説明

アルカリ性処理液及びそれを用いたコンクリート成形体の処理方法

【課題】コンクリート成形体に損傷を与えることなく、簡易な方法で、コンクリート成形体内部のアルカリ性を高め、コンクリート内部の鋼材の劣化やそれに起因するコンクリート成形体の強度低下を抑制しうるコンクリート成形体の処理方法及びそれに用いるコンクリート浸透性アルカリ性処理液を提供する。
【解決手段】カチオン界面活性剤を0.1〜10質量%とアルカリ剤とを含有し、pH11以上であることを特徴とするコンクリート浸透性アルカリ性処理液。このような処理液をコンクリート成形体に接触させ、内部に浸透させるここで、コンクリート成形体内部をアルカリ化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート成形体の処理に用いるアルカリ性処理液及びそれを用いたコンクリート成形体の処理方法に関し、コンクリート構造物やコンクリート成形体において、中性化したコンクリート内部をアルカリ化して回復させる、或いは、コンクリート内部の中性化を抑制することを目的とする浸透性に優れたアルカリ性処理液及びそれを用いた簡易なコンクリート成形体の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート成形体を構成するコンクリートは、通常はアルカリ性を維持しており、内部に配置された鉄筋、鉄骨等の鋼材の酸化反応が抑制されるために錆が発生せず、強度が長期間維持される。しかしながら、経時により、空気中の二酸化炭素の浸透によりアルカリ性が低下し、アルカリ性の低下に伴う成形体の劣化が懸念されている。
近年、省エネルギー、或いは、安全性維持の観点から、コンクリート構造物の長寿命化或いは耐震性、耐久性の維持を目的とした技術が種々提案されている。詳細には、コンクリート構造物の中に配置されている鉄筋、鉄骨等の鋼材の防錆を長期的かつ効果的に維持することを目的として、既存の構造物に適用する方法が望まれている。
現在、一般に行われる方法としては、表面が中性化したコンクリート構造物の表面コンクリートの一部を剥離し、露出した鋼材表面をアルカリ処理し、その後、新たなコンクリートで補修する方法が挙げられるが、これらは、コンクリート成形体の一部を、鉄筋に達する深さまで剥離するなど、工数がかかるという問題があった。
また、コンクリートを剥離することなく、珪酸リチウム溶液を使用して表面塗布を行う工法について、室内試験を行った結果、珪酸リチウム溶液のコンクリートへの浸透は確認できず、鋼材を保護する効果は得られないことがわかった。
【0003】
これに対し、構造物内に存在する鋼材に到達する深さの孔を形成し、そこに導電体を挿入して鋼材に接触させることで鋼材自体を電極として通電し、電気浸透原理を利用してアルカリ剤を鉄筋の近傍まで浸透させ、鉄筋の酸化を抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法においても、成形体自体に孔を形成しなければならず、工数がかかるという問題があった。
また、成形体を破壊しない方法として、コンクリート成形体の所定領域を耐アルカリ性シートで被覆、固定化し、固定化されたシート内部にアルカリ剤を注入してコンクリート表面に浸透させる方法(例えば、特許文献2参照。)や、アルカリ剤をコンクリート表面から圧入する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、コンクリート成形体は細骨材、粗骨材を含有しており、成形体内部に存在する空隙が極めて小さいために、通常のアルカリ剤では、鉄筋近傍まで浸透することができず、表面のアルカリ化を達成したに過ぎない。また、後者のように、圧入する場合にも圧入口としてひび割れや作製した目地部分を必要とするものであった。
他方、浸透性アルカリ付与組成物として、少なくとも2種のアルカリ剤を使用し、ゲル化を抑制しながら浸透性を向上させる組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。この方法自体が、コンクリート構造物のひび割れへの浸透を目的としており、数nm〜数十nmという微細な空隙を有するコンクリート成形体への浸透は困難であった。
【特許文献1】特開平5−148061号公報
【特許文献2】特開2005−90059公報
【特許文献3】特開平11−79868号公報
