説明

アルキルハロシランの直接合成法

ハロゲン化アルキルと、ケイ素及び触媒系から構成される固形接触体とを反応させることによるアルキルハロゲノシランの製造方法であって、前記触媒系が(α)銅触媒及び(β)促進用添加剤群を含み、この促進用添加剤群(β)が、金属亜鉛、亜鉛をベースとする化合物及びそれらの混合物から選択される添加剤β1、スズ、スズをベースとする化合物及びそれらの混合物から選択される添加剤β2、並びに随意としての、セシウム、カリウム、ルビジウム、リン、これらの金属/半金属から誘導される化合物及びそれらの混合物から選択される添加剤β3を含有し、該方法が、前記銅触媒(α)がハロゲン化第一銅ビーズの形にあり、該ビーズが、0.6〜1の範囲内の球形度ファクター、D50値が50〜1500μmの範囲内である粒子寸法分布、0.1〜10μmの範囲の孔直径について0.2ミリリットル/g以下の多孔質テキスチャー、及び8以上の流動性を有することを特徴とする、前記製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキルハロシラン類の直接合成のために実施される工業的プロセスに関する改良に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキルハロシラン類、例えばジメチルジクロロシラン(以下、DMDCSと称する)の製造のための工業的プロセスは、特に米国特許第2380995号明細書及びWalter Nollの著書「Chemistry and Technology of Silicones」(1968年、英国ロンドン所在のAcademic Press社発行、第26〜41頁)に記載されたよく知られた方法である。
【0003】
この「直接合成」又は「Rochow合成」法に従えば、アルキルハロシラン類、例えばDMDCSは、次の反応に従ってケイ素及び銅含有触媒から成る固形接触体(solid contact body)に塩化メチルを反応させることによって直接製造される。
【化1】

【0004】
実際は、この直接合成の際に、下に挙げるもののような他の副産物が生成する:他のアルキルハロシラン、例えばメチルトリクロロシランCH3SiCl3(以下、MTCSと称する)及びトリメチルクロロシラン(CH3)3SiCl(以下、TMCSと称する);ハロゲン化アルキルヒドロシラン、例えばメチルヒドロジクロロシラン(CH3)HSiCl2(以下、MHDCSと称する);並びに重質生成物(これはポリシラン及び特にジシラン、例えばトリメチルトリクロロジシラン(CH3)3Si2Cl3及びジメチルテトラクロロジシラン(CH3)2Si2Cl4
【0005】
直接合成によって得られるすべての生成物の中で、ジアルキルジハロシラン、例えばDMDCSは、主要生成物、即ち主要量で得られる生成物である。この生成物は、加水分解及び重合の後に、シリコーンの製造のための基礎(ベース)物質であるオイル及びガムを得ることを可能にするので、非常に望ましい。
【0006】
この直接合成反応の触媒として、金属銅の形又は銅をベースとする化合物(即ち銅化合物)の形の銅を用いることが知られている。
【0007】
また、直接合成の性能を経済的に成り立つレベルにする目的で、前記の銅に1種以上の促進用添加剤を含む促進剤組合せ物を添加することも知られている。これらの添加剤は、亜鉛若しくはハロゲン化亜鉛(米国特許第2464033号明細書)、アルミニウム(米国特許第2403370号及び同第2427605号の両明細書)、スズ、マンガン、ニッケル及び銀(英国特許第1207466号明細書)、コバルト(英国特許第907161号明細書)、塩化カリウム(ソビエト連邦特許第307650号明細書)又はヒ素若しくはヒ素化合物(米国特許第4762940号明細書)であることができる。
【0008】
しかしながら、従来技術において提供されている触媒系(促進剤組合せ物との混合物としての銅触媒)のあらゆる利点にも拘らず、これまでに知られている最も良好な触媒系(特に銅、亜鉛及びスズを含む触媒系)によって得られるものよりさらに良好な性能を得るために、当技術分野において研究が続けられている。
【0009】
金属銅(Cu0)に加えて、様々な銅源、主に塩化第一銅(CuCl)及び酸化銅を用いることができる。
【0010】
