説明

アルコキシアルカンカルボン酸エステルの製造方法

【課題】温和な条件でも反応を円滑に進行でき、工業的な規模であっても、簡便に且つ効率よく、純度の高いアルコキシアルカンカルボン酸エステルを高収率で製造できる方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法では、非プロトン性極性溶媒中で、ハロアルカンカルボン酸エステルと金属アルコキシドとを反応させ、アルコキシアルカンカルボン酸エステルを製造する。非プロトン性極性溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを用いてもよく、ハロアルカンカルボン酸エステルとして3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルを用いてもよい。反応混合液を中和又は酸性化した後、水とC5−10アルカンとを混合して有機相に抽出し、抽出液を濃縮し、減圧蒸留してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、農薬、香料などのファインケミカルの中間体などとして有用なアルコキシアルカンカルボン酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファインケミカルの中間体などとして有用なアルコキシアルカンカルボン酸エステル(3−アルコキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルなど)の製造方法として、従来から各種の手法が知られている。
【0003】
例えば、特開平1−249778号公報(特許文献1)には、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸エチルを水素化ナトリウムで処理後、ジメチルホルムアミド中、各種ヨウ化アルキルと反応させて3−アルコキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸エチルを得る方法が開示されている。また、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2007年、17巻、2452〜2455頁(非特許文献1)には、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸メチルを水素化ナトリウムで処理後、ヨウ化プロピルと反応させて3−プロピルオキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸メチルを得る方法が開示されている。しかし、これらの方法では、3−アルコキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルが収率60%程度で得られており、目的化合物を高い収率で得ることが困難である。
【0004】
一方、特表2007−521314号公報(特許文献2)には、炭酸カリウムの存在下、2,2−ジメチル−3−トシルオキシプロピオン酸メチルと3,5−ジメチルフェノールとをジメチルアセトアミド中で反応させ、3−(3,5−ジメチルフェニルオキシ)−2,2−ジメチルプロピオン酸メチルを得る方法が記載されている。また、Liebigs Ann.Chem. 1969年、725巻、106―115頁(非特許文献2)には、ジメチルスルホキシド中、2,2−ジメチル−3−トシルオキシプロピオン酸メチル又は2,2−ジメチル−3−トシルオキシプロピオン酸エチルとナトリウムメトキシドとを反応させて3−メトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸メチル又は3−メトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸エチルを得る方法が記載されている。しかし、これらの方法では、収率が60%程度で低いこと、副生物が多いこと、目的化合物との分離が困難であることなどの問題がある。
【0005】
また、特開平7−25826号公報(特許文献3)には、ヒドロキシカルボン酸エステルとアルコールとを、ゼオライトまたは水熱作用により得られたリン酸塩存在下に、高温下で反応させ、アルコキシカルボン酸エステルを得る方法が記載されている。この方法では、ヒドロキシカルボン酸から1段階でアルコキシカルボン酸を得られるというメリットはあるが、反応において実質的に240℃以上の高温が必要であり、工業的に実施する上で障害となる。
【特許文献1】特開平1−249778号公報(第7頁右下欄18行〜第8頁右上欄第13行)
【特許文献2】特表2007−521314号公報(段落番号[0032])
【特許文献3】特開平7−25826号公報(特許請求の範囲、段落番号[0028])
【非特許文献1】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters. 2007年、17巻、2452〜2455頁
【非特許文献2】Liebigs Ann.Chem. 1969年、725巻、106―115頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、純度の高いアルコキシアルカンカルボン酸エステルを高収率で製造できる方法を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、温和な条件でも反応を円滑に進行でき、工業的な規模であっても、簡便に且つ効率よく、アルコキシアルカンカルボン酸エステルを製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意検討した結果、ハロアルカンカルボン酸エステルと金属アルコキシドとを、非プロトン性極性溶媒中、液相反応系で反応させると純度の高いアルコキシアルカンカルボン酸エステルを簡便にかつ効率よく、高収率で製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の方法では、非プロトン性極性溶媒中で、ハロアルカンカルボン酸エステルと金属アルコキシドとを反応させ、アルコキシアルカンカルボン酸エステルを製造する。