【特許文献4】特開2004−323333公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、コンクリート成形体に大きな損傷を与えることなく、簡易な方法で、コンクリート成形体内部のアルカリ性を高め、コンクリート内部の鋼材の劣化やそれに起因するコンクリート成形体の劣化及び強度低下を抑制しうるコンクリート成形体の処理方法及びそれに用いるコンクリート浸透性アルカリ性処理液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、コンクリート中へアルカリ剤の浸透性を大幅に向上した処理液をコンクリート成形体の表面に適用することで、上記目的を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明のコンクリート浸透性アルカリ性処理液は、コンクリート成形体内部のアルカリ性を向上させる処理に用いられる処理液であって、カチオン界面活性剤を0.1〜15質量%とアルカリ剤とを含有するpH11以上のアルカリ性溶液であることを特徴とする。
ここで用いられるアルカリ性の処理液としては、pH調整用のアルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、及び、亜硝酸リチウムからなる群より選択される1種以上のアルカリ剤を用いること、カチオン界面活性剤として、4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤を用いることが好ましい態様である。
【0006】
また、請求項4に係る本発明のコンクリート成形体の処理方法は、コンクリート成形体の表面に、カチオン界面活性剤を0.1〜15質量%とアルカリ剤とを含有するpH11以上のアルカリ性処理液を接触させてコンクリート成形体内部に浸透させ、該コンクリート成形体内部にアルカリ性を付与することを特徴とする。
本発明の処理方法において、コンクリート成形体表面への前記アルカリ性処理液の接触方法としては、(1)コンクリート成形体表面に該処理液を塗布する方法、(2)コンクリート成形体表面に該処理液を含浸した不織布などの保水材を接触させる方法、(3)コンクリート成形体表面に接触して固定化されたケースに該処理液を満たす方法、(4)コンクリート成形体表面に水平方向に連続した溝を形成し、該処理液を含浸した繊維塊などの保水材を該溝中に配置する方法、などを適用することができる。
なお、(1)記載の方法におけるアルカリ性処理液塗布表面や、(2)記載の方法におけるアルカリ性処理液を含浸した保水材表面を耐アルカリ性で液不透過性のシートで被覆することが、効果の観点から好ましい。
【0007】
本発明のコンクリート成形体の処理方法によれば、内部に鉄筋を有するコンクリート成形体において、処理終了後の該鉄筋に接触している領域におけるコンクリートを、コンクリート成形体に大きな損傷を与えることなく、pH11以上という、鋼材の酸化を抑制しうるアルカリ条件とすることが可能である。
なお、本発明の処理方法が適用されるコンクリート成形体は、水、セメント、混和材料、骨材を含有するコンクリート組成物を硬化して得られるものであれば特に制限はなく、ビルなどの建築物、ダムや橋脚などの土木構造物、コンクリート製の隔壁、ベンチ、オブジェなどのいずれをも包含するものである。
【0008】
本発明によれば、モルタル、コンクリート中のセメント水和物の炭酸化反応により中性化が進行するコンクリート成形体内部のアルカリ性を、成形体を損傷することなく簡易な方法で回復させることができるため、既存の建造物などに定期的に処理することで、コンクリート中のアルカリ性の環境が維持されるために、内部に存在する鋼材の腐食による強度低下が効果的に抑制され、コンクリート成形体の耐久性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンクリート成形体に大きな損傷を与えることなく、簡易な方法で、コンクリート成形体内部のアルカリ性を高め、コンクリート内部の鋼材の劣化やそれに起因するコンクリート成形体の強度低下を抑制しうるコンクリート成形体の処理方法及びそれに用いるコンクリート浸透性アルカリ性処理液を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
<コンクリート浸透性アルカリ性処理液>
本発明のアルカリ性処理液は、コンクリート内部への浸透性に優れることを特徴とするものであり、カチオン界面活性剤を0.1〜15質量%とアルカリ剤とを含有するpH11以上のアルカリ性溶液である。
(アルカリ剤)
本発明のアルカリ性処理液は、pHが11以上のアルカリ性を示すものであれば、特に制限はない。処理液はアルカリ剤を水系の溶媒に溶解させて調製する。溶媒としては、水、或いは、水に水性溶剤を添加したものなどが挙げられ、なかでも、取り扱い性などの観点から水が好ましい。溶媒として使用される水は、不純物による影響を低減するといった観点からは、精製水、イオン交換水などが好適なものとして挙げられる。
【0011】