CuClは、金属銅と比較して活性又は反応性(例えば最初に用いたケイ素1kg当たりに1時間で得られるシランの重量によって評価される)及び選択性(例えば得られたシランに対する生成したDMDCSの重量百分率によって評価される)の向上をもたらすことが知られている。CuClはまた、反応開始までの時間を短縮すること、及びこの開始時間の間に生成する副生成物の量を減らすこともできる。実際、この直接合成反応を実施するためには、よく知られているように、接触体(ケイ素+触媒+随意としての促進剤をベースとする組合せによって構成される)の初期活性化工程を前もって実施するのが有利である。特に好適な活性化手段の内の1つは、前記接触体を直接合成反応のために選択される温度より数度〜数十度低い又は高いことができる所定温度にすることから成ることができる。
【0011】
多くの研究者がこの開始時間に関心を持ってきた。この開始時間は、CuClとケイ素との間の反応に相当し、活性部位の形成をもたらす。この反応のメカニズムは、50年以上の研究によってもまだ定かではない。2つの反応モデルが今日考えられている:
【0012】
Tamhankar S.S.、Gokkarn A.N.及びDoraiswamy L.K.は1981年にChem. Eng. Sci., 36, 1365-1372に2段階メカニズムを提唱している。第1段階は、ケイ素によってCuClが還元されて金属銅及びSiCl4を生成し、次いで銅がケイ素中に拡散することによってCu3Siを生成するものである。
【化2】

【0013】
Weber G.、Vile D.、Souha M.及びGuillot B.は1988年にC.R. Acad. Sci. Paris, Vol. 307, Series II, pages 1155-1161に、金属銅が最終生成物である反応経路を提唱している。
【化3】

【0014】
CuClの濃度、粉体の混合及び粉砕操作、ケイ素上のSiO2の層の厚さ、温度並びに圧力のような多くのファクターが、SiとCuClとの間の反応に影響を及ぼす。
【0015】
銅とCuClとの間の反応の開始工程を明確にすることを目指した近年の研究が発表されている:Acker J.、Kohter S.、Lewis K.M.及びBohmhammel K.、2003年、Silicon Chemistry, 2, 195-206。これらの研究の主な結論は、塩化銅とケイ素との間の反応は固体状態で起こるということである。従って、CuClの表面特性のほんの僅かな変化が反応性の変化をもたらす。
【特許文献1】米国特許第2380995号明細書
【特許文献2】米国特許第2464033号明細書
【特許文献3】米国特許第2403370号明細書
【特許文献4】米国特許第2427605号明細書
【特許文献5】英国特許第1207466号明細書
【特許文献6】英国特許第907161号明細書
【特許文献7】ソビエト連邦特許第307650号明細書
【特許文献8】米国特許第4762940号明細書
【非特許文献1】Walter Noll, Chemistry and Technology of Silicones, 1968, published by Academic Press Inc., London, pages 26-41
【非特許文献2】Tamhankar S.S., Gokkarn A.N. and Doraiswamy L.K., 1981, Chem. Eng. Sci., 36, 1365-1372
【非特許文献3】Weber G., Vile D., Souha M. and Guillot B., 1988, C.R. Acad. Sci. Paris, Vol. 307, Series II, pages 1155-1161
【非特許文献4】Acker J., Kohter S., Lewis K.M. and Bohmhammel K., 2003, Silicon Chemistry, 2, 195-206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
これらの事実に基づいて、用いるCuClの比表面積がその反応性の鍵となるパラメーターであると予測でき、このことは理論上から我々を、ケイ素との接触のための高い表面積を提供する微粒子を使用する方向に向かわせる。
【0017】
しかしながら、工業上の実施の理由で本出願人は、この製品を新たにビーズの形状にして試験した。これらの球状ビーズは平滑な平面を有し、霧化又は「プリリング(小球状化)」プロセスから得られる。これらは、粒子寸法が小さい粉体と比較してより良好な流動性をもたらし且つ粉塵を少なくするという利点を示す。他方、それらの比表面積が小さいこと、及び固体/固体反応の開始を促進することが知られている表面の不規則性(でこぼこ)がないことから、本出願人は、特に反応性及び選択性に関しては凡庸な結果が得られると予測した。