【0010】
この方法において、前記非プロトン性極性溶媒はアミド系溶媒であり、前記ハロアルカンカルボン酸エステルは3−ハロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルであってもよい。また、例えば、前記非プロトン性極性溶媒はN,N−ジメチルホルムアミドであり、ハロアルカンカルボン酸エステルは3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルであり、金属アルコキシドはアルカリ金属アルコキシドであってもよい。
【0011】
各成分の割合は、例えば、前記ハロアルカンカルボン酸エステル1モルに対して金属アルコキシドの割合が1〜2.5モル程度であり、前記ハロアルカンカルボン酸エステル1重量部に対して非プロトン性極性溶媒の割合が4〜12.5重量部程度であってもよい。
【0012】
前記製造方法は、60〜120℃で反応させる反応工程の後、反応混合液に水及びC5−10アルカンを添加してアルコキシアルカンカルボン酸エステルをC5−10アルカン相に抽出する工程と、抽出したアルコキシアルカンカルボン酸エステルを減圧蒸留によって単離する工程とを含む方法であってもよい。
【0013】
前記製造方法は、N,N−ジアルキル−C1−2アシルアミン中で、3−ハロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルと金属アルコキシドとを反応させ、反応混合液を中和又は酸性化した後、水とC5−10アルカンとを混合して3−アルコキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルを有機相に抽出し、抽出液を濃縮し、減圧蒸留する方法であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ハロアルカンカルボン酸エステルと金属アルコキシドとを非プロトン性極性溶媒中、液相反応系で反応させるため、純度の高いアルコキシアルカンカルボン酸エステルを高収率で製造できる。さらに、温和な条件でも反応を円滑に進行でき、工業的な規模であっても、簡便に且つ効率よく、アルコキシアルカンカルボン酸エステルを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、非プロトン性極性溶媒中で、ハロアルカンカルボン酸エステルと金属アルコキシドとを反応させてアルコキシアルカンカルボン酸エステルを製造する。
【0016】
ハロアルカンカルボン酸エステルとしては特に制限されず、例えば、下記式(I)で表される化合物などが挙げられる。
【0017】
【化1】

【0018】
式(I)中、Xは、ハロゲン原子を表す。R及びRは、同一又は異なって、水素原子、又はアルキル基を表す。Rは、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。m及びnは、同一又は異なって、0〜2の整数を表す。
【0019】
Xとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素原子などのハロゲン原子が挙げられる。好ましいハロゲン原子は、反応性の点からは臭素、ヨウ素原子であり、安価という点では塩素原子である。なお、塩素原子である場合、一般的に反応性が低下するが、本発明の反応系では高収率で目的化合物が得られるという点で優れている。
【0020】
及びRで表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などのC1−4アルキル基が例示される。好ましいR及びRは、水素原子又はC1−2アルキル基(特にメチル基)である。
【0021】
のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基などの直鎖又は分岐鎖状C1−20アルキル基(好ましくはC1−10アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基)などが挙げられる。Rのシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC4−10シクロアルキル基(好ましくはC4−8シクロアルキル基)などが挙げられる。Rのアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などのC6−12アリール基などが挙げられる。Rのアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基などのC6−12アリール−C1−4アルキル基などが挙げられる。Rのなかでも、直鎖又は分岐鎖状C1−6アルキル基、特に直鎖又は分岐鎖状C1−4アルキル基(例えば、イソブチル基など)が好ましい。この場合、反応が円滑に進行し、アルコキシアルカンカルボン酸エステルを高収率で製造できる。
【0022】
m及びnは、同一又は異なって、0〜2の整数を表すが、なかでも、mは1が好ましく、nは0が好ましい。
【0023】
上記式(I)で表されるハロアルカンカルボン酸エステルとしては、例えば、3−ハロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルなどが挙げられる。具体的には、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルなどが挙げられる。ハロアルカンカルボン酸エステルは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、3−ハロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステル(特に、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチル)が好ましい。