アルカリ性処理液調製に用いられるアルカリ剤としては、効果の観点からは水溶液が強アルカリとなるものが好ましく、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、亜硝酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸リチウムなどが挙げられ、好ましくは、水酸化ナトリウム、又は、水酸化リチウムであり、浸透性向上の観点からは、水酸化リチウムが好ましい。
これらアルカリ剤の添加量は、前記した好ましいpHとなるように適宜調整される。
【0012】
本発明のアルカリ性処理液には、さらに、カチオン性界面活性剤を含有する。カチオン性界面活性剤としては、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、芳香族4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩やイミダゾリニウム塩の如き複素環4級アンモニウム塩などを挙げることができるが、4級アンモニウム塩型カチオン性界面活性剤が好ましく、更に好ましくは、脂肪族4級アンモニウム塩である。
浸透性向上効果の観点からは、より具体的には、炭素数8〜16程度のアルキル基を有するトリメチルアンモニウム塩、炭素数8〜16程度のアルキル基を有するジメチルアンモニウム塩等が好ましく挙げられる。
これらのカチオン性界面活性剤は市販品としても入手可能であり、例えば、花王(株)製、コータミンシリーズなどが挙げられる。
【0013】
カチオン性界面活性剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
通常、カチオン性界面活性剤はアルカリ条件では分解などによりその効果を消失する場合が多いが、本発明においては、カチオン性界面活性剤を含有するアルカリ性処理液がコンクリート成形体内部への優れた浸透性を発現することが確認された。
本発明者らの検討によれば、アルカリ性水溶液、例えば、水酸化リチウム4mol/Lの水溶液にカチオン性界面活性剤0.1質量%以上添加することで表面張力が低下し、コンクリートへの浸透性が向上することが確認された。添加量を1質量%以上とすると表面張力は更に低下し、この傾向はカチオン性界面活性剤の添加量を20質量%程度までの範囲で確認されているが、カチオン性界面活性剤の添加量が増加すると相対的にアルカリ剤の濃度が低下するため、これらを考慮するとカチオン性界面活性剤の含有量は、アルカリ性処理液中、0.1〜15質量%の範囲で用いることが好ましく、実用上の効果と経済性の観点からは、1〜5質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明のコンクリート浸透性アルカリ性処理液には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、他の成分を含むことができる。
添加剤としては、表面からのアルカリ剤の減少を抑制する目的で添加される珪酸ナトリウム、珪酸リチウムなどの水ガラス成分、乾燥収縮低減剤としてのグリコールエーテル系誘導体〔市販品としては、例えば、フローリック社製、ヒビガードがある〕やアミノアルコール類〔市販品としては、例えば、フローリック社製、ヒビガード500がある〕、浸透性向上剤としての両性界面活性剤〔例えば、アンヒトール(商品名:花王社製)がある〕などを挙げることができる。
【0015】
<コンクリート成形体の処理方法>
次に、本発明のコンクリート浸透性アルカリ性処理液を用いたコンクリート成形体の処理方法について説明する。
本発明のコンクリート成形体の処理方法は、コンクリート成形体の表面に、カチオン界面活性剤を0.1〜15質量%とアルカリ剤とを含有するpH11以上のアルカリ性処理液を接触させてコンクリート成形体内部に浸透させ、該コンクリート成形体内部にアルカリ性を付与することを特徴とする。
ここで用いられるアルカリ性処理液は、前記本発明のコンクリート浸透性アルカリ性処理液である。
【0016】
本発明において、コンクリート成形体表面へ処理液を接触させる方法としては、特に制限はなく、コンクリート成形体表面に処理液を塗布する、液層を用いて接触させる、繊維塊状体や織布、不織布などの保水性を有する耐アルカリ性の材料に処理液を含浸させて表面に適用する、など、施工の状況やコンクリートに浸透させる液量などを考慮して種々の方法を適宜選択して適用することができる。
【0017】
代表的には、(1)コンクリート成形体表面に該処理液を塗布する方法、(2)コンクリート成形体表面に該処理液を含浸した保水材を接触させる方法、(3)コンクリート成形体表面に接触して固定化されたケースに該処理液を満たす方法、(4)コンクリート成形体表面に溝を形成し、該処理液を含浸した保水材を該溝中に配置する方法、などを適用することができる。
また、既存の処理方法、例えば、コンクリートを剥離して塗布する方法、クラックを利用してそこから圧入する方法に本発明のアルカリ性処理液を用いてもよく、さらに、電気泳動法による浸透にも本発明のアルカリ性処理液を用いることもできる。
