説明

アルカリ電池

【課題】高温多湿下では、アルカリ電解液が漏れる場合がある。
【解決手段】電池ケース1の開口1aは、負極集電体6が接続された負極端子板7とガスケット5とにより封じられている。負極集電体6は、軸部61と鍔部62とを有し、軸部61の一端側は負極3内に設けられており、軸部の他端には鍔部が設けられている。ガスケット5は、ポリアミド樹脂からなり、負極集電体6の軸部61が圧入される筒部を有している。負極端子板7は、鍔部62に対して筒部51とは反対側に配置されている。ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62とは間隔を開けて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池は、汎用性が高く安価であるため、各種機器の電源として普及している。アルカリ電池では、正極と負極とセパレータとアルカリ電解液とが電池ケース(正極端子)内に収容されており、電池ケースの開口が釘形の負極集電体と負極端子板とガスケットとにより封じられている。具体的には、負極集電体の一端側はガスケットに圧入されて負極内に挿入されており、負極集電体の他端は負極端子板の内面に溶接されている。負極端子板は、ガスケットを介して電池ケースの開口にかしめられている。
【0003】
ところで、高温多湿下ではアルカリ電解液が漏れるという不具合が知られている。この不具合が発生する理由として、メニスカス上でのOHの優先的な生成により負極の作動電位が変化するため、アルカリ電解液が負極集電体とガスケットとの間を通って電池ケースの開口側へ移動するからであると考えられている。
【0004】
アルカリ電解液は、強アルカリである。特許文献1では、ポリブデンを含むシール剤で負極端子板の内面と負極集電棒の端面との境界を被覆し、これにより、負極端子板の内面と負極集電棒の端面との溶接点がアルカリ電解液による腐食されることを防いでいる。
【0005】
また、特許文献2では、負極端子板の内面側のうち負極集電体の頭部(鍔部)が溶接されている部分の外周部に、アルカリ電解液を中和させるための中和剤層を設けている。これにより、電池ケースの開口側へ移動したアルカリ電解液が中和されるため、高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れが防止される又は漏れの時期が遅くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−157585号公報
【特許文献2】特開平07−122248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された各技術を用いても、アルカリ電解液が高温多湿下において負極集電体とガスケットとの間を通って電池ケースの開口側へ移動することを防止すること又はその移動時期を遅らせることは難しい。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アルカリ電解液が高温多湿下において負極集電体とガスケットとの間を通って電池ケースの開口側へ移動することを防止する又はその移動時期の遅滞を図り、これにより、高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るアルカリ電池では、正極と負極とセパレータと電解液とが電池ケース内に収容されており、電池ケースの開口は負極集電体が接続された負極端子板とガスケットとにより封じられている。負極集電体は軸部と鍔部とを有し、軸部の一端側は負極内に設けられており、軸部の他端には鍔部が設けられている。ガスケットは、ポリアミド樹脂からなり、負極集電体の軸部が圧入される筒部を有している。負極端子板は、鍔部に対して筒部とは反対側に配置されている。ガスケットの筒部と負極集電体の鍔部とは間隔を開けて配置されている。
【0010】
高温多湿下では、空気中の水分が電池ケース内に浸入する。電池ケース内に浸入した空気中の水分は、負極集電体の鍔部の表面に付着する、又は、ガスケット内に浸入する。本発明に係るアルカリ電池では、空気中の水分が表面に付着した負極集電体の鍔部と空気中の水分が浸入したガスケットの筒部との接触を回避できるので、電池内における局部電池の形成を防止できる。よって、OHが負極集電体の鍔部付近に過剰に存在することを防止できるので、アルカリ電解液が負極集電体とガスケットとの間を通って電池ケースの開口側へ移動することを防止できる。
【0011】
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔は0.1mm以上であることが好ましい。この間隔が0.1mm未満であれば、高温多湿下における局部電池の形成を防止できない場合がある。
【0012】
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔は0.5mm以下であることが好ましい。これにより、容量低下を引き起こすことなく高温多湿下における局部電池の形成を防止できる。
【0013】
ガスケットの筒部と負極集電体の鍔部との間に、封止剤が設けられていることが好ましい。これにより、負極集電体の鍔部付近で発生したOHが負極集電体とガスケットとの間に浸入することを防止できる。より好ましくは、封止剤がガスケットの筒部と負極集電体の鍔部との間に充填されていることであり、又は、封止剤が負極集電体の鍔部を被覆していることである。封止剤は、クロロスルホン化ポリエチレン樹脂又はアスファルトであれば良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アルカリ電解液が高温多湿下において負極集電体とガスケットとの間を通って電池ケースの開口側へ移動することを防止できる。又は、その移動時期の遅滞を図ることができる。よって、高温多湿下でのアルカリ電解液の漏れを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来のアルカリ電池の開口側付近の半断面図である。
【図2】(a)〜(f)は、高温多湿下においてアルカリ電解液が漏れる理由を説明する断面図である。
【図3】図2(d)に示す領域IIIの電気化学的回路図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るアルカリ電池の半断面図である。
【図5】図4に示す領域Vの拡大図である。
【図6】図5に示す領域VIを電気化学的に記載した図である。
【図7】本発明の一実施形態の第1の変形例に係るアルカリ電池の開口側付近の半断面図である。
【図8】図7に示す領域VIIIを電気化学的に記載した図である。
【図9】本発明の一実施形態の第2の変形例に係るアルカリ電池の開口側付近の半断面図である。