【0024】
金属アルコキシドとしては特に制限されず、例えば、下記式(II)で表される化合物などを挙げることができる。
【0025】
M(OR (II)
式中、Mは金属、Rはアルキル基、kはMの価数を示す。
【0026】
金属アルコキシドの金属(M)としては、例えば、アルカリ金属(M:Li、Na、Kなど)、アルカリ土類金属(M:Be、Mg、Ca、Sr、Baなど)、遷移金属(周期律表のIb、IIb、IIIb、IVb、Vb、VIb、VIIb及び8族の金属(M:Ti、Zr、V、Mn、Co、Cuなど))が挙げられる。
【0027】
金属アルコキシドのアルキル基(R)としては特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などのC1−6直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC4−10のシクロアルキル基などが挙げられる。アルキル基は、例えば、エチル基、n−プロピル基、イソブチル基など直鎖状又は分岐鎖状のC1−6アルキル基であってもよい(例えば、直鎖状又は分岐鎖状のC3−5アルキル基や直鎖状又は分岐鎖状のCアルキル基)。
【0028】
金属アルコキシドとしては、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、遷移金属アルコキシドが挙げられる。
【0029】
アルカリ金属アルコキシドの具体例としては、例えば、リチウムアルコキシド(リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムプロポキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムブトキシドなどのリチウムC1−5アルコキシドなど)、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムプロポキシド、ナトリウムイソプロポキシド、ナトリウムブトキシド、ナトリウムイソブトキシドなどのナトリウムC1−5アルコキシドなど)、カリウムアルコキシド(カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムプロポキシド、カリウムイソプロポキシド、カリウムブトキシドなどのカリウムC1−5アルコキシドなど)などが挙げられる。
【0030】
アルカリ土類金属アルコキシドの具体例としては、例えば、マグネシウムアルコキシド(マグネシウムジメトキシド、マグネシウムジエトキシド、マグネシウムジn−プロポキシド、マグネシウムジイソプロポキシド、マグネシウムジn−ブトキシド、マグネシウムジsec−ブトキシド、マグネシウムジtert−ブトキシドなどのマグネシウムジC1−5アルコキシドなど)、マグネシウムアルコキシドに対応するカルシウムアルコキシド、ストロンチウムアルコキシド、バリウムアルコキシドなどが挙げられる。
【0031】
遷移金属アルコキシドの具体例としては、例えば、チタンアルコキシド(チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンn−プロポキシド、チタンイソプロポキシド、チタンn−ブトキシド、チタンイソブトキシドなどのチタンC1−5アルコキシドなど)などが挙げられる。また、チタンアルコキシドに対応するジルコニウムアルコキシド、バナジウムアルコキシド、マンガンアルコキシド、コバルトアルコキシド、銅アルコキシドなども挙げられる。
【0032】
金属アルコキシドは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。金属アルコキシドのうち、アルカリ金属C1−5アルコキシド(例えば、ナトリウムイソブトキシドなどのナトリウムC1−4アルコキシド)が好ましい。
【0033】
反応において、金属アルコキシドの割合(使用量)は、ハロアルカンカルボン酸エステル1モルに対して通常1〜2.5モル、好ましくは1〜2モル、さらに好ましくは1.1〜1.8モル(特に1.2〜1.7モル)程度であってもよい。金属アルコキシドの割合が多すぎると転化率は向上するが、副生成物の割合が増えてしまうことがある。
【0034】
ハロアルカンカルボン酸エステル及び金属アルコキシドに関し、上記式(I)で表されるハロアルカンカルボン酸エステルのRと上記式(II)で表される金属アルコキシドのRとが同一のアルキル基(例えば、イソブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状のC1−6アルキル基)であることが好ましい。この場合、副生成物の生成を防ぐことができる。
【0035】
反応溶媒に関し、一般的にウィリアムソンエーテル合成法の溶媒としては、金属アルコキシドの調製に用いたアルコールを使用することが多いが、アルコール類(メタノール、エタノール、n-プロパノール、2−プロパノール、n―ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t−ブタノールなどの一価アルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの多価アルコール類など)などのプロトン性極性溶媒を単独で使用すると、反応速度が遅い場合がある。本発明の製造方法でも、前記アルコール類では、反応が遅い、あるいは、金属アルコキシドが十分溶解しないため適切ではない。そのため、本発明における反応では、非プロトン性極性溶媒が使用される。
【0036】