【0018】
前記コンクリート成形体表面へアルカリ性処理液をそのまま接触させる方法としては、コンクリート成形体表面に処理液を塗布する方法、及び、後述するポケット状のケースを成形体表面に固定化し、そこに処理液を満たす方法などが挙げられる。
塗布方法では、効果の観点から、1回の塗布量が50〜500g/mの範囲であることが好ましく、更に好ましくは、100〜300g/mの範囲である。
浸透する液体を常に供給するといった観点からは、所定の時間間隔で塗布を複数回行うことが好ましく、処理液の飛散防止、浸透促進とった観点からは塗布面を耐アルカリ性の液不透過性シートで被覆するといった手段を併用することが好ましい。
【0019】
処理液接触の他の手段としては、液体保持性を有する繊維塊状体や不織布などの担持体(以下、保水材と称する)に処理液を含浸させ、コンクリート成形体表面に接触させる方法が挙げられる。
以下、保水材として不織布を用いた場合を例に挙げて説明する。図1は、処理液を不織布10に含浸させて、コンクリート成形体12表面に接触させた態様を示す概略断面図である。コンクリート成形体12表面に、アルカリ性処理液を含浸させた不織布10を接触させてピン14で不織布を固定し、成形体との非接触面よりのアルカリ性処理液の蒸発による効果の減少を抑制するため、その表面をポリエステルフィルム等の液不透過性シート16により被覆している。
保水材としては、織布、不織布、シート状に形成された繊維塊状体、スポンジシートなどの高分子化合物製多孔質体、架橋ポリアクリル酸の如き、吸水性を有する高分子吸収体を不織布製などの適切な液透過性の袋に内包したものなどが挙げられる。
液保持能は繊維や多孔質体を構成する材料の種類や密度などにより目的に応じて調整することができる。なかでも、取り扱い性の観点から不織布が好ましい。
保水材にアルカリ性処理液を含浸させる態様としては、例えば、耐アルカリ性の繊維で構成された繊維塊状体や不織布の繊維間の空隙に処理液を保持させる方法、架橋ポリアクリル酸の如き吸水性を有する高分子材料に処理液を吸収、保持させる方法、或いは、これを組み合わせた方法などが挙げられる。ここで、繊維塊状体はシート状にカーディングされたものをそのまま用いてもよく、保形性を向上させるため、不織布や多孔質フィルムなどの液透過性のシートで被覆したパックの如き態様で用いてもよい。
【0020】
不織布としては、バインダーで繊維間を固定したものよりも、繊維を絡ませたり、繊維の一部を融着させて形成された不織布が耐アルカリ性の観点から好ましい。耐アルカリ性の繊維としては、ポリエステル、アクリル、レーヨンなどが挙げられる。
なかでも、液保持性の観点からは、ポリアクリル酸ナトリウム塩を主成分とするポリマーからなる繊維を含んで構成される高吸水性織布が好ましい。このような不織布は、例えば、カネボウ合繊(株)製のベルオアシスなど、市販品としても入手可能である。
繊維塊状体或いは不織布に処理液を含浸させて接触させる場合も、効果の観点からは、図1に示すように、液不透過製シートで表面を被覆することが好ましい。
また、アルカリ性処理液の浸透により減じた処理液を適宜、不織布に供給して接触を継続する手段を併用することもできる。
【0021】
コンクリート成形体表面に処理液を直接接触させる方法の別の態様としては、図2に示すように、コンクリート成形体12表面に接触するように固定化したポケット状ケース18に該処理液20を満たす方法が挙げられる。
このケースは上方が開口された直方体のケースにおいて、成形体と接触する側の側面における壁面を有しないポケット状ケース18であり、その形状は、必要とされる接触面積に応じて適宜、決定される。即ち、ポケット形状を形成する側壁面の面積が接触面積になる。また、所定の時間、常に形成体に浸透するのに十分な処理液量を維持すると言った観点から、厚みは、0.1cm〜5.0cmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは、0.3cm〜1.0cmの範囲である。
ケース18の素材としては、耐アルカリ性の観点から、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂などが好ましい。
ポケット状ケース18は、コンクリート成形体12表面と処理液とが接触するように、成形体12表面に固定化されるが、固定化に際してケース18と成形体12表面との接触領域は、液漏れ防止の目的でパテなどにより密閉することが好ましい。
効果の持続性の観点から、コンクリート成形体12内部への浸透によりケース18内のアルカリ性処理液20が減少した場合、適宜補充することも好ましい。
【0022】
