塗布工程に掛かるコストを削減でき、アルカリ乾電池のさらなるコストダウンが達成できる。
【0038】
また、導電膜を形成するために正極缶内面に塗布される導電塗料は、近年、その排出が規制されつつある揮発性有機溶剤(VOC)に導電材を分散あるいは溶解させたものであり、環境問題の観点からも導電塗料の塗布工程の省略化が望まれる。VOCの問題に鑑み、水を溶媒とした導電塗料に代替することも可能であるが、この場合は、溶媒である水が自然に揮発しないので、導電塗料の塗布工程に続いて、溶媒である水を除去するための乾燥工程が必要となる。そして、この乾燥工程では、余分なエネルギーと時間が消費されることになり、アルカリ乾電池の生産性が低下する。また、エネルギー消費量の増大は、世界的なCO削減要求にも反し、やはり、環境問題の観点からも望ましくない。いずれにしても、生産性の向上は、製造コストだけではなく、環境問題の観点からも重要な課題である。そこで、内面に導電膜が形成されていない正極缶に、バインダーが異なる各種正極合剤を組み込んだサンプルを作成し、各サンプルについて、短絡電流特性を評価した。
【0039】
表4に、当該評価結果を示した。
【表4】

【0040】
表4において、比較例10、比較例11、および比較例12は、それぞれ、表1における比較例1、比較例2、および比較例5と同じ正極合剤を、内面に導電膜が形成されていない「導電膜無し」の正極缶に組み込んで作成したサンプルであり、また、実施例7は、表2における実施例2(表3における実施例5)と同じ正極合剤を導電膜無しの正極缶に組み込んで作成したサンプルである。
【0041】
表4より、正極合剤にバインダーとしてNa−PAを含んだ実施例7のサンプルでは、評価の基準となる比較例1、すなわち、バインダーを含まない正極合剤を「導電膜有り」の正極缶に組み込んだアルカリ乾電池と同等の短絡電流を得ることができ、合格判定となった。導電膜無しの正極缶に、Na−PA以外のバインダーが添加された正極合剤を組み込んだサンプルでは、全てサンプルで短絡電流が基準値100に満たず、不合格判定となった。具体的には、表4に示した各サンプルは、いずれも、正極合剤を同じ圧力で正極缶に圧入したものであるが、従来の正極合剤を組み込んだサンプル(比較例10〜12)では、性能値が最大でも70であり、比較例1に対して3割も短絡電流が低下していた。一方、本発明の実施例である実施例7のサンプルでは、基準値であり合格基準でもある性能値100を達成した。
【0042】
また、本実施例のアルカリ乾電池では、上述したように、正極合剤の成型強度が高いため、生産性を維持しつつ、正極缶への圧入する際の圧力をさらに大きくすることも可能である。したがって、正極缶内面と正極合剤とをさらに密着させることで、短絡電流特性をさらに向上させることも期待できる。
【符号の説明】
【0043】
1 アルカリ乾電池、2 電池缶(正極缶)、3 正極合剤、4 セパレーター、
5 負極ゲル、6 負極集電子、7 負極端子板、8 ガスケット、9 正極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含んで環状に成型されてなる正極合剤が正極集電体を兼ねる有底筒状の正極缶内に配置されてなるアルカリ乾電池であって、前記正極合剤には、ポリアクリル酸ナトリウムがバインダーとして添加されているとともに、当該ポリアクリル酸ナトリウムは、40wt%水酸化カリウム水溶液に3wt%混合したときの粘度が15Pa・s以下であることを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項2】
請求項1において、前記ポリアクリル酸ナトリウムは、前記正極活物質に対して0.1wt%〜3.0wt%添加されていることを特徴とするアルカリ乾電池。
【請求項3】
請求項1または2において、前記正極缶の内面には導電膜が形成されていないことを特徴とするアルカリ乾電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−243368(P2011−243368A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113463(P2010−113463)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】