非プロトン性極性溶媒としては、例えば、アミド系溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどの鎖状アミド類、N−メチルピロリドンなどの環状アミド類など)、ニトリル系溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリルなどの脂肪族ニトリル類、ベンゾニトリルなどの芳香族ニトリル類など)、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシドなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は2種類以上組み合わせて使用してもよく、前記アルコール類と組み合わせてもよい。
【0037】
これらの溶媒のうち、アミド系溶媒、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドなどのN,N−ジアルキル−C1−2アシルアミン(特にN,N−ジメチル−C1−2アシルアミン)を使用する場合が多い。また、非プロトン性極性溶媒(例えば、鎖状アミド類などのアミド系溶媒)は単独で用いる場合が多く、例えば、N,N−ジメチルホルムアミドを単独で使用してもよい。
【0038】
反応において、非プロトン性極性溶媒の割合(使用量)は特に制限されないが、目的化合物の単離効率などの点から、例えば、ハロアルカンカルボン酸エステル1重量部に対して、1〜20重量部程度の範囲から選択でき、2〜15重量部(例えば、4〜12.5重量部)、好ましくは3〜10重量部(例えば、5〜7重量部)、さらに好ましくは4〜8重量部(例えば、5.5〜6.5重量部)程度であってもよい。
【0039】
反応において、基質が低濃度である場合に反応性の向上が期待できる点などから、ヨウ素アルカリ金属塩(ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなど)などのヨウ素化合物を添加してもよい。
【0040】
反応は、例えば、所定の温度で液相系において、攪拌することにより行うことができる。反応温度は、通常60℃以上(例えば、60〜120℃)から選択でき、好ましくは70〜100℃(例えば、70〜90℃)、さらに好ましくは75〜85℃程度である。60℃未満では、反応の進行が遅くなることがある。
【0041】
反応時間は特に制限されないが、例えば、5〜40時間(例えば、5〜30時間)、好ましくは10〜35時間(例えば、10〜28時間)、さらに好ましくは20〜30時間(例えば、20〜27時間)程度であってもよい。反応は撹拌装置を備えた従来公知の装置などを用いて、バッチ式、セミバッチ式、連続式などで実施できる。
【0042】
反応は、各成分を一括して又は逐次反応系に導入して行うことができ、例えば、予め金属アルコキシドを非プロトン性極性溶媒に溶解させた溶液を調製し、調製した溶液とハロアルカンカルボン酸エステルとを撹拌下で混合して、進行させることができる。この場合、反応を円滑に進行させることができ、高収率で目的化合物が得られる。
【0043】
前記反応により、ハロアルカンカルボン酸エステルのハロゲン原子が金属アルコキシドのアルコキシ基に置換されたアルコキシアルカンカルボン酸エステルを製造できる。例えば、上記式(I)で表されるハロアルカンカルボン酸エステルと上記式(II)で表される金属アルコキシドとを反応させることにより、ハロゲン原子(X)がアルコキシ基(OR)に置換され、下記式(III)で表されるアルコキシアルカンカルボン酸エステル(3−アルコキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルなど)が合成される。
【0044】
【化2】

【0045】
式中のR〜R、m及びnは前記と同様である。
【0046】
反応混合液はそのまま単離精製工程に供してもよいが、反応終了後、反応混合液を中和又は酸性化した後、単離精製する場合が多い。中和又は酸性化には、無機酸(塩酸、硫酸など)の他、有機酸(酢酸など)を用いてもよい。中和又は酸性化は、pH7以下(例えば、3〜7)、好ましくは6以下(4〜6)になるまで、酸を添加することなどにより行うことができる。
【0047】
反応の後、慣用の単離方法、例えば、濃縮、抽出、蒸留、晶析もしくはこれらを組み合わせた操作を用いて、アルコキシアルカンカルボン酸エステルを単離することができる。単離は、通常抽出により行われる場合が多く、具体的には、水と水に対して分離可能な有機溶媒とを用いて分液する。前記水としては、中和又は酸性化に用いた酸水溶液(塩酸など)を用いてもよい。
【0048】
水に対して分離可能な有機溶媒としては、炭化水素類[脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレン、メシチレンなど)、ハロゲン系炭化水素(塩化メチレン、クロロホルムなど)]、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのアルキルケトンなど)、エステル類(酢酸エチルなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテルなど)などが例示できる。これらの有機溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。これらの有機溶媒のうち、脂肪族炭化水素(例えば、ヘプタン)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン)、脂肪族鎖状エーテル類(例えば、ジイソプロピルエーテル)を使用する場合が多い。好ましい有機溶媒はヘプタンなどのC5−10アルカン、特にC6−8アルカンである。
【0049】