【0018】
驚くべきことに、
・直接合成反応を実施するために用いる銅触媒がハロゲン化第一銅ビーズの形で用いられた場合には、
・該ビーズは、直接合成反応の反応性や選択性を低下させることなく、空気圧式輸送における劣った流動性及び取扱いの際の粉塵発生に関連する制約をなくし、それによって工業的なCuClの使用が促進されるのが観察される:
ということがここに見出され、これが本発明の主題事項を構成する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
従って、本発明は、ハロゲン化アルキル(好ましくはCH3Cl)と、ケイ素及び触媒系から構成される固形物体(接触体と称する)との反応によってアルキルハロシランを製造するための方法を提供するものであり、前記触媒系は、(α)銅触媒及び(β)促進用添加剤群を含み、この促進用添加剤群(β)は、
・金属亜鉛、亜鉛をベースとする化合物(即ち亜鉛化合物)及びそれらの混合物から選択される添加剤β1、
・スズ、スズをベースとする化合物(即ちスズ化合物)及びそれらの混合物から選択される添加剤β2、
・随意としての、セシウム、カリウム、ルビジウム、リン、これらの金属/半金属から誘導される化合物及びそれらの混合物から選択される添加剤β3
を含み、
この直接合成法は、銅触媒(α)がハロゲン化第一銅ビーズの形にあり、該ビーズが次の仕様:
・0.6〜1の範囲内の球形度ファクター;
・D50値が50〜1500μmの範囲内である粒子寸法分布(後記の霧化法によって50μmの限度以下に下げるのは技術的に困難であり;1500μmの限度以上では反応性が失われる);
・0.1〜10μmの範囲の孔直径について0.2ミリリットル/g以下の多孔質テキスチャー(下限は0に等しいほど小さいことができる);及び
・8以上の流動性{上限に関しては、当業者であれば、(下に規定するような)凝集力が0に近づいていく場合には無限に大きいことができるということを知っている}:
を示すことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
I−測定及び用いた試験:
【0021】
(A)球形度ファクター
【0022】
霧化、スプレー乾燥、スプレー冷却又はプリリングによって製造した物品は、球形状を示す。物品の球形度を量化する(数値で表わす)ために、画像解析による次の手順を用いる。最低100個の物品に対して、各物品について、小さい直径及び大きい直径の特徴的長さを測定する。各物品について、小さい直径対大きい直径の比を球形度ファクターと規定する。完全な球については、この比は1である。可変的な形状の粒子については、この比は1未満であり、完全な球形度に近づくにつれて1に近づいていく。
【0023】
採取した100個の物品について、直径の比に従ってこの球形度ファクターを計算し、球形度ファクターの平均を求める。これを行うためには、それ自体知られた態様で、粒子のサンプルを、画像解析装置に連結した光学顕微鏡下に置いたガラスプレート上に分散させる。また、「Silicon for the Chemical Industry」, II, Loen, Norway, 8-10 June 1994, by Oye H.A., Rong H.M., Nygaard L., Schussler G. and Tusset J.Kr., Tapir Vorlag Trondheimに記載された手順を用いることも可能である。
【0024】
(B)粒子寸法分布:
【0025】
物品の粒子寸法分布は、Malvern粒子寸法測定器についてのSirocco乾式経路モジュール(圧力条件:3バール)を用いたレーザー回折による測定によって得られる。本明細書において用いられる量は、D10値{粒子の10重量%がこの値D10(μm)未満の直径を有するという値}、D50値{粒子の50重量%がこの値D50(μm)未満の直径を有するという値}及びD90値{粒子の90重量%がこの値D90(μm)未満の直径を有するという値}に関する。分布の広がりを定量化する変動係数は次のように規定される。
【数1】

【0026】
レーザー回折による粒子寸法分析は、AFNOR規格NF ISO 13320-1の手順に従って実施する。
【0027】
(C)多孔質テキスチャー
【0028】