コンクリート成形体表面への処理液のさらなる接触方法として、図3に示すように、コンクリート成形体12表面に水平方向に連続した溝22を形成し、該処理液を含浸した繊維塊24などの保水材を該溝22中に配置する方法が挙げられる。
繊維塊24などの保水材としては、前記したものと同様のものを挙げることができるが、溝22の形状に適合させ、必要量を溝の形状に応じて配置するといった観点からは、繊維塊状体が好ましい。この態様において繊維塊状体の形成に用いる繊維は、耐アルカリ性の繊維や吸水性を有する繊維など、前記不織布を構成する好ましい繊維として挙げたものを同様に使用することができる。
また、溝22の深さ、単位面積あたりに形成する溝22の間隔や長さは、目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、アルカリ性処理液の浸透性及び成形体の強度維持の観点から、溝の深さは、0.1cm〜5.0cmの範囲であることが好ましい。
【0023】
アルカリ性処理液のコンクリート成形体との接触時間は、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、数年間隔で行われる内部のアルカリ性維持のための定期な処理に用いる場合には、アルカリ性処理液の浸透深さは0.1cm〜2.0cmとなることを要し、そのような観点からは、1日〜3ヶ月であることが好ましい。
また、コンクリート構築物の内部に存在する鉄筋などの鋼材周辺までアルカリ性処理液を浸透させようとする場合には、アルカリ性処理液の浸透深さは0.1cm〜5.0cmとなることを要し、そのような観点からは、1日〜6ヶ月であることが好ましい。
【0024】
コンクリート成形体へのアルカリ性処理液の浸透速度は、コンクリート成形体と同じ組成物のコンクリート組成物を調製した試験片により、浸透実験を行い、試験片を切断してフェノールフタレインによる呈色反応を行って浸透深さを測定し、接触時間の平方根で除することで算出することができる。このような実験により予め浸透速度を測定し、同様のコンクリート組成物からなる成形体への必要な接触時間を予想することができる。
また、現場施工の場合には、コンクリート成形体からコアを採取し、表面の呈色反応を行うか、ドリルを用いて所定の深さの小孔を形成し、発生した粉の呈色反応から、所定の深さまでアルカリ化が進行したかを確認することもできる。
【0025】
前記セメント成型体としては、水、セメント、混和材料、骨材、化学混和剤よりなるコンクリート組成物であり、形成されるセメント系成型体の用途に応じて各種材料の、重量比を適宜調整することができる。
【0026】
本発明において成形体の素材であるコンクリート組成物に用いられるセメントとしては特に制限はなく、形成されるセメント系成型体の用途に応じて、各種セメント類の中から、適宜選択することができる。セメントとして、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、などが使用できる。
前記混和材料としては特に制限はなく形成されるセメント系成型体の用途に応じて、各種セメント、コンクリート用混和材料から適宜種類、使用量を選択できる。混和材料としては、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームなどが一般的に使用できる。
また、骨材の種類や量は特に制限はなく、形成される成型体の用途に応じて、骨材の種類及び配合割合を適宜選択することができる。
【0027】
本発明の方法を適用するコンクリート成形体には、通常コンクリート成形体に配合されている各種添加剤、例えば減水剤、空気連行剤、消泡剤などを、適宜配合することができる。
前記コンクリート成形体を形成するコンクリート組成物における水とセメントの重量比は、形成されるコンクリート成形体の用途に応じて適宜選択することができるが、水と結合材の重量比は40%以上75%以下が好ましく、より好ましくは50%以上70%以下である。
【0028】
本発明に係るコンクリート成形体は、前記コンクリート組成物を混練し、成型、硬化して得ることができる。大きさや形状は任意であるが、アルカリ化による強度維持効果の観点からは、その内部に補強材、構造材など種々の目的で鉄筋、鉄骨などの鋼材を配置した成形体に適用して本発明の効果が著しいといえる。
このような成形体としては、ビルや橋脚などの大型構造物のみならず、プレストレス化されたコンクリート成形体であり、PC鋼材で構成された枠体により補強されている化粧ボードなどのコンクリート成形体も包含される。
【0029】
本発明のアルカリ性処理液を用いたコンクリート成形体の処理方法は、前記構成としたので、コンクリート成形体へのアルカリ性処理液の浸透性に優れるため、コンクリート成形体を破損することなくその内部をアルカリ化することができる。このため、大型の構築物などへも大がかりな装置を必要とせず適用することができ、コンクリート内部の中性化による鉄筋腐食に起因する強度低下を効果的に抑制することができるためその応用範囲は広い。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に制限されるものではない。