【図10】本発明の一実施形態の第3の変形例に係るアルカリ電池の開口側付近の半断面図である。
【図11】実施例の電池に対して耐漏液性を調べた結果をまとめた表である。
【図12】実施例の電池に対して別の手法を用いて耐漏液性を調べた結果をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、アルカリ電解液が高温多湿下において負極集電体とガスケットとの間を通って電池ケースの開口側へ移動する理由を考察し、本発明を完成させた。以下では、本発明者らが考察した内容を説明してから、本発明の実施形態を説明する。まず、従来のアルカリ電池の構造(特に封口ユニットの構造)を簡潔に説明する。
【0017】
図1は、従来のアルカリ電池の開口側付近の半断面図である。
【0018】
従来のアルカリ電池の電池ケース1内には、正極2、負極3、セパレータ4及びアルカリ電解液(不図示)が収容されており、アルカリ電解液は正極2、負極3及びセパレータ4に含まれている。電池ケース1には開口1aが形成されており、その開口1aはガスケット5と釘形の負極集電体6と負極端子板7とからなる封口ユニットにより封じられている。負極集電体6の軸部61の一端側(図1における軸部61の下端側)は、ガスケット5の筒部51の貫通孔51a内に圧入されて負極3内に挿入されており、負極集電体6の軸部61の他端(図1における軸部61の上端)には、鍔部62が設けられている。鍔部62は、ガスケット5の筒部51と負極端子板7との間に位置しており、ガスケット5の筒部51の開口側端面(電池ケース1の開口1a側に位置する端面,図1における筒部51の上面)に接しているとともに負極端子板7に溶接されている。また、ガスケット5の筒部51の封止側端面(電池ケース1の底部側に位置する端面,図1における筒部51の下面)は、負極3に浸漬している。ここで、ガスケット5は、ポリアミド樹脂(例えば6,6ナイロン)からなる。負極集電体6は、例えば真鍮からなる棒の表面に錫がメッキされたものである。負極端子板7は、例えばニッケルめっき鋼板がプレス成形されたものであり、負極端子板7には、ガス抜き孔7aが形成されている。
【0019】
では、図2(a)〜(f)及び図3を用いて本発明者らが上記理由として考察したことを示す。図2(a)〜(f)は、高温多湿下においてアルカリ電解液が漏れる理由を説明する断面図である。図3は、図2(d)に示す領域IIIの電気化学的回路図である。
【0020】
負極3内では、亜鉛(負極活物質)とアルカリ電解液とが接触している。そのため、非放電状態下(例えば保管中)においても、負極3内では亜鉛がアルカリ電解液により酸化される(Zn→Zn2++2e)。この酸化により生じた電子は、図2(a)に示すように、負極集電体6の軸部61内を流れて鍔部62に達する。
【0021】
このようなアルカリ電池を高温多湿下に放置すると、図2(b)に示すように、空気中の水分が負極端子板7のガス抜き孔7aから電池ケース1の内部に浸入して、負極端子板7の内面上又は負極集電体6の鍔部62の表面上に付着する。このように負極集電体6の鍔部62では空気中の水分と負極集電体6の軸部61を流れた電子とが共存するので、式1に示す反応が起こってOHが発生する(図2(c))。
【0022】
2HO+2e→H+2OH・・・・・・式1
発生したOHの一部は、図2(d)に示すように、負極集電体6の軸部61の外面とガスケット5の筒部51に形成された貫通孔51aの内面との間(以下では単に「負極集電体6の軸部61とガスケット5の筒部51との間」と記す。)を通って負極3内へ浸入する。また、ガスケット5の筒部51が負極集電体6の鍔部62及び負極3の両方に接しており、且つ、ガスケット5の筒部51が含水性に優れているので、発生したOHの一部は、図2(d)に示すように、ガスケット5の筒部51内を通って負極3内に浸入する。このように、発生したOHは負極3内に浸入する。負極3内には亜鉛が存在しているので、負極3では式2に示す反応が起こる。
【0023】
Zn+4OH→Zn(OH)2−+2e・・・式2
発生した電子は、負極3から負極集電体6の軸部61内を通って鍔部62へ移動する。負極集電体6の鍔部62の表面には空気中の水分が存在しているので、鍔部62では上記式1に示す反応が起こる。この反応により発生したOHは負極集電体6の軸部61とガスケット5の筒部51との間又はガスケット5の筒部51内を通って負極3内へ浸入し、従って、上記式2に示す反応が起こる。このように鍔部62付近でのOHの生成→負極3へのOHの浸入→負極3での電子の生成→鍔部62への電子の移動→鍔部62付近でのOHの生成→・・・が繰り返される。つまり、領域IIIには、図3に示す局部電池が形成される。
【0024】
図3に示す局部電池では、正極Pは、錫が水溶液に浸漬されたものであり、水分が表面に付着した負極集電体6の鍔部62に相当する。負極Nは、亜鉛がアルカリ性水溶液に浸漬されたものであり、負極3に相当する。セパレータSは、含水性に優れた材料からなっており、負極集電体6の軸部61とガスケット5の筒部51との間又はガスケット5の筒部51に相当する。導線Lは、負極集電体6の軸部61に相当する。
【0025】
このように、負極集電体6の鍔部62付近には、局部電池が形成されたために発生したOHが存在することとなる。負極集電体6の鍔部62付近に存在するOHには、負極3内に浸入するものもあるが、負極3内に浸入せずに負極集電体6の鍔部62付近に残存するものもある。そのため、局部電池での電池反応が進行するにつれて、負極集電体6の鍔部62付近に存在するOHの量は増加する。つまり、OHが負極集電体6の鍔部62付近に過剰に存在することになる。電気的中性の状態の方が電気的陰性の状態よりも電気的に安定であるため、負極集電体6の鍔部62付近には陽イオンが必要である。そこで、アルカリ電解液中の陽イオン(例えばK)が、図2(e)に示すように、負極3内から負極集電体6の軸部61とガスケット5の筒部51との間を通って負極集電体6の鍔部62付近へ移動する。
【0026】
負極集電体6の鍔部62付近まで移動したアルカリ電解液中の陽イオンは、図2(f)に示すように、負極端子板7の内面上を移動して負極端子板7のガス抜き孔7aから電池ケース1の外部へ漏れる。つまり、漏液が発生する。
【0027】
以上のことから、本発明者らは、高温多湿下において局部電池が領域IIIに形成されることを防止できれば高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを防止できると考えた。高温多湿下において局部電池が領域IIIに形成される理由は、酸化還元電位が互いに異なる金属が電気的に接続されており、且つ、これらの金属が水分を含む絶縁膜を隔てて配置されているからである。本発明者らは、上記考察をふまえて本発明を完成させた。以下では、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されない。また、以下では、同一部材に対して同一の符号を付している。