例えば、反応混合液に水とC5−10アルカン(ヘプタンなど)とを添加して目的化合物を有機相に抽出し、有機相を濃縮して、C5−10アルカン(ヘプタンなど)を10〜100hPa(例えば、50hPa)の減圧下、30〜45℃で留去した後、減圧蒸留を行ってアルコキシアルカンカルボン酸エステルを単離することができる。減圧蒸留における減圧は、1〜100hPa、好ましくは10〜80hPa(例えば、20〜70hPa)、さらに好ましくは30〜60hPa(特に、40〜50hPa)程度で行ってもよい。また、通常、減圧蒸留における温度は、30〜150℃、好ましくは80〜140℃、さらに好ましくは110〜130℃程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明では、純度の高いアルコキシアルカンカルボン酸エステルを高収率で製造でき、得られたアルコキシアルカンカルボン酸エステルは、医薬(例えば、セファロスポリン系抗生物質、プロトンポンプ阻害剤など)、農薬、香料などのファインケミカルの中間体などとして利用できる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
実施例で得られた生成物の特性は、以下の方法により測定した。
【0053】
H−NMRスペクトル)
H−NMRスペクトルは、内部標準としてテトラメチルシランを用い、溶媒としてCDClを用いて測定した。
【0054】
実施例1
(3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの合成)
反応器にナトリウムイソブトキシド(39.6g、0.412mol)、N,N−ジメチルホルムアミド(816.2g、11.2mol)、ヨウ化カリウム(68.5g、0.412mol)を加え、80±5℃まで加熱してナトリウムイソブトキシドを完全溶解させた。続いて、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチル(66.2g、0.344mol)を滴下した後、80℃にて11時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)(島津製作所(株)製 GC−14A、カラム CBP−10)で反応追跡を行い、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの消失を確認後、加熱を停止し、25℃まで放冷した。続いて、1規定塩酸(500.0g、0.10mol)によりpHが2以下になるまで酸性化した後、ヘプタン(340.0g、3.40mol)を加え抽出した。分離したヘプタン層を水洗し、濃縮してヘプタンを50hPaの減圧下、30〜45℃で留去した後、125℃、50hPaで減圧蒸留し、3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルを37.4%の収率で得た。
【0055】
実施例2
(3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの合成)
反応器にナトリウムイソブトキシド(84.6g、0.880mol)、N,N−ジメチルホルムアミド(614.4g、8.41mol)、ヨウ化カリウム(103.1g、0.621mol)を加え、80±5℃まで加熱してナトリウムイソブトキシドを完全溶解させた。続いて、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチル(99.7g、0.517mol)を滴下した後、80℃にて27時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)(島津製作所(株)製 GC−14A、カラム CBP−10)で反応追跡を行い、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの消失を確認後、加熱を停止し、25℃まで放冷した。続いて、1規定塩酸(500.0g、0.10mol)によりpHが3以下になるまで酸性化した後、ヘプタン(250.0g、2.49mol)を加え抽出した。分離したヘプタン層を水洗し、濃縮してヘプタンを50hPaの減圧下、30〜45℃で留去した後、125℃、50hPaで減圧蒸留し、3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルを65.1%の収率で得た。
【0056】
実施例3
(3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの合成)
反応器にナトリウムイソブトキシド(167.9g、1.75mol)、N,N−ジメチルホルムアミド(1220.2g、16.7mol)を加え、80±5℃まで加熱してナトリウムイソブトキシドを完全溶解させた。続いて、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチル(198.0g、1.028mol)を滴下した後、80℃にて14時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)(島津製作所(株)製 GC−14A、カラム CBP−10)で反応追跡を行い、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの消失を確認後、加熱を停止し、25℃まで放冷した。続いて、1規定塩酸(900.0g、0.90mol)によりpHが4以下になるまで酸性化した後、ヘプタン(500.0g、4.99mol)を加え抽出した。分離したヘプタン層を水洗し、濃縮してヘプタンを50hPaの減圧下、30〜45℃で留去した後、125℃、50hPaで減圧蒸留し、3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルを77.8%の収率で得た。
【0057】
比較例1