(実験例:コンクリート組成物の配合)
普通ポルトランドセメントと水、砂、砕石(骨材)を含有するセメント組成物であって、水/セメント組成物比(W/C 比)が70%のコンクリート組成物を調製した。
【0031】
[使用材料]
セメント:普通ポルトランドセメント(三菱マテリアル社製)、密度3.16g/cm
水:水道水
細骨材1:茨城県鹿島郡神栖町陸砂、表乾密度2.62g/cm、吸水率2.27%、
粗粒率2.53
細骨材2:中国福建省福州市川砂、表乾密度2.59g/cm、吸水率1.60%、
粗粒率3.56
混合比率(質量比) 砂1:砂2=80:20
粗骨材:栃木県下都賀郡岩舟町砕石2005、表乾密度2.66g/cm
吸水率0.76%、 粗粒率6.52
AE減水剤 標準形(I種)
【0032】
[コンクリート組成物の配合]
表1にコンクリート組成物の配合を示す。表中で使用した各材料の詳細は上記の通りである。下記コンクリート組成物における水/結合材比は70.0%、細骨材率は、50.6%である。
(注):下記表1中、混和剤の添加量は内割り置換に付き、水に含めている。
【0033】
【表1】

【0034】
[コンクリート組成物による成形体の調製]
前記表1に記載のコンクリート組成物を用いて、前記の、水、セメント、細骨材、粗骨材を所定量ミキサ(強制2軸練ミキサ、容量3m)に投入し、20秒間練り混ぜた。この際,練りあがったコンクリートの空気量が一定の値(4.5容量%)と成るよう、AE減水剤を適量添加し調整した。
このコンクリート組成物により、幅10cm、長さ40cm、厚さ10cmのコンクリート成形体を形成した。
【0035】
[コンクリート成形体の前中性化処理]
前記コンクリート成形体について、前中性化を図るため、二酸化炭素濃度5.0%のチャンバー内に静置し、切断面のフェノールフタレインによる呈色反応により、表面からの中性化深さが約30mmに達するまで中性化の促進を実施した。
【0036】
(実施例1)
〔アルカリ性処理液の調製〕
水酸化リチウム 1mol/L水溶液 96g
カチオン性界面活性剤 4g
(コータミン24P、花王(株)製)
上記成分を十分に混合し、液状アルカリ性処理液を得た。処理液のpHを測定したところ、pHは、12.44であった。
【0037】
このようにして得られたアルカリ性処理液を、前記コンクリート成形体表面に、刷毛で、塗布量が300g/mとなるように塗布し、表面をポリエステルシートで被覆し、測定時期まで静置した。
13週経過後、成形体を切断して切断面にフェノールフタレインを吹き付け、呈色反応を確認したところ、深さ4.7mmまでpH12の領域が形成されていた。
【0038】
(比較例1)
実施例1で用いたアルカリ性処理液において、カチオン性界面活性剤を添加しなかった処理液を用いた他は、同様にしてコンクリート成形体の処理を行い、同様に評価した。
その結果、pH12の領域深さは、1.5mmであり、アルカリ性処理液は殆ど浸透していないことが確認された。
【0039】
(実施例2)
実施例1で用いたアルカリ性処理液に、不織布(カネボウベルオアシスシートt=7.0mm)10を浸漬させ、十分に吸水させた後、図1示すように、前記コンクリート成形体12表面に密着させ、ポリエステルシート16で被覆し、測定時期まで静置した。この際、不織布の吸水量を単位面積当りに換算すると、5375g/mであった。
13週経過後、成形体を切断して切断面にフェノールフタレインを吹き付け、呈色反応を確認したところ、深さ9.9mmまでpH12の領域が形成されていた。
【0040】
(比較例2)
実施例2で用いたアルカリ性処理液において、カチオン性界面活性剤を添加しなかった処理液を用いた他は、同様にしてコンクリート成形体の処理を行い、同様に評価した。
その結果、pH12の領域深さは、8.7mmであり、カチオン性界面活性剤を添加した場合に比較して、アルカリ性処理液の浸透深さが小さいことが確認された。
【0041】
(比較例3)
実施例2で用いたアルカリ性処理液において、カチオン性界面活性剤を添加せず、且つ、水酸化リチウム1mol/L水溶液 96gに代えて、アルカリ剤として飽和炭酸ナトリウム 96gを添加し、アルカリ性処理液を調製した。この処理液のpHは12.79であった。この処理液を用いた他は、同様にしてコンクリート成形体の処理を行い、同様に評価した。
その結果、pH12の領域深さは、0.0mmであり、アルカリ性処理液は殆ど浸透していないことが確認された。
【0042】
(実施例3)