【0028】
《発明の実施形態》
図4は、本発明の一実施形態に係るアルカリ電池の半断面図である。図5は、図4に示す領域Vの拡大図である。
【0029】
本実施形態に係るアルカリ電池では、図4及び図5に示すように、正極2と負極3とセパレータ4とアルカリ電解液(不図示)とが電池ケース1内に収容されている。
【0030】
電池ケース1は、正極端子と正極集電体とを兼ねており、例えばニッケルめっき鋼板が所定の寸法及び所定の形状(具体的には一端が封止された筒状)にプレス成形されたものである。電池ケース1の外周面はラベル8で被覆されている。
【0031】
正極2は、円筒状に成形されており、例えば黒鉛膜(不図示)を介して電池ケース1の内周面に密着している。正極2は、正極活物質(例えば電解二酸化マンガンの粉末)、導電剤(例えば黒鉛の粉末)及びアルカリ電解液を含んでおり、さらに、結着剤(例えばポリエチレンの粉末)又は滑沢剤(例えばステアリン酸塩)を含んでいても良い。
【0032】
負極3は、有底筒状のセパレータ4を介して正極2よりも内周側に設けられており、負極活物質(例えば亜鉛合金の粉末)がゲル状物質(例えばポリアクリル酸ナトリウム等のゲル化剤がアルカリ電解液に添加されたもの)に分散されたものである。負極3には、インジウム又はビスマス等の水素過電圧が亜鉛よりも高い金属又はその化合物が添加されていても良く、これにより、負極3の耐食性を向上させることができる。また、負極3には、微量のケイ酸又はその塩等のケイ素化合物が添加されていても良く、これにより、亜鉛デンドライトの発生を抑制することができる。
【0033】
上記亜鉛合金は、耐食性に優れていることが好ましく、環境に配慮して水銀、カドミウム、もしくは鉛、又はそれら全てが無添加であるものを用いることがさらに好ましい。亜鉛合金は、例えば、0.01〜0.1質量%のインジウム、0.005〜0.02質量%のビスマス及び0.001〜0.005質量%のアルミニウムの少なくとも一種を含んでいれば良い。
【0034】
セパレータ4は、有底筒状に成形されており、例えばポリビニルアルコール繊維及びレーヨン繊維を主体として混抄した不織布である。
【0035】
このような正極2、負極3及びセパレータ4にはアルカリ電解液が含まれており、アルカリ電解液は、例えば水酸化カリウムを30〜40質量%含有し、例えば酸化亜鉛を1〜3質量%含有している。
【0036】
電池ケース1には開口1aが形成されており、開口1aは封口ユニット9により封止されている。封口ユニット9は、ガスケット5と負極集電体6と負極端子板7とが一体化されたものである。ガスケット5、負極集電体6及び負極端子板7の各構成を説明しつつ封口ユニット9の構成を説明する。
【0037】
ガスケット5は、開口1aの中央に筒部51を有する。筒部51は電池ケース1の軸方向と平行に延びており、筒部51の封止側端面は負極3に浸漬している。また、筒部51の長手方向には貫通孔51aが形成されている。筒部51よりも開口1aの周縁には周縁部52が設けられており、筒部51と周縁部52とは連結部53を介して連結されている。連結部53は開口1aの径方向に延びており、連結部53の一部分には薄肉部53Aが設けられている。これにより、電池の内圧が上昇したときにはこの薄肉部53Aが破断して内圧の更なる上昇を防止できる。このようなガスケット5は、6,6ナイロン、6,10ナイロン又は6,12ナイロン等のポリアミド樹脂からなる。これにより、ガスケット5を射出成形により、大量に低コストで作製できる。また、6,6ナイロン、6,10ナイロン及び6,12ナイロンの中では、6,12ナイロンが最も低い含水性を有する。よって、ガスケット5が6,12ナイロンからなれば、前述した図3に示す局部電池におけるセパレータSの含水性の低下を図ることができるので、この局部電池での反応を阻害することができる。よって、ガスケット5は、6,12ナイロンからなることが好ましい。
【0038】
負極端子板7は、開口1aの中央に端子部71を有しており、端子部71は、ガスケット5の筒部51の開口側端面に対向している。端子部71よりも開口1aの周縁には周縁部72が設けられており、この周縁部72はガスケット5の周縁部52を介して開口1aにかしめられている。端子部71と周縁部72との間にはガス抜き孔7aが負極端子板7の周方向に間隔を開けて形成されており、これにより、ガスケット5の薄肉部53Aが破断したときには電池ケース1内のガス(例えば水素ガス)をガス抜き孔7aから逃がすことができる。このような負極端子板7は、例えばニッケルめっき鋼板又はスズめっき鋼板等が所定の寸法及び所定の形状にプレス成形されたものである。
【0039】
負極集電体6は、軸部61と鍔部62とを有する釘形である。軸部61は電池ケース1の軸方向に延びており、その一端側はガスケット5の貫通孔51a内に圧入されて負極3内に挿入されている。鍔部62は、軸部61の他端に設けられており、軸部61よりも大径である。この鍔部62は、ガスケット5の筒部51と負極端子板7の端子部71との間に配置されており、詳細には、筒部51とは隙間Gを予め隔てて配置されており、且つ、端子部71に電気的に接続(例えば溶接)されている。このような負極集電体6は、銀、銅又は真鍮等の線材を所定の寸法の釘形にプレス加工されたものである。負極集電体6の表面にはスズ又はインジウム等のメッキが施されていることが好ましく、これにより、負極集電体6の加工時に発生した不純物を排除又は隠蔽できる。
【0040】
このようなアルカリ電池は、次に示す方法に従って作製される。まず、有底円筒形の電池ケース1内にペレット状の正極2を入れた後、正極2を加圧して電池ケース1の内周面に密着させる。次に、正極2の中空部に有底円筒形のセパレータ4を配置し、セパレータ4の中空部に負極3を充填する。また、アルカリ電解液を電池ケース1内に注入する。それから、負極端子板7に接続された負極集電体6の一端側を負極3内に挿入し、電池ケース1の開口1aの縁にガスケット5の周縁部52を介して負極端子板7の周縁部72をかしめる。その後、電池ケース1の外周面をラベル8で被覆する。
【0041】
以下には、本実施形態に係るアルカリ電池を高温多湿下に配置したときに、その電池内での電子及びOHの挙動を示す。図6は、図5に示す領域VIを電気化学的に記載した図である。なお、図6には、負極集電体6の表面に錫がメッキされている場合を記している。
【0042】
高温多湿下では、空気中の水分が負極端子板7のガス抜き孔7aを通って電池ケース1内に浸入し、負極集電体6の鍔部62の表面若しくは負極端子板7の端子部71の内面に付着する又はガスケット5内に浸入する。負極集電体6の鍔部62には負極3内で発生した電子が存在しているので(図2(a))、式1に示す反応が起こる。これにより、負極集電体6の鍔部62付近ではOHが発生する。