物品の多孔質テキスチャーは、Micromeritics社からのAutopore IV装置を用いた水銀多孔度測定により決定される。これは、(粒子間又は粒子内の)孔ネットワーク中への水銀の侵入に基づく方法である。この侵入は、圧力の上昇によって管理される。用いる圧力範囲は、0.003MPa〜400MPaである。Washburnの式によって、孔の直径(2r)と加える圧力とが容易に結びつけられる。
【数2】

【0029】
水銀について考慮に入れたパラメーターはそれぞれ:表面張力γLVについて485×10-5N/cm及び濡れ角度θの値について130°である。結果は、加えた圧力の関数として(従って孔の直径の関数として)のサンプル1g当たりに圧入された水銀の容量として表わされる。
【0030】
水銀多孔度測定は、当業者によく知られた技術概念である:さらなる詳細については、特にGomez F., Denoyel R. and Rouquerol J., Langmuir, 16, 3474 (2000)の論文を参照することができる。
【0031】
(D)流動性:
【0032】
粉体の流動性は、輪状セル(ドイツ国のD. Schulze社より販売)でサンプルを剪断することによって測定される。4.3kgの重量に匹敵する垂直応力(法線応力)で、81cm2の表面積のセルに対して、粉体の予備剪断を行った。予備剪断の応力以下の4通りの応力について(典型的には0.4kg、0.7kg、1.7kg及び2.5kgの重量に匹敵する重応力について)、サンプルの破壊包絡線をプロットするための剪断点を得る。モールの円(垂直応力の関数としての剪断応力の図中)から、破壊包絡線上に2通りの応力が得られる[一方は、予備剪断点を通る大きいモール円の端であって主方向における垂直応力と称されるものであり、もう一方は小さいモール円(破壊包絡線に接し、原点を通る円)の端であって凝集力と称されるものである]。主方向における垂直応力対凝集力の比は無次元数であり、流動性指数と言う。Jenikeスケールから、粉体の流動性を前記指数の値の関数として分類することが可能である。
【0033】
i<2 流動しない高凝集性物質
2<i<4 凝集性物質
4<i<10 容易に流動する物質
i>10 自由に流動する物質又はさらさらした物質。
【0034】
粉体の流動性は、当業者にもよく知られた技術概念である:さらなる詳細については、特に「Standard shear testing technique for particulate solids using the Jenike shear cell」, published by The Institution of Chemical Engineers, 1989 (ISBN: 0 85295 232 5)を参照することができる。
【0035】
II−銅触媒(α)についての本発明の実施条件:
【0036】
本発明の好ましい実施形態に従えば、前記の銅触媒(α)は、ハロゲン化第一銅ビーズの形にあり、該ビーズは次の仕様:
・0.8〜1の範囲内の球形度ファクター;
・D50値が50〜800μmの範囲内である粒子寸法分布;
・0.1〜10μmの範囲の孔直径について0.1ミリリットル/g以下の多孔質テキスチャー;及び
・10以上の流動性:
を示す。
【0037】
本発明のより一層好ましい実施形態に従えば、前記の銅触媒(α)は、ハロゲン化第一銅ビーズの形にあり、該ビーズは次の仕様:
・0.9〜1の範囲内の球形度ファクター;
・D50値が50〜500μmの範囲内である粒子寸法分布;
・0.1〜10μmの範囲の孔直径について0.05ミリリットル/g以下の多孔質テキスチャー;及び
・12以上の流動性:
を示す。
【0038】
前記銅触媒(α)は一般的に、用いるケイ素の重量に対して1〜20%、好ましくは2〜12%の重量含有率で用いられる。
【0039】
III−本発明を実施するためのその他の条件
【0040】
上に規定した実施形態に従えば、触媒系は追加的に金属亜鉛及び/又は亜鉛化合物をベースとする促進用添加剤β1を含む。好ましくは、金属亜鉛及び/又は塩化亜鉛を用いる。
【0041】
促進用添加剤β1は、(用いるケイ素の重量に対する金属亜鉛として計算して)0.01〜2%、好ましくは0.02〜0.5%の範囲内の重量含有率で存在させる。亜鉛の90重量%まで、好ましくは亜鉛の50重量%までを、銅の塩素化を触媒し且つ/又は銅塩及び/若しくはアルカリ金属塩と共に低融点の共晶若しくは相を形成する別の金属に置き換えることができる。好適な金属としては、カドミウム、アルミニウム、マンガン、ニッケル及び銀を挙げることができる。
【0042】
スズ及び/又はスズ化合物(促進用添加剤β2、その含有率は、金属スズの重量として計算される)の重量含有率は、用いるケイ素の重量に対して10〜500ppmの範囲内、好ましくは30〜300ppmの範囲内とする。