(3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの合成)
反応器にナトリウムイソブトキシド(0.60g、0.006mol)、トルエン(11.2g、0.12mol)を加え、80±5℃まで加熱してナトリウムイソブトキシドを完全溶解させた。続いて、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチル(1.0g、0.005mol)を滴下した後、80℃にて6時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)反応追跡を行った痕跡量の3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルしか得られなかった。
【0058】
比較例2
(3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの合成)
反応器にナトリウムイソブトキシド(0.60g、0.006mol)、ピリジン(12.7g、0.16mol)を加え、80±5℃まで加熱してナトリウムイソブトキシドを完全溶解させた。続いて、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチル(1.0g、0.005mol)を滴下した後、80℃にて6時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)反応追跡を行った痕跡量の3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルしか得られなかった。
【0059】
比較例3
(3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの合成)
反応器にナトリウムイソブトキシド(0.60g、0.006mol)、テトラヒドロフラン(11.03g、0.15mol)を加え、80±5℃まで加熱してナトリウムイソブトキシドを完全溶解させた。続いて、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチル(1.0g、0.005mol)を滴下した後、80℃にて6時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)反応追跡を行った痕跡量の3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルしか得られなかった。
【0060】
比較例4
(3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルの合成)
反応器にナトリウムイソブトキシド(0.60g、0.006mol)、イソブタノール(10.38g、0.14mol)を加え、80±5℃まで加熱してナトリウムイソブトキシドを完全溶解させた。続いて、3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチル(1.0g、0.005mol)を滴下した後、80℃にて6時間攪拌した。ガスクロマトグラフィー(GC)反応追跡を行った痕跡量の3−イソブトキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸イソブチルしか得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性極性溶媒中で、ハロアルカンカルボン酸エステルと金属アルコキシドとを反応させるアルコキシアルカンカルボン酸エステルの製造方法。
【請求項2】
非プロトン性極性溶媒がアミド系溶媒であり、ハロアルカンカルボン酸エステルが3−ハロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
非プロトン性極性溶媒がN,N−ジメチルホルムアミドであり、ハロアルカンカルボン酸エステルが3−クロロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルであり、金属アルコキシドがアルカリ金属アルコキシドである請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
ハロアルカンカルボン酸エステル1モルに対して金属アルコキシドの割合が1〜2.5モルであり、ハロアルカンカルボン酸エステル1重量部に対して非プロトン性極性溶媒の割合が4〜12.5重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
反応温度60〜120℃で反応させる反応工程の後、反応混合液に水及びC5−10アルカンを添加してアルコキシアルカンカルボン酸エステルをC5−10アルカン相に抽出する工程と、抽出したアルコキシアルカンカルボン酸エステルを減圧蒸留によって単離する工程とを含む請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
N,N−ジアルキル−C1−2アシルアミン中で、3−ハロ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルと金属アルコキシドとを反応させ、反応混合液を中和又は酸性化した後、水とC5−10アルカンとを混合して3−アルコキシ−2,2−ジメチルプロピオン酸エステルを有機相に抽出し、抽出液を濃縮し、減圧蒸留する請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−47550(P2010−47550A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215380(P2008−215380)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】