【0043】
しかし、本実施形態では、図5に示すように、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62とは隙間Gを隔てて配置されている。つまり、空気中の水分が表面に付着した鍔部62と空気中の水分を含む筒部51との接触を回避できる。そのため、鍔部62付近で発生したOHはガスケット5の筒部51内に浸入し難いので、負極3へ浸入するOHの量を低減できる。これにより、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62とが互いに接触している場合に比べて、式2の進行を遅らせることができる。つまり、図2に示す場合に比べて、負極3内における電子の生成を抑制できる。よって、電子が負極3から負極集電体6の軸部61を通って鍔部62へ供給されることを抑制できるので、式1の進行を遅らせることができる。このように本実施形態では、鍔部62付近でのOHの生成→負極3へのOHの浸入→負極3での電子の生成→鍔部62への電子の移動→鍔部62付近でのOHの生成→・・・という繰り返しが発生する時期を遅らせることができる。従って、領域VIにおける局部電池の形成時期を遅らせることができる。
【0044】
別の言い方をすると、本実施形態では、図6に示すように、水分を含むナイロン膜51’(単に「ナイロン膜51’」と記す)と錫が浸漬された水溶液62’(単に「水溶液62’」と記す)との間には、含水性に優れない領域G’(単に「領域G’」と記す。)が存在する。そのため、水溶液62’中で発生したOHは領域G’を通ってナイロン膜51’へ浸入し難いので、アルカリ性水溶液3’へ浸入するOHの量を低減できる。これにより、ナイロン膜51’と水溶液62’とが接触している場合に比べて、アルカリ性水溶液3’内における電子の生成時期を遅らせることができる。よって、電子がアルカリ性水溶液3’から導線61’内を通って水溶液62’に供給されることを抑制できるので、式1の進行を遅らせることができる。従って、領域VIにおける局部電池の形成時期を遅らせることができる又はその形成を抑制できる。
【0045】
以上のことから、本実施形態では、OHが負極集電体6の鍔部62付近に過剰に存在する時期を遅らせることができるので、アルカリ電解液中の陽イオンがガスケット5の筒部51と負極集電体6の軸部61との間を通って電池ケース1の開口1a側に移動する時期を遅らせることができる。これにより、本実施形態では、図1に示すアルカリ電池に比べて、高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを防止できる又は液漏れ時期を遅らせることができる。例えば高温多湿下での保管時間が比較的短い場合には、アルカリ電解液の漏れを阻止できる。
【0046】
ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間隔(「隙間Gの大きさ」と記す。)が小さすぎると、例えば隙間Gの大きさが0.1mm未満であると、負極集電体6の鍔部62付近で発生したOHが隙間Gを通ってガスケット5の筒部51内へ浸入する場合がある。そのため、隙間Gの大きさは、0.1mm以上であることが好ましく、大きければ大きいほど好ましい。しかし、隙間Gの大きさが大きすぎると、例えば隙間Gの大きさが0.5mmを超えると、電池ケース内において活物質を充填できる空間が狭くなる場合があり、よって、容量低下を引き起こす場合がある。そのため、隙間Gの大きさは0.5mm以下であることが好ましい。以上のことから、隙間Gの大きさは、0.1mm以上であることが好ましく、0.1mm以上0.5mm以下であればさらに好ましい。なお、隙間Gの大きさは、電池ケース1の長さに関係なく上記範囲内にあることが好ましい。
【0047】
以上説明したように、本実施形態では、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62とは隙間Gを隔てて配置されているので、領域VIにおける局部電池の形成時期を図2に示す場合に比べて遅らせることができる。これにより、高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを防止できる又は液漏れ時期を遅らせることができる。
【0048】
また、本実施形態では、アルカリ電池を構成する部材の大きさ及び材料等を変更することなく、高温多湿下における液漏れの防止又は液漏れ時期の遅滞を図ることができる。よって、構成部材の製造条件を変更する必要がなく、また、亜鉛及びアルカリ電解液等に対する耐性を新たに調べる必要がない。よって、コストアップを引き起こすことなく高温多湿下における液漏れの防止又は液漏れ時期の遅滞を図ることができる。
【0049】
さらに、本実施形態では、アルカリ電池の高容量化を図った場合に、大きな効果を得ることができる。以下、簡潔に説明する。
【0050】
昨今、アルカリ電池を大電流領域(電流が0.5A以上の領域)においても使用することが検討されており、よって、アルカリ電池の高容量化が要求されている。活物質の充填量を増加させれば、アルカリ電池の高容量化を図ることが出来る。しかし、活物質の充填量を増加させると、ガスケット5の筒部51が図4に示す場合よりも負極3内に浸漬する場合がある。このような場合であっても、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62とが隙間Gを隔てて設けられているので、領域VIにおける局部電池の形成時期を遅らせることができる。よって、高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを防止できる又は液漏れの時期を遅滞させることができる。よって、本実施形態では、安全性が確保された高容量なアルカリ電池を提供できる。
【0051】
なお、領域VIにおける局部電池の形成時期を遅らせる手段としては、本実施形態で説明した解決手段(ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62とを間隔を開けて配置する)以外に、ガスケット5の筒部51と負極3との接触を回避する、ガスケット5の含水性を低下させる、又は、負極集電体6の鍔部62の酸化還元電位を亜鉛の酸化還元電位以下とする等が考えられる。本発明者らがこの3つの解決手段の実現可能性を検討したところ、何れの解決手段にも以下に示す不具合が確認された。よって、本発明者らは、これら3つの解決手段ではなく本実施形態で説明した解決手段を用いて領域VIにおける局部電池の形成時期を遅らせることが好ましいと考えている。
【0052】