【0043】
少なくとも10ppmの金属スズを用いることが必要である。さらに、500ppmを超える重量含有率は、反応に対して、特に選択性に対して、有害作用を及ぼしてしまう。スズ化合物としては、例えば塩化スズを用いる。好ましく用いられる促進用添加剤β2は、金属スズである;有利には、この金属スズは青銅の形で添加することができる。
【0044】
用いる場合の随意としての促進用添加剤β3に関しては、以下の点を明確にしておく:
・金属タイプの促進用添加剤β3の重量含有率は、(用いるケイ素の重量に対するアルカリ金属の重量として計算して)0.01〜2重量%の範囲、好ましくは0.05〜1.0重量%の範囲とする;0.01重量%より低いとアルカリ金属の作用が検出できなくなり、2重量%より高いとアルカリ金属は選択性に対して期待される効果がない;
・Cs、K及びRbから選択されるアルカリ金属の化合物としては、ハロゲン化物(例えば塩化物)、カルボン酸塩(例えばギ酸塩又は酢酸塩)を用いることができる;金属タイプの促進用添加剤β3として好ましく用いられるものは、塩化セシウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム及び/又はこれらの化合物の混合物である;
・促進用添加剤β3が半金属タイプのものである場合、その重量含有率は、(用いるケイ素の重量に対する元素状リンの重量として計算して)50〜3000ppmの範囲、好ましくは80〜1500ppmの範囲、さらにより一層好ましくは90〜800ppmの範囲とする;50ppmより低いとリンの作用が検出できなくなり、3000ppmより高いとリンは生産高を減らす有害作用を有する;
・促進用添加剤として用いるリンは、元素状リン、例えば赤リン、白リン及び黒リンであることができる。リンをベースとする化合物(即ちリン化合物)としては、金属リン化物、例えばリン化アルミニウム、リン化カルシウムCa32、リン化銅Cu3P、リン化ニッケルNiP2、リン化スズSnP、リン化鉄FeP、Fe2P及びFe3P、リン化亜鉛Zn32及びZnP2若しくはリン化ケイ素;又はハロゲン化アルキルとケイ素及び触媒系(α)+(β)をベースとする接触体との間の直接合成反応の際に上で挙げたタイプの金属リン化物を生成することができるリン化合物を用いることができる。また、その他のリン化合物として、リンと金属部分との両方を含むことが知られていて商品として容易に入手できる特定の合金、例えばリンを約5〜15重量%含む銅−リン合金を用いることもできる。半金属タイプの促進用添加剤β3として好ましく用いられるものは、リン化銅Cu3P、銅−リン合金及び/又はこれらの化合物の混合物である。
【0045】
まとめると、好ましく用いられる添加剤β3は、塩化セシウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、リン化銅Cu3P、銅−リン合金及び/又はこれらの化合物の混合物である。
【0046】
残りについては、ケイ素の粒子寸法は、少なくとも50重量%の粒子の平均直径が10〜500μmの範囲、好ましくは60〜200μmの範囲となるようなものであるのが望ましい。促進剤群(β)も粒子の形にあり、少なくとも50重量%の粒子の平均直径が1〜100μmの範囲にあるのが有利である。
【0047】
本発明に従う直接合成法は一般的に、次の3つのタイプの装置の内の1つを用いて実施することができる:撹拌床タイプの反応器、例えば米国特許第2449821号明細書に記載されたもの、流動床タイプの反応器、例えば米国特許第2389931号明細書に記載されたもの、又はロータリー窯。
【0048】
前記の直接合成反応は、260〜400℃の範囲内、好ましくは280〜380℃の範囲内の温度において行われる。この反応は、全部又は一部を大気圧(105Pa)又は大気圧より高い圧力に等しいハロゲン化アルキルの絶対圧下で実施することができ;後者の場合、1.1×105Pa〜8×105Paの範囲、好ましくは1.5×105Pa〜4×105Paの範囲の絶対圧下で反応を実施するのが一般的である。
【0049】
前記の直接合成反応を実施するためには、よく知られているように、接触体(ケイ素+触媒+促進剤をベースとする組合せによって構成される)の初期活性化工程を前もって実施するのが有利である;特に好適な活性化手段の内の1つは、前記接触体を、直接合成反応のために選択される温度より数度〜数十度低い又は高いことができる所定温度であって上に挙げた一般的範囲内又は好ましい範囲内にある前記温度にすることから成ることができる。