実施例1で用いたアルカリ性処理液20を、コンクリート成形体12表面に固定した図2に示す如きアクリル樹脂製のポケット状ケース18に充填し、液層としてコンクリート成形体12表面に密着させ、測定時期まで静置した。この際、コンクリート成形体表面とケースとの隙間は5.0mmであり、浸透により減じた処理液については、適宜補充を行った。
13週経過後、成形体を切断して切断面にフェノールフタレインを吹き付け、呈色反応を確認したところ、深さ19.5mmまでpH11の領域が形成されており、実施例1、2に比較しても、アルカリ性処理液の浸透深さが大きく、この方法によれば、アルカリ性処理液の浸透効果がさらに向上することが確認された。
【0043】
(実施例4)
コンクリート成形体表面に幅5.0mm、深さ20.0mmの溝をコンクリートカッターで形成し、実施例1で用いたアルカリ性処理液を含浸した脱脂綿を配置し、測定時期まで静置した。この際、実施例3と同様に浸透により減じた処理液については、適宜補充を行った。
13週経過後、成形体を切断して切断面にフェノールフタレインを吹き付け、呈色反応を確認したところ、溝に対して拡散方向に平均深さ19.1mmまでpH11の領域が形成されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明のコンクリート成形体の処理方法における、不織布を用いたアルカリ性処理液の接触状態の一態様を示す概略断面図である。
【図2】本発明のコンクリート成形体の処理方法における、ポケット状のケースを用いたアルカリ性処理液の接触状態の一態様を示す概略断面図である。
【図3】本発明のコンクリート成形体の処理方法における、成形体表面に水平方向に連続した溝を形成し、繊維塊状体に担持させたアルカリ性処理液を溝中に配置して接触させた状態の一態様を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 不織布
12 コンクリート成形体
16 液不透過性シート
18 ポケット状ケース
20 アルカリ性処理液
22 溝
24 繊維塊状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン界面活性剤を0.1〜15質量%とアルカリ剤とを含有し、pH11以上であることを特徴とするコンクリート浸透性アルカリ性処理液。
【請求項2】
前記アルカリ剤が水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、及び、亜硝酸リチウムからなる群より選択される1種以上であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート浸透性アルカリ性処理液。
【請求項3】
前記カチオン界面活性剤が、4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤である請求項1又は請求項2に記載のコンクリート浸透性アルカリ性処理液。
【請求項4】
コンクリート成形体の表面に、カチオン界面活性剤を0.1〜15質量%とアルカリ剤とを含有するpH11以上のアルカリ性処理液を接触させてコンクリート成形体内部に浸透させ、該コンクリート成形体内部にアルカリ性を付与することを特徴とするコンクリート成形体の処理方法。
【請求項5】
前記コンクリート成形体表面へのアルカリ性処理液の接触が、コンクリート成形体表面に該処理液を塗布する方法により行われる請求項4に記載のコンクリート成形体の処理方法。
【請求項6】
前記コンクリート成形体表面へのアルカリ性処理液の接触が、コンクリート成形体表面に該処理液を含浸した保水材を接触させる方法により行われる請求項4に記載のコンクリート成形体の処理方法。
【請求項7】
前記コンクリート成形体表面へのアルカリ性処理液の接触が、コンクリート成形体表面に接触して固定化されたケースに該処理液を満たす方法により行われる請求項4に記載のコンクリート成形体の処理方法。
【請求項8】
前記コンクリート成形体表面へのアルカリ性処理液の接触が、コンクリート成形体表面に重力方向に対し水平に連続する溝を形成し、該処理液を含浸した保水材を該溝中に配置する方法により行われる請求項4に記載のコンクリート成形体の処理方法。
【請求項9】
前記コンクリート成形体が、内部に鋼材を有するものであり、処理終了後の該鋼材に接触している領域におけるコンクリートのpHが11以上である請求項4から請求項8のいずれか1項に記載のコンクリート成形体の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−107910(P2009−107910A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284522(P2007−284522)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】