1つ目の解決手段を実現するためには、ガスケット5の筒部51の長さを短くする、又は、負極3の充填高さ(電池の軸方向における負極3の長さ)を低くすれば良い。しかし、ガスケット5の筒部51の長さを短くすると、ガスケット5の筒部51内での水分又はOHの透過距離が短くなる。そのため、逆効果を引き起こす、つまり、領域VIにおける局部電池の形成時期を早めてしまう。また、負極3の充填高さを低くすれば、負極活物質の充填量の低下を引き起こし、アルカリ電池の容量低下を引き起こす。
【0053】
2つ目の解決手段を実現するためには、低い含水性を有する材料を用いてガスケット5を作製すれば良い。しかし、ガスケット5には、カシメ部(周縁部52)が圧縮性に優れていること、電池の内圧上昇に対して安全弁(薄肉部53A)の破断性に優れていること、電気的絶縁性に優れていること、及び、射出成形等により大量に低コストで作製されること等が要求されている。これらの全ての要求を満たす材料は、本実施形態で列挙したポリアミド樹脂である。
【0054】
3つ目の解決手段を実現するためには、負極集電体6(特に鍔部62)の少なくとも表面を亜鉛よりも酸化還元電位が低い金属(例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属若しくはアルミニウム)又は亜鉛と酸化還元電位が同等の金属(例えば亜鉛)で形成すれば良い。しかし、負極集電体6には、抵抗率が低いこと、強度に優れていること、並びに、アルカリ電解液及び亜鉛等との反応性が低いこと等が要求されている。それだけでなく、負極集電体6の表面の材料には、負極集電体6の加工時に発生した不純物の排除又は隠蔽が要求されている。酸化還元電位が亜鉛よりも低い材料又は亜鉛と同一の材料ではこれらの要求の全てを満たすことは難しい。
【0055】
本実施形態に係るアルカリ電池は、以下に示す構成を有していても良い。
【0056】
本実施形態において列挙した電池ケース、正極、負極、セパレータ、ガスケット、負極集電体及び負極端子板の各材料は、一例に過ぎない。また、亜鉛合金を構成する金属の含有量及びアルカリ電解液を構成する化合物の含有量はそれぞれ、一例に過ぎない。
【0057】
ガスケットの筒部の封止側端面は、負極内に浸漬していても良いし、負極内に浸漬していなくても良い。
【0058】
本実施形態に係るアルカリ電池は、以下の第1〜第3の変形例に示す構造を有していても良い。
【0059】
(第1の変形例)
図7は、第1の変形例に係るアルカリ電池内の開口側付近の断面図である。以下では、上記実施形態とは異なる部分を主に記す。
【0060】
本変形例に係るアルカリ電池では、図7に示すように、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間(上記実施形態における隙間Gに相当)に封止剤10が設けられている。封止剤10は、絶縁性を有しているとともにガスケット5よりも含水性に劣る材料であれば良く、その中でもクロロスルホン化ポリエチレン樹脂又はアスファルトを用いることが好ましい。
【0061】
封止剤10としてクロロスルホン化ポリエチレン樹脂を用いると、次に示す効果を得ることができる。クロロスルホン化ポリエチレンは、熱安定性に優れるので高温時に軟化して流動することが抑制され、よって、封止剤10の安定した撥水性を確保できる。また、クロロスルホン化ポリエチレンは、分子間力を介してポリアミド樹脂(ガスケット5の材料)に結合されるので、封止剤10をガスケット5に密着させることができる。さらに、クロロスルホン化ポリエチレン樹脂は撥水性に優れているので、封止剤10の表面に水分又はOHが付着することを防止でき、従って、OHがガスケット5の筒部51と負極集電体6の軸部61との間を通って負極3内に浸入することを防止できる。
【0062】
封止剤10としてアスファルトを用いると、次に示す効果を得ることができる。アスファルトは耐熱性に優れているので、封止剤10の耐熱性を向上させることができる。また、アスファルトは分子間力を介してポリアミド樹脂(ガスケット5の材料)に結合されるので、封止剤10をガスケット5に密着させることができる。さらに、アスファルトは撥水性に優れているので、封止剤10の表面に水分又はOHが付着することを防止でき、従って、OHがガスケット5の筒部51と負極集電体6の軸部61との間を通って負極3内に浸入することを防止できる。
【0063】
このような封止剤10は、以下に示す何れかの方法に従ってガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間に設けられれば良い。封口ユニット9を作製してからガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間に封止剤10を設けても良い。ガスケット5の筒部51の開口側端面上に封止剤10を設けてから負極集電体6の軸部61をガスケット5の筒部51の貫通孔51a内に圧入しても良い。又は、負極集電体6の鍔部62の封止側端面上に封止剤10を設けてから負極集電体6の軸部61をガスケット5の筒部51の貫通孔51a内に圧入しても良い。
【0064】
以下では、本変形例に係るアルカリ電池を高温多湿下に配置したときに、その電池内での電子及びOHの挙動を示す。図8は、図7に示す領域VIIIを電気化学的に記載した図である。なお、図8には、負極集電体6の表面に錫がメッキされている場合を記している。
【0065】
高温多湿下では、空気中の水分が負極端子板7のガス抜き孔7aを通って電池ケース1内に浸入する。本変形例では、負極集電体6の鍔部62の封止側端面が封止剤10で被覆されている。よって、電池ケース1内に浸入した水分が鍔部62の封止側端面に付着することを防止できる。従って、負極集電体6の鍔部62付近におけるOHの生成量を上記実施形態よりも抑えることができる。
【0066】
また、本変形例では、図7に示すように、封止剤10がガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間に設けられている。封止剤10は、ガスケット5よりも含水性に劣る。そのため、負極集電体6の鍔部62付近で発生したOHは、上記実施形態に比べてさらに、ガスケット5の筒部51内に浸入し難い。別の言い方をすると、本変形例では、図8に示すように封止膜10’(封止膜10’はナイロン膜51’よりも含水性に劣る)が領域G’内に設けられているので、水溶液62’中で発生したOHは図6に示す場合に比べてさらにナイロン膜51’へ浸入し難い。
【0067】