【0050】
本発明に従って触媒系(α)+(β)を用いた場合、反応を撹拌床中で又は流動床中で260℃〜400℃の範囲、好ましくは280〜380℃の範囲の温度において実施した時に、非常に満足できる高い平均活性及び高いジアルキルジハロシラン選択性を得ることが可能である;より特定的には:
・触媒系の平均活性に関しては、これは例えば約210gシラン/時間/kg又はそれより高く;
・選択性に関しては、例えば得られたシランに対する生成したDMDCSの重量%によって評価され、得られる値は一般的に85重量%より高い。
【実施例】
【0051】
本発明のその他の利点及び特徴は、以下の実施例を読めば明らかになるであろう。これら実施例は、例示として与えたものであり、限定を意図するものではない。
【0052】
以下の実施例においては、別途記載がない限り、内径60mm、高さ250mmのパイロット規模の円筒状反応器の底部に焼結ガラス製のスパージャーを取り付けたものを用いた。ケイ素は、その少なくとも50重量%の粒子の平均寸法が60〜200μmの範囲である粉体の形で装填した。
【0053】
反応は撹拌床中で実施し、反応器には外部加熱部品を備え付けた。
【0054】
以下の実施例から本発明はよりよく理解されるであろう。
【0055】
これらの実施例において用いたCuClの特徴を下記の表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
比較試験A
【0058】
触媒系:CuCl−A/ZnCl2/Sn
【0059】
金属撹拌機及び焼結ガラス製スパージャーを備えた円筒状縦型ガラス反応器に、ケイ素210g、CuCl−A16.5g、ZnCl21.44g及びスズ10重量%を含む青銅0.38gから成る粉体を装填した。この反応器を窒素流下で徐々に200℃に加熱した。次いで、反応器の温度を上昇させ続けながら、窒素の栓を閉じ、20℃において測定して60g/時間の流量で塩化メチルの導入を開始した。反応器の温度を300℃に調節し、塩化メチルの流量を60g/時間に8時間保った。試験は大気圧において行った。
【0060】
製造された混合物をガスクロマトグラフィーによって分析して、DMDCSの割合が86.5%(重量%)に等しいと特徴付けられた。
【0061】
この試験の平均生産高は、用いたSi1kg当たり毎時MCS193gに等しかった。
【0062】
例1:
【0063】
触媒系:CuCl−B/ZnCl2/Sn
【0064】
金属撹拌機及び焼結ガラス製スパージャーを備えた円筒状縦型ガラス反応器に、ケイ素210g、CuCl−A16.5g、ZnCl21.44g及びスズ10重量%を含む青銅0.38gから成る粉体を装填した。この反応器を窒素流下で徐々に200℃に加熱した。次いで、反応器の温度を上昇させ続けながら、窒素の栓を閉じ、20℃において測定して60g/時間の流量で塩化メチルの導入を開始した。反応器の温度を300℃に調節し、塩化メチルの流量を60g/時間に8時間保った。試験は大気圧において行った。
【0065】
製造された混合物をガスクロマトグラフィーによって分析して、DMDCSの割合が88.2%(重量%)に等しいと特徴付けられた。
【0066】
この試験の平均生産高は、用いたSi1kg当たり毎時MCS209gに等しかった。
【0067】
例2:
【0068】
触媒系:CuCl−C/ZnCl2/Sn
【0069】
金属撹拌機及び焼結ガラス製スパージャーを備えた円筒状縦型ガラス反応器に、ケイ素210g、CuCl−A16.5g、ZnCl21.44g及びスズ10重量%を含む青銅0.38gから成る粉体を装填した。この反応器を窒素流下で徐々に200℃に加熱した。次いで、反応器の温度を上昇させ続けながら、窒素の栓を閉じ、20℃において測定して60g/時間の流量で塩化メチルの導入を開始した。反応器の温度を300℃に調節し、塩化メチルの流量を60g/時間に8時間保った。試験は大気圧において行った。
【0070】
製造された混合物をガスクロマトグラフィーによって分析して、DMDCSの割合が87.6%(重量%)に等しいと特徴付けられた。
【0071】
この試験の平均生産高は、用いたSi1kg当たり毎時MCS213gに等しかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化アルキルと、ケイ素及び触媒系から構成される接触体と称される固形物体との反応によってアルキルハロシランを製造するための直接合成方法であって、