それだけでなく、本変形例では、封止剤10がガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間に設けられているので、負極集電体6の鍔部62付近で発生したOHはガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間を通って負極3内に浸入し難い。このように本変形例では、OHがガスケット5の筒部51内を通って負極3内に浸入することを防止できるだけでなく、OHがガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間を通って負極3内に浸入することも防止できる。よって、負極3へ浸入するOHの量を上記実施形態よりも抑えることができる。
【0068】
以上のことから、本変形例では、領域VIIIにおける局部電池の形成時期を上記実施形態よりもさらに遅らせることができる又はその形成を抑制できる。従って、高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを上記実施形態よりもさらに防止できる又は液漏れ時期を上記実施形態よりもさらに遅らせることができる。
【0069】
なお、本変形例は、以下に示す構成を有していても良い。
【0070】
封止剤10は、隙間G(図5参照)内に充填されていなくても良く、隙間G内における径方向の一部分のみに設けられていても良い。例えば、封止剤10は、隙間G内における径方向外側のみに設けられていても良いし、隙間G内における径方向内側のみに設けられていても良い。しかし、封止剤10が隙間G内における径方向内側のみに設けられていれば、負極集電体6の鍔部62のうち封止剤が設けられていない部分(隙間G内における径方向外側)に空気中の水分が付着する場合があり、よって、その部分においてOHが発生する場合がある。一方、封止剤10が隙間G内における径方向外側に設けられていれば、負極集電体6の鍔部62のうち封止剤が設けられていない部分(隙間G内における径方向内側)に空気中の水分が付着することを防止できるので、その部分においてOHが発生することを抑制できる。よって、封止剤10は、少なくとも隙間G内における径方向外側に設けられていることが好ましい。
【0071】
(第2の変形例)
図9は、第2の変形例に係るアルカリ電池内の開口側付近の断面図である。以下では、上記第1の変形例とは異なる部分を主に記す。
【0072】
本変形例では、封止剤10は、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間だけでなく、負極集電体6の鍔部62の表面全体を被覆している。よって、負極端子板7のガス抜き孔7aから電池ケース1の内部に浸入した水分が負極集電体6の鍔部62の表面上に付着することを防止できる。従って、負極集電体6の鍔部62付近におけるOHの生成量を上記第1の変形例よりもさらに抑えることができる。これにより、本変形例では、電池内における局部電池の形成時期を上記第1の変形例よりもさらに遅らせることができる又はその形成を上記第1の変形例よりもさらに抑制できる。よって、高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを上記第1の変形例よりもさらに防止できる。
【0073】
このような封止剤10は、封口ユニット9を作製してから負極集電体6の鍔部62の表面に被覆されても良いし、封口ユニット9を作製する前に負極集電体6の鍔部62の表面に被覆されても良い。
【0074】
本変形例では、封止剤10は、上記第1の変形例で示した理由と同一の理由から、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間に充填されていなくても良い。
【0075】
(第3の変形例)
図10は、第3の変形例に係るアルカリ電池内の開口側付近の断面図である。以下では、上記第1の変形例とは異なる部分を主に記す。
【0076】
本変形例では、封止剤10は、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間だけでなく、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の軸部61との間にも設けられている。
【0077】
本変形例では、封止剤10を負極集電体6の軸部61の他端側と負極集電体6の鍔部62の下面との両方に塗布してから、負極集電体6の軸部61の負極集電体6の軸部61の一端側をガスケット5の筒部51に圧入すれば良い。しかし、大量の封止剤10を負極集電体6の軸部61の他端側に塗布すれば、例えば前述の方法で負極集電体6の軸部61の他端側に塗布する封止剤10の1.5倍〜3倍程度の量の封止剤10を負極集電体6の軸部61の他端側に塗布すれば、封止剤10を負極集電体6の鍔部62の下面上に設けることなく本変形例における封口ユニットを作製できる。詳細には、負極集電体6の軸部61をガスケット5の筒部51に圧入すると、封止剤10の一部は、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の軸部61との間からはみ出る。はみ出した封止剤10は、負極集電体6の軸部61の圧入方向に従って、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間へ移動する。よって、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間に封止剤10を設けることができる。このように、ガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間に設けられる封止剤10の量は、負極集電体6の軸部61の他端側に塗布された封止剤10の量に依存する。
【0078】
なお、本変形例では、封止剤10は、上記第1の変形例で示した理由と同一の理由からガスケット5の筒部51と負極集電体6の鍔部62との間に充填されていなくても良い。
【実施例】
【0079】
本実施例では、アルカリ電池の耐漏液性を調べて本発明における効果を確認した。
【0080】
[アルカリ電池の作製方法]
(電池1)
1.アルカリ電解液の作製方法
水酸化カリウムと酸化亜鉛と水とを32:2:66の質量比で混合した。このようにしてアルカリ電解液を調製した。
【0081】
2.正極の作製方法
電解二酸化マンガン(平均粒径が38μm)と黒鉛(平均粒径が17μm)とを所定の質量比で混合し、混合物を得た。得られた混合物とアルカリ電解液とを100:2の質量比で混合してから充分に攪拌し、フレーク状に圧縮成形した。
【0082】
このフレーク状材料を粉砕して顆粒状としてから、篩を用いて分級し10〜100メッシュを通過するものを選んだ。選んだ顆粒状材料を中空円筒状に加圧成形した。これにより、ペレット状の正極を得た。
【0083】
3.負極の作製方法
まず、0.020質量%のインジウムと0.010質量%のビスマスと0.004質量%のアルミニウムとを含有する亜鉛合金の粉末を用意した。この粉末には、体積平均粒子径が160μmであり粒子径が75μm以下である粒子が35%含まれていた。
【0084】
次に、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末(ゲル化剤)とアルカリ電解液と上記亜鉛合金の粉末とを0.8:33.6:65.6の質量比で混合した。これにより、負極が得られた。
【0085】
4.アルカリ電池の作製方法
まず、ニッケルめっき鋼板をプレス成形して、有底円筒形の電池ケースを作製した。作製された電池ケースの側面の厚さは0.18mmであり、電池ケースの高さは49.6mmであった。
【0086】
次に、上記で得られたペレット状の正極を電池ケース内に2個挿入し、加圧治具を用いてその正極を加圧して電池ケースの内壁に密着させた。
【0087】
続いて、正極の中空部に、有底円筒形のセパレータを配置した。セパレータとしては、ポリビニルアルコール繊維及びレーヨン繊維を主体として混抄された不織布を用いた。
【0088】
それから、セパレータ内に1.6gのアルカリ電解液を注入した。注液後暫くしてから、電池ケース内における高さが41mmとなるまで上記で得られた負極をセパレータよりも内周側に充填した。
【0089】
その後、封口ユニットを作製した。まず、6,6−ナイロンからなるガスケット、釘形の真鍮線(太さが1.425mmであり、長さが33mm)の表面に錫がメッキされた負極集電体、及び、ニッケルめっき鋼板が所定の形状にプレス成形された負極端子板を準備した。次に、負極集電体の鍔部と負極端子板の端子部とをスポット溶接させてから、負極集電体の一端側をガスケットの筒部の貫通孔内に圧入させた。このとき、負極集電体の鍔部とガスケットの筒部とを隙間を隔てて配置し、その隙間の大きさを0.1mmとした。このようにして封口ユニットを作製した。
【0090】
そして、作製された封口ユニットを用いて電池ケースの開口を封じた。具体的には、負極端子板に接続された負極集電体を負極内に挿入し、電池ケースの開口の縁にガスケットの周縁部を介して負極端子板の周縁部をかしめた。それから、電池ケースの外表面に外装ラベルを被覆した。このようにして、電池1を作製した。
【0091】
(電池2)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔を0.3mmとしたことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池2を作製した。
【0092】
(電池3)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔を0.5mmとしたことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池3を作製した。
【0093】
(電池4)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔を0.7mmとしたことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池4を作製した。
【0094】
なお、封口ユニットによる封口をスムーズに行うために、負極の充填高さを上記電池1よりも1mm低くした。
【0095】
(電池5)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間にクロロスルホン化ポリエチレン樹脂(株式会社スリーボンド製のグレードTB1194E)を充填したことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池5を作製した。
【0096】
(電池6)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔を0.3mmとしたことを除いては上記電池5と同様の方法に従って、電池6を作製した。
【0097】
(電池7)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔を0.5mmとしたことを除いては上記電池5と同様の方法に従って、電池7を作製した。
【0098】
(電池8)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔を0.7mmとしたことを除いては上記電池5と同様の方法に従って、電池8を作製した。
【0099】
なお、封口ユニットによる封口をスムーズに行うために、負極の充填高さを上記電池5よりも1mm低くした。
【0100】
(電池9)
負極集電体の鍔部の表面全体を上記クロロスルホン化ポリエチレン樹脂で覆ったことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池9を作製した。
【0101】
(電池10)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間にアスファルト(中?炭素化学(株)製)を充填したことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池10を作製した。
【0102】
(電池11)
6,12ナイロンからなるガスケットを用いたことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池11を作製した。
【0103】
(電池12)
6,12ナイロンからなるガスケットを用いたことを除いては上記電池5と同様の方法に従って、電池12を作製した。
【0104】
(電池13)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部とを互いに接触させた(負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔が0mmである)ことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池13を作製した。
【0105】
(電池14)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔を0.05mmとしたことを除いては上記電池1と同様の方法に従って、電池14を作製した。
【0106】
(電池15)
負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間に上記クロロスルホン化ポリエチレン樹脂を充填させたことを除いては上記電池14と同様の方法に従って、電池15を作製した。
【0107】
[アルカリ電池の耐漏液性を調べる試験方法]
上記方法に従って作製した電池1〜電池15を60℃90%RH(Relative Humidity)の試験槽に一定期間保管してから取り出し、漏液の有無を調べた。その結果を図11に示す。なお、図11における「スルホン化PE」は、クロロスルホン化ポリエチレンを意味している。