前記触媒系が(α)銅触媒及び(β)促進用添加剤群を含み、
この促進用添加剤群(β)が、
・金属亜鉛、亜鉛化合物及びそれらの混合物から選択される添加剤β1、
・スズ、スズ化合物及びそれらの混合物から選択される添加剤β2、
・随意としての、セシウム、カリウム、ルビジウム、リン、これらの金属/半金属から誘導される化合物及びそれらの混合物から選択される添加剤β3
を含み、
前記銅触媒(α)がハロゲン化第一銅ビーズの形にあり、
該ビーズが次の仕様:
・0.6〜1の範囲内の球形度ファクター;
・D50値が50〜1500μmの範囲内である粒子寸法分布;
・0.1〜10μmの範囲の孔直径について0.2ミリリットル/g以下の多孔質テキスチャー;及び
・8以上の流動性:
を示すことを特徴とする、前記直接合成方法。
【請求項2】
前記触媒(α)がハロゲン化第一銅ビーズの形にあり、
該ビーズが次の仕様:
・0.8〜1の範囲内の球形度ファクター;
・D50値が50〜800μmの範囲内である粒子寸法分布;
・0.1〜10μmの範囲の孔直径について0.1ミリリットル/g以下の多孔質テキスチャー;及び
・10以上の流動性:
を示すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒(α)がハロゲン化第一銅ビーズの形にあり、
該ビーズが次の仕様:
・0.9〜1の範囲内の球形度ファクター;
・D50値が50〜500μmの範囲内である粒子寸法分布;
・0.1〜10μmの範囲の孔直径について0.05ミリリットル/g以下の多孔質テキスチャー;及び
・12以上の流動性:
を示すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記触媒系の部分(α)を、用いるケイ素の総重量に対して1〜20重量%の含有率で用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
添加剤β1の含有率が0.01〜2.0%の範囲内にあることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記添加剤β1が金属亜鉛及び/又は塩化亜鉛であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
添加剤β2の含有率が10〜500ppmの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記添加剤β2が金属スズであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記金属スズが青銅の形で用いられることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
添加剤β3を用いる場合のその含有率が、アルカリ金属をベースとする添加剤β3を用いる場合には0.01〜2.0%の範囲内であり、そして半金属をベースとする添加剤β3を用いる場合には50〜300ppmの範囲内であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記添加剤β3が塩化セシウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、リン化銅Cu3P、銅−リン合金及び/又はこれらの化合物の混合物であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記直接合成反応を260℃〜400℃の範囲内の温度で実施することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2008−546742(P2008−546742A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517525(P2008−517525)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001291
【国際公開番号】WO2006/136673
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(507421304)ブルースター シリコーン フランス (62)
【氏名又は名称原語表記】BLUESTAR SILICONES FRANCE
【住所又は居所原語表記】21,AVENUE GEORGES POMPIDOU F−69486 LYON CEDEX 03 FRANCE
【Fターム(参考)】