【0108】
また、電池1、電池5、電池9及び電池13については、上記試験槽に一定期間保管してから取り出して、負極集電体の鍔部付近におけるOH及びKの有無を調べた。具体的には、クレゾールレッド液を用いてOHの有無を調べた。クレゾールレッド液によりOHが検出されたときには、EDS(Energy Dispersed Spectroscopy)によりKの有無を調べた。その結果を図12に示す。なお、図12における「検出されず」は、OHとKとの両方が検出されなかったことを意味している。
【0109】
図11に示すように、電池1〜電池4及び電池11については、60℃90%RHの環境下で2ヶ月放置してもアルカリ電解液が漏れず、電池5〜電池10及び電池12については、60℃90%RHの環境下で3ヶ月以上放置してもアルカリ電解液が漏れなかった。一方、電池13〜電池15については、60℃90%RHの環境下で1ヶ月放置するとアルカリ電解液が漏れた。その理由は、上記実施形態等で説明したように、電池1〜電池12ではガスケットの筒部と負極集電体の鍔部との間隔が0.1mm以上であるので電池内における局部電池の形成を防止できる又はその形成時期を遅らせることができるのに対して、電池13〜電池15では上記間隔が0.1mm未満であるので局部電池が電池内に形成されるからである。
【0110】
電池14の液漏れ時期は、電池13の液漏れ時期よりも遅かったが、電池1の液漏れ時期よりも早かった。このことからも、負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間隔が0.1mm以上であることが好ましいことを確認できた。また、電池1〜電池4の結果と電池5〜電池8の結果とを比較すると、又は、電池1の結果と電池10の結果とを比較すると、負極集電体の鍔部とガスケットの筒部との間にクロロスルホン化ポリエチレン樹脂又はアスファルトを充填した方が好ましいことを確認できた。
【0111】
電池1の結果と電池11の結果とから、ガスケットの材料としては6,12ナイロンを選択した方が好ましいことを確認できた。その理由は、6,12ナイロンの方が6,6ナイロンよりも含水性に優れないので局部電池の形成を防止できる又はその形成時期を遅らせることができるからである。
【0112】
なお、電池1〜電池8の放電容量を測定すると、電池4の放電容量は電池1〜3の放電容量よりも小さく、電池8の放電容量は電池5〜7の放電容量よりも小さかった。その理由は、封口ユニットによる封口をスムーズに行うために、電池4及び電池8における負極の充填高さを電池1〜3及び電池5〜7における負極の充填高さよりも低くしたからである。
【0113】
図12に示すように、電池1を60℃90%RHの環境下で1ヶ月保管しても漏液は確認されず、電池5を60℃90%RHの環境下で1ヶ月保管してもK+は検出されず、電池9を60℃90%RHの環境下で1ヶ月保管してもOH及びK+は検出されなかった。これらのことから、電池1でも高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを抑制できるが、電池5の方が電池1よりも高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを抑制でき、電池9の方が電池5よりも高温多湿下におけるアルカリ電解液の漏れを抑制できることを確認できた。
【0114】
一方、電池12を60℃90%RHの環境下で保管すると、翌日にはOHが検出され、1週間後にはKも検出された。このことから、OHが負極集電体の鍔部に発生してからKが負極から負極集電体の鍔部へ移動したことが確認された。また、Kはガスケット内から検出されなかったため、Kはガスケットの筒部と負極集電体の軸部との間を通って負極集電体の鍔部付近へ移動したことが確認された。
【0115】
なお、本変形例では、高温多湿下における単3形アルカリ電池の耐漏液性について示したが、本発明者らは、電池の大きさを変更した場合であっても(例えば単1形アルカリ電池、単2形アルカリ電池及び単4形アルカリ電池であっても)図11及び図12に示す結果と同様の傾向が得られると考えている。
【産業上の利用可能性】
【0116】
以上説明したように、本発明は、アルカリ電池に有用であり、特に高温多湿下で使用するアルカリ電池に有用である。
【符号の説明】
【0117】
1 電池ケース
2 正極
3 負極
4 セパレータ
5 ガスケット
51 筒部
6 負極集電体
61 軸部
62 鍔部
7 負極端子板
9 封口ユニット
10 封止剤
G 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とセパレータと電解液とが電池ケース内に収容され、負極集電体が接続された負極端子板とガスケットとにより前記電池ケースの開口が封じられたアルカリ電池であって、
前記負極集電体は、軸部と鍔部とを有し、前記軸部の一端側は、前記負極内に設けられており、前記鍔部は、前記軸部の他端に設けられており、
前記ガスケットは、ポリアミド樹脂からなり、前記負極集電体の前記軸部が圧入される筒部を有し、
前記負極端子板は、前記負極集電体の前記鍔部に対して前記ガスケットの前記筒部とは反対側に配置されており、
前記負極集電体の前記鍔部と前記ガスケットの前記筒部とは間隔を開けて配置されているアルカリ電池。
【請求項2】
請求項1に記載のアルカリ電池であって、
前記負極集電体の前記鍔部と前記ガスケットの前記筒部との間隔は0.1mm以上であるアルカリ電池。
【請求項3】
請求項2に記載のアルカリ電池であって、
前記負極集電体の前記鍔部と前記ガスケットの前記筒部との間隔は0.5mm以下であるアルカリ電池。
【請求項4】
請求項1に記載のアルカリ電池であって、
前記負極集電体の前記鍔部と前記ガスケットの前記筒部との間に、封止剤が設けられているアルカリ電池。
【請求項5】
請求項4に記載のアルカリ電池であって、
前記封止剤は、前記前記負極集電体の前記鍔部と前記ガスケットの前記筒部との間に、充填されているアルカリ電池。
【請求項6】
請求項4に記載のアルカリ電池であって、
前記封止剤は、前記負極集電体の前記鍔部を被覆しているアルカリ電池。
【請求項7】
請求項4に記載のアルカリ電池であって、
前記封止剤は、クロロスルホン化ポリエチレン樹脂又はアスファルトであるアルカリ電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−119153(P2011−119153A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276536(P2009−276536)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】